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TGSバージョンでUIが大幅に進化した「信長の野望・大志」。その現状を小山宏行プロデューサーと木股浩司ディレクターに聞いた
筆者はすでにβ版をプレイしており,そのレポートも掲載しているが,TGSに出展されたものは基本的な部分こそ変わっていないものの,手が加えられていたので,以前のバージョンから大きく変化したところ(あるいは堅持されている顕著な特徴)を,箇条書きでピックアップしよう。
●ユーザーインタフェースが大幅に改修
各種コマンド画面からの脱出(キャンセル)が右クリックで可能になったり,選ぶべきボタンが強調されたりと,ユーザーインタフェース(以下,UI)が全体的に洗練された。
「右クリックでキャンセル」は間違いなく便利だが,従来からあるポップアップウィンドウをクリックで閉じる操作もそこまでストレスは感じなかった。それを含めて,マウスの移動量が小さくなるよう配慮されているようだ。
●兵士の強さや消耗などのバランスが修正
以前のバージョンではとにかく足軽が強く,合戦後も足軽隊に損害がほとんどないというケースがあったが,TGSバージョンでは気持ち弱体化された……というか,妥当なバランスになったように感じた。
もっとも,TGS版が最終バージョンではないはずで,今後ともこのあたりのバランスは変わりそうだ。
●兵糧は相変わらずやや渋め
金銭収入は普通にゲームを進めていれば景気良く増大するが,兵糧の入りはわりとシビア。きちんと勢力運営を進めておかないと,兵糧の消耗もなかなかのペースになる。
現状では「カネで足軽を大量にそろえて殴れ」というのがひとつの勝ち筋と考えられる。特に足軽が強く,経済力もある織田家はその傾向が強くなりそうだが,短期決戦で蹴りをつけないと兵糧に不安が出てくるといったところだろうか。このあたりも,最終的なバランス調整を待ちたいところだ。
●外交の重要性は衰えず
TGSバージョンは他国の好戦性が下がっているとのことだったが,戦闘バランスやUIを確認するため,あえて戦争を起こしてみたところ,あっという間に敵勢力による大規模な包囲網が完成した。それなりに気を使って外交をしていたつもりだったが,根回しが不十分だったようだ。
このあたり,「しっかりと外交をしていかないと勝利はない」というコンセプトの強さを改めて感じる。なお外交には結構なカネがかかるので,経済の安定は外交関係の安定にとっても重要になってきそうだ。
……と,いろいろ指摘はしてみたが,結局は開発途上での話なので,最終的にどのようなゲームに仕上がるかは,11月30日のリリースを待ちたい。
とはいえ,「待っていられない」という読者も少なくないと思うので,TGS会場で小山宏行プロデューサーと木股浩司ディレクターに話を聞いてきた。以下,「大志」の現状と,最後の詰めがどこに向かおうとしているのかを,漠然とでも感じていただければ幸いだ。
開発はいよいよ大詰め
4Gamer:
11月30日の発売が迫っていますが,現時点での開発状況を教えてください。
まさに最後の追い込み,といった状況です。
ゲームのバランスとしては,当初狙ったところに落ち着いてきたと考えています。基本となる農兵と足軽の使い分けについても,各大名家ごとにプレイヤーさんのイメージに近い使い分けができるようになってきました。
もちろん,兵種としては騎兵や鉄砲もありますので,ゲームが進むに従ってそういった多彩な兵種の使い分けも楽しんでいただけると思います。
4Gamer:
TGS前にβ版をプレイさせていただきましたが,そのときには海外のストラテジーゲームの影響のようなものを感じました。そういったところは意識されているのでしょうか。
小山氏:
あったり,なかったり,という感じですね。我々の基本方針は,「信長の野望」の世界観を守りつつ,今までとは違う切り口で見せる,というものです。
4Gamer:
「今までとは違う切り口」というと,具体的にはどのあたりになるでしょうか。
小山氏:
従来のシリーズ作品は,特に内政という面に関して「数値を上げていく」というのが基本だったかと思います。ですが「大志」では商圏のネットワークに進出するという,今までとは違う内政ができるようになっています。
商圏間での貿易や物流というものは実際に戦国時代にもありましたし,戦国大名が商圏を押さえるために戦うこともありました。
4Gamer:
一種のスキルツリーとなっている「方策」ですが,4つのジャンルに分かれています。ジャンルをまたぐ「方策」といったものはあるのでしょうか?
小山氏:
ジャンルをまたいだ方策,というものがはっきりと存在するわけではありません。ですが方策のツリーを先に進めていくと,例えば「農業」の方策であっても,他のジャンルの施策力を要求されるものが出てきます。
ですので,システム的に言えば「ジャンルをまたいでいる」と言えるかもしれません。
あと,方策には「特定の武将がいないと実施できない方策」といったものもありますので,ただツリーを先に伸ばしていくだけでは完結できないようになっています。
特定の武将がいないと実施できない方策は,まだ確定数値ではありませんが50以上ありますよ。
多くのプレイヤーの方がご存知であろう「さらさら越え」や「有名な堤(堤防)を作った」「用水路を作った」といったエピソードを基にした方策を持つ武将が非常にたくさんいるんです。
従来作ですと「政治80」などといったパラメータで表現されていましたが,その場合どうしても「これは過大評価では?」といった違和感が生まれてしまう側面がありました。そこで「大志」では,エピソードを方策として実行できるようにしてあるわけです。
4Gamer:
なるほど。パラメータと言えば,「大志」では外交専用のパラメータができましたね。
小山氏:
はい,従来の作品ですと,外交能力は「知略」で表していましたが,知略が高い武将は合戦で参謀として動いても強い,というシステムになっていました。結果として「竹中半兵衛が外交に飛び回る」「織田家は外交も合戦も秀吉がやる」といったことが起こりがちでしたが,「大志」では,そこを切り分けました。これによって,安国寺恵瓊や南光坊天海といった外交僧の立場もより明確にできたと思います。
4Gamer:
天海僧正が戦場で知略の限りを尽くす姿が見られないかと思うと,それはそれで残念ではあるのですが(笑)。ところで,わりと攻略情報めいた質問になってしまうのですけれども,相手国との関係性を示す「心証」がどれくらい高ければ,「この国が即座に敵に回ることはない」と考えられるのでしょうか?
木股氏:
難しい質問ですね。実を言いますと,各国の対応は「心証」だけで決まっているわけではありません。このため,心証が高いからといって,非攻撃的な態度を取らない,というわけではないんです。
とはいえ,手はあります。「心証」を高めるだけでなく,実際に同盟を組んでしまうことですね。これらのためには「心証」が80以上必要ですので,そういう意味では「安全を確保するためにまずは心証80を目指せ」とは言えるかもしれません。ただし,同盟も永続的ではなく期間が決められています。
小山氏:
外交交渉が通じない相手,というのもいるんですよ。「大志」では利害の対立を二軸のパラメータで管理していますが,これが噛み合わない相手とはなかなか同盟を組めませんし,心証を高めるのも大変です。
4Gamer:
では仮にですが,歴史イベントをすべてオフにした場合でも,織田家と今川家が同盟を組むといったことは無理,ということでしょうか。
小山氏:
いえ,それは可能です。非常に困難というケースはあるにせよ,不可能にはしていません。ただ,今川家の志に紐づいたAIは「上洛」を目指してくるでしょうから,その途上に存在する織田家とは,どうしても敵対しがちになるわけです。
ですので今川の上洛を手助けするような道を織田がうまく作ってやれれば,織田と今川が長く続く同盟を維持するというのも,不可能ではないと思います。
4Gamer:
ここで「志」が出てくるわけですね。
小山氏:
「志」は大名家や武将の個性ですが,その個性はAIにも反映されます。ですので,他勢力の「志」を踏まえた戦略を練ることが必要というわけです。
「志」が変化することもある
4Gamer:
その「志」なのですが,TGSバージョンでは織田信長の「志」が,β版のものとは違っていました。
木股氏:
はい。TGS版は織田信長がまだ若いころのシナリオです。なので,信長の志として「天下布武」というのは,ちょっと違うだろうと。
4Gamer:
これはTGS版限定ですか。それともシナリオによって変わるのでしょうか。
木股氏:
シナリオによって変わるというのが基本です。ですが,若い信長で始まるシナリオであっても,天下布武を発するにふさわしい状況となれば,信長の志は「天下布武」に変化します。
4Gamer:
「志」が変わるとは,思い切ったシステムですね。プレイヤーにとっても「目指すべきこと」が変わりますし,AIとしてもこれまでの行動方針から変化が生まれるわけですよね。
小山氏:
そうなります。実を言いますと,信長のように「志」が変化する武将は,ほかにも用意しています。このあたりは,製品版や今後の情報にご期待ください。
コアなPCゲーマーは減っていない
4Gamer:
さて,TGSのステージでスマートフォン版が発表されましたが(関連記事),これはPC版やコンシューマ版と同じ「大志」をスマートフォンでプレイできると考えていいのでしょうか。
小山氏:
はい。基本となるゲーム性は同じですし,PCとスマートデバイス間でセーブデータを共有できます。イメージとしては,PS4とPS Vitaの連携に近いものと考えてください。
もちろん,狙いとしてはより幅広い方々に「大志」を遊んでいただくことですが,なかでも,以前遊んでいたけれど,ここしばらくはご無沙汰という方が,もう一度「信長」に触れるきっかけになればと思っています。
「信長」のためにPS4やPCを買うとなると大変ですが,スマートデバイスでしたらお持ちの方が多いでしょうから。
木股氏:
要求スペックも,そこまで高くはありません。詳細は今後発表するスペック情報をご確認いただきたいですが,ここ1〜2年に発売された機種であれば,ストレスなくプレイしていただけるようにしたいと思います。ただ画面サイズはある程度大きい方がいいので,タブレットで遊んだほうが快適だとは思います。
4Gamer:
気になるのはお値段ですが,どれくらいになりそうでしょうか。さすがに基本無料といった展開はないでしょうが……。
小山氏:
やはりそこは気になりますよね。具体的なことは「検討中」としか言えないのですが,手に取りやすい値段にしたいと考えています。あと,基本無料ではないです(笑)。
4Gamer:
PC版は今回もSteamで販売,という形でしょうか。またその場合,海外展開はどうなりますか。
小山氏:
PC版はSteamで販売します。
また海外展開ですが,現状で英語版の制作は進めていません。ただし繁体字版の制作は既に決定しています。
4Gamer:
ゲームの市場規模は,PC:コンシューマ:モバイルで1:1:4.5くらいのバランスになっているというデータもあるようです。バッサリ言えばコンシューマ市場が急激な落ち込みを見せているわけですが,一方で「PLAYER UNKNOWN'S BATTLE GROUND」の大ヒットのように,PCゲーム市場が盛り上がってきている側面もあるように思えます。
実際にPCゲームを制作されている側として,PCゲーム市場の手応はいかがでしょうか?
小山氏:
もちろん,Windows 95などの時代と比べれば,市場として厳しいのは事実です。
ですが,「PCでしっかりとゲームを遊びたい」というコアなユーザーさんの数は,それほど減っていないというのが印象ですね。昔は「ライトなPCゲーマー」という層が存在したのが,今ではPCゲームで遊ぶ人はコアで覚悟がある人ばかりになった,というのが一番大きな変化なのかもしれません。
木股氏:
あと,Steamの普及は大きいですね。最近はコンシューマとSteamでリリースされるタイトルが増えていて,「コンシューマ機で遊ばなくてもいいんじゃない?」という感想をお持ちになることが多いようです。
小山氏:
また,海外展開のしやすさですと,PCは段違いです。こればかりはもう,Steamは偉大だとしか言いようがありません。やはり世界のPCゲーム市場を相手にできるとなると,プレイヤーの数が桁違いですからね。
そのうえで,シブサワ・コウの思想としては,「いろいろなプラットフォームで,いろいろなプレイヤーに遊んでほしい」というものがあります。ですので今後も,PC,コンシューマ,モバイルで「信長」を遊べるようにしていきたいですね。
4Gamer:
分かりました。最後になりますが,4Gamer読者にメッセージをお願いします。
木股氏:
「創造」はシブサワ・コウ30周年ということで,「信長の野望」シリーズのひとつの集大成として制作され,ありがたいことに好評を得ることができました。
シリーズ15作目となる「大志」では,新しい「信長」シリーズの第一歩を踏み出せたらと思っています。武将数は歴代最多を予定してますし,ゲーム的な新要素だけでなく,武将のイメージについても新しい解釈を採用しています。
今も歴史研究は進んでおり,「この武将はこんな人柄だった」という発表も増えています。これらに対し,急に何もかも変えることはしませんが,少しずつ新しい研究を踏まえた武将像へと切り替えていきたいですね。
そしてそれにあわせて「信長の野望」というゲームのイメージも少しずつ変化させていき,これからも飽きのこないシリーズにしていきたいと思います。ご期待下さい。
小山氏:
「大志」では大名の立場で戦略を練る楽しさを感じていただきたいと思っています。
最近,戦国時代を題材としたさまざまなコンテンツが出ていますが,そういったところから戦国時代に興味を持たれた方にも,「信長の野望」を楽しんでいただきたいですね。そういうゲームにするべく,操作そのものはシンプルで見通しの良いものにしました。
ただ,ゲーム自体は農業・商業・外交といったさまざまな要素が絡み,考えることが多い,しっかりとした歯ごたえのあるゲームになっています。そういう,頭を使う楽しさ,奥の深さを楽しんでいただければと思っています。ご期待ください。
4Gamer:
お忙しいなか,ありがとうございました。
「信長の野望・大志」公式サイト
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(C)コーエーテクモゲームス All rights reserved.
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