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MSIの最新ゲーマー向けディスプレイは,実況配信者向けモデルや家庭用ゲーム機向け湾曲液晶モデルに注目だ
近年はASUSTeK Computerの「Republic of Gamers」(以下,R.O.G.)に追いつけ追い越せといわんばかりに,MSIもゲーマー向けディスプレイの新製品投入に力を入れている。COMPUTEX 2019会場でも,ユニークなゲーマー向けディスプレイ製品をいくつか見つけたので紹介していきたい。
なお,本文中,展示機の色スペクトラムを示しているが,これは筆者がAV Watchで連載中の「大画面☆マニア」で使用している楢ノ木技研製の「ezSpectra815V」によるものだ。この色度計についての詳しい情報は,筆者による記事「大画面マニアの新兵器,スペクトロメーターでディスプレイの“色”表現を計測」を参照いただきたい。
Optix MPG341CQR 〜ゲーム実況者向けのアスペクト比21:9ディスプレイ
ゲーム実況配信は,日本でもそこそこのブームになっていて,HDMIビデオキャプチャユニットやWebカメラ,マイクなどの製品はPC周辺機器の中でも人気商品の部類にある。
そこでMSIは考えた。「だったら,ゲーム実況者に喜ばれそうなゲーマー向けディスプレイがあってもいいんじゃないか」と。そんな感じで誕生したのが「Optix MPG341CQR」である。
本製品における見どころは,画面下のベゼル部にWebカメラを内蔵しているところだ。そのアングルや画角などは顔面を捉えるために最適化されているとのことである。
このWebカメラ自身はホストPCとUSB接続することで初めて使えるようになるとのことだったので「本当にゲーマー向けディスプレイにWebカメラを内蔵しただけ」なのだ。
ただ,それだけでは能がないということで,コンパニオンソフト「GAMING OSD 2.0」を組み合わせると,プレイヤーの顔認証を行うことができるようになるとのこと。
GAMING OSDというコンパニオンソフトソフトは,MSIのゲーマー向けディスプレイに用意されているもので,PC上でディスプレイの細かい設定行えるツールだ。最新版のGAMING OSD 2.0では,プレイヤーごとの設定を顔画像に紐付けて管理できるという。
ゲーマー向けディスプレスはどちらかといえばパーソナルなものなので,家族それぞれが1台のOptix MPG341CQRに対して個別設定をしていくような活用スタイルはちょっと想像しにくいのだが,試みとしては面白い。なお,この内蔵カメラは普通のRGBカラーカメラなので,Windows Helloの顔認証ログインには使えない。
Optix MPG341CQRには,もう1つおまけがあり,ディスプレイ下辺に取り付けられるマウスバンジーも付属している。マウスバンジーとは,FPSやRTSをキーボードとマウスでプレイする際に,マウスケーブルをマウス本体に巻き込んだり,ケーブル自体の絡まりが起きたりしないようにマウスケーブルを中空に吊り下げる器具のことだ。上級プレイヤーやeスポーツ選手などは有線マウスを好んで使う傾向があり,そのため,彼らにとっては御用達のアイテムでもある。もしかすると,一般ゲーマーの中にはOptix MPG341CQRで初めてマウスバンジーに触れる人もいるかもしれない。ゲーマー向けディスプレイに標準添付するというのは面白いアイデアである。
というわけで,Optix MPG341CQRは,やや「アイデアグッズ」的な趣の強い製品ではあるのだが,ゲーマー向けディスプレイとしての基本ポテンシャルもなかなか優秀である。
液晶パネルは34型サイズで,VA型の解像度3440×1440ピクセル,アスペクト比21:9の横長湾曲タイプを採用する。湾曲率は1800R(半径1.8mの円弧)とカーブはややきつめだ。最大リフレッシュレートは144Hzで,応答速度(※計測方式は未公開)は1msと速い。
標準輝度は400cd/m2。HDR映像表示に対応し,VESAのDisplayHDR 400規格に準拠する。バックライト方式の情報はないが,HDR表示性能から見てエッジ型バックライトだろう。
画面の大きさや湾曲の感じは,視距離50cm程度で使うデスクトップユースには最適な印象だった。アスペクト比21:9の横長画面はレーシングゲームやオープンワールド系ゲームをパノラマビューでプレイしたいときにはよさそうだ。フルHD解像度の画面を表示して,横や下に配信ソフトやチャットウィンドウを並べるようなゲーム実況者特有のマルチウィンドウな使い方にもハマりそうである。
発売は夏頃を予定しており,北米での価格は約800ドル。日本での発売は前向きに検討中だとのこと。機能と値段のバランスが取れた製品だけに発売が待ち遠しいところである。
MSI Optix MAG491CQ 〜アスペクト比32:9に5K(5120×1440ピクセル)がやってきた
2017年に登場し始め,2019年にも数社から製品が登場しているのが,アスペクト比32:9の超横長ディスプレイ製品だ。アスペクト比16:9のパネルを継目なしに横につないでしまったようなこのジャンルの製品は,視距離50cm程度の設置環境で見ると,直視型ディスプレイでありながら,それこそ疑似VR的な見え方をするほどの没入感が得られる。
すでにレポート済みのR.O.G.製品では,この超横長ジャンルの新提案として縦解像度を増やしたアスペクト比「32:10」の3840×1200ピクセル解像度の「XG43VQ」を展示して注目を集めていたが,MSIではアスペクト比32:9のまま解像度をマシマシにした湾曲型液晶ディスプレイ「MAG491CQ」を参考出展していた。
まだ開発初期のプロトタイプモデルだという前置きはあったものの,目標スペックは定まっており,MSIは2020年の発売に向けて開発を進めているそうだ。
画面サイズ49型で,解像度は5120×1440ピクセル。つまり27型の2560×1440ピクセルのディスプレイを横につなげたような仕様というわけである。液晶パネルはKSF蛍光体※を適用したVA型液晶パネルで,応答速度は1ms(※計測方式は未公開)。表示遅延は10ms以下。最大リフレッシュレートは144Hzに対応するという。
※従来の幅広い周波数帯で発光する蛍光体とは異なり,最近導入が進んでいる輝線発光蛍光体と呼ばれる物質群では,入力光を狭い周波数帯の光に変換することができる。KSF(K2SiF6:Mn4+)は,鋭い赤色を出すことのできる輝線発光蛍光体である。
液晶パネルの曲率は1800R(半径1.8mの円弧)とのこと。HDR表示はVESAのDisplayHDR 1000規格準拠でAMDのFreeSyncとFreeSync 2 HDRに対応している。
ここまで聞いてピンと来た人は相当の勘のいい人だ。
実はこの製品,先行発売されているSamsungの「49CRG9」と 「うり二つ」なのである。違う点は応答速度と最大リフレッシュレートで,49CRG9はそれぞれ4msと120Hzだった。想像するに,49CRG9に採用されている液晶パネルの新バージョンのパネルを使ったか,あるいはチューニングを進めたモデルがMAG491CQなのだろう。
開発中なので,当然価格は未定なのだが,すでに発売済みの49CRG9は約2000ドルなので,MAG491CQの価格もこれに近いものになると思われる。
背面側。こんなに丸い |
ちなみに5120×1440ピクセルというと,VR対応HMDの「StarVR」と同解像度である |
KSF蛍光体を適用していることもあって赤緑青の分離感は悪くはない。緑のピークが緩めだが,総じて色再現性は良さそうだ |
Optix MAG321CURV 〜ゲーム機向けの多機能モデル。日本での発売もあり?
競技性を強く意識したゲーマー向けディスプレイはサイズが24型程度で,120Hz以上の高リフレッシュレート(フレームレート)対応のTN型液晶採用機の製品が主流だが,一方で,日本のような家庭用ゲーム機の人気が高い国では,「4K(3840×2160ピクセル)表示対応」「HDR表示対応」「そこそこに大きい画面サイズ」「低価格」といった要素が重視される。ならば……ということでMSIが送り出したのが,「Optix MAG321CURV」というゲーマー向けディスプレイ製品だ。
Optix MAG321CURVは,据え置き型ゲーム機向けという前提で開発された製品なので,最初から高リフレッシュレートへの対応は度外視して設計されており,最大60Hz(60fps)までの対応となっている。まあ,4K解像度で60fpsオーバーが描画できるのは超ハイエンドPC向けのGPUに限られており,据え置き型ゲーム機で4K出力に対応するPlayStation 4 ProやXbox One Xは当然,4K出力のフレームレート上限が60fpsとなっているため問題はないというわけだ。
MSIの担当者は「さらに」と続けて「FreeSync(≒Adaptive Sync)対応なのがポイントだ」と強調する。
FreeSyncは映像をGPU主導(≒映像出力元主導)で表示できる仕組みで,とくに可変フレームレート表示においてVSYNCオフ時の画面割れ(テアリング現象)やVSYNCオン時のカク付き(スタッター現象)を回避できる機構として訴求されている機能だ。
FreeSyncは,PCゲーマー向けでは60fpsオーバーの出力を想定して使われることが多いのに対して,Optix MAG321CURVは上限が60fpsとなる据え置き型ゲーム機の4K出力でFreeSyncに対応したことが特徴なのだというのだ。
そう,ターゲットハードウェアはXbox One Xだ。Xbox One Xでは,4K/60fps出力時にも,FreeSyncが利用できるのだ。4K出力時の可変フレームレート出力を前出の「カク付き」を回避して綺麗に表示できるというわけである。
PCゲーマー向けでも,中堅クラス以上のGPUであれば,4K/60fpsを大きく超えるのは無理としても,30fpsから60fps前後までは無理なく可変フレームレートで表示できるので,FreeSync対応ディスプレイは有用かもしれない。
スペック面についても触れておこう。
液晶パネルは,32型でアスペクト比16:9のVA型の湾曲型液晶パネルで,応答速度は4ms。湾曲率は1500R(半径1.5mの円弧)となっており,曲がり具合はやや強い。パネル表面はアンチグレア加工で視野角は左右178度だ。
色域に関するスペックは,DCI-P3色空間カバー率81%,sRGB色空間カバー率103%で,今どきのディスプレイ製品としては標準的なスペックである。
公称表示遅延は10msとのことで,60fps換算だと0.6フレーム程度。最近では,東芝のレグザや,ソニーのブラビアのゲームモードが2ms未満,0.1フレーム前後の世界で勝負しているので,やや及ばない感じだが,MSIとしては「1フレーム未満なので問題ない」というスタンスだ。
HDR表示には対応しているが,DisplayHDR規格はとくに取得していない。エッジ型バックライトシステム採用機なのでHDR表示は簡易表示になっているのだろう。基準輝度は300cd/m2とのことである。
総じて,Optix MAG321CURVは,ゲーマー向けディスプレイ製品としてはスタンダードな性能をひととおり網羅しているといった感じだ。個人的には,音質はそこそこでもよいのでステレオスピーカーは内蔵してほしかったところだ。筆者の場合,据え置き型ゲーム機はディスプレイとつないで(ヘッドフォンもせずに)すぐにプレイしたい,ということが多いからである。
MSI的な特徴としては,背面にMSI独自のLED同期技術であるMystic Lightに対応したカラーLEDを備えている点や,表示映像の暗部階調を持ち上げて見やすくする「MSI Night Vision」機能への対応といった部分が挙げられる。
北米地区では近日発売予定だとのことで,価格は500ドル前後を想定しているという。日本でも6万円前後の想定で発売を予定しているようで,スペックを考えると意外にリーズナブルだ。
尖った製品の多いMSI製ゲーマー向けディスプレイの中にあって,Optix MAG321CURVは日本のゲーマーにもウケそうな「模範生的な製品コンセプト」で注目を集めそうである。
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