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Moufarek氏は,ゲーム業界でおよそ15年のキャリアを積んだ人物である。カジュアルゲームのパブリッシャ/プロデューサーを経て,Ubisoftでは「Ghost Recon」「Watch Dogs」といったAAAタイトルの開発プロデューサーを務め,その後SoftBankでロボティクスを用いたインタラクティブ体験の開発に携わった。
そして10年ほど前にDeepMindへ加わり,AtariやStarCraftといった「安全なテストベッド」でAIエージェントを学習させる研究に取り組んできたという。Geminiプロジェクトには立ち上げ当初から参加してデータ戦略を主導し,Project Astraで探求した自然言語とリアルタイムビジョンの研究は,現在のGemini Live APIの基盤にもなっている。
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氏が繰り返し強調したのは,ゲームがDeepMindの研究プログラムにおいて「常に中核的な柱であり続けてきた」という点だ。同社はAtariからStarCraftまで,ビデオゲームのシミュレーションが持つ複雑さを活用し,囲碁ではAlphaGo/AlphaZeroを生み出し,その成果をチェスや将棋へと一般化してきた。こうしたゲーム研究から得たアルゴリズム上のブレークスルーは,やがてタンパク質構造予測「AlphaFold」のような科学的発見にもつながっていったという。
その背景には,CEOのDemis Hassabis氏をはじめ,多くのメンバーが元ゲーム開発者だという事情がある。Hassabis氏はかつて「Theme Park」「Black & White」など,AIがゲームプレイのループの中核を担い,強化学習が「楽しさ」の一部として機能するディープシミュレーションゲームを手がけていた。
2010年のDeepMind創業時には,氏がかつて在籍したゲームスタジオの中核メンバーの多くが参画したという。「楽しく魅力的な体験を試行錯誤しながら作る」というゲーム開発の経験と専門性が,現在の研究にも生きているというわけだ。
実際,ゲーム開発と研究のワークフローには多くの共通点があるとMoufarek氏は語る。アイデアを出し,プロトタイプを作り,どこに「楽しさ」があるのかを探りながら磨き上げ,本当に価値あるものが見つかれば何百万人にもスケールさせる――この流れは,検証したい仮説を立て,実験を設計し,データと学びを得てブレークスルーを目指す研究のプロセスと驚くほど似ている,というのだ。
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ここからが本題の2つの研究プログラムだ。1つめはAIエージェント。氏はこれを「ある目的を達成するために,自律的に環境を知覚し行動する知的な存在」と定義する。人間と同じように周囲の状況を認識し,タスク達成のためにリアルタイムで行動できる能力である。
DeepMindはこれまで,ゲームが突きつける多様な課題を研究の機会としてきた。Atariの2Dゲームでは複数タイトルにまたがって高い性能を発揮する汎用アルゴリズムを学び,AlphaGoでは総当たり計算では解けない極めて複雑な完全情報・ターン制ゲームに挑んだ。さらにStarCraftを題材とした「AlphaStar」では,リアルタイム性,多数ユニットの同時操作,そして「フォグ・オブ・ウォー」に象徴される不完全情報という新たな課題に取り組んだ。
視界の外で何が起きているかを想像し,仮定を立てて意思決定し,新情報が得られれば戦略を柔軟に適応させる――こうした能力の発見につながったという。
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そして同社が立ち上げたのが「SIMA」(Scalable Instructable Multiworld Agent)だ。3Dの仮想世界の中で,言語による指示に従って行動できるエンボディド・エージェントを研究する取り組みである。ここでも目指すのは汎用的な解決策であり,DeepMindはビジュアルやゲームメカニクス,視点(一人称/三人称)の異なる多様なゲームを開発するスタジオと提携した。開発者の許可を得たうえで,その中でエージェントを安全に訓練・評価できるようにした。Hello GamesやCoffee Stainといったスタジオが名を連ねており,「ゲーム開発者と責任ある倫理的なかたちで協力する前例を示したかった」と氏は語る。
SIMAの仕組みはシンプルだ。エージェントはプレイヤーと同じ画面,つまりスクリーン上のピクセル情報だけを受け取り,プレイヤーとまったく同じようにキーボードとマウスの操作を出力する。ユーザーが「宇宙船に乗り込んで飛び立つ」といった短い自然言語の指示を与えると,エージェントが画面を見ながら操作を行ってタスクを達成する。ゲームの専門知識がなくても,素直な言葉で指示できるのが特徴だ。会場では,パートナー各社のゲーム内でSIMAがメインキャラクターを操作する様子が披露された。
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さらに数週間前には,「EVE Online」を開発するFenris Creations(旧CCP Games)との提携も発表された。2003年から一度もリセットされることなく続く永続的な世界であり,何百ものアライアンスやコーポレーションが協力・対立・取引を繰り広げるプレイヤー主導の複雑な経済圏を持つ,象徴的なMMOである。
プレイヤーの行動が長期的な結果をもたらすこの環境は,長期的なプランニング,記憶,そして継続学習といった研究テーマを訓練・検証するうえで「非常に優れた環境」だという。今後は「EVE Frontier」を手がける同スタジオのチームとも協力し,AIがなければ実現できない新たな体験を探求していくとした。
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研究プログラムのもう1つの柱が,環境のダイナミクスをシミュレートする「ワールドモデル」だ。ユーザーが行動を取ったときに何が起こるか,その因果関係を深く理解するシステムであり,エージェント研究よりもさらに初期段階にあると氏は位置づける。
それでも,見たことのない世界でエージェントを学習・テストできるようにする,研究のフライホイールを完成させる重要な要素だ。その最前線にあるのが「Genie」である。Moufarek氏は,わずか18か月でのGenieの驚異的な進歩を3世代にわたって振り返った。
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始まりは2024年2月の「Genie: Generative Interactive Environments」。インターネット上から集めた約3万本の2Dプラットフォーマーのゲームプレイ動画だけで学習し,アクションのラベルやアノテーションが一切ない状態から「取りうる行動」を学べることを示した。
短いテキストや1枚の画像から,ユーザーの行動に応じてインタラクティブにフレームを生成する――その「生きた証拠」を得た瞬間だったという。ただし当時は記憶が16フレームまで,生成は1秒1フレームで,せいぜい10〜16秒程度の2Dクリップにとどまっていた。
続く2024年12月の「Genie 2」では,わずか10秒程度の2D環境から,多様で色彩豊かな3Dファンタジー世界へと飛躍。1枚のプロンプト画像から生成しながら,3D空間を自由に移動でき,記憶範囲も数秒から数分へと延びた。重要なのは,画面から消えたものをワールドモデルが記憶し続けるようになった点だ。一人称・三人称・非対称視点といった複数視点に対応し,照明や重力,反射といった複雑な物理ダイナミクスが自然に立ち現れ始めた。
一方で,10秒ほどで品質の劣化が見え始め,1分ほどで世界が崩れてしまう点,そしてリアルタイム性と生成品質のあいだに明確なトレードオフがあることが課題として残った。
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そして2025年8月,「Genie 3」が発表される。氏が「本当に満足できる根本的ブレークスルー」と呼ぶこのモデルは,1秒24フレームの生成を実現し,エージェントとのリアルタイムなインタラクションを可能にした。
最大720pのフォトリアルなレンダリングに対応し,単一のテキスト記述から,物理やライティングを精緻に保った多様な環境(ファンタジーからフォトリアルまで)を生成できる。数秒から数分にわたって世界の一貫性を保ち,そこで起きた出来事や,ユーザーが世界に加えた変更まで記憶する。たとえば壁に何かを描いてから視線をそらしても,それはそのまま残る。
さらにGenie 3では,「Promptable World Events」という新機能も導入された。生成が進行している最中にプロンプトを注入し,ユーザーの行動とは無関係なイベント――何かが飛び込んでくる,新キャラクターが登場する,物語の展開を変える,水や風の物理シミュレーションを起こす――を演出・制御できる仕組みだ。ビデオゲームのスクリプトのように世界を制御できる,初期段階ながら大きな可能性を秘めた機能だという。氏は「Genie 2から3まで,わずか9か月。私がその一文を言い終える前に,Genie 2はもうGenie 3へ移行してしまった」と,進歩のスピードを冗談めかして語った。
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最も汎用的なエージェント「SIMA」と,最も汎用的なワールドモデル「Genie」。この2つを組み合わせることで,DeepMindはAGI研究の「フライホイール(弾み車)」を構成する要素を手にしたとMoufarek氏は語る。Genieが生成する世界の中でSIMAを安全に訓練し,そのSIMAがGenieの改良に貢献していくという循環的なプロセスだ。
実際の仕組みは,SIMAが行動を生成し,それにGenieがリアルタイムで応答するというもの。会場では,Genieが生成した――SIMAが事前に一切見たことのない――環境の中にSIMAを放り込み,その世界がリアルタイムに生成されていく様子が示された。これはSIMAの汎化能力を試す究極のテストであると同時に,世界の問題点を見つけてGenieの生成を改善するためのデータとフィードバックを集める手段にもなる。このエージェントとワールドモデルのフィードバックループこそが,研究を安全に加速させる鍵だという。
今後の研究課題として氏が挙げたのは,(1)エージェントが取れるアクションの幅を広げ自律性を高めること,(2)複数のエージェントやキャラクターが相互作用するマルチエージェント環境(今年のGoogle I/Oで初期の概念実証を披露済み),(3)世界の中でクリーンで読みやすいテキストを正確にレンダリングできるようにすること,の3点だ。
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講演の締めくくりとして,Moufarek氏は視点を反転させ,「AI研究がゲームにもたらし得るもの」について語った。同社はHello Games,Coffee Stain,そして最近ではFenris Creationsといったスタジオと協力しながら,ゲームにおけるAI研究の倫理的で正しい進め方を共に築いてきたという。
そのうえで氏は,これらの新たなAIの能力が新しいプレイヤー体験を切り開く可能性に触れつつ,重要な釘を刺した。「AIの能力をいくつ組み合わせても,それだけで必ずしも楽しい体験になるとは限らない」。あくまで問いや仮説として捉え,ゲーム開発と同じように楽しさを見つけるまで試行錯誤を重ねるべきだ,というのだ。そして言葉で説明するのではなく,実際にプロトタイプを作って示し,その発見をコミュニティと共有していくことの大切さを訴え,講演を終えた。
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続くQ&Aでは,「DreamerV4の論文に関心がある。これはGenieよりもSIMA側に関連するのか,それとも別のプロジェクトなのか」という質問が挙がった。これに対しMoufarek氏は,2D・3D・ボードゲーム・ロボティクスなど,現実/ファンタジーを問わずあらゆる環境に汎化して行動できる汎用エージェント研究と,リアルタイム性の課題に取り組むSIMA/Genieとを対比して説明した。前者は「あらゆる環境で行動できるAIエージェントに関する究極の研究」である一方,リアルタイムではない。そのリアルタイム処理の壁にSIMAとGenieが挑んでいる,という趣旨で回答した。




















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