業界動向
[GDC07#21]「Gears of War」はいかにして生まれたのか。Cliff Bleszinski氏が語る,有効なゲーム開発プロセス
講演のお題は,「Designing Gears of War: Iteration Wins」。“iteration”は“繰り返す”という意味で,この言葉に,2006年のベストゲームを生み出した理由がある,とCliff氏は主張する。
この講演内容を,順に紹介していこう。……とその前に,知っておくとこの講演内容をより興味深く読めると思われる,三つのことを説明しておきたい。Bleszinski氏についてと,Gears of Warについて,そして“Cabalシステム”についてだ。
Bleszinski氏は,この講演の冒頭で,(GDCで実際に会って)「宮本茂氏のことを,ずっと考えていた」と話した。“宮本茂ファン”として知られる同氏は,ボストン郊外で育った子供時代,頑張って自分でお金を貯めては,マリオやゼルダの新作を買っていたという,筋金入りのゲーマーだ。開発者としてデビューしたのは17歳のとき(ちなみにそのときの作品は「Jazz Jackrabbit」)で,以来32歳の現在に至るまで,ゲーム開発者を続けている。確かに年齢は若いのだが,業界16年めのベテランである。
そして彼の最大のヒット作が,言うまでもなく,このGears of Warだ。今や同作は,Epic Gamesにとっても最大のヒット作といっていいだろう。
本作はXbox 360用のSFアクションゲームで,現在のところ,実に300万本ものセールスを記録している。各メディアの評価でも高得点を連発しており,アベレージランキングは94%(すべて100点満点なら,平均94点をとったという意味)。満点を出したメディアも少なくない。当然のようにXbox Liveでは,ナンバーワンのゲームとなっている。
なお本作には同社のUnreal Engine 3が採用されており,PCへの移植も確実視されている。
さて,Gears of Warの開発プロセスで,キーワードとなるのが「Cabalシステム」というもの。これは2006年のGDC記事「「Half-Life 2」は,こうして作られた!」でも触れた,今アメリカで流行しつつあるシステムで,モデルになっているのは,なんと日本のゲーム開発スタイル(小規模のチームで開発を進める)だという。Gears of Warも,このCabalシステムを用いて作られているのだ。
Cabalシステムとは,簡単に説明すると,複数のチーム(Cabal)で別々の作業を並行して進める手法。一つずつのCabalに,それぞれプログラマーやグラフィックスデザイナーが存在する(ことが多い)ため,そのCabalだけで完結している(極端にいえば,そのCabalだけでもゲームが作れる)のが特徴だ。
これまで欧米では,大人数で開発を進めるのが一般的であったが,この方法では意思の疎通が図りにくく,効率的とはいえなかった。しかし単純に,(日本のような)少人数で作ったのでは時間がかかる。そこで,スピーディに,かつ効率的にゲーム開発を進めるために考え出されたのが,ミドルウェア(開発支援ツール)の導入と,このCabalシステムというわけだ。
Cliff Bleszinski氏は,各Cabalを統括するポジションにいたのである。では早速,講演内容を紹介していこう。
■最初にカッチリ決めず,作りながら細部を決めていく
具体的には,以下の項目を“iteration”しながら,作っていく。
・Brainstorm
・Design/Document
・Implement
・Test
・Nudge
最初のBrainstormというのは,ここでは,アイデアをひねり出す,というほどの意味だ(複数人の場合なら,アイデアを出し合う)。氏はこのBrainstormを重要視しており,「実に基本的なことだが,これだけでも,一日中講演できる」と話す。彼らは,職場だけでなく家でも毎日のようにいろいろと考え,出てきたアイデアはすべて書き留めるという。そして,さまざまな選択肢を,すべて入念に考慮する。どんな些細なことでも,じっくり考えることが重要だと語っていた。
Design/Documentは,常に更新して,Cabalスタッフに見て/読んでもらう。そこでコミュニケーションをとり,それぞれが自分のすべきことを確認するのだ。
そして,Implement……つまりプログラマーが操作できるものを作り,Testし,Nudge(調整)する。実際に動かしてみて,何ができるのか,何ができないかを見るのが重要で,その結果をCabalのリーダーがダメだと判断したら,Brainstormからやり直し,となるわけだ。
しかしCabalごとに自由にゲームを作っていれば,統一性に欠け,カオスになってしまう危険がある。Bleszinski氏は「なので,制作するにあたって,一定のルールはしっかりと決める」とし,だいたい8,9ページ程度のルールが必要だと説明していた。ちょっとピンと来ないかもしれないが,氏の言葉から具体例を拾ってみると,
・本作はスローなペースなので,プレイヤー達は走らない。ラン&ガン(走りながら撃つ)ということはなく,戦闘中は立ち止まる。
・空を飛ぶものは出さない
・仲間はいるけど,スクワッドベースではない
といったことを,ルールとして設けて,全体の作りがぶれないようにするとの話だった。
■故きを温ねて新しきを知る? カバーシステムについて
敵の攻撃を避けることを総称してカバーと呼んでおり,それが本作の特徴の一つとなっているのは,プレイヤーならご存じの通りだ。本作のキャラクターは,コンソールのアクションゲームの割には,撃たれ弱い。そこで,さまざまな方法で,敵の攻撃をかわさなければならないのだ。壁にピタッとくっついて盾にしたり,柱や車の陰に隠れて移動したり,というわけである。
氏はスライドの中で,本作を縦スクロールの2Dゲームと比較した。見た目こそずいぶん違うが,やっていることは同じだというのである。つまり,あるカバーポイントから,タイミングを見計らって,もしくはうまく敵を排除して,次のカバーポイントまで進む。これの繰り返しでゲームを進めていく。本作は,昔からあるゲームの面白さの一つを,最新の技術で再現したゲーム,と言うこともできるだろう。
また氏は,本作を,アングルゲームにしたくないと考えたと話す。(攻撃&防御に)良い角度を探すのではなく,カバーをうまく使って,敵の攻撃を避けつつ戦えるように,工夫しているというのだ。このとき,意図的に垂直方向(上下)へは視点を動かさなくていいようにしているとのことで,実際に2回ほどしか,垂直方向での戦闘はない。またこのあたりを何度もiterationした結果,ジャンプ/かがむといった動作は不要と判断し,なくしているという。
最後にCliff Bleszinski氏は,まとめとして,各スタッフ達に「尊敬を持って」接し,「パワフルなツール」を使って,「素晴らしいアイデア」を「繰り返し」試し,「均衡を保ちながら」チェックして,そこで「手を加えたくなれば手を加える」ことが重要,と説明。さらに「そしてその結果,素晴らしい賞を獲る(笑)」と締めくくった。
さすがに最後だけは,努力したからといって,できるものではないだろうが,前夜にBest Game of 2006を獲得したばかりのCliff Bleszinski氏にそう言われたら,拍手するしかあるまい。彼の受賞を称える温かい拍手で,この講演は幕を閉じた。
ちなみに本文中以外の細かい話は,スライドを撮影した写真と共に紹介しているので,ぜひそちらも読んでほしい。(Iwahama)
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