インタビュー
情報をオープンにして業界全体の底上げを。オールジャパンで改革に取り組んだCEDECの3年間と今後の展望をCEDECフェローの松原健二氏に聞いた
ソーシャルゲームとブラウザゲームはなぜ台頭したのか
4Gamer:
話を急に大きく広げちゃいますが,松原さんは,日本も含めて世界のゲーム市場がこれからどうなっていくとお考えですか?
今年のE3を見ると,もう北米市場はシューティングと,カジュアルゲームしか必要とされてないんじゃないかと思えてきますよね(笑)。
4Gamer:
いやホントに……。撃ってるか街作ってるか。
松原氏:
その一方で2010年内には,従来のコントローラとは異なる入力デバイスが,各プラットフォームに出揃います。そういった多様化は,対応しなければならないメーカーにとっては大変なことですが,逆にチャンスでもあります。またプラットフォーム自体も,一極に集中するのではなくそれぞれに伸びていますから,ここにもチャンスは存在します。
スマートフォンの伸びもそうですよね。たとえば,スマートフォンの台頭でソーシャルゲームが伸びているというのであれば,同じようにコンシューマのカジュアルなゲームにもチャンスがあるはずです。
4Gamer:
ソーシャルゲームやブラウザゲームの伸びには,純粋にお金の問題もあるんじゃないでしょうか。今や,コンシューマ機でゲームを作ろうとしてもどこも投資を渋る――というより,リクープラインが相当にキツいわけですが――ソーシャルゲームであれば,今なら話題になっていて投資額もさほど大きくなく,それでいて今ならまだリターンが望めます。銀行やベンチャーキャピタルが,喜んでお金を出してくれるような状況があるんじゃないかと思うのです。
松原氏:
そうかもしれませんが,でもつまりそれは,消去法的な選択ですよね。
4Gamer:
まったくおっしゃるとおりで,そういう理由で占められるパターンが多くあることは否定しません。そしてもちろん当たり前なんですが,ソーシャルゲームだからといって「安い投資でリクープ確定」なんていうこともないわけで。
松原氏:
例えばPlayStation 3やXbox 360で高品質なグラフィックスのゲームを作ろうとすると,10億円規模からの予算を確保しなければなりません。さらにお金の問題だけでなく,技術力の下積みが必要になります。
ところが技術力の下積みというのは,そのプラットフォームで作ったタイトルの数そのものなんですよ。
4Gamer:
まったくそのとおりですね。地味に業界の大問題だと思います。
ええ,学習効果というやつです。1年に1本しか出せないところでは,その積み重ねが遅れてしまう。したがって,PS3やXbox 360でハードの持つ性能を生かすゲームを作り,それをビジネスとするのは,どうしても大手が中心になってきます。
4Gamer:
そうなると,結局,多くの中小規模の会社はソーシャルゲームやブラウザゲームに目を向けることになりますよね。数千万円の予算で作れて,アイテム課金で月当たりそれなりの売上があって……という,何だかこじんまりとした話になってしまいます。
松原氏:
そのあたりの話は,みずほキャピタルの逸見(圭朗)さんのCEDECセッションに期待したいですね。逸見さんの去年のセッションは非常に評価が高くて,今年もまたお願いすることになったんです。
4Gamer:
とはいえ,お金の問題は理由の一つに過ぎなくて,「国内頭打ち」とか「HD機の普及率」といったさまざまな理由が重なったところに,ソーシャルゲームやブラウザゲームが台頭してきてにわかに注目を集めている印象もあります。
松原氏:
ええ。おっしゃる通りHD機は当初考えていたようには普及しませんでしたし,Wiiは普及していますが,カジュアル市場は最近ではスマートフォンの台頭とソーシャルゲームへと話題が移った感があります。
ただ,それでコンシューマ機がなくなるかというと,そういう話ではないと捉えています。確かに,ソーシャルゲームなどの台頭で市場は広がっています。しかし,これまでコンシューマゲームを遊んでいた層が,すべてソーシャルゲームに流れているかというとそうではないんですね。
4Gamer:
ええ,それは実感しています。さまざまなデータを見る限り,ソーシャルゲームを遊んでいる人たちの多くは,これまでのゲームにはあまり馴染んでいなかった,新しい層である予感はします。
まあ,ゲーム会社が,ソーシャルゲームを遊ぶ層にはビジネスできていなかった,これからという状況であるのは認めなければなりません。コーエーテクモも「100万人の信長の野望」でソーシャルに参入します。
4Gamer:
そのあたりを今回のCEDECでは示唆するわけですか。
松原氏:
今回,ディー・エヌ・エーの南場(智子)社長に特別招待セッションを,GREEの田中社長には協賛セッションの中で講演をお願いしますが,それは当然,世間の関心が高まっていて,聞きたい人が多いからです。ソーシャルゲームについては公募の件数も多かった,結果としてセッションとしても昨年より増えています。
モバゲー(ディー・エヌ・エー) |
GREE |
4Gamer:
先程のお話だと,公募の締切りが3月ですから,選考はその直後ですよね。流れの速い業界ですから,CEDECの行われる8〜9月にはソーシャルゲームのブームが終わっているかもしれないとは考えなかったんでしょうか。
松原氏:
そのとおりですね。4月の時点で選考していますから,そういう議論もありました。幸い,世間の関心もまだまだ高い状態です。ソーシャルやブラウザについては,実際に遊んでいる人達の数も多く,過熱気味のところもありますけれど,しっかり市場として定着するのではないでしょうか。
4Gamer:
なるほど。
チャンスとITの恩恵を活かし,ゲームの新しい楽しさを追求する
4Gamer:
ちょっと話が戻っちゃいますが,実際,ソーシャルゲームのような,イージーでカジュアルなゲームから入って,コアなゲームに関心を移すような人達はどれくらいいると考えていますか?
あまりいない……いたとしても,市場を大きく変えるようなレベルまではいかないのでしょうね。一般的な言い方をすると,ゲームのような嗜好品は,刺激が強いほうを好む人は最初からそういうモノを選び,カジュアルなタイプから移るという行動はあまりとらないものでしょう。可能性があるとすれば,潜在的にコア寄りだったけれども,これまでゲームに触れる機会がなかった人くらいじゃないですか。これはゲームに限らず,どんな趣味に関しても同じでしょう。
4Gamer:
同じ見解です。
しかしそうなると,お金の流れや数字の動きを見て長いスパンで考えた場合に,絶対数の少ないコア寄りのゲーム,いわゆる“ゲームらしいゲーム”は,結果的には駆逐されていく方向に進んでしまうのではないかという危惧が生まれてきませんか。
松原氏:
厳しい状況なのは確かですが,私は楽観しています。というのは,人間が“飽き足りない”ものだからです。一度楽しみを知ってしまったら,次はさらにその上を求める層が必ずいます。そういう層がいる限り,ゲームを含めたコンテンツ業界は先に先に進んでいくものになります。その先で何を提供していくかというと,今までにない面白さを提供するゲーム開発者の知恵なわけですよね。
そしてゲーム業界は,ほかのコンテンツよりもITの恩恵を受けることができます。グラフィックス,音響,ネットワーク──いずれもITの恩恵を受けて進化してきましたし,これからもそうです。ビジュアルのクオリティ,CPUの処理速度,メモリの容量……いずれも,わずか数年で何倍にも向上します。
もちろん,それをどうやってゲームに生かすかは別の話ですが,コンテンツを作り出す上では非常にアドバンテージになります。そこに新たなゲームデザインが加わることで,常に新しいアピールポイントが生まれ,より多くの人に楽しみを提供できると,私は考えています。
4Gamer:
そのITの進歩の恩恵が,裏目に出てしまっていると感じることは?
それは,技術の進歩をゲームデザインやゲームシステムに活かせていないからではないでしょうか。技術は使いこなしてナンボなので,技術に頼りすぎたり,技術に溺れては何の意味もありません。
4Gamer:
それもありますし,これはグラフィックス関連に顕著ですが,技術の進歩を生かすためにはコストがかさむという問題もありますよね。さらに,グラフィックスが綺麗でないとゲーム全体の魅力が半減するという価値観も,やはり一定のレベルで定着しているのは事実だと思います。
松原氏:
ほかの業界を見ると,ハリウッド映画なんかがそうですよね。一定以上の予算をかけて見栄えをよくしないと,それだけでAAAの評価対象にすらならないような。とはいえ,ハリウッドは既にそういうルールとビジネスモデルを世界中に構築しています。
ゲーム業界も映画と同じように,大規模な開発費,大規模な広告宣伝費といったビジネスモデルに移行するという意見もあるかもしれません。ある程度は避けられませんが,それだけでもないと思います。ゲームにはインタラクティブ性といった大きな特徴がありますので,グラフィックスだけに依存しない,新しい楽しさを提供することが出来るでしょう。
4Gamer:
PS3を買ったら,やっぱりお金のかかった凄いゲームを期待してしまいますしね。
松原氏:
はい。高品質なグラフィックを実現するにはコストがかかるのは事実ですが,それをいかに下げるかということも考えるべきでしょう。コストをかけて創り上げたグラフィックスの素材なので,その再利用をもっと進めるというのも一つの解決手段です。
4Gamer:
それは昔から指摘される問題だと思うんです。海外製エンジンを買わないのは割と当たり前に行われているとして,いまでも「一作品ごとにエンジンを作り直す」開発会社もあるわけで,さすがにちょっと驚かされました。
再利用だと新しさを生み出しにくい面もあるでしょうし,コンテンツの作り手には,「他人の真似はしたくない」という思いが根底にありますね。再利用でコストを抑えながら,新規性と変わらない品質を出す,そういう開発手法やツールというところにも,成長のチャンスはあると思います。
4Gamer:
そうですね。ゲームはもはやクリエイター「だけ」が作るものではなく,総合的な発展をしていかねばならず,その部分において,CEDECが果たす役割は非常に大きなものになっていると思います。
それでは,CEDEC 2010に参加しようという人に向けてメッセージをお願いします。
松原氏:
CEDECは,ゲーム開発に関わるあらゆる人にとって役に立つ内容にしたいと考え,この3年間やってきました。それ以前の印象からすると,最新の技術に寄っていると映るかもしれませんが,実際には相当中身は変わってきています。
ゲームそのものの開発はもちろん,周辺機器,アカデミックに携わる人達に来てもらって,いろんな意見を聞きながら,また将来,どうやっていくかを考えていく場です。単に情報を得る場としてだけでなく,自分たちが発信していく場としても捉えてほしいです。まずは横浜に来ていただいて,そこから一緒にゲームの新しい面を見出していきましょう。
4Gamer:
ありがとうございました。
――2010年8月17日収録
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