インタビュー
「空母決戦」のSi-phon谷村氏,エレメンツ石川氏に鈴木銀一郎氏を交えて徳岡正肇が聞く空母ゲームのあれこれ
そこで今回は「空母決戦」の最新版,「空母決戦2.0」および「空母決戦キャンペーンシナリオキット」などを発売した,Si-phon代表取締役の谷村勝一郎氏と,開発を担当するエレメンツ代表の石川淳一氏,そしてこの二人が「空母決戦」を作っていくにあたって大きな影響を受けたというボードゲーム「日本機動部隊」のデザイナーである鈴木銀一郎氏をお招きして,今のストラテジーゲームについて大いに語っていただいた。
20年後のゲームの素材として
まずは,空母決戦を作るに当たって目指したものを聞かせてください。
谷村氏:
自分がいちユーザーとして現在のゲーム業界を見てみると,アナログのシミュレーションゲーム末期のような状態を思い出してしまうんです。購買意欲をかきたてる商品はあって,それにはたいてい「あれもできます,これもできます」って書いてあるんですが,いざ買ってみると難しかったり手間がかかったりで,実際には遊べない。
そういう形に流れてきた結果,メーカーのほうも我慢ができなくて,売りやすい商材,売れる商材に傾きすぎてしまった。だからユーザーも,買うのはいいんだけど,最後まで遊べない。
それでエレメンツの石川さんと出会って,いろいろ意見を交わしてみたんですが,細かい部分での相違はあっても,見ている方向は同じだと確信できまして。もちろん,お互いそれぞれ個人ですから,意見の衝突は日々あります(笑)。でも,一緒に仕事をしてこれました。
空母決戦というゲームを作る下敷きになっているのは,自分が20年以上前に遊んだ「日本機動部隊」という,鈴木銀一郎先生がデザインされたシミュレーションゲームです。それで,同じようにこの「空母決戦」を遊んでくれた人が,20年近くたって自分でゲームを作ろうと思ったときに,「空母決戦」が一つの素材になってくれるといいなと思っています。
4Gamer:
谷村さんと石川さんで衝突もある,とのことですが。
ええ(笑)。鈴木先生の前ではいいにくいんですが,谷村はかなりボードゲームを意識したゲームをイメージしていたんです。でも僕は,初めての人が遊ぶときに,ボードゲームの文法をそのまま持ってきても遊びにくいと思っていました。
例えば,空母のゲームであっても,コンピュータなら,飛行機が飛んでいく様子などをリアルタイムで再現できます。でもそこでマップにマス目をつけたり,ゲーム進行に「フェイズ」をつけたりするのは意味がないです,と主張したんです。それらはボードゲームの時代に生まれた,ボードゲームに即したテクニックであって,それをPCでやる理由がないのであれば持ち込む必要もない。
ただ,谷村は,海外のRTSのものすごく面倒くさいやつとかも遊んでいたものですから,リアルタイムというものに非常に難色を示しまして(笑)。
「リアルタイムでも手軽にプレイできるようにはできる」「対戦するわけではないから,時計はいつでも止められる」と説得して,なんとか今ある形に落とし込んだわけなんですが。そういうところを一つ一つ話し合いながら詰めていって,今あるゲームになったという感じですね。
まあ,これだけ揉めたけれど,ちゃんと形になっているというのは,やはり見ている方向が同じだということが大きいと思います。
4Gamer:
「手軽」「気軽」というのが一つのコンセプトであると。
石川氏:
そこは絶対に外したくなかったです。ゲームが途中で悪い状態になってくると,リセットしてロードするというのが多いと思うんですが,谷村的には「リセットするゲームにはしたくない。一度遊んで,どこが悪かったかを判断し,もう一度挑戦する,リプレイのゲームにしたい」と主張しまして。それは私も共感したので,何度でもプレイする方向のほうが面白いだろうということで,気軽に再挑戦できることを第一としました。
ですから空母決戦では,1シナリオどんなに長くても1時間ですし,うまくいかなかったらまた最初からやればいいと。そういう部分は外したくなかったです。
谷村氏:
人生と一緒で,リセットはできないんですよ(笑)。悪い状態に陥ったら陥ったで,それをどうやって乗り越えるかということを考えるようにしないといけないだろうと。なんでもかんでもリセットできますよっていうんでは,教育上もよくないんじゃないですかね(笑)。
リセット,リロードの繰り返しでいいところばかりをとっていくやり方より,悪かったら悪かったでその理由を追求していけるというのが,ゲームの本質の一つじゃないかなと思うんです。それが今のゲームではできないんですよ。
なにが本質で,なにが本質でないか
「空母決戦」は,鈴木銀一郎先生にもプレイしていただいていますよね。
鈴木氏:
いまお二人のいわれた点がうまく形になっていると思います。
私が最初感激したのは,索敵の方向を指示すると,索敵機のコースがぱっと出てくる。おお,これはいいじゃないか,と。しかも命令を下してるときは時間が止まっている。これもいいな,と。
PCゲームっていうのは,アナログのボードゲームに比べると「リアルタイム」という面で絶対的な強みがある。ただ,一生懸命考えているときにも時間が動いてしまうと,不愉快で仕方ないんですよ。現実の1秒とゲーム内の1秒が一致しているゲームならともかく,現実の1秒でゲーム内の1時間とかが過ぎ
去っていくゲームとなると,やはりそれは不愉快としかいえません(笑)。
それから,取扱説明書をほとんど読まずにプレイできたというのもよいですね。作品として成功していると思います。
索敵も,最初はルートだけ決定して,それからそこに1機ずつ置いていくような方法を考えていたんですが,やっぱり面倒なんです。
PCゲームって,仕様っていうのは作っていくうちに増えていく場合が多いのですが,今回の場合は削り込んでいく形になりました。たぶん,半分くらいは減らしちゃったと思いますね。
例えば,航空隊が飛んでいる間に合流できるようにするかしないかとか,艦隊を分けられるようにするかどうかとか,そういう要素って入れてもいいんだけど,そのたびにコマンドのメニューが増えてしまう。
索敵も,本当は二段索敵とか,厳密にいえばできたほうがいいんでしょうが,今回はパスしました。そこらは割り切った部分です。
4Gamer:
削り込む,というのが一つの姿勢なのですね。しかし銀一郎先生は,削ってあるとはいえ膨大な要素を持った「ハーツ オブ アイアンII」(以下HoI2)みたいなゲームを相当な時間プレイされているわけですが。
かつて日本のボードゲーム市場を席巻した「日本機動部隊」がボックススタイルで国際通信社より再版。この作品が日本のストラテジーゲームに与えた影響は非常に大きい。なお,年末には同じく鈴木銀一郎氏デザインによる名作「日露戦争」の再版もなされた |
コンポーネント。ユニットのビジュアルなどは,すべて新しくリデザインされている |
HoI2はいまだにプレイしてますね。日本軍でもうゲームから卒業しようと思ったんだけど,うっかりドイツでプレイし始めちゃって,またハマりました。
あれは,確かに要素がすごく多いのだけれど,コンピュータに任せておけるところは任せてしまっていい。こだわりたい部分には徹底してこだわれるけれど,方針さえ決めてしまえばPC任せで構わない部分も多い。そういう部分はコンピュータゲームの強みでもあるのだけど,同時にそれはデザイン上の割り切りでもあります。一種の省略の技法ですね。
私の「日本機動部隊」でも,似たような割り切りっていうのはあります。単純に空母戦というものを考えると,艦載機の航続距離の差というのは重要な問題になってきます。でも私は,それを全部のユニットに対して統一してしまうことにしました。
なぜかというと,当時の実戦では,できるだけ敵に近く寄って飛ばすという方針がありました。だから実際には,データ上の航続距離の差なんて,ほとんど影響がなかったんです。それでその手のデータは全部切ってしまいました。
そういった,なにが本質で,なにが本質でないか,そこを考えて,割り切っていく。これはとても大事なことです。
谷村氏:
やはりそこはゲームを作るうえで核になってくるというわけですね。
私も,このプロジェクトを始めるにあたって,石川さんとの意志を統一するなかで,「シミュレータではなく,ゲームを作る」ということを確認したんです。アナログのゲームでも,ものすごい精密なデータを持っていて,かつ索敵もリアリティを重視したゲームというのが黎明期から存在したんですが,じゃあ実際に遊んでみようということになると,コマを並べるだけで疲労しちゃいますし,索敵機を飛ばすころには,なんだかもう酔ってきます(笑)。
そこに出てきた「日本機動部隊」は,日本のシミュレーションゲーム界に革命を起こしたと思っています。今に至ってもなお,空母戦のゲームを作ろうと考えたときに,あの作品のことを完全に無視して作ることは不可能じゃないですかね。事実,アナログの世界においても,「日本機動部隊」以降の空母戦作品はプレイを楽にできるようにしようという意図が多分に含まれています。
ただ,ここで逆に明らかになってしまったのが,「ヒストリカル・リサーチの罠」とでもいうべき部分なのかな,と。
例えば,史実の珊瑚海海戦なんかを調べると,空母攻撃隊は一度敵艦隊を攻撃するとだいたい半分くらいに減ってしまう。それは歴史的な数字として,まぎれもない真実です。でもそれを忠実に再現すると,最初の一手だけで事実上ゲームが終わってしまうんですよね。初手でコケたら,もうおしまい(笑)。シミュレータとしては正しいんだけど,それはゲームとしてどうなの? と思うんです。
そういう思いもあって,「空母決戦」が今あるような形になった,というのがバックストーリーですね。「空母決戦」では空母がやたら沈みすぎるという傾向はあるんですが,ゲームとしてはそのほうが面白いんです。
意外と少ない「作戦級の海戦ゲーム」
4Gamer:
「日本機動部隊」も,再版がかかりましたね。
鈴木氏:
あれは一度雑誌の付録で再版をかけてもらったんですが,売り切れてしまって。日本におけるアナログのシミュレーションゲームのなかで,売上数をカウントすると,上から数本の指に入るのは間違いないと思います。ありがたいことです(笑)。
当時のゲームは陸戦ものが主体でしたが,そのなかにあって空母戦がテーマで,しかもそれが手軽にプレイできたというのは,すごく大きかったですね。
当時のイメージだと,空母戦ジャンルでは「FLAT TOP」が頂点に君臨していたんですが,それだけに「日本機動部隊」の衝撃は大きかったです。ここまで割り切ったんだ,と。
僕らも「空母決戦」を作るにあたって,「FLAT TOP」を作るのでは仕方ないと思いました。PCゲームの世界では「空母戦記」という作品がありまして,ものすごいデータを持っているゲームなんですが,それと同じ方向を見てもどうしようもないわけで。だから,僕らとしては「日本機動部隊」の方向,つまり,軽く,手軽に遊べるものを作りたいと思ったんです。本当にデータを重視する人には向こうがあるじゃないかと割り切れたのは,ある意味で楽でしたね。
4Gamer:
選択肢があるというのはいいですよね。
石川氏:ええ。僕はもともと,入門用というものは考えてないんです。僕らもボードゲームをやってて,それこそものすごく規模の大きなゲームを何日もかけて遊ぶこともあれば,今日は軽く2〜3時間で勝負のつくゲームをしたいと思うこともあります。でも,それを選ぶ理由は,入門用だからどうこうってところじゃなくて,遊ぶ時間とか場所とかにあわせて選ぶんです。
今回も,入門用・初心者用という意識はありませんでした。もちろん,その人達「も」遊べるようにはしたいと思っていましたが,それより,シミュレーションが好きな人であっても,ゲームとして楽しめるようにする。そこには注意してきました。
4Gamer:
空母戦という,PCゲームの世界ではややニッチなテーマを第一作に持ってきたというのには,どういう意図があったのでしょうか?
谷村氏:
たぶん石川と私で,理由は違うと思うんですが(笑)。
私の場合,よそ様を反面教師的にしたところは確かにあります。自分のやりたいゲームではない,というべきでしょうか。ゲームとしては面白い,あるいはシミュレータとして正確なのだろうけど,でもそれって空母が好きな人,戦艦が好きな人を満足させてるんだろうか? 普通のプレイヤーがついていけるんだろうか? という疑問があるんです。
それで,もっと遊びやすくて,かつ,空母戦という太平洋戦争の花形をちゃんとプレイできる,そういうゲームっていうのはジャンルとしてありなんじゃないかと考えました。まあ,僕はユーザー的な視点なので,石川さんとは全然違うと思うんですが(笑)。
石川氏:
全然違いますね(笑)。
最初,谷村から,家庭用ゲーム機ではなくPCでシミュレーションゲームを作りたいという話がありました。で,PCの市場で,買ってくれる人をどうイメージするか考えたんです。
若い人は,PCでもゲームはするけれど,ゲームはゲーム機という文化がやっぱり強いですよね。そうすると,そこで若い人が興味を持つような作品を作って,それでコンシューマゲームと争っても仕方がない。
じゃあ,ゲームをPCでしか遊ばないグループってどこらへんだろうと考えると,40代以上ということになるのではないかなと思うんです。このグループだと,ゲーム機は持ってない人が多いけれどPCはけっこう持っていて,PCでゲームを遊ぶということも知っている。
彼らがピンとくるテーマをと考えると,第二次世界大戦で,太平洋戦争の,連合艦隊モノっていうのが浮上してきます。そこから,「ミッドウェイの運命の5分間」みたいな,「もしかしたら,うまくやれば勝てたのかもしれない」という,ゲーム向けの戦いが多い空母戦が出てくるわけです。
あと,やはり空母ものというのは,海外も含めて,作品数がないんです。ストラテジーゲームマニアの人だと,海外作品もバリバリ遊んでる方が多いんですが,絶対数が少ないならば,そういうマニアの人も巻き込んで遊んでもらえるかなと考えました。
空母戦は,コンピュータでプレイするのに一番向いているように思いますね。
石川氏:
そうですね。
鈴木氏:
敵がどこにいるか分からないというのが前提ですから。
ボードだと,間に衝立を置くとか,紙にプロットを書くとか,いろいろ面倒で。さらに,敵が分かったからといってすぐ攻撃できるわけじゃなくて,航空隊がその敵に到達するまでの時間っていうものも問題になってくる。それを考えると,コンピュータにとても向いた素材ですね。
4Gamer:
では,銀一郎先生が空母戦をテーマとして選ばれたというのは,どういう経緯だったんでしょうか?
鈴木氏:
まず,それまでのシリーズに海戦がなかったっていう簡単な理由はあるんだけどね。「空母決戦」と似たような話です(笑)。
それはさておき,索敵のシステムとかを考えていったとき,やれるんじゃないかという腹案はありました。「砂漠の狐」という北アフリカ戦線を扱った作品で,「敵がどこにいるか分からない」というのをボードゲーム上でどう表現したらいいかということを掴んだから,これを空母戦に応用することができるだろう,と。
索敵といっても,あさっての方向を索敵するわけがないんで,だいたい敵が予想される方向に索敵機を飛ばすわけじゃないですか。そうすると,ユニットをマップ上に伏せておいて,そのなかに「ハズレ」も混じっているという処理でも,そんなに大きく間違ってはいないだろう,そういう腹案があったかもしれません。
- 関連タイトル:
空母決戦Ver2.0〜日本機動部隊の戦い〜
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