インタビュー
「アーマード・コア」の名前を外すことも考えた――鍋島プロデューサーが語る「ARMORED CORE V」へかける覚悟
2011年10月に発売が予定されている最新作「ARMORED CORE V」(PS3 / Xbox 360,以下ACV)は,従来とは一線を画す「マルチプレイ」「チーム戦」にフォーカスを当てたゲームシステムもさることながら,シリーズとしては異例となる3年以上もの開発期間をかけている,フロム・ソフトウェアの渾身の一作とも言える作品である。
その力の入れようや,次第に明らかにされる情報を見て,「今回のアーマード・コアは何かが違う」……そう感じたファンも少なくないのではないだろうか。
「ARMORED CORE V」公式サイト
4Gamerでは,そんなACVのプロデューサーを務める鍋島俊文氏に話を伺う機会を得て,今作に対する意気込みやその方向性,あるいはゲーム制作に対する考え方など,さまざまな話を聞いてみた。
有名シリーズのナンバリングタイトルとしては,異例に思えるほど挑戦的な要素が数多く盛り込まれている本作。鍋島氏は,いったい何を考え,これまでのシリーズとは何をどう変えようとしているのだろうか?
もう一段ステップアップしたアーマード・コアを目指して
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずACVの大枠からお聞きしていければと思うんですけれど,本作って一番最初に発表されたときから比べると,今の形はかなり“方向性変わっている”ように思えるのですが,そうなった経緯や理由について教えてもらえますか。
よろしくお願いします。えっと,最初のACVっていうのは,タイトル名が数字の「5」のときですか?
4Gamer:
そうですね。マルチプレイ要素なんかも発表されていなかったときです。
鍋島氏:
分かりました。最初の頃は,言ってみれば,今までの「アーマード・コア」シリーズの延長線という制作方針で進めていたんです。当初は開発期間ももっと短かく想定していました。
4Gamer:
あの頃のプロモーションムービーや画像などを見る限りでは,なんと言いますか,“普通のアーマード・コアの新作”って雰囲気でしたよね。
鍋島氏:
ええ。そのつもりで作ってましたからね。
しかし,発表した後にプレイヤーさんの反応を見て,社内でウチの社長とかも含めて,改めて「今後のアーマード・コアっていうのはどうあるべきか」みたいな話し合いをしたんですよ。そしてその結果,やっぱりもう一段“ステップアップしたもの”を出していかないとダメだろうという話になったんです。
アーマード・コアは,シリーズとしてすでに15年近く続いているわけですが,これまでの延長線上で進化していくだけでは,タイトル自体がダメになってしまう。そういう危機感があったんですね。
4Gamer:
好きな人は喜んでやってくれるかもしれないけど,そういう人がいつまでも付いてきてくれるとは限らないですよね。大人になればゲームから離れたりもしますし。
鍋島氏:
ええ。もちろん,これまでのファンの方を軽視するという話ではありません。ただ,何かの拍子に常連さんが離れてしまったとき,アーマード・コアシリーズが終わってしまうのは避けたいと言いますか。
4Gamer:
分かります。
鍋島氏:
だから,今の時代に合わせた形,新しいことにチャレンジしていかないと,アーマード・コアというブランドそのものが「もう持たないよね」と。
4Gamer:
なるほど。そこでアーマード・コアというものをステップアップさせるための要素として,今回は「マルチプレイ」などを全面に押し出してきたわけですね。
鍋島氏:
はい。なんと言えばいいのか,繰り返しになるけど,アーマード・コアという作品を“さらに上のステージ”に押し上げるためには何が必要か,みたいな視点で取り組み直したんですよ。
4Gamer:
ACVは,傍から見ていても「これは力の入れようが違うな!」みたいな空気を感じていたのですが,なるほど,そこまでの決意があったんですね。
鍋島氏:
僕が開発チームにいってる言い方としては,「当初(“5”)は結局,今までの方向性の中でクオリティの高いアーマード・コアを作ろうという話でしかなかった。でも“V”が目指してるものはそうじゃない。単純にクオリティを上げるのは,新しいものを作る以上は当たり前で,今回は違うステージに上がるためにやっていくことにしたから,そこを履き違えないようにしてくれ」という感じです。
4Gamer:
今までよりクオリティが高いのは当然で,そこを踏まえてさらに「上」を,ですか。
鍋島氏:
そうです。開発期間にしても,今までの倍なり3倍なりの時間をもらってるんで,そこはもうやるのが大前提ですよね。ただ今回は,さらにそれを超えないといけない,今までのシリーズを乗り越えた“新しいアーマード・コア”を作らなければいけない。
4Gamer:
うーむ。
鍋島氏:
その意味でいうと,タイトル名に関しても結構揉めたんですよ。それこそ半年くらい揉めてた(笑)。
4Gamer:
え,シリーズのナンバリングタイトルで,何をそんなに悩むことがあるんですか?
鍋島氏:
要するに,「アーマード・コアって名前を外しちゃおう」という話になったんです。
4Gamer:
え。
鍋島氏:
なんというか,「新しくなったんだ!」ということをちゃんと伝えたかったんですよ。僕らがそういう覚悟,意志を持ってやろうとしてるんだっていうことを,なんとかしてプレイヤーの皆さんに理解してもらいたくて。だから「名前をまるっきり新しくすればいいんじゃないか」という話が出てきたんですよね。
4Gamer:
いや,そうは言っても……。
鍋島氏:
はい。ここで言うのも何ですけど(隣にいる広報さんと営業さんを見つつ),宣伝や営業の人間からすれば,「アーマード・コアというブランドがあるのに,それをぽいって投げ捨てるなんて,頭オカシイんじゃねえか」って感じですよね(苦笑)。
4Gamer:
ええまぁ。ビジネスとして考えたら,それは大変なリスクですしね。
鍋島氏:
作る側の悪い癖なんですよ。僕も作る側の人間なので自覚はしてるんですけど,どうしても“つい作り直したくなる”といいますか。まったく新しいものを作りたくなるんです。
そして,そういう作っている側のロジックからすると,「新しいものを作るのなら,名前も新しくしろよ」を普通に考えてしまうという。
4Gamer:
気持ちは分かる気はします。……しかし,それは確かに揉めますね(笑)。
鍋島氏:
まあ,紆余曲折あって最終的には「ARMORED CORE V」になったんですけどね(苦笑)。
しかし,実はタイトル名って毎回結構揉めるんですけど,今回はとくに酷かったですね。「アーマード・コアという名前を捨てよう! いや,やっぱり必要だ」という議論を延々とやっていたわけですが,一緒にアイデア出しなどを手伝ってくださったバンダイナムコゲームスの方々も,途中から「もうなんでもいいから,さっさと決めてくれ」みたいな空気になってしまって辛かったです(笑)。
4Gamer:
まぁでも,ファンとしてはアーマード・コアというブランドは残ってほしいと思いますけどね。
鍋島氏:
そうですね。そう言ってもらえると嬉しいですね。
4Gamer:
ロボットゲームの市場って,新タイトルが参入しても,ブランドとして有名になるのはとても難しいじゃないですか。生き残っているタイトルは,もうほとんど無い。
鍋島氏:
昔はいくつかあったんですけどねぇ。気が付くと,ガンダムとスパロボ,それにウチ……みたいな感じなってしまったかもしれませんね。
4Gamer:
だから今,ロボットゲームファンからのアーマード・コアへの期待度の高さたるや,相当なものだと思うんですよ。一極集中してるというか。ガンダムやマクロスのゲームはありますけど,そうではない,もっと重々しいロボットアクションを求めている層も確実にいると思うし。
鍋島氏:
そうですねぇ……。え,というか,今日ってもしかしてそういう場? 「分かってんのか,お前は!」みたいな(笑)。はい,ご期待に添えるよう頑張ります。
役割分担を重視したゲームシステム
4Gamer:
では,改めてお聞きしますけど,今回は,“新しいアーマード・コア”を実現するための要素として,「マルチプレイ」「オンライン」という部分にかなりフォーカスされていますよね。そこの狙いや考え方について教えてください。
鍋島氏:
まず,アーマード・コアで新しい何かをやろうと決めたとき,「オンラインでやるしかないだろう」という発想は,ごく自然に出てきました。というのも,もうシングルプレイの部分はやりつくした感があって,これをいくらひねくり回しても,小細工みたいな見え方になってしまいます。
4Gamer:
作品の本質的な面白さ……新しい遊び方を提示する意味でも,オンラインという流れは必然であったと。
鍋島氏:
そうですね。ただ,今まで作っていたものを捨てて方向転換したというわけではなくて。アーマード・コアがこれまで培ってきたものを土台にして,それを全部オンラインというコンセプトに乗せようと。ですので本作は,一人でもみんなでも遊べるという,ちょっと特殊な作り方にはなってます。
4Gamer:
先日行われたUstreamでの放送を見ていても思ったのですけど,ACVには「こう遊んでほしい」というようなメッセージみたいなものを感じるんですよね。なんというか,昔,ロボットアニメとかを見て,「こういう遊びがしたいなあ」と思っていたのを,そのまま再現してるといいますか。
鍋島氏:
そういう風に言ってもらえるのは凄く嬉しいですね。さっきの話と逆に聞こえるかもしれませんが,僕は今まで作ってきたアーマード・コアを否定したいわけじゃなくて。今回は,新しいロボットアクションを作ろうよという話になって,それができるだけの時間ももらえたので,思いつくことは全部やってやろうと考えているんですよ。
4Gamer:
鍋島さんというと,僕にとっては「クロムハウンズ」の印象も強いんですよね。あのゲームは,良い意味で“戦争ごっこ”をそのままゲームにしている感覚がありました。ACVでも,あのエッセンスというか雰囲気が受け継がれていたりはするんですか?
鍋島氏:
僕は,ゲームって基本的にシミュレータに近いところがあると思っているんですよね。パズルみたいな,いかにもゲームらしいルールがある作品は別として。
例えば,RPGはいわゆる“冒険ごっこ”だし,アクションゲームであっても,世界を救う勇者ごっこでも何でもいいですけど,大抵はモチーフがあるものだし。そういうものを仮想空間の中に落とし込んで体験させるっていうのは,ゲームの一つの側面なのかな,と考えています。
僕にとってクロムハウンズは,作ってて面白かったし,自分で遊んでも面白かったお気に入りのゲームです。ですから,あれのコンセプトをアーマード・コアに適合させる形で落とし込むという発想から,ACVに盛り込んだ部分はありますよ。
4Gamer:
そういえば,今回はマルチプレイ,アクション部分でいうと「チーム戦」が大きなウリだと思いますけど,ゲームシステム的には“役割分担”を意識した設計になっているみたいですね。
鍋島氏:
そういう面もあります。特定の戦い方を想定したパーツみたいなものだったり。それから今作では,攻撃/防御の属性が三つあって,武装によってプレイヤー間の相性がかなり出やすいようになっているんですよね。
4Gamer:
でもそれって,手持ちの武器で敵が倒せないというケースも出てくるんですよね。例えば,軽量二脚の機体を使っていて,敵のタンクにまったく武器が効かない! なんていう場合には,どうすればいいんですか? 強い武器を1個持っておくとか?
もちろんいろいろなやり方というか、考え方はできると思いますが,ひとつの例として、今までのアーマード・コアになかった戦術としては、そういう時には「戦わない」というのがありますね。
4Gamer:
そうか,チームメイトに任せればいいわけですね。
鍋島氏:
ええ。ただ一方で,プレイヤーさんにこの「戦わない」っていう行動を取らせるのは,非常に難しい部分だとも感じています。例えば,ウチの開発スタッフにチームを組ませてやらせたときも,やっぱり敵が目の前にいたら,そのまま向かっていっちゃうんですよね。
自分が軽量機体で相手が重装甲タンクで,かつ逃げ場のないトンネルみたいな場所でも,敵を見つけると攻撃しにいってしまう。結果,反撃されて瞬殺されてしまうわけですが(笑)。
4Gamer:
そこはシリーズに慣れていると,余計に向かっていってしまいそうですね。ちなみにその相性(持ってる武器が効かない)っていうのは,ゲームの中ではどうやって知ればいいんですか?
鍋島氏:
最も大きい要素はオペレータの存在になるんですが,単独でプレイしている場合でというと,一つは兆弾跳弾ですね。撃って効かなければ「跳ね返る」という表現を入れていて,「あ,効いてない」というのがすぐに分かるようになっています。ダメージは必ずしもゼロではないんですけど,撃つ意味はほとんどありません。
それと戦闘中に「スキャンモード」というのを使うと,この武器の相性が瞬時に分かるグラフが表示されて,リアルタイムで調べられるんですよ。
4Gamer:
なるほど,そこでスキャンモードが必要になるのか。その意味でいうと,今作は,戦術的にもかなりテクニカルな内容になっているんですか?
鍋島氏:
今回は,索敵をするスキャンモードと戦う戦闘モードっていう2つが存在していて,状況に応じてリアルタイムで使い分けられるようにしました。インタフェース的に言うと,戦闘モードでは,敵の位置を表示するレーダーなんかもなくしてるんですけど,そこはスキャンモードで索敵して,敵を発見したら戦闘モードに切り替えて,攻撃にかかるって形ですね。
4Gamer:
レーダーもないんですか。軽量機体使って索敵専門とかやるのも楽しそうだなあ。
鍋島氏:
スキャンモードでは,攻撃が出来なくなるんですけど,代わりにエネルギー消費が抑えられるので,移動に関しては優れてるんですよ。腕や武器のエネルギーをカットして,そのぶん余剰のエネルギーを確保してるってイメージですね。
その状態で,ずっと飛び回って敵を調べたり,あるいは敵を妨害するパーツもあるんで,前線飛び出ていってそういうのをばら撒いて嫌がらせをしたり,「ここに敵がいるぞ」ってボイスチャットで味方に伝えたり。そういう補助的なプレイは,軽量機体の方が向いてるでしょうね。
4Gamer:
最初に画面を見たときは,スキャンモードで表示されるグラフの意味がさっぱり分からなかったですけど,意味が分かると,途端にこのグラフが“燃える要素”に見えてきますね。
鍋島氏:
ああ……。グラフについては,ウチのディレクターが妙にこだわっていて(苦笑)。
4Gamer:
グラフにこだわる?
鍋島氏:
ACVのディレクター(高橋直之氏)は,元々アーマード・コアプレイヤーだったんですけど,彼は中学3年のときに1作目に出会って,ずっとやってたらしいんですよ。それで,当時は自分で「ACノート」なるものを書いていたらしくて。
思春期の頃って好きなものがあると,文系の子だと授業中にお話を書いちゃったりとか,美術系の子だと絵を描いちゃったりすると思うんですけど,彼は理系だったので,パーツのパラメータをメモってきて,グラフを描いて「最も効率的な戦い方ができる距離はここだ!」みたいな俺理論を作ってたっていうんです。
4Gamer:
むちゃくちゃコアなプレイヤーですね。
鍋島氏:
アーマード・コアというと,いわゆるメカニカルな部分に“燃える”と思うんですが,彼に言わせると,「グラフも燃えられる要素なんだ」と。「いいでしょう。この曲線がカッコイイでしょう?」と同意を求めてくるのがうるさくて(苦笑)。
4Gamer:
いやぁ,言わんとするところは分かりますけどね(笑)。
インタフェースに関するコンセプトをもう少し説明すると,戦闘モードは「可能な限りシンプルにしよう」って考えていて,必要最低限の情報以外,ほとんど数値やメーターみたいなものは表示されません。
一方で,スキャンモードは「可能な限り複雑にしよう」という意図があって,いろんな計器の数値っぽいのとか,敵の情報がグラフとかでこれでもかと表示される形になっているんです。
4Gamer:
ああ,なるほど。
鍋島氏:
これらのモードを上手に使いこなすことが「一流の証」みたいな感覚というか,データを瞬時に把握する俺ってすげえ! カッコイイ!みたいな感覚を狙っているんです(笑)。
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