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「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い
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印刷2020/03/20 00:00

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「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い

画像集#029のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い
 アクションゲームからRPGへ。新しい主人公・春日一番と仲間たちの物語。シリーズ史上最大の“変化”を敢行した「龍が如く7 光と闇の行方」は累計出荷本数が40万本を突破した(関連記事)。

 龍が如くシリーズの熱心なファンであることを公言する現役プロレスラー・男色ディーノ選手は,週刊連載「男色ディーノのゲイムヒヒョー ゼロ:第566回」にて,「龍が如く7」を次のように評している。

「私的には過去シリーズと比べても今作が最高」
「今作は最高傑作じゃないかしら」


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 今週の「男色ディーノのゲイムヒヒョー ゼロ」で取り上げるのは,「龍が如く7 光と闇の行方」。シリーズのファンとして,今回のさまざまな変化に対して少々構えつつプレイしてみたところ,「過去最高傑作では?」という思いに至った模様。そのあたりを細かく説明していきます。

[2020/01/30 16:10]

 1人でも多くの読者に「龍が如く7」を遊んでほしい――という思いが行間から滲み出ているような記事だった。

 そんな男色ディーノ選手の思いに対し,「すごくホッとした(笑)」と反応した人物がいる。「龍が如く7」のチーフプロデューサーを務めた横山昌義氏だ。


 実はこの2人,東京ゲームショウ2019会期中に4Gamerブースでトークを行っている(関連記事)。その際,男色ディーノ選手の口数が少なかったことから,横山氏は少なからぬ不安を感じていたというわけだ。

 こうした経緯を踏まえて,4Gamerでは横山昌義氏と男色ディーノ選手に再会の場を設け,1か月を経た今だからこそ明かせる“新たな龍”への思いを語ってもらうことにした
 なお,上記の趣旨により,本稿には「龍が如く7」のクリアを前提とした内容が含まれている。ネタバレを避けたい人は注意してほしい。

※対談は2020年2月14日に実施しました。

画像集#037のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い

「龍が如く7 光と闇の行方」公式サイト



ガキの頃,夢中になってた「冒険もの」の王道を渾身の力で


4Gamer:
 「龍が如く7」発売から1か月が経ちました。東京ゲームショウ2019のタイミングでは触れられなかったことも多かったでしょうから,あらためて「龍が如く7」について語っていただければと思います。

男色ディーノ選手(以下,DD):
 ええ,実際にプレイしたことで,横山さんが話していた内容や意味が分かりましたよ。で,「7」は本当に過去イチの面白さだと思ったの。とくにストーリーは「こんなお話,どうやって書いてるんだろう」って。

横山昌義氏(以下,横山氏):
 ありがとうございます(笑)。今回もオレだけじゃなくて,古田(剛志氏),能登(秀美氏)といった複数のスタッフで手分けして書いているんですどね。
 ただ,今回は新主人公だったので,かなり楽しく書けました。続編なんだけど続編ではない,新作に近い感じですね。

画像集#038のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い

 一言で言ってしまえば,今回のお話はガキの頃,夢中になって読んでた「冒険もの」の王道です。主人公の春日一番がいて,その遠い目標となる人物(荒川真澄)がいて,ナンバのような斜に構えた仲間がいて,しっかりした存在の紗栄子がいて……。当然,主人公はダサかっこよくて,ハン・ジュンギのような完全にかっこいいヤツが脇を固める。オレらが渾身の力で「オトナ版冒険もの」を描いてみたら,「7」の世界になったということです(笑)。

DD:
 主人公や仲間の顔ぶれも,パッと浮かんだものだった?

横山氏:
 「冒険ものにしよう」と決めたときには,同時にキャラクターも浮かびましたね。
 冒険ものの場合,作品世界の中で何が問題だったとか,それをどう解決したかとか,エピソードをきちんと覚えていなかったとしても,読者に体験としての「冒険自体が楽しかった気持ち」が残る。そこがいいんです。

画像集#001のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い

 そしてゲームであれば,「ゲームとしての体験」がいいものだったら,そこに付随するストーリーを含む「作品全体が楽しかった」という印象が生まれる。だから,RPGのシステムで冒険しつつ,「龍が如く」のドラマを描いたら鬼に金棒,めちゃくちゃウケるに違いないと前々から思っていました。
 ……ただ,桐生一馬という男はRPG向きの人物ではないので,これまではチャレンジしてきませんでしたけど。

DD:
 ああ,桐生一馬は初めて登場したときから,完成されたカッコいい極道だったと。

横山氏:
 ええ,“成長”が欠かせないRPGには合わないでしょう。

DD:
 その意味でも,春日一番は対照的なキャラクターだったわけね。新しい舞台の横浜・伊勢佐木異人町も,神室町とはまた違った要素がぎゅっと凝縮されていて,すごく魅力的でした。

横山氏:
 一番たちが冒険する舞台として,「弱肉強食が回っている街」にしたかったので,実際の街を再現することにはこだわっていません。川沿いに「謎の小料理屋」とかがあった時代の,いかがわしい雰囲気を描いています。
 「龍が如く6」とはちょうど真逆の方向性なんですよ。「6」では実際の尾道の街とリンクさせることで面白さが生まれたわけですが,その手法はやりきった感があったので,今回はありそうでなさそうな架空の舞台での面白さを作ろうと。その決断ができたのも,主人公が春日一番に変わったおかげです。

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DD:
 なんでも,かつて横山さんが住んでいた街をモデルにしているとか。

横山氏:
 昔,横浜の日ノ出町に住んでいたんですよ。ゲームで言うと,荒川組長に撃たれた一番が捨てられていたあたり(笑)。当時,住んでいたマンションでは3年で3回も事件が起きて,警察の人が現場写真を撮るために,ウチのベランダを使わせてほしいと訪ねて来たこともあります。「良かった。やっと日本語が通じる人がいた」とか言って(笑)。

荒川組を守るため,若頭・沢城の身代わりとなった春日一番は18年の刑期を終えて出所。しかし,ようやく再会を果たした荒川組長から銃口を向けられ,目が覚めると横浜のゴミ捨て場にいた……
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DD:
 すごいマンションに住んでいたのね……。

警視庁の刑事,伊達 真。「7」では終盤に登場する(スクリーンショットは「龍が如く 極」より)
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横山氏:
 ちょうど「龍が如く」の1作目を作っている頃ですね。そのときに知り合った警察の人が伊達刑事みたいな格好で,シナリオを書くときのモデルになっています。「大手企業に勤めているならさ,一刻も早く引っ越したほうがいいよー」と諭されたりしましたよ(笑)。
 それで,次はゲームだと「横浜星龍会本部」の近くに引っ越したんです。ま,あんまり治安的には変わりませんでしたけどね(笑)。


初めてのRPG作り


DD:
 龍が如くスタジオとしては,初めてのRPG作りだったのよね。すべてがスンナリいくわけがないんじゃないかしら。

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横山氏:
 単純に作業量は増えましたけど,まず突き当たった壁は「敵のバリエーション」ですね。普通のRPGなら,キャラクターの色や質感を変えることで,通常の敵,強い敵といった違いを演出できる。でも,敵が人間の場合,赤いスーツのおじさんに「こいつ,強そう」とは感じないわけです(笑)。
 その壁を一気に解消してくれたのが,「一番の脳内変換で見えている姿」というアイデアでした。ジョブのアイデアなんかは,誰もが思いつくネタですよね。会議でも「RPGだったら,こんなジョブもアリかな。ハハハ」みたいに盛り上がる部分でもあったので。

バトル中,一番は“勇者”のつもりで戦っている。つまり,プレイヤーには一番の頭の中にある“ドラクエの世界”を見ているというわけだ
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DD:
 “脳内変換”にすることで,虚実を際立たせることができたということ?

横山氏:
 むしろ,違和感を払拭することができたんです。RPGだから装備した武器をキャラに持たせたい,ジョブをチェンジしたら姿も変えたい,先に行くほどヤバそうな敵を出したい。……でも,そんな連中がリアルな街を闊歩してたら,さすがにおかしいでしょ(笑)。
 それがバトル中だけは脳内変換した世界だという見せ方を取り入れれば,どんな演出でもアリになる。そういう「はめ込み方」の部分で苦労したゲームだったと思います。

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DD:
 そこで一気に視界が開けた感じになったのね。

横山氏:
 ただ,物語の本筋を書き終えた段階では,脳内変換の設定を第三章でしっかりと説明していたものの,第一章と第二章ではまったくフォローが無く,それなのに攻撃をボコボコ受けてしまう。さらに仲間となるキャラがストーリーの構成上,少ないので,RPGとしても単調だったんです。

 ですから,序盤を何度も作り直して,やっと現在の形になりました。「ジャストガード」のシステムもかなり終盤で加えたものです。いかにして第三章まで飽きずに楽しんでもらうか。それが大きな課題でした。
 たとえば,第一章のイベントでは弟分のミツに「アニキはドM」と突っ込まれます。あれ,開発の終盤で足した会話シーンなんですよ。

DD:
 「プロレスじゃねえんだし,敵のワザ受ける必要ないっしょ?」って言われたわ(笑)。

敵の攻撃を律儀に受ける一番に対して,ミツが突っ込む。勇者のつもりで戦っている一番にとって,一方的に攻撃する戦い方は「勇者っぽくねぇんだよ」
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横山氏:
 第三章まで進んでもらえれば,あとは何とかなるかなと。仲間もシステムも増えて,どんどん面白くなりますから。
 今回は部内だけでなく,別の部署のRPGが好きな人にもテストプレイをしてもらっています。おかげで,どういう場所でプレイヤーが詰まりやすいのかも見えてきた。とくに多かったのが,横浜星龍会などのダンジョンに殴り込むときに,装備を整えずに突っ込んでいくパターンでした。
 だから無理があるのは承知で,星龍会幹部・戸塚に「準備しとけよ」と言わせています。そういう調整や配慮を,開発の終盤になって山ほど加えているんです。

DD:
 詰まるポイントと言えば,真島吾朗や冴島大河といった“伝説の方”たちがメチャクチャ強くて苦労したわね。私的にはアツい展開ではあったけれど。

4Gamer:
 “レベル上げ”をしなくてもそこまでは進められましたが,真島と冴島にはまったく歯が立たなかったですね。

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横山氏:
 あの2人は,オレらが納得のいく強さにしたかったんです(笑)。元々,「蒼天堀バトルアリーナ」はもっと後でオープンする予定の施設でした。でも真島&冴島戦の手前に持ってきて,一番たちの強化に使えるようにしています。
 パーティを強くする手段を用意することで,真島たちの格を保とうとしたんです。

DD:
 蒼天堀って,路上でエンカウントする敵もだいぶ強かったわね。覆面レスラー風の「ザ・チャンピオン」とか……。絶対に近づかないようにしていたもの。

横山氏:
 蒼天堀バトルアリーナを周回すると,ジョブランクもガンガン上がっていくので,キャラクタービルドにもちょうどいいんです。オレはテストプレイで,3〜4日かけて「はぐれホームレス」狩りでレベルを上げていましたけど(笑)。
 全体の尺や物語の流れを知っているので,急いで先に進めたくなかったんですよね。

全30階層で構成される蒼天堀バトルアリーナでは,効率的にキャラクターを強化することができる
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 「7」の進め方は,人によって本当にさまざまでした。ストーリーを進めたくてガンガン突っ込んでいく人もいれば,武器を可能な限り錬成してからじゃないと先に行かない人もいる。武器にこだわり始めると,全然先に進めなくなるので,それはそれでヤバいんですが(笑)。

ひょんなことから製菓会社の社長に就任した一番が,横浜のトップを目指して会社を経営することになるミニゲーム
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DD:
 「会社経営」もそうよね。一時期,ひたすら社長業に没頭しちゃいました。

横山氏:
 ただ,会社経営はテストプレイで詰まりやすいポイントでもあったんです。

DD:
 私的には「これこれ!」って感じだったけれど,戸惑う人も多かったと。

横山氏:
 ええ,経営シミュレーションが好きな人にはどうってことないと思いますが,馴染みの無い人を戸惑わせてしまったのは至らないところでした。チュートリアルで遊び方をうまく説明できなかったことが反省点です。
 ぜひ横浜1位の企業になるまで遊んでもらって,「サテライトレーザーの極み」をブッ放してほしいんですが。これが使えるようになると,強敵との戦いもだいぶ難度が変わりますから。

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思いもよらなかった「一大プロジェクト」


DD:
 今回の「7」もサブの遊びの量がハンパじゃなかったわね。会社経営とか,「ドラゴンカート」とか,「スジモン図鑑」とか。

横山氏:
 そう感じてもらえました? でも実際には,サブ要素の全体的なボリュームを見ると少なめなんですよ。物語の本筋を進めていくと金欠になりがちなので,「お金を稼ぐためにサブ要素を遊ぶ」という具合にうまくサイクルが回るように作れたので,自然と触れる機会も多くなったんだと思います。
 なかでも,「ミリオンゴッド-神々の凱旋-」「アナザーゴッドハーデス-奪われたZEUSver.-」などのパチスロには力を入れて取り組みました。関係各所の皆さんにご協力いただいて,ようやく実現した一大プロジェクトなんです。


(左から)「ミリオンゴッド-神々の凱旋-」「アナザーゴッドハーデス-奪われたZEUSver.-」
(C)UNIVERSAL ENTERTAINMENT
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DD:
 パチスロが一大プロジェクト? それはどういうこと? 

横山氏:
 パチスロの中身って特許の塊なんですよ。一般に公開されてないブラックボックスになっているので,ウチで実機を調べて作るわけにはいかない。
 そこでグループ会社であるサミーネットワークスのサービス,「777TOWN.net」(パチスロ/パチンコゲームを遊べるサイト)に協力してもらい,あちらのアプリをPS4用に移植したうえで,「龍が如く7」の中に丸々取り込み,別のアプリとして起動しています。そのため,アプリに切り替わる際のロードが異常なまでに長いんですけどね(苦笑)。

DD:
 そんな裏事情があったなんて……。でも,そこまでこだわった理由はなんでしょう。私がパチスロをしない人だから分からないだけ?

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横山氏:
 「龍が如く0」のときに思ったんですけど,ネオン街を描くうえでパチンコ/パチスロ屋の照明は欠かせないものです。なんなら主役級の存在感だとさえ思っています。それなのに,お店に入れないのは正しくないだろうと。
 さらにセガゲームスは,遊技機メーカー(サミー)と同じグループです。その関係をご存じのお客さんは,サミーの「パチスロ蒼天の拳」シリーズや「パチスロ獣王」シリーズが遊べないということ自体が不思議だったと思うんですね。

DD:
 ああ,それは思うかもしれない(笑)。

横山氏:
 でもね,普通は無理なんですよ!(笑) 著作権やロイヤリティというものがありますし,PS2の時代と違って,今はパチスロのシミュレーターソフトも出ていませんから容易に移植できるものではありません。
 ただ,今回は「蒼天の拳」の版権管理会社でもあるノース・スターズ・ピクチャーズさんや,セガゲームス会長の里見(セガサミーホールディングスの代表取締役社長でもある里見治紀氏)にも相談して,実現にこぎつけました。お力添えをいただいた方には,本当にお礼の言葉しかないです。

DD:
 私たちが思うより,ずっとハードルの高いプロジェクトだったと。

横山氏:
 「ゴッド」と「ハーデス」に至っては,さらにありえない話なんですよ。この2機種はユニバーサルさんの台ですから。

4Gamer:
 ユニバーサルとサミーは宿命のライバル……。いや,それだけでは済まない間柄なのに……ってことですよね。

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横山氏:
 ええ。それでも「ゴッド」と「ハーデス」を出したくて,ユニバーサルさんに直接お願いすることにしました。正直なところ,ゲームに収録することで筐体がさらに売れたりすることもないでしょう。「ウチにしかメリットが無い話で恐縮ですが,なんとかお願いできませんか」と。

DD:
 最初から腹を見せていったわけね。

横山氏:
 そこは隠したって,しょうがないところでしょう。それでも「龍が如く」シリーズを好きで,応援してくれる方に支えられて,本来あり得ないものを収録することができました。

DD:
 確かに“一大プロジェクト”だわ……。


超ロングランの舞台を続けるような感覚


DD:
 ありえないと言えば,ドラゴンカートもだいぶ思い切っているわよね。

横山氏:
 あれはちゃんと初めから考えていたものです。そのときに世の中で流行ってる遊び,話題になっている遊びを入れるのが,龍が如くシリーズの伝統ですから。

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 ただ,「7」にはオレがパロディネタだと分からないまま,「OK」を出してしまったネタも結構ありました。結果,パロディの比率が多めになってしまったので,次回は時節ネタ以外にも,もっとオリジナリティのあるネタをしっかりと作っていく所存です。

DD:
 急に真面目になったわ(笑)。

横山氏:
 例えば,サブストーリーなどには過去のシリーズ作品からの「引継ぎ」ネタも多いんですよね。それ自体はファンサービスにもなっているので良いのですが,予備知識のない方にはオリジナルとして面白いのかどうかは気になっています。もっと言えば,新ネタをもっと入れて,次のヒットネタを作っていかないと今後が苦しくなるとも思っています。

DD:
 悪ふざけで作っているようで,ちゃんと考えてるのよね。シナリオもかなり踏み込んでいるように思ったけど。

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横山氏:
 そこもかなりちゃんとやってますよ,ウチのチームは(笑)。物語で“グレーゾーン”に切り込んでいく以上,作っている我々自身が高いコンプライアンス意識を持っていなくちゃいけない。描くものが描くものですから,倫理チェックやハラスメントチェックなども,ほかのタイトル以上に気を使わなくてはいけないんですよ。
 しかも,シリーズ作品が海外でも受け入れられるようになっているので,それぞれの国や地域の基準に沿ってチェックしていく必要があります。

4Gamer:
 国内ではセーフの表現でも,海外の国ではアウトになるケースはありますよね。
 
横山氏:
 ええ。そこで,今回はだいぶ丁寧に仕向地ごとシナリオのチェックをしています。例えば,アメリカでは紗栄子の扱いに気を使う傾向があります。「男女の違いで能力差がある」と受け取れる言い回しは避けるべきです。
 それから,小料理屋とかソープランドがどういう場所なのか,具体的に描いていませんし,物事や考え方に対して「どちらが正しい」「正しくない」と決め打ちしていません。ただ,いろいろな立場の人たちがいるという描き方です。

DD:
 そこから何を感じ取るのかはプレイヤー次第ということね。
 個人的には,一番たちの年齢について「大胆だな」と思ったの。なかなか類を見ないパーティができあがって,新鮮に感じたわ。

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横山氏:
 子供の頃に「ドラクエ」を遊んでいて,桐生が活動していた時期は獄中にいて面識がない。先にそうしたバックボーンから作っていった結果,一番はあの年齢になったんです。

DD:
 最初から「おっさんにしよう」と決めたわけじゃないと。

横山氏:
 でも,「おっさんでいく」と決めた以上,“今のリアルな42歳”を描きたいと思いました。ドラマや映画で描かれる「42歳」の登場人物は,今のリアルな42歳とはかけ離れてるでしょう。そうじゃなくて,オレや男色ディーノさんのようなリアルな40代前半を描こうと。
 ナンバの年齢は一番に合わせていて,1つ下の41歳。足立宏一は「もうちょっとで定年なのに懲戒免職を食らう」という設定だったので59歳です(笑)。

DD:
 キャラクターと言えば,今回は俳優の起用が少ないですけど,そのあたりも聞いて構わないかしら。

横山氏:
 多数の俳優陣を起用する手法は,「6」で行き着くとこまで行ったと感じました。「6」は登場人物としての雰囲気や演技,さらに演者の知名度も申し分なかったんですけど,どうしても皆さんの別の代表作がチラつく感じもありました。
 だから,今回は別のアプローチを試みようと。実際,荒川真澄と沢城 丈はオリジナルキャラでもいいと思っていました。ただ,「龍が如く ONLINE」(iOS / Android / PC)とは役回りが違うので,デザイン自体は変えたかった。しかし,いろいろなオリジナルキャラのデザインを作ってはみたんですが,なかなか脚本のイメージと噛み合うデザインができないでいました。
 そんなとき,もともとオレや名越の頭の中で,荒川と沢城のイメージにあった中井貴一さんと堤 真一さんと話ができるという機会があり,出演交渉をした次第です。

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DD:
 そしてナンバ役の安田 顕さん,ハマり役だったわよね。

横山氏:
 安田 顕さんについては唯一,シナリオを書いている段階から当て書きでした。インテリジェンスを感じさせるホームレスを演じてもらったら,絶対に似合うと思ったんですよ(笑)。
 あと,足立も最初から大塚明夫さんの声を決め打ちしていましたね。

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4Gamer:
 足立は声だけでなく,雰囲気も大塚さんに近い感じがしました。

横山氏:
 それは名越も言っていましたよ(笑)。すごいんですよね。収録の終盤になると,「この人,普段から足立さんなんじゃないか」と思ったくらいで。
 とくに好きな演技が,ナンバがパーティから離脱してしまう場面で「まあ,仕方ねえよ」と言うところですね。「こんなにもセリフっぽくなく読めるものなのか」と,音響監督として震えた瞬間でした。

DD:
 一番を演じた中谷一博さんも,すごくよかったわ。堂々たる主役っぷりで。

桐生一馬と共に養護施設で育った兄弟分,錦山 彰。中谷さんが声を演じている(スクリーンショットは「龍が如く 極」より)
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横山氏:
 本当にすばらしかった。最初のうちは収録のたびにちょっとずつ演技が違っていたり,錦山の影が見え隠れしていたりもしたんですけど,頭から順に収録して第七章あたりで,一番としての呼吸みたいなものが完成しましたね。

DD:
 そこから尻上がりに良くなっていったわけね。

横山氏:
 中谷さんとは毎週金曜の夕方5時から8時くらいまで,計30回前後の収録でした。金曜なので会社の飲み会があったりもするんですけど,中谷さんも一緒に参加して開発スタッフと「龍が如く ONLINE」のドンパチ(チーム戦)で遊んでいるんですよ(笑)。
 共に過ごした時間の長さで言えば,中谷さんも開発スタッフの“仲間”ですね。だからこそ,あの演技になったんだと思います。
 しかも,彼はモーションキャプチャーの現場まで見学に来ていたんですよ。

DD:
 えっ,そんなに前のめりで!

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横山氏:
 一番の表情やモーションを担当した三元雅芸さんも本当にすごかった。とくにラストのコインロッカーのシーンは,彼の演技にオレと中谷さんが引っ張られる形でした。三元さんの演技と泣き,あれは予定していた流れとは違っていましたが,それ以上に良かったので活かしたんです。

DD:
 確かに言われてみれば,“泣き”のタイミングがセオリーとは違ったわよね。

横山氏:
 そのキャプチャ収録の回だけ,たまたま中谷さんは見学に来られなかったんですが,試しに三元さんの演技を見ずに演じてもらったんですよ。ほとんどイメージ通りではありましたが,わずかに三元さんの演技のほうが迫力という点で勝っていました。
 終盤なんて涙と鼻水で,何を言っているのか分からないんですよ。中谷さんの演技も全然負けてないんですが,ギリギリでわずかにシーンを成立させるための「配慮」が見えた。だから,今度は三元さんが演じた演技を映像で見せて,それにぶつけるように演じてもらいました。そのテイク2の演技が,実際のシーンに採用されている演技です。

ラストシーン,一番は新宿のコインロッカーに赴き,とある人物と対峙する――
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DD:
 モノづくりにおけるせめぎ合いね……。

横山氏:
 中谷さんは,倉本 聰さんの舞台で鍛えられてきた人だから“役者”なんですよ。モーションのチームも普段は舞台や映画の役者で,中谷さんはそちらの集団にも入っていける。ある意味,2年にわたる超ロングランの舞台を続けている感覚で作ってきました。
 中谷さんはスタッフの一員であり,演者の一員でもある。だからこそ,今回の主人公は彼にしかできない役になったんです。今後は彼も忙しくなって,まったく同じ作り方はできなくなるでしょうけど,それでいいと思います。

4Gamer:
 現場で生まれた感動を作品に込めていくから,胸を打たれるんですね。

横山氏:
 もちろん,映像の設計図にあたる絵コンテは用意していますよ。事前にデザイナーたちと打ち合わせをして,どんな背景や小道具が必要なのか,細かく確認します。でもそれは準備でしかないので,必要があれば崩しても構わないと考えています。絵コンテのとおりに作ることをゴールに定めてしまうと,生きた人間らしい魅力が漂いません。

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 ラストのコインロッカーのシーンでは,事前のコンテチェック段階で名越を含む,さまざまなスタッフからのオーダーがあったんですよ。「このタイミングで真斗にこっちを見てほしい」とか,「一番が泣くのに合わせて涙のエフェクトを作るので,このカットから始めてください」とか。でも,ほとんど現場の判断を優先しました。
 で,後日シーンのチェックした後,「いや,すげえ芝居だったな。全然,コンテと違うけど」って(笑)。まあ,よくある話なんですが,あそこまで大きくコンテを崩したのはそんなにないでしょうね……。いや,かなりあるな(笑)。龍チームって,そういう作り方なんです。

DD:
 いろいろな意味でシビれるエピソードだわ。

横山氏:
 名越は,指示のひとつひとつに必ず理由がある人なので,ノリだけで通してくれるような人ではありませんよ。ただ,理詰めで作ったシーンをあれだけ崩してもOKしたのは,「理屈を超える演者たちの“熱量”がある」という理由だったからだと思います。


狭間の世代はある意味,「強い」


DD:
 ちょっと失礼に聞こえるかもしれないけど,これまでの龍が如くシリーズではストーリーや世界観に対して,龍が如くらしさや面白さを感じていたのよ。それが今回は,ゲイム部分がストレートに楽しくて新鮮だったわ。

横山氏:
 ストーリーや世界観を褒めてくれるのは嬉しいんですけど,映画やドラマと比較されるのはスッキリしない気持ちがあります。「映画みたいだね」と褒めてくれる人に限って偉い方が多いので,その場ではなかなか否定できませんけど(笑)。「映画やドラマを書いてほしい」とか言っていただけるのは一個人としては嬉しいけど,メディアが違うわけです。だからゲーム屋としては,それを褒め言葉だと受け取れない。

DD:
 嬉しい気持ちはあるけれど,複雑な思いも抱いていたと。

横山氏:
 実際,ゲームのほうがバジェットも売上も大きく,それだけのものを生み出しているんです。なのに,対等のメディアや文化だとは思われていないんですね。というか,本来比べる対象ではなく,ゲームと映画や小説は「別物」なんだと思っています。そこを一本の線上に置いて話をされると,複雑な心境になります。
 たまに小説化の話も来ますけど,いまのところ,やる気はないですね。ゲームとして面白い話をひねりなく小説にしても,小説として面白いものにはならないと思います。今回,我々がRPG化することで,よりストーリーを面白く感じさせるという手法をとったように,小説には小説のテクニックや境地があるはずですからね。やっぱりオレらはゲームとして評価されたいし,ストーリーが秀逸と褒められるより,プレイして「面白かった」と最終的に言われたいんです。

画像集#040のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い

DD:
 今回,ゲイムとしてすごく楽しかったからこそ,逆に不安になるところもあって。春日一番のシリーズが,横山さんにしか作れないゲイムになるんじゃないかって。

横山氏:
 いやいや,うーん。ぶっちゃけると,ここ何年も会議だとか金勘定だとかで,ずっと現場に張り付いていられない立場になっています。モーション収録は基本立ち会わず,音声収録も主要キャストの一部しか演出できなかった。
 そんな自分の立場にちょっとムカついて,「7」ではメインストーリーのすべての音声とモーションをディレクションするのが,個人的な目標のひとつだったんですね。プロデューサーの阪本(寛之氏)やディレクター陣が力を振り絞り,オレの負担を軽減してくれたおかげで実現できたことです。本当にありがたかった。

 後進を育てるという意味では,どうなのかという面もあるんですけど,アナログな要素が強い仕事ほど,デジタルな技術継承だけでは伝わらないこともあると思います。ちょっと昔気質のダメな料理人のこだわりみたいで恥ずかしいですけどね。
 ただね,今回またフルでやってみて分かった。オレたちは老けたんですよ。もう。

DD:
 その話,同年代の私もとっても気になるわ。

横山氏:
 今回,龍が如くを桐生一馬の世代から,春日一番の世代までは若返らせることができた。じゃあ,ここから何年続けられるのかという話です。この先,龍が如くをどう続けるのか,どう変えるのかを考えてくれる人が出てきたとき,このシリーズはより大きく成長するんじゃないかと思っています。

画像集#023のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い

DD:
 なるほど。シリーズを任せられる若手の台頭に期待しているということね。

横山氏:
 ただ,時代のせいなのか,若い世代はアナログ的な前提とか段階の踏み方を知らない人が多い気がします。そこは時代のせいなんだなと思います。
 オレたちが子供の頃には携帯電話がなかったじゃないですか。狭間の世代はある意味,強い。ある時代とない時代,両方を覚えている。友達の家に電話するにしたって,自分の身元を伝えて話を通してもらうことを経ている。一方で,LINEみたいな挨拶のいらない会話もできる。

DD:
 「どちらも実際に体験している」ということが,大きなアドバンテージになっていると。

横山氏:
 そうですね。あと,今は物事を頭に溜めない人が多いように感じます。今は検索して調べるのがうまい人が,「頭の回転が早い」と思われたりもする。オレらが子供だった頃のように,知識やデータを脳という内部ストレージに無理やり圧縮保存するというのは非効率的なんですよね。答えに至るまでの近さや速さが求められる時代なんだとは思います。それに比べて,オレらの時代は答えまでが遠かった。
 例えば,オレは中学生のとき,「なぜジーンズは青いんだろう?」と気になったんですよ。図書館に行ったり,ジーンズショップの店長に聞いたりして調べたけど,カウボーイが履いていたこと,昔からインディゴで染めていて青かったこと,そんな話しか出てこない。

DD:
 そこは別に聞いていないと(笑)。

画像集#046のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い
横山氏:
 それからしばらくして,ファッション雑誌を読んでいたら,「最初,ジーンズは赤かった」みたいな話が書いてあったんですよ! カウボーイたちがガラガラヘビに悩まされていて,ヘビが嫌う赤に染めていたんですね。でも,色だけだとヘビにバレてしまった(笑)。そこでヘビが苦手な匂いのインディゴで染めることにしたというわけです。ここにたどり着くまで1年半かかりましたから,この知識はもう忘れようがない。

DD:
 初めて聞いたけど,たぶん私も忘れないと思う。

横山氏:
 でも,今はそれを調べようとすると,Wikiを読んで「へー」で終わりです。その体験だと自分の中に残らないでしょう。
 今の時代に必要なのは,その知識を思い出すための「鍵」を忘れないようにすることなんですね。詳細なエピソードを記憶する必要はないけど,答えにたどり着くための鍵をどれだけ正確にアサインできるかが求められる時代なんだと思います。ただ,それだとストーリーと空想のモノを作るときには厳しいんじゃないかと。オレの場合,自分の中にしっかりと入っているものは,アレンジを加えたりしてアウトプットできるけど,外付けのものはできないんです。

DD:
 そういう思いは私たちの前の世代も,私たちに対してあったんでしょうねえ。

横山氏:
 絶対にそうでしょうね。だから,今のオレが想像もできないクリエイティブのやり方ができる人が必ず出てくるんだと思います。そして老けたオレはバカにされながら,それでも古いやり方で闘うしかないんでしょうね。
 そうやって,いずれは誰かが出てきて,新しいやり方を確立して,龍が如くシリーズをなんとかしてくれるでしょう(笑)。

 「オレたちは老けた」と言いましたが,悪い話ばかりでもなくて,老けたからこそ目指したものもある。それが,シリーズの若返りです。
 今回の「7」は客層がだいぶ変わっていると見ています。当初の目論見ではセールスが前回と同じくらいで,お客さんが入れ替わっていたら大成功だと思っていました。
 というのも,初代「龍が如く」はPS2のゲームです。当時は普通の家庭にDVD再生機としてPS2があって,大人になってからゲームをやらなくなったオレらが,同じような人たちに向けて作ったゲームでした。でも,今のPS4はわざわざ選択した人だけが買うものになってきてるんですよね。

画像集#024のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い

DD:
 世の中でのポジションが全然違ってきたわね。

横山氏:
 たぶん,オレという人間はゲームを作っていなかったら,スマホのゲームしかやってないと思うんですよ。PS4をワイヤレスでネットに接続する方法も分からないし,知りたいとも思わない(笑)。
 そんな人に向けて刺さる話を作っても,ゲーム機と一緒に買ってもらえるかというとハードルが高い。であれば,すでにゲーム機を持っている人にもしっかりと届くようにしないと,シリーズが終わってしまいます。

DD:
 新規層の開拓を重要なミッションとして位置づけていたのね。

横山氏:
 ええ,その意味では大成功だったと思います。
 龍が如くシリーズを遊んでいなかった人には,3つのタイプがあると考えています。まずはイキっているキャラクターやダーティーな世界を受け付けない人。このタイプは何があっても遊んでくれません(笑)。

DD:
 そこは仕方がないと割り切るんだ(笑)。

画像集#045のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い

横山氏:
 こればかりはしょうがないです。
 あとは,たまたまきっかけが無かった人と,アクションゲームだから敬遠していた人ですね。「今度の新作はRPGになる」という話題が賛否両論でも走るようになれば,その人たちには十分届くだろうと思いました。

DD:
 実際,そこがうまくいったと考えているわけね。

横山氏:
 もう明らかに,これまでのシリーズ作品とはダウンロード版の比率が違うんですよ。龍が如くシリーズは圧倒的に板(※パッケージ版)で買われていましたから,客層が変わったと推測できます。

DD:
 ダウンロードに不慣れな年齢層も多いでしょうから,お客さんの世代も変わっているんでしょうね。

横山氏:
 そう思いますよ。そして裏を返せば,シリーズファンの多くの方が「7」を遊んでいないことにもなるわけです。今作は「やめるきっかけ」をたくさん与えてますからね。PS4だわ,主人公は変わるわ,ジャンルも変わるわって。「やめてください」と言ってるようなものです(笑)。でももし,この人たちを再び呼び込めるなら,まだまだ伸びる余地があるんです。


「龍が如く」らしさとは何か


DD:
 確かに私も遊ぶ前は,かなり抵抗感があったのよ。「春日一番って……どうなの?」と思っていました。それだけ,桐生一馬というキャラクターの存在が大きかったことの裏返しでもあるわけだけど。

横山氏:
 「龍が如くには桐生一馬が欠かせない」という人もいます。でも「本当にそうかな?」と思ったんですよ。
 今回,「7」を出したことで,「桐生が登場してこそ」「アクションであってこそ」といった皆さんの考える「龍が如く」をあぶり出すことができました。

DD:
 それはどういうこと?

横山氏:
 変わることがイヤなんです。人間は保守的ですから,「いいもの」「好きなもの」は普遍的であってほしい。牛丼屋が「明日から全品にカレー粉をかけます」となったら嫌がるでしょう。「いや,普通の牛丼食わせてよ」って(笑)。
 でも,飲食でもファッションでも,次のフェイズに移るときはそれを通過するものだと思っていて,わざわざ言うから拒否反応が出るんです。「私にとって,○○とはこういうもの」という理由が出てくるんだけど,本当の気持ちは「変わらないでほしい」なんです。

画像集#044のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い
DD:
 おお,言われてみれば,本業でもいろいろと思い当たるフシはあるわ(笑)。

横山氏:
 ただ,幸いなことに「春日一番がイヤ」という意見はあまり出なかった。その声が大きくなることを最も危惧していました。シリーズのファンにとっては「アクションゲームからRPGに変わる」ことより,主人公が「桐生一馬から春日一番に変わる」ことのほうが大事(おおごと)のはずですよね。

4Gamer:
 確かに「コマンド式RPG風バトルの採用」が発表されると,その話題で持ちきりになった印象です。

横山氏:
 「RPGに変わる」となれば,騒然となって注目は集まります。そこで同時にティザートレイラーを公開して,ストーリーやキャラクターの魅力を伝えました。おかしなもので最大の懸念事項が「RPG」となったことで,ストーリーやキャラクターはむしろ変わらない部分,つまり「いいもの」として見ていただけていたようです。

画像集#028のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い 画像集#025のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い

 もう一つ,変わったこととして,プレイ動画の配信を全面的に解禁しています。RPGになったので,最速クリアを目指すにしても結構時間がかかりますし,要領よく進む人ほど真島と冴島の壁にぶつかるだろうと(笑)。視聴者もそんなプレイヤーを応援するうちに,一番や仲間たち,そして物語を好きになってもらえる。そこには自信があったんです。

DD:
 龍が如くシリーズとしては,なかなかの方針転換よね。

横山氏:
 ここ数年,日本のゲーム市場もだいぶ欧米型に近づいてきたと見ているんですよ。お客さんがゲームを評価して,SNSや動画で魅力を広めてくれるようになった。そうした評価や批評があると,ゲームは長く売れ続けます。
 実際,海外ではいまだに「6」や「0」が売れ続けていますからね。

DD:
 その根底には,自分たちが作ったものへの自信があるわけよね。「この面白さが伝わらないわけがない」という世間への信頼でもある。

横山氏:
 発売前にもディレクターの堀井(亮佑氏)と「これだけ面白いものが売れないなら,会社やめるか」と話してたくらいです。面白いものが売れる,それが一番分かりやすい。
 ただ,「7」の発売後の感触から,日本のゲームを取り巻く環境もこれから良くなっていくだろうと思えました。

画像集#050のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い
 
DD:
 これ以上ないストレートなお話だわ。でも,よくそこまで見通していたわね。いつも思うんだけど,そんな何手先まで読んでいたら,疲れるんじゃいの?

横山氏:
 仕事以外では本当に頭,使わないんですけどね(笑)。二択を決めるのもイヤ。会社への行き方すら考えたくない。オレをよく知る人に言わせると,二重人格なんだそうです。ONとOFFの偏差値が違いすぎると。
 普段はよほど考えるのがイヤなんでしょう。本も全然読まないですし。

DD:
 本を読まないというのは意外。それでよく面白い話を書けるわね。

横山氏:
 そこは書くか,書かないか。で,オレは書くんです。世の中で起こることのほぼすべては,思いつきから生まれていると思っています。よく自分に自信が無い人が「これは単なる思いつき」「フラッシュアイデアだけど」と前置きをしていますけど,違いますよ! 本当は思いついたことが大事で,すべてはそれで動いている。
 だから,思いつく限りのものをどんどん書けばいいと思うし,出てきたものについて考え込まないです。

DD:
 アツい……。徹底してナマの感覚で話を作っていくわけね。

画像集#027のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い
横山氏:
 脚本を書くときの打ち合わせでは,最初に細かく筋立てを考えるんじゃなくて,思い浮かんだ場面を頭から順にしゃべっていくんですよ。「勤めに行ってもらえねぇか……イチ」なんてセリフも交えつつ,それを録音して書き起こしたものを脚本のベースにします。
 実際に文章を書いていくときも,「会話」を思い浮かべながら進めていくので,キャラクターが予定にはなかったことを話し出したりして,話の筋が変わっていくこともありました。

DD:
 頭の中でキャラクターが勝手に動く感覚といったところね。

4Gamer:
 そろそろ,お時間が残り少なくなってきました。男色さん,最後に聞いておきたいことはありますか。

DD:
 もちろん,気になるのは次のゲイムのことよ。この先はどうするの? どのくらいまで考えているのかしら?

画像集#048のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い
横山氏:
 基本的には,皆さんが「7」をどう感じたかに左右されると思います。結局のところ,シリーズの流れはお客さんが作っていくところがあり,続編はそれに従うものですから。
 「7」で仕切り直しにしたことで,素直にナンバリングにしてもいいし,複数の主人公にしてもいいし,スピンオフにしてもいい。
 ただ,個人的には今後も一番を描いていくことになる気がしますよ。これくらいじゃ終わらないですよ,アイツの話は。

4Gamer:
 春日一番は,すべてにおいて「こんなはずじゃなかった」という環境に置かれていて,髪型すらも思いどおりにならない。でも,前を向いて生きていこうとする姿勢がすごく響きました。

画像集#026のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い

横山氏:
 うーん,正直な話,続編を考えると髪型は悩みどころになるかもしれない(笑)。「7」は最後まで突っ走っていく話だから,あの髪型のままでいいんですよ。でも,アイツの地毛はストレートなので,続編もあの髪型だと変ですよね。何か事情がないと……。
 「毎回,髪型が変わる主人公」というのも面白そうですけど,それだとアイコンにならないから商売的にはとても困る(笑)。

DD:
 今後,龍が如くがどう変わっていくのか。ますます楽しみになったわ。

4Gamer:
 龍が如くシリーズのさらなる挑戦に期待しています。本日はありがとうございました。

画像集#049のサムネイル/「龍が如く7 光と闇の行方」横山昌義P×男色ディーノ対談。発売後だから語れる“新たな龍”への思い

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