インタビュー
アトラスが「PROJECT Re FANTASY」で目指す“真なるファンタジーへの回帰”とは。プロデューサー 橋野 桂氏が新たなRPGへの挑戦について語る
プロジェクト発足にあたり,新しく設立された制作プロダクション「スタジオ・ゼロ」でディレクター&クリエイティブプロデューサーを務める橋野 桂氏をはじめ,「アトラス アートワークチーム」のデザイナー副島成記氏,「アトラス サウンドチーム」のコンポーザー目黒将司氏など,「ペルソナ」シリーズでおなじみのクリエイター陣が集結。プロジェクトは,“真なる幻想世界(ファンタジー)への回帰”をテーマとした,“新たな王道”を描くRPGになるという。
果たしてどのような経緯で,そしてどのような決意によってこのプロジェクトが立ち上がったのか。今回4Gamerは,ディレクター&クリエイティブプロデューサーの橋野氏に,これまでのゲーム作りへの思いを振り返りながら,新プロジェクト「PROJECT Re FANTASY」について語ってもらった。
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・「ペルソナ5」橋野 桂氏インタビュー。“心を盗む怪盗”をテーマにした本作と,20周年を迎える「ペルソナ」シリーズに込められた思いを聞いた
「PROJECT Re FANTASY」公式サイト
多くのプレイヤーがまっすぐな気持ちで
受け止めてくれた「ペルソナ5」
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。4Gamerのインタビューにご登場いただくのは,昨年(2016年)8月の「ペルソナ5」(PS4 / PS3)インタビュー以来ですね。
橋野 桂氏(以下,橋野氏):
そうですね。よろしくお願いします。
4Gamer:
新プロジェクトの話に入る前に,「ペルソナ5」について少しお話をいただいてよろしいでしょうか。
前回のインタビューでは「実際にプレイした人達の声が届くまでは,不安の方が大きい」という話をされていました。発売から4か月が過ぎたいまの心境はいかがでしょうか?
そうですね。「ペルソナ5」は長い期間,メインとなるテーマや描きたいものを一貫して守りながら,細かな部分にさまざまな思いやこだわりを込めて制作したタイトルです。
それで完成まで時間がかかってしまい,プレイヤーのみなさんをお待たせしてしまったのですが……。一生懸命すぎるくらいに取り組んだタイトルなので,未だに客観的に見られないところもあります。
4Gamer:
プレイヤーからの反響はいかがでしたか?
橋野氏:
本当に長い期間制作していたので,細かな部分に込めた思いやこだわりについて忘れかけている箇所もあったんですね。それを「ああ,そういえばここは苦労しながら作り込んだな」みたいに,プレイヤーの皆さんから届いた感想を見て,あらためて思い出すことが,けっこうありました。
4Gamer:
ゲーム自体,かなりのボリュームがありますよね。その中から細かいこだわりにも気付いてくれて,リアクションがあったということですか。
橋野氏:
はい。ありがたいことに,「苦労して作り込んだものが,なんとか伝わってくれているな」と感じましたし,「大きく誤解されて伝わってしまった」といったことも,思っていたより少なかったという印象です。
まっすぐな気持ちで作り上げた作品を,まっすぐな気持ちで受け止めてプレイしていただけた方が大勢いらっしゃるように思えて,とても嬉しいですね。
これからのアトラスを一層盛り上げていくための
新プロジェクト「PROJECT Re FANTASY」
4Gamer:
昨年(2016年)末に,アトラスの新プロジェクトとして「PROJECT Re FANTASY」を発表されましたね。“王道ファンタジー”に取り組むと聞いて驚かされましたが,これはどのような経緯で立ち上がったのでしょうか。
橋野氏:
まず,アトラスが持つ長年の課題に,“新規タイトルを作らなければいけない”というものがありました。
ここ最近,おかげさまでアトラスのゲームは好評をいただいており,「最近アトラスは元気いいね」と言ってもらえることが多いのですが,それでも近年を振り返ってみると「真・女神転生」や「ペルソナ」,それに「世界樹の迷宮」というシリーズ作品がほとんどなんですね。
4Gamer:
ここ4,5年の完全新規タイトルだと,橋野さんご自身が制作された「キャサリン」(PS3 / Xbox 360)がありますが,たしかにその3シリーズのイメージは強いですね。
橋野氏:
僕自身もこの課題を意識はしていましたが,「ペルソナ5」の制作に時間が掛かったこともあり,なかなか考える時間が作れなかったんです。
4Gamer:
どこでその課題に向き合うことができたのでしょう。
橋野氏:
「ペルソナ5」がマスターに入ったことで,制作作業がひと段落したときですね。「次に何をすべきか」と考える時間ができました。
4Gamer:
それはいつ頃のことでしょうか。
橋野氏:
2016年の5月ですね。ようやく「ペルソナ5」が完成し,シリーズも20周年を迎えたことで,これからのアトラスを考えるための,ひとつの区切りを迎えたんです。
そこで,課題の解消につなげられるよう会社と相談し,全社的な取り組みのひとつとして今回のプロジェクトを立ち上げることになりました。シリーズ作品を継続させること,すでに飛んでいるものを“巡航”させることに加えて,新しいものを“離陸”させるタイミングとして,新しいRPGの開発をスタートさせたいと。
4Gamer:
なるほど。それで昨年末に,新たな取り組みとして“王道ファンタジーに挑む”と発表されたわけですが……このジャンルは意外でした。
橋野氏:
アトラスをあまりよく知らない方からすれば,“ファンタジー作品を作ることが挑戦”と言われても,ピンとこないかもしれませんね(笑)。
4Gamer:
これまでもファンタジー作品はありましたが,どれもちょっと“クセ”があるというか……。アトラスといえば,やはり現代を舞台にした作品というイメージがあると思うんですが,なぜ今回,あらためて“王道”に挑もうと考えたのでしょう。
橋野氏:
実は“王道のファンタジーへの挑戦”というのも,僕だけが考えていたことではなく,アトラス全体で「いつかやってみたいね」と,もう10年くらい前から話題に出ていたものなんです。
経営側との話し合いはもちろん,スタッフ同士で「新しいゲームを作るならなにがいい」という会話になるときも「ファンタジーがいいね」という言葉が出ていました。
4Gamer:
ではこのプロジェクトは,ファンタジー作品を作るという前提があって立ち上がったものなんですか?
橋野氏:
いえ,まずは「新しいことを始めたいから,一緒にやってくれる人」と声を掛けたんですが,それで集まったメンバーと「じゃあなにに挑戦しようか」と話をしたら,「やっぱりファンタジーだね」となった,という順番ですね。
4Gamer:
「念願叶ってファンタジーが作れる!」という話ではなかったんですね。
橋野氏:
はい。もとより僕自身も,現代を舞台にした「女神転生」が好きで,そのテーマ性や物語にしびれてアトラスに入社した人間なんで,ファンタジーに特別深い造詣があったというわけではないんです。
4Gamer:
こう言っては失礼かもしれませんが,これまで制作された作品を見てきて,橋野さんにファンタジーというイメージはなかったんです。
橋野氏:
もちろん名作やヒット作には触れてきてはいますが,原体験となるような特別な出会い方はしてこなかったというか。このジャンルの昔からのファンだという方からすれば“無知”なくらいかと思います。
実をいうと,これは「ペルソナ3」を始めたときと似た感覚なんですよね。僕は先輩達が作り上げた「ペルソナ」を,この作品から任されたんですが……。
4Gamer:
前回のインタビューでも話していただきましたね。「アトラスのゲームが持つ面白さやコアな部分の良さを,誰もが触れられるように分かりやすく」というコンセプトで,これまでの作品を意識的に解体して制作されたと。
橋野氏:
はい。現代劇が好きでアトラスに入り,初めて制作に関わったタイトルが“学園モノ”の「真・女神転生if...」ではありましたが,「ペルソナ3」を任された当時,学園モノはとくに意識して触れてきたジャンルではなかったんです。
4Gamer:
そうだったんですか。
橋野氏:
だからこそ,「学園モノならではの“ノスタルジックさ”とは,どういうものなのか」「いったいどうすれば,このジャンルに興味がない人が手を伸ばすようなゲームになるのか」ということを冷静に見直し,真摯に取り掛かることができたのでしょう。
4Gamer:
大好きなものだと,それに興味がない人の気持ちが見えづらい,なんてこともありますよね。
橋野氏:
「学園モノといえばこうだ」という固定観念のような,それに引っ張られるようなものも自分の中にありませんでした。そのおかげもあって,これまでのシリーズ作品の良さを生かしながら,ペルソナの世界観ならではの学園モノが構築できたと思うんですね。
この時と同じように,ファンタジーを“ゼロ”から見つめ直し,さらにこれまでのノウハウを生かして制作に取り掛かったら,ファンタジーが好きな人から見たら未熟なところはあるかもしれないけれど,新しい切り口の作品が生み出せるんじゃないかという考えに至りました。
4Gamer:
なるほど。“ゼロ”と言えば,このプロジェクトを手がけるのが,「新しいことをはじめよう」と集まったメンバーで新設された「スタジオ・ゼロ」ですね。この名前の由来って……。
橋野氏:
“ゼロ”からのスタートという,名前のとおりそのままですね(笑)。
ですよね(笑)。
ロゴにはアラビア数字の0と,棒の先に荷物をぶら下げた旅人と犬……これはタロットカードの[愚者](THE FOOL)ですか?
橋野氏:
はい,そうです。
4Gamer:
タロットカードというのは,ペルソナシリーズの重要な要素でもあるのですが,いったいどのような意味を込めて,このロゴにされたんでしょう。
橋野氏:
スタジオ・ゼロのコアメンバーとして,共にペルソナシリーズを制作してきた仲間が集まっているんですね。
そのペルソナシリーズでは,僕がディレクターを担当した「ペルソナ3」以降,[愚者]のアルカナと無限の可能性を秘めた「ワイルド」という力を持つ主人公が,多くの出会いや戦いを経験し,最終的に22番めに位置する大アルカナの[世界](The World)までの,すべての大アルカナの力に目覚めるという“精神の旅路”を描いてきました。
4Gamer:
はい。
橋野氏:
僕を含むチームのメンバーの状態も,ファンタジー作品を制作したことが無いという意味で,まだ何もわからない,いわば“ゼロ”なわけですね。
無知なりに,だからこそ何にでもなれるという可能性を信じて,初心を忘れないようにしながら制作に取り組めれば,これまでにないファンタジーの“旅路”を描いた面白い作品が出来上がるかもしれない。タロットカードの[愚者]をロゴに採用したのは,そういった思いも込めています。
4Gamer:
なるほど。スタジオ・ゼロのメンバーって,いま何人ぐらいなんですか?
橋野氏:
20人ほどですね。アトラスにはスタジオ・ゼロのほかに2つのプロダクションがあり,それぞれがシリーズタイトルを担当しています。それらのプロダクションが力を減らすことなく新しいプロジェクトを進められるようにと立ち上げた状態なので,まだ人数は少ないんです。
コアとなるメンバーは揃ってはいるんですが,大規模なRPGを制作するとなると,この倍以上の人数は必要でしょうね。
4Gamer:
これってちょっと珍しいのでは? と思いました。
橋野氏:
そうですね。実際に作り始める前の段階のゲームで,このようにコンセプトを発表して人材を募集するというのは,異例だとは思います。
でも,最初にコンセプトを出した方が,応募する人も手を挙げやすいと思ったんですね。
4Gamer:
[ゲーム開発者募集]ではなくて,[王道ファンタジーを作ります]……。たしかに明確な“募集要項”ですね(笑)。
橋野氏:
今回応募してくださる方達って,アトラスでゼロから始めるわけですよね? 新しいチームとプロジェクトを立ち上げた僕達も同じくゼロ。お互いゼロからのスタートを切ることになるわけですが,このコンセプトに共鳴して一緒にやりたいと手を挙げてくれた方とは,すぐに理解しあって,共に良いスタートが切れるんじゃないかと思うんです。
4Gamer:
実際にチームの一員となって「さあ行くぞ」というときに,同じ方向を向いてくれるんじゃないか,自分が何をすべきか,すぐに分かってくれるんじゃないかという期待があると。
橋野氏:
はい。それがコンセプトを発表した理由のひとつでもあります。
感情が揺さぶられる“何か”を届けたい
“時代へのカウンター”としてのファンタジー
4Gamer:
プロジェクトを立ち上げたばかりの段階で,お答えするのは難しいかもしれませんが,制作はどれくらい進んでるんですか?
橋野氏:
あとは“ゲームをプレイした方に,どう感じてもらいたいか”の共有ですね。そのように目標となる場所をメンバーと定めて,そこに行きつくための材料を各々が持ち寄るという感じでしょうか。
4Gamer:
世界観やキャラクターといったものは?
橋野氏:
「こんなパーティがこんな場所を旅するだろうな」というような,おおよその世界観や主人公像みたいなイメージはありますけど,そこまで細かくはできていません。
まずはファンタジーに正面から真摯に向き合い,一から「なんでファンタジーというジャンルが生まれたんだろう」と調べるところからですね。
4Gamer:
ファンタジー制作に挑むうえで,どのようなことを調べ始めたんですか?
橋野氏:
研究の手始めとして行ったのは,ファンタジーというジャンルのゲームが好きだという人に「そもそも,ファンタジーのどこが好きなの?」と聞いてみることでした。
すると,原体験になった大作ゲームのタイトルはすぐ出るんですが,何に惹かれているのかという話になると,意外とみんな答えを持っていないんですよ。
4Gamer:
私も子供のころ「不思議の国のアリス」の絵本が好きだったとか,剣と魔法の世界で冒険するRPGが好きだとかはありますが,多くのファンタジー作品に触れてきた今でも,たしかにあまりちゃんと考えたことがなかったですね。
橋野氏:
それだけ身近で“当たり前”にあるものだと思うんですが,「なんでファンタジーはこうも人を惹きつけるんだろう」という興味が沸いたという点も,このプロジェクトの出発点になりました。
さらに「では,なんでファンタジーというジャンルが生まれたんだろう」ということを調べてみると,面白いことが分かったんです。
4Gamer:
面白いことですか? 興味深いですね。
橋野氏:
近代文学としてのファンタジーの成立過程を見直すと,産業革命や資本主義が進みだした18世紀以降,人がテクニカルなものに引っ張られがちな時代への“カウンター”として名作が生まれているんですね。
4Gamer:
物質主義に対して,人それぞれの思いや感情を大事にしようという,ロマン主義のような芸術運動があった時代ですよね?
橋野氏:
また,近年のファンタジー作品だと,J.R.R.トールキンが書いた「指輪物語」があります。本人は関連付けられることを嫌ったそうですが,「大きな大戦を経験しているトールキン自身の,現実での経験や感じたものが反映されているのでは?」とよく言われる作品ですね。
そのような話題が上がるのも,「なぜ人と人はいがみ合うのか」や“相互不理解”といった,人間の根源的な問題が記号として散りばめられている作品だからだと思うんです。
4Gamer:
ファンタジー作品には,寓話としてその時代の社会問題が描かれているものが多いですが,名作と呼ばれていまも読まれ続けている作品には,時代を超えた普遍的なテーマが内包されていますね。
この“時代へのカウンター”や,“人と人の相互不理解”といったテーマは,「真・女神転生」や「ペルソナ」シリーズでコンセプトにしてきたものでもあるんです。
こうして,ファンタジーの理解が深まったとともに,先人達が作り上げてきたファンタジーの源流にあるものと,これまで僕達が取り組んできたものの共通点が見つかったんですね。
4Gamer:
公式サイトに掲載されている橋野さんのメッセージに“テーマは「真なる幻想世界=(ファンタジー)への回帰」”とありましたが,新たなチャレンジが原点回帰にもなったという意味が分かってきた気がします。
橋野氏:
もちろん最終的にどんな形に着地するかは,まだまだ分からないです。気を付けないと,面白いものになると意気込んだはずが,実は巷に溢れるファンタジーと同じものだった――ということにもなりかねません。
4Gamer:
それでも挑戦してみようと。
橋野氏:
はい。これまで先輩達から教わったことや自分達で作ってきて学んだこと,そして,ユーザーのみなさんから教えられたことなどを生かせば,王道でありながらアトラスならではの新しい切り口を持った作品ができると確信しています。
それが今回の挑戦であり,「なるほど,だったらやってみろ」と,ファンのみなさんに言ってもらえたとしたら嬉しいですね。
自分を見つめ直すための“立ち戻る場所”となるRPGを
4Gamer:
さきほど「ゲームをプレイした方に,どう感じてもらいたいか」を定めているという話でしたが,このあたりを詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか。
橋野氏:
もちろんメインとして据えるところは,プレイヤーの皆さんに実際にプレイして感じてもらいたいことなので,ここで伝えることはできませんが……。
「昔はゲームを買っていたけど,最近のは面白くないよね」と言って,ゲームに触れなくなったという人が手を伸ばせるゲームを作りたい。その人達にとって,“立ち戻る場所”となるようなゲームを作りたいというのが,理想としてあります。
4Gamer:
立ち戻る場所,ですか?
橋野氏:
いま人生の最前線にある自分が,「このままでいいのだろうか」と悩んだり,考えていることに疲れたりしたときに,その最前線から一度引いて,自分を見つめ直したり,物事の見方を考え直したりする場所です。
それは思い出の場所であったり,実際の場所ではありませんが,地元の旧友と会って話すことだったりと,いろんな形であると思うんですが,RPGをプレイしていた人にとって“子供の頃に冒険したゲームの世界”がまさにその場所としてあるだろうと思うんです。
4Gamer:
それはどういうことでしょう。
橋野氏:
さきほど「原体験となるファンタジー作品を持っていない」とは言いましたが,しかし僕がゲーム制作側を目指すことになったきっかけのひとつに,1作めの「ドラゴンクエスト」があるんですね。
学校から帰ってきたら,家で現実とは違う冒険が待っているというのが凄くワクワクしたし,大げさな表現かもしれませんが,それがあって現実の嫌なことや退屈なことも乗り越えられたところもあります。
4Gamer:
なるほど,その感覚は分かります。あと,RPGで違う世界を体験することで,自分が知らなかった考え方や価値観があることも知ることができますよね。
橋野氏:
はい。幻想世界というのはただの現実逃避のための世界ではなく,現実世界とどう向き合うのか,どういう風に見方を変えて進めばいいかを俯瞰して見つめ直すことができる場所なんです。RPGで描かれている世界には,本来そういう要素があると思うんです。
4Gamer:
そういう場所として成立するRPGを,大人にも提供したいと。
橋野氏:
難しいのは,ただ懐かしいだけのゲームじゃ意味がないんですよね。当時の気分に戻りたいだけなら,当時のゲームをやればいいだけですから。
大人向けに提供するには,当時感じていたワクワクや自由な気分をリファインし,新しく動き出すきっかけとなる形に仕上げなければなりません。これは「ペルソナ5」で挑んだことでもありますが,ゲームをプレイしたあとに,何か心に残るものがある,自分の中で何かを変えてみようと思ってもらえる要素を入れなくてはと思います。
4Gamer:
ファンタジーと現代,舞台は違っても根本にある描きたいものは変わらないんですね。
橋野氏:
そうですね。「ペルソナ」シリーズでは,現代の学園生活という,多くの人が体験している共通認識を“装置”に,それらのテーマやメッセージを込めて制作してきました。しかし,現実に近い世界を扱うと,それはそれで制約もありました。
より人間の根源的な部分に迫ろうというとき,現実世界よりも,それを描くために設計した幻想世界のほうが,プレイヤーに届けやすい面があると思います。
4Gamer:
現実が舞台だと,作中で起こる出来事が自分のことに当てはめやすく,共感しやすいところもありますが,生々しくなりすぎることもありますね。
橋野氏:
このプロジェクトでは,共感よりも先にある“共鳴”という,感情が揺さぶられるような“何か”を届けたいというのがあるんです。
そのために,現実とは違う世界で一見共感しづらいものだけど,描かれている物語は自分と無関係ではないとプレイヤーが感じられるものを,いかに作り上げられるか。それがプロジェクトの大きなカギだと考えています。
……抽象的で分かりにくい話になってしまったかもしれませんね。
4Gamer:
いえいえ,そんなことはないですよ。
橋野氏:
いまお話したことは,理想として高いところにあるものです。その前提として,まず「テレビゲームを久々にプレイしてみたら面白かった」と言ってもらえるような作品イメージを念頭に置くことが大事だと考えています。
人に新しい楽しみを提案することで,その人の中に喜びが増える……これはクリエイティブの原点にあるものですし,作る側にとっての喜びだと思うんですね。
4Gamer:
ゲームをしなくなった人の新たな楽しみとして,「テレビゲーム」という選択肢をもう一度増やしたいと。
橋野氏:
もちろん,テレビゲームから離れている人達に向けた作品づくりをしようというわけではありません。日頃からプレイをしている人達にこそ,「やっぱりRPGって最高だ」「好きで良かった」と感じてもらえたら……という想いが第一にあります。
でも,“たまたま今,ゲームへの興味を失っている”という人に知ってもらえなければ,新しい楽しみを増やすことにはならないとも思うんですよ。そこを意識出来ないと,すでにたくさんある似たような商品がひとつ増えるだけ,バリエーションが増えるだけで終わってしまうように思うんです。
4Gamer:
はい。
橋野氏:
本当の意味で“原点に還ったモノ作り”をするためには,一歩踏み込んだものにしなければいけないし,踏み込んだからこそシンプルで伝わりやすいものにしなくてはいけない。それはこれまでと変わらない考え方で,いままでと同じような作り方や心持ちでファンタジーに取り組むだけです。
4Gamer:
それがアトラスらしいゲーム作りだと。
橋野氏:
この“アリじゃないか”を提案するのが,アトラスの伝統なのかなという風に思っています。
4Gamer:
なるほど,分かりました。ゲーム作りという話からはちょっとずれるかもしれませんが,アトラスのゲームならではの独特の雰囲気ってありますよね? あの雰囲気ってどうやって生まれていると思いますか?
橋野氏:
自分ではあまり意識していないので,よくわからないですね。たしかにほかのゲームを見たあとに「ペルソナ5」の画面を見ると,独特というか……「暗いな」って思ったことなんかはありますが(笑)。
4Gamer:
(笑)。
橋野氏:
これまでも,あえてほかと違うゲームを作ろうと,奇をてらうようなゲーム作りをしたことはないんですよね。どんなシステムを構築すればそのゲームが持つコンセプトにあったものが作れるか,そんなまっすぐな思いに忠実にゲーム制作に打ち込んできているつもりです。
……ただ,がんばってより多くの方に受け入れて頂けるような作品を作ろうとしているのに,変なものになっちゃう,みたいなことがあるかなとは思います。
4Gamer:
なるほど。
橋野氏:
もしかしたら無意識の部分で,“よくある感じ”を避けているというのはあるのかもしれませんね。
これは僕自身の考え方ですけど,“正統を目指していたはずなんだけど,こだわるからこそ結果的に異端になる”。カッコよく見えないかもしれないですが,それがアトラスらしい“カッコつけ方”だと思います(笑)。
4Gamer:
昔からアトラスのゲームが持つ雰囲気が好きな私は,まんまとそれに引っかかっている人間ということになりますね(笑)。
最後に,このプロジェクトに期待している人達や読者にメッセージをお願いします。
橋野氏:
「PROJECT Re FANTASY」はまだ始まったばかりなので,内容の詳細はもちろん,対応ハードが何かもまだお伝えできず申し訳ないですが,アトラスが作ってきたコンシューマゲームを好きだと言ってくれて,これまで支え続けていただいた皆さんに喜んでいただけるような形でお届けしたいと考えています。
また,いままでのシリーズタイトルの制作を止めてこのプロジェクトに取り掛かるわけではないので,「ほかのシリーズが終わってしまうのでは?」と不安に思う人がいらっしゃるとしたら,そんなことは全然ないので安心してください。
いつまでお待たせするか分からないプロジェクトですが,作り方や考え方はこれまでどおりに,新しい切り口としてファンタジーに挑みますので,興味をもっていただけると嬉しいです。
4Gamer:
アトラスが挑む新たな挑戦,見届けたいと思います。本日はありがとうございました。
橋野氏:
ありがとうございました。
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