インタビュー
[インタビュー]武内駿輔さんは「Rise of the Ronin」で坂本龍馬をどのように解釈して演じたのか。役作りの苦労や裏話を聞いた
今回,PlayStation Blogほか複数メディア合同で武内さんから,本作の収録における役作りや,収録時の苦労,武内さんが抱いた坂本龍馬像などについて話を聞いた。
「Rise of the Ronin」公式サイト
「Rise of the Ronin」販売ページ(PlayStation Store)
これまで演じられてきた坂本龍馬に共通する“童心”
そこにある種の“軽薄さ”を加え,新たな坂本龍馬に
──初めて「Rise of the Ronin」の坂本龍馬というキャラクターを見たときに,どう思われましたか?
武内駿輔さん(以下,武内さん):
僕が見てきたフィクションの世界の坂本龍馬は,武骨というか,男臭さがすごくある人でした。自分の見た目もあまり気にしなさそうで,情熱とか志みたいなものに誇りを持っていて,そこに周りの人を巻き込んでいく。そんな人物像を多く見てきたような気がします。
「Rise of the Ronin」の龍馬は,"イケおじ"とでもいうのでしょうか(笑)。恰好もおしゃれですし。皆さんがイメージする今までの龍馬像を崩さないまでも,自分自身でこの龍馬を操作してみたいとか,この龍馬と一緒に戦ってみたいとか,そう思わせる魅力を持ったキャラクターだと思いました。
言動もそうですよね。遊び心があるというか,ほかの作品の龍馬よりもノリがちょっと軽かったり,茶目っ気があったり,母性本能をくすぐるような仕草や表情を見せます。そのあたりが愛くるしくもあって,良いキャラクターですよね。
──実際の坂本龍馬に関して事前のイメージはどのようなものでしたか? また,ご自身で調べられたことや,生かされたことはありますか?
武内さん:
歴史上の人物なので,媒体によって坂本龍馬に対する解釈が違うんですよね。いろいろと調べましたが,実はこういう人間だったとか実際の人物について考えるよりも,「Rise of the Ronin」の龍馬をどれだけ魅力的に演じられるかに力を注ごうと思いました。
いろいろな役者さんが演じた龍馬も拝見して,何となく共通する龍馬像──しゃべりのテンポ感や人情味のあるイメージは,ある程度参考にはしています。たとえば武田鉄矢さんはご自身が龍馬好きであることを公言されているので,そういう龍馬が好きな方のインタビューを見たり,龍馬について解説している人の龍馬に対する思いを読んだりもしました。そういう方々にも本タイトルの龍馬を愛していただきたかったので,龍馬のイメージにある種の統一感を持たせつつ,新しい龍馬像に仕上げられたらと思いました。
──ゲーム開発スタッフからキャラクター作りの指導などはありましたか?
武内さん:
見た目はけっこうダンディですが,あまり渋くならなくていい,という指導はありました。例えば,日本を変えていく自分の夢を語るところで,政治的なニュアンスを強くするのではなくて,発明家のようなテンション感で演じるような。みんなで会議をしているときも,「こうしたらええと思っちょるが,おまんはどうじゃ」とか,龍馬だけテンションが違うんですよね。頭の中にイメージやアイデアが先行して浮かんでいる,そういう感じを大切にしました。
あとは女性にデレデレなところとか,呑むときはとことん呑んで「でへへ」みたいになっちゃうところとか。でも,ただのちゃらんぽらんな人間ではなくて,自身の目的を遂行するための芯が通っている。収録ではそういうところを照らし合わせながら,「今のはグデグデ過ぎますかね?」とか「ちょっと恐くなっちゃいましたね」とか,スタッフの皆さんと一緒に調整していきました。
──収録ではどんなことが印象に残っていますか?
武内さん:
そこはもう,とにかく土佐弁ですね(笑)。僕は東京出身なので,方言が難しかったです。今までもいろいろな方言のキャラクターを演じてきて,富山弁や鹿児島弁なども経験しましたが,その中でも土佐弁は一番難しかったかもしれません。
よく聞く「おまん」という単語も,その後ろに続く文章によって,平板になったり「おま(↑)ん」と中高になったりするんです。なので,一つの発音を学んでも,「いや武内さん,この場合はこういうイントネーションになるんです」と言われたりして,けっこう大変でした。事前に全部のセリフを監修の方に読み上げてもらって,それを聞いてからスタジオに入るんですけど,メモだけだとどうしてもうまくいきませんでしたね。
あとは,言葉の立てどころ。細かい違いもあるので,イントネーションだけ真似しても,ネイティブの方にはなかなか近付けません。そのため収録のときも,監修の方にセリフを読んでもらって,僕がそれをオウム返しで再現するみたいな形になっていました。ゲームをプレイされた中に土佐弁ネイティブという方がいれば,ぜひ感想を聞いてみたいです。
ちなみに,土佐弁を監修してくれたのはコーエーテクモゲームスのスタッフさんで,土佐出身でこの時代についても勉強されている方でした。僕と同じ分量のセリフを読んでもらったので,相当大変な作業だったと思います。僕一人の作業というより,二人の作業という感じで,終わったときはお互いにねぎらい合いました(笑)。
──印象に残っているゲーム内イベントなどありますか?
武内さん:
僕は知ってますよ。みなさんが龍馬とどういうことをしようとしているのかを(笑)。まさかのキャラクター達との親密度によってロマンティックなイベントがあるということで,本編以外のところも盛り上がっていますよね。
僕も台本を読んで「こういうイベントもあるんだ」と知っていましたが,収録する段階ではロマンス系の映像がまだ出来上がっていませんでした。シチュエーションの細かい指定もなかったので,なんとなくの距離感をイメージして演じましたが,実際の映像を見たら「こんなに近い距離感だったんだ!」とか「こんな肌着みたいな姿なの!?」とか,これはドキドキしちゃいますよね。
これまでの幕末のお話だったら,男同士が血と汗と涙を流して,自分の志のために戦う,そんな印象が強かったと思います。でも,親密度が上がるイベントが導入されることによって,当時の人達のリアルな心情を想像できるような奥行きが生まれたのかな,と。だからこそキャラクターに愛着が湧くと思いますし,すごくよい試みだと感じました。一見するとゲームに関係のないイベントに感じるかもしれませんが,それがあることによって,ストーリーの本筋がより楽しくなります。実際にユーザーの皆さんが,そこに興味を持って喜んでくださっているのを見ると,すごくうれしいですね。
4Gamer:
数々の作品で演じられてきた坂本龍馬と,今回,武内さんが演じた坂本龍馬の共通点と違いはどこにあるでしょうか。また,どんなことを意識して演じられましたか?
武内さん:
共通点でいうと,子供っぽい気持ちをずっと持っていた方という部分でしょうか。その童心みたいなところは,彼の原動力にもなっていたでしょうし。僕は“童心”というものを,今あることに対して常に疑問や好奇心を持つことだと思っています。今回の龍馬も,エンディングシーンでキラキラとした表情をしながら町並みを見渡すシーンがありますが,誰かに自分の思いを伝えるときに説教くさくならないんですよね。自分の情熱を伝えるのもうまい人だと思いますし,そのあたりの子供っぽい表情や情熱みたいなものは,共通点として表現できたと思います。
自分ならではのところでいうと,ある種の“軽薄さ”というか,現代的なニュアンスを入れてみました。ベースとしては当時の時代感を背負っていて,桂 小五郎の子安(武人)さんとか高杉晋作の小西(克幸)さんのしゃべりは芯の通った武士の伝え方になるんですけど,龍馬だけはみんなと並んでいる中で不思議なしゃべり方に感じられるような。でも,現代に生きている僕らも,自分達のしゃべり方が最新のつもりでいるけど,10年,20年経ったら違う言葉遊びや流行語が増えていると思うんですよね。龍馬本人は過去よりも未来の希望を持っていた人物だと思うので,そういう意味で,当時のルールだけに縛られない雰囲気を取り入れてみようと思いました。
PlayStation 5という最新のゲーム機ですから,映像もフィルム感とか砂嵐のある雰囲気ではなくて,ハイクオリティで解像度が高く,衣装の布の質感までよく描かれていますよね。その意味でも,現代的なカメラでとらえたときの坂本龍馬を表現したいと思いました。
4Gamer:
坂本龍馬に関するシーンの中で印象に残っているものや,関わるキャラクターの中でお気に入りの人物がいれば教えてください。
武内さん:
遊郭に行ったときのシーンは印象に残っていますね。僕はあの雰囲気,好きなんですよ。とくにスケベなわけでもなくて,可愛い女の子とお酒を飲むのが楽しい,みたいな。だから女性キャラクターとの関わりは,演じていて楽しかったですね。
でも,僕の中では主人公(浪人)に対する思いを強く持っていて,主人公と目的を共にしたりサポートしたりとつながりが深いので,一番はやっぱり主人公です。
──「Rise of the Ronin」のファンに向けてメッセージをお願いします。
武内さん:
僕にはこれまで,時代物のゲームは歴史好きの人が主に遊ぶものというイメージがありました。ですが「Rise of the Ronin」が発売されて,遊んだユーザーさんがたくさんコメントしているんですよね。「あのキャラクターと一緒に戦えるよ」とか,みんなでコメントしていて,いい意味で間口の広いゲームだと思いました。歴史好き以外でもいろいろな人にプレイいただきたいと思いますし,ヘビーユーザーの皆さんには,コーエーテクモゲームスさんやSIEさんに「続編はまだですか!」と要望を送ってほしいですね(笑)。
あとはゲームの仕組みとして,幕末だけではなくて,いろいろな時代や設定でシリーズ化が望めるゲームだと思いました。それだけの作り込みをしていますし,もっともっと遊んでいただいて間口もどんどん広がって,そういう展開になったらいいなと思います。ぜひ,これからも引き続き楽しんでいただければ幸いです。
最後に,コーエーテクモゲームスのTeam NINJA ブランド長であり,本作の開発プロデューサー / ディレクターを務めた安田文彦氏から,武内さんへの取材を受けてのコメントを寄せていただいている。最後にこちらを紹介しよう。
1)「Rise of the Ronin」の坂本龍馬に武内駿輔さんを選ばれた理由は?
「Rise of the Ronin」において,坂本龍馬はゲーム内のほかのキャラクターからはもちろん,プレイヤーの皆さんからも信用され,好感を覚えてもらえるような存在で,間違いなく最重要キャラクターの一人です。さらに,コミカルな演出からシリアスな場面,ロマンスまでセリフ量も膨大で,どなたに声の出演をお願いするべきなのか,正直決めかねていました。
そんな中,これまで「仁王」シリーズなどTeam NINJAタイトルでご一緒させていただいている音響監督の方から,キャスティング検討の際に武内さんを推薦していただきました。お若いながらも深く,遊び心も感じさせる雰囲気の声や幅広い演技はもちろん,バラエティ番組などで活躍されている姿も拝見し,今作の龍馬を演じていただくのにピッタリだと思い,お願いさせていただきました。
2)実際に声をあてられたときの武内さんの印象は?
武内さんの最初の収録は,主人公と龍馬が横浜の洞窟で出会う場面でした。収録が始まり,龍馬のセリフが入ってすぐに「ピッタリだね」と同席していたスタッフ皆で同意したのを覚えています。独特な特徴を持つ土佐弁には苦心されていましたが,長期間の収録の間に,うますぎるいろいろなモノマネも織り交ぜながら,楽しそうに演じられていた姿は今も強く印象に残っています。
3)今回の武内さんのインタビューの内容について,ご感想をお聞かせください。
インタビューを拝見して,タイトルのテイストや場面ごとのトーン,ほかのキャラクターとの関係性まで,われわれ開発者の意図や狙い以上に,武内様がイメージをふくらませ,こだわって演じてくださったのだとあらためて知ることができました。音声収録の時点ではゲーム内の画が完成していない場面も多かったのですが,収録させていただいた音声を実装しながら開発を進めていきましたので,ゲームでは武内さんのイメージをできる限り再現できているはずだと信じています。
また,あらためて全編土佐弁で演じてくださったことには本当に感謝しています。収録の裏話もいくつか言及されていましたが,当社の土佐弁監修の担当スタッフが実際に土佐弁でセリフを読んでアクセントをお伝えして,武内さんが演じるという流れで収録の多くを進めていったのですが,当社スタッフの演技が,武内さんの演技に引っ張られて少しずつうまくなっていくのも収録中の楽しみの一つでした(笑)。
なお,6月12日までPlayStation Storeで開催中の「Days of Play」セールにて,「Rise of the Ronin」は発売後初のセール価格として通常版が25%オフの6735円(税込),デジタルデラックス版が23%オフの7684円(税込)で販売されている。またパッケージ版も店舗によっては割引販売されているので,この機会をお見逃しなく。
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