インタビュー
7年がかりで,ついに完成した「SPORE」。プロデューサー,Will Wright氏のインタビューを掲載
本日2008年8月14日は,Electronic Artsが世界に誇るプロデューサー,Will Wright(ウィル・ライト氏)にとって,忙しい一日であった。
まずは,8月13日に開催された(関連記事)「Global Brand Forum」においてゲームとブランドに関するレクチャーがあり,そのあと,地元メディアとのQ&Aセッション,さらには世界各国から集まったメディアのインタビュー,しまいにゃテレビ出演などが待っているという,もし代わってくれと頼まれてもキッパリ断ってしまうようなスケジュールなのである。誰も頼まないけど。
Global Brand ForumのレクチャーでもSPOREのティザームービーを公開するなど,Wright氏もプロモーションに余念がない様子だ。
今回のインタビューは,時間が20分と短かったこともあり,ゲームの詳細より開発のプロセスや苦労した部分などを質問している。奇想天外かつ気宇壮大なゲームは,このようにして生まれたのだ。
お疲れでしょ?
Wright氏:
うーん,昨日のほうが大変でしたね。
4Gamer:
さて,では改めまして,SPOREにおけるあなたの肩書きと,どのような仕事をしたのかについて聞かせてください。
Wright氏:
リードゲームデザイナーです。具体的にはまず,どのようなゲームになるかについて大きな構想を描き,それを分割して8人のデザイナーに任せます。彼らのデザインやアイデアが適しているかを判断したり,それぞれどのくらいの複雑さ(complexity Level)なのかを決めたりもします。まあ,総指揮ですね。
4Gamer:
SPOREは非常に個性的なゲームなんですけど,開発に当たっては,みんなでアイデアを出し合うという感じなんですか。それとも,あなたがビシッ! と決めて進めていくものなんでしょうか。
Wright氏:
最初,基本的なアイデアを私が出しました。それをデザイナー達と分け合って,彼らのチームに下ろします。チームが核となるアイデアを理解し共有し,それからみんなが追加のアイデアを出し合っていったわけです。あとでまた私がそれらを判断しつつ,SPOREを開発していったという感じです。
アイデアを分け合うのは難しくありませんか。それぞれ理解の程度が違ったりとか。
Wright氏:
それはもう大変です。さまざまなレベル,個人でもデザインチームでも,全員の意志を統一させるのはバランス感覚の要求される仕事です。なんというか,交通警官になったような気分。分かるでしょ,交差点で車に指示を出してるお巡りさん。
4Gamer:
なるほど。微妙なさじ加減が必要なんですね。でも,メンバーの意見が対立した場合どうしますか。
Wright氏:
もちろん,私が決めなければなりません。私は独裁者です。
4Gamer:
では,Wrightさんとメンバーの意見が対立したら,どうします。
Wright氏:
ええとですね……。まあ,我々のチームの開発者は非常に優秀なんです。まあ,だから選んだわけですけど。何人かは学生時代から目を付けていて,卒業と同時にチームに引っぱってきました。
そうした彼らとは,以前からいろいろと率直に話し合ってきました。ですから,もし意見が合わなかった場合,議論(argue。言い争うイメージが強い)になります。ですが,しばしば彼らのほうが正しくて私は納得します――もちろんそうでないときもありますが。
このように議論していくことで,ゲームは正しい方向に進んでいくと思います。
4Gamer:
なるほど。ところで,SPOREにはどれくらいの人が,何年ほど関わっていたのですか。
Wright氏:
SPOREの開発には,すでに7年かかっています。最初の2年間はリサーチに当てていたので私一人でした。それからプロトタイプを作り出したりして,3年前までは40人ぐらいかな。
結局のところ,最終的な開発チームのメンバーは120人になりました。つまり,この5年間で段階的に増えてきたわけです。
4Gamer:
たしか,2回ほど大幅な発売延期がありましたね。理由はなんだったんですか。
Wright氏:
2006年の発売が遅れて2007年になったのは,単純にゲームの複雑さを過小評価していたからです。それがさらに遅れて2008年になったのはコンテンツ,とくにネット関係のコンテンツの充実を図るためでした。
ゲームはほとんど出来上がっていたのですが,プレイヤーが作ったアイテムをアップロードできるWebページや,それを効率的にブラウズする「SPORECAST」機能などを盛り込むべきだと方針を改め,議論を重ねた結果,もっと時間が必要だということになったのです。
4Gamer:
なるほど。とはいえ,2005年のGDC(Game Developers Conference)で最初の発表があったときから,結局3年も待たされてしまいました。
Wright氏:
まったく。でも僕は7年も待っているんです。
ところで,個人的にはSPOREのどのフェーズが一番のお気に入りですか。また,どのフェーズに一番苦労しましたか。
Wright氏:
一番好きなのはやはり「宇宙フェーズ」(Space)ですね。ま,なにしろ広いし,複雑さにおいてもゲームで一番だと思います。
最も大変だったのは,「集落フェーズ」(Tribal)かな。集落フェーズでは,それまで一つのアバターを操作していればよかったのが,ここから複数のアバターが対象になっていくわけです。その移り変わりがプログラム的にもデザイン的にも最もハードでした。
4Gamer:
昨日のデモで見た「文明フェーズ」(Civilization)はかなりRTSっぽくなっていましたが,なにかのゲームの影響を受けたということはありますか。
ありますよ。見たとおり,文明フェーズはシンプルなルールになった「シムシティー」とRTSのコンビネーションといった感じを狙って作っています。
2年ほど前,我々のチームに「Civilization IV」」(邦題 シヴィライゼーション4)のリードデザイナーが参加して,彼が文明フェーズのコンセプトを担当したんです。実にいい仕事をし,ゲームバランスやAIなど,次々にアイデアを出して文明フェーズを素晴らしいものにしてくれました。コアゲーマーが楽しめるだけでなく,それまでRTSをプレイしたことがないような人でも納得できるようなものです。
彼は「オーケー。シムズプレイヤー向けのCivilizationを作ればいいんだね」と言っていましたね。
4Gamer:
コアゲーマーという話が出ましたが,SPOREのメインターゲット層を想定してらっしゃるのですか。想定しているとして,それはカジュアルゲーマーですか,それともコアなゲーマーなのでしょうか。
シムズシリーズもそうだったんですが,いろいろなタイトルを遊んでいる“ゲーマー”向けに開発しています。SPOREにはミッションやゴール,アチーブメントなどがあり,ゲーマーが分かりやすい。同時に非常にイージーなものからハードなものまで,難度調整も可能です。メインターゲット層を決めるとすると,我々が取り込みたいのはシムズプレイヤーとコアゲーマーの重なった部分ですかね。
我々はシムズプレイヤーでも,コアなゲーマー――チームの中にいくらでもいます――でもテストを重ねました。その結果,いわゆるカジュアルなプレイヤーでもSPOREのルール,とくに文明フェーズのRTSパートプレイするのに無理はないという結果を得ています。
4Gamer:
とはいえ,それなりに難度が高くないと,コアゲーマーとしてもの足りないものを感じてしまうのではないでしょうか。そのへんはどうです。
Wright氏:
SPOREでは,フェーズが進むごとにゲームの難度が上がっていきます。それぞれ,前のフェーズのだいたい3倍は複雑になるようにデザインされていて,また,一度ゲームをクリアすると,すべてのフェーズを好きな難度で遊べます。
難しいゲームを好むプレイヤーにとって,文明フェーズや宇宙フェーズは非常に挑戦しがいのあるものになるでしょう。実際,宇宙フェーズでは私自身がひどい目にあっているくらいです。いや,ホントに大変でした。
4Gamer:
ところで,SPOREでは前述のようにUCC(User Created Contents)を取り入れることがコンセプトの一つになっています。このへんは発売されてみないと分からないと思いますが,あなた自身は出来映えに満足していますか?
Wright氏:
うまくいっていると思いますよ。「SPORE クリーチャー クリエイター」では予想もしなかった驚きの連続でした。その数だけではなく,クオリティの高さにもね。次の段階では,さらに多くの,例えば惑星のようなものをプレイヤーに作ってもらい,それをゲームに取り入れていく予定です。現状には非常に満足しています。
4Gamer:
分かりました。さて,長かったSPOREもリリースが近づき,次の作品というのはもう考えていらっしゃるのでしょうか。それとも,ゲーム作りは一休みですか。
実を言うと,もう次のプロジェクトは始まっているんです。詳しいことは言えませんけどね。
4Gamer:
ちょっとだけ教えてもらえませんか。
Wright氏:
まあその,ゲームじゃないんです。ほかのメディアに関係したものになります。
4Gamer:
へえ。ということは,ゲーム作りはもう止めてしまうのですか。
Wright氏:
とんでもない。ゲームのプロジェクトもありますよ。
4Gamer:
よく分からないけど,安心しました。ちなみに,「ザ・シムズ 3」には関わっていらっしゃるんですか。
Wright氏:
いえ。まあ,チームメンバーとはいろいろと話をしてますし,どのようなゲームにするかについても考えを伝えることはあります。ザ・シムズ 3について気にしてはいますが,現在はSPOREの仕事だけで,実際に何かをしているわけではありません。
では最後にPC市場について。SPOREは――内容の異なるWii版とDS版はありますが――PC向けタイトルですね。最近欧米のPC市場は縮小傾向にあると言われていますが,そのあたりについてどう考えていますか。
Wright氏:
国や地域によって状況はそれぞれ違うと思いますが,聞いた話では日本ではマーケットの規模は縮小しているようですね。アメリカでは,プレイヤー層によって異なりますが,シムズシリーズのようなタイトルに限れば好調です。
ヨーロッパには非常に強力なPC市場があり,コンシューマ機をしのぎます。中国やアジアのPCマーケットも将来有望でしょう。コンシューマ機の世代交代のたびに,「PCは死んだ」とかいわれますが,ネットワークや技術革新に関してはPCのほうがコンシューマ機より勝っていると思います。まあ,抜きつ抜かれつの繰り返しですね。
ですから「PC市場は死んだ」という言葉は信じられません。これからも新しいタイプのゲームが次々に登場してくると思います。
4Gamer:
分かりました。本日はお忙しいところ,どうもありがとうございました。ええっと,そういえば,昨日のプレゼンテーションにロシアン・ロケット・モーメントは登場しませんでしたね。楽しみにしていたんですけど,どうしたんです。
Wright氏:
ああ,そうなんですか。いや,あれは5分ぐらいかかるので,たった20分間のプレゼンテーションでは時間が足りなかったんですよ。でも,ロシアに行って資料を探してくるつもりでいるので,お楽しみに。
4Gamer:
うへぇ。
ロシアン・ロケット・モーメントとは,Wright氏のプレゼンテーションの途中,唐突に登場してくることですっかり有名になった,「ソ連のロケット開発裏面史」のことである。なぜソ連でなぜロケットなのかは謎だが,毎度毎度,思わず吹き出さずにはいられないエピソードが登場し,Wright氏ウォッチャー(?)の多くが楽しみにしているのである。
とはいえ,このへんにもWright氏のエンターテイメントに関する考え方がよく出ているようにも思える。その名前でイベントが開催され,世界各国から数多くのメディアが集まるようなカリスマ的ゲームデザイナーであるWill Wright氏だが,一歩引いて見れば,「なんでAT&Tのロゴマークはデス・スターによく似ているのだろう?」などと考えている面白い人物なのだ。そして,やっぱり面白い人が作ったほうがゲームは面白くなるのである。
カジュアル向けではないかと思われた(思っていたのは私だけかもしれないが)SPOREが,これまでのWright氏の作品同様,軽やかな表面の裏にがっちりした骨組みを持ったタイトルであることが次第にはっきりしてきた。発売が近づくにつれ,より詳細な情報がどんどん出てくるはずなので,これからもお見逃しなく。
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SPORE
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