インタビュー
「スーパーロボット大戦30」インタビュー。30周年を迎えたスパロボのこれまでとこれからを聞いた
スパロボシリーズは,さまざまな映像作品からロボットたちとパイロットが集い,夢の共演を繰り広げるシミュレーションRPGだ。1991年に初代「スーパーロボット大戦」がゲームボーイ専用ソフトとして発売されてからシリーズを重ね,今やロボットゲームの代名詞となっている。
また,スパロボに参戦したことで過去のロボットアニメが再評価され,映像ソフト化や書籍化・立体化が進んだという事例も少なくない。ただのオールスター作品にとどまらず,ロボットアニメ文化の発展にも大きく寄与している作品とも言えるだろう。
そんなスパロボの最新作として発表された「スパロボ30」は,搭乗型スーパーロボットの祖「マジンガーZ」を生み出したである永井 豪氏が題字を手がけるなど,30周年記念のメモリアルタイトルとしての側面が強調されている。
一方で,現代のプレイスタイルに合わせた「AUTOバトル」「タクティカル・エリア・セレクト」といった新システムも追加されている。30年という年月を経てゲームやロボットアニメを取り巻く事情が大きく変化した中で,最新作はどのような作品になるのか,そして30周年を迎えてこれからスパロボはどう進化していくのか,シリーズプロデューサーの寺田貴信氏,そして「スパロボ30」プロデューサーの最上頌平氏に話を聞いた。
平坦な道ではなかった30年。ゲームボーイから始まり,一大プロジェクトとなったスパロボ
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。スパロボシリーズは今年で30周年を迎えましたが,率直なお気持ちを聞かせてください。
寺田貴信氏(以下,寺田氏):
原作の版権元や関係者,そして30年応援して下さったファンの皆様に感謝でいっぱいですね。決して平坦な道のりではなかったですし,困難も多かったです。スパロボはゲーム開発者だけでは成立しないキャラクターゲームなので,ここまでやってこられたのは皆さんのご協力やご支援があったからで,感謝することしきりです。
4Gamer:
平坦な道のりではなかったとおっしゃられましたが,30年間のスパロボを振り返って,一番大変だったことは何ですか。
シナリオと戦闘アニメーションのクオリティをキープしつつ,どう進化させていくかという点は常に大変でしたね。
戦闘アニメーションは年々クオリティアップを続けていて,制作コストと時間に大きな影響があります。シナリオは,原作を理解したうえでクロスオーバーさせるというシビアな工程で,時間との戦いでもあります。ここがサクサクとできれば,あとはシステム周りだけになりますね。ユーザーとしては,シナリオは読み飛ばしてもいいし,戦闘アニメーションはスキップしていいんですけど,作る側としては用意しておかなければいけないものなので。
4Gamer:
飛ばせるとはいえ,どちらもスパロボの肝となる部分なので手は抜けない部分ですね。
寺田氏:
ただ,以前“シナリオをどれくらい読んでいますか”というアンケートを取ったところ,こちらの想定していたより読まれていなかった。
そこでシナリオを軽めにした作品を出したところ,ユーザーからめちゃくちゃ怒られてボリュームを元に戻したということがありました。
4Gamer:
タイトルとして思い入れのあるスパロボはどれですか。
寺田氏:
個人的には「α」「Z」「V」といった新シリーズの1作目や一連の「OG」シリーズ,単発物だと苦労した「MX」ですかね。携帯機シリーズについては若手に任せていたところもありますし。
4Gamer:
「MX」ではどういった苦労があったのでしょう。
寺田氏:
自分で久々に手がけた単発作品でしたし,上がってきたシナリオの8〜9割を,最終的に僕がブラッシュアップすることになったのが大変でしたね。発生するイベントはもう決まっていたので,それを崩さずにシナリオのテキストを直していくという作業が大変で,オリジナルキャラクターの描写にまで労力を回せなかった記憶があります。
もともと「IMPACT」の2作目として作っていたものが,諸事情で単発になったことからリセットとなった部分が多く,当時の開発スタッフに迷惑を掛けてしまいました。
4Gamer:
ユーザーから人気があるのはどのタイトルでしょう。
寺田氏:
アンケートを取る度に変わりますし,世代によってだいぶ結果が変わってきますが,「OG」などのオリジナルを除いて人気なのは「α」「W」「V」「A」「D」といったところでしょうか。特定の作品の人気が飛び抜けて高かったり低かったりといったことはないですね。
個人的には人気投票はあまりやりたくなくて「あなたの心にある作品が一番ですよ」というスタンスで考えてます。自分がユーザーだったとしたら,好きな作品の順位が低かったりすると悲しいので。
4Gamer:
30年も続くと,ファンにもさまざまな人がいると思います。寺田さんはこの30年間でファンの世代が変わっている実感はありますか。
寺田氏:
そういう感覚はあります。ファンの声も昔は「スパロボ遊んでますよ!」だったんですが,それが時間が経つにつれて「小さいころにプレイしてました!」になり,今は「親が遊んでいて,自分もプレイするようになりました!」となってますね。海外では「スパロボをきっかけにゲーム開発を志しました!」とゲーム開発者の方から声をかけられたことがありました。
4Gamer:
ユーザーの平均年齢や男女比はどのくらいなのでしょうか。
寺田氏:
アンケートのサンプルからの統計だと,年齢は30代前半がピークゾーンです。男女比は圧倒的に男性の割合が多くて95%を占めています。
4Gamer:
30代前半というと,初のスパロボは「α」「IMPACT」「OG」くらいの世代でしょうか。
寺田氏:
そうでしょうね。特に「OG」に関しては,ここ最近ロボットのプラモデルやフィギュアの企画がいくつも立ち上がっていて,担当者の方たちもお詳しいので,世代だったのではないかと思います。以前に展開していた「OG」のプラモデルやアクションフィギュアのシリーズは,50ぐらいの商品を出してもらえましたし。ゲーム発のロボットものでは,割と珍しいことなのではないでしょうか。
4Gamer:
男性95%というのは少し意外ですね。もう少し女性が多いと思っていました。
寺田氏:
女性を取り込むのであれば,根本的に作り方を変えて“15人の男性パイロットの誰と恋に落ちる!?”くらいのことをやらなければいけないんじゃないですかね(笑)。ただ,そうすると男性から“そうじゃないんだよ!”というお声も上がりそうです。
4Gamer:
スパロボの乙女ゲーも見てみたい気はします(笑)。「OG ムーン・デュエラーズ」からは海外展開もされていますが,海外での人気はいかがですか。
寺田氏:
国によって物価が違うので一概には言えないんですが,台湾をはじめとするアジア圏の需要は決して無視できない状態になってますね。熱量も日本に負けないくらい高いですし。
最上頌平氏(以下,最上氏):
具体的な数字はお答えできませんが,海外ユーザーの比率は皆さんが想像されるより高いはずです。Steam版「スパロボ30」は海外からの予約も好調ですし。
4Gamer:
世界のいろいろな人に愛されているスパロボですが,寺田さんはここまでシリーズが続くと思われてましたか。
寺田氏:
いえ,まったく。そもそもスパロボは「第4次」で終了する予定だったんです。
4Gamer:
え,そうなんですか。
寺田氏:
当時「第2次」は販売数があまり出なかったんです。次の「第3次」は売れて,すぐに「EX」を作ったんですが,あまり芳しくない結果でした。
4Gamer:
尻上がりに好調を維持していったシリーズだという印象があったので,意外です。開発とユーザーで見えている現実がだいぶ違っていたんですね。
寺田氏:
「EX」は値崩れして安く販売されていたので,ここから入門された方も多かったみたいですね。その後「第4次」でシリーズを完結させることになり,開発スタッフも「終わるんだったら最後にふさわしいものを作ろう!」と気合を入れて作っていたんです。
4Gamer:
確かに「第4次」は自分で主人公を作り,ロンド・ベル隊に入って戦うというロボットアニメファンの夢を叶えた集大成的な内容でした。
寺田氏:
開発スタッフは「第4次」の後に「魔装機神」へシフトする予定でしたし,僕自身も新たに特撮のゲームを立ち上げるために企画を練っていました。そこに「『第4次』が結果を出したので,続きを作るように」という指示が出たんです。
それからは「第4次」をPlayStationへ移植した「第4次S」や,SDではなくリアル頭身のロボットを出した「新」と継続していったんです。
「第4次S」では,シリーズで初めて戦闘シーンにボイスが入りましたね。
寺田氏:
当時は,ボイスを収録するにしてもどうすればいいのかまったく分からなかったので,手探りでおっかなびっくり進めていきましたね。
4Gamer:
今はそうした手探り感はないわけですよね。やはり昔と今では仕事の進め方も変わったのでしょうか。
寺田氏:
変わりましたよ。版権元さんと打ち合わせをして会社に戻り,開発スタッフに電話でゲーム内容についての指示を出した後,そのまま雑誌記事の校正をして出版社にFAXを送る……という感じで,僕1人がいろいろな仕事をやっていました。
今では専門のスタッフがいますから,僕がすべてを背負い込むこともありません。30年前の自分に「これからいろいろと助けてくれる人たちが出てくるから,大丈夫だよ」と教えてあげたいです(笑)。
4Gamer:
いろいろな版権作品との交渉だけでも大変なのに,それ以外も寺田さん1人が統括していたというのは,確かに今では考えられないですね。
寺田氏:
今と昔では仕事の量自体も全然違いますから。
昔の開発で思い出すのが,サンプルのROMを焼くのにすごく時間がかかったことです。スーパーファミコンのEPROM(※)は4メガビットの容量があり,1個焼くのに1時間必要でした。「第4次」の容量は24メガビットなので6個のEPROMを焼くんですけど,現場にはそのための機材が4台しかなかったんです。だから上司から「寺田,明日の朝までにサンプルROMを50個作っといて」なんて言われようものなら「ああ,今日は帰れへんな」って(笑)。
※当時使われていた記憶媒体。通常のROMは一度データを書き込むと変更できないが,EPROMは消去できるため,開発現場で用いられた
4Gamer:
メディアや関係各所に配られるサンプルが寺田さんの手焼きだったわけですね。
寺田氏:
今はサンプルを作るにもデータを渡してお願いするだけでいいですから,楽になったのと同時に,多くの人たちの力を借りてゲームを作っているなということも痛感しています。
4Gamer:
今は版権元への交渉も専門のセクションが行っているのでしょうか。
寺田氏:
そうですね。ネットではよく「寺田が交渉に行っている」と言われていますが,今は違います。版権元が大事なキャラクターの使用許可を出しているのは,寺田という個人ではなくバンダイナムコエンターテインメントという会社ですし,参戦作品のラインナップも僕1人で決めていません。
4Gamer:
新たな作品を作る際は参戦作品の選定からスタートするのでしょうか。
寺田氏:
そうですね。どの作品を出すかが決まらないと開発が始められないので,例外はないです。
4Gamer:
どの機体を出すかの選択は開発に委ねられているのでしょうか。
寺田氏:
開発サイドで決めていきます。「この機体は出さないといけないだろう」というものから選出を行い,それ以外は予算や開発期間との戦いになります。
例えば「機動戦士Zガンダム」の参戦が決まったら,主役機であるZガンダムは確定で登場しますが,そのほかのガンダムMk-IIや百式,敵のモビルスーツが入るかはケースバイケースになります。
最上氏:
以前は,参戦作品を決めるために貸会議室を取って合宿のようなことをしていましたね(笑)。
4Gamer:
参戦作品はどういった視点で決めていくのでしょう。
寺田氏:
僕や最上さんが出したい作品,そしてスタッフから提案された作品をすり合わせていきます。参戦作品については,そのストーリー内容だけでなく,さまざまな側面から検討しますね。特にガンダム作品については,バンダイナムコエンターテインメントさんの方が詳しいので,僕は提案するだけです。こちらから提案したものがすべて通るということはありませんね。
4Gamer:
多角的な視点から参戦作品が決められていくと。
寺田氏:
僕が1人で参戦作品を決められたのは最初期だけでしたね。「第2次α」の辺りですでに協議制でしたし。
あと,参戦作品を決めるうえでは,“商品化権”がバンダイナムコグループにあるか否かが1つの基準となっていますが,これは例外もあります。
例えば「新世紀エヴァンゲリオン」は放送当時,スパロボには出せなかったんですが,「セガサターンでスパロボを出すのなら」という話になり,それがきっかけの1つとなって「F」の開発が決まりました。ほかにも,ずっと参戦させたくて申請を続けてやっとOKが出たという作品もあります。
プレイスタイルを選択できる現代に合わせた「スパロボ30」
4Gamer:
「スパロボ30」の参戦作品はどのようにして決まっていったのでしょう。
寺田氏:
「T」からどの作品を継続させるかというところから検討しつつ,海外のデータを参照して作品を加えていった感じですね。
4Gamer:
「この作品を出してほしい!」というファンの声も多いと思いますが,そういった意見は参考にしているのでしょうか。
最上氏:
皆さんの声の大きさは1つの基準として見ていますね。
寺田氏:
そのほかにも立体物の売れ行きから情報を仕入れるときもありますし,たまたまスパロボと立体物の展開時期が一致していて,そこから参戦が決まることもあります。
4Gamer:
「スパロボ30」でもそういった事例はありましたか。
寺田氏:
「スパロボ30」には「重戦機エルガイム」が参戦しますが,これは僕個人の「昔からのファンが望んでいるので参戦させたい」という思いから始まり,立体物の売れ行きが参戦の裏付けになりました。BANDAI SPIRITSさんのロボット魂でほぼすべてのA級ヘビーメタルが商品化されたり,プラモデルでもエルガイムMk-IIが新規金型で発売されたりしてましたので。
また,「機動戦士Vガンダム」についてもVガンダムやV2ガンダムだけでなく,ガンブラスターやシャッコーというモビルスーツまでプラモデルとして発売されたことが,参戦の後押しの1つになりました。
最上氏:
Vガンダムはこちらの持っているデータでも参戦要望が多いことが分かっていたので,ぜひ出したいという感じでスムーズに決まりましたね。
4Gamer:
「SSSS.GRIDMAN」はどういった経緯で参戦したのでしょう。
寺田氏:
放映当初から注目していましたし,グリッドマン役の緑川 光さんやアレクシス・ケリヴ役の稲田 徹さんから「スパロボに出られますか?」と質問されてました。
「電光超人グリッドマン」は特撮ですが,「SSSS.GRIDMAN」はアニメ作品でロボットのようなメカも出てきましたし,サイズも巨大ロボットと合うということで最上さんに提案しました。
4Gamer:
「勇者警察ジェイデッカー」についてはいかがでしょうか。
最上氏:
「V」「X」「T」で勇者シリーズのニーズが高いということがわかりましたし,「勇者警察ジェイデッカー」は韓国でも人気があるという情報も得ていましたので,それを踏まえての参戦ですね。
4Gamer:
そういえば「V」「X」「T」とタイトル名にアルファベットが続いていましたが,今回はタイトルにアルファベットが使われていませんね。
最上氏:
そろそろタイトルにするアルファベットが少なくなっていましたしね。前作でこれまで使うのを避けていた寺田さんのイニシャルである「T」も使ってしまって,いよいよ足りないぞという感じで(笑)。
寺田氏:
「スパロボ30」については,初期のタイトルはまったく違うものでした。最初に考案したものが諸事情で使えなくなり,分かりやすさを重視して30周年の「30」に決まったという形です。30周年ということで,初の搭乗型スーパーロボット「マジンガーZ」の生みの親であり,スパロボの源流を作って下さった永井 豪先生に題字をお願いし,ご快諾いただきました。
4Gamer:
30周年作品としてのコンセプトはありますか。
寺田氏:
1つのテーマとしてあるのは,今回は「選択の幅があるスパロボにしよう」ということで,新システムの「タクティカル・エリア・セレクト」を取り入れています。
4Gamer:
タクティカル・エリア・セレクトは,従来のストーリー分岐とどう違うのでしょうか。
寺田氏:
従来作品だとストーリーは,分岐があれど基本的には一本道でしたが,タクティカル・エリア・セレクトだと,プレイするミッション(シナリオ)をある程度自分で選べます。基本はエリアの中にミッションがいくつかあって,その中のキーミッションをすべてクリアするとストーリーが進みます。それ以外にも強化パーツを入手できるミッションや,経験値稼ぎが可能なミッションがあります。
4Gamer:
キーミッションだけを選んで手早くストーリーを進めることもできれば,逆にそれ以外のミッションを全部遊んでじっくり楽しむこともできるということでしょうか。
寺田氏:
そうですね。ストーリーを早く進めたければ,キーミッションだけをクリアしていけばいいわけです。
4Gamer:
選んだエリアによって仲間になる機体も変わってくるのでしょうか。
寺田氏:
正確には機体やパイロットの入手順番がプレイヤーの選択によって変わる,ですね。
4Gamer:
物語はプレイヤーの選択によって複雑に変化していくのでしょうか。過去に遊べるシナリオが選択できた例だと「IMPACT」が思い浮かびますが。
寺田氏:
ミッションの選択の仕方に左右されますが,シリーズの中でもストーリーの分岐は複雑な方ですね。なので,プレイヤーによって進むルートや話の内容が違うケースが結構出てくると思います。また,ストーリーが進むと選択できるエリアも増えていきます。
4Gamer:
聞いているだけで,シナリオの執筆が大変そうに思えるんですが……。
寺田氏:
整合性を取るのも大変ですし,作業もかなり手間が掛かってます。ただ,今回「ぜひこういう形でやらせてほしい」とライターから提案されまして,「それなら」ということでやってもらいました。
4Gamer:
評判が良ければ「次回もこの形式でやってくれ!」ということになりませんか。
寺田氏:
そうなると地獄ですね(笑)。
最上氏:
実は,タクティカル・エリア・セレクトは,今までの「V」「X」「T」で抱えていた複数の問題を同時に解決できるものとして導入している狙いもあるんですよ。
4Gamer:
具体的には,どういったものでしょう。
1つはプレイ時間の問題です。「やりたいけど時間がない」という方は,キーミッションだけを遊ぶ最短ルートを選んでいただければいいですし,「がっつりやりたい!」という人は,すべてのミッションをプレイするとかなりのボリュームを楽しんでいただけます。
もう1つは各作品の参戦時期によって使える期間に差があった問題です。プレイヤーからは「せっかくお気に入りの作品が参戦しても,機体を使えるのが遅いと残念だ」という声をいただいていました。タクティカル・エリア・セレクトでは,それがある程度解消できるようになっています。
4Gamer:
「AUTOバトル」をスマホアプリの「スパロボDD」だけでなく,家庭用ゲームである「スパロボ30」に導入したのも,そうした「選択」のひとつなのでしょうか。
寺田氏:
そうですね。今は限られた時間を有効に使うため,ゲームをプレイしながら動画を見ている人も珍しくないですし,スマホアプリでもプレイをスキップできる機能がありますから。
なので,スパロボにもAUTOバトルを実装すれば,現代的な時間の使い方にも対応できるんじゃないかと思ったんです。
4Gamer:
社内で反対意見は出なかったんですか。
寺田氏:
スマホアプリならともかく,家庭用のスパロボへのAUTOバトル実装には反対意見もありましたね。従来のスパロボの楽しみ方を放棄することになるんじゃないかと。ただ,最上さんに相談した時は即OKをもらいました。
最上氏:
休日の自由時間をできるだけ多くのコンテンツに使いたいというニーズはありますからね。
寺田氏:
完全にフルオートにするのではなく,マニュアルでやった方がいい場合もあります。僕は弱い敵と戦う時はAUTOバトル,強敵と戦う時は自分で操作するという風に使い分けています。あと,個人的には「スパロボをプレイしたいんだけど,今日はちょっと疲れてるな」という時にAUTOバトルを使ったりしています。AUTOバトルには賛否両論あると思いますが,今回実装してユーザーの反応を見てみようと。
4Gamer:
どちらのシステムも思い切った改革だと思います。
寺田氏:
本当はスキップ機能まで入れようと思っていたんですよ。シナリオから戦闘まで丸々スキップし,経験値と資金は最小限しか手に入らない……というものでしたが,さすがに反対されました。
4Gamer:
家庭用ゲームの片手間にスマホアプリをプレイしたり,動画を視聴しつつゲームをプレイしたりするようなスタイルも昔では考えられなかったものなので,いつかスキップが実装される日も来るのかもしれません。
寺田氏:
娯楽というものへの意識が変わりましたよね。昔はレンタルビデオ屋からロボットアニメを借りてきて,返却日までに必死で見てましたけど,今は動画配信サイトに1話から最終話までがズラリと並び,好きなエピソードを好きな時に好きなだけ見られる。
最上氏:
今はアニメや映画を早送りして見る人もいる時代ですからね。
寺田氏:
スパロボをプレイしていても,シナリオはすべて飛ばすという人もいらっしゃるでしょうし。
新システムのほかに主人公機である「ヒュッケバイン30」も話題になっていますね。ローマ数字の30である「XXX」が頭部にあしらわれたデザインもインパクトがありますし,METAL ROBOT魂が同梱された超限定版も一瞬で売り切れました。
寺田氏:
カトキハジメさんと打ち合わせをしていた際,名前をどうするか聞かれて「30周年だから『ヒュッケバイン30』にしたい」と答えたんですよ。するとカトキさんが「30ならローマ数字のXXXをバイザーにできるんじゃないか」とおっしゃって,ああいうデザインになりました。そこは即決でしたね。
普段は開発側で機体の設定を考えてからデザインを行うことが多いんですが,ヒュッケバイン30の場合はまずデザインありきで,その後に設定を考えました。
4Gamer:
販売形態も今回は前作までと少し異なっていますね。ボーカル入りの原作楽曲を収録したパッケージ「プレミアムサウンドエディション」がなくなり,ボーカル曲はダウンロードコンテンツでの展開になっています。
最上氏:
これまでのパッケージ版での展開ですと,通常版を買ったユーザーがボーカル楽曲を楽しみたくなった場合に買い直さなければならず,なんとかしてほしいという要望がありました。今回はそれを反映してダウンロードコンテンツでの販売にした形です。
あと,海外を意識しているという側面もあります。これまで,プレミアムサウンドエディションは日本でしか販売していなかったんですが,今回はダウンロードコンテンツを購入いただければ,海外のユーザーも原作楽曲を楽しめるようになっています。
寺田氏:
あと1点補足として,特別参戦するSRXとサイバスターは,パッケージ版早期購入特典もしくはダウンロード版予約購入特典のみの登場となっています。今までのような早期加入の権利ではないので,ご注意下さい。
寺田氏が考えるロボットアニメの今。「OG」の完結編や過去作のリメイクなど,今後の展望についても語る
4Gamer:
近年はプラモデルやフィギュアなどの立体物が盛り上がりを見せていますが,一方で「ロボットアニメは本数が少なくなった」「見る人も固定化していて,新しい層が入ってこない」と言う人もいます。寺田さんはロボットアニメの現状をどう分析しておられますか。
寺田氏:
比較対象になるのが,毎日ロボットアニメを放映していたような1980年代後半だとしたら,そう思えてしまうんじゃないでしょうか。直近でも「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」など,いくつかロボットアニメがありますし。
4Gamer:
確かに言われてみると,そうかもしれません。
寺田氏:
世間で大きな話題になった作品もありますし,昨今のホビー市場ではロボット関連のトイがたくさん出ています。世代的な差はあると思いますが,下火になったという印象はないですね。確かに一時的な流行り廃りはあるけれど,“これから作るものはもう人気が出ない”なんて状況はないんじゃないかと。
これからもロボットアニメのヒット作が出て来るかもしれないですし,ロボットアニメ衰退論はあまり気にはしていないですね。逆に「流行らないかもしれない」と言われているなら,そこにチャンスがあるんじゃないかと思います。競合相手が少ないという意味でも。
4Gamer:
なるほど。
寺田氏:
あとは,子どもにロボットの魅力を伝える作品を作ることが重要だと思っています。昔だと,特撮で巨大ロボットに触れ,「勇者」シリーズといったアニメに行き,そのまま「ガンダム」などのロボットアニメのファンになるという流れがありました。
今は,勇者シリーズのような子どもからティーンへの橋渡しになる作品が少ないんです。
4Gamer:
小中学生がちょっと背伸びして見られる大人びた作品ということでしょうか。
寺田氏:
そうですね。僕は「銀河漂流バイファム」が好きなんですが,あの作品はハードなSF要素とコメディ要素が上手く織り交ぜられていて,主要人物がほとんど子どもなのにもかかわらず,大人でも楽しめるストーリーでした。ああいう完全に子ども向けではないロボットアニメが増えれば,新しい人たちも入ってくるのではないでしょうか。
4Gamer:
一方,スパロボシリーズは,ロボットアニメだけでない作品の参戦もあります。近年「スパロボDD」では「デビルマン」や「機界戦隊ゼンカイジャー」といった作品が参戦していますが,そういった取り組みは新規層の獲得という狙いから行っているのでしょうか。
寺田氏:
参戦作品の枠を広げ,従来のスパロボとは違う多様性を図るということも狙いです。通常だと参戦させるのが難しい作品でも,アプリのスパロボだと1つのシチュエーションに特化した単発のショートシナリオを作りやすいですからね。
4Gamer:
では,今後の家庭用機版スパロボではこうした参戦は行われないということでしょうか。
最上氏:
「DD」での手法を家庭用機版スパロボに取り入れることで,ユーザーから支持を得られる確信があれば考えも変わるかもしれませんが,現在の体制では「DD」のような参戦はないと思います。
4Gamer:
あと,スパロボは現行機へのリメイクや移植が少ないので,過去作をプレイするには大変だったりもします。こうした作品について,リメイクや移植をする予定はありますか。
寺田氏:
常にやりたいとは考えてますけれど,どう実現するかが問題ですね。「α」や「IMPACT」のような大ボリューム作品を最新の演出でリメイクするとなると大変ですし。
4Gamer:
ベタ移植の方向はどうでしょう。
寺田氏:
さすがに昔のスパロボそのままだとプレイしにくいんじゃないですか。現行のスパロボで実装している便利なシステムが実装されてないわけですし。
4Gamer:
今プレイすると,どうしても古さが目立ってしまうと。
寺田氏:
仮に作り直すとしたら,システムは改良するとしても,ロボットの戦闘アニメーションなどは現状の演出で作り直す必要はないんじゃないかと思っています。「表現は古いけど,格好いい」,「アニメパターンは少ないけど,迫力はある」みたいな,古き良きテイストをうまく生かしつつ,効率的に作れる手法があればいけるんじゃないかと。
4Gamer:
特に「OG」と「OG2」はハードがゲームボーイアドバンスですし,リメイク版の「OGS」ですらPS2のソフトなので,話をおさらいしようと思ってもできない人もいるんじゃないかと思います。
寺田氏:
何らかの形で過去作をプレイできるようにする必要はあると思っています。たとえば,最初の「OG」から「OGムーン・デュエラーズ」までのストーリーをダイジェスト版にして,合計2本にまとめるとか。
4Gamer:
7月11日の「超感謝祭」では,「OG」新作の開発がいったん凍結状態になっているという話がありました。不安に思っているユーザーもいると思うのですが,今後の展開はどうなるのでしょうか。
寺田氏:
超感謝祭でお伝えした通りなんですが,「OG ムーン・デュエラーズ」の次のストーリーで完結する予定ですし,「スパロボ30」や「DD」にも「OG」の機体は出ていますので,何とか新作までつなげていきたいですね。ちなみに完結編のだいたいの構想は出来ていて,終わり方も決めています。ただ,それをそのまま実現するかどうかはまだ分かりませんが。
4Gamer:
「魔装機神」も完結までかなり時間がかかりましたから,いつまでも待っています。
現状の版権ものと「OG」以外に,今後“こんな作品を作ってみたい”といった願望はありますか。
寺田氏:
前々から作りたいと思っているのは「マイ・ファースト・スパロボ」的な入門用の作品や,子どもをターゲットとしたスパロボです。ある程度成熟したジャンルを下の年齢層へ広げるのは難しいですし,ロボットアニメを知らない方がスパロボをプレイするのはハードルが高いので,新規層を取り込むには抜本的に変えていかないと駄目だと思っています。先ほどの話のように大人がプレイして楽しく,子どもを喜ばせることができるようなものを作りたいなとは思っています。
最上氏:
スーパーファミコンのころは大人から子どもまで皆がスパロボを遊んでいたと思いますが,ユーザが年齢を重ねていき,それにつれてゲーム内容も進化しているので,今のスパロボは子ども向けというわけではありませんからね。
4Gamer:
あのころは,いろいろな作品のSDキャラたちが活躍するコンパチヒーローシリーズがあったので,そうした枠組みでさまざまな原作やゲームに触れる土壌があった気がします。
寺田氏:
あと,なかなか賛同されないんですが,年配の方に向けた“シルバーゲーム”に関するビジネスもこれから成立していくんじゃないかと思っています。ここ最近,復刻版のゲーム機が次々に登場しましたが,これは今風の美麗なグラフィックスでのリメイクではなく,当時のものが欲しい人が買っていたと思います。なので,スパロボも当時の直撃世代に向けて,ちょっとブラッシュアップするくらいの方向性で作り直したものはアリなのかなと。
4Gamer:
具体的にはどういったものを想定していますか。
寺田氏:
機体改造とパイロット乗り換えがあるくらいのベーシックな作品でしょうか。文字を大きくできる機能を付けて,タイトル名は「スーパーロボット大戦シルバー」とか「真スーパーロボット大戦」といった感じで。戦闘アニメーションの作業量を抑える分,登場する機体やキャラを増やしたり,機体の分離と変形をきっちり作ったり,マイナーな機体を出したりしたいですね。
笑い話に思われるかもしれませんが,かなり真面目に考えていて,本当に作らせてもらえるなら,いろいろと予算を押さえにいきたいくらいです。
4Gamer:
これからのスパロボに期待しています。さて,そろそろお時間も迫ってきましたので,最後に読者へのメッセージをお願いします。
最上氏:
「T」から約2年半,お待たせしてしまいすみませんでした。今回はSteam版の同時発売をはじめとして新しい試みを行っていますので,今までスパロボを手に取ってこられなかった方や,ハードの関係でプレイできていなかった方の手にも届けばと思っています。まだ発表できていないこともありますので,今後の情報解禁もお待ちいただければと思います。
寺田氏:
30周年イベントの「超感謝祭」はオンラインの開催となりましたが,画面越しに皆さんの熱気を感じました。これを励みにして,今後の良い展開に繋げていきたいと思います。「昔スパロボをやってたけど,今は時間がないから……」という方も,ぜひAUTOバトルを使いつつ,「スパロボ30」でスパロボを久々に遊んでみてください。
4Gamer:
ありがとうございました。
「スーパーロボット大戦30」公式サイト
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