バンダイナムコエンターテインメントの看板RPG「テイルズ オブ」シリーズ。そのコンシューマ機向け最新作である
「テイルズ オブ アライズ」(
PS5/
Xbox Series X/
PS4/
Xbox One/
PC)は,「継承と進化」をコンセプトに,新テイストのグラフィックスを取り入れ,新たなバトルシステムなどの導入も行われた挑戦的なタイトルだ。
2021年9月に発売され,シリーズ最速で世界累計出荷本数200万本を突破しているという,セールス的な成功も収めている。発売から半年以上経っているので,プレイした人も多いだろう。
そんな本作では,コーエーテクモゲームスのガストブランドとのコラボレーション企画が展開されており,2022年2月にはキャラクターデザイナーによる座談会が行われた(
関連記事)。「テイルズ オブ アライズ」アートディレクター/キャラクターデザイナーの岩本 稔氏が登壇し,本作におけるキャラクターデザインの苦労が語られたのだが,氏によれば,開発の途中で「
DARK SOULS」のようなデザインになるなど,完成までは長い道のりがあったそうだ。
関連記事
筆者はガストブランドで,
トリダモノ氏や
岸田メル氏にキャラクターデザインの話をうかがったことがあるのだが,この座談会をきっかけに「アライズでもぜひ詳しく聞いてみたい」と思い立ち,今回,改めて岩本氏にインタビューを打診した次第だ。「テイルズ オブ」シリーズ中でも大成功を収めた本作のキャラクターは,どのようにできあがっていったのだろうか。
胸を張って好きだと言える「テイルズ オブ」を作りたい
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。岩本さんは,本作ではアートディレクター/キャラクターデザイナーを務めていますが,まずはこれまでの経歴,「テイルズ オブ」シリーズとの関わりを教えてください。
岩本 稔氏(以下,岩本氏):
ナムコには2003年に入社しています。もともとゲーム業界を目指していまして,ナムコに入る前は格闘ゲームのグラフィックスやキャラクターデザインをやっていたんですが,ナムコには「ソウルキャリバー」シリーズがありますし,「テイルズ オブ」シリーズも好きだったので,門戸を叩きました。入社して最初に携わったタイトルは「テイルズ オブ レジェンディア」ですね。
4Gamer:
もう20年近くシリーズに関わっているんですね。
岩本氏:
そうなります。レジェンディアは,元テイルズスタジオさんが作っていたタイトルとは別に,ナムコレーベルで作っていたんです。そのため毛色はちょっと違いますが,好きなシリーズですから喜んで開発に入って,背景のデザインとモデリングを担当し,ライティング,モーション,エフェクトも勉強させていただきました。
4Gamer:
となると,最初からキャラクターデザインで入っていたわけではなかったんですか。
岩本氏:
はい。ただ,ずっとキャラクターもやりたかったんです。そこで当時,私の指導社員だった奥村大悟さん……「テイルズ オブ エクシリア」とかのキャラデザインをされた方に,ずっとくっついて教わっていました。土日に家に押しかけて絵を描かせていただいたり,昼休みに描いたものを持って行ったり。
そうこうしていたら,奥村さんが私を紹介してくださったそうで,「テイルズ オブ ヴェスペリア」のアートディレクターを任せていただきまして。その時に描いたラピードが,シリーズにおける私が最初にデザインしたキャラクターです。入社から2,3年目ぐらいですね。
ラピード
|
岩本氏:
それと並行して,「テイルズ オブ ザ ワールド レディアントマイソロジー」では,パッケージとキャラクターを描かせていただくことになりました。すごくアピールしていたとはいえ,抜擢(ばってき)していただいたのは本当に幸運でしたね。
その後はシリーズのいろいろなタイトルのバックアップみたいなことをしながら,しばらく「GOD EATER」のチームで背景や武器デザイン,モンスターなどを担当していたんですが,「テイルズ オブ ゼスティリア」でまたお呼びいただいて,アートディレクターとキャラクターデザイン。そこから「テイルズ オブ ベルセリア」,そして「アライズ」へとつながっていくことになります。
4Gamer:
それだけ長い間シリーズに関わってきて,「アライズ」では岩本さん単独のキャラクターデザイン体制になったわけですよね。今回は,これまでとデザインラインからして違うというのは感じましたし,挑戦的なタイトルだったと思うのですが,プレッシャーはありましたか?
岩本氏:
キャラクターデザインをやることになったのは途中からで,最初はアートディレクターのみだったんですけど,そのときはいつも通りでした。普段,映画やゲームに触れたら,自分だったらどうするんだろうなと考えてしまうタイプなので,ネタはすごいたくさんあったんですよ。そこはもう「やってやるぞ!」って感じだったんですけど……。
4Gamer:
キャラクターデザインも任されることになってからは違ったと。
岩本氏:
えらいプレッシャーがありましたね。
4Gamer:
本作では,どういったデザインを目指してキャラクターを決めていったのでしょうか。
岩本氏:
私が目指したのは「テイルズ オブシリーズが好きな人が,今まで以上に胸を張って好きだと言えるもの」です。
ちょっと長い話に脱線するんですけど,まず,「テイルズ オブ」シリーズの新作を作るにあたって,IPとしての方針,次はこういうお客様に向けてこういうことをやりたいというような,大きな目標を最初に決めます。この最初の目標として,「アライズ」の骨子が決まっていく前に研究していた方向性が「シンフォニアが初めて世に出た時のような感動を与えたい」でした。
4Gamer:
と言いますと?
岩本氏:
初めて3Dになった「テイルズ オブ シンフォニア」のように,初めてのPS4世代で表現力が向上した,明るく元気な雰囲気の作品を作ろう,というアイデアが出ていたんです。
4Gamer:
意外ですね。「アライズ」の方向性とだいぶ違っていませんか?
岩本氏:
はい,真逆とも言えるかもしれません。
ただ,「テイルズ オブ」シリーズは,アニメ,漫画的な表現が得意なRPGです。この方向性をずっと続けてきたことで,保守的というイメージ,雰囲気もありました。ですから,中途半端に進化するのではなく,もっと振り切ろうという方向になっていったんです。
4Gamer:
真逆の方向にひっくり返すとなると,けっこうな決断では?
岩本氏:
ええ。それこそ「DARK SOULS」や「ゲーム・オブ・スローンズ」みたいに,ダークで陰鬱な雰囲気,表現を取り入れてみてはどうかという意見も出ました。
それで,最初はそういう要素を取り入れたデザインで考えていたんですけど……。
4Gamer:
ダークで陰鬱とまでいくと,「テイルズ オブ」らしさが消えかねないですよね。
岩本氏:
でも,カラフルでポップな表現のゲームは,大人の方がやや手に取りにくいという意見は分かります。アニメ,漫画的な表現って,人を選ぶものです。それはつまり「好きだと大声で言いにくい」ものでもあります。ですから,本作は先の「テイルズ オブシリーズが好きな人が,胸を張って好きだと言えるもの」にしたいと考えました。
4Gamer:
とは言え,その表現がシリーズの強みなわけじゃないですか。どうやって「好きだと言える」に昇華させようとしたんですか?
岩本氏:
まずは,手が取りにくい,ダークな雰囲気にしてほしいと考えている,弊社のとある1名をターゲットにしてみようと決めました。大人っぽい雰囲気といっても,それがどのぐらい変わるのかはさじ加減だと思うんです。だから,「テイルズ オブ」らしいデザインの主軸は絶対にブレさせさせない。その中で,この人が許容できる範囲のデザインを作り出して,納得させよう。それができたら,これまで「テイルズ オブ」シリーズを手に取ってくださらなかった方にも届くんじゃないか,というわけです。
4Gamer:
なるほど。身近の否定派が納得しないデザインでは,お客さんにも届かないでしょうからね。
岩本氏:
それともう1つ,私の中で「テイルズ オブ ファンタジア」のようなかっこよさを届けたい,というのも目標でした。今でこそ,「テイルズ オブ」シリーズはアニメ,漫画表現が強みのRPGとして認知されるようになりましたが,「ファンタジア」は違う路線だったと思うんです。
当時は「ファイナルファンタジーVI」が出た後で,その影響か「スーパーファミコンのかっこいいRPG」という印象が強くて。背景もキャラもかっこいい。
4Gamer:
「ファンタジア」はスーパーファミコンのオーパーツでしたね。しゃべるRPGなんて,ほかには「スターオーシャン」ぐらいだった気が。
岩本氏:
あの当時の感動を,「アライズ」で出したいと思いましたね。
キャラクターと世界観,ゲーム案件を同時進行で制作
4Gamer:
「テイルズ オブ」シリーズの作り方って,キャラクターが先なんですか? 世界観が先なんですか?
岩本氏:
人によりますが,同時です。
4Gamer:
フリーのイラストレーターさんにデザインを依頼する場合,先に発注書があって,世界観なりキャラの人物像なり,こんな感じのをお願いしますみたいなオーダーがあるわけじゃないですか。岩本さんの場合,社内のデザイナーなので,どんな流れでデザインされているのかなと。
岩本氏:
なるほど。それで言うと,キャラクターと世界観,ゲーム案件が同時進行というのが正確ですね。
自分の場合,「ヴェスペリア」のアートディレクションをやらせていただいたときもそうでしたが,最初は全然違うキャラクターモデルを作って,動かして遊びの検証をするところから始めます。
4Gamer:
とりあえず動かすところからなんですね。
岩本氏:
そうしないと,先にキャラクターが決まっても開発が進むにつれてひっくり返ったり,ビジュアル的に映えなかったりと,後で問題が出てきてしまうんです。ですから,シナリオだけ進んでいたりするとちょっと不安になりますね。
ちなみに,検証時のキャラクターモデルは,最終的なデザイナーとは別の方がデザインすることもあります。「ヴェスペリア」のときも,キャラ性はユーリと似ていますが,まったく違った見た目のキャラが動いていました。これはこれでとっても素敵だったりします。ただ,シナリオや世界観が固まってきた段階で藤島先生にデザインをお願いしますから,このキャラクターは跡形もなく消えます。
4Gamer:
動いているのに消しちゃうんですか?
岩本氏:
はい。藤島先生には,先生の作家性を優先していただきたいですから。
4Gamer:
となると,発注時にあまり細かい指定はしていないのでしょうか。
岩本氏:
キャラパーソナリティやゲームでどうしてもやりたいことだけお伝えする感じです。いちおう,アートディレクターやキャラクターデザイナーが描いた,最初の原案となるラフはあります。武器は何にするか,並べたときの身長はどうなるかなどを確認するためのものです。ただ,このイメージに引っ張られるのもよくないので,藤島先生にはお見せしていません。
場合によりますが,いのたま先生にはお見せしたこともあります。開発で考えているのはこんな感じなので,お願いしますと。
4Gamer:
どこまで出すかは,描き手によるんですね。
岩本氏:
そうなんですけど,いずれにしてもこちらの発想を超えたキャラクターが出てくるのが,お二人のすごいところで……。
4Gamer:
「アライズ」ではどういった進行だったんですか?
岩本氏:
自分は「ゼスティリア」や「ベルセリア」のときと同じように,最初はシナリオや戦闘案件を聞きながら,会議の横で絵を描いて「こんなイメージですかね」と議事録を共有する感じでした。今回はレジスタンスの物語にしたいとか,戦闘中のロールを明確にしたいとか,そういう話をどんどん視覚化していくんです。
その絵がこちらになるんですけど,これを描いていたときはまだキャラクターデザインではないので,アートディレクターとしてのアウトプットになります。
4Gamer:
これ7人いますね。中央にいるのはジルファですか?
岩本氏:
そうです。企画当初は,仲間にならないこともないぐらいの立ち位置だったので。
誰のデザインから話しましょうか。とりあえず,アルフェンは難産で,語ることが多いので最後にしましょう。
4Gamer:
では,ヒロインのシオンはいかがでしょう。このラフの時点ですと,どちら様ですかという感じですけど。
岩本氏:
シオンはもっと強い設定だったんですよ。領将(スルド)候補の戦うお姫様みたいなイメージだったので,勇ましくデザインしていました。
ここからどのぐらい勇ましくするか,レナの文明としてどのぐらいの銃を持たせるかみたいなところを調整しつつ,ドレスやレースを取り入れてレナ人らしい貴族っぽさを出し,今の形になっていきました。
岩本氏:
シオンはツンツンしていて仲間と距離を置きますが,この設定は最初からあったので,性格的なとこを見た目で表現しようと思い,アシンメトリーなデザインやトゲトゲを取り入れています。「荊の呪い」の設定はデザイン時点でなかったんですけど,荊っぽい鎧にしたんです。そうしたら,「荊の呪い」って明確な名前の設定ができてしまって「裏テーマだったのにストレートになってしまった!」って(笑)。
4Gamer:
デザインに見事に反映しすぎて,設定になってしまったんですね(笑)。
岩本氏:
結果的に,中世ヨーロッパ風ながら,異質なデザインになったのではないかなと。
「アライズ」のキャラクターは,それぞれ動物をモチーフにしているんですが,シオンはうさぎです。実は寂しがり屋で,そのまま1人だと死んじゃうぐらいの内面なんですが,それを隠すために刺々しい外見になっています。
4Gamer:
シオン,作画カロリーの高さ半端ないですよね。
岩本氏:
そうなんですよね。ハードの性能もあって表現力が向上したので,質感や情報量を思う存分詰め込もうとデザインしたんですけど,アニメ制作のufotableさんには「これは動かすの大変!」と言われて,それはそうですね……と反省しました。
プロモーション担当 石川結貴氏(以下,石川氏):
グッズを出す部署も泣いていますよ(笑)。
岩本氏:
ゲームの後半で出てくる巫女の衣装は,そのぶんシンプルにしました(笑)。
岩本氏:
続いてロウは,最初は父のジルファと「犬猿の仲」ということで,お猿さんをイメージしていました。
プロットの段階では,ジルファは家族を守るためにレジスタンス活動をやっているキャラクターだったんです。しかし,奥さんが病気で亡くなったときに立ち会えず,ロウは「自分達のことを見ていない」と家を出てしまいます。ですから,反抗期の不良をイメージしてデザインしたんですよね。
4Gamer:
初期は凛々しいデザインだったんですね。今よりも中華風ですし。
岩本氏:
これはこれで好きだったんですけど,可愛げがないんですよね。改心した後にひっくり返しがあったほうが魅力的だと思うんです。
そこでモチーフを変えて,しつけができていないワンちゃんにしました。キャンキャン吠えてばかりだけど,最終的には忠犬のようにアルフェンを支えてくれる相棒に成長する様子を描きたいなって。
4Gamer:
仲間になってからのロウは,とにかくいいやつですよね。アルフェンが戦意喪失したときの仲間との会話も,ロウぐらいストレートだとグっと来ました。
犬といえば,肩になんか付いていますよね。
岩本氏:
あれはシナリオ的に買ってきたってことになっちゃって,「そんな安いの!?」ってなりました(笑)。
中学生の男の子って,シルバーアクセサリーやチェーンを付けたり,メッシュを入れたり,ベルトにこだわったりというイメージがあったので,そうした要素も入れています。履いているのもボンタンのイメージです。
ちなみに,ロウの父であるジルファは,狼がモチーフとなっています。
4Gamer:
ロウは,シルエット段階から格闘キャラなのは一緒ですけど,リンウェルは武器からして違うんですね。
岩本氏:
そうですね。彼女は一番最初は銃を持っていたんですけど,シオンと被るのでやめています。
アルフェンと同様,奴隷としてズタボロの服でスタートするのを想定していたんですが,開発チーム内で「いくらなんでも……」と意見が出て,肉付けするところからデザインを始めました。
4Gamer:
リンウェルの衣装は,「アライズ」のキャラクターにしては割と従来のシリーズっぽい雰囲気がある気がします。
岩本氏:
アルフェンとシオンのインパクトが強いので,いつもの「テイルズ オブ」だと安心できるようなデザインを目指しました。三角帽に見えるようなでかいフードとか,キャラクターっぽい誇張をあえて取り入れています。
服は魔法書がモチーフです。放浪している人って,金品を手放さないよう身に着けているイメージがあったので,魔法使いである彼女は,研究成果を服に縫い込んだりしているんじゃないかなと。短冊状の部分に文字が書かれていて,研究成果が残っているみたいな感じです。
リンウェル自身は,モルフォ蝶をイメージしてデザインしています。
皆で開発していると,デザイン時の想定を超えて変化する
岩本氏:
キサラは,ロールがタンクなのは決まっていたので,じゃあ盾を持ったキャラにしようというところから始めました。普通ならマッチョなごついキャラになると思うんですけど,あえて女性にするのが面白いかなと。
4Gamer:
最初のシルエットの時点で後ろを向いているあたり,キサラの背中を見せた特徴的な鎧のデザインは決まっていたんですか?
岩本氏:
そうですね。ごつい鎧なんだけど,裏面は防御力を低くしようと考えていました。
ただ,私としてはもっとがっしりした,ストレートな女性リーダーという感じのキャラクターを想定していたんです。これまでの「テイルズ オブ」シリーズにはあまり多くない感じの,マッシブな女性キャラと言いますか。
岩本氏:
でも,開発に見せたときに反応が悪かったんですよね。なので,もう少し「テイルズ オブ」シリーズのキャラクターらしい方向に寄せようと。でも後ろ姿が美しいキャラクターというのは変えない。しっかりしているように見えて,か弱い部分もあるという内面を,前は盾でガードしているけど背中は……という鎧で表現することにしました。
4Gamer:
キサラの後ろ姿は最高ですよ。私は操作キャラクターをずっとキサラにしていました(笑)。
岩本氏:
本当ですか? 美しい体にしたいと思ってデザインしたので,それは嬉しいです。
4Gamer:
キサラは3Dモデルも美人ですし,あの鎧は後ろから眺めていたくなります。
岩本氏:
アルフェンが割と実用的な武器や鎧のデザインなので,キサラは逆に誇張して,大きな盾や女性的なラインの鎧にしています。鎧はレナのものですが,自分用にダナの素材を使ってカスタマイズしたものを使っているイメージです。なので,ほかのレナの鎧と違って,ダナ由来の革のベルトなんかをあしらっています。
4Gamer:
カスタマイズしてあの鎧になっているんですね(笑)。
登場時から「その背中で近衛兵は無理でしょ」って思いましたけど,すぐに「これは敵に背中を見せないという覚悟だ」みたいな説明が入るのが面白かったです。
岩本氏:
絵にツッコミを入れたくなるって,外連味がある証拠なんですよ。普通はそれを直しちゃうんですけど,あえて残して「それをキャラクターに言わせよう」「先にツッコませよう」となるのが,「テイルズ オブ」シリーズのいいところだと思います。それがネタになりますし,個性も立ちますから。このやり方を初めて見たときは,目から鱗でした。
4Gamer:
とくに「アライズ」は,そういうツッコミが激しいですよね。プレイヤーがツッコミを入れたくなるたびにキャラクターが自分で言うので,こっちの気持ちを読まれている感があります。ゲーム開始直後から,アルフェン前見えないだろって言いたくなりますもん。
岩本氏:
そういう引っかかりを,企画やシナリオの方が丁寧に拾ってくれるんですよね。デザインする側も,安心してぶっ放せます(笑)。
4Gamer:
キサラの動物モチーフは何になるんですか?
岩本氏:
雌ライオンですね。面倒見がよくて,働き者です。
4Gamer:
パーティのお母さんですからね。
石川氏:
海外では一番人気があるんですが,公式Twitterでキサラを投稿すると「Hello mom」「My mother」と言われています。
4Gamer:
やっぱりそういう扱いなんですね。
岩本氏:
キサラをデザインした段階では,もう少し落ち着いた人かと思っていましたね。
4Gamer:
ゲーム内だと,ちょっと茶目っ気ありますよね。
岩本氏:
これがみんなで開発するからこその面白いところなんですよ。キャラクターは生ものなので,性格とかが変わるんです。それはライターだったり,声優さんの演技の影響だったり,いろんな要因があって変化していくんですけど,お客様に届くころには,描いたときの想定とは別のキャラクターになっているんです。
4Gamer:
変わってしまうのは,デザインの立場からするとどういう印象になるものなんですか?
岩本氏:
楽しいですよ。「ゼスティリア」のときも,エドナはもともと,一言もしゃべらないキャラクターでした。地縛霊みたいな子で,スレイが連れ出すので,彼にだけ心を開く……はずだったんですが,ミクリオにえらいツッコむつっこむようになりまして。なんだこれは,エドナがどんどん変わっていく!? となったものです。
印象が変わったと言えば,本作ではテュオハリムもそうです。
岩本氏:
彼は,語るのが難しいんですよね。すぐにできちゃったんです。最初は弓を持っていたので,そこを変更したぐらいでしょうか。
4Gamer:
棒術になったのはなぜでしょう?
岩本氏:
戦闘案件ですね。遠距離攻撃は銃がいるのでやめよう,シルエット的に長物が似合うから棒にしようかなと。
あとはもう,初期デザインから割とそのままです。イメージは「葉っぱであおがれている,古代の王様」ですね。領将(スルド)は要するに王様なので,いろいろな王様がいてもいいはずだ。地の属性だから,石を連想してピラミッドだ! と,ストレートに表現しました。
4Gamer:
そのイメージは分かりやすいですけど,登場しているレナ人を見ていると,テュオハリムだけ統一感がないですよね。最初に出てきたとき,「この人もレナ人……なの……?」と思いましたし。
岩本氏:
テュオハリムはレナ人の中では異端なので,あえてレナ人らしくないデザインにしているんです。世界を冒険するので,パーティ内で多国籍感を出したかったというのもあります。
着ている服もダナのものという想定です。彼はほかの領将と違って,現地の文化を破壊していないので,それもアリかなと。
4Gamer:
そのスタンスは,ゲーム内でもうまく描かれていましたね。
岩本氏:
動物のモチーフとしては,片翼の鳥です。本当は音楽をやっていたい,領将になんて興味がないのに,自由になれない。そうしたキャラクターなので,マントを片方だけにしていたりします。
4Gamer:
確かにレナ人としては変わり者なんでしょうけど,いいキャラしてますよね。
石川氏:
人気投票も1位ですからね。とくに肩幅と鎖骨の女性受けがいいです。
岩本氏:
そうなんです,肩幅が広いんです! そこを分かってくださると本当に嬉しい。
私,CLAMPさんが好きなんですよ。「東京BABYLON」や「CLAMP学園探偵団」「魔法騎士レイアース」を読んでいたんですが,男の人の肩幅が広い。そして指がすごいセクシー。それで当時,何かに目覚めてしまいまして。
4Gamer:
上手な方が描くイケメンって,手の色気がすごくないですか?
岩本氏:
そうそう! 手の節とかほんと上手なんですよ。そういうのはテュオハリムで意識していました。
彼は描けた瞬間に「これで完成だ,きっとこれが分かるお客様に喜んでいただける!」と思ったんです。それが,まさかここまで人気になるとは。
4Gamer:
岩本さんも予想外だったんですね。
岩本氏:
もともと彼のキャラクター像に,世間ズレしているイメージはなかったんです。それがシナリオや声優の加瀬康之さんの演技によって,自分でも知らなかった魅力が出てきて,「うわ,愛せる!」となりました。