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クソゲーだから,覚悟のうえで買ってほしい――「moon」移植版配信開始記念,木村祥朗氏&西 健一氏インタビュー
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印刷2019/10/12 00:00

インタビュー

クソゲーだから,覚悟のうえで買ってほしい――「moon」移植版配信開始記念,木村祥朗氏&西 健一氏インタビュー

「赤い愛」と「白い愛」の違いとは

見えない力を信じる場だったラブデリック


4Gamer:
 ここからはラブデリックの設立秘話を伺えればと思います。まずは,代表である松尾さんや鈴木さんについて聞かせてください。

西氏:
 松尾さんはヒッピー世代で,環境問題などへの意識の高い人だったし,鈴木さんはナムコで「マインドシーカー」っていう超能力開発ゲームを作った奇天烈な人だね。

4Gamer:
 どちらも一風変わった経歴ですよね。どこで知り合ったんでしょう?

西氏:
 松尾さんと初めて会ったのは,「家畜人ヤプー」の完結編出版記念パーティーだった。作品の世界をそのまま具現化しているかのような,とにかく滅茶苦茶な形で趣向を凝らしていて(笑)。このパーティーを仕掛けたのが松尾さんだったんだよ。

4Gamer:
 そうだったんですね。

西氏:
 ラブデリックを立ち上げることになって,松尾さんに社長就任をお願いしたら「自分は社長ができる人間じゃない」って鈴木さんを紹介してくれたんだ。初めて会ったときに鈴木さんが言ったのは,「事業に失敗して借金をこさえてしまって,嫁と毎晩交通整理をしてるんだ。2人だから一晩あたり4万8000円になる。いいと思わないかい?」って(笑)。

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4Gamer:
 返答に困りますね(笑)。

西氏:
 でもそれって,誠実だってことでしょ。だからラブデリックの社長をお願いしたんだよ。最初に自分の悪いところをさらけ出してくれる人なんてなかなかいないからね。

4Gamer:
 初対面となるとどうしても見栄を張りがちになってしまいますからね。そうしたところがないというのは誠実だし,器の大きさも感じさせると。

西氏:
 ほかにも社長をやってきた人だから,美味しいお店やお酒を知ってるだろうと思って聞いてみたら,お店は食べ放題,お酒は安酒がいいぞって(笑)。

4Gamer:
 コスパ重視(笑)。

西氏:
 鈴木さんは借金があるから実家で暮らしてたんだけど,ラブデリックの社長として定期収入が入るようになって原宿に引っ越すことになったんだ。
 喜んで引っ越しの手伝いに行ったら,部屋は四畳半,トイレは共同の明治時代かよっていうぐらいのアパートだった。引っ越しが終わったあとに安酒で酒盛りをしてたら「お前達のおかげでここまで復活できたよ」って。いや,それまだ復活しきってないじゃないですか(笑)。

4Gamer:
 飾るところがないというか……。

木村氏:
 僕らに対してかっこつけることもできたはずですけど,それをしないのが鈴木さんだった。ただ一つ鈴木さんからは「君達はゲーム作りのプロだから,僕は何も言わない。プロとしての力量を発揮してくれ」って言われてた。もうつくづく凄い人ですよ。……こういう社長にまた会えれば,僕も社長を辞められるんですけどね(笑)。

西氏:
 「moon」の冒頭に出てくる「MOON」のオープニングテキストも鈴木さんが書いたんだよ。2日間かけて取り組んでくれて。社長のメッセージから始まるゲームなんてなかなかないし,それをあの演出に落とし込むというのもめずらしい(笑)。

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木村氏:
 本気で書いてくれましたよね。しかも太郎ちゃんが,ほとんどそのまんま使って作ったという。

西氏:
 それと当時,「moon」で松尾さんがこだわってたのは「赤い愛」と「白い愛」だね。

4Gamer:
 なんで愛に色があるんですか?

西氏:
 「惚れた腫れた」の愛が赤い愛。石を愛したりするような,モノに籠もる愛情が白い愛。「赤い愛には深みがなくて,白い愛にまで到達すれば本物だ」って。

木村氏:
 あんまり話しませんが,僕は若い頃からいろいろな不思議な体験をしていたんです。その過程で松尾さんの言う「白い愛」とか「赤い愛」ってのを実は理解してたのかも。
 ある意味下地があったから,ラブデリックワールドに自然に入っちゃった……という感じでしたね。

4Gamer:
 なるほど。そう聞くと,ラブデリックとは出会うべくして出会ったという感じを受けますね。

画像集 No.014のサムネイル画像 / クソゲーだから,覚悟のうえで買ってほしい――「moon」移植版配信開始記念,木村祥朗氏&西 健一氏インタビュー

木村氏:
 最初のデスクはPCが置かれた木箱でしたけど,まったく苦にならなかったです。

4Gamer:
 木箱で仕事するというのも凄いですね。せっかく合流してくれたのに。

西氏:
 意地悪してるわけじゃなくて,箱しか用意できないから箱だったの。それでも良かったんだよ。

木村氏:
 社長もキッチンの一角で,マップにコリジョン(衝突判定)をずっと貼っていたくらいですから。

4Gamer:
 西さんが会社を立ち上げたのは,ラブデリックが初めてですよね。

西氏:
 そうだね。スクウェアではただただゲームを作っていたけど,会社を立ち上げたりするのは何もかも初めての経験だったし,何でも吸収していったよ。
 そもそも,ラブデリックは「神宮前」っていう地名から始まったんだ。社長が言うには,神の名がある土地は神に守られてるってことで,最初の事務所も,物件をどこにするかじゃなくて,神宮前で探すところから始まっていた。ラブデリックは,見えない力を信じる場,神宮の神に守られた職場だったんだよ。

木村氏:
 通常の理屈じゃないところで,いろいろ決まっていたんだね(笑)。

西氏:
 みんなで遊んでたし,飲んでたし,仕事もしてた。仕事をしている横で昼間からひどいふざけ方をしたりね。
 事務所も出入り自由だから,いろんなお客さんがいたね。鈴木さんが「マインドシーカー」つながりのエスパー清田さんを連れてきたりもしたし。そうそう,会社に凄いお客さんが来たことがあったんだよ。ドアベルが鳴ったから応対に出たら,唇が凄く伸びたどこかの国の酋長が立っていて。見た瞬間に「あっ,これは松尾さんのお客さんだ」って(笑)。

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4Gamer:
 一目で分かるわけですね(笑)。

西氏:
 熱帯雨林関連のシンポジウムに出席するために来日されていたって話だったね。で,松尾さんが太鼓を叩き始めると,酋長が謎の楽器を鳴らし始めて,それを聴いた祥ちゃんがウクレレで加わる。

4Gamer:
 ほかの皆さんが仕事をしてる最中に,酋長さんとのセッションがスタートするんですね。

西氏:
 あまりに自由すぎで,あの時は逆にイライラしたよ(笑)。そんな中でも工藤はちゃんと仕事していたんで「こいつは俺の同志だ」って思っていたのに,5分くらいしたらフルートを持ってきてセッションに参加して(笑)。

4Gamer:
 個性的すぎますよね。

西氏:
 視野を狭くしたくないから,ゲーム業界に限らず写真家や俳優とか放浪者とかいろんな友達を呼んでいたんだ。だけど,松尾さんにはかなわない。だって酋長が来るんだもん(笑)。

木村氏:
 ほかにも,ゲームを作ってない日はいっぱいありましたよ。開発の後半かな? 発売されたばかりの「スターフォックス」(NINTENDO 64)を一日中やって,遊びが止まらないとか。でもずっと遊んでたわけじゃなくて,集中すると部屋が静かだったけど。

4Gamer:
 鈴木さんについてはいかがですか?

西氏:
 「moon」の後に「L.O.L. 〜LACK OF LOVE〜」を作っていたときの話なんだけど,鈴木さんはゲーム開発ができるわけじゃないから,20:00頃になると飲みに行っちゃうんだよ。ある日,すごく忙しいのに鈴木さんが帰ろうとするから,「みんなが一生懸命働いているのに,どういうことなんだ!」って噛みついたことがあるんだ。

4Gamer:
 ゲーム開発は手伝えないのに……。

西氏:
 そうしたら鈴木さんに「これだけ現場が忙しいのに帰ろうとしたのは悪かった。お前がイライラしないで仕事ができるように座禅を組む」って言われたんだよね。それを聞いたらさすがに俺もクールダウンして,「イライラして絡んですいませんでした。座禅組まなくていいから帰ってください」って(笑)。

4Gamer:
 社長に座禅を組まれたのでは社員としては立場がないですよね。では,木村さんは西さんにどんな思い出がありますか?

木村氏:
 西さんは,夜に突然「クラブに行くぞ!」ってみんなを連れ出すことがよくありました。西さんは,みんなを照らす太陽みたいな感じの人だった。僕とはまったく逆の属性。

西氏:
 俺はイージーゴーイングなのよ。「今日中にこの仕事を仕上げないと……」って言っている連中を,「そんなことを言うのがおかしいんだよ!」ってクラブへ連れて行く。

木村氏:
 今考えると,もの作りをするうえであれは必要だったのかも? とも思います。ガスが溜まってから抜くんじゃなく,そもそもガスを溜めさせない。エブリデイハッピーという感じで,仕事も遊びになる。しかも,そこで西さんには同調圧力がないところが凄いんです。

西氏:
 同調圧力はあったんだけど,みんなが従わないだけ(笑)。思えば個性的な連中ばっかりだったよね。
 祥ちゃんは旅人属性を持つ芝居の人。工藤はボーイスカウト属性のバンドマンで,制約の中で最適解を持ってこられる人間。対して俺はずっとチャラチャラと遊んでて,ヘンな人を集めて,いろいろなものをぶっ込んでいく係。人間の本質や背負ってるカルチャー的には俺と祥ちゃんが一番遠くて,間に工藤が入ると綺麗なグラデーションになってた。みんな個性的だけどバランスがとれていたよね。

木村氏:
 太郎ちゃんのグルーヴ感みたいなものが好きでした。太郎ちゃんと僕がスクウェアにいたとき,夜中に「冒険に行こう!」ってなって,一緒に恵比寿を歩き回ったことがあります。あれも一種のボーイスカウトっぽい何かだったのかもなぁ。

画像集 No.016のサムネイル画像 / クソゲーだから,覚悟のうえで買ってほしい――「moon」移植版配信開始記念,木村祥朗氏&西 健一氏インタビュー

4Gamer:
 なんともフリーダムですね。

西氏:
 余剰エネルギーを抱えた奴らが集まっていたから,自然にああなったんだろうね。何のルールも決められていなかったし,規約みたいなものもなかった。

4Gamer:
 会社組織としてちゃんとしようみたいな部分が,まったくない。

西氏:
 だから,ラブデリックは追い風が吹いている瞬間だけのものだったんだよ。年収も下がったけど,お金や役職にまつわる話も一回もなかったしね。
 「moon」が売れたあとにロイヤリティが入ってきたんだけど,全員に平等に分配したら,スクウェア時代と比べると何分の1だよって額だったんだ。でも,まったく揉めたことはなかったからね。「やりたいことをやってお金もらえるんだ!」って思ってた(笑)。

木村氏:
 お金のためでなく,ゲームを作るため,実力を発揮するため,みんなで面白いものを作るため……その意識だけで集まってましたから。ある種,ゲーム作りのパラダイスだったのかもしれない。
 だけど実は影で代表の鈴木さんや松尾さんが経営的な責任を負っていたんですよね。そういう力に支えられた現場だったと思います。

西氏:
 パラダイスだったけれど,戻りたいかといえばそうではない。みんながもう変化してるからね。
 
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