プレイレポート
「Hearts of Iron IV」 のファーストインプレッション。ファン待望の第二次世界大戦ストラテジーの最新作を,シリーズの歴史と合わせて紹介
「Hearts of Iron IV」公式サイト
最新作となる「HoI4」の開発が発表されたのは2014年で(関連記事),以来,発売延期を重ねており,どうなっているのだと思っていた日本のファンも多かったのではないだろうか。そんな「HoI4」が満を持してついに登場,というわけで,ここでHearts of Ironシリーズの歴史を簡単に振り返りつつ,最新作のインプレッションをお届けしたい。
ゲームエンジンとシステムの変遷からみる
Hearts of Ironシリーズの歴史
初代「Hearts of Iron」が発売されたのは2002年のことだ。当時のParadoxのストラテジーには懐かしの「Europe Universalis Engine」が使用されており,これを用いた最初の作品「Europa Universalis」がもともとボードゲームをPCゲーム化したものであったため,初代「Hearts of Iron」のインタフェースにもボードゲームの雰囲気が色濃くあった。
ゲームが扱う情報量は,ちょっと古風なグラフィックスからは想像もつかないほど複雑かつ膨大だった。プレイヤーを圧倒する情報量に加えて,多様な技術開発分野や,各種資源に代表される経済要素,陸海空の三分野が連携した作戦行動,史実を踏まえたシナリオ展開,そしてマップにあるどの国家でもプレイ可能な点などが,「Hearts of Iron」シリーズの大きな特徴として,その後の作品にも受け継がれていった。
GOG.com「Hearts of Iron」購入ページ
もっとも,初代「Hearts of Iron」のユーザーインタフェースが,こうした複雑なシステムにうまく対応していたかといえば,必ずしもそうではなかった。多くの情報が右側の狭いサイドバーの中に押し込められていることはその一例で,ゲームシステムを含めて,今となっては不便に感じる点が少なくない。
初代のこうした問題点は,2005年に発売された「Hearts of Iron II」と,その拡張版で大きく改善された。システム面の改良もさることながら,初代に比べて画面の表示方法が洗練され,プレイヤーが各種情報を把握するのに必要な時間が大幅に短縮された点が重要だ。というのも,このインタフェースの改善によって初めて,内包する情報量の多さが遊ぶ側にきちんと伝わるようになったからだ。
また,プレイヤーがそれらのゲーム内データを容易に変更できたため,ゲームバランスを変えたりシナリオを追加したりといったMODが数多く生み出された。のちにParadoxの支援を受けて発売された「Arsenal of Democracy」「Iron Cross」「Darkest Hour」といった派生作品は,ファンによる活発なMOD制作なしには考えられない。これらの“HoI II改”ともいえるゲームは,「Europe Universalis Engine」末期の製品ということもあり,同エンジンが持つ可能性をとことん追求したものになっている。
Steam「Hearts of Iron II」購入ページ
Steam「Hearts of Iron III」購入ページ
2009年に発売された「Hearts of Iron III」はゲームエンジンとして新たに「Clausewitz Engine」(クラウゼヴィッツエンジン)を採用し,グラフィックスが向上した。とくに,高解像度ディスプレイへの対応およびマップのズームイン/アウトのシームレス化はゲームにも大きな影響を及ぼした。
つまり,画面上に表示できるプロヴィンスが大幅に増加し,その結果としてより細かい部隊運用が可能になったのだ。この点を含め,ほぼすべてのゲームシステムが前作に比べて複雑化した。コンセプトに属する部分としては,旧エンジンが「無数の歴史イベントによって,プレイヤーやAIの行動を規定していた」のに対して,新エンジンでは歴史イベントを極力抑え,代わりに,より包括的かつ基本的なゲームのルールを作ることで展開を流動的なものにしている。
もっとも,この点は前作のような史実のおおまかな流れを期待するプレイヤーにとっては「あまりにもランダム性が強くなった」と感じられたようで,結果として「Hearts of Iron III」は賛否両論のある作品になった。
Hearts of Ironシリーズに共通する面白さとは
このような変遷を経たHearts of Ironシリーズは,各作品の個性がかなり異なることになった。では,シリーズをシリーズたらしめている共通の特徴は,どういうものだろうか。
例えば外交では,プレイヤーの判断次第で自国を連合,枢軸,共産のどこに所属させるかを比較的自由に決めることができるという具合だ。
また,ゲーム開始後の軍備拡張の方向性もプレイヤーに委ねられているので,歩兵師団の機械化や航空主兵などの先進的な技術に特化してもいいし,逆に大艦巨砲主義のロマンを追い求めてもいい。
なお,この1936年から数えて約3年という準備期間は,Hearts of Ironシリーズが第二次世界大戦のストラテジーであることを考えると,ちょうどいい長さであると思う。歴史ファンにはあえて説明するまでもないが,グランドキャンペーンが開始される1936年はドイツによるラインラント進駐や海軍軍縮条約の失効など,世界各国で軍拡が加速し,さらにスペイン内戦や二・二六事件がこの年に勃発するなど,その後の大戦へとつながる大きな出来事が立て続けに起こった年なのだ。
こうした歴史背景を抜きにしても,「3年ちょっとの間は集中して軍備拡張にいそしみ,その後はガンガン戦いましょう」というプレイスタイルは非常に分かりやすく,集中力の持続という点でも大切だ。個人的には,例えばヒトラーが政権を獲得した1933年にゲームが始まったりしたら,途中でダレて,本来始める予定のなかった戦争をうっかり始めてしまいそうな気がする。さらに,例えば軍備拡張のやり方がまずくて戦争に負けた場合,1936年からだと試行錯誤もしやすい。
反対に,ゲーム開始が1936年以降,例えばドイツによる「白作戦」(ポーランド侵攻作戦)が始まる1939年や,日本が連合国に宣戦する1941年からだと,史実と同じような状況でどう戦うかという楽しみはあるものの,上記の,ゲーム中にプレイヤーがとれる選択の広さを切り捨ててしまうことになり,それはそれでもったいない。
そして,準備期間にじっくり強化した軍隊を率いて戦う戦争そのものも,簡略化するところはしつつも奥が深い。Hearts of Ironシリーズでは,「可能であれば航空機や機甲師団を運用しつつ敵前線の一部を突破し,その後,敵を包囲してマップ上から消滅させる」という流れが理想とされている。だが,実際に戦闘してみると,ドクトリンやユニットの強弱,さらには補給や人的資源の要素が加わってくるため,簡単に敵を包囲できるわけではない。それだけに作戦がうまく決まると,準備期間の苦労と合わせて感慨深いものがあるのだ。
そして,戦争のアウトプットが面白いのも,このシリーズの魅力だ。戦後処理に関しては,相手国を併合してハイ終わり,ではなく,敗戦国の分割や自国のイデオロギーを信奉する衛星国家の独立などが可能であり,これはいわば,第二次世界大戦後の戦後処理をうまくゲームに取り込んでいるともいえる。プレイヤーとしては,すべての国を併合して世界帝国を築くもよし,独立国家を多数作って国際協調を謳うもよし,とさまざまなアプローチを試みられるのだ。
従来作以上にデフォルメのきいた
「HoI4」の軍事・内政システム
前置きが非常に長くなってしまったが,Hearts of Ironシリーズの面白さの鍵となる「戦争までの準備期間中に採れる選択肢の幅」「戦争時の作戦立案とその実行」「戦争の結果,もたらされる多様な世界図」といった三項目は,シリーズ最新作の「HoI4」でどのようになったのか,順に見ていこう。
まずは,戦争までの準備期間について。軍備拡張期の最も重要なアクションの一つである「技術開発」は,従来のプレイヤーにもなじみ深い,陸海空および工業に関する技術ツリー形式になっている。例えば陸軍技術が「歩兵」「支援旅団」「装甲車輌」「火砲」「陸軍ドクトリン」に分かれているといった具合だ。
従来作に比べれば,「HoI4」の技術ツリーはかなりカジュアル寄りになっており,「World of Tanks」の技術ツリーを連想するプレイヤーも多いのではないだろうか。各兵器をモジュールごとに開発するシステムになっているため,非常に複雑な「Hearts of Iron III」はもちろん,「Hearts of Iron II」と比べても,研究できる項目は大幅に簡略化された。
加えて,航空機と戦車については「ベースとなる機体(車体)を開発したあと,その亜種を研究する」というシステムになったことも,技術開発の単純化に貢献している。こうした点は一見すると行き過ぎた省略で,開発できる技術があっという間になくなってしまうのではないか,と心配する人もいるだろう。だが,国家に与えられた研究スロットや個々の技術が利用可能となる年代に制限があるため,そのような状況になることはあまりなさそうだ。
こうして研究した新兵器は当然ながら,生産してマップに配置しなければならない。興味深いことに,「HoI4」では,師団の生産プロセスが「師団が必要とする兵器の製造」と「それらの兵器の師団への配備(および訓練)」の二段階に分かれている。
例えば,自動車化歩兵師団を作りたいと思った場合,通常の歩兵師団作成に必要な火器および自動車を生産キューに入れ,同時に師団の編成そのものを指示する。そして,師団に装備品が行き届き,訓練が完了した段階で,その師団がマップ上に配置されるのだ。なお,どうしても数を揃えたい場合などは,装備や訓練が不十分でもマップ上に配備することが可能になっている。
また,シリーズ従来作と同様,兵器製造には工業力が重要な役割を果たす。兵器生産には陸軍用または海軍用の軍需工場を割り振らなければならないし,その際に必要な資源が足りない場合,民間の工場が必要になる。民間工場のスロットは,これら3種類の工場を増設するときにも使用されるので,軍備の早急な充実を優先するか,それとも将来の工業力強化を図るかは,プレイヤーの判断次第になる。
こうした研究や生産にボーナスを与えるのが,政治画面から選べる各閣僚や研究機関だ。閣僚や研究機関の雇用は,毎日蓄積される政治力を消費して行う。またこの政治画面では,徴兵,貿易,経済の各政策も段階的に選べ,いわば,「Hearts of Iron II」のスライダーの役割を簡略化した形で担っているといえる。
ここまで述べてきた技術,軍備,政府の各項目が国家をゆっくりと強化していくものとすれば,次の「国家方針」(National Focus)はその国の針路を大きく,そして急激に変えるギミックだ。この国家方針は,その国の軍事,経済,外交の方向性を定めるものであり,例えば「陸海空の三軍のうち,どれを重視するか」「軍需と民需のどちらを優先するか」「勢力を拡張するのはどの方向か」といった大きな流れはここで決定する。
言ってみれば,日本の陸軍対海軍の対立なども表現しているわけであり,国家方針を選択する際には「陸軍は,海軍の方針に反対である」といった脳内会話をぜひ行ってほしい。
なお,現状で固有の国家方針が設定されているのは日本,ドイツ,イタリア,アメリカ,イギリス,フランス,ソ連の7か国のみで,それ以外の国は汎用の国家方針が与えられている。こうした国家方針は技術ツリーと並び,プレイヤーに短・中期の目標を与え,戦争以外のゲーム進行に飽きがこないようにする働きも持っている。
以下,それぞれの国家方針の概要を簡単に紹介してみよう。
日本 | ドイツ |
初期の工業力は見劣りするが,それを補う方針が用意されている。外交面では史実の北進論と南進論との分岐も |
ラインラント進駐から始まる中東欧関連の選択肢がある。史実で敵対した国家と協調する路線も用意されている |
フランス | イタリア |
シリーズ従来作では連合軍の二番手に甘んじていたが,本作では独自路線を歩んだり,独伊と手を組むことも可能に |
北アフリカやバルカン諸国との外交,そして地中海を制するための海軍拡張に関する方針が並ぶ |
アメリカ | イギリス |
好戦的な国家に対する開戦理由が得られるのが大きな特徴だが,それとは別に南北アメリカをより強固な支配下に置く方針も存在する |
世界各地に存在する植民地の統治を強化し,陰りを見せつつある帝国を立て直すための方針が数多く存在する |
ソ連 | そのほかの国 |
「大粛清」「内部人民委員部」などのソ連ならではの言葉が踊る。ロシアの伝統として,ヨーロッパ方面とアジア方面の外交の選択肢が与えられている |
それ以外の国家の方針も充実している。固有の国家方針を持つ列強が史実にある程度縛られるのに対し,プレイヤーがとれる軍事・外交上の選択肢の幅が広くなっている印象だ |
史実どおりのルートは当然ながら,さまざまな「歴史のIF」ルートも用意されていることがお分かりだろう。AIは通常,史実ルートを選ぶが,それを無視するような設定もオプション画面で選択可能になっているため,いわば完全なIF世界でゲームを進めることもできるのだ。
ちなみに, 各国の国家方針を進めていけば,史実に即した開戦理由を獲得でき,通常のプレイでは問題なく戦争に突入する。もちろん,「Europa Universalis IV」や「Victoria 2」のように,他国領土の領有権を請求することで戦争を始めることも可能だ。史実では中立を保った国でプレイする場合,この手段を用いることになるだろう。
「HoI4」はすっきりした技術ツリーと,ゲーム展開をプレイヤーに提案する国家方針により,「Hearts of Iron III」の問題点でもあった「ゲームを始めたはいいが,どこから手を付けていいか分からず,そっとゲームを閉じる」という可能性は大幅に減った。また,Paradoxのストラテジーゲーム全体で見ても,この「HoI4」の内政,外交,軍事の各システムは,インタフェースの工夫もあって,全体像が掴みやすくなった。
以上の点は,シリーズ初心者にとっても嬉しい配慮だが,その一方,鉱物資源の細分化や師団のカスタマイズシステムなどには同社のこだわりも見られ,コアなストラテジーファンにとっても,満足のいく戦略の多様さを備えている。
前線,攻勢ラインに基づくユニークな作戦立案システムと
史実を反映した戦後処理
「前作に比べて全体的なゲームシステムを簡略化しつつ,一定の複雑さを保つ」というスタンスは,戦争の分野でも確認できる。「Hearts of Iron III」では師団間のつながりは司令部(HQ)の連携という形で表現されていたが,本作ではこの点が簡略化されており,「方面軍」(Theatre)の下に「軍団」(Army)が置かれるという構造になっている。
この軍団に部隊や将軍を配置し,進攻や防衛などの各種作戦を進めていく。個々の師団の移動は手動でも決められるが,ここは「HoI4」独自のシステムである,“前線および攻勢ラインの設定”によって進めていきたい。これはなにも,楽ちんだからという理由だけでなく,進攻前にあらかじめ行軍計画を設定することで,戦闘時にボーナスが得られるからだ。
攻勢ラインの指定はマウスで簡単に行えるため,プレイヤーに余計なマイクロマネジメントを強いることはない。とはいえ,現実と同様,達成不可能な作戦や,ある軍団が単独で突出するような作戦は避けるのが賢明であり,攻勢ラインの設定には注意が必要だ。
また,各地域ごとで上限が決まっている「補給限界」にも注意しながら,戦線を計画的に前に進めていく必要があるのは,シリーズをプレイするコツとして,今さら言うまでもない。
日本やイギリスなどの島国の場合,海上経由の補給を切らさないようにしておくのも大切になる。「HoI4」では制海権がより重要になっており,海上補給路を安定して維持したり,上陸作戦を行ったりする場合には,艦隊を各海域に派遣して制海権を得ておかなければならない。ちなみに「HoI4」では,駆逐艦や潜水艦が駆逐隊単位ではなく個々の艦艇として表現されているが,これは海上護衛,通商破壊のため,主力艦隊とは別に各海域に常時張り付けておく艦艇が多数,必要になったためだろう。
「HoI4」のこうしたルールは,本作と同様に補給や海上護衛の要素を重視した「艦隊これくしょん -艦これ-」のプレイヤーなどなら,理解しやすいのではないだろうか。
戦略上の要所を含め,各地を占領していくことで蓄積される戦勝点の累計が対戦国の「国民結束力」(National Unity)を上回ると,自動的に和平交渉が始まる。これは,戦勝国が敗戦国に対し,戦勝点に応じて順番に交渉を行っていく形で進む。このルールは,複数の国が参戦した場合,とくにマルチプレイ時には,各国の要求の処理をまとめて行えるので便利だ。史実の第二次世界大戦における戦後処理を,ゲームシステムとしてうまく取り込んでいるともいえるだろう。
さらに「占領国からAという国を一旦独立させ,その国に領土を与える」などという,これまでは和平締結後に細々とした調整が必要であった作業を短縮できるのも,戦争終結時の国境線にこだわる筆者のようなプレイヤーにとってポイントが高い。
今後の発展の可能性を秘めたベースとして
以上のように,シリーズ最新作となる「HoI4」はこれまでの作品の魅力を残しつつ,前作で顕著になった,大規模なストラテジーゲームを遊ぶうえでどうしてもつきまとう煩雑さを抑えた作品だ。歴史シミュレータとしてのHearts of Ironシリーズを好むプレイヤーからすれば物足りない部分もあるだろうが,「Hearts of Iron I」Iと「III」の良い部分を残そうという試みは成功しているのではないだろうか。
本作の難度はHearts of IronシリーズやParadoxのストラテジーゲームを遊んだことがない人にもオススメでき,たとえビギナーでも,チュートリアル(これは近年のParadoxタイトルの中で,おそらく最良)のイタリアをプレイすることで,重要なゲームシステムを覚えられるようになっている。
「Hearts of Iron IV」公式サイト
また,「Crusader Kings 2」以降のParadox作品の特徴として,ゲーム内容に大きく手を加えるパッチとDLCを定期的にリリースしており,発売当時の「Crusader Kings 2」や「Europa Universalis IV」と,現在のバージョンとではもはや別のゲームといっても過言ではないほど内容が様変わりしている。これは,「HoI4」にも当てはまりそうで,諜報や艦艇の改修システムなど,今のところ比較的単純な部分についても,今後大きく変わっていく可能性がある。
言ってみれば,「HoI4」は進水式を終えたばかりで各種艤装が未定の軍艦のようなもの。基礎となるシステム部分はしっかりとしている本作だけに,パゴダマストを備えた大戦艦になるのか,はたまた無数の艦載機を搭載した空母になるのか,今後の開発に期待したい。
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