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[COMPUTEX]西川善司の3DGE:NVIDIAの「G-SYNC HDR」とは何か? AMD「FreeSync 2」との違いから必要スペックまでを解説
Ultra HD Blu-Rayや据え置き型ゲーム機における流れを受けて,PC用GPUメーカーもHDRに注目し始める。先手を取ったのはAMDで,PC環境におけるHDR表示の最適化メカニズムとして,2018年1月に「FreeSync 2」を発表した(関連記事)。
初代のFreeSync――本稿では便宜的に「FreeSync 1」と記す――は,GPU主導でディスプレイとの表示を同期する技術だったこともあり,ユーザーを混乱させかねないAMDの命名には首を捻ったものの,HDR対応ソリューションを競合よりも先行して打ち出してきたのは事実だ。
G-SYNCも,ディスプレイ同期技術の名称であるが,これに「HDR」を付け加えたことで,「NVIDIAが開発したディスプレイ接続のHDR関連技術」ということは伝わるし,FreeSync 1とFreeSync 2の関係よりもユーザーに分かりやすい。
そんなG-SYNC HDRに関するプレスブリーフィングを,COMPUTEX TAIPEI 2018会期中にNVIDIAが開催した。その内容をもとに,G-SYNC HDRとは何かをまとめてみよう。
G-SYNC HDRとFreeSync 2の違いは何か
G-SYNC HDRとFreeSync 2の違いを説明するためには,まずFreeSync 2のことを簡単におさらいしておく必要があるだろう。FreeSync 2の詳細を知りたい人は,筆者の連載も参照してほしい。
FreeSync 2は,対応するHDRディスプレイのスペックに最適化した色や階調,コントラストでHDR映像を出力する技術だ。もう少し詳しく言うと,ゲームエンジンでレンダリングしたリニア空間の輝度情報を,グラフィックスドライバ側でディスプレイのスペックに最適化して出力することで,ディスプレイ側でのHDR処理時間にともなう遅延を短縮するというソフト(ゲームまたはドライバ)とハード(ディスプレイ)が協調して実現する技術である。
一方,G-SYNC HDRは,シンプルに「HDR表示に対応したG-SYNC」という理解でいい。
G-SYNCは,可変フレームレートの映像表示タイミングをGPU主導で制御することにより,60fps未満,あるいは60fpsを大きく超える可変フレームレートの映像を,視覚上はスムーズに見せることができるという技術だった。このG-SYNCはそのままに,HDR映像技術に対応したディスプレイに付けられるブランドキーワードが,G-SYNC HDRなのである。
どうしたらG-SYNC HDR対応と名乗れるのか?
結論から言ってしまうと,NVIDIAの規定を満たすHDR映像体験が可能なG-SYNC対応ディスプレイであれば,G-SYNC HDR対応と名乗れるそうだ。
G-SYNC HDRは,FreeSync 2のようにゲームエンジンの振る舞いに介入することはない。ゲームエンジン側のHDR映像出力をそのままドライバソフトが受け取り,出力してディスプレイ側に表示させるだけだ。ちなみにG-SYNC HDRでは,基本となるHDRフォーマットは業界標準の「HDR10」だそうで,NVIDIA独自の規格を作るようなことはしていない。
一方,ディスプレイメーカーがG-SYNC HDR対応ディスプレイを作るには,大前提としてNVIDIAとの共同開発が必要となる。下に掲載した写真は,G-SYNC対応ディスプレイの開発プロセスをおおまかに示したものだ。
たとえば,ディスプレイメーカーが「この液晶パネルを使い,解像度はこれくらいで,バックライトシステムにはこれを使う。色域や階調,輝度,コントラストのスペックはこれくらいにしたい」とNVIDIAに提案すると,NVIDIA側のエキスパートチームからアドバイスを与えるので,試作品を構成する。当然ながらG-SYNC対応も必須だ。
試作品ができあがったら,NVIDIAのエキスパートチームと表示性能を検証し,OKがでれば「G-SYNC HDR」を名乗れるというわけである。
G-SYNC HDR対応の必要スペックは
今回のブリーフィングでは,G-SYNC HDR対応ディスプレイ初の量産品となる,Acerの「Predator X27」と,ASUSTeK Computerの「ROG Swift PG27UQ」
この2製品,以下のとおりスペックは瓜二つである。
- 画面サイズは27インチ
- 3840×2160ドットの4K解像度液晶パネル
- 垂直リフレッシュレートは最大144Hz
- 量子ドット技術による色域拡張
- DCI-P3色空間対応(※PG27UQはDCI-P3色空間カバー率97%)
- 最大輝度1000nit(=1000cd/m2)
- 直下型LEDバックライトシステム搭載
- ローカルディミングは384分割対応
2製品のスペックが横並びなのを見ると,「これがG-SYNC HDR対応ディスプレイの標準スペックなのか」と思ってしまうところ。しかし,NVIDIAによると両製品のスペックが瓜二つになったのは,「たまたまそうなった」そうである。もちろん,実際にはいろいろな事情があるのだろうが。
NVIDIA担当者によると,G-SYNC HDRのロゴ取得にあたり,ディスプレイのスペックはAcerやASUSの製品を下回っても構わないそうだ。4K解像度やリフレッシュレート144Hz対応,最大輝度1000nitといった要素は,必須要件ではないという。
そこで,「画面サイズは24インチで,フルHD解像度,色域はBT.2020色空間のみ対応で,最大輝度600nit程度,エッジ型バックライト採用で,ローカルディミング分割数は16くらいでも,G-SYNCに対応していれば,G-SYNC HDR対応を名乗れるのか」とストレートに質問したところ,担当者曰く,「NVIDIAが提唱するG-SYNC HDR Experienceを満たせる表示性能ならば可能である」とのことだった。
つまり,G-SYNC HDRでは,ディスプレイ側に具体的なハードウェアスペックを求めないということだ。これは二度確認して「そうだ」と答えていたので,間違いないだろう。
ゲーマーは,何を基準にG-SYNC HDR対応ディスプレイを選べばいいのか?
FreeSync 2との違いでも述べたとおり,G-SYNC HDR対応ディスプレイとは,「G-SYNCに対応している」うえで,「HDR映像信号の入力に対応している」という付加価値を持つディスプレイと理解していい。そして,その製品におけるHDR映像の表示品質は,「NVIDIAのエキスパートチームが基準を満たすと認定して,製品化ゴーサインを出したもの」というわけだ。
数値で示したスペックは規定していないので,肝心なHDR表示性能に関する規定が曖昧といえば曖昧ではある。ようは,「このディスプレイのHDR表示品質は,
逆に言うと,今回の第1世代G-SYNC HDRディスプレイに続く,第2世代モデルが,どのようなスペックを採用してくるのかという点に興味が湧いてくる。
今回の2製品は,どちらも実勢価格で2000ドル前後を想定しているとのことで,ゲーマー向けの4K液晶ディスプレイとしても,かなり高価だ。このまま超高級ハイペック路線を突き進むのか,それとも1000ドル未満で購入できるG-SYNC HDRディスプレイが出てくるのかは,気になるところだ。
ついでに「自発光の有機ELパネルを採用したゲーマー向けノートPCならどうか?」と聞いてみたものの,「将来の製品については回答できない」といういつもの答えでかわされた。現行の有機ELパネルは,コントラスト性能はいいもの,輝度が液晶パネルに大きく劣るので,G-SYNC HDR対応を満たす性能を発揮できるだろうか。いつか,その答えを知りたいものだ。
NVIDIAのG-SYNC解説ページ
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