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[CEDEC 2020]「バーチャルアクターの心理ケアの課題と対応案」をレポート。キャラを演じる心労などバーチャルYouTuberの現状が明らかに
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印刷2020/09/03 15:02

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[CEDEC 2020]「バーチャルアクターの心理ケアの課題と対応案」をレポート。キャラを演じる心労などバーチャルYouTuberの現状が明らかに

 ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2020」の初日(2020年9月2日)に実施されたセッション「臨床心理士と開発者が当事者研究事例から考える,バーチャルアクターの心理ケアの課題と対応案」のレポートをお届けする。講演では,バーチャルYouTuberを演じるアクターを心理的に守る存在の重要性が語られた。

画像集#002のサムネイル/[CEDEC 2020]「バーチャルアクターの心理ケアの課題と対応案」をレポート。キャラを演じる心労などバーチャルYouTuberの現状が明らかに

 講演を行ったのは,リ・インベンションの津坂真有氏。津坂氏はバーチャルYouTuberの運営サポートを行うと同時に,アバターの価値観や倫理観について論じる「361degアートワークスちゃんねる」を運営していることでも知られている。今回は臨床心理士である“バーチャル心理職”の白野えんら氏と実施した共同調査を元に講演が実施された。

 この共同調査は,バーチャルYouTuberを演じる「バーチャルアクター」の心理ケアにおける課題を洗い出し,対応策を提案するというもの。バーチャルアクターたちが,アバターを介したコミュニケーションを取るなかで,炎上を起こすなどして人間関係で傷つき,引退・失踪する事例が発生しており,こうした状況に追い込まないための課題解明と心理ケアが必要であると感じた津坂氏と白野氏は,2年間で500名以上にアンケートと28件のインタビューを行うなどして調査を進めてきたという。
 講演では,承認を求めての問題行動や依存的関係といったケースが取り上げられた。こうした状況はバーチャルYouTuberの大部分に当てはまるものではないが,少数とはいえ深刻な例も出始めているという。
 なお,ここで述べられる対応案は,臨床試験を行っていない案であり,臨床的確実性が担保できないという。これを留意の上で本稿を読み進めていただきたい。

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 バーチャルアクターは,自分が望むキャラクターや外見を作り出してバーチャルYouTuber活動を行えるが,それゆえにアイデンティティの連続性や,他者からの承認についての問題が発生するという。キャラクターを演じる点では通常の役者と同じだが,バーチャルアクターならではの事情が存在するとのことだ。
 通常の役者は,演技すべき場とそうでない場が明確に分けられており,演技が終われば素の自分に戻ることができる。一方,バーチャルアクターは,配信中はもちろんのこと,SNSでもキャラクターとしてコミュニケーションを取らなければならない。つまり,役者ほど明確にキャラクターを切り離せない状態であり,自分の中に“もう1人の自分”がいるようなもので,負担も大きい。ここに強い感情をぶつけられてしまうと,キャラクターよりも自身の感情が優先されてしまい,トラブルが起こりやすいと津坂氏は指摘する。
 こうした事態を防ぐためには,バーチャルアクターが自分自身とキャラクターの欲求や思考・行動のパターンを把握し,整合性を取ることが大事だという。また,バーチャルアクターには若年層が多いため,心のケアができる人がいると心強いのではないかと津坂氏は語った。

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自分を理解してほしいがために,過激な言動を取ってトラブルに


 津坂氏が調査した事例の中には,バーチャルアクターがアイデンティティの拡散(自分らしさを見失い,何をすべきか分からない状態)に陥った例もあるとのことだ。「自分を理解してほしい」「注目されたい」といった感覚が強まると,過激な言動を繰り返したり,バーチャルYouTuberとしてのアイデンティティを過剰に意識した行動を取ってしまうという。一度こうなると,バーチャルYouTuberとしてのキャラクター性を維持すべく,同様の行動を繰り返してしまうそうだ。
 それであれば,初めから過激さがウリのキャラクターであればいいかとも思うが,そうではないと津坂氏は語る。バーチャルアクターとファンが互いにヒートアップしていくため,最終的に自分自身とキャラクターの一貫性がなくなり,失踪や失言から引退に追い込まれてしまうことも現実に起きているとのことだ。

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 つまりはアイデンティティが拡散したことから改めてアイデンティティを求め,これを確立するための行動を取るわけだが,こうした欲求自体は何ら特別なものではなく,発達の過程で普通に経験するものである,と津坂氏は指摘する。これまでの人生でアイデンティティを確立した時と同様,周囲からのサポートが充分であれば,バーチャルアクターも自分のアイデンティティを見失うことはないのではないか,と述べた。

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他者からの承認を求め,相手に依存する


 他者からの承認を求めるあまり「かわいいと言ってくれないと死ぬ」というようなトラブル行動を起こすケースもあったという。これは他者から承認を受けて低い自己肯定感を満たし,自分を安定させるための行動であるが,自分ではなく他の人がかわいいと言われただけで不安になったり,死の直前まで追い詰められたりするという,承認欲求を過度に求める病的な状態に陥った例も見られたそうだ。

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 こうした事態を防ぐためには,自分の行動や他者との関わりを振り返り,どんな欲求・思考から起こったものであるのかを理解する「メンタライゼーション」の力が必要だという。なお,問題行動の原因が幼少期の体験に起因するケースもかなりあったようで,これを適切に行えない場合は専門家に助けを求めるのも必要とのことだ。
 問題があると謝罪などの対応策が優先されがちだが,こうした時は原因を語り合い,メンタルケアをすることが重要で,バーチャルアクターの心を守る存在が1人でも多くそばにいてほしい,と津坂氏は語った。

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他者に承認されるため,自らをキャラクター化する疲労


 バーチャルYouTuberとしてのキャラクターを作り続けることによる心労についても津坂氏は指摘する。企業系バーチャルYouTuberなど“ファミリー”として活動したり,“弄られキャラ”などを演じるバーチャルアクターはとくに重要な問題だという。

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 簡単に言えば,「自分にはファミリーや弄られキャラといったキャラクターとしての枠組みがあるため,逸脱するようなことはできない」という継続したキャラ作りに苦しむわけだ。自身のキャラクターを愛するが故の苦しみであり,「キャラクターにそぐわないことをやるための別アカウントを作ってはどうか」というアドバイスに対しても,深刻に悩み,ダメージを受けてしまうこともあるそうだ。
 これはバーチャルアクター個人だけではなくコミュニティそのものの問題でもあり,解決するのは難しいと津坂氏は語る。「キャラクターではない自分を意識する時間を意識的に作る」「キャラクターが特定の状況でどう振る舞うかのコンセンサスを取っておく」ことが大事ではないかと提案を行った。

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 最後に津坂氏は,少数とはいえ深刻なケースも出始めている現状だけに,エンターテインメント的な視点だけでなくいろいろな方向性から考えていく必要があり,バーチャルアクターの心を守る存在がそばにいるような状況を望んでいきたいと提言し,講演を締めくくった。

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