企画記事
NHK「ゲームゲノム」第3回「逆転裁判」を振り返る。プレイヤーの推理で解決する“実力主義のミステリーゲーム”を支えるシンクロ率
MCの本田 翼さん,ゲストに歌舞伎俳優の松本幸四郎さんとシリーズの生みの親である巧 舟氏を迎え,「逆転はミステリー」をテーマに本作の魅力,それを支える哲学が語られた。
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NHK「ゲームゲノム」第2回は「ペルソナ5」。3つのキーワードでひも解く,心の世界を描くRPGに込められた思いとゲームの軸となる考え
“カルチャーとしてのゲーム”に迫るNHKの教養番組「ゲームゲノム」第2回のテーマは,アトラスの「ペルソナ5」。さまざまなゲームタイトルを取り上げ,そのゲームが持つ作品性や哲学を紐解く同番組で,“心の世界を冒険するRPG”はどのように深掘りされたのだろうか。
「逆転裁判」(2001年10月12日)
「逆転裁判」は今年10月に生誕21周年を迎えた「逆転」シリーズの記念すべき第1作だ。“法廷バトルゲーム”と銘打たれているように,プレイヤーは弁護士となり,依頼人の無罪を証明するべく法廷で戦うことになる。物語の主人公である成歩堂龍一のもとに舞い込んでくるのは,無実の罪を着せられた運の悪い依頼人ばかり。しかも困ったことに,誰もが有罪待ったなしの絶体絶命の状況に陥っているのだ。
そんな彼らを救うには,「探偵パート」で逆転の糸口となる証拠を集め,「法廷パート」で証言に潜む“ムジュン”を突き,ウソを暴かなければならない。有罪,無罪のジャッジが下される「法廷パート」において,弁護士であるプレイヤーの武器は自身の推理力と事件の証拠のみ。この武器を頼りに,「ゆさぶる」と「つきつける」のコマンドで事件の真相に迫っていく。
そうして生まれる痛快な逆転劇,クセのある魅力的なキャラクター,独特のセリフ回しが多くのプレイヤーを魅了し,長きにわたり愛されるシリーズの礎を築いた。
唯一無二の“法廷バトルゲーム”は
ドタバタ法廷コメディーとミステリーから始まった
「逆転裁判」はリアルな法廷バトルを再現したゲームではなく,法律を学ぶためのゲームでもない。ポップで気軽に楽しめる“ドタバタ法廷コメディー”として,開発がスタートしたという。第1作の感想について,松本さんは「人が殺されて,それを犯人が隠蔽しようとする。言ってしまえばドロドロした話なのに,そう感じなかった」と述べている。確かに,裁判や殺人といったセンシティブな題材を扱いながらも,「逆転裁判」の雰囲気はどこかしらポップだ。これはあえてリアルを追求せず,ドタバタ法廷コメディーを目指した結果なのだろう。
「当てずっぽうではクリアできない,プレイヤーの推理力が試されるゲーム」と印象を語る本田さんに対し,巧氏は「プレイヤーの推理で解決する,実力主義のミステリーゲームを作りたかった」と開発当時を振り返る。「逆転裁判」の構想は証拠品を使って犯人のウソを暴く仕組みから始まっており,当初の主人公は弁護士ではなく探偵だったという。しかし,ウソを見抜くプロならば弁護士が適任だと気づきを得たことで,裁判という対決構造に行き着きついたそうだ。
こうして生まれた「逆転裁判」だが,「実力主義のミステリーゲーム」はまったく言い得て妙だろう。法廷パートで解き明かす事件は,どれも一筋縄ではいかないものばかり。証言を注意深く聞き,証拠と突き合わせ,ムジュンを探し出していく……。プレイヤー自身の気づきと思考力,つまり推理力(実力)がなければ真相にはたどり着けない。
ここで松本さんは「(シナリオは)難しくしようと考えて作っているんですか」と質問を投げかける。推理の難度について,巧氏は「そのさじ加減は腕の見せどころ」と前置きしたうえで,
「異議あり!」と言ったときに,なるほどくんが(プレイヤーの)推理通りのことを言ってくれるシンクロ率が大切なんですね。それで,「自分が事件を解決しているんだ」「自分が物語に入っているんだ」ということを実感できる。そこを考えてシナリオは書いています。
と,答えていた。
プレイヤーの実力によって推理をさせる性質上,ゲーム内に用意された正解のルートをたどらなければならないし,そのルートをたどるには成歩堂の思考に追いつく必要がある。だからこそ,遊び手がどう推理するかを予測し,正解にたどり着けるように,展開や情報の出し方をシナリオ上でコントロールする必要がある。そうした積み重ねの結果が,自分の手で真相を解き明かす実感――推理小説の世界に入り込んだような没入感につながっているのだろう。成歩堂の「異議あり!」が「自分に刻まれる言葉になっていく」という松本さんの言葉は,その表れなのかもしれない。
最初は「逆転刑事」だった? 「逆転検事」開発スタッフに聞いた開発秘話から今後の展望まで
5月28日に発売され,大ヒット中のニンテンドーDS用ソフト「逆転検事」。「逆転裁判」シリーズのスピンオフ作品という位置づけの本作は,どのようなコンセプトで開発されたのか? そして,この先の展開はどのように考えられているのか? プロデューサーの江城元秀氏,ディレクターの山崎 剛氏,そしてイラストレーターの岩元辰郎氏に聞いた。
正義は必ず勝つ
それが「逆転裁判」
主人公の成歩堂は,どんな状況に陥ろうとも依頼人の無実を信じて戦い続ける。ライバル検事・御剣怜侍の弁護シーンをバックに語られたのは,主人公の人物像について。愚直なまでに依頼人を信じようとする成歩堂という存在,それは巧氏が語る「世界一孤独な立場にある依頼人に寄り添い,依頼人を信じて戦い抜く」という作品のテーマが具現化したものと言える。
そんな成歩堂に本田さんは「(依頼人との)信頼関係,最後まで信じるという信念を感じた」と語る。また,松本さんは「成歩堂になりきってますから,絶対無罪になるんだって,信じてやっています。いちおう,その前にセーブはしますけど」と,プレイヤーあるあるを交えながらコメントしていた。
依頼人を信じ抜き,逆転に次ぐ逆転を経て,最後には正義が勝つ。そうして,真犯人が派手に破滅するまでが「逆転裁判」ではお約束の展開だ。そこには「最後はスッキリ笑って終わりにしたい」,そんな作り手の思いが込められている。
ミステリーは僕の中ではオトナのおとぎ話だと思っているんです。人は理屈通りに動かない,けれどミステリーの世界ではそれが成立する。その虚構を楽しむのがオトナの楽しみ方。だからその中では,ハッピーエンドがいい着地点だと思いますね。
このように語った巧氏のミステリーに対する哲学も影響しているのだろう。絶対無罪の依頼人も,正義が必ず勝つ勧善懲悪な展開も,オトナのおとぎ話である“ミステリー”だからこそ生きる虚構。これがドタバタ法廷コメディーであり,実力主義のミステリーゲーム「逆転裁判」の答えなのだ。
番組の終盤,巧氏は今回のテーマである「逆転はミステリー」について語っているのだが,そのアンサーはぜひ番組で確認してほしい。ミステリーをこよなく愛する氏だからこその言葉に,「なるほど!」と腹落ちすることだろう。
長きにわたり愛されるものには相応の理由がある。今回の番組を通して,「逆転」シリーズに受け継がれる“面白さの根源”を垣間見ることができた。「え? そこなの?」と思われるかもしれないが,番組のエンディングがサイバンカンのシーンで締めくくられていたのも個人的には胸熱だった。「逆転裁判」という作品を“ちゃんと分かっている”からこその演出の数々,それも番組の見どころなのかもしれない。
2022年10月5日 放送開始(全10回)
毎週水曜日 23:00〜23:29/NHK 総合(予定)
※「NHK プラス」で同時配信・1週間見逃し配信あり
※ NHK オンデマンド配信あり
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