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「風来のシレン」シリーズに実装された,ローグライクの先入観を乗り越えるコミュニティ機能の柔軟な発想とは?[CEDEC+KYUSHU 2024]
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印刷2024/12/10 08:30

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「風来のシレン」シリーズに実装された,ローグライクの先入観を乗り越えるコミュニティ機能の柔軟な発想とは?[CEDEC+KYUSHU 2024]

 「風来のシレン」シリーズで,友達と助け合う「風来救助」や17年前にゲーム配信を実現した「LIVE機能」,そして最新作の「パラレルプレイ」など,今ほどにネットが発達していなかった時代から,その歴史はプレイヤー同士をつなぐコミュニティの歴史でもあった。

 こうした機能について,スパイク・チュンソフトの篠崎秀行氏による講演「『不思議のダンジョン 風来のシレン』におけるコミュニティ機能とその変遷」が開発者向けカンファレンス「CEDEC+KYUSHU 2024」で行われた。本稿では,その内容をお届けしよう。

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「風来救助」から始まった「風来のシレン」シリーズのコミュニティ機能


 「風来のシレン」は1995年から展開されているローグライクのシリーズで,プレイヤーは「風来人」となり,入るたびに形が変わるダンジョンに挑んでいく。シングルプレイのゲームではあるが,「風来救助」を始めとしたプレイヤー同士を結び付ける工夫でも知られている。
 本講演を行った篠崎氏は旧チュンソフト時代からずっとシリーズに携わってきた人物であり,氏が過去作と最新作からコミュニティ機能をピックアップ,その概要と背景を紹介した。

スパイク・チュンソフトの篠崎秀行氏
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●「風来救助」

 シリーズ4作目となる「不思議のダンジョン 風来のシレンGB2 砂漠の魔城」(2001)から導入されたシリーズにおけるコミュニティ機能の元祖で,改良を加えられ続け,現在もコミュニティを支援し続けている。

 通常,ダンジョンで倒れるとゲームオーバーとなり,集めた道具は失われ,レベルも初期状態に戻る。これはローグライクのお約束だが,この機能ではほかのプレイヤーに救助してもらえればプレイを続けられる。シングルプレイがメインとなるローグライクでプレイヤー間に結びつきを作り出したシステムである。

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 当初の仕組みはパスワードを利用したものだ。ダンジョンで倒れたプレイヤー(依頼者)が救助依頼の「じゅもん(パスワード)」を発行し,次にほかのプレイヤー(救助役)が自分のゲーム機でパスワードを入力すると,依頼者が倒れたのとほぼ同じ構造のダンジョンへ救助に赴ける。
 救助役が依頼者のところにたどり着ければ救助は成功。依頼者はプレイを継続でき,救助役はそれまでに手に入れた道具を持ち帰れるのに加えて「ごほうびアイテム」をもらえる。

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 「風来救助」は,力尽きてもその場からやり直したい,仲間を助けたいというニーズを満たすと同時に,救助成功によって「依頼者よりもうまくプレイできた」ということを言葉にせずに伝えることにもなる。ゲーム性とマッチした「風来救助」は,なくてはならない機能として成長することとなった,と篠崎氏は評価する。

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 実装にも工夫があった。同作の対応機種はゲームボーイカラーで,現代のようなネット機能はない。2機をつなぐ通信ケーブルでのやり取りはできるものの,これだけでは遠くの人を助けられない。
 そこで導入されたのが,パスワードを使う仕組みだ。公式サイトには「相手がすぐ側にいなくても、メールや電話、FAX等でも助けを頼むことができるぞ」という一文もあり,当時の雰囲気が色濃く感じられる。

 スタッフにも「風来救助」は目玉機能になるという確信があり,広告でも大きくフィーチャーされることとなったという。
 個人的には,通信ケーブルでも構想した機能を実現できているところに,「遠隔地の友達同士で助け合う」さらなる理想を追求してパスワードの仕組みを作ったことが,シリーズのヒットの一因であると感じられる。

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 その後,「風来救助」の仕組みはゲーム機や時代の変化とともに発展を続けている。
 ネットに対応したニンテンドーDS用の「不思議のダンジョン 風来のシレンDS」(2006)では,救助に関するデータを独自サーバーでやり取りできる仕様になり,依頼者と救助者がお互いを探す手間がなくなった。

 PSP用「不思議のダンジョン 風来のシレン4plus 神の眼と悪魔のヘソ」(2011)では,Twitterのハッシュタグで救助依頼をつぶやける。救助依頼に加え,スクリーンショットを添付するTwitter連携機能も用意されており,SNS上での露出が増える効果も。加えてメーカーが独自サーバーを準備しなくていい。
 一方,良いこと尽くめのはずが,Twitterの仕様が繰り返し変更され,そのたびに大きな手間を掛けてゲームを更新することになったという。

 PSPがアップデートに対応していたから良かったものの,そうでなかったら「ゾッとする」と篠崎氏は話し,「他社サービスを使う場合は,仕様変更が難点となるため,気を付けてほしい」と受講者に呼び掛けた。

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●「オンライン番付」

 PC用「不思議のダンジョン 風来のシレン 月影村の怪物 インターネット版」(2002)では,ハイスコア機能「風来人番付」がオンラインに対応し,スコアをサーバーにアップロードすることで,全国のプレイヤーと競い合えるようになった。一方で,改造データによる不正スコアの問題が浮上した。
 その後も,オンライン番付を実装したいと思いつつ,改造データ対策に思い悩む状態が続くことになったという。篠崎氏は「コミュニティを楽しんでほしいという気持ちはありつつも,一部の人に荒らされるのは残念であり,難しい問題」と語った。

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●「問題作成キット」

 こちらも「不思議のダンジョン 風来のシレン 月影村の怪物 インターネット版」のコミュニティ機能で,パズル的な攻略を求められるステージ「フェイの問題」をプレイヤーが自作・配布できるというものだ。
 開発者が問題を用意するには限界があるが,これならより長くゲームを楽しめる。

 PC版はキーボードとマウスで操作できるため問題を作りやすく,ファイルを自由にやり取りできるので配布も容易である。ハードの特性とうまくかみ合った「作る楽しさと遊ぶ楽しさ,両方が得られる,とても良いコミュニティ機能」であると篠崎氏は高く評価した。

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●「LIVE機能」

 フィーチャーフォン(ガラケー)用アプリ「不思議のダンジョン 風来のシレンLIVE」(2007)では,ネットを介して自分のプレイを配信できる「LIVE機能」が追加されている。

 視聴者はプレイの様子を見ながらコメントを送ることもでき,まるで現在のゲーム実況を10年ほど先取りしたようにも思える。動画ではなく状況再現機能を使った一種のリプレイであるため,通信量も少なく済むのもメリットで,実に先進的な取り組みだと言える。

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●「ライブ探索表示」

 「不思議のダンジョン 風来のシレン5plus フォーチュンタワーと運命のダイス」のSteamおよびSwitch移植版(2020)で登場したもので,ゲーム画面を少し小さくし,空いたスペースにさまざまな情報を表示できるようにした。
 本作は移植版であるため大きな仕様変更がしづらいが,その中でウリを作ろうということで篠崎氏が提案した機能である。

 発想のきっかけは,氏が「シレン」シリーズの実況配信を見ていたときに,さまざまな情報を表示する独自の画面フォーマットを使う人がいたことだ。それなら,ゲーム側でオフィシャルに(表示画面を)用意できれば,配信が楽になるだろうということで実装されたという。
 これは配信をしないプレイヤーからも利便性の高さが好評を博し,続編でもさらに改良が加えられることとなった。

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コミュニティ機能にはさらなる改良が加えられ

最新作でも風来人たちをつなぎ続ける


 Switch用の最新作「不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録(以下,シレン6)」(2024)では,過去作からの流れを汲んだ機能がコミュニティ形成に役立っている。篠崎氏は同作の「救助システム」「自分救助」「ライブ探索表示」「パラレルプレイ」といった機能について解説した。

●「救助システム」

 基本的な部分はそのままにしつつ,「救助のしやすさ」を軸とした再構成が行われている。
 これまでは,救助役が自分の道具を持ち込め,出先で得た道具についても持ち帰れた。しかし,道具を持ち込むには準備が必要であり,もし出先で倒れた場合は道具が失われてしまう。
 そして「シレン6」の開発サイドには「道具をあまり持ち込まず,繰り返し力尽きつつも知識を得てゲームを進めてほしい」という考えがあった。プレイヤー自身の成長はローグライクにおいて重要であり,「シレン」シリーズでも追及されてきた部分だ。
 こうした理由から「シレン6」の救助システムでは道具を持ち込めなくなり,気軽に救助へ赴けるようになった。

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 しかし,これだけでは救助が難しくなっただけであり,プレイヤーのメリットが薄い。そこで導入されたのが新要素「救助の奥義」と「奥義ポイント」だ。救助に赴けば,成功失敗を問わず奥義ポイントがもらえる。これを次の救助の際に使えば能力アップを始めとしたさまざまな恩恵を受けられ,ときには道具を持ち込むよりも強くなれるのだ。

 ゲーム作りにおいては,開発サイドが想定するプレイスタイルにこだわるあまり,プレイヤーの視点や感情がおざなりになる例も少なくない。この取り組みではそうした部分に配慮されていることがポイントであると個人的には感じられる。

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●「自分救助」

 自分で自分を救助できるという,コロンブスの卵的な新機能。コアプレイヤーの中には,ソフトとハードをもう1組購入して自分を救助するという例が見られたことからの実装だ。

 ソフトが多く売れるのは確かだが,開発側としては救助のために1人が複数買いするような状況を望むものではないと篠崎氏。1本のソフトで自分を救助できれば手っ取り早いのだが,自分だけですべてが完結したのでは,コミュニティの活性化が妨げられかねない。そこで,自分救助では奥義ポイントを得られないという現在の仕様となった。

 長年受け継がれてきた救助の仕様を変えるには覚悟も伴い,とくに奥義ポイントに関しては最後の最後まで試行錯誤を繰り返したという。今後どうなっていくかは,新作のコンセプト次第とのことだ。

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●「ライブ探索表示」

 好評を博した情報表示を改良した。情報の多い「標準版」に加え,前作で明らかになった「配信はしないが情報表示はほしい」というニーズに対応し,情報は少ないがプレイ画面が大きくなる「簡易版」が用意された。
 そして,10月末のアップデートでは,画面サイズと情報を両立した新たな表示形式も登場した。これは同作のディレクターから「どうしてもやりたい」という希望が出たことがきっかけであるという。

 篠崎氏は「こうした機能を無料アップデートする例はあまり聞かない」と語るが,筆者としても,こうした既存プレイヤー向けアップデートの効果は,売り上げの数字として直接的に現れにくい側面があると感じられる。
 しかし,アップデートを作るにもタダとはいかないなか,それでもコミュニティの満足度を上げるアップデートを行うあたりに,シリーズが愛され続ける理由の一端があると思える。

情報の多い「標準版」。赤枠は目玉となる武具の印(特殊効果)表示
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「配信はしないが情報表示はほしい」人向けの,画面が大きい「簡易版」
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10月末のアップデートで追加された表示形式。赤枠は「標準版」の表示エリア。画面が大きく,武具の印も表示されている
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●「パラレルプレイ」

 ネットを介してプレイ途中のデータを共有し,さまざまな遊び方ができる新機能だ。
 プレイヤーは好きなタイミングで「パラレルデータ」を作成でき,サーバーにアップロードすると「パラレルID」を受け取れる。このパラレルIDをほかの人に教えると,その人はパラレルデータの続きからプレイできる。

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 ピンチになった状態のパラレルIDをSNSなどに書き込み,上級者に助言を仰ぐようなこともできる。パラレルIDを受け取った人がゲームを進めて新たなパラレルデータとパラレルIDを作り,また別の人にそれを教える……といった,リレーのようなプレイも楽しめる。

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 つまり「同じダンジョンを複数人で同時に遊べる」ということで,この特性を活かした「公式パラレルプレイ」というイベントもこれまでに6回開催されている。
 これは公式から提示されるパラレルIDでプレイするというもので,その内容は最初から道具を持っていたり,高難度だったりとさまざまだ。高難度のものについては公式サイトに達成者の名前を掲載するなどの取り組みも行われている。

 こちらは篠崎氏がRTAを見ていたときに「公平性のある条件でプレイできれば楽しいのでは?」と発想したことから追加されたもので,今後もさらなる展開を行っていくとのことだ。

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 なお,「シレン6」は12月12日にSteam版も配信される予定だ。本作のコミュニティ機能に興味がある人は,プレイしてみるのも面白いのではないだろうか。

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 「風来のシレン」ではさまざまなコミュニティ機能が作られていったが,篠崎氏は「その時代が求める遊びや流行を見て,じっくり考えて模索していったのが,シレンのコミュニティ機能の変遷の結果ではないか」と総括し,講演を締めくくった。

 これは個人的な感想になるが,最初の風来救助は開発者やゲーマーが陥りがちな先入観を柔軟な発想で乗り越えることで実装できた,重要な機能であると感じられる。
 「ローグライクは1人で遊ぶもの」「他人の助けを借りるのは邪道」というジャンル特有の先入観と,「ゲーム機にそうした機能がないからコミュニティは作れない」といった思い込みで止まってしまうのではなく,ローグライクのプレイ感を損なうことなく,「みんなと遊びたい」という普遍的な願いを追求したことで,シリーズが愛され続ける理由の1つになったのではないかと思える。

 篠崎氏自身が指摘するとおり,装備を保ったままのやり直しはローグライクの根幹を揺るがしかねないものであるのは事実だ。
 しかし,「やり直したくなることもある」「みんなと遊びたい」といったプレイヤーの願いと「ローグライクはやり直しを許さないからこそ魅力が増す側面のあるジャンル」という部分を天秤にかけたとき,前者を選択できたのは,プレイヤー側に立った視点と柔軟な発想があってこそではないだろうか。
 長期にわたってアップデートが続く運営型ゲームが増えるなか,「シレン」シリーズのジャッジからは学ぶべきところも多いのではないか……と感じられたのだ。

「CEDEC+KYUSHU 2024」公式サイト

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