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Access Accepted第694回:北米ゲーム業界で労働組合結成の動きが加速? Blizzard問題に絡んだ著名開発者の提言
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印刷2021/08/09 10:30

業界動向

Access Accepted第694回:北米ゲーム業界で労働組合結成の動きが加速? Blizzard問題に絡んだ著名開発者の提言

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 Googleの従業員が2021年1月に労働組合を発足させ,過当な競争や雇用差別などが問題化していたITビジネス業界にも変化が見られている。ゲーム業界でも労働組合結成の動きが数年前から起こっているが,Activision Blizzardのセクシャルハラスメント問題に絡んで,それが加速するかもしれない。大きな声を上げた元従業員の著名開発者のメッセージは,ゲーム業界での組合結成に影響を及ぼすことになるのだろうか?


業界に波乱を呼んだBlizzard Entertainmentの問題


 先週の当連載「第693回:州政府機関から告訴されたActivision Blizzard」関連記事)でも詳しく報じたように,Activision Blizzardの労働環境や雇用差別,そしてBlizzard Entertainment内で行われていた組織的なセクシュアルハラスメントの常態化を,過去2年半にわたって調査していたカリフォルニア州政府の公正雇用住宅局が,アメリカ現地時間の7月22日に同社を告訴するという事態が明るみに出た

 ゲーム業界でも“ダイバーシティ”(多様性)や“インクルーシビティ”(包含性)の旗頭的な存在だっただけに,今度は(その印象に)騙されて投資したと主張する株主が集団訴訟の動きを見せたり,大手テレコム企業T-Mobile,コカ・コーラ,保険会社のステートファームなどが,「Overwatch League」や「Call of Duty League」のスポンサー契約解除を行うなど,波紋は広がり続けている(外部リンク)。

7月28日のBlizzard Entertainment本社で行われた合同職場放棄デモに賛同する従業員たち(写真: 同社アナリストのJenifer Mallett氏のTwitter(外部リンク)より転載)
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#ActiBlizzWalkoutに賛同する「World of Warcraft」のプレイヤーは,ゲームをプレイせずにじっとしているという抗議活動を行っていた。この日は「オーバーウォッチ」や「ハースストーン」など,Warcraftシリーズから派生した作品群をプレイ“しない”常連ゲーマーたちが多かったようだ
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Undead Labsを率いるジェフ・ストレイン氏。Microsoft傘下の開発チームを経営する身でありながらも,自社の従業員に労働組合を結成することを促した
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 こうした事態については,すでにBlizzard Entertainmentを去っているマイク・モーヘイム(Mike Morhaime)氏ら元幹部も自身のTwitterアカウントなどを利用して,“大学サークルのよう”と告訴状で形容される騒ぎを見抜けなかったことを謝罪し,反省するようなコメントを出している。
 それらのコメントの中でも注目したいのが,「State of Decay」シリーズでお馴染みのUndead Labs創業者であるジェフ・ストレイン(Jeff Strain)氏だ。2000年に起業したArena.netの創設者の1人であり,「Guild Wars」を開発したことで知られる人物であるが,それまでにもBlizzard Entertainmentにおいて「Warcraft」シリーズや「Starcraft」,さらに「Diablo」にまで関わっていたというプログラマーだ。「World of Warcraft」の初期プロトタイプにチームリードとして参加していたという人物である。
 彼がUndead Labsの全社員向けに送ったメッセージを,ゲームメディアIGNが許可を得て掲載している(外部リンク)。

 ジェフ・ストレイン氏のUndead Labs従業員に向けたメッセージがユニークなのは,「It’s Time」(今こそ時が来た)という題名で,経営者でありながら自社の従業員たちに,「労働組合」の設立を呼び掛けているところである。
 このメッセージの中で,ストレイン氏は「我々ゲーム業界には労働組合が必要です。アメリカにおける労働組合の目的は,実績を上げるために社員を残虐的に,残酷で忌まわしく,決して容認できない不法な扱いを行う企業から守るためのものなのです」とし,「私は社員が労働組合を結成することを歓迎します。株式会社や独立系開発スタジオ,その規模の大小を問わず,ゲーム業界のリーダーの多くが,私の主張に賛同し,業界がより強固になっていくことを願っています」と提言している。


ゲーム業界に押し寄せる労働環境改善の波


 これまでも,GDC(Game Developers Conference)などのゲーム開発者会議では,アメリカのゲーム業界に労働組合を結成する動きや試案が提示されてきたが,筆者の知る限りではまだ,実際に組合が存在する企業はない。
 GDC 2018においてスタディグループとなるGame Workers Uniteが発足して,会場でパンフレットを配ったり専用セッションを開いていた。この年のGame Developers Choice Awardには,Double Fine Productionsのティム・シェーファー(Tim Shaefer)氏が登壇して,労働組合の結成運動を盛り立てていたのが思い出されるところだ(外部リンク)。
 ゲーム業界に近いエンターテイメント業界の話だが,アメリカではステージの照明や音響スタッフには全て労働組合が組織されており,ハリウッドを見渡すと,俳優から脚本家に至るまでのそれぞれの職種で組合が存在し,撮影で時間超過すればいくら,雨が降り出したらいくら,転倒する演技があればいくらの報酬が追加されるといった,労働条件に関する細かい規定があるという。2016年から2017年にかけては声優の労働組合がストライキを起こして,北米のアニメ制作会社やゲーム企業の制作に影響が出たり,海外の声優に仕事を依頼することになったといった状況が発生したこともある。

2018年のGDCにおいて,ゲーム開発者たちの間で労働組合の結成が大きな動きを見せたことは,本誌に寄稿したJerry Chu氏のレポート(関連記事)でも詳しく紹介されている
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 一方で,アメリカにおけるIT産業は,労働組合が組織されていないことが多い。よく石油や自動車産業などの“オールド・ビジネス”と,ここ数十年の間に勃興した“ニュー・ビジネス”の間の経営差が語られることがあるが,IT企業の多くの経営者たちが,何度も労働組合が組織されるのを阻止してきているのは,最近のAmazonの倉庫労働者が訴えた顛末でも知られるところである。皮肉なことに,Undead LabsもDouble Fine ProductionsもMicrosoftの傘下メーカーだが,Microsoftにも数年前に労働組合の結成を阻止した過去がある。

 当然,ゲーム開発はクリエイティブな作業であるから,より良いものを作ろうとしても計画どおりにスケジュールが進まず,特に開発終盤に差し掛かると徹夜の作業や週末労働が課せられる事態も起こり得る。その作品に対する思い入れや,モノ作りに対する情熱もそれぞれの開発者によって違うはずで,より労働環境が“悪化”するにつれて開発者と経営者の間で軋轢が生まれるであろうことは容易に想像できるだろう。

Activision BlizzardのCEOであるボビー・コティック(Bobby Kotick)氏は,「雇用差別があるなら改善のために,契約した法律事務所に訴え出てほしい」と全従業員あてのメールを出したが,この法律事務所が組合潰しで認知されていることが,その後暴露されている
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 この“クランチタイム”(時間外労働。転じてデスマーチ,修羅場といった意味で使われる)と呼ばれる超過労働はゲーム業界でも高い比率で発生し,最近では「グランド・セフト・オート V」のRockstar Games(関連記事)や,「サイバーパンク 2077」のCD Projekt RED(関連記事)などが問題視された。
 プロジェクトによっては断続的にクランチタイムが発生することもあり,“ワークライフ・バランス”,つまり仕事と日常生活,さらには家族関係の均衡なども崩れてしまい,精神や肉体面でさまざまな障害が発生してしまうだけでなく,多くの場合,残業手当なども支払われないことが常態化しており,失意のうちにゲーム業界を去る人も少なくない。友人と無我夢中でゲームを作ったというような美談で語れる規模や業態ではなくなっているのだ。

IGDA(International Game Developer Association)のレポート「Developer Satisfaction Survey 2019」(外部リンク)によると,64%の女性と49%の男性ゲーム開発者が,雇用不均衡を感じているという。クランチタイムも,41%に及ぶゲーム開発者が経験しているという
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 興味深いことに,GDC 2018で発足したGame Workers Uniteと同じ時期である3年ほど前からIT企業の間で労働組合の結成運動が盛り上がり,今年に入ってGoogleの持ち株企業であるAlphabetで労働組合が結成されることになった。
 Alphabetで発足した労働組合の場合,絶大な権力を行使するスーパー経営者たちに委ねられた企業方針に影響し,労働環境改善のための主張を行うという点では旧来の労働組合と同じだが,差別的な主張をYouTubeなどから排除するよう働きかけたり,中国やサウジアラビアといった人権問題で問題がある地域での営業に関する意見書を提出したりと,職場環境や待遇を越え,かなり政治色の強い主張も辞さないのは現代的と言えるかもしれない。ストレイン氏のメッセージが,こうした「IT産業の労働組合組織」の流れの中にあるものなのは言うまでもないだろう。

 これまでゲーム業界に労働組合がなかった理由はいろいろとあるのだろう。ただ,労働組合が存在していれば,セクシャルハラスメントや雇用差別を受けたBlizzard Entertainmentの女性従業員たちの訴えを,しっかりと聞き入れるという環境は作れたはずで,もはや必然的な動きになってきているのかもしれない。組合に縛られながらも作品への影響力を落としていないハリウッド映画産業の例を参考に,ゲーム業界が考えていくべきことは少なくないはずだ。

Activision Blizzardのことは,内部ではモバイル部門のKing.comを含めてABKなどと言う略称で呼ばれているようだが,新たに傘下ディベロッパーの有志連合による“Workers Alliance”が発足するなど,企業内での動きも活発化している
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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