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[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」
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印刷2012/08/21 00:00

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[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」

 プレイしたことがある人なら体験的に知っていると思うが,ファンタシースターシリーズでは,移動中や戦闘などといったシーンごとにBGMが切れ目なく切り替わるシステムを採用している。そしてそれは,最新作「ファンタシースターオンライン2」(以下,PSO2)でも変わらない。
 CEDEC 2012の初日に行われた「Phantasy Star Online 2におけるプロシージャルBGMシステム」というセッションでは,PSO2に実装されるBGMシステム「SYMPATHY」(シンパシー)が「BGMのプロシージャル生成」を行っていることが語られた。本稿ではその内容をお伝えしてみよう。


シリーズ伝統の「途切れないBGM」を

PSO2ではさらに強化


戦闘シーンに切り替わると,BGMも切れ目なく戦闘用へと切り替わるPSO2
画像集#002のサムネイル/[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」
 たとえば,移動シーンから戦闘シーンへ移るとき。「BGMがブチッと切れて戦闘用のBGMに切り替わる」とか,「フェードアウトして,次のBGMに切り替わる」といったシンプルな転換が多かったなか,1980年代後半に第1作がリリースされた「ファンタシースター」はBGMの切り替わりがスムーズで,切れ目を意識させない特徴があった。
 その特徴は2000年にリリースされた「ファンタシースターオンライン」,そして最新作PSO2にも受け継がれている。地味ながらも,「途切れないBGM」はファンタシースターシリーズの伝統的な特徴になっているわけだ。

Dreamcastでリリースされた初代PSOでも,切り替わりを意識させないBGMの遷移を実現していたが,そのノウハウがPSO2に活かされているという
画像集#003のサムネイル/[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」

写真左から順に今別府デニス幸生氏(セガ 第三CS研究開発部 プログラマー),増田 亮氏(セガ 第三CS研究開発部 プログラマー),小林秀聡氏(セガ 第一CS研究開発部 サウンドクリエイター)
画像集#004のサムネイル/[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」
 さて,今回のセッションは,セガでPSO2の開発に携わったプログラマーである今別府デニス幸生氏増田 亮氏,サウンドクリエイターの小林秀聡氏が交互に登壇して,PSO2のBGMシステムにおけるポイントを紹介するという形で進行した。

 まず,根本的な話として,「PSO2ではどのようにしてBGMが生成されているか」だが,これには割とシンプルな手法が使われているようだ。1小節程度の長さを持ったサウンドファイルを「クリップ」とし,クリップを複数個まとめて「フレーズ」を生成。そして,フレーズをつなげていくことで「楽章」を作り,さらに楽章をいくつか並べて「パート」を構成する形になっているという。

1小節程度の長さを持つクリップを同時に再生したり,条件によって再生したりすることでフレーズを作り,それを並べて楽章,さらに楽章を並べてパートを構成し,BGMを生成していく
画像集#005のサムネイル/[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」

 クリップを構成するサウンドファイルは,リズムセクションや主旋律,効果音などといった“構成要素”となっており,PSO2ではこれが数千個も用意されている。それらを使ってBGMが作り出されるため,長時間にわたってプレイしていても,BGMを聞き飽きにくいという仕掛けである。

クリップには「1小節+α」程度の余韻部分を用意し,自然につなげていくような設計になっている
画像集#006のサムネイル/[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」

 また,これはファンタシースターシリーズで共通だが,移動シーンから戦闘シーンへ移るときには,当該フレーズの再生が終わったところで「切替用楽曲」と呼ばれる短い楽章を挟み,そこから戦闘用の楽章へと切り替えることで,「切り替わった」感を保持しつつ,BGMとしての一貫性を保持しているという。

切り替え用楽曲を挟むことで自然に平常時から戦闘用BGMへと切り替わるというスライド。非戦闘用BGM(楽曲)のフレーズに続けて,切替用楽曲の楽章を頭から再生し,さらに戦闘用BGM(楽曲)の楽章を頭から再生することで,「曲が自然に進行している」感を強調する
画像集#007のサムネイル/[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」

 シリーズ伝統のBGMシステムにより,「構成する要素を重ねてつなげることでそれなりに聴けるBGMを生成できてしまう」というだけで感心してしまうのだが,PSO2のSYMPATHYで進化した部分ももちろんある。
 たとえば,過去作では,戦闘が終わった後すぐ別の敵と遭遇したときには,平時のBGMがしばらく流れてしまって,不自然になるケースがあったとのこと。その点を改善するためPSO2では,「急激戦闘曲」という短い楽章を挟むことで,戦闘用BGMから次の戦闘用BGMへとうまくつなぎ,プレイヤーを盛り上げるような工夫が施されているのだそうだ。

戦闘を終えた後すぐに戦闘が始まるとき,従来作では非戦闘用のBGMがしばらく流れてしまったのだが,PSO2では非戦闘曲→急激戦闘曲→戦闘曲とすばやく切り替わる
画像集#008のサムネイル/[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」


サウンドシステム「SYMPATHY」における

3つのポイント


 以上がファンタシースター伝統の部分とその拡張だが,SYMPATHYにはそのほかにも,大きく分けて3つのコンセプトが取り入れられているそうだ。

 1つめは「プレイヤーを飽きさせない」というもの。オンラインRPGは,長い時間プレイし続けることになる。とくにPSO2の場合は同じクエストを繰り返すケースが多いため,似たようなクエストで同じBGMが繰り返されると飽きてしまう。そこでSYMPATHYでは毎回異なるBGMが流れるよう設計してあるという。

 それを実現する礎となるのが,パート・楽章・フレーズ・クリップというBGMの構造だ。大きく分けると,

  1. 楽章をシャッフル
  2. 楽章をスキップ
  3. フレーズをスキップ
  4. 使うクリップをランダムで選択
  5. 何度か同じパートを再生したときだけn回めに異なるクリップを再生

するというのが主な組み替え方で,「基本的には物量に頼った戦略」だそうだ。「サウンドコンポーザーの努力と根性」に支えられているとのことで,なんとも(いい意味で)セガらしい。

BGMを飽きさせない5つの仕組み。4.で示したクリップのランダム選択にあたっては,「先に選ばれたクリップ」を記録しておいて,同じクリップが連続して選ばれないようにするといった工夫も盛り込まれているという
画像集#009のサムネイル/[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」 画像集#010のサムネイル/[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」
このスライドはランダム再生の例。セガの内製ツール「SYMPATHY MUSIC EDITOR」を使って説明してくれたが,画面の四角い箱がクリップを示す。赤く表示された箱が「再生中のクリップ」だ。スライド中,赤い枠で囲まれた部分に効果音などが多数用意されており,黄色や緑色枠内のリズムなどと組み合わされたうえで,ランダムに切り替わりながらループ再生され,それまでになかったBGMを生み出していく
画像集#011のサムネイル/[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」

 2つめのコンセプトは「プレイヤーがゲームの盛り上がりをBGMから体感できるようにする」というものだ。たとえば,強い敵に遭遇したときや,敵を追い込んだとき,あるいは逆に敵にやられそうなとき……などといった状況に応じて,SYMPATHYはそれらしいBGMを作り出すようになっている。
 セガによると,「『状況』のうち,数値化できるパラメータを数値化して,“ある計算式”から3つのパラメータ『ヒーロー度』『ピンチ度』『盛り上がり度』を導き出し,それに応じてBGMを変えている」とのことだ。

ゲームの「状況」中,数値化できるものを数値化。ヒーロー度とピンチ度,盛り上がり度という3つの度合いを計算し,計算結果に応じてBGMを切り替えているという
画像集#012のサムネイル/[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」

 上のスライドで,ヒーロー度とピンチ度は並列関係にあり,盛り上がり度はそうでないことに気づいた人もいると思うが,3つのパラメータは,矢印で示される関係性を持つそうだ。具体的な計算式は示されなかったが「計算式は試行錯誤で決めている」と説明していたので,大まかな関係に基づく式を作っておき,実際にテストしながら式やパラメータを変え,BGMがいい塩梅になるように調整してきたということではないかと思う。

デバッグウインドウを画面左側に表示させたデモ。サムネイルではデバッグウインドウに寄っているが,3つのパラメータが用意されているのが分かる。パラメータはゲーム中,リアルタイムに更新され,BGMに反映されているのだ
画像集#013のサムネイル/[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」

 ちなみにこれら3つのパラメータはBGMの演出にも利用されているとのこと。たとえばヒーロー度が上昇したらヒーロー状態専用のクリップを優先したり,ピンチ度が上がったときにはピンチ状態専用のクリップを優先したりするなどして,プレイヤーにBGMで状況を伝えるようにしているそうだ。

画像集#014のサムネイル/[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」
ヒーロー度やピンチ度がそれぞれ一定レベルを超えると,専用のクリップを優先して使うことで,プレイヤーにBGMで状況を伝える演出が取り入れられている
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もちろん,ボス戦においてもBGMを使った演出が加えられている。たとえば複数の足を持つボスがいた場合,足を1本破壊するごとにBGMを切り替えて雰囲気を盛り上げるといった工夫が施される

 3つめのコンセプトは,「ランダム再生でも,全体が1つの楽曲として聞こえる」というもの。前段で紹介したとおり,SYMPATHYでは,クリップという最小単位をまとめて,プロシージャル(procedural,計算による)手法を交えつつランダムに同時再生することでBGMを生成しているわけだが,「楽章の頭にあるフレーズを,次の楽章に引用する」ことで,1つの楽曲に聞こえるようにしているという。

 一般的な音楽でも,楽章が移るときに前のテーマを引用するといったことが行われるが,SYMPATHYはそれを自動でやっているわけだ。
 セガによると,こういった手法を採用するときに重要となるのが,クリップに設けられた余韻部分だそうで,「SYMPATHYでは余韻を長く取れるようになったので,より自由にフレーズ同士をつなげられるようになった」とのことである。

たとえば戦闘曲から非戦闘曲に移るときには,戦闘曲最初のフレーズと非戦闘曲最後のフレーズを引用しながら切り替えることで,全体が1つの楽曲に聞こえるようになっているとのこと
画像集#016のサムネイル/[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」

 というわけで,PSO2のBGM生成について紹介してみたが,ヒーロー度とピンチ度,盛り上がり度という3つのパラメータでBGMをプロシージャル生成し,雰囲気を盛り上げているというのが興味深い。
 BGMは聞き流してしまっている読者も少なくないとは思われるが,次にPSO2へログインするときは,BGMに耳を傾けてみてはどうだろうか。場面や状況に応じて,BGMが自然と切り替わっていく様子が分かれば,PSO2の楽しみもより深まることだろう。

最後におまけとして,マップのプロシージャル生成についても軽く触れられた。PSO2では道(=スライド中にあるオレンジの線)を先に生成し,「チップ」と呼ばれる地形(=スライド中,青い線で区切られたエリア)を適当に重ねることでマップを作っていっているそうだ。そして,道と道とでつながった隣接チップにいる敵を臨戦状態へと移行させる仕組みになっているという
画像集#017のサムネイル/[CEDEC 2012]PSO2の「途切れないBGM」はこうやってできている。セガが語る「BGMのプロシージャル生成」

「ファンタシースターオンライン2」公式Webサイト

CEDEC 2012公式Webサイト

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