紹介記事
「Readyyy!」新章“T.O.P Idol SHOW!!”公開第3回は“Tesm Flame編”。チーム内でランキングを競い合うことに……一波乱の予感!
アイドル18人との“今”を育むプロデュースプロジェクト「Readyyy!」の新章「T.O.P Idol SHOW!!」を,全4回に分けて掲載する企画第3回は,熱狂チーム“Tesm Flame”のストーリーをお届けする。「Readyyy!」ポータルサイト
新章「T.O.P Idol SHOW!!」は,2022年2月13日に開催予定の4周年Liveイベント「Readyyy! 4th Anniversary Live “Twinkle of Protostars”」に向けて展開される新ストーリーだ。4Gamerでは,「FANBOX『Room 19』」で先行公開されている「Readyyy!」の新章「T.O.P Idol SHOW!!」を,全4回に分けて公開していく。
本ストーリーのプロローグはこちらを,「Team Iris編」「Team Shine編」は以下の記事を確認してもらいたい。
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※以下,メーカー公開文の内容をそのまま掲載しています
「T.O.P Idol SHOW!!」Tesm Flame編
◆1話
「はぁっ、はぁっ……」
(無理。もう帰りたい)
(なんで俺、なんで――……)
「おい、雅楽。
今んとこ、ワンテンポ遅れてんぞ」
「はぁ、はぁ……わかってる。
けほっ……くそっ。もういっぺんだ」
「大丈夫かよ。
ダンスが得意なわけでもねェのに
『熱狂』なんて選ぶからじゃね?」
「黙れ。
得意不得意で選ぶわけがないだろう」
「……ふぅ。流石は宗像だな。
この短時間で、そこまで完璧に
踊れるようになるとは」
「これくらい当然だ」
「当然じゃないですよ……!
俺、まだまだついていくのに必死で」
「やめとけやめとけ。
その無愛想ゴリラには
何言っても同じだっつの」
「にしても、まさかこの合宿で
碓井と宗像のその漫才を見られるとはな。
相当気が合うようで何よりだ」
「はァ!? 漫才じゃねェし
そもそも気なんて合うわけねェだろ!」
「テメエも、関係ありませんみたいな
顔してねェでなんか言えや、スカしゴリラ」
「はぁ、はぁ……」
(っとに、なんなんだよこいつら。
この状況で、こんな)
振付師
「はい、じゃあ次のパート行くよ。
ライブの時の場当たりも含めて
振り入れは半日で終わらせるから」
光希・佐門・十夜・千紘・雅楽
「はい」
(半日って……)
(ホント俺、なんでここにいるんだよ)
(やっぱり、ここじゃなくて――……)
『T.O.P Idol SHOW!!』
最後となるのは、Team Flame。
視聴者から期待も寄せられる中
その合宿は、幕を開けていた。
振付師
「じゃあ、頭から今のとこまで通しで。
ファイブ、シックス、セブン、エイト――」
♪Hey! Raise your Hand〜
Show me your Heart〜♪
Show me your Heart〜♪
「……あ、違っ」
振付師
「はい、間違ってもそのまま続けて。
ひとりのために止めないよ」
「え、っと……」
「退け、折笠」
「振りが頭に入っていないのなら
フォーメーションに加わるな」
「……っ」
「やばっ、俺もズレた」
振付師
「――ストップ。
頭に入ってないやつ、端で練習!」
光希・凛久
「はい」
「大丈夫か、久瀬」
「ああ、うん。
ごめん、迷惑かけて」
(よかった、俺だけじゃない)
(……って、何考えてんだろ)
ガチャッ
木虎
「皆さん、お疲れさまです〜」
一同
「! お疲れさまです……!」
木虎
「調子はどんな感じですかねー。
課題曲の振り入れは順調ですか?」
「順調もなにも、時間が短すぎる。
他のチームはもう少し余裕があっただろ」
木虎
「そうですね。
でもだからと言って
同じ条件にはしませんよ」
「『熱狂』のテーマを選んだ皆さんなら
できると信じてますし――」
「そもそもプロなんですから
パフォーマンスなんて
できて当然でしょう」
「どっかの誰かと
同じような台詞言うんじゃねェっつの」
木虎
「あらら、それは気が合いますね」
「――いいですか。
キミたちが選んだのは『熱狂』」
「一見単純なようでいて、解釈の幅が
『希望』や『安らぎ』よりも広いのが
このテーマの特徴です」
「熱狂とはなんなのか。
どうすれば観客を、自らのパフォーマンスで
熱狂させられるのか」
「それを導き出すために
覚えることに時間を使うのではなく
パフォーマンスを昇華し、自分のものに
するために時間を使ってほしいんです」
「教えられた振りをただなぞるだけの
借り物のパフォーマンスになんて
誰も熱狂しないでしょ」
一同
「……」
木虎
「と、話がそれちゃいましたね」
「今日ワタシがここに来たのは
これまでの2チーム同様、キミたちだけの
特別課題を発表するためです」
「……課題ね。
僕たちにはどんな"シナリオ"を
用意してくださったんですか?」
木虎
「そんなトゲトゲしい言い方
しないでくださいって。単純ですよ」
「――チーム内のこの6人で
ランキングを競い合い
毎日その順位を公表する」
光希・凛久・雅楽
「!」
木虎
「毎日のレッスンの様子や
合宿中の様子を動画にまとめ
T.O.P番組本編とは別にネットに公開します」
「動画はひとりにつき1本。
要は各々のドキュメンタリー兼
PVみたいなものです」
「毎日夜に動画を更新し
翌日の昼前に再生数を集計」
「その再生数を皆さんの注目度とし
ランキングにしていきます」
「……なにそれ」
「完成されてないパフォーマンスで
ランク付けとか
たまったもんじゃないんだけど」
木虎
「じゃあそれでいいじゃないですか」
「評価が低くても
"完成されてないパフォーマンスだから"で
重く受け止めずにやっていきましょ」
「……」
木虎
「あ、そうそう。それでなんですが……」
「今日は初日ですし、皆さんにはぜひ
現状のランクの予想と、最終日の
目標ランクを発表してもらいたいんです」
「キミたちが目指す『熱狂』の対象は
いつだってキミたち自身」
「なのでまずはキミたちが
自分を理解していないとですからね」
「……はぁ、やっぱここもダメか」
(本当にどこもかしこもカメラばっか。
夜くらいオフにしろよ)
(必死に自主練してるとこなんて
カッコ悪くて、見られたくないし……)
♪幕が開けた
さあSHOW-TIME〜♪
さあSHOW-TIME〜♪
「?」
「……アイツ」
「はぁっ、はぁ。ダメだ〜……
やっぱこのステップ、難しいな」
「こんな調子じゃ、目標の順位には……」
「――……」
木虎
「では、次。折笠クンどうぞ」
「はい。え、えっと……
現状は……4位、とか?」
「最終日の目標は……3位くらい。
レベル高いメンバーが大半だけど……
それくらいはいきたいかな、って」
(……やっぱ俺もやろ。
恥ずかしい思い、したくないし)
(えっと、カメラが回ってなくて
練習できそうな場所は……)
◆2話
――合宿2日目。
「おは――……」
「♪幕が開けた さあSHOW-TIME〜♪」
「――!」
「♪Hey! Raise your Hands〜♪」
(久瀬のやつ、いつの間にダンス……)
「……あ、今のとこの振り
もうちょい重心低くした方が
よかったかな?」
「そこはあとでいいだろう。
全員で合わせた時にバランスを見ればいい」
「たしかに! さんきゅ」
(……何、今の)
(昨日は全然
ついていけてなかったのに。
なんでもう、仕上げに入ってるわけ)
(昨日の夜の自主練で?
いやでも、それだけじゃ……)
(……っていうか、まだ不完全なのに
なんで、こんな――)
「おい。入るのか入らないのか
どちらかにしたらどうだ。
通行の妨げだ」
「! あ、ご、ごめん」
「ふたりとも。
おはようございます」
「十夜さん。
昨日はありがとうございました!」
「教えてもらったおかげで
もうバッチリです」
「ああ」
「……!」
「む、宗像オマエ
そういうことするヤツだったんだ」
「請われれば断る理由はない」
「それに、組むメンバーが変わった途端に
パフォーマンスが落ちたと言われては
ただの名折れ」
「RayGlanZからふたりが参加している以上
たとえ誰であれ、生ぬるいパフォーマンスを
容認するつもりはない」
「……やる気のない者以外はな」
「……」
木虎
「はい、皆さんおはようございます〜。
そろってますねー」
「早速ですが、初日のランキングを
お伝えしに来ました」
一同
「!」
木虎
「初日なので、イメージ票や期待票など
純粋な評価とは別の要素も
絡んでいるんですが……」
「結果はこの通りです」
1位 宗像 十夜
2位 上條 雅楽
3位 碓井 千紘
4位 錦戸 佐門
5位 久瀬 光希
6位 折笠 凛久
2位 上條 雅楽
3位 碓井 千紘
4位 錦戸 佐門
5位 久瀬 光希
6位 折笠 凛久
「……チッ」
「――っ」
木虎
「RayGlanZはここでも圧倒的な支持ですね」
「動画へのコメント数も
おふたりの動画が群を抜いてましたし
SNSでも、合宿初日なのに完成度が高いと
話題になってました」
「上條クンの動画に関しては
熱狂的なファンの方が
何度も再生して見ているようです」
「普段と違うテイストの楽曲なので
やはり注目が集まるんでしょう」
「それからこの3人に関しては
非アイドルファンからの注目も
集めやすいことが
再生数に直結したようです」
「いかがでしたー?
自分の予想と比べてみて」
「現状は……4位、とか?」
「最終日の目標は……3位くらい。
レベル高いメンバーが大半だけど……
そ、それくらいはいきたいかな、って」
「……っ」
(何が4位だよ……
宗像だけじゃなくて、5位の久瀬とも
めちゃくちゃ差開いてるくせに)
(なんなんだよ、もう)
(恥ずかしすぎ――)
――合宿3日目。
「……はぁ」
(また今日も、最下位)
(昨日と順位が入れ替わったのは
碓井と上條くらい)
(だいたい、こんなことして
なんの意味があるんだよ)
(宗像と碓井と上條がいる時点で
結果なんてわかってるようなもんだろ)
(馬鹿みたいにみんなストイックで
妥協ゼロで)
「…………もう、ヤダ」
(久瀬まで、まさか一晩で仕上げてくるとか)
(それに、あの時……
必死でダンスを詰めてたときの久瀬)
(なんで、あんなに……)
「……俺も、追いつけるかな」
(ここならカメラもないし
ちょっとくらい……)
「♪Hey! Raise your Hands〜
Show me your Heart〜♪」
「……違うか。
もうちょっと声の出し方変えたほうが
曲には合ってるのかな」
「♪Hey! Raise your Hands〜〜……」
「おい、凛久。
オマエ、いつまで入ってる気だ。
後が詰まってる」
「! い、今あがるって……!」
「佐門、ここにいたんだ」
「? ああ、久瀬か。どうした」
「いや、どうってことはないんだけど……
やっぱりメンバーの顔見てると
落ち着くっていうか」
「……なんだ急に」
「五十嵐が同じチームじゃなくて
寂しくなったか」
「あはは、そういうわけじゃないって。
まあ、寂しいっちゃ寂しいけど」
「でも正直、佐門と一緒になるとは
思わなかったかも。
今更だけど、なんで『熱狂』?」
「別にそんな大層な理由じゃないが……」
「……誰かの夢や希望、理想や願望を
一身に受けて、それを具現化するのが
アイドルという存在だ」
「だからこそファンは、その『夢』や
『理想』をもたらしてくれるアイドルに
人生の一部をかけることができる」
「反対に俺たちアイドルも
そんな想いを受け、それに応えるために
人生をかけてステージに立つ」
「俺はそれを、推す方にとっても
推される方にとっても、『熱』がなければ
成立しないことだと思っている」
「――俺がこのテーマを選んだ理由は
そんなところだ」
「……なんか、佐門らしいな。
でもたしかに
言ってることはわかる気がする」
「他にもっと感想はないのか」
「ごめん、これ以上は俺の語彙力不足」
「ふっ、なんだそれ」
「……ってか
なんか調べ物してたんだよな?
ごめん、邪魔して。何調べてたんだ?」
「ああ。
木虎というプロデューサーについてだ。
もっとも、成果はなしだが」
「木虎さん? なんで?」
「この合宿もあの人の存在も
何もかもが唐突すぎるだろう」
「番組プロデューサーと言っても
名前すら聞いたことがない」
「それに、ゴールドステージ入りを謳って
こんな企画を実行するなんて
これまでの事務所の方針とも
愛江田社長の理念とも、違いすぎる」
「これまで、ゴールドステージだ
ランキングだを、ここまで
強調することがあったか?」
「……たしかに、そう言われてみれば」
「アイドルランキングは、楽曲の売上や
会員の投票数だけでなく
SNSの指標や動画再生回数まで
ありとあらゆる媒体から算出される」
「もちろん、表向きは『公平』にだ」
「?」
「だが、この間のRayGlanZの一件。
そこからもわかるように
直接介入せずとも、間接的にランキングを
操作することはできるとわかった」
「目的はわからないが
もし奴が、なんらかの方法で
俺たちのランキングに、テコ入れを
しようとしているのだとしたら――」
???
「ふざけるな!!」
光希・佐門
「!?」
「オマエ……
もういっぺん言ってみろ!」
「っ、うるさい……!
上條にはわかんないだろ!!」
「わかんないくせに、上からもの言うなよ!」
「一体なんの騒ぎだ」
「雅楽さん! 凛久!?
落ち着いて……!」
「あー……助かった。あと頼むわ。
オレ、風呂入っから」
「ちょっ、千紘!
頼むって……何があったんだよ」
「……ハァ。
詳しくはオレも知らねェけどよ……」
「コイツの歌がどうとかって
雅楽が口出したんだと」
「そしたら凛久が――」
「……簡単に言うなよ」
「上條みたいに才能の塊みたいなヤツと
俺とじゃ違う」
「……おい、今なんて言った」
「だから、オマエみたいな
才能の塊と俺じゃ……」
「ふざけるな」
「……才能?
その一言で片付けられるのが一番腹が立つ」
「腹立つって……
俺から見たら才能の塊でしかないんだから
それ以外言い様ないだろ!」
「オマエだけじゃない。
宗像も碓井も、みんな」
「……第一『熱狂』ってなんだよ」
「対象も、その感情が意味するものだって
三者三様でなんの指標もない。
そんなものどうやって……」
「そもそも、完成されたパフォーマンスの
プラスアルファからそれが生まれるなら
俺には端から無理な話じゃん」
「挑戦しようとすらしていないヤツが
何を言ってる! そんなもの……」
「わかんないだろ!
上條みたいに才能があるヤツには」
「才能があるだけで
簡単に熱狂だってしてもらえ――」
「っ、キサマ……!」
「……」
「言っとっけど
オレは止めるはつもりねェかんな」
「どっちに非があるかは
ハッキリしてんだろ」
「……」
「『才能』の言葉ひとつで片付けるなんて
プロがしていいことじゃない」
「そんな腑抜けた考えで
ステージに立つ資格があるとでも
思ってるのか」
「……っ」
「オレはいつどんなときだって
歌と音楽に真剣に向き合ってきた」
「奏でる音に誠実に
そして誰よりも熱を持って」
「だからこそ観客も
La-Verittaの音楽に熱狂して
オレたちの世界観に心酔する」
「それは才能とはまったく別物だ」
「この合宿中、オマエからは
その熱を微塵も感じない」
「テーマである『熱狂』以前の問題だ」
「オマエはどうしてここに――」
「雅楽さん、それ以上は……!」
「……うるさいな!
俺だって!」
「……俺だって、このチームが
よかったわけじゃない!」
「しょうがないだろ!
俺が行った時にはもう、第一希望の
『希望』チームは埋まってて……」
「……キサマ。
それをカメラの前でも言えるのか!?
ファンの前でも同じことを言うのか!?」
「――っ」
ダッ……!
「おい、折笠……!」
「はぁっ、はぁっ」
「……はぁ、はぁ……っ、もう、やだ。
最悪。なんでこうなるんだよ」
(合宿なんて、早く終わればいいのに)
(このままずっと最下位で、惨めなまま
ステージに立つのだって……)
(やだ、やだ……もう、全部やだ)
(なら、もういっそ――)
「……はぁ、はぁっ」
「…………」
「っ……最低だ、俺」
「何考えてんだよ」
「全部、全部……
上條の言う通りだ」
「ずっと、逃げてばっかじゃん。
デビューの時から、ずっと……」
小麦
「凛久、さっきね
SP!CAのデビューが決まったんだよ」
「……いるんだよね。聞こえてるんだよね。
聞いてなくても、ぼく、話し続けるから」
◇◇◇◇◇
小麦
「ねえ、何回でも言うよ。
ぼく、凛久と一緒にデビューしたいんだ」
「凛久がいないとJust 4Uじゃないんだ。
お願い、一緒に頑張ろうよ!」
「……わかってる」
「でも、ひとりでどうやって……」
???
「凛久……!」
「!」
◆3話
???
「凛久……!」
「!」
「よかった。いた」
「……久瀬」
「風邪引くぞ? こんなところにいたら。
お風呂上がりなんだろ。ほら、上着」
「……あ、ありが、と」
「うん」
「……あの、えっと」
「わかるよ。
逃げたくなる気持ち」
「え……」
「俺も、今まで何度も
そう思ったことあるから」
「今回も全然ランキング上がんないしな〜」
「俺だって、落ち込んでないって
言ったら嘘になる」
「……」
「でもさ、そればっか気にして悩んでたって
パフォーマンスはよくならないと思うんだ」
「――1位か6位かよりも
昨日の自分を超えられたか
そうじゃないかで悩みたい」
「……」
「……ねえ。その……久瀬は
なんでこのチーム、選んだわけ」
「久瀬なら、『希望』も『安らぎ』も
選択肢は他にあったんじゃ――」
「それなぁ、視聴者からのコメントにも
そういうのがたくさんあるって
木虎さんに言われたなあ」
「……」
「俺、元々モデルやっててさ。
その時アイドルのライブを
観に行ったのがきっかけで
俺もアイドルやってみたいって思ったんだ」
「その時の気持ちは
うまく言語化できないんだけど……」
「でも、その人たちがステージに出てきた瞬間
なんかこう、理屈じゃない熱いものが
ブワッって身体中に広がってさ」
「人を惹き付けるって
こういうことか、って思った」
「俺がここまで
アイドルやってこれたのは、元をたどれば
全部その『熱』のおかげだから」
「だから俺も同じように
観てくれる人に、そんな『熱』を
届けられるアイドルになりたくて」
「このチームを選んだのは
それが理由かな」
「……」
「凛久はこのチーム
第一希望じゃなかったんだよな」
「そ、それは……」
「いいよ。
別にそれを責めたりしないし」
「でもさ。凛久だって、何かに熱狂するくらい
心を奪われたことってないか?」
「熱狂までいかなくてもいいんだけど……
例えば、なんかちょっとこう
目が離せなくなった、みたいなのとか」
「目が離せない……?」
「そう」
「……」
「♪幕が開けた さあSHOW-TIME♪」
「――!」
「♪Hey! Raise your Hands〜♪」
(久瀬のやつ、いつの間にダンス……)
◇◇◇◇◇
(昨日の夜の自主練で?
いやでも、それだけじゃ……)
(……っていうか、まだ不完全なのに
なんで、こんな――)
「あの時……」
「え? どの時?」
「あ、い、いや……!
なんでもない」
(……あの時、たしかにちょっと
目が離せなくなったかもしれない)
(けど、あれは……)
(あれは――?)
木虎
「いや〜、バチバチだったね。
ばっちり廊下のカメラまで声聞こえてたし」
プロデューサー
「……」
(たしかにこの状況は
凛久さんには酷かもしれない)
(でも、言い方はどうあれ
雅楽さんの言っていることは正しい)
(ここで過度なフォローをするのは
きっと違う……)
(どうにか凛久さんが
自分で良い方に舵を切れるといいんだけど)
木虎
「いや〜、なんかアレだね。
可哀想になってくるね、折笠クン」
プロデューサー
「……え?」
木虎
「おばけでも見たかのような顔
しないでくれる?
ボクだって人の子だもん。
そりゃ可哀想だって思う時もあるよ」
プロデューサー
「……あ、はい」
木虎
「――そうだ」
「今日公開する動画
まだ編集中だったかな〜」
プロデューサー
「ちょっ……今度は何するつもりですか?」
木虎
「いや、折笠クンのパフォーマンス
調子がいいとこだけ切り取って、うまいこと
レベル上がったように編集できないかなって」
「さすがにこのままじゃ可哀想だし
展開が読めすぎて
視聴者もつまんないだろうし」
プロデューサー
(……違う、それじゃあきっと逆効果だ)
(そんなことして順位が上がったって
きっと凛久さんは納得できないだろうし
このことを知ったら余計惨めになるだけ)
(――考えなきゃ、私が)
(このまま木虎さんに任せたら
きっと凛久さんは、立ち上がれなくなる)
(どうすれば、正しく
凛久さんの背中を押せるだろう)
(凛久さんの強みと弱みは……)
(Just 4Uを離れて、彼がひとりの
アイドルになったとき、ファンに
応援してもらえるアピールポイントは……)
「……!」
木虎
「編集さん、ちょっと
お願いがあるんだけど――」
プロデューサー
「待ってください。
ひとつ、提案があります」
木虎
「……?」
――翌朝。合宿4日目。
木虎
「では、お待ちかねの
今日のランキングを発表します」
「1位は依然変わらず宗像クン。
今日の2位は碓井クン」
「そして3位は」
「――折笠クン」
「!?」
「……」
木虎
「いやいや、すごい飛躍ですね……!
正直ワタシもびっくりです」
「……ま、待てよ……なんで。
そんなはずないだろ」
木虎
「謙遜しないでくださいよ。
そんなはずあっちゃったんですから」
「この調子なら、目標の
最終日3位も夢じゃないかもしれませんね」
「いや〜、面白くなってきましたよー」
「待てって……! おかしいだろ」
「オマエ、まさか……」
「――なんかしただろ」
◆4話
「待てって……! おかしいだろ」
「オマエ、まさか……
なんかしただろ」
木虎
「なんかって?」
「その……再生回数いじるとか……
そもそもそのランキングの得点
適当に捏造してたとか」
木虎
「何言ってるんですか。
さすがにそんな不正はしませんって。
信用問題に関わりますから」
「誓って、内容に嘘偽りは一切ありません」
「ただ今回は少し、これまでの動画と
編集の趣向を変えてみただけです」
一同
「?」
「……印象操作ってヤツかよ」
木虎
「聞こえは悪いですが
まあそんなところです」
「良くも悪くも
観客の感情はある程度操作できる」
「でも、エンタメというのは
もとよりそういうもの」
「例えば、泣かせるために
同情を誘うようなシーンを挿入するのは
映像作品では当たり前」
「笑わせるためのお笑い番組や
バラエティー番組も一緒」
「実際は撮れ高が少なくたって
編集や演出で多少ならどうにでもなる」
「感情の誘導、印象操作。
エンタメはその上に成り立ってるんです」
「ほら、たった今のこのシーンだって
配信するときは
綺麗にカットできますからね〜」
一同
「……」
「エンタメにおいて
印象操作が常套手段であることは
理解できます」
「とはいえ、不正じゃないと言っておきながら
ランキングまで誘導するのは
ほぼ黒に近いグレーなのでは?」
木虎
「いやいや、この程度で騒いで
どうするんですか」
「これくらいのこと
実際のアイドルランキングでも
日常茶飯事に行われていることですよ」
「直接ランキングをいじらずとも
間接的にある程度操作は可能」
「実体験として
よくご存知なんじゃないですか?」
佐門・千紘
「!」
「何が言いたい」
木虎
「いえ、別に。言葉の通りです」
「――なんでもいい!」
「なんでもいいって、そんなの」
「……凛久」
「エンタメの定石とか
アイドルランキングのどうこうとか
そんなの、今はどうでもいい!」
「俺が知りたいのは
順位がこうなった理由」
「その動画、見せてよ」
木虎
「編集さん、ちょっと
お願いがあるんだけど――」
プロデューサー
「待ってください。
ひとつ、提案があります」
木虎
「……?」
プロデューサー
「いいパフォーマンスのところを
切り取るんじゃなくて
凛久さんが努力して打ち込んでいる姿を
切り取りませんか?」
「……そもそも凛久さん
練習しているところを
あまり見られたくなさそうだったので
素材は少ないかも知れませんが」
「どんなに些細なシーンでもいいです。
本人の意図ではないでしょうが
拙いパフォーマンスでも構いません」
木虎
「いいけど……
また随分エグいことするね〜」
「それじゃ折笠クンの"助け舟"に
ならないんじゃない?」
プロデューサー
「いえ、大丈夫です」
「おそらくこれが
一番凛久さんのためになる」
「きっと彼なら、気づいてくれると思います」
木虎
「――はい、以上が昨日の動画です」
凛久
「は? ……え?」
「ちょっと待てよ。
こんな動画で3位って……どういうこと」
「……だって、カッコ悪いだろ。こんなの」
「ダンスも歌も、全然お客さんの前で
披露できるようなもんじゃないし」
「そもそもこんな
がむしゃらに、愚直に努力してる姿
見せて、なんの――」
「……!」
「でもさ。凛久だって、何かに熱狂するくらい
心を奪われたことってないか?」
「熱狂までいかなくてもいいんだけど……
例えば、なんかちょっとこう
目が離せなくなった、みたいなのとか」
「目が離せない……?」
「♪Hey! Raise your Hands〜♪」
(久瀬のやつ、いつの間にダンス……)
◇◇◇◇◇
(昨日の夜の自主練で?
いやでも、それだけじゃ……)
(……っていうか、まだ不完全なのに
なんで、こんな――)
(久瀬に聞かれた時
どうしてか、2日目の朝
久瀬が踊ってた時のことを思い出した)
(宗像とか碓井とかに比べれば
まだまだ荒削りで、洗練されてたとも
完成度が高かったとも言えないダンス)
(それでも、一晩であそこまで
仕上げてきたことへの驚きと
久瀬のあの、食らいついてやりたいって顔)
(あのとき、俺が感じたのはきっと
未完成な久瀬のパフォーマンスが
これからさらに磨かれていくことへの期待)
(それから、熱望と……憧憬)
(俺はあのときたしかに
――小さな熱を感じたんだ)
「……凛久?
どうした?」
「……」
「俺、わかったかもしれない」
「?」
「これまで、っていうかついさっきまで
努力を見せることは
カッコ悪いことだって思ってた」
「汗水流して苦しそうな顔とか
つらそうな顔なんて
表に出すもんじゃないって」
千紘・雅楽
「……」
「でも、そうじゃなかった」
「何かに向かって必死に努力してる姿が
人を惹き付けることだってある。
それが、熱狂の源になることだってある」
「完成されたパフォーマンスだけが
人を惹き付けるわけじゃない――」
「……そういうこと、だろ?」
木虎
「価値観は人それぞれですから
正解不正解はありません」
「でも、この結果を見るに
十分あり得ると思いますよ」
「――キミたちはアイドルなので、ね」
「……」
「……俺、ずっと
カッコ悪い自分を見せたくなくて
逃げてた」
「どうにかして自分を
特別に見せたくて」
「……ホントは
自分は特別でもなんでもないって
気づいてたのに」
十夜・雅楽
「……」
「でも、それでよかったんだ。
何者でもない自分が
少しずつ何者かになってく」
「それを見てもらって
共感してもらって、応援してもらって……」
「そしていつかそれが
熱狂に変われば……」
木虎
「……」
「今からじゃ遅いかもしれないけど、俺……
『あの順位はなんだったんだ』って
言われないようにしたい……!」
「みんなが……
それから自分でも、ちゃんと納得できる
パフォーマンスに仕上げたい!」
「だから……」
「歌もダンスも、ダメなとこ教えてほしい」
「お願いします」
一同
「……」
「……ふっ、柳川がここにいたら
大騒ぎして茶化しそうなくらい
綺麗な90度のお辞儀だな」
「……」
木虎
「なかなかやりますね。
キミたちのプロデューサーも」
「……え?」
木虎
「いえ、なんでも」
ガチャっ
「あ、雅楽さん……! どこに――」
「スタジオだ」
「ぐずぐずするな、凛久。
早く来い。歌はオレが見てやる」
「どんな理由であれ、一時(いっとき)でも
オレより上の順位になった以上
生半可な歌を披露するのは許さないからな」
「ダンスはこのお節介ゴリラが
見てくれるってよ」
「……ま、オレも
ゴリラ語の通訳ぐらいは
してやんねェこともねェけど」
「ありがと……!」
――そして、合宿最終日の午後。
木虎
「それでは最後のランキング発表です」
「……の前に、初日同様
今の予想順位を聞いておきましょうかね」
「左側から順にどうぞ」
「2位」
「3位だ」
「悪いが1位を譲るつもりはない」
「5位にしておきます」
「えっと……俺も5位」
木虎
「最後。折笠クンは?」
「6位」
木虎
「いいんですか、本当にそれで」
「うん。いいも何も
どう考えてもこれが妥当だから」
「でも、これまでの『最下位』とは
同じじゃない」
「なんにもできない『最下位』じゃなくて
あとは”上がるだけ”の最下位だから――」
こうして、Team Flameの
波乱の合宿は幕を閉じた。
最終日のランキングは
1位が十夜さん、2位が光希さん。
3位が千紘さん、4位が雅楽さん。
5位が佐門さんで、6位が凛久さんだった。
1位と6位は
初日から変化こそしなかったが
最後まで「熱狂」と向き合い続けた光希さんが
2位となり、1位から6位の再生数の差も
大きく縮まることとなった。
そして――
プロデューサー
「皆さん、本当にお疲れさまでした……!」
「プロデューサーさん!」
「ああ」
「やっとオマエが出てきたか」
「……いつまで待たせる気だ」
「もうこんな合宿はごめんだからな!
受ける仕事はきちんと選べ。
そのためのプロデューサーだろ」
プロデューサー
「は、はい……」
「ンだそれ。
すげェ大物みてェなこと言うのな」
「その様子だと
プロデューサーさんも事前によく
知らされていなかったようですね」
「うちの社長あるある、でしょうけど」
プロデューサー
(うっ、バレバレなのも
どうかと思うけど……)
「あれ、そういえば凛久さんは……」
光希
「気が抜けたんじゃないですかね」
「寝ちゃってます、ソファで」
「……すぅ、すぅ」
プロデューサー
「凛久さん……
お疲れさまでした」
「どうしましょう。
ここで寝かせておいていいですかね?」
「明石か柳川が戻って来たら
どうにかするでしょう」
プロデューサー
「……そうですね」
秋霜
「じゃあ、プロデューサー。
俺今から、ホテル待機のやつら
迎え行ってくんで〜」
プロデューサー
「はい、お願いします!」
「……やっと日常が戻ってくるんですね」
プロデューサー
「はい」
「でも明日からは、全チームそろって
ライブリハが始まります」
「引き続き、気合いを入れていきましょう」
一同
「――はい!」
END
「T.O.P Idol SHOW!!」Tesm Flame編
主要人物紹介
SP!CA
錦戸佐門(CV:長谷徳人)
他事務所から移籍してきた頭脳派サブリーダー。SP!CAにとっての最良の選択をいつも考えている。常に冷静で、トラブル対応能力も高い。そのクールな態度でメンバーから「ドS」と呼ばれることもあるが、表向きは温和で礼儀正しい好青年。
Just 4U
折笠凛久(CV:美藤大樹)
西洋人形のような愛くるしい容姿を持つが、負けん気とプライドの塊で、ありとあらゆるコンプレックスが強い。「都会っぽさ」に固執しており、流行にアンテナを張り巡らせている。学校にはとある交換条件を出すことで、ほぼ登校はしていない。コミュニケーションを取ることが苦手な一方で、社交的になれない自分にいらだちを感じることもある。
RayGlanZ
碓井千紘(CV:小野将夢)
反骨精神が強く、自らを押さえつけようとする人間に対して歯向かわずにはいられない。十夜とは水と油のような関係で、日常的に衝突している。生まれつき体が弱く、持久力に乏しいため、筋トレやランニングなどを積極的に行うがなかなか筋肉が付きづらい。嫌いな言葉は「中途半端」。
RayGlanZ
宗像十夜(CV:近衛秀馬)
圧倒的なカリスマ性と存在感でトップを目指す、孤高のリーダー。威圧的な性格が災いしユニットで軋轢を生みがちだが、その実力もプロ意識も抜きん出ている。トップに対する執念が強く、心の内に暗い炎を秘めていたが…。
SP!CA
久瀬光希(CV:住谷哲栄)
華やかな容姿と、人懐こい性格で周囲を惹きつけるSP!CAのセンター兼リーダー。子どもの頃からモデルを続けている。アイドルオーラが強い上に天性の気品で「王子」のような雰囲気をかもし出しているが、実は下町出身でお祭り好きな一面も。自分の掲げる理想に近づくため、努力を怠らない。
La-Veritta
上條雅楽(CV:榊原優希)
天使の容姿と、類まれなる音楽の才能を持つLa-Verittaのリーダー。 作曲、演奏、歌唱すべてをこなすが、人の心の機微に疎く作詞は苦手。パートナーの弦心とともに、La-Verittaとして唯一無二の世界観を創る。
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