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西川善司の3DGE:「Forza Motorsport 7」の求めるリアリティとは何か
何でも,Forza Motorsport 7に登場するPorsche(ポルシェ)のカーラインナップ数はレースゲーム史上最大であることが宣言されるくらいなので,協力関係は相当なものという理解でいいだろう。ちなみにMicrosoftによれば,Ferrari(フェラーリ)およびLamborghini(ランボルギーニ)の登場車種もレースゲーム史上最大数とのことだった。
Forzaに鈴鹿サーキットが帰ってきた! 収録30コースは「石ころ1つ,凹み1つまで再現」
Forza Motorsport 7の開発は,歴代のForzaシリーズを手がけてきたMicrosoftのファーストパーティ,Turn 10 Studiosが担当。「いかにもMicrosoft」という感じで,莫大な開発コストをかけているそうだ。
前出のPorscheやFerrari,Lamborghiniも含めて,登場車種は700車種以上に達し,収録しているサーキットは国際クラスのものを中心に,実在の30コースとなっている。
これらのコースは,数万枚におよぶ「現地で撮影してきた超高解像度写真」からフォトグラメトリ(Photogrammetry)技術を用いて3Dモデル化しており,すべて新規に起こしたものになっているという。
フォトグラメトリは,映画向けCG制作の世界で先行して実用化されているCGアセット生成技術で,まず,撮影された無数の写真群をコンピュータビジョン的な処理で解析し,それぞれの写真が持つ特徴情報から「どの写真がどの写真とつながる」かを判断して,3Dパノラマ写真のようなものを構築する。
次に「3Dパノラマ写真のようなもの」から運動視差的な情報を検出して,相対的な3D座標と色,法線などの情報を持つ点の集合体で表されるポイントクラウドデータを生成。最終的に各種テクスチャデータやポリゴンモデルを作成するという流れになる。
またScott氏は,「日本のゲームファンには,今作では鈴鹿サーキットを収録したことをお伝えしたい」とも述べていた。鈴鹿サーキットは「Forza Motorsport 4」以来の復活である。
ちなみに筆者の取材によれば,富士スピードウェイとツインリンクもてぎは未収録とのことだった。
Forza Motorsport 7のゲームグラフィックス:ネイティブ4K,そして21:9アスペクトに対応
Forza Motorsport 7は,Xbox One Xで実行した場合,ネイティブ4KかつHDR(High Dynamic Range)対応,フレームレート60fpsでの表示となる。広色域には対応しない。
Xbox One XでフルHD(解像度1920×1080ドット)のディスプレイデバイスへ出力する場合,いったん4Kでレンダリングしてからのダウンスケール(縮小)表示となるため,Xbox One SやXbox Oneから出力するのと比べて画面内の情報量は増える。とくに時間方向のピクセルシマー(Pixel Shimmer,1ピクセル未満の表現が時間方向でうねりを伴って見える現象)の低減効果は大きい。
ディスプレイ出力にあたって,標準的な16:9アスペクト以外に,「リクエストの多かった」(Lee氏)21:9アスペクトにも対応したのは大きなトピックと言えるだろう。Forza Motorsport 7では3440
すべてのコース,車両の内外装を構成するマテリアルの表現には,現実の材質の反射特性を再現する物理ベースレンダリング(Physically Based Rendering,PBR)を採用する。つまり,照明条件が異なっても,現実世界と同等の見た目になるわけだ。
Forza Motorsport 7では晴れや曇り,雨といった動的な天候表現が導入されているので,そうしたライティング環境においてもグラフィックスは正しい見た目を実現することになる。
テクスチャ素材はすべてで4K解像度を想定したものになっており,通常版Xbox Oneシリーズで実行したときは,適宜ダウンスケールしたものを活用することになるそうだ。パッケージ版のディスクメディア(BD-ROM)が収録する素材群はXbox One Xとそれ以外で区別せず単一のものになっているため,別途テクスチャデータをダウンロードしたりする必要はないという。
気になるのは,自動車の3DモデルもXbox One Xとそれ以外で異なるのかという部分だが,それは同一だそうだ。
「しかし」とLee氏は次のように付け加えた。「法線マップやハイトマップなど,ディテールを再現するテクスチャ群は,Xbox One Xを想定した4Kターゲットの精度で作ってある。なので,細かい凹凸からなるディテール表現はXbox One Xのほうが上質になる」。グリルやインテーク,その他のオーナメントといったディテールの表現ではXbox One Xのほうがよりリアルになるのかもしれない。
またForza Motorsport 7では,遠近に応じて精度の異なる3Dモデルおよびシェーダに切り換えるLoD(Level of Detail)表現も進化を遂げているという。
遠方の背景物が近づいてきて,一段上のモデルに切り替わる瞬間にポコっと体積が変化して見える「ポッピング」現象が低減しているのはもちろんのこと,ドアミラーやバックミラーに映る後方視界の品質もより向上しているとのことだ。確かに,高解像度が前提となっている最近のレースゲームだと,コース取りというか事実上のブロッキングのために,ドアミラーやバックミラーに映る情報で後続車両の位置を把握することが,重要なポイントになってきている。ハードコアなレースゲームファンにとっては嬉しい拡張ポイントとなるだろう。
もう1つ,Forza Motorsport 7はシリーズで初めて「自分の分身となるドライバーのカスタマイズ要素」が入ったこともトピックとなっている。「人間としての顔面」は出てこないため,カスタマイズ要素はヘルメットとレーシングスーツ,体型,性別といった部分に限られるものの,スーツのバリエーションだけでも約300種あるそうなので,一定レベルのオリジナリティ追求はできると見てよさそうだ。
ちなみに,開発途上にあるE3 2017版だと,Xbox One X上で動作させたときのGPU負荷状況にはまだ38%の余力があるそうだ。「時間があれば表現要素をもう少し加えられるかもしれない」とLee氏は述べていた。
「シリーズ最高のシミュレーション精度」
「シミュレーションはグラフィックスのフレームレートよりも高周期で行う」Forzaシリーズの伝統は,Forza Motorsport 7も継承した。車体の挙動シミュレーションにあたっては,四輪のタイヤだけでなく,サスペンションの挙動に関するシミュレーションも行うのは従来どおりだが,今回は新たにシャシーの微振動とトランスミッションのシミュレーションも追加しているという。
ダンパーの減衰力特性によって,この振動の「低減され具合」が変わるわけだが,Forza Motorsport 7では,現実世界の車同様,強減衰力時には低周波数振動に,弱減衰力時には高周波振動になる挙動を再現しているそうだ。
トランスミッションのシミュレーションは,主にシングルクラッチ車両における「トルク抜け」を再現するものである。
マニュアルトランスミッション(以下,MT)車ではクラッチを切ったときにエンジンの回転エネルギーが切り離されるため,この間,加速が途切れてしまう現象が起こる。Forza Motorsport 7では,一瞬ではあるものの現実の車両にも起きている,この「トルク抜け」現象を再現するというわけだ。
最近の先進スポーツカーは,次のシフト先ギアを待機状態にさせて瞬時にシフトチェンジするデュアルクラッチトランスミッション(DCT)仕様が主流で,こうしたトルク抜けは起きないようになっているが,一般的なMT車はもちろん,1990年代にあったセミオートマチックトランスミッション(AT)のFerrariや,クラッチ操作とエンジンの回転合わせを自動化した「ロボタイズドMT」(もしくは「Automated MT」)を採用する最近の一部スポーツカーや軽自動車では,依然として大なり小なりのトルク抜けは生じうる。Forza Motorsport 7では,そうした車種ごとの違いを再現するわけだ。
シミュレーション関連の新要素はそれ以外にもある。
1つは天候で,グラフィックス的な表現もさることながら,雨天時にはコース上の凹みや傾斜に応じて動的な水たまり生成や水流発生を行っており,ゲームの難度設定によっては水たまりや水流部で路面抵抗値を下げてクルマの挙動に影響を及ぼすということをやっているそうだ。
もう1つは太陽位置に対しての天球生成(≒空の色あい)や雲の生成である。
この点について詳しい説明はなかったのだが,「二度と同じ空模様になることはない」とのことなので,おそらくは,最近のゲームグラフィックスで採用事例の増えている,「パラメータで変調させたノイズ関数を複数層(マルチオクターブ)で重ね合わせてボリューメトリックな密度分布データを生成し,ここに視点からレイ(光線)をキャストして,各レイの密度値に応じた雲の色を決定する」といった,プロシージャルな手法を活用しているのだろう。
ちなみに,この技術を基にしたプロシージャル雲生成は「ファイナルファインタジーXV」でも採用されている。
PC版とのクロスプレイ対応。PC版ではPS4対応のステアリングコントローラも使える!?
Xbox Play Anywhereタイトルなので,ユーザーは,PCかXbox One版のどちらかを買えばもう片方でもプレイでき,また,相互にマルチプレイ可能な,俗に言うクロスプレイにも対応している。
筆者は「複数のXbox Oneを接続しての3画面プレイは可能か」「PC版でマルチGPUを使ったマルチディスプレイ出力にも対応していないか」という,毎度の質問を投げてみたのだが,回答はいずれも「対応していない」だった。21:9アスペクトに対応しているくらいなので,PCにおけるレンダリング画角設定は柔軟で,複数のディスプレイを仮想的に1つのディスプレイと見なすスパンモードを使えば3画面出力も可能なのではないかと期待しているが,試してみないことには分からない。
PC版のスペックはXbox One X向けと同等で,ネイティブ4K,HDR,フレームレート60fpsに対応するが,もちろんそのスペックを実現できるかどうかは実行するPCの性能に依存する。
PC版ではUSB接続のゲームパッドやステアリングコントローラを広くサポートするのがXbox One版にはない特徴で,Lee氏いわく「動作保証はしていないが,PlayStation対応の入力デバイスも使えるよ(笑)」とのことだった。
ゲームモードは,従来シリーズから存在する
- キャリア:ストリートレーサーからトップモータースポーツレーサーを目指すRPG的なモード
- マルチプレイ:ネットワーク対戦モード
- アーケード:シンプルに単独レースが楽しめるモード
を継承しつつ,新たに「キャンペーン」が加わった。「Forza Driver’s Cup」と名付けられたキャンペーンモードでは,6カテゴリのレースイベントを戦って総合優勝を目指すことになる。車種などはレースごとに限定されていて,走行時にはそのラインナップから選ぶ方式となるため,キャリアモードとは切り離して楽しめるようだ。
パッケージはスタンダードとデラックス,アルティメットの3エディションが登場予定で,アルティメットエディションのみ9月29日に先行発売されるとのこと。各エディションは付属する特典の違いで差別化されているので,詳細は公式Webページをチェックしてもらえればと思う。
開発途上版を実際にプレイしてみる
組み合わせてあるディスプレイデバイスはSamsung Electronics製テレビ「KS9800」。HDR対応の湾曲型78インチモデル。ステアリングコントローラはThrustmasterの「TS-XW Racer」,動く筐体はカナダVRX製の「iMotion」だった。Forza Horizon 7はDolby Digital Plusベースの7.1chサラウンドサウンド出力に対応するが,iMotionは5.1ch対応なので,おそらく5.1ch出力になっていたはずだ。
モーションを生成するアクチューエータには「D-BOX Motion」システムを採用していた |
TS-XW RacerのペダルユニットにはThrustmasterの「T3PA-Pro」が組み合わせることができるようで,デモ機はその仕様だった |
コースはニュルブルクリンクの一周5km強のグランプリコース。ドライブ設定はデフォルトではフルアシストの「Easy」になっていたので,過度なドライブアシストはカットするものの,トラクションコントローラやABSなどは有効な「Medium」へ変更した。
実際にコースインしてみたが,柔らかいアクセルワークとブレーキを残したコーナリングを心がけていけばちゃんと曲がっていける感覚は,従来どおりのリアリティといった感じがある。
途中雨天に変わってから,挙動がふらつく表現もかなりリアルだ。
新しく導入された微振動表現もなるほどといった感じで,画面内に見える内装の揺れと可動筐体のガクガクする動きの複合表現に現実感を覚えた。下に示したのは動画では筆者が実際にプレイしているが,車内のパイピングやワイパーが自動車の挙動に連動した動きを見せているところに注目してほしい。
これは「西川善司の腕前がどうこう」という話ではなく「こんな感じで運転すればこうなるだろう」という予測をしながらの運転が普通に行えたためだ。先駆けてプレイした「グランツーリスモSPORT」もそうだったが,最近のレースゲームは「ゲームだから」という特別な配慮をせずに,「普通に運転できる」ようになったことがすごいと思う。
日本のレースゲームファンは,本作とグランツーリスモSPORTが出揃ったとき,どちらが鈴鹿サーキットにおいてよりリアルに走れるのか比較してみると面白いのではないだろうか。
Forza Motorsport 7公式Webページ
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