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「あんスタ!!」ストーリー紹介連載第6回。スカウト!盗賊王,召しませ/ナイトクラブ,スカウト!ケモノサバイバル,再開*成長見せてハイタッチ! を語る
Happy Elementsのアイドル育成ゲーム「あんさんぶるスターズ!!Basic/Music」のストーリーを紹介する記事の第6回は,「スカウト!盗賊王」「召しませ/ナイトクラブ」及び「スカウト!ケモノサバイバル」「再開*成長見せてハイタッチ!」の4本を取り上げる。本稿では,“知っているとよりストーリーが楽しめるポイント”の解説と,各イベントやスカウトの感想,考察をお届けする。記事内では詳細なネタバレは控えているが,できるだけ各ストーリーの読了後に読むのがおすすめだ。
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ストーリーピックアップ
「スカウト!盗賊王」
開催期間:2020年6月14日〜6月29日――あらすじ――
Switchが夢ノ咲学院からESへ拠点を移す引っ越しの最中,逆先夏目の実験道具を紛失してしまう。青葉つむぎはある言葉で夏目を怒らせてしまい,2人を心配した春川 宙は,ESビル内で実験できる部屋を見つけようと奮闘する。一方,実験道具の行方を探し始めたつむぎと夏目は,消えたゴミ袋の話から犯人を推理するのだが……。<全9話/シナリオ:木野誠太郎(Happy Elements株式会社)>
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逆先夏目と実験道具と秘密の部屋
このストーリーに出てくる“秘密の部屋”とは,「!」の【追憶*集いし三人の魔法使い】にて判明した,逆先夏目がステージなどで使う化学薬品の実験を行う小部屋のことだ。それは夢ノ咲学院内の“忘れ去られた秘密の地下書庫”のさらに奥にあり,図書室からいつの間にかなくなった本について青葉つむぎと天祥院英智が話をしているときに,見取り図を見た英智がその存在に気づいたのだった。また,青葉つむぎは在学中に図書委員を務めていて,その地下書庫の整理もするようになった関係で,その後Ra*bitsに地下書庫のスペースをレッスン場として貸し出したこともあった(「!」【迷い星*揺れる光、プレアデスの夜】)。
パルクールが得意な春川 宙
礼瀬マヨイとESビル内を移動する春川 宙が階段の手すりを滑り降りる場面からも分かるとおり,彼の得意技はパルクールである(メインストーリー第五章でも,壁にへばりついたりするエピソードがある)。彼は身体能力が極めて高いようで,これまでにも数々の技や華麗な移動シーンを見せてくれていたが,筆者が個人的に印象深いのは,「!」の【招福*鬼と兄弟の節分祭】における“鬼ごっこ”だ。そこでは宙が衣更真緒と対峙するのだが,「宙にとっては壁も地面も同じ」と,校舎の外壁を移動して逃げていったのである。
中間管理職・青葉つむぎ
本ストーリーにて,逆先夏目から「中間管理職っぽくなってから余計に日和見主義がひどくなっている」と言われていた青葉つむぎ。彼は「!」でフォーカスされた1年間のさらに前,天祥院英智が革命を起こした際に,首謀者たる英智の補佐を務めていたことがある(ちなみに“旧fine”では表向きのリーダーだった)。現在所属しているSwitchではリーダーを年下の夏目に任せており,ニューディでの肩書は副所長である。たしかな実力を持ちながらも,尊敬する人物の補佐に回ろうとする彼は,いろいろな意味で“中間管理職”的なイメージが強い1人かもしれない。
「奇人」が苦手な礼瀬マヨイ
なりゆきで春川 宙を手伝うことになった礼瀬マヨイは,「奇人」が苦手だと話していた。この場合の「奇人」とは,元五奇人の1人である逆先夏目のことだろう。マヨイはなぜESビル内の構造にやたらと詳しいのか,かわいい系のアイドルたちに何をしようとしているのか(?)など,謎が多いアイドルだ。また,彼は苦手な存在も多いらしく,これまでには「『朔間』さんにはトラウマがある」(メインストーリー第二章),「(巴 日和と漣 ジュンを)苦手な感じのひとたち」(メインストーリー第三章)という発言があった(【交差する/モーターショウ】によれば,特撮ヒーローも苦手らしい)。
Switchが結成して間もない頃のライブ
逆先夏目と青葉つむぎが探しものをしているとき,つむぎが「結成して間もない頃のライブ写真」を見つける。Switchが結成されてから初めて行ったライブといえば,昨年度の春【DDD】の少し前に行われた「!」の【復活祭☆イースターナイト】の【イースターナイト】である。これは校外で行われたライブで,夢ノ咲学院内での初お披露目は「!」の【追憶*集いし三人の魔法使い】のラストで描かれた,fineと共演したB1ライブである。つむぎが見つけたライブ写真は,このあたりのものという可能性はあるかもしれない。
ニューディでお手伝いをする三毛縞 斑
本ストーリーで逆先夏目は,Knightsの月永レオとMaMの三毛縞 斑が実験道具の紛失事件に関わっているのではないかと推理する。その際に斑が「事務所(ニューディ)の仕事の手伝い」をしていたという話が出てくるが,ちょうど思い出されるのは2020年4月のフィーチャースカウトで登場した斑のアイドルストーリー「ニュー事務員さん」である。このストーリーでは彼が事務所の掃除をしたり,お茶を入れたりといったお手伝いをしている様子を確認できた。短いストーリーではあるが,斑の心情が少しだけ明かされるので必見。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
探していた宝物はすぐそばにあった……という,童話「青い鳥」を思わせるストーリー。昨年度(というよりもっと前からかもしれない)はSwitchの3人にとってまさに激動の日々だった。ご存じの方も多いと思うが少しだけおさらいすると,リーダーの逆先夏目は先述のように元五奇人で,天祥院英智の革命の際は直接対決こそなかったものの,尊敬する“にいさん”たちが傷つけられてしまったことがある。彼らによって守られていた夏目が自分を責めていた時期は,決して短くはなかっただろう。
一方の青葉つむぎは,その頃は“英智側”の人間であり夏目とは敵対関係だった。彼らには一言では片付けられないような複雑な感情があったはずだが,すべての革命が終わったあと,取りこぼされた“希望のかけら”を拾い,2人は共に動きだすことを決意するのである。筆者はこの2人の関係は,“大きな流れからほんの少しだけ離れたところにいた”という共通の感覚をお互いに感じたところから始まっているのではないかと思っているのだが,このあたりは「!」の【迷い星*揺れる光、プレアデスの夜】にヒントがあるだろう。
そして共感覚を持つ春川 宙もまた,そういう意味では“多くの人とは少しだけ異なる”生き方をせざるをえなかったのではないかと思う。彼はその特性のために悲しい思いをすることも多かったはずだが,そんな宙に夏目とつむぎが手を差し伸べ,3人は“魔法使い”になったのだ。
このストーリーで筆者の印象に残ったのはこの言葉だ。
つむぎはよく「ひとの気持ちがわからない」という意味の発言をするし,他人にも言われたことがあるけれど,そもそも彼は「“わからない”ことを知っている」とも言える。そして,それでも人の気持ちに寄り添おうとする深い優しさを持ち合わせた人なのだ。Switchの3人は,この世界で自分はどういう人間であるか,どういう立場にあるかをしっかりと理解していて,そこからさらに進んだ先にある「人々が幸せになるためにはどう行動すべきか?」を考えられる人たちだと筆者は感じている。
過去を振り返るのではなく,未来だけに願いを託すのではなく,“いま”に幸せはある。それに気づかせてくれる魔法をかけられるのが,Switchというユニットではないか……そんなことを思ったストーリーだった。
ストーリーピックアップ
「召しませ/ナイトクラブ」
開催期間:2020年6月15日〜6月24日(Basic)2020年6月15日〜6月23日(Music)
――あらすじ――
ある夜,2winkの葵 ゆうたは,Crazy:Bの天城燐音に兄の葵 ひなたが怪しい店へと連れ込まれるところを目撃してしまう。不可解な行動をとるひなたとCrazy:Bに不満を募らせるゆうただったが,HiMERUに誘われる形で燐音たちのいる怪しい店――ナイトクラブに出向くことになる。ひなたの行動の理由,そして燐音が密かに企てていた計画とは……。<全17話/シナリオ:日日日>
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天城燐音と麻雀
パチンコや麻雀など,これまで登場していたアイドルにはない趣味(?)を持つ天城燐音は,(ストーリー上の)ESのアイドルの中では唯一の成人だ。そのせいか,彼は独自の視点とスタンスを持っているように見受けられる。ちなみに,麻雀は遊ぶだけなら年齢制限はなく(もちろん賭博はご法度),パチンコは18歳未満だと店に入場できないため遊べない。また,本作の麻雀のシーンで「ニキがハコっちまった」という燐音のセリフが出てくるが,これは「持ち点がゼロ,もしくはマイナスになった」(点数を数える点棒がなくなり,箱の中身がなくなることから)という意味である。
“無数の人間を踏みにじってきた”ビッグ3
ESにおけるアイドルの頂点“ビッグ3”を,天城燐音は「無数の人間を踏みにじってきた極悪人」と表現する。これは,かつての夢ノ咲学院において天祥院英智の革命でfineが五奇人を倒し,ユニットメンバーを変えたあとも生徒会勢力として生徒たちを抑圧してきたこと,Knightsが長い歴史のなかで内部紛争を含めあらゆる戦いを行ってきたこと,Edenが玲明学園や秀越学園の特待生制度の頂点というべきユニットであることからの発言ではないかと思われる。だがそれは,あくまで1つの角度から見た場合のイメージであり,また別の視点から見れば,それぞれのユニットやアイドルたちの印象は大きく変わるはずだ。
影片みかの糸電話
葵 ゆうたを心配してナイトクラブにやってきた影片みかは,糸電話の要領で小道具を作ろうとして漣 ジュンにツッコミを入れられる。糸電話といえば,Valkyrieのリーダーである斎宮 宗がUNDEADの朔間 零と話をしていた「!」の【追憶*マリオネットの糸の先】でのワンシーンが忘れられない。お互いに元五奇人で,知己でもある2人の会話はとても素敵なものなのだが,いやその通話,相手との距離がどのくらいあるの……? というくらい絵的にはシュールで,かなりのインパクトを与えられたのを覚えている人も多いだろう。
「また【節分祭】みたいなのをやらかされても困る」
「あんスタ!!」という作品には,それぞれのユニットにとって非常に“しんどい”物語が存在する。それはいわゆる追憶シリーズなどの“過去を描くストーリー”が比較的多いのだが,2winkの場合は過去ではなく1年の中の出来事として描かれた「!」の【招福*鬼と兄弟の節分祭】がその1つといえるだろう。話の筋としては,2人の良き先輩である朔間 零が,“肉親だからこその問題”を抱える彼らに手を差し伸べるべく【節分祭】を企画し,周りのアイドルたちもそれに協力する,というものだった。幕切れは感動を呼ぶものの,正直「節分祭……」とつぶやいて黙り込んでしまうくらい,この話は美しくも重い(筆者の私見だが,似たものにValkyrieの「マリオネット……」やSwitchの「プレアデス……」などがある)。
2winkというユニット
2winkは昨年度の春に結成された新しめのユニットではあるが,双子の兄弟である2人はそれよりもっと以前から大道芸などで活躍していたため,活動としてはどのユニットよりも長い歴史があると言ってもいいかもしれない。以下でメンバーについて補足する。
【葵 ひなた】
葵兄弟の“兄”ひなたは,明るくていたずら好きで甘いものが大好きなアイドルである……という“設定”をあえて見せていたことが,昨年度はさまざまなストーリーで紐解かれてきた。彼は兄と言ってもたまたま先に生まれただけであって,母親の胎内にいた時間は“弟”のゆうたとほぼ同じだ。けれどひなたは,あくまでも兄として弟のゆうたを守ろうとする。何も知らなかったころの2人でいられるように,ゆうたが綺麗なままでいられるようにと,極端な自己犠牲にも見える行動を起こすのだ。このあたりは「!」の【雪花*流星のストリートライブ】や,前述した「!」の【招福*鬼と兄弟の節分祭】などに詳しく描写されているので,本ストーリーの前にぜひ読んでおきたい。
【葵 ゆうた】
葵兄弟の“弟”のゆうたはひなたとは対照的な性格で,どちらかというとセンシティブなイメージだ。彼は辛いものが大好きで,そのためにひなたは「甘いものが好き」という設定にしていたと思われる。ゆうたは奔放(に見える)な兄のひなたに手を焼きながらも尊敬していて,けれど同時に「兄とは違う自分を認められたい」,そんな複雑な感情も抱えていたようだ。メインストーリー第五章では「勝手に消えようとする兄と納得できない弟」というセリフが出てくるが,昨年度の後半はとくに,こうした関係性のいざこざが多かったように思う。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
本ストーリーについて筆者がまず思ったことは2つある。1つは,先日完結したメインストーリーの発端ともいえる人物,天城燐音と彼が起こした騒動のその後として,この物語は多くの人に読んでほしいということだ。そしてもう1つ,2winkに関しては正直まだ消化しきれず,解釈して言語化するのがなかなか難しい……と感じたことだった。
まずは燐音の話からしていこう。燐音はメインストーリー全五章において,それはもうありとあらゆるユニットに影響を及ぼすほどに暴れ回った。解釈の仕方はいろいろあると思うが,筆者は彼の行動理由の1つを「“ほんもの”のアイドルとはなにか?」を訴えるためだったと捉えている。それは革命であり,反逆でもあり,復讐でもあるが,そこにはアイドルという存在や,仲間,肉親に対する彼の揺るぎない“愛”があったからこそだとも思う。
この話で燐音,というか【MDM】後のCrazy:Bは「問題児」のレッテルを貼られ,なにかと苦労している様子だ。だが,いまも燐音は己の信念を曲げることなく,「大きな流れに取りこぼされてしまった人々」を救うために行動する。めでたしめでたしのその先で,“悪役”だった者たちはその後どうなったのか。物語は1つの角度から見ても分からないことがあるという意味でも,本ストーリーは「あんスタ!!」を語るうえで絶対に外せないと思う。終盤の燐音の一連のセリフにはとくに胸を打たれたのだが,これもまた彼の反逆であり,復讐であり,紛れもない愛だと感じた。
そして,2winkである。先ほど彼らの物語を「まだ消化しきれていない」と書いたが,この物語で提示されたのは圧倒的な“個”というか,アイドルとして「2人で1つになろう」と決めた彼らの,どうしようもない“違い”が現れたのではないかということだ。そういう意味でこの話は,2winkのこれからを感じさせる,2人の新たなスタート地点を描いたものなのだろう。昨年度に展開されたストーリーで1つのカタルシスはあったものの,今作で彼らはまた新たなステージに進んだ印象を受けた。
“愛”の力を信じているように見えるひなたと,「愛によって傷つく人もいる」と言うゆうた。とくに印象的なのは物語ラストで,ゆうたは憎んでいた父親(ひなたはすでにある程度の納得をしているようには見える)が客席にいることに気づき,胸の中にあった積年の想いを“アイドルらしく”ぶつけるところだ。これもまた復讐であり,愛でもあると言えるかもしれない。この瞬間のこの言葉にはナイフのような鋭さがあるが,極めて強い感情という意味では,憎しみと愛は表裏一体だからだ。
燐音は2winkに「てめェらには華も才能も実力もあるが,文脈(物語)がねェ」と言う。この言葉は,ES世界でのファンが知っているのは“アイドル・2winkとしての2人”であって,葵兄弟としての問題は知る由がないということを表しているのではないかと思う。そういう意味でもやはり,2wink,そして葵兄弟の物語はまたここから始まるということなのかもしれない。
ストーリーピックアップ
「スカウト!ケモノサバイバル」
開催期間:2020年6月29日〜7月14日――あらすじ――
制作陣たっての要望により,Edenの漣 ジュンはある舞台の主役に抜擢される。脚本はメンバーも太鼓判を押す面白さだが,ジュンは自分が演じるハイエナの王子の役作りに悩んでしまう。試行錯誤を重ねるなか,ひょんなことからALKALOIDの白鳥藍良たちとサバンナごっこをすることになってしまう。<全8話/シナリオ:西岡麻衣子(Happy Elements株式会社)>
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漣 ジュンの活躍(サマーライブ,SS)
舞台「草原の王」の主役に漣 ジュンを抜擢した演出家は,ジュンが出演した【サマーライブ】や【SS】を見てくれていたのだという。メタ的に言えば,【サマーライブ】(「!」の【輝石☆前哨戦のサマーライブ】)はジュンと巴 日和の2人によるユニット,Eveが初めて「あんスタ!」の世界に登場したストーリーである。ここで彼は日和とともに,共演者であるTrickstarに圧倒的な実力を見せつけた。そして年末の【SS】(「!」の【奇跡☆決勝戦のウインターライブ】)では,ジュンはEdenの一員として輝く姿を見せてくれた。彼は文字どおり“底辺”から“頂点”へと登りつめたが,それに奢ることなくいまも日々努力を重ねている。
巴 日和の飼い犬,ブラッディ・メアリ
巴 日和と漣 ジュンは,玲明学園の寮に住んでいた際にブラッディ・メアリという犬を飼っていた。ブラッディ・メアリは拾った犬で,寮はペット禁止だったため,寮母にばれないように内緒で世話をしていたようだ(世話をしていたのは主にジュンのようだったが……)。犬種は不明だがおそらくは小型犬で,「!」の【Saga*ぶつかり合うリバースライブ】では,日和が“王女さま”と呼んでいた。ちなみに現在は,星奏館に移った日和がブラッディ・メアリを連れて行ってしまい,そのあとにジュンも星奏館へ移ったものの日和とは別室になったため,ブラッディ・メアリとは会う機会が減ってしまったらしい。
月永レオと作曲について
インスピレーションが湧けば,ところ構わず作曲を始めるのが月永レオだ。今作でも「ESのビルの壁で作曲してたらケイト(蓮巳敬人)に怒られた」と話しているが,昨年度もいろいろなところに楽譜を書いていた。たとえば,「!」の【反逆!王の騎行】や【十五夜*玉兎跳ねるムーンライト】では学院の壁や床に,「!」の月永レオキャラクターストーリー第一話では公園の砂場など……。ただし彼は紙とペンがあっても,書いた楽譜をばらまくことがあるので注意が必要である。また,今作ではサバンナごっこで空腹になりすぎて「お腹の音がチャイコフスキーの交響曲第六番のメロディになる」と言っていたが,“悲愴”というタイトルがつけられたこの曲は謎が多く,第4楽章では死を思わせるような重い旋律を聴くことができる。
大神晃牙のレオン&明星スバルの大吉
動物の気持ちを理解するため,漣 ジュンと白鳥藍良はペットを飼っている人に話を聞くことに。そこで出てきたのが,レオンという犬を飼っている大神晃牙と,大吉という犬を飼っている明星スバルだ。ちなみにレオンはコーギーで,大吉は(かなり丸っこい)柴犬である。レオンと大吉はこれまでの物語で多数の出演を果たしており,数多くのイラストが残されている。それにしても,長期遠征において飼い犬をきちんとホテルに預ける晃牙と,本人(本犬)に行動を任せている(?)スバルは,飼い主それぞれの性格が出ているようにも感じられる……。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
本作では,“サバンナの動物の気持ちを知るために,自給自足などサバンナ的な生活をしてみる”という,アイドルってそこまでやらねばいかんのか……と言いたくなる文字どおりのサバイバルなストーリーが展開される。これはチャレンジする人によって思わぬ展開になる場合もありそうだが,メインの漣 ジュンが根っからの努力家なので,「何かめちゃくちゃいい話になっている……!」という印象だ。その中から筆者が選んだ心に残る言葉は,やはりこちらだろう。
苦労しながらもサバイバル生活を送ったジュンに対し,手助けをした風早 巽から「ジュンは真面目」と言われ,ジュンは「真面目というよりどちらかというとプライド」と返す。そして,舞台に上がるのが大御所だろうが自分のような新人だろうが,お客さんにとっては同じだけのお金や時間を費やして見に来てくれると言うのだ。経験値を得るにはどうしても時間がかかってしまうが,役づくりは自分でできることだから,プロのはしくれとしてのプライドで臨むのだと。
至極あたりまえのことなのだが,「あんスタ!!」に登場するアイドルは観客から対価をもらっている以上,全員が“プロフェッショナル”だ。観客やファンは,対価と引き換えに彼らが提供する歌やパフォーマンスを楽しんでいる。けれど,アイドルたちがどういう気持ちでステージに立っているのか,その裏にどんな苦労があるのかは,ファン側からは見えないものだ。たとえば今回の物語の序盤,台本を読みながら悩むジュンに向けて,アイドルオタクである白鳥藍良が「『Eden』のひとは何でもひょいひょいってこなしちゃうのかと思ってました」と発言したのもそれと同じと言えるだろう。しかし,これは藍良の物言いが悪いわけではなく,アイドルたちが“そう見せている”からだ。
ESのアイドルたちはおそらく皆,ジュンと同じようにプライドを持ってアイドルという職業をやっているのだろうが,その胸のうちを知ることで,彼らの届けてくれるものがより深みを増すように思う。これは,物語上の観客とは違う,“読み手”としての我々の特権かもしれない。ジュンの才能に惹かれた演出家も,最初はアイドルたちにただ憧れていただけの藍良も,この舞台をとおしていろいろなものを受け取れるのではないだろうか。それにしても本当に,舞台「草原の王」をぜひ観てみたい……。
ストーリーピックアップ
「再開*成長見せてハイタッチ!」
開催期間:2020年6月30日〜7月9日(Basic)2020年6月30日〜7月8日(Music)
――あらすじ――
大学生活で一時的にアイドル活動を休止していた仁兎なずなの復帰お祝いライブを計画していたRa*bits。しかし昨今のリストラの影響で,事務所からライブの支援はできないと断られてしまう。リーダーを任されていた真白友也は悩み,紫之 創や天満 光も彼を心配する。ライブができなくなったことをなずなに打ち明けた友也は,その後,あるアイデアを思いついたと話す。<全13話/シナリオ:日日日>
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「復帰はドラマチックにしてほしくない」仁兎なずな
夢ノ咲学院におけるこれまでの仁兎なずなは,アイドルたちのなかでも一,二を争う波乱万丈ぶりだったと言えるだろう。彼は当初,斎宮 宗と影片みかとともにValkyrieに所属し,天祥院英智の革命に伴うある事件を最後にユニットを脱退している。その後,日々樹 渉の提案で,入学してきたばかりの真白友也,紫之 創,天満 光が結成したRa*bitsに,まとめ役として加入することになる。だが,移籍についてはファンに対して事前に告知をしていなかったため,なずなや宗の卒業直前のエピソードである「!」の【モーメント*未来へ進む返礼祭】にて,ValkyrieとRa*bitsがファンのために同じステージで歌う流れになったことがある。
紫之 創と“美少女先輩”
連載第4回でも触れたが,これまでのストーリーで紫之 創は「美少女のようなかわいらしさを売りにする先輩アイドル」に可愛がられていることが何度か語られている。今回のストーリーでは,その先輩本人が“美少女先輩”と呼ぶようにと言ったことが明らかになった。以前,その“美少女先輩”の話題が出てきた「!」の【お化けがいっぱい☆スイートハロウィン】では,「かわいい」を売りにすることについて,創と真白友也の意見が食い違いを見せていた。誰もが感じているとは思うが,いつかぜひその“美少女先輩”の姿を見てみたい……。
真白友也と【ミステリーステージ】と演劇部
本ストーリーで,真白友也は「演劇部でさんざん『おまえには才能や実力がない』と言われ慣れている」と発言する。彼が所属する演劇部は,日々樹 渉が昨年度の部長を務め,その“変態”ぶり(ただし演劇の実力はたしかなもの)に,友也と現部長の氷鷹北斗は振り回されていた。そして,その渉との関係性を一歩進めたのが「!」の【対決!華麗なる怪盗VS探偵団】で,【ミステリーステージ】とはこのイベントに登場する,怪盗役のKnightsと探偵役のRa*bitsが共演したステージのことである。このころは渉のスパルタ教育(?)がかなりハードで,友也は過労によって倒れてしまい,それを見つけたRa*bitsのメンバーが慌てる場面があった(余談だが,筆者はこのときの友也がモチーフのLINEスタンプ「もう駄目だ……」をよく使う)。
立場が逆転した天満 光と真白友也の追いかけっこ
思い返せば,昨年度は今回とは逆で,天満 光を真白友也や紫之 創のほうが探し回る図をよく見かけた。といっても以前の光はただ闇雲に走り回ったり逃げたりしていたわけではなく,その時々できちんと理由がある場合が多かったのも事実だ。たとえば「!」の【挑戦!願いの七夕祭】では,陸上の才能を高く評価された光が,このままではアイドルを諦めなければならないかもしれないという不安から逃げ回っていたし,同じく「!」の【スカウト!BADBOYS】では(厳密に言うと追いかけていたのは仁兎なずな),成長痛に気づいた光が,「かわいくなくなったらRa*bitsでいられなくなる」と悩んでしまったのだ。彼にとってのRa*bitsは,かけがえのない大切な場所だからこその“逃亡”だったのだろう。
【お月見ライブ】で月永レオにもらったお金
本ストーリーで「L資金」という通称が明らかになった“【お月見ライブ】で月永レオにもらったお金”は,「!」の【十五夜*玉兎跳ねるムーンライト】を読むと,その経緯を知ることができる。簡単に説明すると,月永レオが作った曲を学院に提供するなどしてたまっていた報酬を,【ジャッジメント】(「!」の【反逆!王の騎行】参照)にゲスト出演する見返りとして,仁兎なずなが受け取ることになったという流れだ(ちなみに鬼龍紅郎も同様に報酬を受け取っている)。レオが依頼した【お月見ライブ】で紅月とRa*bitsが共演しており,紅月とRa*bitsは「!」のメインストーリー第一部で因縁ができてしまっていたが,【七夕祭】やこの【お月見ライブ】を経て,その因縁は綺麗に解消されていったと言えるだろう。
Ra*bitsというユニット
昨年度は3人の1年生と,リーダーの3年生という構成だったRa*bitsは,3年生だった仁兎なずなが高校を卒業し,大学での勉強のため一時的にアイドル活動を休止することになった。そのため,今年度からリーダーは真白友也に交代となっている。メンバーについて説明を補足しよう。
【真白友也】
友也は夢ノ咲学院に入学する前からアイドルが好きで,中学の同級生だった紫之 創と一緒に学院へライブなどを観に来ていたことがある(「!」の【追憶*マリオネットの糸の先】)。彼はそこで学院への入学を決意し,創を誘って受験したのだった。どうにか合格はしたものの,彼はもともとレッスンなどを受けてきたわけではなかったので,入学後は苦労が多かったらしい。突出した才能がなく,いたって「普通」であることを本人も気にしていたが,これだけ個性が爆発しているアイドルたちのなかで立派にやっていけるのも,かなりの才能の1つではないだろうか……。
【紫之 創】
ダンスはやや不得意なものの,美しい歌声で人々を魅了する創は,女の子と見紛うようなかわいらしさを持つ天使のようなアイドルである。だが,昨年度の彼は意外と自分の“美”に対しては無頓着なところもあった。筆者的にインパクトがあったのは,「!」の【スカウト!ホリデー】で聞いた「(安上がりだから)本当は丸坊主にしたい」という言葉だった。また,先述した「!」の【対決!華麗なる怪盗VS探偵団】で友也が過労で倒れてしまった際,実はRa*bitsの中では腕力があるほうだということも判明している。がんばり屋さんの創は,なかなかガッツのある男の子なのだ。
【天満 光】
本ストーリーで仁兎なずなの復帰お祝いライブを行うにあたり,ほかのユニットが手を貸してくれたという話があった。その中で光が「陸上部の先輩たち――『MaM』や『Knights』や『UNDEAD』」とユニット名を挙げるが,陸上部所属のメンバーはMaMの三毛縞 斑(昨年度は部長),Knightsの鳴上 嵐,UNDEADの乙狩アドニスである。とくに光は,共に活動することの多かった嵐とアドニスになついており,彼らとのエピソードとしては「!」の【感謝!ほろ苦ショコラフェス】をはじめ多数ある。また,今回のライブ企画ではCrazy:Bも手助けしてくれたとのことだが,これは【SHUFFLE×恋の√はAtoZ】にて,椎名ニキとシャッフルユニットで一緒だったつながりからと思われる。
【仁兎なずな】
なずなは夢ノ咲学院入学以前,聖歌隊に入っていたことがある。彼が「神さま」に向けて祈りを捧げることがあるのは,教会に馴染みがあったからなのだろう。彼は聖歌隊のころから歌が得意だったが,Valkyrieでの活動終盤にはちょうど声変わりに差し掛かってしまい,歌えなくなっていた。また,昨年度はときおり噛み癖が出ていて「慌てたりすると噛む」と話していたのだが,今作で「大学に進み,ストレスを感じない生活をするようになってそれが原因の噛み癖が出なくなった」と話している。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
いきなりメタな話で恐縮だが,新章「あんスタ!!」にはいくつかのイベントの種類がある。そのうちの1つがいわゆる“新曲イベント”で,ゲーム内のストーリーでは1つのユニットにフォーカスし,リアル世界では新しい楽曲がリリースされる。この【ハイタッチ!】のストーリーもそうなのだが,物語の登場人物は基本的にそのユニットメンバーのみであり,ほかのユニットのアイドルは話に出てくることはあっても,直接姿を現わすことはない(今時点での仕様では)。つまりどのユニットも,自分たちの問題は自分たちだけで解決しなければならないのだ。だが,今回の話はほんの少しだけ異なっていたように思う。
その話をする前に,心に残った言葉を1つ選んでみる。
以前書いた記事のなかで筆者は,Ra*bitsの4人の共通項として“仲間と過ごすことによって自分らしさを見つけられた,あるいは自分らしい自分にたどりつくことができた人たち”だと表現した。今回の【ハイタッチ!】は,そこからさらにもう一歩進んで“自分というものを見つけたあと,どう生きていくべきか? どう戦っていけばいいのか?”を発見したのではないかと感じた。男の子なのに“かわいい”悩みがあっても,ユニットの中で解決しきれないことがあっても,ほかの誰かに助けを求めるのは決して間違ってはいない。彼らは“都合の良い子”なんかではなく,いつだって全力で,笑顔で笑顔を呼んで,みんなを幸せにしてきた,本当の“良い子”だ。だからこそ,みんなが手を差し伸べてくれたということなのだろう。
Ra*bitsの4人は仲間のことが大好きだから,お互いの良いところをいくらでも挙げることができるはずだ。けれど,とくに前リーダーの仁兎なずなと現リーダーの真白友也は,胸を張って自分に花丸をつけられないタイプのように見えた。それは仲間を高く評価できるからこその優しさの表れでもあるとは思う。だが同時に,自分を卑下することは,自分の中の可能性を押さえつけてしまうとも言える。今回,それを打ち破れたのは,なずながアイドル業界から離れ,これまでの世界から一歩引いた視点を持てたのも大きかったのではないだろうか。自分1人では問題を解決できなかった友也に対し,ヒントを与えることで,可能性を大きく広げたのだ。もちろん,なずなと友也だけで現状を打破したわけではなく,彼らにとって大切な仲間である創や光がいたから――4人が揃ったからこそ,高くジャンプできたのだ。
今回の話を読んでいて筆者は,あらためて「『かわいい』ってなんだろう」と考えた。言葉の意味を調べると,「小さいものや弱いものに惹かれる気持ち」のほかに,「愛すべきもの」という意味もあることが分かる。「かわいい」という言葉は「愛しい」にも置き換えられ,つまりRa*bitsには,「好き」や「愛」がたくさん詰まっているということだ。
本ストーリー冒頭のモノローグで友也がメンバーを評する場面があるが,終盤にはなずなによる同じようなシーンがある。この構成があまりにも綺麗でかなりグッときてしまったのだが,現リーダーである友也の序盤のモノローグにあった「Ra*bitsは喜びの永久機関」という言葉と,物語終盤の前リーダーなずなによる「Ra*bitsの舞台に愛と癒やしと笑顔があるように」という祈りもまた,対になってつながっているように感じられ,感動してしまった。
このイベントが終了したあと,公式サイトのユニット紹介にあるなずなと友也の紹介文が変わっていることに気づいた人も多いだろう。もしまだ見ていない人がいたら,ぜひ読んでみてほしい。アイドルとしての彼らの言葉や決意に,またしても胸が熱くなることは間違いない。
第7回記事もお楽しみに!
■たまお(ライター)■
エンタメ系フリーライター。音楽・ゲーム業界などでの社会人生活を経て,作品やキャラの素晴らしさを文章で伝えるためにライターへ転向。現在4Gamerにて「あんさんぶるスターズ!!」のストーリー解説記事を連載中。このほか追いかけ中のタイトルは「アルゴナビス」「スタマイ」「ツイステ」「ヒプマイ」「パラライ」「刀剣乱舞」「A3!」「まほやく」など。
◆Twitter(@tamao_writer)
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