紹介記事
「ポケモンユナイト」2021年の結論ピを思ふ――闇と炎の忍者メロメロ時代の終焉,中央即亀ハイドロドンッの産声
ゆえにポケモンユナイトでの構築にも,結論のピックがある。
ポケモンのいるところ,それすなわち。
己らの持論をぶつける,決戦場なりや。
ポケモンでMOBAする,チーム戦略バトルゲーム「Pokémon UNITE(ポケモンユナイト)」(Switch /iOS / Android)が2021年7月21日にリリースされてから,はや5か月。
年の瀬を愉快にすべく,これまでの環境を振り返ってみた。
あのころ派手に暴れ回った,そのポケモンやこのポケモン。
さあ,忘れる前に記憶のエナジーをゴール! しにいこう。
なお,本稿ではゲームの基礎的な話にはいっさい触れていかないので,そこから気になる人は下記の紹介記事などを参考にしてほしい。
「ポケモンユナイト」で活躍するために。MOBAプレイヤーが考える基本的な動き方のポイント
ポケモンは,Switch版「Pokémon UNITE」のネットワークテストを,2021年6月26日23:59まで開催中だ。本作はチーム対戦ゲーム,ジャンルとしてはMOBAであるため,基本的な動きを覚えていないと活躍するのが難しい。MOBAプレイヤーが何を考えてプレイしているのか,簡単にまとめてみよう。
「Pokémon UNITE」のネットワークテストが2021年6月26日まで開催中。「ポケモン」シリーズ初となるチーム戦略バトルの手触りは?
ポケモンは2021年6月24〜26日の3日間,Nintendo Switch版「Pokémon UNITE」(ポケモンユナイト)のネットワークテストを開催している。筆者もさっそくネットワークテストに参加したので,そのインプレッションをお届けしよう。
本稿で個人的な結論に至るための前提
10匹も20匹もいれば,強弱を知りたくなるのがポケモンの定め。
そしてMOBA(いわゆるチーム対戦型の戦略ゲーム)というジャンルでは“そのときの強弱調整”がとくに表れやすいが,それらを問題と認識し,解決するまでをもサービスの一環として内包する節がある。
つまり,これから紹介する小話もほぼ大半が時間の流れによって解消されており,言ってしまえばこの記事は,ただの思い出話だ。
はじめに,ピックとは「キャラクター選択」の意である。
そして表題の“結論ピ(ック)”だが,これはポケモンシリーズにおけるファン用語の“結論パ(ーティ)”の同義語として提示している。
その意味合いは「最強のパーティ構築とかコレだろ。はい結論」といったノリで,シーンによってはまったくもって結論じゃない大胆な持論であることも多々だが,まあようするに本稿もそういうものだ。
また前提として,ここでの個人的結論は「野良ランクぼっち,マスター帯で1400戦,S1レート平均値1400」の体感で提起する。ゆえに初心者やフルパ(ーティ)など,おのおのの体験状況に応じて以降の解説には実感と異なる例もあるかと思うが,そこはご理解いただきたい。
それではこれより,闇と炎の忍者メロメロ時代からはじまった,中央即亀ハイドロドンッ,孤独なる岩の疾走者やマジフレ二日天下,それらに抗い続けたダンベル勇者など,ポケユナの半年間の歩みに迫ろう。
闇と炎の忍者メロメロ時代(〜8月4日)
2021年6月のネットワークテストの興奮も覚めやらぬなか,7月21日。エオス島にある決戦場「レモータスタジアム」は正式に開場した。
ポケモンとMOBA。この珍しい組み合わせに,ポケモントレーナーの誰も彼もが新鮮な気持ちを抱き,スタジアムでの心得を学びながら,長年のポケモン愛を語り合い,エールを交わしあっていた。
そうして,スタジアム開場から数日ほど経ったころ。
とある怪異のうわさがささやかれはじめた。
「オぃ,オマぇ。ヘドりめって知ってっカ?(ニチャア)」
エオス島にて,初めて鳴らされた警鐘の名は「ゲンガー」。
彼(※1)は第一世代(※2)のシャドーポケモンで,「ポケモン不思議のダンジョン 救助隊」シリーズでは(にくめない)悪役に抜擢されるなど,ワルぶった立ち位置に定評がある。しかし,ポケユナではスタートダッシュをはりきりすぎたか。彼はこの島の原初の大罪となった。
既知の事柄で言えば,ゴキゲンなトゲキッスくらいの罪だ(※3)。
※1:本稿において対象ポケモンを示す人称は,ゲームシステムにおける雌雄の概念とは関係なく,便宜上の「彼」「彼女」と呼称する
※2:シリーズ作品ごとの登場ポケモンの区分。複数タイトルにまたがって登場するポケモンに関しては便宜上,初出世代で表記する
※3:許さねぇぞエアスラッシュ
ヘドりめはポケモンバトルにおける「おにたた(おにび+たたりめ)」と同様,「ヘドロばくだん+たたりめ」のわざコンボを指す。
ヘドばくで相手をどく状態にし,状態異常中の相手にダメージが増すたたりめをぶち込むことで,相手を瞬間火力で落とす連携である。
しかし,このたたりめ。生まれながらにして怨念が強すぎた。
火力・範囲・使用中の無敵時間に申し分なく,かつ「ヒット時にクールタイム0秒」の付加効果により,ヘドばくに当たれば最後。
ブゥウォン! ブゥウォン! たたりめ音頭が響けば,操作に慣れぬ者は超火力で一瞬にしてK.O。次々とリスポーン送りにされた。
操作に自信がある者は,操るポケモンの特長を生かした回避手段を身につけていったが,それにも相応のリソースを費やすことから,仮にしのいだところで状況はイーブン。反撃も撃退も無理な話ではなかったが,アドバンテージを握るのは一方的に仕掛けられるゲンガー側だった。
当時は今よりカジリガメ&ロトムの駆け引きは洗練されていなかったが,だいたい1蜂後(時間経過で出現するビークイン&ミニハニー。経験値合戦の要)に到達するレベル9進化後は,ゲンガーの独壇場。
どんなに耐久に優れるポケモンであろうと瞬殺されていく。
結果,彼は初期環境においてまたたく間に名をはせ,成長速度に優れる中央エリアでの圧倒的なピック率を記録し――たたりめに弱り目。
エオス島の自然治癒力により,その怨念は浄化された(※)。
※わざ「たたりめ」がナーフ。弱体化調整の意。対義語はバフ
最大の武器を失った彼は,それから今現在に至るまで,高ランク帯では戦略的な意義でピックされることがほぼなくなった。
ヘドりめの連携自体は今も強力だが,強烈とまではいかず。もう片方のわざの利用法の研究や,10月には新たな力を獲得するテコ入れもあったものの,いまいち振るわず。その姿は日に日に見なくなっている。
原初の罪の代償を支払い,晴れ舞台からは退くことになったゲンガー。おつとめから5か月経った今も,あのころのようにレモータスタジアムの大歓声を一身に浴びる機会にはいまだ恵まれていない。
けれども,とくこうという強さを手放すことができた彼はその代価に,彼を長年大好きに思う,トレーナーたちの無償の愛を手に入れた。
エオス島の生態系を大いに揺るがしていた影が消えると,過熱していた対戦環境にもしばしの平穏がもたらされた――わけでもない。
ヘドりめが表舞台でのさばっていたころ,はじめは対策役として担がれ,虎視眈々と活躍の機会を得て,いつしかゲンガーと肩を並べるほどにまでピック率を高めた,華麗なるリベロのインターセプト。
急激に霧散した,仮初めのゲンガー使いたちが乗り換えた先こそ。
「キミ蹴りまーす。あっ,ユナイト吐きました? 避けまーす」
「ポケットモンスター ソード・シールド」生まれの第八世代における御三家。ストライカーポケモン「エースバーン」のキックオフ。
エスバの強みは至ってシンプルだ。「通常攻撃がひたすら痛い」。
火の玉をバシバシ蹴っているだけの通常攻撃の強さは今も健在であるが,当時振るっていた猛威は,まるでA+2(※)。
H振りのカビコンであろうと平等に溶かす火力を有していた。
※HABCDS表記。ポケモン個体値のスラング。H=HP,A=こうげき,B=ぼうぎょ,C=とくこう,D=とくぼう,S=すばやさ。例:「A+1,S+2で確1(えーぷらすいち,えすぷらすにで先行ワンパン撃破)」
結果,沙汰が下ったゲンガーの代わりに注目が集まり,彼が中央エリアに台頭するまでのスピード感は,まさにS+4。そして最前線でのピック率に,トリ(ック)ル(ーム)のごとき逆転現象が起きる。
両チーム。中央エリア。スターティングメンバー。
ガラル地方代表,エースバーン選手。
わざ構成に関しては当時,「ブレイズキック」の確定急所+ヒット硬直+接近力,「フェイント」のまもり+速度上昇がピカイチで,通常攻撃を無理やりねじ込んで溶かしきるヒット&アウェイに長けた。
正面からフェアに立ち会ってしまえば,まさにいっかんの終わり。ユナイトわざを切るでもなければ無条件不利。ならばと,願いを込めた指先でユナイトわざをたたき込もうとすると,フェイントの無敵時間でかわされ,早くなった足でそそくさとどこかに帰っていく。そして頃合いになったら戻ってきて,蹴って蹴って蹴って溶かされ落とされる。
結果,彼は剣盾でリベロリベロしてたくらい結論になった。
エスバはポジションもよかった。ゲンガーの力にはある種の不当さが感じられていたが,彼は「正々堂々,火力で真っ向勝負します!」といったフレッシュな振る舞いにより,「ゲンガーなんて使わないよ! エスバで正義を成すよ!」などと,ピックする者の心境に言い訳を与え,ゆがんだ環境に対する執行者の責務を担わせた。それも当初の話だが。
彼自身,己が見過ごされていただけと知るのはまもなくだ。
8月4日。一足早く憑きものが払われていたゲンガーに続き,エスバの炎もたき木を失った。単純明快な火力低下調整は,急増していたピック率を大幅減にさせ,絶大なるエースの姿をピッチ上から消した。
この要因には,次なるお相手の忍者の影響も大きいが,なにはともあれ。エスバはそれからたび重なる調整を受けて,今では過半数がまっとうに納得できるであろう,よき塩梅の強さに落ち着いている。
レモータスタジアムでのスタメン起用にも異論を持つ者はほぼおらず,今日も今日とて,ボールをゴールにシュートできないならおまえがゴール代わりだとばかりにファンタジスタなプレイで観客を沸かせている。
振り下ろされた神の手は,ヘドりめの出っ張りをたたき潰し,リベロにポジション修正を言い渡し,スタジアム開場後にしばらく定石となっていた,闇と炎のほぼ二択中央ピック文化にエンドロールを促した。
初期環境ではほかにも「カイリキー」や「リザードン」など,ちゃんとした強みを持って中央エリアに選ばれる者はいたが,闇と炎に駆逐されたのち,ようやく復権の兆しか? という8月4日のこと。
彼らもまたマイルドなお叱りを受け,環境との足並みをそろえた。
これによりエオス島では「この子を選ばないと勝てない」といった風潮が途切れ,新たな息吹が,群雄割拠の芽生えを予感させていた。
けれど,終わりあれば,はじまりあり。いっさい名に触れられぬまま,この時期まで忍び,耐えて,みずみずしく咲き誇る者が現れる。
「忍は自由だ。波に乗っても,水を手裏っても」
リアル草葉の陰からカエル忍者でござるでニンニン。人気ランキングでもおなじみすぎる第六世代,しのびポケモン「ゲッコウガ」参上。
ゲコに関してはピック率の裏側に,その入手方法が挙げられる。
彼はプレイ開始後の連続ログインボーナスで仲間にできたことで,サービス初期から遊んでいると“ちょうど8月4日のジャッジメントデイあたりでもらえる状況”にあり,ライセンス所持率が急上昇していた。
前述したエスバも「ログインボーナス8日めに確定入手」だったことで,環境に与える影響が大きくなったのだとも追記しておく。
ゲンガーとエスバが暴れていた当時も,ゲコを使い,彼の能力を遺憾なく発揮していたトレーナーは存在している。実際,弱いと聞いていたのに「あれ,なんかゲッコウガ強くね?」とボコされた経験もある。
が,闇と炎と比べると,エイム不要の対象指定わざ,もしくは範囲指定わざがないことで,当時は「扱うのが難しい」という評価が下されていた。そして,そういった使い心地と強弱とは別の話であった。
ゲコの強みも単純だ。「ひたすら高火力のくせに逃げる」。
遠近通常攻撃にそれぞれ特徴を備え,低HPの相手をほぼ確定K.Oでき(るようなもので),撃破時はクールタイム0秒の恩恵が授けられるわざ「なみのり」により,集団戦で相手陣営を一瞬にして消し飛ばす光景がまま見られた。逃走用のわざ「えんまく」にせよ,尋常じゃない視界制限で追撃されず,今よりも短いクールタイムとあってほぼ一択。
そうして,とくにキャリー(試合の流れを決定づける活躍をする人)が育ちやすい,中央エリアへのピックの選択肢を一時的になくしていたトレーラーたちの眼に,風にたなびく忍のマフラーが映った。
彼の天下は8月中ずっと続いた。右を見ても左を見てもゲコゲコゲコ。ゲッコウガにカーソルが合った時点でほかの人たちも「中央ゲコやね」という共通認識を持ち,ユニークなピックで中央宣言を唱えようものなら「キミさあ……勝つ気ないん?」と醜い感情を湧かせる始末。
途中,えんまくがナーフされ,立場危うしと思われる時期もあったが,代わりに「みずしゅりけん」と「かげぶんしん」がバフされ,気付けばどのわざも高水準。選択の悩ましさまで獲得したものの,以降はより適切な距離で戦いやすい,みずしゅりけん一択の流れが生まれた。
次いで9月22日。基礎のHP&こうげきが下げられ,さすがにここで圧巻であった頭角は鳴りを潜めたが,かげぶんしんの追加攻撃能力,ユナイトわざ「極大水手裏剣」の発動の高速化により,簡単ではないがやれることをやれば最強の立場は維持。12月9日のさらなる微ナーフで影響力は確実に下がったものの,9月から先も中央ピック率No.1の座をおそらく譲ることなく,紙装甲の強火力といった役どころを確立した。
当たりの強いトゲをなくし,使う者の実力次第で下忍も上忍も七変化。今後もその地位は揺るがないであろう忍者が彼でニンニン。
中央ピックに新たな結論が提唱され,スタジアムはそれを受け入れた。見よ。水遁のカエル忍者こそが,ユナイトの新たなセンターだ。
誰もが胸を張り,ゲッコウガとそれ以外の役者たちによる結論ピを推進しはじめていたそのころ。当時のタンク役といえば,こちらも高ピック率を誇る大御所カビゴンの指定席であり,変わる者などいなかった。
そう。闇と炎が終焉を迎えることになった,その日までは。
「ねむれ。ねむれ。私の歌声に。ねむったらシバくわよ」
――彼女は,生まれたときから体が弱かった。
――だから彼女は,いつしか生まれ変わりたいと願った。
――誰をも魅了し,はたきのめす,美と剛のメロメロボディに。
おい,近接型ども。ワンパンでメロメロになるお祈りは済ませたか? ポケモン界のピンクディーバ「プクリン」のショータイムだ。
プクはローンチ時点から実装されていた初期ポケモンの1匹で,ライセンス購入が必要であったが,とにかく体が弱かった。
ABもCDも最弱クラス。うたえば帰れないし,ころがれば帰れない。敵との一期一会に生死をかけていた。そんなひ弱な自分が嫌だったのか。
願い届いて神にこねられたボディは,あまりにも鍛えられていた。
8月4日。バフで新生した彼女はカビゴン並みの耐久力を備え,手出しした相手を問答無用で引きつけるとくせい「メロメロボディ」により,前線だけが活躍の場な筋肉自慢たちのDPS出力を阻害しはじめた。
しょせんはサポート系だろ,などとナメた者はハガネのようなボディを前に手首を痛め,返す刀のビンタで赤く腫れ上がる頬に震えた。
どんなにたたいてもケロッとした愛らしい笑顔のまま,こちらを眠らさんと加速してまで追いかけてくるわざ「うたう」も,まるでギリシア神話に登場する海の怪物セイレーンのように死地にいざなってくることから,彼女を目にした近接型ポケモンたちは恐れ,逃げた。
いかなる屈強な戦士であろうと,「私を殴ってみなさい?」を花言葉とするプクと立ち会ってしまえばヴァルハラ行きは免れないのだ。
ついでに,開戦直後の低レベル帯から相手の真横に非常にずうずうしくぼっ立ちし,野生ポケモンをスティール(盗む)するわざ「はたく」にせよ,序盤の経験値合戦で強引に有利を取られがちなことから,下レーン戦にプクを用意しなかった側には軽くない不利が課せられた。
当時の環境におけるチームの防御面は,守護王カビゴンの安定感,ワタシラガのコットンガード一択王政で支えるのが常識のなか,闇と炎の二枚落ち,シラガのナーフをきっかけとし,なにより殴りサポートタンクとしての才能をプクが開花させたことで,その存在感は急激に増す。
結果,彼女はサポート枠でありながら,「アタッカーにもタンクにもなれる系サポート」としての役割を難なくこなすようになった。
余談だが,固定メンバー5名で組むフルパでは,上レーンに中央役が合流すると同時にスワップ(レーン担当や役割を途中交代すること)して,相手ジャングルに「ころがる」で切り込み,すべての野生ポケモンは自分のものだと言わんばかりに食べ尽くす役目まで請け負っていた。
サポート? ディフェンス? そんなのどちらでも構わないわ。
さあ,歌いましょう。もしも私の歌声で眠ってしまったのなら。
ビンタして差し上げるわ。
とはいえ,恵まれたボディのシンデレラタイムが長続きすぎることはなかった。9月に攻撃面のナーフが適用されたことで,耐久面こそ今でも据え置きだが,強みの一つであった攻めのずうずうしさが欠けた。
それでもなお支持は続く。プクはそもそも操作面の扱いやすさがすばらしく,またどんな構築でピックされても違和感を持たずに受け入れられることから,信頼できるサポートタンクの立ち位置を再確立した。
また「ゴールしたほうが勝つ」のルールにのっとり,最終盤で唯一無二の役割を果たせる彼女は,フルパでは必須に近い存在となった。
彼女は生まれたときから体が弱かった。もっと強くありたいと願い,魔女にかけられた魔法は彼女を強靱なプリンセスへと変身させたが,ゴーンゴーン。24時をすぎると,また弱い自分へと戻ってしまった。
けれど,すべてを失ったわけではない。だから彼女は今日も元気な姿で,歌ってるか転がってるか光ってる。目下の悩みも,星空のリサイタルをはじめると観客がクモの子散らして逃げてしまうことくらいだ。
・7月28日,新ポケモン「サーナイト」参戦
・ピックは多種多様もカビゴンの存在感高し
・ワタシラガ必須のコットンガード一択王政
・カイリキー,クロスチョップ弱体化で減る
・リザードン×ちからのはちまきにピリオド
8月4日(水)アップデート内容
貝は投げられた(8月18日)
闇と炎の時代が幕を閉じ,忍者メロメロ時代に突入していたころの真夏のエオス島。レモータスタジアムに集まる観客の熱気は,舗装されたレーンを照りつける南国の日差しにも負けない温度だった。
そんな猛暑のさなか。カサコソ,カサコソ。なにやら物音が聞こえる。試合時間は,勝敗の風向きを最も左右するとされた最初のカジリガメ戦。下レーンには味方が集まるが,なんだ,誰か1匹,足りない――?
カサコソ,カサコソ。ロトム。ゴール! ゴール! ゴール!
敵に圧倒的な有利を奪われても,暗躍の鐘は鳴りやまない。
大事な大事な集団戦。それを放置するとは一体誰ぞ?
暑さと緊張に巻かれる下のポケモンたちをよそに。
誰もいない上レーンでは涼やかな夏風が吹いた。
「上ルートに向かいます。上ルートに向かいます。上ルートに――」
「なに? イワパレスだって? あいつは勇敢さ。ああそうだ,勇敢なる孤高の勇者さ。戦いがはじまったときに隣にいた仲間が山を下っても,目の前の戦うべき敵がどこかに消え去ろうとも,あいつは実直にボールを稼ぎ,ゴールに投げて,チームを救おうと一直線に走ってるのさ」
「貴様,イワパレスはどこにいる! 彼奴め,そのハサミのように鋭利な爪を使い,あろうことか我らの獲物を横取りしたかと思えば,からを破っては追跡を逃れ,悠々とどこかに消え去ったのだ! ええい許せぬ! 許せぬぞイワパレス! 我らの大切なタブンネをどこへやった!」
「イワパレス君は……そうね。孤独な子よ。攻めていても守っていても,目には見えない岩礁で削り取ることに賭ける。昔は大したわざじゃなかったのよ? でも彼,きっと特訓したのね。努力したのを知られるのが恥ずかしいから,あの子は今でも,たったひとりの道でがんばるの」
「へへっ,おまえイワパレスの仲間か? やめとけやめとけ。あいつにゃうわさがあってな。なんでも,やられてもやられても,やられるたびに強くなって帰ってくるってんだ。しまいにゃ,ユナイトわざを秒間隔で使ってきたらしいじゃねえか? まあ最近は聞かねえホラ話だがよ」
「イワパレスは元気にやっていますか? あの子,カビゴン君やヤドラン君とも,ワタシラガちゃんやプクリンちゃんとも違う,自分勝手なやんちゃでしょう? ですから,ずっと心配していたんです。でも,ええ,そうですか。今も元気に駆け回っているのなら,ふふ。よかったわ」
――民間伝承「ひとりぼっちのロトム、たった一匹の親友」より
・8月17日,新ポケモン「ハピナス」が参戦
・カビゴン&ヤドランのディフェンス力が低下
・ゲッコウガのみずしゅりけんがレギュラー入り
・だっしゅつボタンのクールタイムが60秒→75秒に
・ガブリアスの移動速度がアップ
8月18日(水)アップデート内容
中央即亀ハイドロドンッ(〜9月22日)
学生トレーナーが満足感を,あるいは絶望感を覚えていただろう,夏の終わりの時節。ゲッコウガを中央に据え,プクリンを必須とする布陣が,レモータスタジアムにおける常識として長らく敷かれていた。
ランク環境では敵味方でミラー(対戦相手が同じポケモンを選出)になることも徐々に増え,マスター帯のレート戦では忍者抜きが舐めプと映るほどに,ピックの趨勢も決まってしまっていたころのこと。
やつが,海岸からやってくる。
リザードンがいる。フシギバナがいる。やつが来る。
第一世代が御三家として,ポケモン界の顔役とも言える。
やつが,夏の終わりにやってきて,夏の時代に終わりを告げる。
「オレはどこでだって回る。回れば回るほど,オマエは王者になる」
9月1日。初代「ポケットモンスター」の御三家がひとり。なみのりのアイデンティティを他者にくれてやっても,オレにはハイドロ(※)がある。上陸せよ,エオス島に。こうらポケモン「カメックス」。
※本稿では,ハイポン派もドロポン派もイドンプ派も考慮しない
彼はさすが初代御三家が1匹とあり,若きトレーナーであってもその名を知らぬ者はいない。人によっては幼少期の愛着深き存在であるからにして,新興のスタジアムで活躍できるかどうかなど二の次だ。
好きなポケモンがやってきた。だから使う。それで十分だった。
それで,それだけで,十分だったのだ――。
当時,スタジアムの中央の頂きに立っていたのは間違いなくゲッコウガであり,彼は神の手が干渉しない限り,その座は揺るがないものとされていた。しかしカメは違った。正面から席を争い,奪った。
彼の強みは耐久面の高さだけで,攻撃面はカタログスペック上,乏しいものと思われていた。しかし彼は回った。回って回って,回りに回って,我々が信じていたスタジアムの脆い常識をくるりと反転させた。
わざ「こうそくスピン」。回転攻撃中はCC無効(状態異常を無効),追加入力で通常攻撃・わざを特殊モーションで発動,かつ移動速度も上昇。カメが回って突っ込めば,止める手立てなどなく,相手は削られ,獲物はスティールされ,イニシエート(なにかやること)もエンゲージ(一番槍で仕掛けること)も手軽に両立され,ひたすら硬いまま,ひたすら痛いことを強いられる。そして結論とされていた前線は儚く崩壊した。
極めつけは,戦局を決めかねないユナイトわざ「ハイドロタイフーン」の一撃だ。全周囲に大ダメージ+ノックアップ(打ち上げ効果)により,相手複数体に浴びせれば,集団戦の行く末はほぼ決まる。
わざ入力後の発動時間の遅さを鑑みて,範囲の対象外まで逃げたところで,発動直前にだっしゅつボタンを切られればジ・エンド。ついでにスピンされれば,あら不思議。いつの間にかサンダー前がガラ空きだ。
後衛にまとわりついたらK.Oを覚悟させよ。
ボタンを切られたところで回れば追いつける。
タンクの耐久で猛烈な火力をCC無効で押しつけよ。
カジリガメ戦は伊達を決めるおまえのパーティ会場だ。
さすれば「このスタジアムにカメは2匹もいらねえのさ」。
カメックスはスタンスもよかった。掟破りのディフェンス中央適性をはじめ,2進化ゆえに遅滞時間はあるものの,上下レーンでも守護神の役割を十分にこなせるため,ゲッコウガと立ち位置を譲り合えた。
これにより,カメックス参入以降は「ゲコ・プク・ルカ・カメ」までが普遍的な結論ピとなり,残り一枠でパーティの個性を表した。
とはいえ,集団戦では双方ともにプクのボディで誘い,回るカメ同士が「テメェ,誰の了承で回ってんだ?」と難癖をつけあい敵中突破を図るゆえに,そんな最前線に飛び込まねばならぬ近接型かつ紙装甲のゼラオラ,アブソル,ファイアローなどが生き延びる道はないに等しい。
したがって選出もフシギバナかウッウかアローラキュウコンか。遠距離アタッカーの確度が高く,完全ミラーマッチも珍しくはなかった。
闇と炎と忍者メロメロ時代に幕を下ろした,中央即亀ハイドロドンッ。環境の硬直にマンネリを感じる者がいなかったとは言えないが,それでもカメ,カメ,カメ,カメ。彼は勝利のピースとして必須だった。
けれど,対戦ゲームにそのような存在がいてはならないのだ。
9月22日。神の手が環境に大きな変化を与え,さまざまなポケモンたちに新たな活躍の機会を与えたと同時に,こうそくスピンの仕様に解釈違いを言い渡した。それ単体では「不条理な火力が低下しただけ」で済んだが,続く10月20日。ハイドロタイフーンの威力も下げられた。
カメックスには本来のディフェンスとしての強みがある。弱くはない,むしろ強い。けれど最大の長所であったわざ二つの尖りが抑えられ,後続の新規参戦枠も個性的なディフェンスが続いたことで,直近のスタジアムでは定期的に湧くほうのカメしか見られないこともしばしば。
ちゃんとはいるが,絶対はいない。それに見たところで,今では回らないカメが進化論のメインストリーム。波に乗ることに迎合した。
それでもカメはカメだ。今は冬。ただの冬期。まだ眠りのとき。さあ信じよう。雪が溶け,桜が咲き,夏が来れば,彼はまた回りはじめると。
・9月22日,スマートフォン版が配信開始
・わざの純粋バフにより花舞フシギバナが爆誕
・ゼラオラ,ファイアロー,アブソルのスピード勢が大幅強化
・リザードンのユナイトわざが今のアレに変更
・ガブリアスの防御&特防がアップ
9月22日(水)アップデート内容
マジフレ二日天下(〜10月20日)
秋に差しかかり,ファッションチケットセレブも増えてきた9月29日。新たなディフェンス枠として「マンムー」が仲間入りして,カメックスのピック率を徐々に減少させはじめた。しかし恐れずに言おう。
ポケユナはこのあたりからMOBAとしてのバランスを再定義し,おのおの強みはあるが,理不尽さは控えめ。フェアな均衡線が確立され,多くの人の納得を表すかのように,ピックにも多様性が生まれはじめた。
そうだ。僕らはトレーナーで,彼らはポケモンだ。役割を固定するなんてバカバカしい。バリヤードが上でも,ヤドランが下でも,ハピナスが中央でも構わないじゃないか。それこそがポケモンなんだ。
敵味方の10匹。そのうち何匹かが同じでも,完全なミラーマッチになるケースはほぼなくなり,いろいろなポケモンが,いろいろな活躍を見せはじめた,レモータスタジアムの真に新たな時代の到来。誰もが寛容さを取り戻し,結論ピなど恐れもしない,自由ピック主義の勃興。
しかし,それを気に食わない者がいてもまた自由だ。
彼はそうして,過去最強の解答になるべく現れた。
「僕はただ走ってるだけさ。炎が勝手にやってくれるもの」
10月6日。愛らしいマスコット枠を二分するブイズが1匹。なかでも純白さを誇る,むすびつきポケモン「ニンフィア」が来島した。
同時実装されたホロウェアは,彼の愛らしさを余すことなく引き出しており,スタジアム開場以降,ホロウェアがいっさい提供されていないでおなじみのウッウ(※)が落ち込みそうなくらいに衆目を集めた。
※12月20日。ウッウにも念願の初ホロウェアが与えられた
一方でバランス感覚に優れた性能面は,火力や範囲,移動や回避,耐久や回復をわざ構成で取捨選択でき,愛される見た目だけに甘えず,パーティ構築の足りない部分をキュッと締めるポジショニングが光った。
ただし,来島当初は傲慢なセレブがごとき振る舞いだった。
ニンフィアについてはたった一言。人によっては結論も違うだろうが,彼は“エオス島史上,過去最高の最強ポケモン”であった。
攻撃わざ「マジカルフレイム」も「ハイパーボイス」も,単純明快なアッパー調整。殴り合いも追撃も逃走もこなせるタイマン最強のマジフレ。持続範囲攻撃で嫌がらせに最適なハイボ。どちらを選んでも,初使用で10万ダメージを出すことすら難しくないほどに暴れ回った。
わざ2に関しても「ドレインキッス」と「めいそう」にそれぞれ持ち味があり,これらの選び方で表情もガラッと変わるから手ごわい。
マジフレとハイボの取捨選択は,現行でも意見が分かれるところだろうが,このときはより簡単に扱えて,今よりも火力3割増しなマジフレが優勢であったはずだ。使えば相手は溶けるのだ。
そうして即日量産された「キミがK.Oされたのは生きてた証拠だよ」という暴論すら正論になりかねないイージープレイの数々。超大型ド新人スターの誕生に,会場へと足を運んだトレーナーは泡を吹いた。
ボクって,わざ操作もシンプルで抜群に扱いやすいんだよね。
どの道に行っても愛されるし,序盤も終盤も活躍できちゃうの。
それにタッグで強いんだから,多人数戦で弱いわけないじゃんか?
そう豪語するかのような天下は,あっという間に空が落ちた。
たった一夜で花道を駆け上がり,中央は当然として,上でルカリオに塩を舐めさせる,下で強欲にゴールを破壊する,そもそも強さ抜きの人気さでファーストピック争奪戦に勝てないなど,あらゆる面で過去最高の影響を見せてくれたオールラウンダーは実装から2日後。10月8日。
マジフレとハイボの火力を失い,全知全能の座から落ちた。
あまりに,あまりに早い,天下統一から時代崩落までの2日間。
これは2021年において,最もプレミアムな連日であっただろう。
けれど,本当によかったと思う。彼は自らの悪い結びつきを絶ち,ブイズとしての己を,ポケモンとしての己を,火に目がくらんだトレーナーたちに今一度説くことで,参戦数も増えてきた環境下で選びたくなる理由を再提示した。彼は天を作り,天下に退いたが,今でも絶妙なピック戦略でかわいい顔を見せ,スタジアムを四方八方に駆け回っている。
そうしているだけでファンが増え続けるのだから,参るよ。
ニンフィア一強構築理論が2日でサイクルされ,レモータスタジアムは一時の珍事に沸きながらも,また柔軟なピック体制を持ち直した。
なお,10月20日に参戦した「ヨクバリス」も,イワパレス同様の強襲と撤退,わざ「ゲップ」の火力と追撃,ユナイトわざの効果によるオブジェクト有利で物議を醸し,試合の勝率をも左右する存在であったのはたしかだが,操作難度の高さからくるプレイングへの依存度により,活躍の度合いもほかのポケモンたち以上に左右されていたこと。
また11月10日に総合的なナーフを受け,12月9日にすべてを支えていた「ほしがる」に天誅が下ったのを加味して,今年は経過観察とした。
なによりもう文章がランク戦より長くなったのでカットだカット。
そんなところで,最後の締めくくりとなるポケモンの話に移ろう。
お相手はもちろん,今年を語るうえでは外せない,勇者の彼だ。
・カボチャだらけのハロウィンイベントが開催
・カメックスのピック率が本格的な減少傾向に
・ピカチュウがバフを受けて,環境に本格参戦
・サンダー,カジリガメ,ロトムの効果を調整
・ガブリアスの通常攻撃速度がアップ
10月20日(水)アップデート内容
現代社会の写し絵,ダンベル勇者(〜12月)
約5か月のサービス期間。ポケユナで一番強いポケモンがどの子だったかは,人それぞれで印象が異なっているはず。しかし。
「一番ではないけど,二番目か三番目か,いややっぱ一番強いわ」
と思うポケモンを尋ねられれば,かの勇者の名を挙げるだろう。
そう,彼はここまでの過酷な環境にたったひとりで抗った。苛烈な潮流が続くスタジアムに二足で立ち,あまたの強敵たちに抵抗し続けた。
腕がダメになっても,爪がダメになっても,心がダメになっても。
勝つために,泥臭くても,ダンベルをかついででも戦い抜いた。
そうして勝利を積み重ねていった先で,あいさつをなくした。
「……(ゴール!)。……(ゴール!)。……(ゴール!)」
波導の伝説よ,今ここに。第四世代から先のだいたいのシリーズ作品に引っ張りダコの人気者。はどうポケモン「ルカリオ」降臨。
開放はライセンス購入。ロールはバランス型。近距離・中距離からの近接移動攻撃を主とし,遠距離攻撃は少ない。とくせい「ふくつのこころ」により,低HP時に移動速度上昇&シールド効果が付与される。
殴れば倍返しされるプクリンが台頭し,遠距離アタッカーが幅を利かせがちになった初期環境。最前線がカメックスに支配されていた中期環境。相性が悪いホシガリス(とされるが「ほしがる」の前後を確認していれば十分戦える)や,そのほかのポケモンたちがバフ・ナーフで揺れ動いてきた現在まで,彼だけはスタジアムで毎日,ずっと戦い続けてきた。
っと,前振りが思わせぶりすぎたのでいったんリセットしよう。
彼はこの半年,「テメェだけずっと強ええじゃねぇか!」である。
最初に起こしたボヤ騒ぎは,わざ「グロウパンチ」だ。ためると高威力の突進攻撃。操作の使い勝手もよく,普通に用いているだけでK.Oを量産できる優れわざだが,当初は原作の理を踏襲しすぎた。
ポケモンバトルにおけるグロパンは「当てるとA+1」という性能から,小ダメージの積みわざという認識が強いが,当てると即ねむり状態になるわざ仕様の「あくび」を差し置き,ポケユナでも原作再現をしようとしたのか。グロパンで4割→追撃の(わざ効果で強化された)強化攻撃で3割。相手は秒にも満たないワンセットで7割前後のHPを削られた。
つまり,やり取りの前後も含めて1コンボでほぼ即死だ(※)。
※今も攻めパターンは同じようなものであるが,今以上だった
下レーンを指定席とし,全盛期のプクリンとタッグを組み,相手をオラオラに威圧するヤンキーのような力強さで敵の野生を荒らしていた当時。その横暴っぷりは,ゲンガー&エースバーンと大差なかった。
そうして彼は8月4日。グロパンからの追加攻撃時のこうげき上昇効果を消され,9月22日にはグロパン自体の火力も減らされた。
そうしてパンチがダメになっても,ルカリオはすぐに立ち上がる。
8月から9月にかけて,ルカリオはグロパンに代わり,もう一つのわざである「しんそく」に目を向けられはじめた。
あらかじめ書いておくが,本稿ではわざ2は「ボーンラッシュ」固定である。「インファイト」のほうはまあ,使ってみると強く,状況がかみ合うとすさまじいが,採用時はだいたい十字キーの押し間違いだ。
話を戻して,しんそくは「素早い突進攻撃で,グロパンより低火力だが,複数の敵に何回も当てられる(ようなものだと思ってほしい)」ため,わざ説明文は魅力的であるが,操作時の難しさ,瞬間火力に欠けるなどの認識もあって,これ単体ではいまいち跳ねることはなかった。
しかし,あるダンベルとの出会いが,彼の未来を変えた。
もちもの「もうこうダンベル」。ゴールするごとにこうげき上昇。永続効果。これと彼との相性がめっぽういいことが見いだされる。
そこでポケユナにおける最大上昇量A+6になったとき,相手1体にしか当たらないグロパンの単発威力上昇より,相手複数体に何度も仕掛けられるしんそくのほうが指数関数的に強くなる理論が提唱された。
こうして,固有名詞とも呼べる「ダンベルルカリオ」が誕生する。
ダンベル持ちのルカリオは原則,エリア形状がせまく,中央エリアからの介入がほとんどない(時代だった当時の)上レーンに活躍の場を変え,野生ポケモンを小突いては,少量のボールだけを手に,相手のゴールに突撃して,もちもの効果で体のビルドアップに努めた。
カジリガメ戦前にA+6になれれば,あとはレーンを下るだけ。最初の集団戦をしんそくで暴れきることができれば,敵チームはほぼ壊滅。ゴールもカメも総取りと,試合の流れを大きく作り上げられた。
なに? その間のロトムはどうするかって? あのころのヤツに張りつく必要が本当にあったかどうかは,今一度思い返してみるといい。
であればと,ほかのポケモンたちで筋トレをはじめようとしてもそう簡単ではない。敵地でシュートして,そしらぬ顔で帰還するには「ゴールを邪魔されない妨害わざ,ゴール後に逃げられる移動わざ,捕まっても耐えやすいとくせい」がなければ,相手に経験値を献上するだけのエサになる。その点,ルカリオの適性はあらゆる面でパーフェクトだった。
要するに彼は“上スタートで中央ばりのキャリー権を生み出せる存在”として,しんそくの腕前次第で分かりやすく試合を決められた。
もちろん,筋トレをこなせないとそれだけで存在価値は薄れるが。
ダンベルルカリオの存在は8月後半あたりから急速に増加し,しんそくがデフォルトになりはじめた。一時期,もちもの「するどいツメ」により,全盛期のニンフィアどころではないマッスルさを手に入れることもあるにはあったが,そこはまあなんとかなったので置いておこう。
一方,しんそくはグロパンよりも操作や取り扱いが難しいのはたしかなので,試合ピック率は最上位であろうが,使用者率はそこそこという印象もあった(最近は1周回ってグロパン採用も増加傾向……だったが,12月のさらなるグロパン調整で,また雲行きに変化?)。
それでもカメックス時代までは,上から数えて二番目か一番目の結論ピであったため,ルカリオ同士が上レーンで対面するのはほぼ常識。
いや,10月20日にこうげき,とくせい発動頻度が下方修正され,またそのほかの近接型ポケモンの火力特化ムーブメントもあわさり,総数は減っているだろうが,今でも根強くスタジアムの常識のままである。
だがそのせいで,スタジアムには冷たい風習が定着してしまった。
ダンベルルカリオが双方でピックされた試合開始直後の上レーンでは,両ルカリオがレーンの真ん中を走り,交差するようになった。
ときにはシュッ(わざ「でんこうせっか」)とダメージを与えることもあるが,嫌がらせ以上の意図はなく,基本は双方無視。なぜか?
敵と戦うより,野生を取り合うより,ダンベルしたいからだ。
過去,上レーンでは両陣営の中心地に現れる野生ポケモン「ヘイガニ」を奪い合い,どちらがわずかな経験値有利を得るかが開戦ののろしとされていた。それがどうだ。ルカリオ同士は無視してすれ違い,相方がどうであれ,まずはゴールにダンベルしにいくことが最優先となった。
ルカリオはとくせいに裏打ちされ(てい)た耐久力のおかげで,前めな立ち位置でも安定感を出せた。基本的に相方を選ばず,エースバーン&サーナイトでは不安でも,片方がルカリオなら安心できる,といった心理効果すら生み出していた。そのうえで結局,相方が誰で,どう動かれても,「とりあえず生」とばかりにダンベルで駆けつけ一発しにいく。
フェアプレイの精神で立ち会うはずのポケモン同士が,まるで冷たいビル風が吹く都会の古びたマンションの踊り場で,住人同士ですれ違ってもあいさつすらかわさずに己の生活を優先するかのようなその光景。
ああ,なんと嘆かわしい。ルカリオが独善的にダンベルをしにいく背中は,まるで現代社会の写し絵だ。強さが孤独を生み,孤独が連鎖し,冷たい社会を形成する。熱き戦いを生み出すはずであったレモータスタジアムの上レーンには,冬よりも寒い風が今でも吹きすさんでいる。
しかも,この風習を知らないで混乱してしまった人がダンベルをうまく阻止できなかった場合,相手に絶大な切り札を握られてしまう。
ゆえに,駆け引きのそぶりも見せず,真正面からゴールに走ってくるルカリオを見たら100%ダンベル。即座に断定しよう。
彼の存在により,今では敵がゴールに向かってくる意図に「ダンベルしたいのか」「点を入れたいのか」「野生交換したいのか(自陣と敵陣の野生ポケモンをトレードすること)」が混在して簡単には読めなくなったが,そこを疑うのは「敵のドラパルトはなに型だ?」と考えるくらいムダなこと。読み違っていてもディスアドバンテージにならない。
ただただ,敵の狙いがダンベルだったら何倍もヤバイのだ。
そのうえで「自分たちも相手の野生を取りにいくか」「ゴール上で粘着してスティール返しか」の二択をあらかじめ頭に思い浮かべておき,流れで実行しよう。仕方なしの受け回しは不利あるのみである。
対面構築で有利なら押し返す。「エスバサナvs.ルカゼラ」など明らかに壊滅的な未来が見えたのなら,仲間を混乱させる勢いで開幕後に宣言違いの上ルートを突き進む,といった魂のサイクル戦すら求められる。
とはいえ,ダンベルを逆手にとった迎撃策は,コメパンせっか(コメットパンチ→でんこうせっかのコンボ)される野生にスティールを差せるテンポや距離感,ゴール前後や自陣帰還を阻止できるポケモンやわざ,さらに相方とも連携できるかなど,慣れぬ者には課題も多い。
何度かやっていれば教訓も身につくはずだが,そういった小手先の対処では無理と感じたなら,レーン戦のダンベルホイホイ。上方の守護騎士。ピカチュウさまとアローラキュウコンさまのお力をあおごう。
などといった奇妙な風習を生み出してしまった張本人,ルカリオこそ,まっとうな強さでも,戦術でも,今年のポケユナの象徴と言える。
初期からとにかくサゲサゲな調整をもらい続けても,その時期その時期で「一番ではないけど,二番目か三番目か,いややっぱ一番強いわ」という立場を確固たるものにしてきた彼は,きっと大みそかにも除夜の鐘にならい,ダンベルサウンドを盛大に鳴り響かせているのだろう。
・11月19日,新ポケモン「ジュナイパー」参戦
・ヨクバリスが力を失うも,ここまでは現役組
・ふぶき型アローラキュウコンが主流に返り咲く
・キズぐすりの回復量が上昇,採用率も急上昇
・ガブリアスのゼラオラ特攻が修正
11月10日(水)アップデート内容
強いは推論,好きは結論
あらためて,2021年のポケユナには上記のような時節イベントがいくつかあったものの,今ではカジリガメとロトムの優先度にも変化が生まれ,ベースとなる駆け引きからしてバランスが刷新されている。
最後に挙げたルカリオにせよ,今はダンベルのちょっとした甘えを刈り取る意識が高まり,腐らせることを主目的にしてもいいくらいだ。
そもそもマスター帯ではダンベルのいかんに関わらず,上レーンの開幕は「とりあえず野生交換で事故のない立ち上がり」も一般的である。
それに対し,落ち着いて中央ヘイガニを奪ってからダンベル,相手ジャングルの上ヘイガニを奪って中央のレベル5を阻止,ジャングルでご飯を食べている進化勢を無進化のワイルドさで泣かせるなど,戦術もさまざまに変化している。最序盤のエイパム狩りの所要時間に応じた相互位置から対応を逆算するのも大事,野生交換をイチ早く終わらせたほうが敵の帰宅を狙い撃てると知るのも大切と,思考を停止するヒマがない。
また12月9日のアップデートで,これまで涙を飲みがちな扱いであった「サーナイト」「ガブリアス」が生まれ変わり,スタジアムの調整にせよ「後ろのゴールほど防衛性能アップ」はいいとして,「ゴール時のHP回復効果減少」により,厚顔無恥なごとし低ポイントゴールで継戦力を獲得していた一部のポケモンには,新たな試練が突きつけられた。
加えて12月20日のアップデートでも,存在感が強まっていたフシギバナ,さっそくお叱りを受けたサーナイト,例のゼラオラがナーフされるも,エースバーンとピカチュウに強めのバフが入り,MOBAらしい「環境を見て,細かに下げて上げて」の調整がより活発になってきた。
この動向が本格派すれば,下がって終わりじゃない次の活躍までのステップとして,今後は調整されたポケモンにも期待を持てる。
というか,ピカさまの雷があまりに強大になったため,近々でルカリオをピックするのは勇気がいるだろう。ローディング中に相手チームに見つけたら「下いけ下いけ下いけ!」と思念でずつきし,上で対面したら筋トレを諦めてつつましく生きるか,筋トレを選んで尊厳を支払うか。
いずれにせよバトルアイテム「なんでもなおし」を持たない型の時点で,序盤戦で有利を作るには相方との連携が不可欠となった。
栄光にすがる人へと告げよう。「こっちはルカリオだぞ!」とイキれば無条件でわずかな有利を握れていた時代は,もう終わったのだ。
・12月9日,新ポケモン「アマージョ」参戦
・ゲッコウガ,ルカリオ,ゼラオラ,ヨクバリスにおしおき
・カビゴン,サーナイト,ガブリアス,マンムーが刷新
・レモータスタジアム(氷雪Ver.)が導入
・ゴール関係の調整で新たな環境へ
12月9日(木)アップデート内容
・12月20日,新ポケモン「カイリュー」参戦
・ソラビ型フシギバナに復権の兆し
・ねえゼラオラ君,分かってたよね?
・わたほうし型ワタシラガ,ついに爆誕?
・実力反映型のマッチングバランスに
12月20日(月)アップデート内容
ランク環境もシーズン2に突入してから,爆速マッチングと引き換えにレーティングの均衡がより際立つようになった印象を受ける。
12月20日には,トレーナーの実力をより反映させるマッチングシステムにしたとして,その納得感もさらに顕著になってきた。
マスター帯に関しては,レートが適正に散らばるまではエンタメを感じる瞬間もあるだろうが,早期のエキスパート クラス5などは,今後はより熾烈な登竜門として大いに機能していくんじゃないかと感じている。
ピックの自由度も高まり,結論ピの余白も大きく取られていて,一部ちょっとコレはと思うポケモン,もちもの,組み合わせなどはあるものの,それらは往々にして負けたときの言い訳であることも多々だ。
ここで取り上げなかったポケモンたちにせよ,誰もが活躍の機会を持ち,誰がキャリーしてもおかしくはない土壌が形成されはじめていることで,ポケユナはMOBAとしての信頼性が大きく高まりはじめた。
フルパ戦では野良では見られないコミュニケーション前提の動きが多数生まれており,立ち位置以外の任意の視界を取りづらいルールがゆえに,チームごとに持ち込んだ作戦が際立つところも見栄えがいい。
またピック模様も野良とは方向性が違うため,一見の価値ありだ。
システムに関しても,もちもののグレードに関わらず平等な条件で遊べるバトルモードを開発予定だというし,希望で言えばバン&ピック戦もやってみたいしと,多くのトレーナーは期待に満ちている。
だから現在,ポケユナの対戦環境は極めて良好と言いたい。
この5か月は,生まれたばかりのころならではのお祭りだった。
きっとこれから先,当時のゲンガーのような,エースバーンのような,ゲッコウガのような,プクリンのような,イワパレスのような,カメックスのような,ニンフィアのような,ルカリオのような,触れることすら叶わなかったウッウのようなイベンターは生まれてこない。
……とは言いきらないが,後続に控える新ポケモンたちはいずれも,よき役割で環境を動かしてくれる方向性な気がしている。
11月19日に参戦した「ジュナイパー」も,ADC(アタックダメージキャリー。遠距離継続火力の花形)適性は随一だが,そのぶん回避性能が劣ることで,扱うトレーナーの腕前以前に,それこそMOBAにおける役割としての仲間サポートの献身が試されるポケモンになっている。
12月9日に参戦した「アマージョ」も,ルカリオと対を成すバランス型の近接コンボアタッカーとして,とくせい「じょうおうのいげん」の特殊ゲージの存在もあり,ちょーどいい感じな席に座った。「トリプルアクセル」が調整されていなかったらエントリーも考えていたが。
そして12月20日に参戦した「カイリュー」も……こちらは参戦日が校了時期とあり,無理に詰め込んでは正確性に欠けるため,今現在のスタジアムでの存在感は諸君らの所感に委ねることにした。おそらく人気ポケモンにふさわしい,頼もしい誠実さで愛されていることだろう。
といった状況ゆえに断じて言っておこう。来年の今ごろはきっと,これほど面白おかしく書けるような思い出はほとんどないはずだと。
エオス島の生態系はすでに生まれたての手探りな時期をすぎて,本気で納得して悔しがれる,MOBAにおいて最も大切な環境を成立させた。
今後も大小さまざまなサプライズはあるだろうが,知らない未来に悪い「もしも」を抱くくらいなら,今よりもっと良くなると思っておく。それが日々を心安らかにすごすコツでもある。だからこの企画も今年でおしまいなのだ。風でどこかに飛ばされる,歴史のチラシ紙な扱いでいい。
これから先のポケユナ生活で,「ハア? そんなの私は当時から知ってましたけどお?」アピールの足しにしてくれるだけで十分である。
けれど最後に,これだけは忘れないでいてほしい。
ポケモン選びはこれから先ずっと,誰しも自由だと。
どれが強い,どれが弱いなんてものは,あくまで選ぶ理由の一つ。
強いはどこまでいっても推論であるが,好きはどこまでいってもその人の結論たり得る。好きなポケモンを好きに使う。ポケモントレーナーたるもの,それ以上に必要とされる理由など一つもない。
これからも,ひとりひとりがそれさえ忘れずに,好きなポケモンを選んでいれば,僕らはいつだってレモータスタジアムで笑い合える。
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