レビュー
ハンザ同盟の商人となり,安く買って高く売ろう
パトリシアンIV 日本語版
「パトリシアンIV」は,中世のバルト海沿岸地域を中心に活躍した「ハンザ同盟」の商人となって,ヨーロッパの港を股にかけて交易を行うストラテジーゲームだ。ヨーロッパ中世と聞いて――そして筆者がレビューしていると聞いて――また歴史的なウンチクがあれこれと絡む作品だと思うかもしれないが,ゲームとしては正統派の交易シムになっており,歴史的云々はあまり関係ない。
「IV」というナンバリングが示すとおり,すでに同じテーマで3作がリリースされてきた(初代は1992年)シリーズ作品ではあるが,これまでの作品を遊んでいないとプレイに困るといったことは,ない。基本的に,海上交易を中心とした箱庭的な経済ストラテジーであり,今回はグラフィックスとインタフェースが強化されたものと考えて間違いない。
ということで,以下,パトリシアンシリーズの最新作を詳しく見ていくことにしよう。
なお,本作をすでに購入したのはいいけど,もし「果てしなく面倒で退屈なゲーム」だと感じている人は,まずこのレビューの一番最後の項目から読んでほしい。パトリシアンIVは各種アクションを自動化することが大前提となるゲームなので,もしそれらをすべて手動でやって「退屈だ」と投げ出しているのであれば,それはちょっともったいない。
「パトリシアンIV 日本語版」公式サイト
安く買って,高く売る
パトリシアンIVの基本は,現実世界と同様「安く買って,高く売る」ことに尽きる。本作は経済シムであり,自分の事業を広げ,よりたくさんのお金を稼ぐことがゲームの目的だ。その最も近道となるのは,安く仕入れて高く売る,これしかない。
商品の取引が行われるのは,港街だ(キャンペーンシナリオでは,プレイヤーの本拠地は自動的にリューベックとなる)。都市はゲームマップのあちこちに存在していて,それぞれ異なる需要と供給を持っている。そこで,その街で供給されている(生産されている)商品を仕入れ,それを船で運び,その商品が求められている都市で売る。これによって利益を獲得するというわけだ。
キャンペーンにおける最初の取引は,リューベックの特産品である塩を仕入れ,それを北の街オールボルグで売ることになるだろう。オールボルグでは食肉(塩漬け肉)を生産しており,そのために大量の塩を必要としているのだ。リューベックへの帰路を空荷で行くのはもったいないと思うなら,オールボルグ名産の食肉を仕入れ,それをリューベックで売りさばくのも良い手だろう。
……しかし,ここで当然の疑問が発生する。お金をたくさん稼ぐのがゲームの目的であり,塩と肉を交易してお金が儲かるなら,ずっと塩と肉を交易し続ければいい。それだけのことではないのか?
もちろん,話はそううまくいかない。リューベックにどんどん肉を運んでいると,割と簡単に肉の供給が需要を上回ってしまう。こうなると儲けは片道でしか出なくなるし,塩の生産が需要に追いつかなくなって,思うように利益が上がらないという事態も発生する。塩と肉の交易だけでヨーロッパに覇を唱えるのは,残念ながら難しいといわざるをえない。
三角貿易は貿易の基本
塩と肉の商売が行き詰まるのは,航路を1つに限定してしまったからだ。オールボルグにとってリューベックの塩は必需品だが,オールボルグの食肉はリューベック市民にとって必ずしも必需品ではない。オールボルグにおける塩のような商品を,リューベックに運びこむ――これが理想だ。
そんな商品があるのか,ということになるが,あるのだ。塩を生産するには木材が必要となる。木材は船や建造物を作るときにも必要となるので,リューベックのような大都市では恒常的な需要が見込まれる優良商材だ。ならば,木材を生産する都市は……と探すと,オールボルグから東に少し行ったところにある街,マルメで木材が生産されていることが分かる。
かくして,ここに一種の三角貿易航路が完成する。リューベックで塩を仕入れ,オールボルグで塩を売って肉を仕入れ,マルメで肉の一部を売って木材を仕入れ,リューベックに戻って残りの肉と木材を売る。完璧ではないが,なかなか効率的な交易路だ。マルメではチーズも生産されているので,相場によってチーズをリューベックやオールボルグに持って行って売るのも良い選択だ。
だがこの航路もまた,永久に安定するわけではない。おいしい航路は競争も激しいわけで,オールボルグの食肉のような,一種の贅沢品ならともかく,マルメの木材は非常にしばしば品薄になり,リューベックの塩も同様だ。結果,船はあまり売れない食肉だけを積み込んで3都市を巡回することになる。
ここで登場するのが,「安定しないなら,自分で商品を作ってしまえ」という理屈だ。都市にはプレイヤーの人気度が設定されており,これが一定の値を超えると,その都市に新たな商業拠点を開設できる(リューベックには最初から拠点がある)。また,さらに人気を高めていくと,都市に生産施設を建造することも可能になるのだ。
これを利用し,リューベックに塩の生産設備を,マルメに事務所と木材の生産設備を開設すれば,これまでお金を払って仕入れていた塩と木材が無料で供給されるようになる。実に素晴らしい。
買って売るから,作って売るへの転換
……だが,当然そう簡単に話は進まない。事務所や生産設備を建設するには一定の資金と資源が必要になるし,なにより生産設備で働く人々に給料を払うのはこちらだ。あまりにも自明なことだが,タダで商品が湧いたりはしないのである。
また,そうやって生産した商品は現地の商館に保管されていくのだが,この保管費用もなかなかバカにならない。倉庫のキャパシティを超えてしまうと,どうやら超割高の臨時倉庫を借りるらしく,法外な請求をされてしまう。
これを回避するため,現地に代理人を立て,市場価格が一定以上に上がったら一定数の在庫を残して商品を自動的に販売することもできる。が,今度はこの代理人に給料を払わねばならない。世の中,なにをやってもカネがかかるのだ。
さらにまた,重要なことを忘れてはならない。
リューベックの塩生産のためにマルメから木材を仕入れていたことと,自前で木材を生産しそれを使って自前で塩を生産することの間には,重大な差があるのだ。前者はマルメで仕入れた木材をリューベックで売る(そこで利益が発生する)が,後者はマルメの賃金(と土地税その他)を支払う一方になっているということだ。
自前の生産は,低コストな木材を安定確保でき,それを原料とした塩をこれまた安価に安定確保できるという巨大な利点をもたらしてくれる。その反面,利益が出せるかどうかは,その塩の売れ行きにかかっているということでもある。幸いにして,オールボルグはほぼ無尽蔵に塩を買ってくれるが,オールボルグという「狩場」がなければ,この自社生産ラインはただの赤字製造機に化けてしまう可能性があるのだ。
若干残る,詰めの甘さ
パトリシアンIVの基本となるのは,以上のようなシステムだ。プレイヤーは,あくまで交易をメインとしてゲームを進めてもいいし,拠点を中心とした自社生産ラインを充実させてもいい。
これ以外にも,海賊退治や街の発展への寄与(大聖堂を建てたり城壁を二重化したり),地中海への貿易船の派遣(香辛料が手に入る)があり,さらに商売を拡大して船や拠点の数が増えてくると地元政府への対応(というか貢納)や,ハンザ同盟の政策決定への介入など,できることが増えていく。とはいえ,ゲームの目的はあくまで「金儲け」だ。
キャンペーンの「一応のエンディング」を迎えるための条件として,管理する船の数を増やしたり生産設備の数を増やしたりしなくてはならないが,エンディングといっても特別なCGや演出があるわけではなく,またそこでゲームが終わってしまうこともない。
そしてある意味,これがパトリシアンIVの弱点と言えるかもしれない。航路を増やし,生産設備を増やし,距離的に離れているいくつかの市場をうまく連結し,絶対に維持費が利潤を上回ったりしないようにバランスを整えるという作業は,もちろん,楽しい。非常に楽しい。けれど,このゲームがハンザ同盟である必然性はあまりないように思う。
もちろん,ハンザ同盟に関する知識や理解がなければパトリシアンIVが楽しめないのであれば,セールスはかなり絶望的になるだろう。とはいえ,「ああ,ハンザ同盟で貿易商をするって,こういうことだったのかもしれない」と思える程度には,なんらかの「らしさ」がほしかった。ハードルの高さとトレードオフであるとはいえ,歴史的事実をモチーフとする以上,それほど高望みしているわけではないと思う。
“ハードルの低さ”を目指したためか,キャンペーンが事実上,長大なチュートリアルになっているのも良し悪しだ。「Patrician II」や「Victoria 2」のように,昼寝したくなるくらい長大で詳細なチュートリアルは,間違いなく脱落者を増やすだろう。しかし,パトリシアンIVの終わらないチュートリアルもまた,何かの解決策になっているとは思いにくい。
また,操作性が改善されたということにはなっているが,個人的には非常に抜本的なところで残念な仕様が残っているのが気にかかる。
まず,時間進行のショートカット(スペースバー)が,一時停止ではなく加速であり,しかもイベント発生によって加速が途切れること。設定的には5倍まで加速できるが,スペースバーを押している間は10倍速でゲームが進行する――つまり,理論上はゲームを常時停止状態にして,スペースバーを押すことでゲームを進行させればいいのだが,この「押しっぱなし」というのは想像以上にしんどい。スペースバーで加速という方式は,これはこれで良いので,別に強制一時停止のショートカットがほしかったところだ。
また,なんらかの小窓を開いていると,メインの画面をクリックできなくなるのは純粋に困る。後述するように本作は自動化を大前提としたゲームなので,自分が組んだ自動化システムがうまく動いているかどうかを確認する際,自動化設定の窓を開けていると,メイン画面にある船のインターフェースに触れなくなるといった状況に陥ってしまうのだ。
ややアブストラクトな交易ゲームとして
以上のような不満はあるものの,パトリシアンIVは,経済シムとしては比較的ライトで,かつそれなりに歯ごたえのある作品として十分に完成されていると思う。操作性や情報の閲覧性に難ありとはいえ,経営シムや貿易シムが好きな人であれば,素直におすすめできる作品だ。
この手のゲームにありがちな,「面白いですよ」のあとに「ただし……」と語らねばならない要素は,あまり多くない。
ゲームに慣れてくるとキャンペーンをぬるく感じるようになるが,フリープレイでは難度調整も可能であり,またキャンペーンの難度は「普通」となっているがそれより下の「簡単」といった設定は存在しない。相対的に見ると,キャンペーンはあくまで,イージー設定のゲームであると考えるべきだろう。
一方,数値バランスを読み解き,状況に応じてシステムを変化/対応させていくパズル以上の何かを求めるとなると,パトリシアンIVはいささか物足りないかもしれない。本作はあくまで商売人のゲームであり,その目的は徹頭徹尾,儲けることだ。良くできた歴史系戦争ストラテジーは「自分の国家はほとんど何もできずに滅んだが,楽しいゲームだった」と思えることがままあるが,パトリシアンIVは「ほとんど何もできずに倒産したけれど,楽しいゲームだった」と言える状況が想像できない。もちろん,ゲームとしてそのことは批判の対象にはならないだろう。
パトリシアンシリーズは,英語である点を考慮に入れなければ,海外のダウンロード販売サイトでシリーズ第1弾「The Patrician」から「Patrician III: Rise of the Hanse」まで購入できる。基本的にThe Patricianは「Patrician II」とセット販売だ(というか,さすがに今,The Patricianをプレイするのはしんどい)。
個人的には,この手の古めのゲームを購入するのであれば,GoG.comをお勧めしたい。PCの処理速度が大幅に向上した現在,古いゲームをプレイすると速すぎてゲームにならないことがあるが,GoGでは販売側でウェイトを入れるなどケアが行き届いているので安心だ(とはいえ一度経営不振でサイトが一時的に閉じたことがあるので,そのあたりは自己責任でお願いしたい)。
プレイヤー志望者必見:自動航路設定について
最後に,攻略的な追記をしておきたい。本来,パトリシアンIVは「どうするのがベストか」を探るのが楽しいゲームであり,そこをつまびらかにしてしまってはゲームの魅力を損なうかもしれない。けれど,「船団の自動運行」に関してだけは,詳しい説明があったほうがいいように思う。というか,このゲームは以下に紹介する自動化処理を使わないと,まったくもって退屈で面倒な,ダメダメなゲームになってしまうのだ。
まずは,実際にリューベック→オールボルグ→マルメ→リューベックと回転するルートを作ってみよう。
(1) 船を選択して,一番右にある「交易ルート」ボタンをクリック
(2) 直下にメニューが開くので,「ルートの編集」をクリック
(3) ミニマップが開くので,リューベック,オールボルグ,マルメをクリック
(4) ミニマップ左上の「取引」タブをクリック
(5) 左の窓からリューベックを選択し,右の窓の「自動取引」の枠内にすべての商品を入れる(三角のボタンを押すと一度に全部移動できる)
(6) 同じことを,オールボルグとマルメでも行う
(7) 交易ルート設定の窓を閉じる
(8) 船のステータスパネルの,「交易ルート」ボタンを押すと開くリストから「有効化」を選択。緑のダイヤが点灯すれば,この船は自動的に航行を開始する
これにより,指定された船は各都市において儲けの出そうなものを買い,利益の出るものが積み荷にあればその都市で販売する。路線の設定を間違えなければ,これだけで結構な利益が出るだろう。
しかしながら,航路の設定によっては,特定の商品を積み込んだままちっとも交易してくれないケースも出てくる。これは特に2都市だけをつなぐ航路を作ると起きやすい事態で,双方の都市で同じ商品が生産されているときに発生する。
例えば,どちらの都市でも木材が生産されている場合,AIは「この街では木材を買うのがお得!」と思って木材を積み込み,次の街で「この街では木材は売れない,でも買うならお得!」と判断して積み込む。この連続が発生するためだ。
これを防ぐためには,(5)の交易商品を設定する際に,上の例であれば木材を「取引しない」の窓に配置すればよい(2都市間交易であれば,双方の都市で「取引しない」に設定することをお忘れなく)。船に残った木材は,寄港した際にでも手動で売り払っておこう。
ゲームを進め,都市で自前の商品が生産されるようになると,「この商品をそのまま船に積んで売るところまで,自動化できたらなあ」と思うようになるだろう。あるいは,他所で購入した商品を,市場ではなく倉庫に納品したいという状況も多い(リューベックの塩工場を稼働させるため,マルメで購入した木材を倉庫に納品したいなど)。もちろん,それは可能だ。可能でなくては困る。
この設定は,(5)の取引設定画面において,「詳細条件つき取引」を使って行う。リューベックで塩を倉庫から積み,マルメで購入した木材をリューベックで倉庫に直接納品するケースだと,以下のようになる。
(1) 交易商品設定画面でリューベックを選び,塩を「詳細条件つき取引」窓に配置する
(2) 右側にいろいろ設定が出てくるので,その最下部にある「取引モード」ボタンを押し,「荷積み」になっていることを確認する
(3) 塩の隣にある丸いアイコンをクリックし,倉庫アイコンに変える。デフォルトは「市場に販売する」アイコン
(4) 倉庫から積み込む数を決定する。MAXにしておけば,倉庫にあるものをすべて積み込む
(5) 「取引モード」ボタンをクリックし,荷降ろしのところで妙な設定がないか確認する。塩を荷降ろしするようになっていたら,数を0にしておく
これで,リューベックでは倉庫にある塩を船に積むようになった。続いて,マルメからの木材を倉庫に入れる設定をする。
(1) 交易商品設定画面でリューベックを選び,木材を「詳細条件つき取引」窓に配置する
(2) 右側にいろいろな設定が出てくるので,その最下部にある「取引モード」ボタンを押し,「荷降ろし」になっていることを確認する
(3) 木材の隣にある丸いアイコンをクリックし,倉庫アイコンに変える。デフォルトは「市場に販売する」アイコン
(4) 倉庫に運びこむ数を決定する。MAXにしておけば,船にあるものをすべて倉庫に運びこむ
(5) 「取引モード」ボタンをクリックし,荷積みのところで妙な設定ができていないか確認する。木材を荷積みするようになっていたら,数を0にしておく>
これによって,マルメから運んできた木材はすべてリューベックの倉庫に納品される。倉庫がオーバーフローすると維持費が恐ろしいことになるので,倉庫管理人を雇い,木材の在庫を一定数にするように設定しておくといいだろう。
もしマルメにも事務所を開き,製材所を作ったなら,マルメで木材を購入するのではなく,倉庫から船に積み込むように設定を追加するといいだろう。
この「詳細条件つき取引」は,特定産業の原材料を,多少割高でもいいから一定数調達したいときにも利用できる。自動取引で購入したものを倉庫に収めるように設定してもいいのだが,入庫数が不確定なうえ,安いときには異常な量を運び込んだりする。
若干面倒に見える(そして実際,割と面倒だ)が,設定した自動取引がうまく機能すると,スペースバーを押しているだけで巨万の富を産んでくれる。というか手作業で交易しているとゲームにならないので,チュートリアルの順番は無視して,ゲーム開始直後から自動交易ルートを組んでしまうことをオススメしたい。難度が「普通」なら,それだけで快適にプレイできるはずだ。
自分の作り上げた交易網が機能しているのを眺めるのは,パトリシアンIVの中でも非常に大きな楽しみだと筆者は勝手に思っている。ロボットのAIをプログラミングして戦わせるほどの職人芸は要求されないが,そういった方向のゲームが好きな人であれば,きっと楽しめるだろう。
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