インタビュー
[インタビュー]「メグとばけもの」は構想約10年? Odencatに企画の成り立ちから開発過程の裏話までをまとめて聞いた
ストーリーをはっきり書きたい
そのための戦闘であり,ゲームである
DD:
さて,先ほど見せていただいたRyotaさんが描かれたというイメージと,現在のデザインとはだいぶ違う雰囲気ですが,どうやって変えていったんですか?
Ryota氏:
キャラクターはTomasさんに,ストーリーのプロットなどを伝えて一からデザインしてもらいました。自分が描いたのはあくまでイメージなので,そのまま使うわけにはいきませんからね。Tomasさんには,あのイメージも見せていなかったかもしれません。
Daigo氏:
実は個人的な好みでは元のデザインのほうが好きなんです。
Ryota氏:
僕らは基本的にポップだったり,可愛かったり,イケメンだったりという,明らかに人気が出そうな造形より,ちょっと気持ち悪かったり怖かったりするものが好きですから(笑)。
Daigo氏:
それこそ僕は「メイドインアビス」というアニメが好きで,そこに登場するミーティというとても気持ち悪い造形のキャラが好きなんですよ。見た目は気持ち悪いんだけど,物語が進むにつれて愛着が湧いていって,しまいには泣けるぐらい感動してしまって。
ああいう醜い造形のクリーチャーに感情移入するということに,何かしらの意味を感じているんです。
DD:
ああ,なんだか分かります。
Daigo氏:
実はロイのデザインも,もっとオークっぽい雰囲気で元々は右肩に目もなかったんです。それではちょっと物足りないということで,Tomasさんに「バイオハザード2」のG-ウイルスの映像を見せて「こんな感じ,どうですか?」なんて相談をした覚えがあります。結果,この目も表情豊かで感情を見せてくれることもあってか,けっこうファンが付いたようです。
DD:
この目があるかどうかで印象は違うものになりますよね。物語の終盤に明らかになるロイの秘密にもつながってくる部分でしょうし。
Ryota氏:
確かに,そういういびつさみたいなものと結果的にうまくはまった感じはありますね。
Daigo氏:
お腹に口があるという案もありました。マジックタールをその口から食べるみたいな感じで。
DD:
ちょっとグロいですね。
Daigo氏:
そうなんです。なので,プレイヤーが嫌悪感を抱かないギリギリのところの境界を探しながら,最終的にこのデザインに落ち着いたというところはありますね。
DD:
自分はロイの表情を見られる場面で,ちょっと目が泳いだりとか,切ない感じが表現できているのがすごく好きなんです。
Ryota氏:
あれも最初はなかったんですが,やはりあの場面に関してはできることはなるべくやりたいという思いで,グラフィッカーに表情差分を描いてもらいました。
Daigo氏:
このプロジェクトは最後の磨き上げがなかなかたいへんでしたね。開発中にフィードバックリストをチームで作っていたんですが,最終的に大きなものから小さなものまで合計800個ぐらいになったんですが,ほぼすべて反映できました。
DD:
フィードバックリストから反映するしないの判断は,その都度,議論をするものなんですか?
Ryotaが即断即決で実装するようなこともあるんですけど,Ryotaの意図と違うフィードバックについては,議論になることもありました。
例えば,ヴィクター所長というキャラクターと対峙するとき,彼は白衣を脱いで鍛えている肉体を誇示するんですよ。これについて「いや,シリアスなシーンで脱ぐのはおかしい」と自分は思ったんですね。でもRyotaはその表現に対して強いパッションを持っていて,いろいろと議論を重ねた結果,ああいう形になりました。でも結果,すごく真面目なシーンなのに変なことをやっちゃう感じが「MOTHER」っぽさに通ずるところもあったようで,プレイヤーさんの評判も良いですね。
DD:
自分はそんなに違和感なく,「ああ,この人もいつか起きるかもしれない戦闘に備えて鍛えているんだな」と思って眺めていました。「魁!!男塾」という漫画でも,脱いだら実は筋骨隆々みたいな描写が多かったので,それに慣れていたからかもしれませんが(笑)。
Ryota氏:
実は当初,ストーリー上とても重要なのに所長のキャラクターが薄かったんですね。そこで何かしら特徴付けをしたいと考えているときに,Tomasさんがデザインしてくれた所長の顔つきを見てみると,逞しそうな雰囲気だったんですよ。そこでいっそ筋肉属性にしてしまおうと。そこから,魔物の強い肉体に憧れて自分も体を鍛え,さらにそこに科学の力が合わさって……みたいな所長のバックボーンにある物語が浮かんできたんです。
そのうえで,えぐいことをやっている人間なんだけど,戦闘時にふざけたことをするというギャップが,自分の中でとてもハマっていました。なので,そこを譲ることはできなかったんです。
DD:
そして結果,受け入れられたというのは嬉しいでしょうね。
そういえばこの作品は,戦闘で物語が大きく展開する場面も多いですよね。ここにはどういう意図があったんでしょう?
Daigo氏:
戦闘をストーリーに生かすというのは,初めから大事にしていたものではあります。
Ryota氏:
ただ,戦闘中に重要なイベントを入れようと強く意図していたわけではないんです。戦闘の中に会話のやりとりや物語性を入れるためには,物語の核心というか,重要な情報を入れる必要があると考えて,詰め込んでいったイメージです。
DD:
自分の勝手な印象では,伏線があって,それが戦闘で解明されていくような感覚があったんですよ。それこそ「古畑任三郎」のような。
Ryota氏:
そこは全然意図してませんでした(笑)。
DD:
そうだったんですね。自分は一応戦うことを職業としているんですが,戦いの中でストーリーを見せなきゃいけない部分があるんですよ。戦う理由みたいなものは試合の外でも描けますが,戦いを通じてストーリーを組み立てていくことが重要で。メグとばけものは,戦闘でそういった表現をしているのかな? と感じていたんですが,そこまで狙ってはいなかった,と(笑)。
Daigo氏:
まあ,確かに捨てバトルはないですね。そこに関しては,やっぱり「UNDERTALE」の影響が強いかもしれません。あの作品はナラティブが上手なゲームだったので,そこは素直に参考にしています。ただレイアウトとか,見た目は同じにしたくなかったので,独自性のあるものを目指しました。
DD:
自分もUNDERTALEはやったんですけど,心への残り方はメグとばけもののほうが強かったんです。
Daigo氏:
UNDERTALEのほうがもう少しゲームっぽくて,メグとばけものはストーリー重視という立ち位置の差があるからかもしれないですね。
主人公への感情移入という意味でも,ロイは自分で話すキャラクターなので,どちらかというと映像作品に近いかもしれないです。
DD:
言われてみるとその感じは映像作品に近いかもしれないですが,ちゃんとゲームを遊んだ満足感も得られたんですよ。そこは素直にすごいなと。
Daigo氏:
我々はこういうのが好きなんですよね(笑)。好きだから,作っていても楽しいですし。
良くも悪くも,ストーリーが分かりやすいというのは大きいと思うんですよ。海外にもドット絵を使用しているインディーズゲームは多いですが,ストーリーはけっこうふわっとしていてプレイヤーの想像に任せる余地が大きかったりして,それはそれで面白い描き方ではあるんですけど。
でも自分としてはストーリーをはっきり書きたいという思いが強くて,そのための戦闘システムであったり,そのためのゲームであったりという部分は確実にあります。
Daigo氏:
短いので無駄が省かれているというのも,ストーリーがすんなり受け入れられる理由かもしれないです。
DD:
想像する余地がゼロではないけど,ちゃんと言いたいことを言ってくれているような,伝えようとしてくれているような印象はあります。
何かメッセージを伝えたいというより
好きに何かを感じてほしい
DD:
Odencatさんって,Daigoさん中心のくまのレストランやフィッシング・パラダイスにしろ,Ryotaさん中心のメグとばけものにしろ,けっこう“死”というものに向き合った作品が多いと思うんですが,それはあえて狙っている部分なんでしょうか。
Daigo氏:
とくに「こうしよう」という意思は共有していません。ただ……確かにぼやかさずに描いていましたね(笑)。
これはOdencatというより私の意見ですが,何事にもトレードオフは必要だと思っているんです。何か幸せなことがあったとき,それによって何かを失っているべきだと思っているところがあって。なので,光と影みたいなものをきちんと描こうとすると,死というものも自然と選択肢の一つに浮かび上がってきます。それに死って,全世界の人間にとって共通して避けては通れないものですし。
DD:
メグとばけものも,まさにそうでしたよね。ネタバレになるのであまり言えませんが。得たものだけではなく失ったものも描いていて。
Daigo氏:
まあ,間違いなく我々の好みはありますね。すべてがうまく収まって全員がハッピーというのは,あまりやりたくない。
Ryota氏:
自分もバッドエンドは嫌いじゃないんです。それでもそこにある程度の光が見える,余韻を残す終わり方みたいなものを目指した結果,今回はこういう形になったのかなと思っています。さっきDaigoが言ったように,ハッピーになるための代償として失うものがあったほうが,ストーリーに説得力とリアリティが生まれて,感情移入もしやすくなると思うんですよね。
Daigo氏:
バトル漫画でも,超強い能力を使う人が,何のコストも払わないとなったら,面白くないじゃないですか。例えば剣を振る度に何かを失うという設定があってこそ,そのキャラクターの強さに説得力が出てくると思うんです。要するにそういうのが好みだってことなんですよ(笑)。
DD:
確かに。
ではちょっと質問の角度を変えさせてください。メグとばけものに関して,プレイヤーにどんな気持ちになってほしいと思って作っていましたか?
Ryota氏:
実は開発中,このストーリーを通じて伝えたいメッセージは何だろう? みたいな議論もしたことはあるんですが,正直,自分の中には何か強く主張したいものがあってゲームやストーリーを作っているという感覚はあまりないんです。細かくシーンごとで言えば,「ここではこういうことを考えてもらえたら面白いかもな」ぐらいの狙いはあるんですけど。
開発チームの中でも,ストーリーから解釈したテーマが人それぞれで複数の受け取り方があったんですよね。それもあって,こちらが何か一つの正解を決めてしまうのも,あまり良くないんじゃないかと思っています。
DD:
確かに,作り手が正解を一つに決めてしまうと,違う感じ方をした人が不正解ということになりかねないですもんね。そうすると作品の受け取られ方の幅が狭くなってしまう可能性もありますし。
Ryota氏:
プレイしてくれた人が「感動した」とか「泣いた」とか,「伏線の回収がすごい!」みたいに言ってくれるのは本当にめちゃくちゃ嬉しいので,とにかく一喜一憂していただけたら幸いです! ぐらいの感じなんです。
DD:
Odencatさんは皆さん,そういう考え方なんですか?
Daigo氏:
自分が中心で作ったものに関しても,メッセージ性は後付けかもしれないですね。レビュワーの方がテーマを掘り起こして見つけてくれることもありますけど,結局そういうのを文章にできないから,小説ではなくゲームを作っているのかもしれないです。
なので,メッセージ性みたいなものは,もやっとした感じでいいのかなって。こうしたらエモいよね,これはエモくないね,みたいなものの積み重ねで作っているところもあるので。
DD:
そう考えると,この5〜6時間もあれば終わるというのは絶妙なボリュームかもしれないですね。エモさとエモさをうまくつなぎ合わせて一つのパッケージとして表現するうえで,破綻が生まれにくいというか。
Daigo氏:
それが能力の限界なのかもしれないですけど(笑)。
DD:
いやいやいやいや。ゲームに注ぎ込まれたエネルギーを余すところなく受け止められる,ちょうどいいボリュームな気がします。
Daigo氏:
さすがに1〜2時間だと短すぎるから,やっぱり5時間ぐらいがちょうどいい気はします。こんなにゲームがたくさんある時代に,100時間費やしてもらうのも申し訳ないですし。
ただ,やり込み要素でプレイ時間を増やすようなことは,今後の課題かもしれないです。
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