企画記事
ミクロ視点でじっくり村を発展させる新作シミュレーション
Banished
2014年2月19日に発売されたShining Rock Softwareの処女作「Banished」は,都市建設シミュレーションの新星として現在,欧米PCゲーマーの熱い注目を集めている作品だ。
都市建設シミュレーションのジャンルには,おなじみの「シムシティ」シリーズを筆頭に,熱烈なファンを持つ作品がいくつもあるが,さらにゲームの勝利条件を満たすうえで建築物の配置が重要な「エイジ オブ エンパイア」シリーズなどのRTSも,拠点を作っていく楽しみを味わえるという点で,広義の都市建設型シミュレーションに含めることができるかもしれない。
「Banished」公式サイト
初代「シムシティ」(1989年)が発売されてから現在までの約四半世紀,続いて登場したいくつものタイトルによって,ジャンルとしての都市建設型シミュレーションは成熟しきったかと思っていた。だが,発売後約3週間を経た時点での評価を見る限り,Banishedはそんなジャンルの中にあって,改めてプレイヤーに新鮮な面白さを届けることに成功したようだ。
Luke Hodorowicz氏がたった一人で作り上げたという,Banishedの魅力とはいったい,なんなのだろうか。
本作については,2014年2月28日に掲載した週刊連載「ハロー!Steam広場」でも取り上げているが,ここで改めてこのゲームの特徴について,筆者の村が人口100人を達成するまでのリプレイと共に紹介したい。筆者の試行錯誤を通じて,Banishedの面白さの一端に触れてもらえれば幸いだ。
荒野に投げ出された15人
さっそくゲームを始めてみよう。ちなみに,ゲームの基本を紹介する今回のレビューでは,小さなマップを選んで,気候や難度の設定もデフォルトのままだが,ゲームに慣れてくれば,より難しい条件での生き残りにもチャレンジできる。また,本作には決まったシナリオや達成目標があるわけではなく,現段階ではただ村を発展させていくことが目的となる。それを面白いと思えるかどうかが評価の分かれ目になりそうだが,そのことについてはリプレイのあとに考えてみよう。
ともあれ村に名前を付けなければならないのだが,そんなジャガイモからの連想で,筆者の住むドイツ的な名前で,なおかつ牧歌的な響きの「カールスドルフ」にした。なんとなく,とあるスナック菓子を思い出しそうだが,気にしない。
さて,ゲームスタート時点で筆者に与えられたのは,何らかの理由で故郷を追われた15人。いくばくかの食糧に資材,そして倉庫と資材置き場が与えられているのは,追放した側の,せめてものお情けというべきか。この15人が全員死んでしまうとゲームがまったく進まなくなるわけだが,それにも関わらず住民達は飢えや寒さに非常に弱い。長期間何も食べないと餓死してしまうし,冬の間ずっと屋外にいたら凍死してしまう。
したがって,ゲームを始めて最初にすべきなのは,彼らが最低限生きていくだけの環境を整えることだ。最初はおよそ文化的な生活とはいえなさそうだが,「衣食足りて礼節を知る」という言葉があるように,まずは生き残ることが大切だ。
そのためには,まず彼らが生活する家を建てよう。このゲームにおいて家の役割は大きく分けて3つあり,まずは「家族が暮らす場所」としての働きだ。Banishedの住民は家族単位でまとまって暮らすようになっていて,子供達は結婚して新しく家庭を持つことで家を出ていく。つまり,新しく家族を作るための家がないと,子供達は親元でずっと過ごすことになるのだ。
ゲームスタート時,村には5家族がいるので,与えられた木材と石材を使って5軒の家を建てる。とはいっても実際に働くのは彼ら自身で,筆者の任務は家を建てる場所を指定して住民に仕事を割り振るだけであり,そのあとの資材運搬や家を建てる作業そのものは彼らがやってくれる。
家を建て終わったら,次は食糧事情の改善だ。家の二つめの役割として「食糧の保管場所」というものがある。住民達は倉庫に集められた食糧を自分の家に持ち帰り,家でそれらを消費するわけだ。
気をつけなければいけないのは,消費スピードが変更できないことと,異なる家族間での資源の再分配ができないことだろう。つまり,食糧の供給が途絶えたが最後,備蓄がなくなった家族から次々に餓死者が出ることになるので,そうなる前に,15人分の安定した食糧生産ができる施設を建てることが,プレイヤーに課せられた次の課題となる。
Banishedには「テクノロジーの進歩」という概念がないため,いくつかの例外を除いて,すべての食糧生産施設がゲームスタート時点から運営可能だ。もっとも,この手の開拓ゲームではありがちなことではあるが,いきなり耕作や栽培に手を出すと失敗するので,まずは魚を釣る釣り場,鹿を狩る狩人小屋,そして山菜類を集める採集小屋という,より原始的な生産手段を優先的に揃えたい。耕作や栽培は収穫までに時間がかかるうえ,年によって収穫量のばらつきが大きい。その点,これら3つの施設は1年中ほぼ安定して食糧を得られるのだ。
だが,あらかじめ植林と伐採を並行して行うための林業所を村はずれの林に建てておくと,後々便利なので,ぜひ覚えておいてほしい。さらに,周囲に森林が必要な採集小屋や狩人小屋もこの林業所と隣接したところに設置しておけば,限られた土地を効率よく利用できる。
また木材は,鍛冶屋で鉄の道具を製造するためにも必要だ。これがあるとないとでは住民の作業効率に大きな違いが出てくるので,「衣・食・住」の最後のファクターである防寒用の皮製コート(これは仕立屋で皮から生産できる)と合わせて,鉄製の道具を住民全員に行き渡るようにしておきたい。
家と必要最低限の生産施設,そして木材の安定した供給源。これらの施設を整えて,ようやく15人の住民が生きていくだけの環境が揃ったことになる。
村の発展の鍵は「急がば回れ」
ようやく村の基盤ができあがったので,さっそく人口を増やしていこう……といきたいところだが,筆者はあえてゲーム内時間の数年間,発展を停滞させてみた。これは,食糧や木材の供給と消費のバランスを確認したかったためだ。
役場を建てることで,そうした収支バランスなどさまざまな統計データを確認できるが,人口や取り扱う資源が少ない序盤では役場を建てる必要性は薄い。というわけで,2年ほど時間を進めてみたわけだが,その結果,魚や山菜類を中心にした村の経営状態は安定していることが分かった。そこで,いよいよ住民を増やすための作業,具体的には新しい家族のための家の建設に取り掛かることにした。
本当はもう数年様子をみて,交易に回せる物資を溜めたかったのだが,プレイヤーにはあまりのんびりとしてはいられない理由がある。それは住民のライフサイクルだ。本作の住民達は我々と異なり,季節ごとに1歳,1年で4歳年を取り,学校に通わない限り,10歳で就労や結婚が可能な「大人」になる。
空き家がないと,結婚可能な年齢になっても新しい家庭を作って子供を育てることができないので,人口は増えるどころか減っていってしまう。そこで,タイミングを見計らって家を新築してやらなければならないのだ。
だが,人口が増えればその分,消費する食糧その他の資源は多くなる。労働人口が増えることで農耕や採集に回せる人数も多くなるため,住民数の増加が直接,食糧難につながるわけではないが,もともと15人分の生活を維持するのがやっとというところに一度に家を数軒建てたりすれば,物資の需要と供給のバランスは大きく崩れてしまう。
何回か試行錯誤を繰り返した結果,目安として1年に1軒の家を新築するくらいのペースがちょうどいいという結論に落ち着いた。
ここまでプレイして,限りある資源の中でもとくにシビアだと感じたのは,木材供給の少なさだ。林業所からの供給量は,15人の住民分の薪を生産するには十分だが,村を発展させるために家や生産施設を建設するのにも木材が必要なので,容易に木材不足に陥りやすい。このため,人口が増えて木材の減りが早くなってきたと感じたら,林業所を建てておくことをオススメしたい。
こうして数年間家を建て続けたことで,一定のペースでの人口増加が見込めるようになってきた。さらに,増えた労働力を使って畑や果樹園の経営にも乗り出した。生産する作物の種類を増やすことで,住民にさまざまな食べ物が供給できるようになり,それによって彼らの健康状態が改善され,また,それぞれの食物の消費量を抑えることもできるのだ。
とはいえ,ゲーム開始時に与えられる作物の種子はランダムで決定された数種類しかないので,これでは,どれだけ耕地面積を増やしても同じ作物を作り続けることになってしまうため,ビジュアル的にあまり見栄えがしないうえに,何より害虫が発生したときの被害が甚大なものになりやすい。そこで,村が安定してきたら,農作物全滅のリスクを避けるためにも新種の作物栽培や牧畜など,多角的な農業経営に乗り出していきたい。
そのためには,まず川沿いに交易所を建て,遠隔地の商人を呼び込み,彼らが運んできた種子や動物とこちらの村の物資を交換することになる。ここで気をつけなければならないのは,彼らがやってくるのが不定期であることと,種子や動物などの交換レートがやたらと高いことだ。商人の運んでくる品物は基本的にランダムであり,こちらが交換したいと思っているものを,相手が欲しがってくれるとは限らない。実際,この段階でカールスドルフが提供できる農作物は,交換用の物資としてはあまり人気がないもののようだった。
自分が欲しい品物がなかった場合,商人に対して次回の訪問時に向けたリクエストができるのだが,彼らがいつやってくるかは分からないので,交易に依存した経済は不安定なものになりやすい。
こうして手に入れた作物を育て,家を建てて住民を増やし,増えた住民の食糧を生産するために農場を拡張してゆく……というサイクルは一見単調だが,15人分の生活を維持するのが精一杯だった雌伏の時期を考えれば,ゆるやかではあっても村が発展していく過程を眺めるのは,実に感慨深い。
なお,村を拡張するにあたって気をつけておくべき点として,本作ではグレードアップできる建物がほとんどないことを付け加えておこう。結果,村はどうしても平面的に広がることになり,人口が50〜60人に達する頃には,倉庫とその周りの家々が集まった居住区と,そこから少し離れた場所に食糧その他の物資を生産する1〜3つの区域できるという姿になる。
そうなると,それぞれの生産施設から倉庫まで物資を運ぶのは,輸送経路の長さや倉庫のキャパシティ的に無理が出てくるので,生産区域と村の中心との間に新しく倉庫を建てる必要性が出てくる。
村がさらに成長してきたら,それらの倉庫をカバーする形で市場を建てよう。市場に住民を配置しておけば各地の倉庫の物資を自動で集めてくれる。どれだけ住民の行動範囲が広がっても,消費活動の中心である居住区はそれほど広がらないので,住宅地の中に市場を作れば,それぞれの家が物資を補給するまでに必要な時間が短縮され,結果として飢えや寒さなどの危険を避けることができるのだ。
市場が建ったら,それに隣接するように役場を建ててやると,それまで田舎っぽさ全開だった村の雰囲気が,少し都市らしくなる。上でも述べたように,役場では各種統計をチェックすることができるので,村の状況をより深く把握しようと思ったら,建てて損はない。
役場を建ててしばらくすると,外部からの移民がやってきた。これは役場を建てることによって発生するイベントなのだが,カールスドルフの「最初の15人」と同じように何かしらの理由で流浪の民となった彼らは,一気に人口を増やしたいときにはありがたい存在だ。だが,彼らの到来がいつになるのかは分からないため,今回のように受け入れるべき家がない場合もしばしばある。そんなときは,まずは仮設の小屋を作ってそこに住んでもらえばいい。
移民団の効果もあって,カールスドルフは25年目にしてようやく人口100人を達成できた。100人というのは,例えばUbisoft Entertainmentの「Anno」シリーズなら,家を10軒ほどパッと建てるだけであっさり到達できる規模だ。しかし,人口が増えていく過程がより緻密に表現されている本作では,十分にゲーム序盤の到達目標になる数字だといえる。
幸いにも今回,カールスドルフでは伝染病や害虫などが発生しなかったので比較的スムーズに発展してきたが,実は鉄が欠乏しつつあったり,住民の教育状況が最悪になっていたりと,改善点も多い。果たして持続可能な発展が可能かどうかは,まだまだ予断を許さないのだ。
Banishedの面白さは果たしてどこにあるのか?
以上,筆者の作ったカールスドルフを舞台にゲーム序盤から中盤にかけての流れを追いかけてみた。まだ建てていない施設はいくつかあるし,栽培可能な農作物もすべて揃えたわけではない。扶養可能な人口にゆとりはあるが,プレイヤーがこのゲームの中で何ができるのかについては,おおむね分かってもらえたのではないだろうか。
既存の都市建設シミュレーションと比べ,本作が提供できる遊び方がそれらと大きく異なっているわけではない。それにもかかわらず,このゲームには不思議な中毒性がある。
その理由としては,「若干難しめのゲームバランス」「シミュレーションゲームとしての適度なリアリティ」,そして「ゲーム内で起こる出来事に対する感情移入のしやすさ」の3点があると筆者は考えている。
カールスドルフの例で見てきたように,本作で村を発展させていくのは難しい。すべての必要資源を網羅した自給自足システムを作るのは至難の業だし,たとえそれが完成したとしても人口が数十人増えただけで需要と供給のバランスはたやすく崩れてしまう。
また,伝染病や害虫が発生して農作物の生産が落ち込み,その結果餓死する住民が続出。そのため生産施設で働く労働者がいなくなり,その結果として食糧供給がさらに追い付かなくる……という悪循環に陥る可能性も高い。
だからといって,本作がいわゆる「マゾゲー」かというと,そうではない。このゲームのシステムはほかの都市建設シミュレーションほど複雑ではないので,失敗した場合,何が悪かったのかが分かりやすく,試行錯誤を繰り返すことはそれほど苦痛ではないのだ。ゲームの進行スピードもゆっくりめなので,対応を考える時間が十分に与えられているのもありがたい点だろう。
ゲーム中に襲い掛かってくるバッドイベントと,それによる負の連鎖は,運営がうまくいっている村でさえも簡単に崩壊させかねないほどのものだ。だがその不条理さは,例えば冬の寒さが住民に与える深刻なダメージや,交易商人が要求を聞いてくれないことなど,プレイヤーに「まあ,そうだよね」と思わせる自然なものになっている。
また,四季の移り変わりや,緩やかに成長する農作物の美しいグラフィックスは,自然を開拓し村を作るのって,昔はきっと大変だったのだろうと思わせる説得力を持っており,さまざまな困難を乗り越えて育てた村や,そこで暮らす住民に対し,ゲームを進めるにつれて自然と愛着を持てるようになっている。
住民が持つそれぞれのデータはそれほど多くないが,人口増加のタイミングを計るために年齢を調べたりなど,なんとなく彼らの人生を追いかけているような気分になり,ゲームのスケールがそれほど大きくないこともあって,つい感情移入してしまうはずだ。
以上のように,Banishedはシンプルながらもやりごたえのあるゲームに仕上がっている。 冒頭にも書いたように,現段階ではとくにきまったシナリオや目標があるわけではない本作だけに,プレイヤーを選んでしまうのは仕方ないだろう。しかし,適度な難度とリアリティは,筆者にとって非常に面白く,100人規模のミクロ視点でじっくり村を運営し,村を発展させてもやっぱり村というゲーム性は,100万人単位の都市拡大競争を繰り広げるゲームはちょっとしんどいなあ,という人にオススメできる。
本作を一人で開発したHodorowicz氏によれば,リリース後の現在は,さまざまなバグの修正に加え,MODツールの制作,さらには「戦争」要素を追加していきたいとしている。
ただでさえ死因に事欠かない本作で戦争が起こったらどうなってしまうのか,さらに,戦争を含めたなにがしかの競争原理をシステムに取り入れているライバルが少なくない中で,本作ならではの独自性をどう出していくのかなど興味は尽きない。というわけで,今後の展開にも注目したい作品といえるだろう。価格もそれほど高くないので,興味のある人は試してほしい。
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