インタビュー
「空母決戦」のSi-phon谷村氏,エレメンツ石川氏に鈴木銀一郎氏を交えて徳岡正肇が聞く空母ゲームのあれこれ
「最初に買った人」を人柱にしない
さて,「空母決戦2.0」の話に入りたいのですが,シナリオが2本増えたというあたりから詳しくお願いします。
石川氏:
まず,ソロモンと,それからバランス的にどうよという問題はあるんですけどレイテのシナリオです。とりあえず,これで空母がまともに活躍したシナリオは網羅してますね。レイテのあれを「空母が活躍した」というべきかどうか,実に悩ましいですが(苦笑)。
レイテシナリオ開始 |
はいはい,物量物量 |
こちらの攻撃隊を敵空母機動部隊にぶつけた……ら,こっちがボコボコに。でも史実でもこんなもの,というかもっと酷かったのでしかたない |
どうしようもありません。いやまったく |
レイテに突入,戦艦同士が殴り合っているところに空襲をかける。効果のなさっぷりが素敵 |
噂によると,1.5になったときも,2.0のときも,プログラムをだいぶ書き直しているという話なんですが。
石川氏:
結構直してますね。できるだけ使い勝手をよくしたりとか,プレイヤーに負担をかけない範囲でルールを追加してみたりとか,そういうことをやってます。
2.0の場合,戦果報告で航路とか交戦記録とかはいつもどおり出るんですが,トータルでどうなったかという数値的な結果が見えにくかったので,それを出すようにしました。
航路に関しても,勝利条件を伏せている部分があって,勝利条件には「敵空母を2隻以上沈めること」としか書いてなくても,勝利段階を決定するためのフラグはいろんなところに埋まってるんです。
ただ,それがどこでどう成立したかが分かりにくいという話がありましたので,戦果報告のときに「この時点における勝利段階」を随時表示するようにしました。ですから,途中までは大勝利だったけれど,敵の空襲でこっちの空母が大損害を受けたことで勝利段階が下がったとか,そういうことが分かります。
あと,飛行隊の管理についても,空母の規模というものを踏まえたものに改変しています。1.5までですと,とりあえず武装の準備を整えれば,飛行隊がどれだけいようが一気に飛ばせていけるんですが,それはいくらなんでもゲーム的ですよね。
でも最大の修正は,キャンペーンモジュールにあわせた部分ですね。かなりごそっと。
4Gamer:
シナリオを引き継ぎプレイできる,というキットですね。
石川氏:
ええ。「空母決戦」は,もともと1シナリオ完結を前提にしていますので,沈んだ空母が次のシナリオに出てこないようにしたり,ダメージを受けた空母が一定期間で修復完了したり,そういうのも全部考えてデータ構造を作り直しました。1.5のときも相当修正したんですが,2.0での修正箇所は本当に多いですね(苦笑)。プログラム的にはがらっと変わってしまう感じです。
4Gamer:
実質上の新作,ということですか。
石川氏:
今回も無償アップグレードは行うんですが,1.5のときはまだ「パッチ」だったものが,2.0は完全に差し替えというレベルですね。
谷村氏:
売り方も少しずつ変わってきていて,当初ミッドウェイで切ったのは,大戦を「前編」「後編」で分けようかと思ってたんです。それで,自分としてもボリュームの割にちょっと高めかな,と思いはしたんですが,ああいう価格設定でリリースして……。
それで,アンケートを戻していただけるんですが,それを見ると,今までのPCゲームにあきらめ感を持っていた人達に買っていただけているんです。「今までPCゲームから離れていたんですが,久しぶりにプレイしてみました」とか,「日本機動部隊を遊んでいた自分にとっては,このゲームはまさに当たりでした」といった,そういう反響をいただけまして。それだったら,もう「前編・後編」みたいな姑息なやり方じゃなくて,全部開放しちゃえと。それで,1.5で南太平洋とマリアナ,2.0では第二次ソロモンとレイテ。これで戦役としては網羅した状態です。ただ,キャンペーンについては,ゲームの進行からして,もう完全に別なゲームなので,これはお金を払っていただこうと。
そもそも,この「空母決戦」というプロジェクトを立ち上げるにあたって,今のPCゲーム界になんとなく漂っている「先に買ったら負け」みたいな空気をなんとかしたいと思っていたんです。新作が出ると,すぐにその拡張版が出て,基本のゲーム+拡張版をセットで買ったほうが安い,とか。だから,最初に買ったユーザーが「損をした」と思わないような売り方をしないと,次に繋がらないと思いました。目先の回収であるとか,そういう方向から入ってしまうと,ユーザーが見えなくなってしまわないか,と。
もちろん,商売としてはだいぶヘタなやり方なんですけど(苦笑)。でもここで企業として我慢したことが,次につながると思います。
4Gamer:
次も期待されちゃうかもしれないですけどね(笑)。
谷村氏:
そこの一線として,「キャンペーンシナリオは有料」ということで(笑)。
Si-phonという新ブランドの,最初のゲームを買った人って,やっぱりお金を払うにあたってそれなりに勇気も必要だったと思うんです。それなのに,最初に買った人が人柱になっちゃうっていうのは,次に続かないこと確実ですよね。
拡張セットにしても,本当にゲームの内容を拡張してるんならいいんですが,どう見てもバランス調整パッチを有料配布するために追加データをつけてるんじゃないかってことになっちゃうと,ユーザー的には不信感を覚えますよね。
4Gamer:
値段っていうのもありますね。たとえバランス調整パッチに追加データをくっつけた程度の「拡張パック」でも,500円とか1000円とかだったら,まあいいかと思いますし。
石川氏:
1.5を無償で配布したときも,結構いわれたんですよ。「なんでお金取らないの」みたいなことは。ただ,じゃあ仮に「1.5拡張キット」を作って,それを1500円とか2000円とかで売ったとして,それで得られるお金なんてたかがしれているわけです。我々くらいの商売の規模だと。
だったら,無料でいいじゃないかと。最初に買ってくださった方の意見があって1.5が作れたというところもありますから……。パッチでゲームを改善できるっていうのは,デジタルの強みだと思うんです。だったら,もうそこは無料でやっちゃおうと。
鈴木氏:
ユーザーさんからフィードバックが戻ってきたというのは,立派なことだと思いますよ。ユーザーにとってみれば,意見を戻すのって面倒くさいことなんですから。やはりそこは,谷村さんが最初に打ち立てた,「ゲームを作る」っていうコンセプトがよかったんでしょう。
「年に2本くらいのペースでリリースしたい」
ちょっと話がずれちゃうんですが,サイフォンは長崎にある会社なんですね。で,北部九州にいると,とにかく福岡が元気なんです。それも福岡市。あくまで福岡市だけ(笑)。同じ福岡県の人でも,「福岡市は盛り上がってていいね」という。「それに比べると,うちのところはダメだ」みたいな感じで。でも福岡市の人は,「盛り上がっているんじゃない,盛り上げているんだ」っていうんですよ。
PCゲームの市場も同じことがいえるのかなと思います。「市場が冷え切ってる」「もうこの業界に未来はない」みたいな言葉はいくらでも聞けるんですが,それじゃあ,自分達は何をやってるのかっていう話ですよね。どうしたら打開できるのかっていうことを,自分達で考えなくては。
帳簿上では,出て行ったお金以上のものを回収するっていうのが難しい仕事ではあります。でも,まずやってみることから始めないと,先には進まない。それで周りとのつながりもできてきます。回収なんてものは,自分が頑張ればいいだけのことです(笑)。
日本のPCゲームは,20年前には世界でもトップクラスの実力があったんです。それで,そういうゲームが好きで,ゲームを作るための技術を習得した人達もいます。だったら,次の20年後のために,今の子供達が触れて面白いと思うゲームを作りたい。だから自分としては,そのための商材を世に出していきたいんですね。
まあ,正直きついんですけどね!(笑)。きついんですけど,でもこれを乗り越えた先には,何かがあるだろうと。
4Gamer:
「空母決戦」以外にもタイトルが?
谷村氏:
「空母決戦」は,僕としては,割と初心者を意識したタイトルですが,中級者向けの,やや濃いタイトルも作っていきたいですね。それに,第二次世界大戦だけがストラテジーゲームのテーマというわけでもありませんし。
今後は,三つくらいのゲームを同時に開発していって,年に2作くらいのペースでリリースしていきたいと思っています。三つというのは,三つのうち二つ手堅いものを作っておけば,一つは冒険できるからです。例えば日本史にしたって,日本史=戦国っていう図式ができあがってるきらいがあって,実際問題,太平記なんかは圧倒的に人気がないネタではあるんですが,ゲームにすると面白いんですよね。それにやっぱり,戦国ばっかりだと飽きるじゃないですか。そういったゲームの幅っていうのは,大事だと思うんです。
ただ,そういう「美味しくない」部分をやるためには,メジャーな路線もやっていかないと,と。そういう計算ですね。いずれにしても,そのうちいろいろとお知らせできると思います。
とりあえず,次は,戦国モノを考えています。これもまた,コーエーさんの「信長の野望」があるので,亜流でないものを作らなくてはいけない。システムソフトにいたころ,僕は「天下統一」のプロデューサーだったんで,「信長」でも「天下統一」でもないもの,今作るならどんな戦国ものであることに意味があるのか――そういうことを考えています。
銀一郎先生の「新・戦国大名」のノートにも書かれていましたが,「戦国大名」はプレイ時間がかかる。それと同じで,限られた時間のなかで,どう戦国時代というものをシミュレートしていくのか。また,史実に関する情報も増えてきていますので,それをどう生かしていくのか。そのうえで,どうやってそれらを遊びやすいゲームとしてまとめるのか。
4Gamer:
期せずして,銀一郎先生の新作も「戦国ドミニオン(仮)」なわけですが(笑),もう版元とかは決まってらっしゃるんですか?
鈴木氏:
パブリッシャは決まってます。が,「いつ」というあたりはまだ決まってません(苦笑)。
石川氏:
じゃあ,出版されたときは,ぜひまた座談会を(笑)。
49歳がゲーマーの壁?
「空母決戦」は,実際,相当多様な年齢層に売れているようですが,それでも50歳以上の人は「難しいゲームだ」と思うことが多いそうですね。
谷村氏:
そうですね,ゲームを普段から遊んでいる人にとって,「空母決戦」はそれほど難しいゲームではないと思うんですが,あまり遊んでいない人は難しいと感じることが多いようです。
石川氏:
そもそも,画面を見ただけで尻込みしてしまわれることも多いようですね。これは難しい! という先入観のようなものを抱いてしまうのかもしれません。
鈴木氏:
私の観測では,ゲーム人口っていうのは,上限が今49歳だと思うんです。だから50歳っていうのは,難しいだろうなあと思いますね。
石川氏:
ほほー。その,49歳っていうのは,どういう理由で?
鈴木氏:
一也の歳です(「メガテン」で知られる鈴木一也氏は,鈴木銀一郎氏と二代続いてのゲームデザイナーである)。
あの世代は,まったくゲームというのに抵抗がないね。でもそれ以上になると,難しい。だからあそこがゲーム年齢の上限だな,と。それが毎年1歳ずつ上がっていってます(笑)。
谷村氏:
たまたま今回,長崎の地方新聞で,うちの会社のことを記事として大きく取り扱っていただいて,それで高年齢層からのお問い合わせが増えたんです。ほとんどは電話なんですけど(苦笑)。聞くと,やっぱり二次大戦そのものにはものすごく興味を持ってるんですね。子供の頃から戦争映画とかもたくさん見ていますし。
でも,ゲームとなると「インベーダーゲーム」の印象が強すぎて,ああいうアクション性の強いゲーム――例えば相手の空母に対して魚雷を打つゲームとか,降ってくる爆弾を回避するゲームとか,そういう連想が強いんですね。そうでなければ,戦争映画のような派手な空中戦が見れるのかとか。
それに対して作戦級のゲームとなると,やっぱり距離がありますね。
4Gamer:
だいぶ離れてますね。
谷村氏:
じゃあと,そういう要望に対して寄り添ったゲームを作った場合,今のメインのユーザーがそれについてきてくれるかというと……まあ,それは無理だなあと思います。そこは本当に難しいですね。
4Gamer:
我々の想像とは裏腹に,アクションゲームのほうがご高齢のゲーマーには向いているのかもしれないですね。
石川氏:
分かりやすいですからね。作戦級より戦術級,さらにいえば兵器単体が活躍するようなゲームのほうがイメージを喚起しやすいようです。
谷村氏:
しかし,鈴木銀一郎先生は,どう見ても49歳の壁の向こうにいらっしゃるわけですよね。
鈴木氏:
そうですねえ(笑)。
谷村氏:
銀一郎先生と同年代の方は,やっぱりゲームってやられないんですよね? それってどこらへんに理由があるんでしょう。
やりませんね(笑)。
囲碁とか将棋,麻雀はやる人も多いんですよ。でもそれ以外のゲームになると,さっぱりです。ゲームってのはどこかで抽象性を持つものですが,その抽象的なお約束を受け入れられないのかな,と思います。結果として,年齢が上の人のほうが,実はとても具体的な内容を持ったアクションゲームのほうがしっくりくる……の,かもしれないですね。
4Gamer:
高齢者向けゲームっていうのも難しそうですね。
鈴木氏:
まったく企画がないわけじゃないんですよ? でも内緒です(笑)。高齢化社会だから,これからが旬な企画だもの!(一同笑)。
谷村氏:
じゃあ,うちも諦めずに(笑)。
4Gamer:
いずれ私たちも高齢者ですからね! 歳をとったときに遊ぶゲームはほしいです(笑)。
本日は,本当にどうもありがとうございました。
- 関連タイトル:
空母決戦Ver2.0〜日本機動部隊の戦い〜
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