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ついにオープンβテストが始まった「World of Warships」。サンクトペテルブルクスタジオで,開発者に怒濤のインタビューを行った
「今後,日本の伝統楽器や日本語音声を
使ったりすることを考えています」
プレイ中,あまり意識することはないかもしれないが,ゲームのBGMや効果音はプレイヤーの感情に大きな影響を与える重要な要素だ。Artur Tohtash氏は,そうした音響関係の責任者で,同社にしては小さめな所帯のサウンドスタッフを束ねている。インタビューは,同氏が作業するスタジオの一室で行われた。
Artur Tohtash氏(以下,Tohtash氏):
とりあえず,私の仕事を簡単に紹介しますね。私は「World of Warships」の音響すべてを担当しています。チームは私のほかに4人いて,オーディオプログラマーも含まれています。
作曲家は私を含めて3人で,この3人でゲーム内のBGMをすべて作っています。もちろんオフィスですべてを作っているわけではなく,録音のためにスタジオを借りることもあります。
――しかし,この部屋にもいろいろな楽器が置いてありますね。
Tohtash氏:
私達はサウンドエフェクトも担当していますので,楽器以外にも本当にさまざまなものを使います。世の中のすべてのものは,楽器として使えます。
――BGMにはクラシック音楽の影響が感じられるのですが,これには何かの方針があるのですか。
Tohtash氏:
そうですか? クラシック音楽の影響が強いのは「World of Tanks」のほうで,あちらではオーケストラ音楽を主体に作られています。
「World of Warships」では,よりハイブリッドな音楽を目指しました。映画音楽のような仕上がりを目標にしています。
――それはすみません。ところでゲーム中,BGMがダイナミックに変わりますが,あれはどのような仕組みになっているんですか。
Tohtash氏:
BGMは「バーティカル」と「ホリゾンタル」という2つのパラメータによって変化します。詳しい説明は省きますが,これによって,例えば港で艦艇を変更するとBGMが自然に変化するといったことが起きます。
また試合の最中は,「マッチが始まる」「ダメージを受ける」などといったトリガーが15種類ほど用意されており,これに応じてBGMが選ばれます。
――最近はBGMの自動生成技術なども進んでいますが,そういった技術を採り入れていく予定はあるのでしょうか。
Tohtash氏:
どうでしょう。ゲームの音楽作成は,とても複雑なものです。プレイヤーの感情を高めるため,ゲーム内でのシーンを細かく想定し,さまざまな場面に対してBGMを選んでいく必要があり,最適な音楽を最適な場面に提供するのは,とても難しい作業です。
私としては,まだまだ人の手が必要な部分だと感じています。
――BGMの作曲では,どういうところからインスピレーションを得ているんでしょうか。
Tohtash氏:
BGMは,プレイヤーの感情に対して,とても大きな影響を及ぼします。ですので,どうしたら適切な感情を引き起こせるかを常に考えて作曲しています。
「World of Warships」は映画音楽を意識していますが,同時に世界各国の伝統音楽にも注目しています。伝統音楽には,地域性が強く出ますからね。「World of Warships」のチームは日本がとても好きで,今後,日本の伝統楽器や日本語音声を使ったりといったことをしていきたいと思っています。
――音楽に続いて,効果音に関していくつか聞かせてください。まず,現存しない船については……というか現存する船でも,砲声がどのようなものなのかを再現するのは非常に難しいと思えます。どのように処理しているのでしょうか。
Tohtash氏:
砲撃音については,音を3つのパートに分けて,それらをミックスすることで作っています。これにより,音にリアリティが出るんです。砲撃音以外の,機関が回る音なども,同じ手法で作っています。
――「World of Warships」は交戦距離の長いゲームですから,実際に敵艦や僚艦が発砲するのが見えてから,その音が聞こえるまで大きなラグが発生すると思います。700mというと「World of Warships」では至近距離ですが,それでもなお,砲撃の光が見えてから音が聞こえるまで,2秒とちょっとかかる計算です。
もちろんこれを真面目にやっていると,ゲームとして遊びにくくなるだろうというのは想像がつくのですが,こういった音の面でのリアリティについては,今後,どうなる予定でしょうか。
Tohtash氏:
実はそういった点について,次のパッチでいろいろ工夫しようと考えているところです。プレイヤーの船の周囲の音をどう拾ってくるか,というのは,とても難しい問題ですから。
現状では自分の船から一定の範囲内で発生した音を拾うシステムになっていますが,将来的には敵との距離感を感じさせる音響の演出や,遮蔽物が音に与える影響なども加味していきたいと思っています。
「自分の作った艦船モデルは,
自分の子供のようなものなんです」
「World of Warships」の主役である軍艦。その3Dモデルを制作するのがAleksandr Zotikov氏のチームだ。説得力のあるリアルな軍艦なしではゲームが成立しにくいだけに,Zotikov氏の仕事は重要だ。3Dモデルがどのようにして作られるのか,実際の制作画面を見つつ,説明してもらった。
Aleksandr Zotikov氏(以下,Zotikov氏):
私は「World of Warships」で使用する,3Dモデルのデザインを統括しています。アーティストでもあるけれど,エンジニアでもある立場,と言うのが一番分かりやすいですかね。
とりあえず,質問をしてもらう前に,実際に我々の仕事がどのような手順で行われるかをお見せします。
モデリングのツールとしては,Autodeskの「Maya」を使っています。最初に,船の全長,全幅,全高に合わせて,Size Boxを作ります。この内側に,モデルを組み上げていくわけです。
続いて設計図をSize Boxの中に配置します。
こうして配置した3面図や各部の詳細図面をもとに,船をモデリングしていきます。
各部のディテールについては,防火砂に至るまで作り込みます。モデルの表面に張るテクスチャにしても,リベットの数ができる限り実物と同じになるように努力しています。また,砲や短艇といった各艦に共通するものは,共通パーツとして作ります。飛行機も同様ですね。
最終的に,完成したモデルの各所に人形を置いて,サイズに矛盾や誤りがないかを確認しています。階段が狭すぎるとか,通路が通り抜けられないといった問題がもし起きれば,この段階で解消するわけです。ゲーム内で人間は表示されませんが,モデルの正確さを担保するには,こういった検証も重要になります。
作業に当たっては,日本から大量に設計図が送られてきたので,我々の作業は随分楽になりました。それまでは雑誌などを参考にしてモデルを作っていたのですが,開発の初期段階では日本語の読めるスタッフがいませんでしたから,内容を理解するのも一苦労でした。今は日本語が読めるスタッフが2名いるので,そういった資料の読解も容易になりました。
とはいえ,写真の乏しい艦のモデリングにはやはり,非常に苦労します。そういった船の完全な再現は難しいと言わざるを得ませんね。
完成したモデルは,Mayaから本作のゲームエンジンである「BigWorld」へ書き出します。この段階では,砲塔を回したり射撃したりすることも可能になるので,ここで問題がなければ,ゲームデザイナーがゲームに実装していきます。
ちなみに私達のチームでは,船以外にマップに置くモデルも作っています。島に点在している車両や家といったオブジェクトもすべて,我々が作ったものです。
――1隻の船を作るのに,どれくらいの時間がかかるんですか。
Zotikov氏:
艦船ごとに大きさや,資料の揃い方の差などがありますから,一概に「これぐらい」とは言えませんが,最速で1か月,普通は2か月ほどかかります。しかし,船によっては半年ぐらいかかったものもありますね。
また,ニューメキシコ級のように,改修後に船体が大きく変化した船もあります。ニューメキシコ級の船体は3種類ありますから,実質3隻作ることになりました。
――いずれも非常に精密なモデルで,それだけにPCにかかる負荷も大きそうです。
Zotikov氏:
そのとおりです。そこで,快適にプレイできるようにローポリゴンのモデルも作っています。最初にハイポリゴンで作って,そのディテールレベルを適宜下げたモデルを作っていく感じですね。
ただ,アーティストとしては最も良いものを世に出したいという気持ちが強くあります。ですから完成した船体モデルについてゲームデザイナー側から「ポリゴンをもっと減らしてほしい」と要求されると,仕方ないこととはいえ,なかなか辛いものがありますね。
ちなみに艦船のモデリング作業は,資料調査の都合などもありますので,1人のアーティストが1隻をまるまる担当するシステムになっています。共通パーツを使うところはありますが,それ以外についてはモデリングもテクスチャも,すべて1人で作り上げます。
そのため,アーティストにとって自分の作ったモデルは自分の子供のようなもので,思い入れも強いんです。
港の画面では,船の各所をクリックすることで拡大表示できます。プレイヤーの皆さんが「この船の見どころ」を探してくれるなら,アーティスト冥利に尽きますね。
――日本に戻ったら,さっそく探してみたいと思います。ありがとうございました。
「調査には,それぞれの国ごとに
独特の難しさがありました」
歴史家であるSergey Gornostaev氏は,Wargamingのミリタリーアドバイザーであり,「World of Warships」では博物館との折衝などを行って,艦艇の設計図や歴史的資料を多数集めた。ある意味,影の功労者だ。専門とするのは第一次世界大戦の艦艇で,バルチック艦隊にも興味があるという。もちろん,歴史系のPCゲームやボードゲームなども大好きだそうだ。
Sergey Gornostaev氏(以下,Gornostaev氏):
私の仕事は基本的に,史実の資料に関することです。また,博物館との折衝の窓口になるのも,仕事の一部です。つまり,博物館や軍事施設から資料を集めてくるだけでなく,「World of Warships」に関するさまざまなプロジェクトを博物館に提案したり,逆にされたりするわけです。
私達のチームが集めてきた資料はアート部門に渡され,ゲームで使われるアートや3Dモデルの基礎資料になります。ちなみに,完成したアートのチェックは,また専門の部門が別にあります。
――調査にあたって,とくに苦労した点を教えてください。
Gornostaev氏:
地域ごとに,それぞれの問題がありました。まずソビエト海軍ですが,これについては今に至るまで機密扱いになっている情報が数多くあります。続いて日本は,軍船が残っていませんし,資料もあまり多くありません。ドイツの場合,国営アーカイブに資料があるのですが,アーカイブを利用するためのスケジュールを正確に組まねばなりませんでした。
もっとも,日本は資料が少ないと言いましたが,必ずしも資料が多ければ良いというものではありません。
――と,言いますと。
Gornostaev氏:
資料が多すぎて,真贋が定かではないものが大量に存在することがあり得るのです。
その代表例は,ビスマルクでしょう。これはアメリカに設計図があったのですが,「ビスマルクの設計図とされているが,実際には使われなかったもの」「まったくの偽物」という専門家も多く,判断に迷うことがありました。
――それを特定するとなると,相当の調査が必要になるかと思いますが,調査体制としてはどのようになっているのでしょうか。
Gornostaev氏:
私以外にミリタリーヒストリアンが2名,ミリタリーリレーションの専門家が1名でチームを作っています。4人全員が歴史家としての専門教育と訓練を受けてきた人間ですし,うち1人はロシア海軍で歴史を教えている,現役の海軍士官です。
――大変な調査を長期間にわたって続けられたモチベーションは,どこから来たのでしょうか。
Gornostaev氏:
そもそも私達のような歴史家は,知ろうとし続けることの大切さを知っています。そのうえで,調査の結果がゲームの中で形になるというのは,実にモチベーションが高まるものです。
また,調査の仕事を通じて世界中のさまざまな人に会い,知らなかったことを学べるのも,仕事を続ける動機になります。要は,楽しかった,ということですね。
ちなみに現在は,フランスやイタリアの艦艇の調査を行っています。
――何か興味深い新発見などはありましたか。
Gornostaev氏:
試作兵器には,すごいものがたくさん見つかりますね。例えば,これはドイツの計画なのですが,飛行機に魚雷を搭載し,港に近づくと飛行機ごと海に潜って魚雷を発射するという計画があったようです。控えめに言ってもトンデモ兵器ですね。
ドイツつながりで言えば,「World of Tanks」の調査チームからは,戦艦の砲を戦車に載せる計画があったと聞きました。実はソ連にも似たような計画があったのですが,ソ連では固定砲にしています。戦車に載せようというのが,実にドイツ的だなと思いました。
――「World of Warships」のプレイヤーや興味を持った人が,歴史的資料を提供できるという場合,どのようにすればいいのでしょうか。
Gornostaev氏:
各地域のWargamingに連絡してもらうのが,一番確かでしょう。連絡をもらえれば,折り返して返事がいくはずです。また,ゲームの公式フォーラムにも,議論のためのスレッドが用意されています。
日本からの図面提供もこうしたやり方でしたが,アマチュア歴史家の中には特定の艦艇に非常に詳しい人が大勢いました。吹雪型の資料については,同艦に詳しいアマチュアの方に大いに助けてもらいました。
――歴史的調査という意味では,元Microsoftのポール・アレン氏が,フィリピン沖に沈んだ武蔵を発見しています。これについてどう思われますか。
Gornostaev氏:
私達もあのニュースを見て,大いに興奮しました。チャンスがあれば,この目で見てみたいとも思います。私自身,個人的に呉に行って武蔵の調査をしたことがありますので,あの船に対する親近感もありました。
また,武蔵発見のニュースは「World of Warships」のロシアコミュニティでも話題になっていました。北米コミュニティでも,公式サイトがニュースとして取り上げています。全世界的な注目を集めていたと言えるでしょう。
私達も,自分達であのような発見ができたらいいなと思います。歴史家としても,楽しみな部分ですね。
「『プレイヤーがゲームに遊ばれる』ような状況は
徹底して避けねばなりません」
最後に話を聞いたAnton Artemov氏は,「World of Warships」のユーザーインタフェースを担当する責任者だ。情報量が多く,またできることも多い本作だが,操作が煩雑になってしまってはゲームの面白さは半減してしまう。ビギナープレイヤーでも無理なくプレイできる操作系のデザインや,現状の問題点などについて質問した。
Anton Artemov氏(以下,Artemov氏):
私は「World of Warships」のUI(ユーザーインタフェース)開発の統括をしており,ゲームの起動からゲーム内のUIまで,すべてわたる制作と,その監督を行っています。
――UIをデザインするにあたって,一番気をつかっている部分はなんでしょうか。
Artemov氏:
分かりやすさや,簡単さですね。「プレイヤーがゲームに遊ばれる」ような状況は,徹底して避けねばなりません。また,プレイヤーに対しては,絶対にこうしなくてはならないという導線を示すのではなく,多数の選択肢を無理なく見せて,そこから間口の広さを感じてもらうことも意識しています。
――「World of Warships」のUIは「World of Tanks」に似ていますが,これには理由があるのでしょうか。
Artemov氏:
もちろん。まずUIの企業モデル,いわばWargaming風UIとでも言うべきものがあります。また,「World of Tanks」のプレイヤーの多くが「World of Warships」に興味を示しているというデータがありますので,そうした人達にとっては,まったく新しいUIより,「World of Tanks」でなじんだものを利用したほうがスムーズにゲームを楽しめるという理由もあります。
ただ,これはそう簡単な話ではありません。「World of Tanks」のプレイヤーには分かりやすくても,「World of Tanks」をプレイしたことがない人にとって分かりにくいのでは意味がないからです。ここは,1つのチャレンジとなりました。
――UIは,現状が完成形だと思っていいのでしょうか。
Artemov氏:
実例を挙げますと,昔のUIはシミュレータに近いものになっており,ゲームに必要な情報は画面の中央に集まっていました。プレイしていると,視線はどうしても画面の中央に集まりがちですから,これでは使いにくいということで修正されました。
また,以前は艦艇のHP以外に,「浮力」というゲージがありまして,HPをゼロにする以外に,浮力をゼロにしても船を沈めることができたわけです。こちらは「ややこしい」という意見が多かったため,ゲームから取り除いています。
カメラコントロールにしても,最初は俯瞰視点でRTSに近い雰囲気でしたが,これも現在ではTPSへ変化しています。
このように,UIは日々調整が続いています。正式サービス後にも,UIが大きく変化する可能性はあります。
――現時点において,UIの問題として考えられている課題はありますか。
Artemov氏:
現状,プレイヤーに艦艇の使い方を説明する機能が欠けています。また,「World of Warships」はe-Sportsにも進出していくと思っていますので,それを踏まえたUIの設計も必要になるでしょう。チームプレイをサポートする仕組みも必要です。
――ゲームを実際に遊んでみると,空母のUIだけがほかの艦艇と大幅に異なっています。
Artemov氏:
それは,最初から空母はほかとは違う操作系で作ろう,というアイデアがあったからです。UIというより,ゲームデザイン上の理由ですね。
――なるほど。ところで,現在はキーボードとマウスを使ったプレイが前提ですが,ゲームパッドを使うといったことは考えていますか。
Artemov氏:
ゲームパッドでもプレイ可能なUIにはなっています。実際にゲームの仕様として採用するかどうか,私からはなんとも言えませんが,UI部門としてはさまざまな要求に対応できるように設計しています。
――日本のユーザーに何か,メッセージはありますか。
Artemov氏:
ぜひプレイして,アンケートに答えてください。それによってゲームがさらに良くなる可能性が高まります。ゲームの修正はプレイヤーから得られるデータに従って行われます。つまり,アンケートの内容がとても重視されるわけです。「World of Warships」は今後も改良を続けていきます。今後の開発においてもプレイヤーの皆さんの協力がもらえれば,幸いだと思っています。
――本日はどうも,ありがとうございました。
Action Station!
というわけで,「World of Warships」を作っている人々と,彼らのスタジオの紹介は以上となる。思い返せば,2年ほど前から機会があるたびに「で,進捗はどうなってますか?」という質問を繰り返してきた「World of Warships」だが,ついにOBTがスタート。いよいよ誰もがプレイできるゲームとして世に問われることになった。
オンラインゲームは,リリースすれば完成というものではない。「World of Warships」チームには,これから先も,「World of Warships」を面白いゲームとして運営し続けるという,大変な仕事が待っている。
だが彼らであれば,きっと「World of Warships」は新鮮さと驚きを失わないゲームとして,海軍ファンを魅了し続けるのではないだろうか。そんな情熱を感じたインタビューだった。5年後,10年後にも大いに期待したいところだ。
「World of Warships」公式サイト
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