レビュー
TDP 65W版のRyzen 7000シリーズの実力を検証。用途によって評価が分かれるCPUだ
AMD Ryzen 9 7900
Ryzen 7 7700,Ryzen 5 7600
TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)を65Wに抑えることで,発熱や消費電力を下げて扱いやすくしたデスクトップPC向けCPU「Ryzen 9 7900」「Ryzen 7 7700」「Ryzen 5 7600」が,1月13日11:00に発売となる。税込のメーカー想定売価は以下のとおり。
- Ryzen 9 7900:6万9800円
- Ryzen 7 7700:5万3800円
- Ryzen 7 7600:3万7500円
本稿では,既存製品や競合製品との比較を中心に,TDP 65W版のRyzen 7000シリーズのゲーム性能をチェックしたい。
TDPと動作クロックを抑えた低消費電力モデル
まずは,本稿で取り上げる3製品の概要を簡単に紹介しよう。2022年9月に登場したRyzen 7000シリーズは,これまで製品名の末尾に「X」が付いていた(以下,Xモデル)。一方,今回発表となった製品は,いずれも製品名に「X」がつかない「無印」版となっている。各製品の主なスペックは表1のとおり。
既存のRyzen 7000シリーズと同様に,対応プラットフォームはSocket AM5で,CPUソケットが従来のLGAタイプへと切り替わった。CPUパッケージはほぼ正方形で,表面にバイパスコンデンサを備え,裏面はランドとなっている。
注目のTDPだが,既存のRyzen 7000 Xモデルシリーズでは,いずれもTDPが100Wを大きく超えていた。たとえば,12コア24スレッド対応の「Ryzen 9 7900X」は,標準のTDPが170W,ピーク時消費電力に当たる「Max Socket Power」(以下,PPT)は,288Wに達するほどだ。それに対して,無印版のRyzen 7000シリーズは,標準のTDPが65W,PPTが88Wと,既存製品と比べて控えめである。ただ,TDPを低く抑えるため,定格クロックも4GHz未満に抑えられている。
AMDがレビュワー向けに用意した資料によると,無印版Ryzen 7000シリーズは,前世代の「Ryzen Desktop 5000」シリーズとの比較で,ゲーム性能において最大30%前後,ゲーム以外の性能で最大50%前後の性能向上を実現したという。Ryzen 5000シリーズのユーザーが,無印版Ryzen 7000シリーズにアップグレードするかは疑問だが,ここでは「前世代製品より高い性能を備えている」くらいの理解でいいだろう。
無印版Ryzen 7000シリーズの競合となるのは,Intelが2023年1月3日に発表したデスクトップPC向け第13世代CoreプロセッサのTDP 65Wモデルだ(関連記事)。しかし,発表タイミングが近いこともあって,AMDの資料ではこれらとの性能比較などはなかった。
Ryzen 7000として初のクーラー付属モデル
無印版Ryzen 7000シリーズの製品ボックスには,AMD純正CPUクーラー「Wraith」クーラーが標準で付属する。Ryzen 9 7900とRyzen 7 7700には「Wraith Prism」クーラー,Ryzen 5 7600に付属するのは,「Wraith Stealth」クーラーだ。いずれもAMDの公式Webサイト(関連リンク)にあるとおり,過去のRyzenシリーズにも付属していたクーラーだ。無印版Ryzen 7000シリーズのTDPであれば,空冷CPUクーラーで対応できるということだろう。価格が高く,PCケースも対応している必要がある液冷CPUクーラーを別途用意しなくても導入できる点に,魅力を感じる自作PC派ゲーマーもいるはずだ。
ただ,Ryzenが備える自動クロックアップ機能の「Precision Boost 2」は,CPU温度や消費電力に余裕がある場合に,動作クロックを引き上げる。そのため,高い冷却性能を備えたCPUクーラーを使ったほうが性能を上げやすいのは確かだ。
さらに,無印版Ryzen 7000シリーズは,クロック倍率がロックされていないアンロック版となっている。自己責任となる点は理解したうえで,AMD公式のオーバークロックソフト「Ryzen Master」を用いたオーバークロックも可能だという。このあたりを考慮すると,手軽に使いたい人はそのまま純正クーラーで,性能を求めたい人は液冷クーラーなどを使うと良さそうだ。
既存のCPUとRyzen 7000無印モデルをベンチマークで比較
それでは早速,テストに移るとしよう。今回は残念ながら,デスクトップPC向け第13世代CoreプロセッサのTDP 65W版を入手できていないので,本稿では新旧織り交ぜた既存のCPUを用意して,無印版Ryzen 7000シリーズと比較した。
まず,12コア24スレッド対応のRyzen 9 7900の比較対象として,Ryzen 9 5900X,Ryzen 7 7000に対してRyzen 7 5800Xという前世代製品を用意した。
一方,Ryzen 5 7600に対しては,前世代製品が用意できなかったので,その代わりにRyzen 5 7600XとCore i5-13600Kと比較する。価格帯を考えると,Ryzen 5 7600の性能はこれらの製品に及ばないと思われるのだが,それでもどの程度迫れるのかをチェックしてみた。
比較用に用意したCPUのスペックをまとめたのが表2となる。
Socket AM5プラットフォームとLGA1700プラットフォームでは,メインメモリの設定としてDDR5-6000設定を利用した。MSI製Intel Z790マザーボードの「MEG Z790 GODLIKE」の場合,AMDが提唱するメモリプロファイル規格である「EXPO Technology」をそのまま利用できるので,Intel製CPUでもメモリの設定をそろえられる。一方,Socket AM4でプラットフォームでは,DDR4-3600設定を利用した。
すべての環境でメインメモリはオーバークロック設定なのだが,メモリプロファイルを利用すれば,それほど苦労せずにオーバークロックを試せる。いまは,定格で動かすよりも,使用するメモリモジュールに合わせた設定を利用するほうが理にかなっていると言えるのではないだろうか。
CPUクーラーは,ASUSTek Computer製の大型液冷クーラー「ROG RYUJIN II 360」を利用した。無印版Ryzen 7000シリーズは,空冷CPUクーラー対応が見どころなので,空冷CPUクーラーを使ったときの性能が知りたいという人もいるだろう。ただ,今回はLGA1700プラットフォームも混ぜているのだが,LGA1700を含めて利用できる空冷CPUクーラーが手元になかった。そのため,やむなく全プラットフォームに対応するROG RYUJIN II 360を利用したというわけだ。ちなみに,あえて冷却性能を抑えるためにROG RYUJIN II 360の動作モードを「サイレント」プリセットに設定している。
実行するテストは,4Gamerベンチマークレギュレーションバージョン26に準拠した。ただ,6コアのCPUを含むため,OBS Studioを利用したゲーム録画のテストは省略している。
スト解像度は3840×2160,2560×1440,1920×1080ドットの3パターンで,高負荷寄りの設定を選択した。
なお,NVIDIA独自の超解像&アンチエイリアシング技術「DLSS」に対応するゲームでは,DLSSを有効化して,レンダリング解像度を下げてテストしている。というのも,4Gamerベンチマークレギュレーションバージョン26で選んだゲームの一部は,描画負荷が高い。グラフィックス設定を上げると,GPUがボトルネックになってしまうので,CPU性能の差が出にくくなる。そのため,レンダリング解像度を落としてGPU負荷を下げ,CPUの差を出やすくしたというわけだ。
3DMarkでは良好なパフォーマンスを見せる無印版Ryzen 7000
まずは,3DMark(Version 2.25.8043)の結果から見ていこう。グラフ1は,3DMarkのDirectX 11テストである「Fire Strike」の総合スコアだ。
総合スコアはGPU性能の影響が強くでるため,描画負荷が高いFire Strike UltraやFire Strike Extremeでは,スコアの差は1%以内に留まった。
それに対して,描画負荷が比較的低いFire Strikeになると,差が広がっている。Ryzen 9 7900は,Ryzen 9 5900Xに対して約1.03倍,Ryzen 7 7700は,Ryzen 7 5800Xの約1.04倍と,順当に前世代製品よりも有意に高いスコアとなった。一方のRyzen 5 7600は,Ryzen 5 7600Xに対して約0.99倍とほぼ横並び,Core i5-13600Kに対しては約0.96倍とわずかにおよばない。
以上を踏まえたうえで,より詳しく個別スコアを見ていこう。グラフ2は,Fire StrikeのGPUテストである「Graphics test」のスコアである。
Ryzen 9 7900とRyzen 7 7000は,総合スコアと同じ傾向だ。目すべきはRyzen 5 7600で,総合スコアではCore i5-13600Kを下回ったのだが,Graphics testでは,3つのテストでそれぞれ約1.02倍と,わずかだが高いスコアを記録しているのが特徴的と言えようか。
Graphics testは,GPUの性能テストなので,CPUではほとんど差がつかないが,GPUに対するコマンド発行効率といったところで差が出ることもある。Ryzen 5 7600は,Core i5-13600Kと比べて,そのあたりの性能が少し高いのかもしれない。
続くグラフ3は,Fire StrikeのCPU性能テストとなる「Physics test」のスコアをまとめたものだ。
CPUコア数で大きくスコアが変わるテストなので,グラフがばらつき見づらいかもしれない。そこで,各テストにおける平均スコアを各製品で比べてみることにしよう。
Ryzen 9 7900は,Ryzen 9 5900Xに対して約1.04倍,Ryzen 7 7700はRyzen 7 5800Xの約1.09倍と,AMDの主張ほどではないにせよ,前世代製品と比べて性能が向上している。一方,Ryzen 5 7600は,Ryzen 5 7600Xと比較して0.96倍,Core i5-13600Kの0.79倍と,とくにCore i5-13600Kとの比較で大きく下回った。
Ryzen 5 7600とRyzen 5 7600Xは,同じアーキテクチャとCPUコア数なので,動作クロックの差がスコアにあらわれているようだ。また,Core i5-13600Kは,高性能なP-coreこそ6コアではあるものの,高効率コアであるE-Coreを含めたCPUコア数は14コアもあるため,Physics testでは有利になるのが原因だろう。
グラフ4は,GPUとCPU両方に負荷をかけたときの性能を見る「Combined test」のスコアをまとめたものだ。
結果は総合スコアと同じく,Fire Strike UltraとFire Strike Extremeでは横並びだが,Fire Strikeでは違いが出ている。それぞれの比較対象と比べると,Ryzen 9 7900は,Ryzen 9 5900Xの約1.09倍,Ryzen 7 7700は,Ryzen 7 5800Xの約1.15倍とまずまずの高スコアだ。総合スコアやPhysics test以上に,Ryzen 9 7900とRyzen 7 7700のスコアが伸びた理由は推測が難しい。また,Ryzen 5 7600はRyzen 5 7600Xの0.97倍,Core i5-13600Kの0.96倍となった。
次に,3DMarkのDirectX 12テストとなるTime Spyの総合スコアをまとめたのがグラフ5だ。
Ryzen 9 7900とRyzen 7 7700は,比較対象よりも約1〜2%スコアが高かった。Ryzen 5 7600のスコアは,Ryzen 5 7600Xに比べるとあまり差がないのだが,Core i5-13600Kには約7%下回っている。
Time SpyのGPUテストとなるGraphics testのスコアがグラフ6だ。
描画負荷が高いTime Spy Extremeは,ほぼ横並び。一方のTime Spyは,Core i5-13600Kのスコアがやや低くなっているのが見て取れる。Fire StrikeでもCore i5-13600Kは,Graphics testのスコアが振るわなかったのが気になるところだ。
続くグラフ7は,Time SpyのCPUベンチマークとなるCPU testのスコアだ。
グラフはCPUコア数の差がはっきりと現れている。同じCPUコア数の製品で比べると,Ryzen 9 7900は,2つのテストでRyzen 9 5900Xの約1.04倍,Ryzen 7 7700は,Ryzen 7 5800Xと比べて,Time Spy Extremeで約1.09倍,Time Spyで約1.07倍と伸びが大きい。
Ryzen 5 7600のスコアは,Ryzen 5 7600X比で約0.97倍だが,同コア数の上位モデルに対して約3%の差は,まずまずと言っていいだろう。とはいえCore i5-13600Kに対しては,Time Spy Extremeで約0.69倍,Time Spyで約0.61倍と大きく水を開けられている。
以上,3DMarkの結果を見てきたが,無印版Ryzen 7000シリーズは,前世代製品と比べるとわずかではあるが,性能を上げていることが分かった。また,Ryzen 5 7600のスコアを見る限り,既存のRyzen 7000シリーズと無印版Ryzen 7000シリーズの性能差は,大きくても数%程度に留まりそうだ。
実際のゲームでも性能を検証してみよう。1本めは「Marvel's Spider-Man Miles Morales」(以下,Spider-Man MM)である。Spider-Man MMはグラフィックス品質「非常に高い」でテストを行った。ただし,DLSSを使ってレンダリング解像度を下げて,GPU負荷を抑えている。グラフ8〜10がその結果だ。
描画負荷が高い3840×2160ドットは,Ryzen 5 7600とRyzen 5 7600X以外の5製品が平均80fps前後で横並びとなった。Ryzen 5 7600は,平均77.3fps,Ryzen 5 7600Xも平均78.6fpsと,やや低めのフレームレートである。ただ,Spider-Man MMは,ベンチマークモードがなく,実際にゲームをプレイして,その間のフレームレートを取得している。平均で約3fpsの差であれば,操作によるブレの可能性も否定できないので,有意な差であるとは言い切れない。
2560×1440ドットでは,Ryzen 9 5900XとRyzen 7 5800Xで平均139fpsを超えるフレームレートを記録しており,これらが少し抜けた格好となっている。Socket AM4プラットフォームの2製品がともに高い平均フレームレートを出しているのは,確な理由があるのかもしれないが,今のところは不明だ。
無印版Ryzen 7000シリーズの3製品が平均135fps前後で並び,Core i5-13600KとRyzen 5 7600Xは,若干低めのフレームレートだ。
描画負荷が小さく,CPUの性能差が出やすい1920×1080ドットだと,Ryzen 9 7900とRyzen 7 7700が平均170fpsをマークしており,前世代製品を上回る性能となっている。一方,Ryzen 5 7600はほかの製品に対して,落ち込みが目立つ。とくに同じ世代かつ同じCPUコア数のRyzen 5 7600Xとくらべても,13fpsほども低い平均フレームレートになったが,これだけ差があると,手動操作によるブレとも考えにくい。
2560×1440ドットで好成績を収めたRyzen 9 5900XとRyzen 7 5800Xは,1920×1080ドットだと165fps台に留まった。また,Core i5-13600Kも162.8fpsと,見どころのない結果となっている。
Spider-Man MMの結果は,少しばらつきがあるので評価が難しいのだが,少なくともとくに描画負荷が小さい場合で,Ryzen 5 7600の結果が振るわなかったのは確かだろう。
グラフ11〜13は「モンスターハンターライズ サンブレイク」(以下,モンハンライズ サンブレイク)をグラフィックス品質「高」でテストした結果である。
モンハンライズ サンブレイクも,ベンチマークモードがなくプレイヤーの操作が必要なタイトルなので,結果がブレやすいのだが,それを踏まえても3840×2160ドットは,ほぼ横並びと称していいだろう。
2560×1440ドットの結果はややばらついており,Core i5-13600Kが200fpsを超える平均フレームレートでトップとなり,続いてRyzen 9 7900,Ryzen 5 7600Xという順番となった。一方,Ryzen 9 5900XやRyzen 7 5800Xといった前世代CPUのスコアは振るわない。1920×1080ドットでもCore i5-13600Kが頭ひとつ抜けた結果となった。
カプコン製ゲームエンジンの「RE ENGINE」は,Intel製のCPUが有利になりやすく,モンハンライズ サンブレイクもその傾向が出ているようだ。無印版Ryzen 7000シリーズに着目すると,Ryzen 9 7900とRyzen 7 7700は前世代製品と比べて,明らかに性能が向上していることが分かる。また,Ryzen 5 7600は,Ryzen 5 7600Xに対して有意に低い平均フレームレートを記録したということが言えるだろう。
「Call of Duty: Modern Warfare II」(以下,CoD: MWII)をグラフィックス品質「極限」でテストした結果が,グラフ14〜16である。
CoD: MWIIのテストでは,すべての解像度で各CPUの平均フレームレートにおける差が,1.5fps以内に収まってしまった。つまりCoD: MWIIは描画不可が軽く,フレームレートが頭打ちになっていると考えられる。この解像度,グラフィックス品質設定なら,どのCPUを使ってもゲームの動作はそれほど変わらないという評価でいいだろう。
「Fortnite」は,グラフィックス品質を「最高」としたが,レンダリング解像度を50%に引き下げてGPU負荷の低減を図っている。さらに,リプレイの代わりに「TILTED TOWERS BENCHMARK」を使用したテストを実施した。TILTED TOWERS BENCHMARKに関する詳細は,関連記事を参照してほしいのだが,簡単に説明すると,同じテストシークエンスのフレームレートを測定できるベンチマーク専用のマップである。
以上の設定でテストしたFortniteのフレームレートをグラフ17〜19にまとめている。
3840×2160ドットと2560×1440ドットは,Core i5-13600Kの平均フレームレートが2〜3fpsほど低いものの,それ以外は,おおむね横並びと言ってよさそうだ。
1920×1080ドットでは,トップがRyzen 7 7700,ついでRyzen 5 7600X,Ryzen 9 7900の順になっており,Ryzen 7000シリーズがやや高めのフレームレートを残している。Core i5-13600Kは,3840×2160ドットや,2560×1440ドットのときほど落ち込みが目立たない。
グラフ20〜22には,「God of War」(以下,GoW)における結果をまとめた。グラフィックス品質は「ウルトラ」設定で,DLSSを有効にしている。
GoWも,テストは手動操作で行うため,操作のブレが結果に影響する可能性がある。3840×2160ドットの平均フレームレートは,いずれも110fps前後で,顕著なほどの差はない。強いていうならば,Ryzen 9 7900はRyzen 5000シリーズと比べて高めと言えようか。2560×1440ドットと1920×1080ドットでも,Ryzen 9 7900は,Ryzen 5000シリーズより平均フレームレートが高めになっている。
気になるのはCore i5-13600Kで,どの解像度でも,Core i5-13600Kの平均フレームレートはとりたてて高いとは言えないのに対して,最小フレームレートが有意に高いのは興味深い。
グラフ23は「ファイナルファンタジーXIV 暁月のフィナーレ ベンチマーク」(以下,FFXIV暁月のフィナーレ)の総合スコアをまとめたものだ。
3840×2160ドットはおおむね横並び。2560×1440ドットと1920×1080ドットはCore i5-13600Kがやや高く,Ryzen 5 7600がやや低いという程度で,差は1%以内しかない。ただ,Ryzen 9 7900,Ryzen 7 7700は,前世代との差が約1%高く,Ryzen 5 7600はRyzen 5 7600Xの0.98倍,Core i5-13600Kの0.95倍と,これまでの結果とおおむね整合するスコアが得られているのは確かだ。
グラフ24〜26にFFXIV暁月のフィナーレ ベンチにおける平均および最小フレームレートをまとめている。Core i5-13600Kの結果がほかよりもより高めになっているのが特徴だ。
ゲームテストの最後として,「F1 22」の結果を見ていこう。F1 22はDLSS対応タイトルなので,DLSSを有効化する一方,グラフィックス品質は「超高」とした。その結果をまとめたのがグラフ27〜29だ。
3840×2160ドットと2560×1440ドットの平均フレームレートは,3fps前後に収まっている。1920×1080ドットは,Ryzen 5000シリーズの平均フレームレートが190fps前後と,ほかのCPUと比べて少し低い傾向が見て取れる。また,Ryzen 7 7700とRyzen 5 7600Xが平均200fpsに迫っており,やや高めと言えないこともないが,現行世代のCPUならほぼ差はないという評価でよさそうだ。
以上,実ゲームを見てきたが,Ryzen 9 7900やRyzen 7 7700については順当にRyzen 5000シリーズよりも平均フレームレートを上げているようだ。
yzen 5 7600は前世代との比較ではないものの,既存のRyzen 7000シリーズと比べると,一部のタイトルで平均および最小フレームレートが明確に下回る傾向が見られた。ハイエンド市場向けGPUとの組み合わせでは,CPUがボトルネックになる可能性が高いので,ミドルクラス市場向けGPUとの組み合わせがベターだろう。
非ゲームアプリでも良好な性能を見せる無印版Ryzen 7000
ゲーム以外の用途におけるCPU性能も検証した。グラフ30は,「PCMark 10」(version 2.1.2574)のテストである「PCMark 10 Extended」の結果から,Fire Strike相当の「Game」を除くスコアをまとめたものだ。カスタムでの実行になるので,総合スコアは集計されない。
アプリの起動速度やWebブラウジングなど,Windowsにおける動作の快適さを見るEssentialsは,Ryzen 5 7600XやCore i5-13600Kがほかよりもやや高い成績を収めた。Essentialsは瞬間的に高負荷がかかるタイプのテストが多く,Ryzen 5 7600XやCore i5-13600Kのように,負荷がかかったときにクロックが上がりやすいCPUが有利になりやすい。
オフィスソフトなどアプリの性能を見るProductivityも,Ryzen 5 7600XやCore i5-13600Kがわずかに高い記録を残している。こちらも高クロック動作が効いていると見ていいだろう。
クリエーター向けアプリの性能を見るDigital Content Creationは,CPUコア数が効くテストが中心であるため,12コア24スレッド対応のRyzen 9 7900がトップの成績を収めた。続くCore i5-13600Kもコア数は14基もあり,それが効果を発揮しているというわけだ。
それぞれの比較対象と比べてみると,Ryzen 9 7900は,Ryzen 9 5900Xに対して約1.07〜1.09倍,Ryzen 7 7700は,Ryzen 7 5800X比で約1.07〜1.12倍と,AMDの主張ほどでないが順当に高いスコアを残している。
また,Ryzen 5 7600は,Ryzen 5 7600Xの約0.96〜0.98倍,Core i5-13600Kと比べて約0.89〜0.96倍のスコアとなった。コア数や動作クロックから見て妥当な結果と言えるのではないか。そのRyzen 5 7600においても,Ryzen 5000シリーズの8コア16スレッド製品であるRyzen 7 5800Xよりも,すべてのテストで高いスコアを残しているのは感心する
グラフ31は,動画エンコードソフト「FFmpeg」(Nightly Build Version 2021-10-14-git-c336c7a9d7-full_build)による動画のトランスコードにかかった時間をまとめたものである。
エンコードはCPUのアーキテクチャだけでなく,コア数の影響が大きい処理だ。そのため,H.264,H.265ともに12コアのRyzen 9 7900がもっとも短時間で処理を済ませている。次点のCore i5-13600Kは,14コアのうち8コアが省電力コアだが,それでもコア数が効いてRyzen 9 7900に迫るエンコード時間となった。
また,比較対象と比べてみると,Ryzen 9 7900は,Ryzen 9 5900Xに対してH.264で約41秒,H.265にいたっては約246秒と大幅にエンコード時間が短縮した。さらにRyzen 7 7700の場合は,Ryzen 7 5800Xと比べて,H.264で76秒,H.265は370秒の短縮となった。
一方,Ryzen 5 7600はRyzen 5 7600Xよりも,エンコードにかかる時間がH.264で約28秒増,H.265で約66秒増とはっきりと伸びているが,割合にすると約4%の差に留まっている。
写真現像ソフト「DxO PhotoLab」シリーズの「DxO PhotoLab 6」(Version 6.1.1.86)を用いたRAW現像時間をまとめたのがグラフ32である。
トップがCore i5-13600K,次点がRyzen 9 7900になったことを除くと,FFmpegの結果に近い傾向となった。Ryzen 9 7900は,Ryzen 9 5900Xと比べて約41秒の短縮に,Ryzen 7 7700は,Ryzen 7 5800Xから140秒も短縮しており,こちらもまずまずの性能向上を実感できた。また,Ryzen 5 7600の処理時間は,Ryzen 5 7600Xと比較して33秒増加で,こちらも割合にすると約3%の差である。
グラフ33が3Dレンダリングベンチマーク「CINEBENCH R23」の結果である。
シングルスレッド性能は,Core i5-13600Kがトップに,わずかな差でRyzen 9 7900とRyzen 5 7600Xが続く形となった。Ryzen 9 7900は,Ryzen 9 5900Xに対して約18%,Ryzen 7 7700は,Ryzen 9 5800X比で約17%性能が上回っている。
一方でマルチスレッドでのテストでは,12コアモデルが好成績であるが,Ryzen 9 7900とRyzen 9 5900Xでは約9%と,こちらもはっきりとした差が出ている。さらにRyzen 7 7700のマルチスレッド性能は,Ryzen 7 5800Xと比べて約17%もスコアが高かった。
Ryzen 5 7600は,Ryzen 5 7600Xに対してシングルスレッドで約0.94倍,マルチスレッドは約0.97倍となっている。シングルスレッドの場合,Ryzen 5 7600Xのほうが高クロック動作を維持できるため,より差が大きくなるというわけだ。
最後に,「7-Zip」(Version 22.01)の結果をグラフ34にまとめておこう。
こちらもCPUコア数が結果に大きな影響を及ぼしており,CPUコア数が多いRyzen 9 7900やRyzen 9 5900X,Core i5-13600Kが比較的好成績である。それに対して,6コアモデルのRyzen 5 7600とRyzen 5 7600Xの伸び悩みが目立つ。
無印版Ryzen 7000シリーズの電力効率は極めて優秀
ここからは,無印版Ryzen 7000シリーズにおける最大の売りと言える消費電力を見ていこう。ベンチマークレギュレーション26に準拠した方法で,アプリケーション実行中におけるCPU単体の最大消費電力をまとめたのが,グラフ35と36だ。
見てのとおり,Core i5-13600Kがダントツに高い消費電力を記録した。CPU負荷がさほど高くないゲームのプレイ中でさえ,190W台後半から200Wを軽く超えていく。またゲーム用途以外では,FFmpeg実行時に250W超というとんでもない消費電力を叩き出しており,これはもう別格といっていい。
また,Ryzen 9 5900Xが3DMarkで,216Wを超える消費電力を記録しているのも目立つ。これはPhysics testで記録した消費電力と思われる。
これらに比べると,本稿の主役である無印版Ryzen 7000シリーズの最大消費電力は穏やかなものだ。ゲームではいずれの製品も100W未満に収まっている。ゲーム用途以外では,PCMark 10やCINEBENCH R23といったテストでRyzen 7 7700の消費電力が100Wを超えているが,それでもPPTに設定されている88Wから考えると,まずまず妥当な結果といえるかだろう。
なお,アイドル時の消費電力は,いずれも20W前後と大差はなかった。ただ,Windows 11 22H2以降,どのCPUもアイドル時の消費電力が高くなってしまっているのが気になる。おそらくWindows側に問題があると思われるので,Microsoftの対応を願いたい部分だ。
次のグラフ37と38は,アプリ実行中の典型的な消費電力を示す消費電力中央値である。
中央値でもCore i5-13600Kは別格だ。ゲーム中でも160Wを超え,FFmpeg実行時には230W超という中央値を記録している。一方,無印版Ryzen 7000シリーズはこちらも穏やかだ。とくにRyzen 7 7700とRyzen 7 7600の場合,ゲーム中はほとんど定格の65Wに収まっている。
ゲーム用途以外では,定格の65Wを超えているアプリが見られるものの,既存のRyzen 7000シリーズに比べればかなり扱いやすいはずだ。
参考までに,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,各テストの実行時におけるシステムの最大消費電力をグラフ39と40にまとめておこう。
ゲーム中のシステムの消費電力はGPUが支配的になり,CPUによる差はごくわずかだが,それでもCore i5-13600Kは600Wを超える消費電力を記録しており,悪い意味で格が違う。一方,無印版Ryzen 7000シリーズは,Ryzen 5000シリーズよりもやや低い消費電力に収まっていることが見て取れる。
評価が分かれそうな無印版Ryzen 7000
Ryzenシリーズの新製品としてみたときには,やはり価格が鍵になりそうだ。無印版Ryzen 7000シリーズの想定売価は,既存のRyzen 7000シリーズの実勢価格よりも3000〜5000円ほど安価ではある。ただ,この程度の価格差だと,液冷CPUクーラー代を考慮してもXモデルを選ぶ人が多いのではないか。
一方,手持ちの空冷CPUクーラーを生かしたい人や,価格はともかく低消費電力のRyzenがほしいという人であれば,無印版Ryzen 7000シリーズはおすすめできる。とくにRyzen 9 7900やRyzen 7 7700は,性能も十分に高く,ハイエンド市場向けGPUとの組み合わせてもボトルネックになりにくい。電力消費の少ない小型ゲームPCを自作したいという人にとっては,惹かれるところのある製品だろう。
AMDのRyzen 9 7900製品情報ページ
AMDのRyzen 7 7700製品情報ページ
AMDのRyzen 5 7600製品情報ページ
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Ryzen(Zen 4)
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