レビュー
デスクトップPC向け初の8コア16スレッド対応CPUは何もかも強烈だった
Core i9-9900K
開発コードネーム「Coffee Lake-S Refresh」と呼ばれてきたCPUを第9世代CoreプロセッサとしてIntelが発表したのは北米時間2018年10月8日のことだが,そのレビューと販売が日本時間10月19日付けで解禁となった。
HEDT(High-End DeskTop)市場向けのCore Xプロセッサを除くと史上初めて8コア16スレッドに対応するIntel製デスクトップPC向けCPUだけに,第9世代Coreプロセッサの実力が気になる読者は多いと思う。
4Gamerは発表時点のラインナップ最上位モデルで,まさに8コア16スレッド対応の「Core i9-9900K」,その性能評価用エンジニアリングサンプルを独自に入手することができたので,さっそくテストを行っていきたい。
一部の脆弱性にハードウェア的な対策を行ったCoffee Lake-S Refresh
第9世代Coreプロセッサのラインナップと製品概要は10月9日掲載の記事でお伝えしているとおりなので,気になる人はそちらを参照してもらえればと思う。
Intel,8コア16スレッド対応の「Core i9-9900K」など第9世代Coreプロセッサ3製品を発表
北米時間2018年10月8日,Intelは,デスクトップPC向けとしては初のCore i9であり,また8C16T対応モデルとなる「Core i9-9900K」など第9世代Coreプロセッサを発表した。発売日は北米時間2018年10月19日だ。
簡単におさらいしておくと,まず,その製品ラインナップは以下のとおり3製品になる。冒頭でも触れたとおり,今回入手したCore i9-9900Kは最上位モデルだ。
- Core i9-9900K:8C16T,定格3.6GHz,最大5.0GHz,共有L3キャッシュ容量16MB,TDP 95W,倍率ロックフリー,1000個ロット時単価488ドル(約5万5100円)
- Core i7-9700K:8C8T,定格3.6GHz,最大4.9GHz,共有L3キャッシュ容量12MB,TDP 95W,倍率ロックフリー,1000個ロット時単価374ドル(約4万2300円)
- Core i5-9600K:6C6T,定格3.7GHz,最大4.6GHz,共有L3キャッシュ容量9MB,TDP 95W,倍率ロックフリー,1000個ロット時単価262ドル(約2万9600円)
※TDPはThermal Design Powerの略で,熱設計消費電力のこと。PCメーカーはこれを基準にPCを設計する。必ずしも実消費電力とイコールではない。1000個ロット時単価はPCメーカーがIntelに1000個ロットで発注するときの単価。当然のことながら店頭売価とは異なる。
Intelは,第7世代Coreプロセッサ(開発コードネームKaby Lake)のマイナーチェンジにあたる第8世代Coreプロセッサ(開発コードネームCoffee Lake)でチップセットの後方互換性をカットし,Intel 300シリーズチップセットを導入した。しかし,今回の第9世代Coreプロセッサ世代ではデスクトップPC向けのCoffee Lake-S Refreshで後方互換性が確保されているため,BIOSが対応していればIntel 300シリーズチップセット搭載マザーボードで利用可能だ。
そんな第9世代Coreプロセッサだが,従来世代と比べて何が変わったのかについて,Intelはほとんど明らかにしていない。基本スペックのほかは,シリコンダイと,Intelが「IHS」(Integrated Heat Spreader)と呼ぶヒートスプレッダとの間を埋める,これまたIntelが「TIM」(Thermal Interface Material)と呼ぶ素材が,Coffee Lake-Sだとシリコン充填だったのに対し,Coffee Lake-S Refreshではハンダを使ったソルダリングに切り替わったことくらいだ。熱伝導が従来より良好になり,冷却しやすくなったという。
採用する製造プロセス技術が「第3世代」とされる14nmプロセス技術「14nm++」なのも変わらずである。
Coffee Lake-S用チップセットとしては「Intel Z390」が新登場となったが,既存のIntel 300シリーズチップセット搭載マザーボードでも利用可能 |
IntelはTIMがソルダリングになったことを大々的にアピールしているが,実のところは「昔の仕様に戻っただけ」だったりする |
ただし,海外メディアの報道によると,Coffee Lake-S Refreshではいわゆる「CPUの脆弱性」の一部にハードウェア的な対策が入ったようだ。
具体的には,1月に話題となった「Meltdown」と,7月にその存在が明るみに出た「L1 Terminal Fault」――「L1TF」もしくは「Foreshadow」と呼ばれることが多い――の問題を潰してあるという。Meltdownについては先に解説を行っているので,興味のある人はそちらを参照してほしい。
一方,L1 Terminal Faultのほうは,簡潔にまとめるなら「ページフォルト中にL1キャッシュでメモリ保護機構が機能しない」というものである。Meltdownは投機実行とキャッシュの振る舞い,特権機構のスキを巧妙に突いた攻撃を許す脆弱性だったが,L1 Terminal Faultのほうは純粋に「CPUのバグ」と紹介したほうがいいような脆弱性だ。
Coffee Lake-S Refreshではこれらの脆弱性に対してハードウェアレベルでの対策が入り,(性能に悪影響を及ぼしかねない)ソフトウェアレベルでの対策が不要になった,と海外メディアは報じている。実際に対策が入っているのであればそれは歓迎すべきだろう。
もっとも,MeltdownとL1 Terminal FaultはそもそもAMD製CPUだと影響を受けない。なので,Coffee Lake-S RefreshでようやくAMDに追い付いたという話に過ぎないと言えば過ぎない。対策が厄介で,かつ,ソフトウェア的な対策がCPUの性能を低下させる条件分岐の脆弱性,それこそ「Spectre」の「Variant 2」などはまだ残っているようなので,ハードウェアレベルの脆弱性対策は道半ばであることを押さえておきたいところだ。
Core i9-9900Kのスペックを確認しつつ,テストのセットアップ
テストに先立って,Core i9-9900K(以下,i9-9900K)の実物を概観しておきたい。
と言っても,その見た目はLGA1151対応CPUそのもので,何か特別なところがあるわけではない。前段で触れたとおり,i9-9900KはIHSと呼ばれるヒートスプレッダの内部でソルダリングを採用しているが,見た目は従来どおりだ。
「CPU-Z」(Version 1.86.0)でCPUのスペックを調べてみたが,キャッシュの構成や拡張命令セットは事前の情報どおりで,これまた特筆すべき点はない。
最大動作クロックの5.0GHzに達するのは2コアまでに負荷がかかったときで,4コアまでは4.8GHz,それより多くのコアに負荷がかかったときの最大クロックは4.7GHzだ。
というわけでテストのセットアップだが,今回は置き換え対象となる6コア12スレッド対応モデルとして「Core i7-8700K」を用意した。また,競合となるAMDのデスクトップPC向け最上位モデル「Ryzen 7 2700X」も加えたい。「8コア16スレッド対応CPU」の選択肢としてはHEDT向けも存在するが,あちらは対象となるユーザーが異なるため,今回は対象から除いた。
3製品の主なスペックは表1のとおりだ。
i9-9900Kとi7-8700Kのテストには,先に紹介記事を掲載済みのASUSTeK Computer製マザーボード「ROG MAXIMUS XI FORMULA」を用いることにした。USB 3.1 Gen.2コントローラ統合の最新チップセット「Intel Z390」を搭載するゲーマー向けハイエンドモデルである。
写真で見る「ROG MAXIMUS XI FORMULA」。ASUSのゲーマー向けハイエンドZ390マザーボード
マザーボードメーカー各社がZ390マザーボードを発表したタイミングで,4GamerではASUS製のゲーマー向けモデル「ROG MAXIMUS XI FORMULA」を入手できた。8C16T時代に向けた製品の特徴はどこにあるのか,写真とスクリーンショットを中心に,実機を紹介してみよう。
一方,Ryzen 7 2700Xのテストには,同じくASUSTeK Computer製の「X470」チップセット搭載モデル「ROG CROSSHAIR VII HERO」を用意した。
そのほかテスト環境は表2のとおりだ。
メインメモリのアクセス設定は,公称スペックどおりを基本としつつ,i9-9900Kではオーバークロック設定となるDDR4-3200も試すことにした。メモリアクセスタイミングはメモリモジュール側のスペックである14-14-14-34で統一する。
高性能なCPUということを考えると液冷系クーラーを組み合わせる選択肢も考えられるのだが,液冷や簡易液冷だとCPU温度テストで参考になるデータが取れない可能性があるため,あえて空冷にした次第である。
なお,そんな「あえて空冷」ながら,今回i9-9900Kでは,全コアを5.0GHzへオーバークロックする(※自動クロックアップ機能の最大値を全コア5.0GHzにするのではない)設定でもテストしてみることにした。
ただ,全コア5.0GHz化はさすがに冷却以前のところでハードルが高いようだ。今回は,後述するゲームテストのすべてで何の問題もなく完走することをもって「安定動作した」と判断することにしたのだが,マザーボードのUEFI(≒BIOS)からVcoreを0.1V上げてゲームテストが完走したところで満足していたら,PC総合ベンチマーク「PCMark」(Version 1.1.1739)が完走しないという問題に見舞われた。
症状を見ると,「PCMark 10 Extended」開始直後,ビデオ会議のシミュレーションを行うところで,動画を表示できずに“落ちて”いた。動画の表示にはDirect Videoを使っているはずなので,CPUコアそのものよりI/O周りに問題が生じているように思われる。
細かく設定を詰めれば完走してくれそうだが,今回はスケジュールの都合でそこまでは追い込んでいないことをお断りしておきたい。
結果的に「CPUコア電圧を0.1V引き上げる」のはやり過ぎだったようで,今回の設定ではCPU温度が上がりすぎてサーマルスロットリング(Thermal Throttling,熱が原因での動作クロック低下)が頻繁に生じてしまったが,ひとまず本稿では全コア5.0GHzで動作したi9-9900Kを「i9-9900K@5.0GHz」として表記することにした。
もう1つ,テストのセットアップ関連で注意してほしいのは,Ryzen 7 2700Xで「Precision Boost Overdrive」を有効化している点だ。
Precision Boost Overdriveは一種のオーバークロック設定で,マザーボードの電力制限を引き上げるという機能である。有効化するか否か若干悩んだが,Ryzen 7 2700XとX470チップセットの組み合わせにおいてPrecision Boost Overdriveは標準機能なので,有効化すべきと判断した次第である。
ただし,Precision Boost Overdriveの効果を引き上げるためには電力制限の数値をマニュアルでチューニングする必要があるが,それは今回は行っていない。単にPrecision Boost Overdriveを有効化しただけの状態でテストを実施することになる。劇的な効果は見込めないが,多少はスコアが向上するはずである。
テスト方法だが,まず,後述するとしたゲームのほうは基本的に4Gamerのベンチマークレギュレーション22.0準拠となる。
実ゲームテストにおける画面解像度は2560
CPUテストでは恒例,ゲーム用途でのマルチコア性能をチェックするため,「Open Broadcaster Software」(Version 22.0.2,以下 OBS)を用いたゲーム録画のテストも行う。OBSテストの詳細は後述したい。
また,非ゲーム用途での性能を調べるべく,前述したPCMark 10のほかに,以下のテストも行う。これらのテスト方法や設定はそれぞれ考察のところで触れたい。
- CINEBENCH R15(Relase 15.038)
- DxO PhotoLab 1(Version 1.2.1 Build 3131)
- ffmpeg(Nightly Build Version 20181007-0a41a8b)
- 7-Zip(Version 1805)
※注意
CPUのオーバークロック動作は,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,CPUやメモリモジュール,マザーボードなど構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
ゲーム性能で従来製品と競合製品を圧倒するi9-9900K
分かりやすさを重視し,グラフ内ではメモリアクセス設定を「3200」「2933」「2666」,5.0GHzは「5GHz」,Ryzen 7 2700Xは「R7 2700X」とそれぞれ短縮形で表記することをお断りしつつ,まずはゲーム関連テストから結果を見ていこう。
グラフ1は「3DMark」(Version 2.6.6174)のDirectX 11テストである「Fire Strike」の総合スコアをまとめたものだ。1920
一方,描画負荷が高くなる「Fire Strike Extreme」そして「Fire Strike Ultra」では順にスコア差が小さくなっていっており,3840
また,ここにおいて,メモリアクセス設定のDDR4-3200化や全コア5.0GHzのオーバークロックに何か意味があるとは言いがたい。むしろFire Strike“無印”では定格動作のi9-9900Kがトップスコアだったりもする。
基本的にGPUの性能を見るものなので,GPUが「GeForce RTX 2080 Ti」で揃っている今回,スコアの違いは小さい。あえていえばRyzen 7 2700Xが競合と比べてほんのわずかに低めのスコアを示しているので,PCI Express周りの性能はCoffee Lake-S世代およびCoffee Lake世代のほうが若干高いと言えるかもしれない。
同じくFire Strikeから,ソフトウェアベースの物理シミュレーションによってCPU性能を測る「Physics test」の結果がグラフ3である。
定格動作するi9-9900Kのスコアはi7-8700K比で33〜34%程度,Ryzen 7 2700Xに対して約26%,それぞれ高い値だ。i9-9900KのCPUコア数はi7-8700Kと比べて約33%多く,またRyzenに対してはクロックあたりの性能とクロックが高いわけなので,おおむね妥当なスコア差がついていると言えるだろう。
i7-8700Kはの最大クロック4.7GHzは1コアのみに負荷がかかった状態に達するクロックで,6コアすべてに負荷がかかったときは最大4.3GHzとなる。対するi9-9900Kだと全コアに負荷がかかったときの動作クロックは4.7GHzと,ここには400MHzの違いが生じているので,コア数の違いとクロックの違いの合わせ技がこれだけのスコア差を生んだということなのだろう。
実際i9-9900Kでは,ただメモリアクセス設定をDDR4-3200へ引き上げもほとんど効果がない一方,全コア5.0GHz化すると定格動作時に対してスコアは5〜6%程度向上し,i7-8700Kとのスコア差を約41%に広げている。
グラフ4は,CPUとGPUの両方を同時に駆動したときの性能を測る「Combined test」の結果だ。
Fire Strike Ultraだとスコアは横並びで,Fire Strike ExtremeではRyzen 7 2700Xのみがそれ以外に対してスコアを約2割落とす。最も描画負荷の低い“無印”だと,i9-9900Kがi7-8700Kに対して約16%,Ryzen 7 2700Xに対して約71%高いというスコアだ。ZenマイクロアーキテクチャはFire StrikeのCombined testを苦手にする傾向が以前から出ているので,それがここでも出たという理解でいいだろう。
3DMarkのDirectX 12テストである「Time Spy」,その総合スコアをまとめたものがグラフ5となる。ここで定格動作のi9-9900Kはi7-8700Kに対して8〜9%程度,Ryzen 7 2700Xに対して8〜10%高いスコアを示した。
メモリアクセス設定をDDR4-3200にしたi9-9900Kのスコアが明らかに落ちているのは解せなかったりもするが,ひとまず先に進もう。
次にグラフ6はTime SpyのGPUテストである「Graphics test」のスコアを抜きだしたものだが,ここでもメモリアクセス設定をDDR4-3200としたi9-9900Kのスコアは一段低い。
「なぜDDR4-3200設定でGPUテストのスコアが下がるのか」,その理由までは分からないが,少なくとも上の総合スコアでDDR4-3200設定時のスコアが落ち込む原因がこれだとは言えそうである。
Time Spyから「CPU test」のスコアを抜き出したものがグラフ7で,グラフバーの並びは順当ながらも興味深い。定格動作するi9-9900Kのスコアはi7-8700Kと比べて41〜44%%,Ryzen 7 2700Xと比べて29〜42%程度高いからだ。とくにi7-8700Kとのスコア差は明らかにコア数を超えているので,何か決定的な要因があると思うのだが,これだけではなんとも言えない。
また,DDR4-3200メモリアクセスの効果もかなり出ており,こちらも目を惹く。
以上,3DMarkのテストからは,「i9-9900Kはi7-8700Kと比べてコア数比+α分の性能向上を実現している」ことが読み取れる。また,Ryzen 7 2700Xと比べてもおおむね30%性能は高いスコアを示した。
……といったところを踏まえ,実ゲームを用いたベンチマークテスト結果に移ろう。
グラフ8〜10は「Far Cry 5」のスコアをまとめたものだ。ここで平均フレームレートを見てみると,i9-9900Kはi7-8700Kに対して5〜9%程度,Ryzen 7 2700Xに対して23〜41%程度高いスコアを示した。ゲーム性能は基本的にGPU性能が左右するだけに,ここまで圧倒的な大差が生まれるのはむしろ珍しい。i9-9900Kにとって文句なしの結果だろう。
なお,メモリアクセス設定を引き上げた効果はある程度見られるものの,全コア5GHzのフレームレートはあまり振るわない。ここでもサーマルスロットリングの影響が出ている可能性はある。
「Overwatch」のスコアをまとめたものがグラフ11〜13だ。Overwatchは300fpsでキャップがかかっているため,今回のテスト環境ではほぼ完全にこのキャップの影響を受けている。要するに,今回用意した3つのCPUは,GeForce RTX 2080 Tiと組み合わせる限り,どれを選んでもOverwatchのプレイ感に大した違いはないということである。
ただし細かく見ていくと,全コア5.0GHz化を行ったi9-9900Kで,最小フレームレートが有意に落ちていた。これはサーマルスロットリングの影響による可能性が考えられるが,その点については後段で述べたい。
次にグラフ14〜16は「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」(以下,PUBG)の結果である。
i9-9900Kの平均フレームレートはi7-8700Kに対して29〜46%程度,Ryzen 7 2700Xに対して35〜50%程度と,圧倒的に高い。とくに描画負荷が高まるほどスコア差が広がっている。
CPUクロックやコア数といった違いだけでは説明できないほどの伸びなので,直近のアップデートでCoffee Lake-S Refreshに対する最適化が入ったのではないかと想像しているが,ともあれ,DDR4-3200設定の効果はかなりある。ただし全コア5.0GHz動作時のスコアがやや荒れることからすると,サーマルスロットリングが発生している可能性はありそうだ。
いずれにせよ,PUBGのスコアを見ていると,GeForce RTX 2080 TiというGPUはPUBGに対してまだなりの余力があり,CPU性能次第でフレームレートをまだ伸ばせるのではないかという予感がある。
グラフ17〜19は「Fortnite」のスコアをまとめたものだ。i9-9900Kの平均フレームレートはi7-8700K比で6〜14%程度,Ryzen 7 2700X比で5〜23%程度高い。
不思議なのは,メモリアクセス設定をDDR4-3200へ引き上げるとむしろ逆効果になっていることと,CPUをオーバークロックすることの効果がまったくもって認められないことだ。3DMarkでもDDR4-3200設定の結果が落ち込む例はあったので,それと同じことが生じているのかもしれない。また,オーバークロックのほうはサーマルスロットリングの影響という可能性がありそうだ。
続いて「Middle-earth: Shadow of War」(以下,Shadow of War)の結果はグラフ20〜22にまとめている。
ここでも平均フレームレートで比較すると,i9-9900Kはi7-8700Kの100〜104%程度,Ryzen 7 2700Xの104〜122%程度というスコアになっているので,おおむねFortniteと同じ傾向が出ていると言っていいのではなかろうか。
メモリアクセス設定をDDR4-3200に引き上げると,ベンチマークスコアには3〜7%程度の影響が出る一方,5.0GHz化ではむしろスコアが低下しており,サーマルスロットリングの影響らしきものが見てとれる。
「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター」の公式ベンチマーク(以下,FFXIV紅蓮のリベレーター ベンチ)の総合スコアはグラフ23にまとめた。
定格動作するi9-9900Kのスコアはi7-8700K比で5〜10%程度,Ryzen 7 2700X比で17〜27%程度高い。Far Cry 5と同じ傾向が出ている印象だ。
さらにi9-9900Kでメモリアクセス設定をDDR4-3200に引き上げると定格から5〜7%程度上がり,全コア5.0GHz化を行うと9〜10%程度上がるという形なので,ちょっと順当すぎるほどと言えるかもしれない。
解像度2560
グラフ24〜26は,そんなFFXIV紅蓮のリベレーター ベンチの平均および最小フレームレートをまとめたものだが,総合スコアを踏襲したデータが得られていると言ってよさそうだ。
「Project CARS 2」のテスト結果がグラフ27〜29だが,ここでは高解像度条件においてスコアに若干のブレが出ているのを確認できる。というか,2560
一方,1920
以上,i9-9900Kは極めて高いゲーム性能を持つCPUであると言い切ってしまってよさそうだ。ゲームにとってCPU性能の比率はさほど高くはないのはよく知られているわけで,にも関わらず従来製品や競合製品をテスト条件次第で圧倒できるというのは驚くほかない。
ゲーム録画周りでもライバルを若干上回る性能のi9-9900K
続いてはOBSを使ったゲーム録画である。ここでは録画対象タイトルとしてOverwatchを用意した。解像度は1920
テストにあたってのOBS録画設定は下に示したスクリーンショットのとおり。エンコーダとして「x264」を使い,「fast」プリセットに「animation」チューニングを加えたうえで10MbpsのVBRで出力するという,リアルタイムエンコードとしては相当に“重い”,言ってしまえばベンチマーク向けの高負荷設定である。
というわけで,まずは1920
i9-9900KとRyzen 7 2700Xはおおむねスムーズ。ただ,画面左上に表示してある平均フレームレートを見ると,i9-9900Kのほうが滑らかなのを確認できる。8コア16スレッド対応によって,ついに非HEDTなIntel製CPUもRyzen 7並みかそれ以上に滑らかな録画が可能になったわけだ。
一方で気になるのは,i9-9900Kでメモリアクセス設定をDDR4-3200へ引き上げたり,全コアを5.0GHzさせたりしても,状況に変化があるようには見えず,むしろ後者では事態が悪化しているように見えるところだ。これはサーマルスロットリングの影響によるものかもしれない。
次に示すのは2560
非ゲーム用途でもライバルを圧倒するi9-9900K
続いては非ゲーム用途のテスト結果である。まずはPCMarkだが,前述のとおり全コア5.0GHz化した状態では完走しなかったという問題とは別に,ほかのテスト条件でも「Digital Content Creation」と「Gaming」のスコアが取れないという問題が生じたことをまずお伝えせねばならない。Ryzen 7 2700Xでも完走しなかったということから,原因はGeForce RTX 2080 Tiに対応するGeForce Driver,もしくはOctober 2018 Updateを適用したWindows 10にあると見ているが,ともあれ,CPUが原因でPCMark 10が動作しない「のではない」点は押さえておいてほしい。
そういう事情なので,今回はWindowsの通常オペレーションの快適さを見る「Essentials」と,オフィスアプリケーションの快適さを見る「Productivity」のスコアのみ掲載することになるが,グラフ30を見るに,i9-9900Kのスコアは良好と言っていいように思われる。メモリアクセス設定の違いはそれほど大きな影響を及ぼしていない一方で,アプリケーションの起動,終了といった,ストレージ性能も加味されるEssentialsにおいてi7-8700Kに対して約5%,Ryzen 7 2700Xに対して約11%というのは,割と大きなスコアギャップだ。
Productivityだと,i7-8700K比で約7%,Ryzen 7 2700X比で約18%高いスコアを示す。RyzenはPCMark 10をあまり得意としていないので,この違いはさもありなんといったところか。
続いてはffmpegを用いた動画のトランスコードである。ここでは,FFXIV紅蓮のリベレーターで実際にゲームをプレイした,総時間7分25秒,ビットレート437Mbps,Motion JPEG形式,解像度1920×1080ドットの録画データをソースとして用意した。
これを,「libx264」エンコーダによりH.264形式にトランスコードするのに要した時間と,「libx265」エンコーダでH.265/HEVC形式にトランスコードするのに要した時間をそれぞれスコアとして採用する。
ここで注意してほしいのは,今回からffmpegを新しいバージョンに変えていることだ。スコア差を後で比較しやすいよう,これまでCPUのテストでは同じバージョンのffmpegを使ってきたが,1年以上の前のNightly Buildになってしまったので,最新のNightly Buildに差し替えた次第である。
なお,使用したバッチファイルを参考のため以下のとおり掲載しておくが,こちらは従来から変えていない。slowプリセットにanimationチューニングを加え,可能な限り画質の劣化を抑えた変換を行う。
del avc.mp4
del hevc.mp4
powershell -c measure-command {.\ffmpeg -i Diademe.avi -c:v libx264 -preset slow -tune animation -crf 18 -threads 0 avc.mp4} >MPEG4_score.txt
powershell -c measure-command {.\ffmpeg -i Diademe.avi -c:v libx265 -preset slow -crf 20 hevc.mp4} >HEVC_score.txt
結果はグラフ31のとおりで,i9-9900Kはi7-8700Kに対して70〜73%程度,Ryzen 7 2700Xに対して69〜77%程度の所要時間で処理を終えてしまった。これは圧倒的だ。Ryzen 7 2700Xが得意とするH.264でもi9-9900Kが圧倒しているというのは大変印象的である。
なお,5.0GHz動作するi9-9900Kでスコアがむしろ悪化しているのはサーマルスロットリングの影響である。というか,サーマルスロットリングが頻発している状況でこのスコアというのはむしろすごい。
続くグラフ32はマルチスレッド性能がスコアに大きな影響を与える3Dレンダリングベンチマーク,CINEBENCH R15のテスト結果だ。i9-9900Kは,これまで非HEDTプロセッサでCINEBENCH R15最強を誇っていたRyzen 7 2700Xを約16%も引き離し,夢のスコア2000超を果たしている。
DDR-3200設定の効果を確認できることと,全コア5.0GHz化の影響が出ていることもスコアからは読み取れる。CINEBENCH R15は短時間でテストが終わるテストなので,サーマルスロットリングの影響をほとんど受けなかったようだ。
続いてはDxO PhotoLab 1を使ったRAW現像の所要時間確認である。ここでは,ニコン製デジタルカメラ「D810」を用いて撮影した,解像度7360
その結果はグラフ33のとおりだ。これまでRAW現像で良好な成績を収めてきたRyzen 7 2700Xに対してi9-9900Kは約82%の時間で処理を終えてしまった。6コアのi7-8700Kに対しても約68%とかなりの“時短”を実現している。
また,DDR4-3200設定時は定格動作時に対して約20秒短い時間でRAW現像を終えた。有意差と言っていいだろう。
全コア5.0GHz設定でむしろ所要時間が長くなっているのは,サーマルスロットリングの影響と見てまず間違いない。
非ゲームアプリケーションのテスト最後は,マルチスレッドに最適化されたファイルの圧縮/展開ツール,7-Zipだ。
7-Zipの「7-Zip File Manager」にはベンチマークが組み込んであるので,今回は7-Zip File Managerから「ツール」→「ベンチマーク」を開き,いったん[停止]ボタンを押してから「辞書サイズ」を「64MB」に設定。その後,[再開]ボタンをクリックして圧縮&解凍の総合スコアを示す「総合評価」が算出されるまで待ち,さらにテスト回数20回になるまでテストを実行し続けて,20回めの総合評価をスコアとして採用することにした。
グラフ34がその結果である。これまで7-ZipではRyzen 7 2700Xが好成績を収めてきたが,それに対してi9-9900Kは約15%高いスコアを示した。対i7-8700K比だと30%以上も高い。
1ターンのテスト時間が短いため,全コア5.0GHz設定はサーマルスロットリングの影響をあまり受けずに済んでいるようで,68000超という極めて高いスコアを残した。
以上,i9-9900Kは非ゲーム用途のアプリケーションでも非常に高い性能を示すCPUということになるだろう。メモリアクセス設定を引き上げる効果が高いのも目を惹くところで,ここは「どういうメモリモジュールを組み合わせるか」でユーザーは嬉しい悩みを抱えることになりそうだ。
性能なりに消費電力と発熱が増しているi9-9900K
4Gamerではベンチマークレギュレーションレギュレーション20世代以降で,EPS12Vの電流を測り,12を掛けて電力換算する方法も採用している。この方法ならCPU単体のおおよその消費電力が推測できるからだ。
ただ,電気代という現実的な運用コストに関わるシステム全体の消費電力も目安として知りたい読者は多いだろう。そこで,システム全体の最大消費電力も併せて掲載することにしている。
まずは,EPS12Vを使って計測した,CPU単体の消費電力の中央値を見てみることにしよう。グラフ35に示した値は,「CPUでアプリケーションを実行したときの典型的な消費電力」と考えてもらって構わない。
中央値はアプリケーションによる違いが大きいが,定格動作するi9-9900Kのスコアは,おおむねRyzen 7 2700Xと同程度だ。あるいは若干低いと言ってもいいだろう。
ただし,ffmpegとDxO PhotoLab 1の両アプリケーション実行時だけは話が別で,この2条件ではRyzen 7 2700Xと比べても有意に高い中央値となっている。CPUに高い負荷をかける2つのテストでR7 2700Xより有意に高い消費電力を記録するのだから,「性能が高い分だけ消費電力も高い」という見方ももできるはずだ。
なお,全コア5.0GHz動作となるi9-9900Kの中央値はさすがに高く,とくにffmpeg実行時は200Wを超えてきた。中央値で200Wというのは,少なくとも尋常ではない。
続いてEPS12Vの最大値と,無操作時にディスプレイ出力が無効化されないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点(以下,アイドル時)のスコアをまとめたものがグラフ36だ。
定格動作のi9-9900KはDxO PhotoLab 1時に167W,メモリアクセス設定をDDR4-3200とした状態ではffmpeg時に207Wを記録した。Ryzen 7 2700XはDxO PhotoLab 1時に最大155Wなので,「CPUに負荷がかなりかかる状況ではRyzen 7 2700Xを消費電力で超えてくる」という中央値の結果と整合性の取れるスコアになっている。
全コア5.0GHz動作のi9-9900Kはさすがに消費電力が大きく,CINEBENCH R15時には263Wをピークとして,本来ならCPUにそれほど負荷がかからないはずのゲーム実行時でも200W超を記録していたりする。はっきり言って異常なレベルだ。
一方,アイドル時におけるi9-9900K定格動作の消費電力は約5Wと,非常に低い。5.0GHz化すると22Wにまで跳ね上がるが,これはコア電圧を“盛って”いるためである。
また,R7 2700Xのアイドル時の消費電力も高めになってしまったが,これは今回Precision Boost Overdriveを有効化したためである。
ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,各テスト実行時点にそけるシステムの最大消費電力をまとめたものがグラフ37になる。今回はGeForce RTX 2080 Tiという,性能面でも消費電力面でも強烈なグラフィックスカードを組み合わせてあるので,ゲーム実行時の消費電力はグラフィックスカードが主体となったのが分かるだろう。
ただそれでも,ゲーム実行時に全コア5.0GHzにi9-9900Kが頭ひとつ抜けた消費電力を記録し,Far Cry 5実行時に500Wを超えてきた事実は触れておく必要があると感じた。
さて,ここまで全コア5.0GHz動作のi9-9900Kではサーマルスロットリングが発生していると繰り返してきた。その根拠となるCPUのジャンクション温度を記録しているので,それもお伝えしておきたい。
グラフ38は,ffmpeg実行時に「CoreTemp」(Version 1.12.1)を常駐させ,そのログの中でジャンクション温度の最大値を記録したものである。
前述のとおり,今回はすべてのCPUでクーラーにMUGEN 5 Rev.Bを組み合わせてあるので,冷却能力はすべてのCPUでおおよそ同じと思ってもらって構わないが,結果を見ると,i9-9900Kの定格動作時は89℃と,Ryzen 7 2700Xより高いピーク温度を記録した。「全力を出すとRyzen 7 2700Xよりも高い消費電力を記録する」という事実と矛盾のない結果だ。
そして全コア5.0GHz動作のi9-9900Kだが,スコアは堂々の100℃である。これはi9-9900KのTjmax(ジャンクション温度最大値)そのものなので,ここを上限としてサーマルスロットリングが発生していることはほぼ間違いない(※もしスロットリングしていないならもっと上がるはず)。
全コア5.0GHz動作でマトモな性能を期待するには,最低でも大型の簡易液冷クーラーを組み合わせる必要があるだろう。
なりふり構わず「圧倒的な勝利」を掴みにきたi9-9900K
ここまでまとめた情報から,次のようにまとめることができる。
i9-9900Kは文句なしに速く,文句なしに(常用を想定したときの)オーバークロック耐性が高く,文句なしに消費電力が高く,文句なしに発熱も大きく,文句なしに高価なCPUだ。
また,性能面で3〜4割水を開けられることは確かにあるものの,Ryzen 7 2700Xの税込実勢価格はすでに3万円台後半にまで下がっている(※2018年10月19日現在)。8コアCPUとしてのコストパフォーマンスはRyzenに軍配が上がる。
「Intelは,なりふり構わずに非HEDTプロセッサ最強の座を取り返しにきた」。i9-9900Kは,そういうIntelの姿勢を体現する存在とまとめられそうである。
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