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「This War of Mine」,そして新作「Frostpunk」におけるマーケティング戦略の深い関係
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印刷2017/04/27 17:40

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「This War of Mine」,そして新作「Frostpunk」におけるマーケティング戦略の深い関係

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 ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争をモチーフとし,戦時下における一般市民のサバイバルを描いた「This War of Mine」(以下,TWoM)は世界的なヒット作品となった。日本でも多くのプレイヤーに絶賛されているが,開発を手がけた11 bit Studioがポーランドのデベロッパであることは意外と知られていない。
 TWoMが傑作であるのは言うまでもないが,その事実だけで世界的なヒットにはつながらないというのもまた現実だ。日々,膨大な数のゲームが世に送り出されており,TWoMほどの個性的な作品であっても「埋もれる」可能性はあっただろう。

 果たして,TWoMはこの懸念をどのように解決したのか。また,11 Bit Studiosの新作となる「Frostpunk」ではどのように向き合っているのか。
 クロアチアで開催された技術カンファレンス「REBOOT Develop 2017」の2日目,11 Bit Studiosのストーリーライターであり,マーケティング担当であり,コミュニティマネージャーも担当するPawel Miechowski氏が,同社におけるマーケティングとゲームの関係を語った。

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「Make Your Mark!」が基本姿勢


11 Bit StudiossのSenior Writer,Pawel Miechowski氏。プロフィールには「Marketing Ninjas」とも書かれていた
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 セッションの冒頭,Miechowski氏は11 bit stuido全体のポリシーとして,「Make Your Mark!」というフレーズを掲げていることを明かした。意訳すると「有名になれ!」となるが,むしろ直訳気味の「痕跡を示せ!」のほうが適切だろう。
 実際,TWoMは「痕跡を示す」作品となった。TWoMのレビューのなかには「最も陰鬱なシミュレーターであり,ゲームである」と評したものがあったそうだが,これはまさにレビュワーに対して,TWoMが「痕跡を示した(残した)」結果と言える。TWoMは「楽しかった」を越えて,プレイヤーに何らかの感情を喚起し,それを記憶に残すことに成功したのだ。

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 「痕跡を示す」ためにTWoMが行った施策として,Miechowski氏は以下の例を示した。

  • 物理的な恐怖ではなく,情緒的な恐怖を示す
  •  旧ユーゴスラビアで起きた紛争のような状況は,今も世界中で起こっている。そこにある感情的な恐怖を描き出すゲームとする。

  • DLCを意味のあるものにする
  •  最初にリリースしたDLC「War Child」は,その収益の全額を戦争や紛争で苦しむ子供達への寄付に充てることを宣言した。「War Child」は簡単に言えばCG集(ゲーム内のあちこちで発見できる)だが,それらは世界中のアーティストから提供を受けている。
     また,第2弾のDLC「The Little Ones」は“子供達の日常”をTWoMに組み込むものだ。こちらも収益の一部がチャリティに回されるが,それだけでなく「戦争で被災している子供を描く」という,ある種のタブーに挑んだDLCでもある。

  • 有志によるローカライズを積極的に取り入れる
  •  「BABEL」プロジェクトを立ち上げ,世界中の有志による翻訳を取り込むシステムを構築した。これにより,多くの人にゲームを遊んでもらうだけでなく,ゲームに「関わってもらう」環境を構築した。
     BABELには有志が作った翻訳を別のユーザーが評価する機能もある。つまり,ローカライズへの関わり方が多段階に用意されており,幅広いユーザーの参加が可能である。

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「別の選択肢」を意図的に狙う


 こうした施策を打ったTWoMだが,Miechowski氏は「痕跡を示す」根幹には「意味あるエンターテイメントを作る」ことがあると語った。遊んで楽しいことに加えて,プレイヤーに何かを考えさせたり,共感したりするような体験を提供する。それが,11 Bit Studiosにとって「痕跡を示す」ことなのだ。
 そして,TWoMでは反戦のメッセージを託すため,「戦わない戦争ゲーム」を目指したという。Miechowski氏は「『Call of Duty』のようなゲームは大好きだが」と前置きしつつ,「現代における戦争ゲームは他人に危害を加えることにだけ集中したものばかり」と指摘する。
 それゆえ,TWoMでは戦争の痛みを感じられるゲームを目指したというわけだ。事実,TWoMでも「他人に危害を加える」状況は発生するが,そこには既存の戦争ゲームにはない痛みがある。ちなみに,Miechowski氏はTWoMと同じく「戦わない戦争ゲーム」として「My Child: Lebensborn」iOS/Android)を挙げていた。

「意味のあるエンターテイメントを作ろう」という号令だけでなく,「意味あるエンターテイメントって何だ?」というところを考える
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 ここまでの話だけ聞くと,いかにも意識の高さが先行しているようにも思える。しかし,Miechowski氏によると,この意識はマーケティング戦略と表裏一体だという。
 つまり,TWoMが示した「戦わない戦争ゲーム」は,市場に溢れるハイクオリティな「戦う戦争ゲーム」に対し,「別の選択肢」を狙う戦略にもなっているのだ。Miechowski氏は「サンダンス映画祭のようなポジションを狙った」と語ったが,このあたりは実にしたたかと言えるだろう。


SNSで公開する写真はゲーム体験の一部


 さて,冒頭に触れたとおり,11 Bit Studiosは新作となる「Frostpunk」を開発中である。


 Miechowski氏は「TWoMは戦争における個人にフォーカスした作品であり,個々の間に紐帯ができていくゲームだ」と定義したうえで,「『Frostpunk』は社会を扱ったゲームになる」と語った。TWoMがミクロのゲームなら,「Frostpunk」はマクロのゲームというわけだ。
 実際,「Frostpunk」においてプレイヤーが求められるのは,「都市を生き延びさせること」である。何らかの理由で地球最後の都市となってしまった極寒の山中にある都市を,人類の生存を懸けて維持する。それがプレイヤーの目的だ。

 もちろん「Frostpunk」でもTWoMが示したヒューマンファクターは,ゲーム進行に大きな影響を与えるという。しかし,「Frostpunk」の世界において最も重要なことは社会全体が生き延びることであり,個々の「ユニット」はあまり大きな問題とはならない。

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 こうした極限のセッティングを用意したのも,「痕跡を示す」という基本姿勢に基づいているとMiechowski氏は指摘する。「途方もなく,思わずポカンとしてしまう体験」を作るのが,11 Bit Studiosのモットーなのだ。

 その姿勢はマーケティング戦略においても一貫している。
 11 bit stuidoのマーケティング戦略の基本として,「マーケティングとゲームは一つのもの」という姿勢があるそうだ。ゲームがプレイヤーに対して物語を作る一方で,マーケティングはゲーム全体を包む「Lore(伝承)」を作るもの,というのである。

 かつてゲーマーは雑誌に掲載されたゲームの画面写真から妄想を逞しくしたり,友人と想像を膨らませたりしていた。
 現代においてもそれは基本的に変わらない。我々はFacebookやTwitterに投稿された画像を見てゲームの内容を想像し,トレイラーを視聴して驚きを得ている。
 この状況を指して,Miechowski氏は「SNSにアップロードした宣伝用の素材一つ一つすらも,ゲーム体験の一部となり得る」と語った。これらの「マーケティング素材」はすべて,ゲームの世界を広げる可能性を有しているのである。

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ゲームとマーケティングを地続きに


 こうした理解をもとに,Miechowski氏は実際のマーケティングでもさまざまな工夫を凝らしている。以下,事例を箇条書きにしてみよう。

  • ゲームを遊んだときに受ける印象と同じものを与える
  •  11 Bit Studiosではゲームデザインにあたり,「プレイヤーを“安全地帯”から追い立てる」というセオリーを有している。これに基づき,マーケティング素材もプレイヤーが「安心できない」雰囲気を持ったものにしていく。

  • トレイラーをゲームの構造に沿ったものにする
  •  「Frostpunk」では最もミクロな要素であるユニットから,そのユニットによって編成される集団,そして都市(社会)へとゲームの構造が積み上げられる。また,集団による探索と都市は異なる要素であり,ゲームの中で最も重要なものは都市となる。
     これを踏まえて,トレイラーは個人が大自然の脅威に対し,奮闘するところからスタート。やがてその個人の数が増えていき,最後に都市が出現して「City must survive(この都市は生き延びなくてはならない)」というテーマを提示している。

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  • 原則,マーケティング素材はゲームで使っているものにする
  •  初期のトレイラーは別として,それ以外のマーケティング素材には原則としてゲームで使われている画像や音楽を利用する。これによって,ゲームから受ける感覚とマーケティングから受ける感覚が近いものになる(一貫性を作る)。
     また,ゲームの側でもボキャブラリを厳選する。例えば,TWoMでは「インベントリ」を「バックパック」「ポケット」と呼んでいるが,ゲームの用語を世界設定に沿ったものにすることで,それをマーケティング素材として使ったときにも全体の一貫性が増す。

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ゲームにおける革命は続く


 講演の最後にMiechowski氏は「自分が話したことは黄金律ではない」と補足した。あらゆるゲームはそれぞれに異なる個性があり,それらすべてにフィットするマーケティング戦略などあり得ない,というわけだ。
 また,TWoMがヒットした背景には幸運もあったという。TWoMの制作発表が行われる直前,アメリカのゲームメディアでは「人を殺すことしかしない戦争ゲーム」に対する批判や批評が盛り上がり始めていた。その盛り上がりに対して,綺麗に刺さるゲームだったがゆえに,さまざまなSNSを通じて一気に知名度が上がっていったという。
 そのうえでMiechowski氏は,「ゲームは体験である」という前提を踏まえ,「どのようにして感情に訴える体験を作り出し,共感させて,それを販売していくか。これからますます重要になっていく」と指摘した。

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 広告もゲーム体験の一部として使うという手法は,さまざまなゲームが部分的に行ってきたものだ。しかし,「マーケティングとゲームは一つのもの」というレベルでの融合は,なかなか類例を見ないように思う。
 無論,これが可能だった背景には,Miechowski氏がシナリオライター(=開発スタッフ)でもあるという部分が大いに影響しているだろう。だからこそ,小規模なインディーズデベロッパにとって,参考になる講演だったと言えるのではないだろうか。

 ちなみに,「Frostpunk」を初めて試遊できる機会はE3になるとのこと。実際のゲームがどうなっているのか,大いに期待したい。

「This War of Mine」公式サイト

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