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もう「ゲームで遅い」とは言わせない? 新型SoC「Kirin 980」をHuaweiが発表。搭載製品「Mate 20」は10月16日に発表と予告
この発表は,Huaweiのデバイス部門社長を務めるRichard Yu(リチャード・ユー)氏が行ったもので,Kirin 980を採用するフラッグシップシリーズ「HUAWEI Mate」の新製品を,2018年10月16日にロンドンで発表することも明らかにしている。
2017年の場合,AI処理専用ユニット「NPU」を統合して話題を呼んだSoC「Kirin 970」を2017年8月末に始まった「IFA 2017」に合わせて発表。続く2017年10月にドイツ・ミュンヘンで行ったイベントで,最初の搭載スマートフォンとなるHUAWEI Mate 10シリーズを発表するという流れだった。
なお,Kirin 970は2018年3月発表のHUAWEI P20シリーズでも採用しているので,今回のKirin 980も同様に,HuaweiのフラッグシップモデルであるMateシリーズとPシリーズの両方で採用となる可能性が高そうだ。
世界初ラッシュの新型SoC Kirin 980
いずれも「自社調べ」という注釈はつくもものの,Kirin 980は,世界初づくしのSoCだ。Yu氏が挙げたKirin 980の“世界初”は,以下に示した6種類もある。
- 7nmプロセス技術で製造
- Arm製CPU IPコア「Cortex-A76」
- AI処理専用ユニットNPUを2基統合した「Dual NPU」
- Arm製GPU IPコア「Mali-G76」
- LTE Cat.21対応で帯域幅最大1.4Gbpsのモデム
- LPDDR4X 2133MHzのサポート
Huaweiが実施したベンチマークテストによると,競合となるQualcomm製「Snapdragon 845 Mobile Platform」(以下,Snapdragon 845)と比べても,より高性能で,より省電力を実現しているという。
とくに興味深いのは,CPUコアの構成だ。ArmアーキテクチャのCPUを使うハイエンドSoCの場合,高性能コア(big)と高効率コア(LITTLE)を計8基組み合わせた「big.LITTLE」構成を採用するものが多い。その場合,bigとLITTLEの構成は,4対4となるのが一般的だ。ところがKirin 980の場合,bigを2基,LITTLEを4基に加えて,「Middle」と称するCPUコアを2基という,新しい構成を採用したのである。
bigとMiddleは,いずれもCortex-A76を用いているが,big側のCPUコアは最大動作クロックが2.6GHzで,Middle側は同1.92GHzと分けて差別化しているという。一方,LITTLEの部分は「Cortex-A55」で,最大動作クロックは1.8GHzとのことだ。
big,Middle,LITTLEの3種類でCPUを構成したのは,アプリケーションのワークロードごとに必要なCPUコアの組み合わせを柔軟に変えて,性能と消費電力のバランスを取るためである。たとえば,音楽を再生し続けるだけなら,LITTLE側を1個動かすので足りるが,SNSアプリを使うときは,Middle×1,LITTLE×3程度まで動かすCPUコアを増やす。処理負荷の高いゲームになると,全CPUコアを稼動させるといった具合だ。
既存SoCとの性能比較としてYu氏は,アプリケーションの起動にかかる時間を計測したグラフを例に挙げた。ミリ秒単位の差ではあるが,メジャーなSNSアプリの起動は,いずれもKirin 980がSnapdragon 845を上回るということだ。
ゲーム性能でもSnapdragon 845に匹敵?
さて,一般的なアプリケーションにおける性能が優れているのは分かった。だが,4Gamer読者にとって重要なのは,「ゲームの性能はどうなんだ?」という点だろう。
現行世代のSoCである「Kirin 970」は,総合的にはハイエンドと呼べる性能を有するものの,ことゲームにおいては,競合のハイエンド市場向けSnapdragon 800番台に比べて遅いという評価が一般的だった(関連記事)。ゲームにおける性能差は,採用するGPUの性能に起因するもので,Huaweiもその問題を十分に認識している。
そこでKirin 980では,グラフィックス性能においてSnapdragon 845に比肩しうる性能を目指して,Arm製の最新GPU IPコアとなるMali-G76を採用してきた。
Huaweiによる比較では,実ゲームでのフレームレートにおいて,Snapdragon 845を上回る性能を見せたという。
GPU Turbo機能は,既存のHuawei製デバイスから順次に実装しているそうで,Kirin 970搭載のHUAWEI Mate 10シリーズを皮切りに,直近ではグローバル市場向けのHUAWEI P20シリーズ向けに提供を始めたとのこと。10月に発表となるKirin 980搭載のMateシリーズは,最初から実装した状態で出荷されるようだ。
なお,GPU Turbo機能は,国内市場向けの既存製品への提供も行われるだろう。ただ,セキュリティパッチと合わせたシステムアップデートとして配信するそうなので,国内における配信時期がいつになるかは不明である。
NPUのデュアル化により,映像のリアルタイム認識も可能に
Kirin 970ではAI処理用のNPUを導入することで,SoCのエッジAI性能をアピールしたHuaweiだが,Kirin 980はその路線をさらに強化して,NPUを2基搭載したそうだ。これまでのNPUは,主に写真における画像認識に注目が集まったものだが,デュアル化による性能向上によって,映像における動態認識にも使えるようになったとのこと。
講演のデモでは,リアルタイムで複数の人間の動きを検出したり,走るランナーを横から撮影した映像から人物と背景を完全に分離して,リアルタイムに別の背景を合成する様子が披露された。
モデム関連の特徴については,スライドで紹介しておこう。
P20シリーズの新色登場
P20 Proには革張りのラグジュアリーモデルも
その1つが,世界的に売れ行き好調というHUAWEI P20シリーズのカラーバリエーションモデルの投入である。1つはオーロラをテーマにした「Morpho Aurora」で,もう1つが真珠貝をイメージした「Pearl White」の2モデルがラインナップに加わるという。
加えて,HUAWEI P20 Pro(以下,P20 Pro)には,背面パネルにイタリアンレザーを採用したラグジュアリーモデル「Genuine Leather」を2モデル追加する。レザー素材に合わせて,フレーム部分の色も従来のステンレスカラーから,皮の色調に合ったものに変更したとのこと。
P20 Proのカラーバリエーションモデルの製品仕様は,メインメモリ容量6GB,内蔵ストレージ容量128GBで既存製品と変わらないが,ラグジュアリーモデルでは,メインメモリ容量8GB,内蔵ストレージ容量256GBに増量してあるのものも特徴だ。価格は999ユーロ(税別,約12万8900円)と,さすがにお高い。
なお,新色やラグジュアリーモデルは,いずれも世界市場向けの製品なので,国内市場で販売するかどうかは不明である。
新たな一般消費者向けデバイスとして販売するのが,Huawei初のスマートスピーカー「HUAWEI AI Cube」(以下,AI Cube)だ。
Amazon.comの音声アシスタントサービス「Alexa」対応に対応するスマートスピーカーは珍しくもないが,AI CubeはHuawei製品らしくLTE接続機能とルーター機能を内蔵して,スマートホームのWAN接続とLAN接続を,これ1台で完結させられるのが特徴だ。日本のように光ファイバーでのインターネット接続が整備済みの地域ならともかく,そうでない国や地域では,セルラー(携帯電話系)通信機能付きのルーターはニーズがあるという話だった。
ほかにも「HUAWEI Locator」という,GPS搭載のいわゆる「失せ物探しデバイス」も発表となっている。
この種の製品はすでに多数存在するが,それらはBluetoothを利用して位置情報をサーバーと交換するものが大半だ。それに対してHUAWEI Locatorは,デバイス自体にセルラー機能を持たせているのが特徴だ。日本ではすでに使っていない2Gや,「NB-IoT」(ナローバンドIoT)の仕組みを使って,定期的にきわめて小さなパケットを送受信する仕組みで,取り付けたデバイスの位置情報をアップロードする。
このまま日本で展開するのは難しいだろうが,5G化後も見据えた長期的な意味では,注目すべきデバイスのひとつになるだろう。
HuaweiのKirin 980製品情報ページ(英語)
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