インタビュー
「アーマード・コア」の名前を外すことも考えた――鍋島プロデューサーが語る「ARMORED CORE V」へかける覚悟
リアルさとゲーム性という観点から作られるパーツデザイン
鍋島氏:
そういえば,今回は,パーツのデザインのコンセプトも変えているんですよ。今までは1個1個ユニークにデザインしていたんですが,ACVの場合は,ベースモデルみたいなものがいくつかあって,それの派生で違う性能を持ったパーツが作られているという概念なんです。
4Gamer:
割と現実の製品に近い形ですよね。
鍋島氏:
ええ,車でも戦車でも戦闘機でもそうですけど,最初にベーシックなモデルが出て,それのハイエンド版とか,ある性能に特化したやつとか,武装がちょっと違うやつとかが後から出ますよね。
4Gamer:
戦闘機とかで言うと,型番の後ろにAとかBとか,あるいは複座機ならEとかが付く,みたいなイメージですね。
鍋島氏:
そうそう,そういうやつです。いろんな形のパーツがあるっていうのも,それはそれでおもちゃ箱みたいで楽しいんですけど,「実際そうじゃないんじゃねえの」っていう考えがありました。
4Gamer:
たしかに兵器のリアルさについて考えると,まったく違う形のパーツばかりというのも不自然な気はします。
鍋島氏:
実際の工業製品や,兵器のリアルさみたいなものを考えると,まったく違う形のパーツばかりというのは不自然ですよね。いかにもゲームのアイテムみたいというか。
4Gamer:
ACVのパーツデザインって,リアル路線でありながら,機体に対してかなり大きめの武器が複数ついていたり,足に盾を付けてみたりと,言い方は悪いですけど,ある種の嘘臭さも上手く盛りこんでいますよね。そういう部分は意識してデザインされているんですか?
鍋島氏:
デザインについては複合的な要素があるんですよね。派生パーツについてもそうなんですが,まずベースのパーツに追加の装甲みたいなのが付いていて,防御の属性が違うパーツがあるとします。その装甲の種類とかイメージっていうのは,現実の戦車が付けているようなものを参考に,新しいものから古いものまで,いろいろ持ってきています。
ただその一方で,ゲーム的な要素を考えると,そういうところを逸脱した部分が出てくるんですよ。
4Gamer:
ああ,それが足の盾だったりするわけですか。
足の盾っていうのは,構えて撃つアクションをやらせたいという発想が先にあったんです。昔から,構えて動けなくなる代わりに強力な武器が使えるよって要素はありましたけど,あれはデメリットが大きすぎて使われなかったんですよね。
4Gamer:
あれはわざわざ構えるより,動いて撃てる武器を使ったほうがいい状態でしたね。あの構えるという動作自体はかっこいいんですけど……。
鍋島氏:
今回ってチーム戦じゃないですか。だったら,構えて遠くから狙撃するポジションの人がいてもいいはずだ,というかいてほしいと思って,あの要素を新しい形で取り入れたいと考えたんです。そこで,構え状態では盾を展開するから防御力が上がって,撃たれても撃ち返せるようにしようと。
4Gamer:
なるほど。
鍋島氏:
あと,盾についてもう一つアプローチがあって,デカール(転写画)を貼る場所がほしかったんですよ。例えばAC4なんかでは,パーツ単体のかっこよさを追求しているせいで,そういう要素を入れづらいんですよね。表面部分のディテールも細かいので,デカールで絵を描きたいと思っても,場所がなかった。
4Gamer:
確かに手を加えにくいところはあったかもしれません。
今回は,開発初期の段階でデカールとかエンブレムの要素はパワーアップさせたいと思っていたので,それを大きく貼れる場所がほしかったんです。なので意図的に,かつナチュラルな形で,パーツに平面の部分を増やしているんですけど,足の盾もその一つだったりしますね。
4Gamer:
確かに,あそこに大きくデカールを貼れたら目立ちますね。楽しそうだ。
鍋島氏:
機体の名前でもいいし,チームの中での番号でもいいし,あるいは可愛い女の子の絵とかを貼ってもいいんじゃないですか(笑)。あそこはある種のキャンバスなんですよね。
4Gamer:
そういうデコレーション要素って,最近だとレースゲームなんかにも多いですよね。
鍋島氏:
「Forza Motorsport 3」なんかでは,凄いクオリティのデザインが作れられているし,正直,対抗心みたいなものはありますね。ACは十数年前からカスタマイズをウリにしてるゲームなのに,そういうところで負けちゃってるのはどうなのって思うんですよね。
チャレンジへの不安と,それを払拭する盛り上がり
4Gamer:
それにしても,話を聞けば聞くほど,本作は従来のアーマード・コアシリーズから脱却して,違うゲームになっているという印象を受けます。
鍋島氏:
そう感じてもらうのが第一歩だと思うんですよ。「なんか変なことしようとしてるぞ,こいつらは」って思ってもらわないといけないし,そういう風に見えるようにしたい。
4Gamer:
しかし,ここまで挑戦的な取り組みだと,かなりの不安もあったんじゃないですか?
正直に言うと,プレイヤーさんの反応がどうなるかはめちゃくちゃ不安でした。プレイ動画を公開してからは,とても良い反響をいただいたので少し安堵しましたけど,本当に,今までゲームを作っていて一番不安でしたね。
4Gamer:
プレイヤー側も,一体どう変わったのかが分かりませんでしたしね。
鍋島氏:
そうですね。情報がなくてよく分からないので,悪い方向に想像を働かせて,批判的なご意見をいただくことも少なくなかったんですよ。でも,実際に動いているゲームを見ていただいた途端,今度は物凄い勢いで期待されている気がして……。きっと今まで心配していた分,逆に盛り上がり方が激しいんですよね。
4Gamer:
いやぁ,あの映像を見せられたら,ワクワクしてしまうと思いますよ。
鍋島氏:
作っている側としては,仮に評判が悪くても簡単には後戻りはできないので,まずは本当に良かったです。
4Gamer:
ACVという作品には,今までのシリーズ以上の“大作感”みたいなものがあると思うんですよ。盛り上がりという意味でもそうですし,何よりも開発期間に3年以上の歳月をかけているので,その意味でも紛れもない大作ですよね。そもそもフロム・ソフトウェアとして,ここまで時間をかけたタイトルってあったんですか?
鍋島氏:
少なくともアーマード・コアでは初ですね。僕は1作目を制作している時にちょうどフロム・ソフトウェアに入社して,今年で15年めになるんですけど,その間にアーマード・コアシリーズを,だいたい14作ぐらい作ってるんですよね。移植とかも含めると,もう少しありますし。
4Gamer:
平均すれば1年1本ぐらいのペースで出してきたわけですね。
鍋島氏:
そうですね。昔のPlayStation作品とかを今のと比較してもしょうがないとは思うんですけど,けっこう速いペースで作ってきました。そういう意味で,今までやれなかったこと……時間がないからやれないっていうのは結局言い訳なので,そういう言い方はよくないと思うんですけど,時間があるときじゃないと作れないものもやっぱりあるので,昔から「こうしたいな」と思ってもやれなかったものを,今回は作っているつもりです。
4Gamer:
うーん,どこをどう捉えても期待せざるを得ない(笑)。
でも,時間をもらえてありがたいなと思う反面,会社としてはそれだけお金もかかっているので,結果を出さないといけないな,今まで以上に失敗できないなというプレッシャーも感じています(苦笑)。
4Gamer:
な,なるほど。
では,そろそろ時間が迫ってきましたので,最後に読者やファンに向けてコメントをお願いします。
鍋島氏:
そうですね……。話が戻ってしまって恐縮なんですけど,やっぱりマルチプレイをぜひ楽しんでほしいですね。ただ純粋に対戦をするだけじゃなくて,いろんなプレイヤー,いろんな遊び方が許容されるようなゲームにしたいと思っていますので。
なんというか,やっぱりこういうゲームだと「アクションが上手い人=偉い」ってなっちゃうんですね。とくに今までのオンラインモードは,基本的に対戦がメインの要素だったこともあり,対戦が強い人が偉くて,負けちゃった人は居場所がないみたいな感じになりがちだったので,そこは何とかしてあげたいなってずっと思っていました。
だから今回は対戦がメインではなく,いろいろなアプローチで遊べるような仕組みやルール,機能をつけたつもりです。
4Gamer:
それはパッケージゲームというよりは,もう完全にオンラインゲームに近い考え方ですよね。
鍋島氏:
そうかもしれません。これもクロムハウンズの話なんですけど,ゲームの中で新しいパーツがリリースされる前に,数量限定だけど抽選で先行購入できますという仕組みがあったんですよ。買いたい人は申し込んでねっていうのが1日単位であって。これの面白いところは,毎日会社から帰ってきて,ゲームを起動して抽選の結果だけ見て,「外れた」っていってまた申し込んで電源切る……みたいな人がいたことなんですよ。彼らが実際に戦うのは土日だけで。そういう遊び方っていうのもアリだと思うんですよ。
だからACVでは,そういう部分をもっと進化させて,いろいろなプレイヤーの方が,それぞれの環境の中で楽しめるようにしたいんです。チームをまとめる人,エンブレムを作る人,オペレーター専門の人,ガレージでひたすら遊んでる人……などなど,いろいろな角度からゲームを楽しんでほしい。毎日遊んでほしい。
4Gamer:
そこはチームとか伝言板,領地争奪戦なんかがうまく作用すると,上手く回りそうですよね。チーム戦におけるオペレーターの役割なんかも,ロボット好きからしたら夢があるというか(笑)。ごっこ遊びとしては「そう,これこれ!」みたいな感覚がある。
鍋島氏:
アーマード・コアのことが大好きで,パーツの知識だけだったら誰にも負けないっていう人は,ぜひオペレーターをやってほしいですね。
4Gamer:
女性のオペレーターに指示を出されたいというのはきっとみんな思っているはず。
鍋島氏:
夢ですよね。まぁ,アーマード・コアのプレイヤーの男女比は99.8:0.2ですけど(笑)。
4Gamer:
少なっ!
鍋島氏:
ユーザーさんからは「女性オペレーターに罵られたい」なんて声も聞きますね(笑)。
4Gamer:
ともあれ,発売……その前にクローズドβテストがありますけど,早く遊んでみたいですね。
鍋島氏:
ありがとうございます。我々は新しいモノを作ろうと頑張っているし,そういうものが出来つつあるという手応えを感じているところです。先だってのプレイ動画配信で,プレイヤーの皆さんからはとても良い反応をいただけたのが,まずは本当に嬉しいですね。完成に向けて,期待を裏切らないように頑張りたいです。
発売まではまだ5か月あるんですけど,その間にβテストだったり,E3とかで公開される情報もありますので,ぜひ期待してください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
今回のインタビューでもっとも驚かされたのは,鍋島氏がACVの開発に懸ける,その覚悟と意志の強さだろう。冒頭でも書いたように,「今作は何かが違う」とぼんやりと感じてはいた筆者ではあったが,「より上のステージへ押し上げたい」「新しいモノを作りたい」という,鍋島氏の“本気度”は,想像を遥かに上回るものであった。
インタビュー中でも話題に出ていたが,本作は,まるで「こういう遊びをしたい」という子供の頃の夢をそのまま実現しようとしているかのような,作り手の意気込みが感じられる作品である。これまで以上に面白く,夢の広がるゲームになっているであろうACVへの期待は,いやがうえにも膨らむばかりである。
ちなみに,本作は7月中にクローズドβテストの実施も予定されており,テスターの募集が6月16日24:00(17日0:00)まで行われている(関連記事)。そのほかにも続報が入り次第,4Gamerに随時情報を掲載していくつもりなので,期待しているファンはぜひ注目していてほしい。
「ARMORED CORE V」公式サイト
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ARMORED CORE V
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