インタビュー
なぜ打越鋼太郎氏は,「ZERO ESCAPE 刻のジレンマ」で“運命の理不尽さ”を描いたのか。その背景と意図に迫る
言いたいことはゲームの中で言い切った
それがどう受け止められるのかが楽しみ
4Gamer:
そういった打越さんの頭の中にあるイメージを,ほかのスタッフと共有するとき,どんなことをするんですか? とくに今回は,プロデューサーから「やりたいことをやっちゃえ」と言われたそうですし。
打越氏:
もちろん打ち合わせはしますけど,僕は話し下手なので,基本的には仕様書やメールの文章で伝えるようにしています。
シネマパートにしても,セリフとト書きだけじゃなくて,演出の指示も書き込んでいるので,それをちゃんと読んでもらえれば,僕が思い描いている形にはなるんですよ。
4Gamer:
最初から頭の中で映像化されているんですね。
打越氏:
ええ。もちろん,演出の担当が僕と違うイメージで描くところもあります。そのときに違うなと思ったら,修正をお願いしますし,僕が思っていたよりも良いと思えばそちらを選びます。
4Gamer:
そこは臨機応変に,と。
イメージといえば,物語を作り始めるにあたって,終わり方も最初から浮かんでいるものなんですか?
打越氏:
僕の場合は最初に大オチを考えて,そこにつながるように線を引いていく感じで考えています。ただ,たいていの場合,書いている間にその大オチに対して飽きてくるんですね。「本当にこいつが犯人でいいの?」って。
4Gamer:
えっ,その場合どう対処するんですか?
打越氏:
犯人を変えることもありますし,トリックを変えることもありますね。前作では登場人物の生き死にについても変えたくなって,それに関するストーリーに手を入れるようなこともありました。
4Gamer:
そういう変更を加えながら整合性を保てるのが凄いですね……。
この手のゲームの場合,プレイヤーの予測をいい意味で裏切るポイントが必要になると思うんですが,今作ではどのあたりに用意しているんですか?
打越氏:
冒頭から用意しています。それがないと書き始められないぐらいなので。今回のテーマが“運命の理不尽さ”ですからね。
4Gamer:
最初から理不尽な目に遭わせてやろう! と。
ところで,そのテーマで一本作り終えたあとで,“運命の理不尽さ”というものに対して,打越さんの考えや温度感は変わりましたか?
打越氏:
自分の中では変わりませんでしたね。むしろプレイした皆さんが,このテーマについてどう考えるのかな? というのをすごく知りたいと思っています。それが楽しみなんですよ。
4Gamer:
つまり打越さんとして言いたいことは,全部このゲームの中で言い切れたということでしょうか?
打越氏:
そういうことですね。
許せる理不尽さと
許せない理不尽さ
4Gamer:
じゃあちょっと質問の角度を変えてみますが……。
打越さんにとって,“運命の理不尽さ”というのはいいものなんでしょうか? それとも悪いものなんでしょうか?
難しい質問をしますねぇ(笑)。
う〜ん,どうなんでしょう。許せる理不尽さと許せない理不尽さがありますよね。
4Gamer:
許せない理不尽さとして,どんなことが思い浮かびます?
打越氏:
好きな女の子に一生懸命頑張ってアプローチしても,まったく振り向いてもらえない,とか。
4Gamer:
そ,それ理不尽なんですかね!?
打越氏:
理不尽ですよ。人は努力したら必ず報われる,とくに若い頃は信じていたりするじゃないですか。なのにどう頑張っても実らない恋って,すごく理不尽でしょう。
4Gamer:
まあそういうのはタイミングも大事ですしね。しかもタイミングというのがまた理不尽極まりないもので。
打越氏:
そういうことです。
4Gamer:
何かつらいことでもありました?
打越氏:
人生は基本的につらいことの連続ですから。
4Gamer:
……じゃあ打越さんは,どんなときに「ああ,報われたなぁ」って思います?
打越氏:
ゲームなんかを作ってファンに評価されたり,面白かったって言ってもらえるのは,理にかなっているな,と。
4Gamer:
そこは理にかなってるんですか(笑)。
打越氏:
ゲームもアニメも,もの凄く頑張って,それこそ土日に休むこともなく一生懸命作って,そこまで頑張っても売れなかったり評価されなかったり,本筋とはずれた理由で叩かれたり……。そういうのは全部理不尽だと思うんです。
4Gamer:
こればっかりは難しいですよね。そういうのって突き詰めていくと人間が理不尽だって話になりますし。
あ,打越さんて,人間はお好きですか?
打越氏:
基本的に好きではないですね。理不尽な生き物ですから。
もちろん好きな人もいますよ。要は好きな人と嫌いな人が半々ぐらいで,嫌いな人はみんな僕にとって理不尽な存在なんです。僕の理屈に合わないことを言ったり行動したりするので。
4Gamer:
好きな人は理屈に合うことを言ったり行動したりする,と。
そして今回は,その嫌いな部分の感情をゲームを作る原動力にしたということなんでしょうか?
打越氏:
そうです。なので,きっと理不尽なことが嫌いな人は,このゲームに共感してもらえると思っています。
40歳を超えたからこそ
引き受けなければいけない“悪役”
4Gamer:
つまり,共感してくれない人がいることも織り込み済みではある,と。
打越氏:
賛否両論はあるでしょうし,そういうものだとは思っています。
4Gamer:
ただ,理不尽な叩き方はしないでくれと?(笑)
叩く場合は,理にかなった形でお願いします(笑)。
4Gamer:
そうはいっても,理不尽な批判って避けられないものだとは思うんですよ。打越さんにとって理不尽なだけで,批判をする側にとっては理にかなっていたりもするから,余計に相容れない部分が出てくることもあるでしょうし。
これまでの経験上,打越さんにとっての理不尽な批判に対して,自分をどうやって納得させてきたんでしょう?
打越氏:
うーん,そうですねぇ……。
4Gamer:
理不尽だと思いつつも,「あ,こういう風に思うんだ」みたいに感じることもありますよね,きっと。
打越氏:
それはあります。
4Gamer:
そういう意見を一つ一つ自分の中で咀嚼して取り込もうとするのか,それとも気にしないのかって,人それぞれだとは思うんですが,打越さんはどちらでしょう?
打越氏:
昔はいろいろと言われると,次はここを直そう……みたいに激しく内省していたんですけど,そういうのに疲れてきてしまったので,42歳にもなったし,もういいかなって感じになりましたね。さっきの話にも通じますけど,エンターテイメントに徹したものは30代までで,40代になったらある程度は叩かれるのを覚悟のうえで何かを言わなきゃいけないんじゃないかとも思っていて。
なので,何を言われてももう気にしないことにしよう! ……と決意しつつ,すごく気にしてます(笑)。
4Gamer:
個人的なことで恐縮なんですが,先日,39歳になったんですね。40歳手前になってみて,一つ気付いたことがあるんですよ。これまで,年を重ねるにつれて頑固になっていく人が少なくないことを不思議に思っていたんですけど,ひょっとしたら,頑固になろうとしてなっているのかな? って。
打越氏:
あ,僕もそれは思いました! おっさんが頑固なのは,いろんな時期を経て,頑固になろうとしてなっていくのかな? と。
4Gamer:
いろんな意見を取り込んだ時期を過ごしたうえで,確固たる自分を出さなければならないとなると,頑固になるしかないんじゃないかという。
打越氏:
頑固になりきれるかどうかは分からないんですけど,そのほうがいいんじゃないかな? とは思うんですよね。
プロレスでいうと,ヒール(悪役)の人がいるじゃないですか。プロレスを成立させるためには,役割として必要なんですよね。それと同じ感じで,40代になったらある程度は悪役もこなさないといけないのかな? みたいなことも思っていて。
4Gamer:
プロレスの場合,悪いことを意識的にやるにしても,そこに整合性がないとお客さんを納得させられないんですね。つまり,主張を通せなくなってしまうんです。だから自分を貫くためには,そのためのケアも必要で。
そういうことを考えずに試合をこなしていくだけのほうが楽なはずなんですけど。
打越氏:
きっとそうなんですよね。
4Gamer:
打越さんの場合は,40歳を超えて確固たる自分を打ち出すために,あえて悪役を引き受けようとしているわけですね。
打越氏:
悪役になりたいわけじゃないですよ!
世界中に僕を嫌いな人が一人もいなくなればいいのにって,常に思ってます。
4Gamer:
とはいえ,ゲームクリエイターの一人として社会の中で生きていくには,そうした役割を引き受けなければいけない,と。
打越氏:
そうですそうです。
子供の頃から
テーマ性のある作品が好きだった
4Gamer:
これは単純な興味からなんですが,打越さんはこれまでどんな作品に触れて育ってきたんですか? こういうゲームを作る人,こういうゲームのストーリーテラーになる人のバックボーンに何があるのか,ちょっと気になるんです。
打越氏:
それ,よく聞かれるんですけど,なかなか難しいんですよ。なんせ,分け隔てなくいろんなものに触れてきているので。
あ,でもそうだな……例えばゲームの場合,すっごくコアな作品というのはあんまりやっていませんね。僕ぐらいの年代の人が普通に遊んできたような,それこそ「ファイナルファンタジー」「ドラゴンクエスト」「バイオハザード」みたいな感じで。
4Gamer:
あ,本当にど真ん中というか。
打越氏:
そうなんです。そういう感じのもの以外だと……強いて言うなら,「リンダキューブ」とか,そのぐらいのところなんですよね。
4Gamer:
なるほど……。では,漫画なんかだとどうでしょう?
打越氏:
漫画はあんまり読まないほうなんですよ(笑)。
「ドラゴンボール」とか「AKIRA」とか「寄生獣」といったところですね。
4Gamer:
これまた,みんなが通るところですね。
では例えば,子供の頃に憧れていた人っています? スポーツ選手でも芸能人でも,誰かに興味はありました?
打越氏:
石川秀美とか。
4Gamer:
それは単純にアイドルとして?
打越氏:
そうです(笑)。
……あっ,中学生ぐらいの頃には手塚治虫が好きでした。「火の鳥」や「アドルフに告ぐ」「ブラックジャック」あたりの一連の作品が。
4Gamer:
やっぱりちょっと大人向けのもののほうがお好きだったんですね。
打越氏:
テーマ性があるもののほうが好きですね。
4Gamer:
さっきの話にもつながりますけど,ミステリー小説などは?
打越氏:
好きなんですけど,「好きです」って胸を張って言えるかというとそうでもないぐらいですねぇ。
4Gamer:
えっ,どういうことですか?
打越氏:
う〜ん。クラスに可愛い女子がいて,みんながその子のことを好きなんだけど,僕が「好き」だなんて言っちゃうと,ほかのイケメン男子から「お前ごときが,そういうこと言うなよ」みたいな……。
4Gamer:
どうしちゃったんですか!
打越氏:
俺は好きって言っちゃいけないんだ……って。
4Gamer:
あ,分かりました。
私も映画は好きなんですけど,映画の歴史や最新情報に詳しいわけではないので,映画好きとは自称しづらいところはありますし。そういうことですよね?
打越氏:
ありがとうございます(笑)。
重い作品ではあるが
10年後にも覚えていてもらえるはず
4Gamer:
がらっと話は変わるんですが,打越さんはリアル脱出ゲームのSCRAPさんと「アイドルは100万回死ぬ」というゲームを作られたそうですね。
打越氏:
ええ。脱出ゲームではなく,リアルループゲームという形で企画と監修に携わらせていただきました。あるアイドルの女の子が死んでしまうという運命を変えるために,10人のお客さん達が時間を巻き戻しながら協力するというものです。
4Gamer:
普段作られているデジタルなゲームと,作り方は違いましたか?
打越氏:
僕は構成を考えたんですね。何時何分に何が起きて,これをこうしたらこうなる……というのを時系列で考えたんですが,これは完全にデジタル思考でした。ただ,実際にやってみるとお客さんは予想外の動きをしますし,それに合わせて演者さんが臨機応変に対応していくというのは,デジタルゲームでは再現できないものだと痛感しました。
作っているときはデジタル寄りだったのに,実際にその場でやられているものは完全にアナログなものとしてできあがるというのは,すごく面白かったですね。
4Gamer:
参加する人によっても違うものになっていくでしょうし。
打越氏:
そうなんですよ。登場人物が毎回入れ替わるから,その中で起きるドラマも毎回違うんです。
4Gamer:
それこそ,アイドルの女の子なんて助けなくていいや……って思って行動する人だっているかもしれない。
打越氏:
そればっかりは,こちらで手出しできないですからね。面白いです。
4Gamer:
そういった経験は,今後のゲーム作りにフィードバックできそうですか?
打越氏:
生かしたいとは思っています。フラッシュアイディアですけど,多人数が通信で解く脱出ゲームなんかも面白そうだな……とか。
4Gamer:
いろんな可能性がありそうですね。
ちなみに,打越さんは日頃から面白そうなものを探したりはしていますか?
打越氏:
とくに意識はしてないですけど,職業柄,面白いことを思いついたり見つけたりしたときにはメモをとってますね。
4Gamer:
じゃあ,最近どんなメモをとりましたか?
打越氏:
先日,うちの小高(和剛氏)と飲みに行ったときにお店の人から聞いて面白かったのが,地方を転々としているキャバ嬢がいるらしいという話ですね。儲かるところ,儲かるところに,それこそ巡業みたいに渡り歩いているとか。
4Gamer:
流しのキャバ嬢ですね(笑)。
打越氏:
キャラクターとして面白い気がしたので,すぐにメモしました。
4Gamer:
その設定からいろんな想像が膨らみますもんね。実際に物語に登場させられるレベルにまで持っていくのはたいへんなことだと思いますけど。
ではそろそろ最後の質問とさせてください。ZERO ESCAPEという作品に興味を持ちつつも,買うかどうかを決めかねている人もいると思うので,そういった人に向けてひと言いただけますか?
打越氏:
また難しいですね(笑)。
う〜ん……。世の中って,消費社会じゃないですか。毎年たくさんの物語が作られては消えていきますよね。アニメにしろ漫画にしろゲームにしろ。だけどどんなにはやったとしても,10年後にみんなが覚えているものって本当に数少ないと思うんです。
僕は今回,10年後にも覚えていてもらえるものを作ったつもりですし,きっと記憶に刻まれるはずだという自信があります。遊んでくれた皆さんはこの作品をきっかけにいろんなことを考えるでしょうし,若い人の場合はその後の人生に何かしらの影響があるかもしれないです。
重いか軽いかでいうと,重いものにはなっています。ただ,その重さを存分に味わってもらえるはずです。
4Gamer:
10年というか,一生心に残るような作品であると期待してよろしいでしょうか?
打越氏:
ええ。そんな作品になっています。
4Gamer:
このゲームをクリアしたとき,打越さんとプレイヤーは握手できるようなイメージですか?
打越氏:
右手で握手しつつ左手で指相撲するような感じかもしれないです。すんなりは終わらないですよ(笑)。
4Gamer:
そこも含めて楽しみにしています。
ありがとうございました!
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