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[SPIEL\'18] これぞまさにボドゲ版“パラドゲー”。25年の時を経て生まれ変わった「Europa Universalis: The Board Game」を会場で遊んできた
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印刷2018/11/01 15:05

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[SPIEL'18] これぞまさにボドゲ版“パラドゲー”。25年の時を経て生まれ変わった「Europa Universalis: The Board Game」を会場で遊んできた

 スウェーデンのParadox Interactiveといえば,PC向けのコアなストラテジーゲームばかり作っているという,4Gamer読者にはお馴染みのデベロッパだ。だが,彼らのゲームは,あるボードゲームなしには生まれなかった。それが今からちょうど25年前,Azure Wish Enterpriseから発売された「Europa Universalis」(以下,EU)だ。中近世のヨーロッパ諸国を舞台にした同作をデザインしたのは,フランスのPhilippe Thibaut氏で,彼もまた,ストラテジーファンにとっては“知る人ぞ知る”ゲームデザイナーである。

画像集 No.001のサムネイル画像 / [SPIEL'18] これぞまさにボドゲ版“パラドゲー”。25年の時を経て生まれ変わった「Europa Universalis: The Board Game」を会場で遊んできた

 このボードゲームが,その後2000年にPC向けにアレンジされ,Paradox Interactiveから発売された。この初代「EU」,および続編である「II」,そして両作のゲームエンジンである「ヨーロッパエンジン」を使用して生み出されたのが,「Hearts of Iron」「Hearts of Iron II」「Victoria: An Empire Under the Sun」(邦題:ヴィクトリア 太陽の沈まない帝国),そして「Crusader Kings」といったタイトル群であった。
 Paradox Interactiveによるこれらのタイトルは,2000年代のストラテジーゲーム界に一石を投じ,同社は軍事・経済・外交・内政を大局的かつ詳細にシミュレートする,いわゆる“グランドストラテジー”のジャンルで名を馳せることとなったのだ。

Europa Universalis II
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 そしてこの度,この「EU」がアナログゲームのパブリッシングに名乗りを挙げたParadox Interactiveの手により,「Europa Universalis: The Board Game」として復活を遂げることとなった。いわば原点回帰とも言える同作は,どのようにして生み出されたのか。ゲームデザイナーであるAegir GamesのEivind Vetlesen氏に話を聞いてみた。また記事の後半にはプレイレポートも掲載しているので,合わせてご一読いただきたい。

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[2018/10/26 13:56]

「Europa Universalis: The Board Game」製品ページ(英語)



「IV」の忠実なボードゲーム化を目指して


4Gamer:
 お時間をいただきありがとうございます。そもそも,このプロジェクトはどのようにスタートしたのでしょうか。

Vetlesen氏:
 始まりはむしろ,冗談のような感じでした。数年前のSPIELのあと,私がデュッセルドルフ空港でチェックインを行っていたときに,Paradox Interactiveの社員の方とばったりお会いしたのが最初のきっかけです。
 そこで私がボードゲームデザイナーであることと,Paradox Interactiveのゲームのファンであることを伝えたら,その方と意気投合してしまって。同社の作品のボードゲーム化の話で盛り上がったんです。

Aegir Gamesのゲームデザイナー,Eivind Vetlesen氏
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4Gamer:
 それはまた,奇遇な話ですね。

Vetlesen氏:
 ええ。そこでメールアドレスを交換して,この構想について意見を交わすようになりました。とはいえ,当時のParadox Interactiveはボードゲーム参入にそこまで本腰を入れておらず。話が具体的に動き出したのは2017年になってからでした。彼らは私に,以前の構想に基づいたEUのボードゲームの制作を提案してきたんです。

4Gamer:
 どんな風にプレゼンしたんですか?

Vetlesen氏:
 私はノルウェーのオスロに住んでいるので,Paradox Interactiveの拠点であるストックホルムとは距離が離れています。そこで「Tabletop Simulator」を使ってプレゼンしたんです。ゲーム内容を具体的に伝えることができましたし,とても助かりました。

4Gamer:
 なるほど(笑)。ちなみにボードゲーム版の制作にあたっては,どういった要素を重視されているのでしょうか。

Vetlesen氏:
 全体的なプレイフィールですね。「EU」は帝国建設のゲームですし,プレイヤーは勢力を拡張していくところに楽しみを見出します。PC版のマップをできるだけ忠実に再現したのはそのためです。

マップ上には数多くのエリアがあり,その中にもプロヴィンス(区画)が存在している
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4Gamer:
 マップを拝見しましたが,最新作「IV」のスタート地点である1444年当時の細かいプロヴィンスや各勢力が,ほぼそのまま再現されていて驚きました。しかし,その一方でカットせざるを得ない要素もあるわけですよね?

Vetlesen氏:
 はい。マップ上の国家の数は若干減らす必要がありました。またPC版にはあった幾つかのコンセプトについても,取捨選択を行っています。例えば,内政面でのマイクロマネジメントはボードゲーム版にはありません。
 それでも,原作の要素はできるだけ取り入れようとしていて,君主やアドバイザーのカードを使って,「統治点」「外交点」「軍事点」という3種のゲーム内リソースを獲得できるところなんかは,PC版と変わっていません。

「外交」「軍事」「統治」の各カード。カードの上部はイベントカードとして,下部はキャラクターカードとして機能する
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4Gamer:
 ちなみに「彗星」(どの選択肢を選んでも安定度が1低下する,PC版の有名イベント)は……。

Vetlesen氏:
 登場します(笑)。もちろん,歴史イベントはほかにも数多く用意しています。

4Gamer:
 これだけ複雑なゲームだと,プレイも相当長期戦になるのではないかと思うのですが,実際のところどれくらいかかるものなんでしょうか。ボックスには,プレイヤー数が最大6名,プレイ時間は90分「以上」となっていましたが。

Vetlesen氏:
 そうですね……グランドキャンペーンだと,大体6時間でしょうか。ボードゲームとしては長い部類ではありますが,日を跨ぐことはないと思います。お昼や夜に集まって,その1回で完結できることが大事だと考えています。

4Gamer:
 より短い時間のプレイを求める人は,このゲームを遊ぶのは難しいですか?

Vetlesen氏:
 そんなことはありません。今のはあくまでグランドキャンペーンを遊ぶ場合についてです。中世後期から近代初期までを扱うEUは4つのAge(時代)に分かれているので,短時間で遊びたい場合は,より後の時代からプレイを開始するといいでしょう。それに将来的には,もっと多くのシナリオが遊べるようにもしたいですし。

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4Gamer:
 それを聞いて安心しました(笑)。
 もう一つ気になっているのが,各勢力の国力差についてです。各時代のヨーロッパ諸国は国力に大きな開きがあるものですが,ボードゲーム版ではこのあたりバランスはどうされるのでしょうか。PC版であれば,あえて弱小勢力で始めるのもプレイの醍醐味の一つでしたが……。

Vetlesen氏:
 おっしゃるとおりです。本作でプレイ可能なのは列強8か国ですが,この8か国についても,国力は平等ではありません。この点はイベントやミッションなどを通じてバランスを調整したいと考えています。マイナー勢力でプレイしたい人は,追加ルールや追加シナリオをお待ちいただければと。

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4Gamer:
 ちなみに開発状況としては,現在はどんなステータスなのでしょうか。

Vetlesen氏:
 今は来年に控えたKickstarterでの先行ローンチに向け,β版でテストプレイを繰り返しているところです。

4Gamer:
 それは楽しみです。ところでゲームデザイナーであるVetlesenさんから見て,パブリッシャとしてのParadox Interactiveはどのように映っているのでしょうか。

Vetlesen氏:
 素晴らしい会社だと思います。とくに,制作面でゲームデザイナーを自由にさせてくれるところがありがたいですね。また,このSPIEL'18のブースを見れば分かるように,PRの面でも確かなノウハウを持っています。

4Gamer:
 分かりました。ちなみに,Vetlesenさんは普段どんなボードゲームを遊ばれるのでしょう。やっぱりストラテジーですか?

Vetlesen氏:
 色々なジャンルのゲームが好きですね。アヴァロンヒルの諸作品や「A Game of Thrones the Board Game」,それから「Twilight Imperium」「Age of Renaissance」「Here I Stand」あたりが好きです。もちろん,ユーロゲームもプレイしますよ。

4Gamer:
 ……「EU」とのつながりがなんとなく感じられますね(笑)。発売,楽しみにしています。本日はありがとうございました。


文句なしに“パラドゲー”なボドゲ版「EU」


 ここからは,実際に本作を遊んでみてのレポートをお届けしてみたい。
 Vetlesen氏の「『IV』をできるだけ忠実に再現する」という言葉を胸に試遊に臨んだ筆者だったが,そのプレイフィールは果たして期待を裏切らないものだった。インタビューでもマップの再現度や君主点,彗星イベントといったPC版から引き継がれた要素への言及があったが,PC版のプレイヤーであれば,その忠実さに感動することだろう。

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 その一つが,プレイヤーが各ラウンドで選択できるアクションの豊富さだ。
 君主点を消費しないフリーアクションには,「宣戦布告」「ローンの借入/支払」「(海上覇権に必要な)大型艦の修理」「アドバイザーの雇用」「リーダー(将軍)の雇用」と,PC版でも必須のアクションが並んでいる。また,「外交点」「軍事点」「統治点」を消費して実行するアクションも多岐にわたっていた。

試遊時に渡されたアクションリスト。タブがないと全体の把握が不可能だったPC版のアクションが思い出される
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大半のアクションには,「君主点」または資金である「ドゥカート」が必要になる
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 「IV」の経済システムの目玉である,世界中に張りめぐらされたトレードノード(交易網)ももちろん健在だ。試遊時には英国のプレイヤーが北海や西ヨーロッパの交易で大量の収入を得ていたが,史実を彷彿とさせるこうしたプレイは,PC版同様にボードゲーム版でも有効なようだ。

イギリスが支配するトレードノード。使いようによっては,領地からの収入が霞むくらいの資金を得ることができる
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枢機卿を通じて,教皇庁を操ることだってできてしまう
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 一方で,「IV」をかなりやりこんだ自負のある筆者すら,「そこまで再現するか!?」と思ってしまったのが「戦勝点の計算」と「戦後処理」だ。驚くべきことに,この計算がPC版とほぼ同じなのだ。戦勝国や敗戦国は,占領しているプロヴィンスの数や兵力比などの細かい条件に応じて戦勝点を計上し,それに基づいて領土割譲から賠償金,侮辱などの要求を行っていくのだが……はっきり言ってかなり細かい。
 また,PC版では軍隊内で騎兵の数が歩兵の数を一定割合から上回るとペナルティが発生したが,こうした騎兵超過ペナルティまで再現されている。

 このように,外交・経済・軍事の複雑さにおいて,まさにボードゲーム版“パラドゲー”と呼ぶに相応しい本作だが,その背景には,やはり冒頭で述べたPC版「EU」に強く残っていた“ボードゲームの遺伝子”の影響があるのだろう。とくにPC版「EU」は,最新作「IV」に至るまで戦闘時のダイス判定や,ターン制の名残ともいえる月末/月初めのリソース処理の多さなど,ボードゲームのエッセンスが色濃く残っている。それが今回の「忠実な」再現につながっているように,筆者には感じられた。

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 ただこの忠実さが,初代「EU」が25年前にデジタルゲームになったことで解決された,処理の複雑化の問題を再び浮き彫りにしている点は,指摘しなくてはならない。
 とくに気になったのは,戦争や行軍処理のテンポの悪さだ。海上をまたぐ軍隊の移動はPC版同様に船が必要なのだが,「船を港に移動させ,軍隊を搭乗した後に,再度別の港に運ぶ」アクションが1ターンでできないために,行軍が非常に不便になっていた。このため,包囲されているプロヴィンスの救援が間に合うことはほとんどなく,常に攻撃側が有利という状況になりやすい。
 事実,試遊時にインストを行ってくれたスタッフも「バランス調整は必要だし,それによってコンテンツのボリュームも絞り込むかもしれない」と話していたくらいだ。

 興味深いのは,ボードゲーム化にあたっての方向性が,同じく今回のSPIEL'18でお披露目された「Crusader Kings - The Board Game」(以下,CK)とは大きく異なるところだろう。PC版を大幅に簡略化しながら,そのコアの部分だけ取り出そうとする「CK」に対して,忠実な再現を目指した「EU」。扱う時代やテーマ,さらにはゲームデザイナーまで異なる両者ではあるが,ボードゲーマーあるいは“パラドゲー”ファンがどちらを歓迎するのかに,引き続き注目していきたい。

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[2018/10/26 18:53]

ちなみに筆者個人としては,今のところPC版に忠実な「EU」の路線が好みではある。もちろん初心者やプレイ時間への配慮は必要だが,卓上で遊べるパラドゲーとして発売を楽しみにしている
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「Europa Universalis: The Board Game」製品ページ(英語)

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