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「ドラゴンコレクション」を手がけたスタッフがソーシャルコンテンツの現状や未来について講演した「NEXT SOCIAL!愛され続けるゲームの未来をアキバで語る」をレポート
講演会ではコナミデジタルエンタテインメントのヒットタイトル,ドラコレの制作スタジオから,統括マネージャーの車田貴之氏,エンジニア担当マネージャーの廣田竜平氏,そしてデザイン担当マネージャーの金武康悟氏が登壇し,ドラコレスタジオにおける物作りの手法や,ソーシャルコンテンツの今後の展望について語った。
「ドラゴンコレクション」公式サイト
このドラコレや,戦国武将をモチーフとした「戦国コレクション」,実在のプロ選手が球団やチームの枠を越えて競演する「プロ野球ドリームナイン」「ワールドサッカーコレクション」といったKONAMIのソーシャルコンテンツを制作するのがドラコレスタジオで,2013年1月にはソーシャルコンテンツ全体での累計登録者数が,3500万人を突破したことを発表している。
プロ野球日本シリーズとの連動イベントや「東日本大震災復興支援 Jリーグスペシャルマッチ」のサポーター投票協力,ドラコレのゲーム内イベントに応じて森林保護活動をサポートするプロジェクトなど,ユーザー交流型ゲームの特性を活かしたリアル連動企画も積極的に取り組んでいる(関連記事)。
海外進出で最も重要なのはマーケティング
最初に登壇した車田貴之氏は,ドラコレスタジオの概要と海外展開について紹介する「ソーシャルコンテンツのグローバル戦略」と題した講演を行った。
ディレクターやプランナーは,ゲームデザインや仕様策定を行うだけでなく,KPIの把握や課題抽出,改善提案など,ゲーム運営に必要な要素の理解も求められる。ソーシャルコンテンツは,プレイヤーの行動がすべて数字として現れてくる。満足度向上のためには,これら数字のほかに,コミュニティサイトやカスタマーサポートに届く声,競合タイトルのトレンド把握などあらゆる方面にアンテナを張っておく必要がある。
つまりディレクターやプランナーは,「お客様が今なにを求めているのかを踏まえ,次のアクションを考える」(車田氏)人々であり,ソーシャルコンテンツならではの重要な要素になっているのだ。
ビジネスデベロップを行う部署は,これらの制作プロダクションを横断する形で存在し,渉外やプロモーション,海外ビジネス推進などの機能が存在する。
海外進出については国内提供中のタイトルが欧米や中国,韓国,東南アジアなどの地域でサービスを開始しているが,最も重要視されるのがマーケティングだという。
海外ビジネス担当者が,現地でどのようなタイトルが受けるのか,どのようなプレイヤーが存在するのか,コンテンツビジネスの成長性がどの程度あるのか,などの情報を集めビジネス構築するのだが「このマーケティングで間違えると,全部アウト」(車田氏)と言えるほど重要な作業である。ドラコレスタジオの強みは,現地の傾向にあわせたカルチャライズ,ローカライズでさまざまなタイトルを出していけるところだという。
最後に車田氏はドラコレスタジオは「一体感」「スピード感」「世界一」をキーワードにしていると語る。世界一と言ってもいろいろな基準があるが,「ドラコレが日本のゲーム業界に与えたような影響やインパクトを,世界中のあらゆる地域で与えていきたい」と今後の意欲を示して講演を締めくくった。
なぜネイティブアプリを開発するのか?
続いて登壇した廣田竜平氏は「ソーシャルコンテンツのリッチ化に伴う技術の多様化」と題した講演を行い,エンジニアとしての視点からソーシャルコンテンツが高品質化していく現状を語った。廣田氏は,ソーシャルコンテンツのトレンドは,Webブラウザ上で動作するものからiOSやAndroidなどのネイティブアプリへ移りつつあるとする。
ここでいうWebブラウザ上で操作するアプリとはHTMLやFlashを使った,いわゆるブラウザゲームのこと。対応Webブラウザさえ用意されていれば機種を問わずプレイが可能だ。一方のネイティブアプリはiOSやAndroidなど,特定の機種用に作られたゲームで,機種が違えば動作しないという弱点があるものの,高度なゲームが実現できることからトレンドになりつつある。
ネイティブアプリは,3Dグラフィックスなどリッチな表現ができるだけでなく,ゲーム全体のレスポンスを良くできるといったネイティブならではのメリットがある。
もちろん,上記のようにOSごとに個別開発する必要があるが,こうした手間を軽減してくれる「Unity」や「Cocos2D-x」といったミドルウェアが登場している。最小限の作業で,iOSとAndroid向けのアプリが制作できるうえ,プロトタイプ作成も容易になったという。
しかし,便利であると同時に課題もある,と廣田氏は語る。ミドルウェアはグラフィックス表示やマルチOS対応など,ややこしい部分をある程度肩代わりしてくれるが,これは諸刃の剣であり,ゲーム開発が簡単になる代わりに「徹底したグラフィックスの最適化を行い,たくさんの3Dモデルを表示する」といった,ハードウェアの限界に挑むプログラミングや,「メモリが少ない機種でも快適に動くように最適化する」といった工夫が難しくなるという。つまり,ミドルウェアにできないことは,実装のハードルが高くなってしまうのだ。
ネイティブアプリと同時に注目を集めているのが,最新のHTML規格である「HTML5」とその関連技術だ。HTML5ならブラウザアプリの利点である開発の容易さに加えて,WebGLを使えばネイティブアプリ並みのリッチな3Dグラフィックス描画も可能になるため,いいことずくめに見える。
それに対して廣田氏は,iOSではWebGLが使えない点を指摘した。iOSにおいてHTML5は,ネイティブアプリほどの画像クオリティを実現できないというのだ。
現在のソーシャルコンテンツにおいてiOSは一大勢力であり,無視するという選択は採りづらい。廣田氏は「ゲームアプリにおいて,すぐにHTML5が主流になることはないと思うが,流れの速い業界なので,今後の動向には注視する必要がある」と語る。
廣田氏は最後に,「ミドルウェアは確かに便利ですが,あくまでツールです。ミドルウェアを使えばヒット作が作れるわけではありません。ヒット作は,アイデアと市場のニーズがマッチしたときに生まれます。皆さんもぜひヒット作を生み出して,今後のソーシャルコンテンツ市場を盛り上げていきましょう!」と語って講演を終えた。
海外に展開するタイトルはカードのイラストが違う〜カルチャライズの重要性〜
最後に登壇した金武康悟氏は,「グローバル化で求められるデザインとは」という講演を行い,海外プレイヤーの感性に配慮することの大切さを語った。
金武氏はドラコレのデザインを行う際,以下のような点を心がけたという。
(1)ターゲット層を10〜30代男性に絞り込む
(2)デフォルメされた,幅広い層向けのデザイン
(3)レアカードの絵は密度の高いものに。キャラクターでレア度を分けない
(4)デザインのバリエーションを許容する世界設定
(5)スピードを意識した制作
ボリュームを増すための二つのアプローチ
それぞれの説明は必要ないと思うが,興味深いのが(4)と(5)で,これらはソーシャルコンテンツで重要な「ボリューム感」を増すためのアプローチであるという。
例えばスポーツものなら選手以外は出しにくいが,ファンタジーならモンスターやキャラクターなど,デザインに変化を付けることが容易になる。ドラコレがデフォルメされた絵柄なのは,さまざまなデザインを許容するためという側面もあるわけだ。こうした方向性の結果,現時点で数千種を超えるモンスターカードが,ドラコレに実装されている。
実務上は「一つのカードにこだわるより,バリエーションを増やすスピード感」が意識されたという。これは,ドラコレのカードは一枚一枚をゆっくり見る対象というより,たくさん並べたときの満足感を味わうものであると考えたからだ。ちなみに,モンスターカードが正方形なのは,並べたときの綺麗さは勿論のこと,端末依存の影響を受けにくい形状であり,デフォルメされたキャラの密度と動きを活かすためだという。
感性や文化の違いに「地産地消」で対応
感性の違いに対応した例としては,日本版で衣類を身につけた動物型のモンスターが,海外版で同色の体毛に変更されているといったものが挙げられる。海外のプレイヤーは,動物が衣類(ズボン)を身につけていることに違和感を感じるためだ。
また,青色の肌をしたゾンビは,海外版では肌の色を緑に変えると共に,頭身を上げたリアルな体型に変更された。海外ではゾンビ=グリーンという認識が強く,さらにリアルな絵柄が好まれることによるもので,迫力を増すために,対象年齢を考慮しつつ肌に傷や腐敗の跡を加えたという。
さらに,海外の感性に対応するため,デフォルメにも関わらず,細かな装飾を書き込み,さらに陰影を付けることで絵の情報量を増すといった変更も行われたとのこと。
文化の違いや年齢レートに対応した例として,「杯から酒を飲んでいる」「モンスターがパイプをくゆらせている」「女性が肌を露出している」イラストが挙げられていたが,杯の液体は酒に見えないように色が変えられ,パイプの煙は削除され,衣装も露出の少ないものに変更された。
これ以外にも,記号や紋章といったものの取り扱いには気をつけて制作がなされている。
また,こうした感性や文化の違いに対応するには「地産地消」,すなわち現地のスタッフを巻き込んでいくことが重要だと金武氏は語った。また,通訳を介して会話するのではなく,制作者そのものが現地語を学ぶことが理想であるとのことだ。
金武氏は「成功体験と失敗体験はどちらも重要です。これまで失敗してきたタイトルがあり,こうしたケースから学ぶことが大切でした。いいものを作るためには継続して成功体験と失敗体験を積んでいくことが必要なのです」と,チャレンジの大切さを説いて講演を締めくくった。
今回の講演会は,企業が自社タイトルをアピールするというより,開発者が生の声を発信するというスタンスになっており,貴重な情報や現場の意見などが惜しみなく語られていたことが印象的だった。
講演終了後には懇親会が催され,聴講者とドラコレスタジオのスタッフがアットホームな雰囲気の会場で交流していた。
その時代に最も利用されているデバイスに向け,新しい遊びの提供を進めているドラコレスタジオ。今後の動きにも目が離せない。次回のイベントは2013年8月を予定しているとのことだ。
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