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eスポーツが既存のスポーツから学ぶべきことは? JeSU 浜村副会長が登壇したセミナー「eスポーツの未来とJeSUの果たす役割」レポート
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印刷2018/06/06 14:43

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eスポーツが既存のスポーツから学ぶべきことは? JeSU 浜村副会長が登壇したセミナー「eスポーツの未来とJeSUの果たす役割」レポート

 国内でもさまざまな急展開を見せているeスポーツシーンだが,「日本のeスポーツの現状に対する議論」としては,これまでゲーム文化や法律面に軸を置いたものが多かった。だが「〜日本eスポーツ連合が見据える将来へのビジョン〜 eスポーツの未来とJeSUの果たす役割」と題し,一般社団法人スポーツビジネスアカデミーの主催で2018年5月16日に開かれたセミナーでは,「スポーツ」としての側面をクローズアップして語る場となり,さまざまな議論が交わされた。本稿では,その模様をレポートする。

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 登壇したのは一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU) 副会長である浜村弘一氏と,Field-R法律事務所に所属する弁護士,山崎卓也氏の2名だ。
 浜村氏については説明不要と思うが,一方の山崎氏は,FIFA紛争解決室仲裁人であり,国際プロサッカー選手会(FIFPro)アジア支部代表・日本プロ野球選手会運営委員を務める人物だ。プロフィールによると,「スポーツ,エンターテインメント業界に関する法務を主な取扱分野として活動。選手,競技団体,クラブなどを代理したさまざまな国内外の契約交渉,ルール作りに従事」してきた弁護士ということで,「スポーツ」という大きな枠組みから見た,日本におけるeスポーツの課題や特徴を語るにあたっては,最適な人物の一人といえる。

 セミナーは前後編に分かれて,前半は浜村氏によるeスポーツの概略解説が,後半は浜村氏と山崎氏の対談が行われた。順番に紹介していこう。

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一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU) 副会長 浜村弘一氏
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一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)公式サイト

スポーツビジネスアカデミー(SBA)公式サイト



右肩上がりで拡大するeスポーツシーン


 前半の浜村氏のレクチャーは「eスポーツとは何か」の紹介から始まったが,こちらは本誌読者にとっては今更の内容となるので割愛する。ただ,ここで示された各種の数字については簡単に追っておきたい。

 まずはeスポーツの世界的な市場規模について。示されたスライドによると,2017年段階での収益は15億ドルといい,2020年には19億ドル,さらに2022年には23億ドルの収益をあげる市場に成長するという予測が示された。成長率で言えば,1年あたり10%程度になるだろう。
 一方で,「eスポーツを誰が・どれくらい見ているのか」という視点では,2016年には世界全体で2億8千万人が観戦しており,観戦者の比率としては常連より一般ファンのほうがやや多めという分布だ。
 このトレンドは今後も続き,2021年にはトータルで5億6千万人近くが観戦するコンテンツになると見積もられている。浜村氏はこのトレンドを指して「コアファンだけでなく一般ファンにも広がっているのが特徴」と指摘した。

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 また「どのような地域で見られているか」という点では,2018年の予測で“常連ファン”1.65億人のうち,過半数がアジア太平洋地域の視聴者と考えられている。北米が14%,欧州が18%という予測を踏まえると,事実上「アジア太平洋地域がeスポーツ観戦の中心地域」と言っていいだろう。
 これは市場規模にもそのまま現れており,2016年の地域別の市場規模(予測)を見るとアジア=3.28億ドル,北米=2.75億ドル,欧州=2.69億ドルとなっている。

 eスポーツというと多額の賞金のかかった大会が想起されがちだが,世界的に見ても,そのような大会は実際に多いようだ。そうしたものは,「リーグ・オブ・レジェンド」(以下,LoL)や「Hearthstone」「Overwatch」といったタイトル別の大会が顕著ではあるが,地域や国,あるいは団体が主導する大会も存在感を示している。中国におけるWorld Cyber Arenaは「Counter-Strike: Global Offensive」「LoL」「Dota 2」といった複数のゲームを扱い,その賞金総額は2億元(約34億円)にもおよぶ。
 もう一つ,eスポーツの世界的な潮流を示す事例として挙げられたのが,個々のタイトルをベースとしたリーグ戦の発展だ。講演ではその一つとして,地域ごとに12のリーグが設立されている「Overwatch」が例に挙げられた。

 「eスポーツというビジネスがどのように収益をあげているのか」というトピックでは,2018年の収益予想が例示された。このうち大きな比率を占めるのはスポンサーシップ(40%)だが,近年では「Overwatch」の放映権をTwitchが9000万ドルで購入するなど,放映権収入も大きくなっているとのこと。

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 eスポーツと社会の結びつきも強くなりつつある。アメリカでは政府が「LoL」をプロスポーツと認定しているほか,eスポーツアスリートの学生の授業料を減免したり奨学金を出したり,いわゆるスポーツ特待生的な待遇を行う大学も出てきている。これに伴い,eスポーツ大会への参加で学校を休まねばならない場合は公休扱いとなるといった,eスポーツを文字どおり「スポーツ」として扱うケースも増えているという。
 また北欧では高校でeスポーツが体育の授業に取り入れられたりもしているほか,韓国・中国でも大学がeスポーツを「スポーツ」として扱うことが増えているとのことだった。

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世界から遅れをとった日本の現状と課題


 このように世界的にeスポーツが広がりを見せる中,日本のeスポーツは大会数・賞金総額ともにいまだ規模が小さく,「世界から遅れている」と浜村氏は指摘。この問題に対して設立されたのがJeSUなのだという。
 JeSUは「eスポーツの世界においては珍しい,IPホルダーとeスポーツ団体が一体化した組織」だが,この点について「日本がeスポーツ後進国である以上,世界各地でかつて見られたようにIPホルダーとeスポーツ団体が対立するといったことがあっては,さらに遅れをとってしまう」という懸念が示された。

 ちなみに,しばしば話題にあがる「プロライセンス制度」について,浜村氏は「プロライセンス制度がなくても当然,賞金付き大会を開くことはできる」「ただしライセンス制度があれば,IPホルダーはより安心して大会を開催できる」と語った。加えてプロライセンスには,JOC関連など国際大会への選手登録という側面もある。世界のeスポーツの歴史において,八百長や反社会的勢力との接触といった事件も存在しており,そのような不祥事へのリスクを下げるためにも,ライセンス制度があるのだと強調していた。

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 では,これから世界のeスポーツシーンはどのように進んでいくのだろうか?
 浜村氏によれば,2017年の世界におけるeスポーツの市場規模15億ドルのうち,半分を占めていると予測されるのは「投資」だという。これにはチームの買収なども含まれるが,eスポーツ関係企業の買収や,eスポーツ市場の拡大を見込んだ設備・サービスへの投資が大きい。
 また「eスポーツ関連事業」としては,ゲーム向けコミュニケーションツールである「Discord」の普及といった形で表に出てくることもあれば,ハイスペックなゲーム用PCの売れ行きが伸びるといった影響も考えられる。

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 eスポーツ専用施設(スタジアムなど)の建設も進んでいる。
 大きなものとしては,中国の重慶に建設される予定のeスポーツスタジアムが紹介された(2018年の中頃着工予定)。このスタジアムには7000席を備えるスタジアムのほか,ホテルやトレーニング設備・展示施設も併設されるという。またゲーム開発スタートアップ向けのインキュベーション施設も用意されるなど,ゲーム産業全体との連携も視野に入れられているという。
 日本においてはそこまで大規模ではないが,池袋や秋葉原にeスポーツ施設がオープンしている。これらの施設はコーチからテクニックを学ぶ場としても機能しているとのこと。また「eスポーツ」という概念そのものの認知度も向上しており,2017年9月の調査では14.4%だった認知度は,2018年3月には34.6%に拡大している。視聴者数,参加者数ともに増大傾向にあるとのことだった。

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 とはいえ日本におけるeスポーツの課題はまだまだ多い。
 そもそも,認知度が高まってきたと言っても,「もう一息足りない」というのが浜村氏の見解だ。この課題に対して浜村氏は,「選手をスターにしていくことが大切」と指摘した。将棋の世界において藤井棋士が社会的な注目を集めるように,スタープレイヤーが生まれることで,認知度もプレイヤー数も増えるという構図だ。
 またそもそもJeSUはその理念として「eスポーツを通じて,青少年の心身を育成する」という目標を掲げている。日本におけるeスポーツ普及促進も,この理念に基づくという。そしてeスポーツ普及にとってに必要となるのは「選手の活躍の場を増やす」ことであり,JeSUが公認大会の「公認」の枠を広げようとしているのはその一環となるそうだ。またライセンスを取得した選手とスポンサーのマッチング支援や,国際大会への派遣も,これに含まれるとのこと。

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 その上で,最後に「今後の課題」として以下の5つの論点が示され,前半のレクチャーは終了となった。

  1. eスポーツ練習施設の整備:これには「プロ選手が日頃練習しているゲーミングハウスを開放して,希望者がコーチングを受ける」といった事業拡大の方向性も含まれる。
  2. 学校・専門学校との提携:大会出場を公休にしてもらうことから,授業への取り込みまで,さまざまな課題がある。また実況・解説者の育成という課題もある。一方で通信教育の場においてeスポーツが活用できる可能性はあるし,体が不自由でも対等に競えるスポーツとしても可能性も有している。
  3. コミュニティーとの連携:有志主催による大会において,IPホルダーとの交渉の手伝いをする。
  4. クライアントとeスポーツチームのマッチング:スポンサーを探すだけでなく,スポンサーに「eスポーツに対してこのような考え方を持っている選手である」といった情報提供を行う。
  5. 選手のセカンドキャリア支援:指導者・施設経営・ゲーム開発現場への参加といったゲーム系キャリアはもちろん,それ以外の場に向かってのセカンドキャリア支援も視野に入れる。

JeSUのもう一つの目標であるJOCへの加盟についても,現在の状況が語られた。JOCに加盟するには,「(1)当該競技における唯一の国内競技団体である」「(2)オリンピック競技大会,アジア競技大会,その他の国際競技大会に参加した実績を有している」「(3)国際オリンピック委員会承認の国際競技連盟に加盟している」の,3つの条件を満たさねばならない。ただし,「準加盟」であれば(1)と(2)だけで構わないという。(2)は8月に開催際されるアジア競技大会への参加によって満たせるので,準加盟までの道のりは整っていることになる
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eスポーツをスポーツとして認知してもらうために


 浜村氏によるレクチャーの後は,山崎氏の質問に対して浜村氏が回答する形で対談が行われた。

 最初の議題として上がったのは,「日本において『スポーツ』としてeスポーツを認知してもらい,またその認知を広めるためにはどうすべきか」という論点だ。山崎氏は「世界的には『eスポーツはスポーツである』と理解されているが,日本ではまだそこまで浸透してない」「日本でも『eスポーツはスポーツである』というコンセンサスを作っていくことが大切」と指摘。そのための施策として,以下の2つのアイデアを提示した。

  1. eスポーツの「ビジュアル」
  2.  eスポーツのどのような「見た目」を強調するか。例えば「プレイヤーだけでなく,観客も盛り上がっている」といった様子をどんどん打ち出していくことは,「スポーツ」としての理解を形成していくにあたって大きな効果がある。
  3. 開かれた練習風景
  4.  スポーツの持つ草の根的な側面を考えると,「身近なところで誰かが練習している風景がある」ということもまた,大きな意味を持つ(野球やサッカーはまさにこれに該当する)。だがインドアスポーツであるeスポーツは,「道を歩いていたら草の根eスポーツチームが練習しているところを見た」ということが起こりにくい。とはいえ,例えば最近は日本でもコワーキングスペースが普及しており,スタートアップ企業の若い人達が仕事しつつ交流できる場として,イノベーションを起こす空間として機能している。とくにゲーム関係の企業が集まるコワーキングスペースとeスポーツの練習施設を融合させるといった可能性はあるのではないか。

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 これに対し浜村氏は,まず「ユーザーコミュニティのイベントは増えており,EVO Japanのように,大成功した例も増えている」と語り,JeSUとしてはそういったイベントの育成やサポートをしていきたい,という姿勢を示した。
 練習施設については,秋葉原や池袋にeスポーツ施設が作られはじめていて,そこでコーチングを行ったり,試合が行われたりといった事例がある。こうした場所は,今までeスポーツを知らなかった人が選手の活動を目にする良いチャンスと言い,「選手が実際に試合をしているところを見れば,ひと目見て『これはスポーツだな』と理解できる」と,山崎氏の意見に賛同を示した。
 JeSUとしても,こういった施設でイベントを主催することを考えており,また可能であれば全国的に展開していきたいと展望を語った。「アジア競技大会に出場する選手を間近で見られる」といった機会が増えれば,もっとeスポーツへの認知が高まる可能性があるとのことだ。

 ちなみに浜村氏によれば,JeSU発足後,銀行から「eスポーツ関連の投資をしたい」「専用の施設を作りたいところがあったら,協力したい」という相談を受けることもあるという。また,地域の公共団体や地域行政からも,eスポーツ企画や施設に関する問い合わせがあるとのこと。JeSUとしては,こういった情報の流通を促進し,また必要に応じてアドバイスや選手のマッチングなどを進める活動を行っていきたいと浜村氏は語っていた。
 実際,ゲームメーカー側としても「日本の各地区をベースにした大会を開きたい」という希望はあるそうで,地方における施設展開と組み合わさることで「地区のスター選手」のような存在も出てくるのではないか,とのこと。
 ただ山崎氏は,こういった展開について「『ハコモノを作るときには戦略的な視点がないと失敗する』というのはスポーツ産業の歴史が教えている」とも指摘しており,その点は十分に留意する必要はあるだろう。


eスポーツ放映権と,その映像資産の特性


 続いて議題として上がったのは,eスポーツの放映権に関する問題だ。
 eスポーツでも放映権が高騰する傾向はすでに見られるが,スポーツとして考える場合,その放映された映像が持つ価値についてよく考えなくてはならないと山崎氏は指摘した。スポーツにおいて,いわゆるスーパープレイを収めた映像に大きな価値が発生するのは明らかであり,実際にそういった映像は,eスポーツにおいても非常に多くのPVを集める傾向にある。こういった映像をアーカイブしておくことは,当然ながらeスポーツ業界にとって大きな資産となるだろう。

 しかしeスポーツの場合,こういったアーカイブを既存のスポーツのように映像資産として活用しようとすると,とたんに話が難しくなる。「eスポーツに特有の難しさとして,IPホルダーの存在がある」(山崎氏)からだ。
 既存のスポーツであるなら,例えばサッカーという競技そのものの権利を持っている団体は存在しないが,eスポーツはそうではない。「LoL」ならRiot Gamesが,「Hearthstone」や「Overwatch」なら,Blizzard Entertainmentが権利を持っている。
 山崎氏は「IPホルダーに権利があるのは間違いなく,そこは尊重しなくてはならない。だが映像資産がIPホルダーの承諾なしには使えないということになると,今までのスポーツビジネスとはちょっと違った複雑な権利関係が出てくる可能性がある」と指摘。これを踏まえつつ「そこで映像アーカイブを資産として作っていく場合,IPホルダーと映像の権利の協調,ないし円滑な権利管理関係を確立することが重要なのではないか」「JeSUの場合はIPホルダーがバックアップしてできている組織なので,こういったところはむしろやりやすく,強みになると思う」と提案した。

 浜村氏はこれに対し,「どこまでできるかは分からないが」と前置きしつつ,例えばロイヤリティとして過去にどのような数字があったかを提示し,ガイドラインを示すといった取り組みはJeSUで可能かもしれないと述べた。
 また浜村氏は,「IPホルダー側も,自分達がすべて持っていこうとは考えていない」と言い,コミュニティやほかの興業団体がイベントを行うことを,IPホルダー側も強く望んでいる現状を説明した。

 加えて浜村氏は,「ユーザー側からボトムアップで作られるシーンと,メーカー側がトップダウンで作るシーンは相反すると言われることがあるが,そんなことはまったくない」と語った。「ユーザーがいなくなれば,ゲームの人気もまたなくなってしまうのだから,メーカーはユーザーに離れられることをとても怖がっている。なのでそこはうまく進められるだろうと思う」というのが浜村氏の見解だ。
 この「ボトムアップとトップダウン」という論点について,山崎氏は「海外ではボトムアップ型の団体が多い中,JeSUがIPホルダーのバックアップで成り立っているのは日本の強みでもある」と評価を示しつつ,その一方でトップダウン型であればこその問題――主にイメージ戦略に関する問題を軽視できない,と指摘した。次の項目では,この点について詳しく紹介していこう。

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「透明性」という大きなチャレンジ


 まず山崎氏は,前述のように「トップダウン型の利点」を認めつつも,「ボトムアップ的な考え方の人にとってみれば,JeSUの持つトップダウンの性質は批判の対象となるだろう」と指摘した。「お前達の利権でコントロールしようとしているのではないか」と見られがち,というわけだ。
 また山崎氏は,FIFAが理事の汚職で大量の逮捕者を出し,それを手痛い教訓として「透明性」や「人権の尊重」を重視する方向性を強く打ち出した事例を挙げ,eスポーツ団体についても,「どんなお金のもらいかたをしているのか」「裏でこんな稼ぎかたをしてるんじゃないか」といった,透明性にまつわる「世間からの目線」からは逃れられないだろう,と語った。

 加えて,アジア競技大会での正式種目として採用された6つのタイトルの選考過程についても,山崎氏は疑問を呈する。選考の基準には「プレイ人口」が大きく影響しているとされるが,「プレイ人口はそんなに多くないのに,やたらと特定メーカーのタイトルが正式種目として選ばれるといったことは,いかにもeスポーツビジネスではありそうな気がしてならない」と言い,とくにeスポーツの外側からの目に晒されたときに,そうした感想が出てくるのは自然なことに思えるとのこと。

 この「透明化」に関する疑義については,対談終了後の質疑応答でも繰り返されており,「eスポーツはどうしてもゲームメーカーしか儲からないように見える」――つまり「何もかもメーカーが金儲けするための仕掛けではないか」という疑念が投げかけられる場面があった。

 この質問に対し浜村氏は,「自分としては『ゲームメーカーが大きく儲けるだろう』というイメージはない。実際,ゲームメーカーが主催する大会はいくつもあるが,儲けているところはあまりなく,コストのほうがたくさん出ている。世界的に見ても,大きな大会を開いているIPですら,そんな傾向が出ている」と回答している。
 だが山崎氏はこの浜村氏の見解に対し,「まったく正しいのだけれど,世の中はそうは見てくれないというところがポイントだ。この話のキモは,そこにあると言える」と言い,この問題を克服していくために重要なのが「透明性」だと改めて強調。「競技タイトル選考過程の透明化」「基準のクリア化」といった努力の必要性が語られた。

とはいえ,どうやって「透明性の確保」を達成するかという点にも課題は多いと山崎氏は語っていた。仮に「競技人口で決めます」と言っても,「その競技人口をどうやってカウントするのか」といった問題がある
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 この透明性確保の問題について,浜村氏は「JeSUは社団法人であり,営利団体ではない。利益を目的に活動はしていないし,自分も無給で働いている」と,JeSUそのもののについての透明性を説明。加えて「JeSU会員もIPホルダーだけではなく,興行団体やハードウェアメーカー,プラットフォーマーなど,いろいろな人が正会員になれる。そしてそういう人達は等しく議決権を持つ。そこに対して我々は業務報告をする義務がある。ここで数字の透明性は見てもらえると思う」と語っていた。

 この説明の中でとくに興味深かったのは,「JeSUの中にアスリート委員会を作る計画がある」という話が,浜村氏から語られた点だろう。
 JeSUには国際委員会やマーケティング委員会といった各種委員会があるそうだが,ここに選手達からなるアスリート委員会も加える予定だという。これを通じ「アスリートからの監視を得るとともに,アスリートからの要望も上がってくるような組織を作っていきたい」という展望が示された。
 また浜村氏は「組織としてのJeSUは,今の形が完成形だとは思っていない」と言い,「評議委員会や顧問をたくさんいれて,学識経験者や放送界からもたくさんの意見を聞きたいと思っている。スポーツ団体からの知見も得たい。我々は(スポーツとして)後発なので,どういったことがスポーツとして伸ばせるのかを知りたい。いろんな人の知を入れていこうと思っている」「いずれにしてもできるだけガラス張りにして,いろいろな人からの意見と監視が届くようにしたい」とのことだった。
 
 なおアジア競技大会での正式種目選考過程については,「コナミさんが『ウイニングイレブン』を知ってもらうための努力をしてきたのは間違いない。いろいろな国に行って,『ウイニングイレブン』の競技人口を増やす努力をしてきている。その努力が今回の選考においても1つのポイントとなったのではないか」としつつ,それ以外の作品の選考の詳細については「『我々こそ詳細を聞きたい』という思い」と語っていた。
 このあたりは,もちろんJeSUに決定権があるわけではなく,それだけに山崎氏が指摘する「世界的なシーン全体における透明性の確保」は,なかなか困難な道のりになりそうだ。
 

アマチュアとプロとの連携構築


 もう1つ大きな話題として取り上げられたのは,「アマチュアをどう支援するか」という論点だ。
 山崎氏は「景表法関係の法的問題をさておくとして,プロライセンスというのは良い考えだと思っている」とライセンス制度を評価する。「プロライセンスがあることで,プロを目指す人が出る。それがアマチュアの草の根を広げる作用も果たすだろう」というわけだが,その上で山崎氏は「本当にeスポーツが普及し,成長していくためには,このようにプロとアマが相互に機能しなくてはならない。JeSUとしてはアマチュア支援・育成に向けてどのような戦略を持っているか」と質問を投げかけた。

 事実,「アマチュアとどう向き合っていくか」という課題は,既存のスポーツ界においても一筋縄ではいかない歴史があったようだ。「スポーツ界ではプロ・アマの仲が悪いがゆえに,変な制度ができていたりする。プロ・アマが一体化して,全体として成長していくというのは重要だ」というのが山崎氏の見解である。
 加えて「プロライセンスが『利権』の現れと思われないようにするためには,アマチュアに対する目の向け方,草の根に対するJeSUの活動というのも重要になる」と指摘していた。

 この問いに対し浜村氏は,「アマチュア支援については,いまはアマチュア側に何をやってほしいのかを聞き,対話を進めている最中だ」という。
 アマチュア支援の方向性として,プロ選手を育成するカリキュラムの提供といったものもあり得るとしつつ,「eスポーツの選手になりたいという学生を支援する学校もあるが,学校のカリキュラムは学校によって思い思いで勝手にやっている状況。そこに対し,『こういうカリキュラムがあるとよい』という指導はできるだろう」というわけだ。
 加えてライセンスを持つ人の活躍の場を増やす施策として,そういった学校で講演したり,コーチングをしたりといった展開も考えられる,と浜村氏は展望を示した。

 また,「選手を生で見てもらえる機会を増やす」こともまた,アマチュア支援の一環となり得ると浜村氏は語る。「プロを目指す契機としては,格好いいプロ選手を見て『プロになりたい』と思う,ということが多い。だからこそ,選手を生で見てもらうための努力というのが,アマチュアの人達に,もっと上にあがってもらう方法となり得る」とのことである。
 さらに「ずっとアマでいいという人」に対しては,「例えばユーザー・コミュニティの活動をしている人であれば,IPホルダーとの交渉を仲介するなど,別の形での支援ができる」とのことだった。

 この「アマチュアに徹したい人」というのは,ライセンス制度という取り組みを進める中で,大きな課題になると山崎氏は指摘。「アマチュアに徹したいが,プロライセンスを取らないと国際競技会に出られないのか」という疑問が投げかけられた。
 対して浜村氏は,「『プロライセンスはいらない。でもアジア競技大会やオリンピックに出たい』という人についても,何か方法を考えたいと思っている。JeSUとしては世界大会で優勝できる選手を選びたいと思うし,そこにプロライセンスが絶対に必要というわけではないと考えている。アマチュアでいたいという意志には,配慮していきたい」「ライセンス発行が我々の目的ではなく,eスポーツの促進が目的。そこは柔軟に考えていきたい」と,JeSUの方針を語っていた。


スポーツ界での失敗を繰り返さないために


 これ以外にもeスポーツと教育,eスポーツとゲーム依存といった論点などが討議されたが,ここでは省略させていただく。
 これまでは,何かとゲームの「文化」としての側面であったり,あるいは法律面が取り上げられがちだったeスポーツに対し,既存のスポーツの側からさまざまな提案や示唆がなされたという点において,この対談はとても興味深いものだった。

 実際のところ,「スポーツ競技にとって,『自然に決まった定義』は存在しない。産業や大人の事情,いろいろな政治が作用して,定義が決まってきた。eスポーツもまた,その流れの中にある」といった山崎氏の見解は,スポーツビジネスに長く携わってきた人物ならではの指摘と言えるだろう。
 また,「日本のeスポーツは遅れている」という点についても,山崎氏の「後発であるということには,メリットもある」という指摘は重要な示唆と言える。以下,簡単に要約して引用しておきたい。

山崎氏:
 eスポーツがスポーツとして後発であるというのは,メリットでもある。スポーツ界には失敗が多いが,これらの失敗を踏まえて,あらかじめ問題を先取りし,予測し,手を打っていけるというメリットだ。今のスポーツ界において「グッド・ガバナンス」というのは大きなキーワードかと思う。そこを先取りできるのは強みである。
 日本のeスポーツは世界的に見ると遅れたのかもしれないが,スポーツ界の失敗をさまざまな観点から分析し,問題を先取りして,あっという間に追い越すことすらできるかもしれない。

 一方で個人的には,両者の対談の中で「ライブで試合を見てもらえばeスポーツがスポーツであることが分かる」といった形で,「実際に見てもらえれば分かる」論が比較的自明なこととして取り交わされていたのは,少し気になった。というのも,「実際に遊んでもらえば面白さが分かる」といった「実際に〜してもらえば分かる」論は,往々にしてあまり良い結果につながってはいないように思えるからだ。

 ゲームの面白さが「実際に遊んでもらえば分かる」ように,さまざまなライブイベントも「実際に参加すれば凄さが分かる」というのは,間違いのない事実だ。
 けれど,ライブのエンターテイメントは水物である。たまたま足を運んだ最初のイベントが,その人にとって素晴らしいものになるかどうかは定かではないし,事前の期待値が高ければ高いほど,「行ってみたけど全然大したことなかった」という印象にもなりかねない。そして,こういった「ネガティブなインフルエンサー」のもたらす影響は,こと現代において甚だしく大きい。
 話をさらに難しくするのは,とくにスポーツ観戦では「すごい試合」ほど,そのスポーツを初めて見る人にとって意味不明な試合になっている可能性があることだ。これは「実況や解説は重要ですね」という話にもつながるが,それならば現地で観戦するよりも,実況解説が聞き取りやすい配信で見た方がベターという考え方もできる。
 それだけに,山崎氏が対談冒頭で指摘したように,「eスポーツのビジュアル」という論点は,非常に重要なポイントになると感じられた。
 写真や動画だけでライブイベントの迫力や緊張感を伝えるのは非常に困難だが,それでもそういった媒体を通じて「これは面白そうだ」「これはすごそうだ」を伝えていくことに注力しないと,どうしても「分かる人には分かる」の壁を越えられないように思える。

 浜村氏がJeSUの目標の一つとして「大きなムーブメントを起こすために,さまざまな組織や企業を,仕組みや企画を通じてマッチングさせていって,シーンをどんどん大きく育てていく。結果として,選手が活躍する場もあちこちで増える。これが理想だ」と語ったように,いま日本でeスポーツに関わっている人々の中に,「eスポーツなんてものは,どんどん小さくなって,なくなってしまえばいい」と考えている人はいないだろう。いちゲーマーとしても,eスポーツのさらなる発展によって,より競技性の高いゲームが作られる土壌が拡大するならば(すでにその傾向はある),それは願ったり叶ったりだ。

 その一方で,eスポーツがゲーム全体に対して占める領域は,少なくとも今の日本においてはまだまだ小さい。そしてこれを大きく育てていく過程には,さまざまな罠があることも,各界の識者達は(まさに今回の対談のように)示してくれている。そしてこの指摘が示唆するのは,その先に待つ道が決して平坦ではないということなのだ。
 山崎氏が語ったように,「スポーツ界には失敗が多いが,これらの失敗を踏まえて,あらかじめ問題を先取りし,予測し,手を打っていく」ことが,今求められている。いちゲームファンとしても,そうした見え見えの罠に引っかかるようなことがないよう願いたい。そう感じさせられたセミナーだった。

画像集 No.031のサムネイル画像 / eスポーツが既存のスポーツから学ぶべきことは? JeSU 浜村副会長が登壇したセミナー「eスポーツの未来とJeSUの果たす役割」レポート

一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)公式サイト

スポーツビジネスアカデミー(SBA)公式サイト

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