企画記事
「ジャックジャンヌ」声優インタビュー第3弾は,寺崎裕香さん,佐藤 元さん,内田雄馬さん。主人公とその同学年を演じた3人に,演技にかけた思いを聞いた
漫画家・石田スイ氏とブロッコリーによる“少年歌劇シミュレーションゲーム”こと「ジャックジャンヌ」の魅力の一つとなっている,人物の心境の変化や葛藤を表現しているキャストたちの“声の演技”。4Gamerがインタビュアーを担当した公式YouTubeチャンネル(リンク)のインタビュー動画は,「クォーツ」クラスのキャラクターを演じた7名のキャストに,役者として作品と自身の役にどう向き合ったか,どのような思いを持って演じたかを“多少のネタバレあり”で語ってもらっている。
全3回のラストを飾るのは,主人公の立花希佐(苗字固定で名前は変更可能)の声を担当した寺崎裕香さんと同学年の世長創司郎役の佐藤 元さん,織巻寿々役の内田雄馬さんという,クォーツクラスの1年生を演じた3人だ。
主人公・立花希佐役の寺崎裕香さん(インタビューは[こちら]) | |
世長創司郎役の佐藤 元さん(インタビューは[こちら]) | |
織巻寿々役の内田雄馬さん(インタビューは[こちら]) |
「ジャックジャンヌ」声優インタビュー第1弾。睦実 介役の笠間 淳さん,白田美ツ騎役の梶原岳人さんが語る,作品との出会いと自身が担当する役への思い
公式YouTubeで動画が公開されている,「ジャックジャンヌ」声優インタビューの“フルサイズ版”を全3回でお届けしよう。初回は,睦実 介役の笠間 淳さんと白田美ツ騎役の梶原岳人さんの2名。それぞれに作品や自身の演じるキャラクターとの出会いや思いについて“多少のネタバレあり”で語ってもらった。
「ジャックジャンヌ」声優インタビュー第2弾。高科更文役の近藤孝行さんと根地黒門役の岸尾だいすけさんに聞く,役への思いや作品との向き合い方
公式YouTubeで動画が公開されている,「ジャックジャンヌ」声優インタビュー“フルサイズ版”の第2回をお届け。高科更文役の近藤孝行さん,根地黒門役の岸尾だいすけさんのお二人に,それぞれ自身の役との出会いや役者としてどのように作品と向き合ったかを“多少のネタバレあり”で聞いた。
「ジャックジャンヌ」公式サイト
■公開中の声優インタビューはこちら
・インタビュー(1)睦実 介役:笠間 淳さん
・インタビュー(2)白田美ツ騎役:梶原岳人さん
・インタビュー(3)高科更文役:近藤孝行さん
・インタビュー(4)根地黒門役:岸尾だいすけさん
・インタビュー(5)立花希佐役:寺崎裕香さん
・インタビュー(6)世長創司郎役:佐藤 元さん
・インタビュー(7)織巻寿々役:内田雄馬さん
インタビュー(5)立花希佐役:寺崎裕香さん
■“真っ白”なイメージで演じました
4Gamer:
最初に台本を手にしたときの感想を教えてください。
立花希佐役:寺崎裕香さん(以下,寺崎さん):
4Gamer:
演じられた立花希佐の第一印象を知りたいです。
寺崎さん:
見た目だけで受けた印象としては可愛らしいというか。あと,男性的な魅力と女性的な魅力の両方を持っている子だなと思いました。性格もすごくまっすぐで,自分の好きなことや目標に向かって進んでいく姿が眩しくて,「若いって良いな」って感じるような(笑)。“青春の象徴”のようなキャラクターだと思いましたね。
4Gamer:
ご自身と似ていると感じたところはありましたか?
寺崎さん:
やっぱりお芝居が好きなところですね。性別を偽って男子校に入るってすごい勇気だと思うんです。私は18年間暮らした熊本から,「お芝居がやりたい!」っていう気持ちだけで東京に出てきたんですが,そういった行動力は共通してるのかなと。
でも,希佐が周りの人の変化やちょっとした様子の違いに気づいて,すぐ行動に移せるところは似ていないかなぁ(笑)。
4Gamer:
立花希佐を演じるにあたって悩んだことはありますか?
寺崎さん:
希佐は天才肌なので,舞台上でカメレオンのように(変化して)いろんな役をこなさなければならないし,女性役だけじゃなく男性役もやらなければいけないですから。そういった舞台上での演技の幅の広さを見せるために,舞台以外での彼女を演じる際はシンプルに演じようと思いました。
4Gamer:
普段は普通の子だけど,舞台に立つと……というギャップを生むため,ということでしょうか。
シンプルに演じたということについて,もう少し詳しく知りたいです。
寺崎さん:
普段の私のしゃべり方に近いというか,“真っ白”なイメージっていうんですかね。希佐はプレイするみなさんでもあるので,余計なものを削ぎ落として,みなさんがキャラクターを完成させる余白を残すイメージで演じました。そのかわり舞台に上がったときは,しっかり役を作り込むように意識して……という感じですね。
4Gamer:
そういった考えをもって挑んだ収録で,なにかエピソードはありましたか。
寺崎さん:
一番多かったリテイクが,相手に対する反応の仕方が“ちょっと女の子っぽすぎる”というものでしたね。「もう少し少年っぽくいきましょう」と。希佐はもともと中性的な雰囲気のある子なので,あとは反応を男の子っぽく調整しようという。
4Gamer:
役者としての立花希佐とご自身を比べてみて,役の作り方について似ていると思うところはありましたか?
寺崎さん:
希佐が夏公演(ウィークエンド・レッスン)で初めてジャックを演じるとき,身近な先輩方や周りの仲間を参考にして,そこから自分のジャックを生み出していきましたが,その作り方は私と似ているなと思いました。
私も以前,舞台で自分の経験にない役が来たときは,自分の演じる役に近い人物が出てくる作品を観たりしていたので。真似というより,その人が持っている要素を探し出して,そこから自分のものにしていくイメージですね。
■最終公演は“スパルタなワークショップ”のようでした(笑)
4Gamer:
「ジャックジャンヌ」は,先輩と後輩,同期などの関係性が丁寧に描かれています。1年生の立花希佐の視点で,先輩や同期の仲間たちとの物語を体験された寺崎さんは,どんなエピソードが印象に残っているのか気になります。
寺崎さん:
自分たちから先輩たちに稽古をつけてもらいにいく……っていうのが印象に残っています。
希佐には“1年生チーム”のスズくん(織巻寿々)と創ちゃん(世長創司郎)っていう心強い味方がいて,その2人と一緒に行動するんですよね。その3人は,分からないことがあればクラスの先輩だけでなくほかのクラスの先輩たちにも聞きに行くんですが,そこが面白いなって。
クラス間で競い合っているけど,同じ学校の仲間として,より良いものを作るために交流を重ねるのってすごく素敵だなって思います。ライバルなのに協力し合える,本当にいい学校だなって。
4Gamer:
立花希佐は多くの人たちの影響を受けながら成長し,さまざまな舞台に立つことになります。そのなかで寺崎さんのお気に入りの公演があれば知りたいです。
寺崎さん:
最終公演(央國のシシア)です。エンディングを迎える相手によって舞台の内容が変わるので,何度も何度も演じたんですね。フミさん(クォーツ3年・高科更文)のエンディングを迎えたら,すぐに気持ちを切り替え,次は介さん(クォーツ3年・睦実 介)……という具合に。
感情がぐちゃぐちゃになりながら演じたので,すごくスパルタな演劇のワークショップを受けているような気分でした(笑)。
4Gamer:
では,お気に入りの役はいかがでしょう。
寺崎さん:
狂ったように笑うシーンがあったんですけど,「もっと,もっと」ってリクエストをいただいて,酸欠になるくらいリテイクを重ねました。最後は気持ちがぐっと入って……爽快感じゃないですけど,創ちゃんに想いを託すところはめちゃくちゃ印象に残っていますね。
4Gamer:
舞台を彩る楽曲についてもぜひ聞かせてください。曲数も多くジャンルもさまざまで珍しいものもあり,キャストの皆さんからはなかなか苦戦されたという話を聞いています。
寺崎さん:
本当に難しくて……レコーディングを重ねていくうちに「いままでの私の歌い方ではこの13曲を乗り越えられない」と判断し,歌い方を一から再構築して,新しい技を身につけながら挑んでいきました。
4Gamer:
ほかのキャストの皆さんからは,とくに「Fortune color is crystal!」が難しかったという話が多かったです。
寺崎さん:
分かります! スイングっていうリズムが難題で……。「いまのは違います」って言われるんですけど,何が違うの? って(笑)。私のなかに無いリズムだったので,習得するのに苦労しましたね。
4Gamer:
睦実 介役の笠間 淳さんも同じことをおっしゃっていました。「Fortune color is crystal!」もですが,「とくにこの曲が難しかった」というのはありますか?
寺崎さん:
最終公演の「Over the wall」ですね。ソロ曲なので助けてくれる仲間がいないし,ストーリー上でも群衆の気持ちを動かさなければいけない壮大な曲だし,さらに英語の歌詞でしたから。石田先生から「英語の発音をできるだけナチュラルにしてほしい」というリクエストもあり,一番課題が多かった印象です。
4Gamer:
その難関をどのように乗り越えたのでしょう。
寺崎さん:
「この曲(Over the wall)を歌うためにはこの技術とこの技術が必要だから,まずはあの曲を歌えるようにしよう」という感じで,ひとつずつクエストをクリアしていくような……。新人公演(「不眠王」)の「鈴かけの木をこえて」の収録が終盤だったのですが,「鈴かけ」が歌えるようになれば「Over the wall」も歌えるぞ,という感じでした。
4Gamer:
そのあたりは,録音チームやディレクターと話し合って進めていったのでしょうか。
寺崎さん:
はい。経験値を積んで最終曲に向かっていくことで,レコーディングチームとも固い絆が生まれました。仮歌のみなさんも“スーパースペシャルチーム”で,いただいた音源の完成度が高すぎて(笑)。何回も聴き返しましたね。
■話の全体が分かる希佐ルートはぜひ遊んでほしいです
4Gamer:
主人公役としてすべてのルートを収録された寺崎さんには,各キャラクターの印象について,ぜひお聞きしたいです。
寺崎さん:
収録が終わった直後,初めて音響監督さんに拍手をもらったんです。「本当に素晴らしいものを見せていただきました。ありがとうございました」って。そんな風に言われたことがなかったので本当に嬉しくて……それだけ気持ちが入ったルートだったんだなって思いました。
私はこれまで,自分の中から役が抜けなくなるみたいな経験ってあまりしたことがなかったんですが,根地先輩ルートを収録したあとは,3日くらいずっと根地先輩のことを考えていましたね。
4Gamer:
それほどですか……ほかのキャラクターはいかがでしょう。
寺崎さん:
一番ドキドキしたのはフミさん(クォーツ3年・高科更文)ですね(笑)。フミさんは年上の男性の魅力と言いますか,グッと引っ張ってくれてすごくカッコいいなって思いました。王道の王子さまルートのイメージです。
スズくんも印象に残っていますね。ライバルであり,同じ目標に向かう仲間であり,一番隣りに立ってくれているイメージでした。競い合いながら一緒に走っていくような,すごく爽やかな印象で。
4Gamer:
同学年だと,世長創司郎はどうですか?
寺崎さん:
創ちゃんは,隣というより一歩下がって優しく見守ってくれるイメージです。でも,愛が深いんですよね……! 創ちゃんの希佐への愛が強すぎて,受け止めるのが大変でした(笑)。
収録の前に,「佐藤さんがけっこう重く演じていらっしゃいます」とお聞きしたんですが,相手の音声を聴きながら収録したわけではないので,どんな仕上がりになっているのか楽しみですね。
4Gamer:
3年生の睦実 介はどうでしょうか。
寺崎さん:
介先輩はすごく控えめな人なんですよね。なので,後輩という立場ではあるけど,希佐がグッと背中を押したイメージがあります。
介先輩は体つきや雰囲気はどっしりしてるけど,すごく心が優しくて暖かくて控えめなんです。だからこそ「もったいない,あなたはいい役者なんだよ」というのを希佐のほうが理解していたのが印象的ですね。
4Gamer:
メインキャラクターでは唯一の2年生で,1個上の先輩である白田美ツ騎についてどんな印象だったか気になります。
寺崎さん:
白田先輩はツンデレさんじゃないですか。なので,徐々に心を開いてくれて,距離が近くなっていく過程が楽しかったです。
創ちゃんと白田先輩ルートは,希佐が男らしいと言うか……(笑)。2人の感情の表現の仕方が柔らかいので,希佐が格好良くなるルートだと思いました。白田先輩はズルいんですよ,デレる瞬間が。あれはみなさんもキュンとなると思います。
4Gamer:
では,立花希佐ルートの印象についてもぜひ聞かせてください。
寺崎さん:
「まずは希佐ルートをやってほしいな」ってオススメしたいくらい完成されていると思います。
「なぜ校長先生が,希佐に性別を偽ってでもユニヴェールに入学させようとしたのか」と,「ジャックジャンヌ」というタイトル名の意味が分かるので,まずは話の全体が見える“メインルート”な立花希佐ルートをクリアしていただいて,各キャラクターのルートをパラレルワールド的に楽しむといいのではないかなと思います。
4Gamer:
立花希佐という役を担当したことは抜きに,寺崎さん個人として誰か1人を選ぶとしたらどうでしょうか?
寺崎さん:
えーっ! それは難しい(笑)。うーん,スズくんかな……。“ザ・後輩キャラ”じゃないですか。でも引っ張ってくれるところもあるし,育てがいがありそうです。かわいいも格好いいも両方の可能性を秘めているので,いい男に育つんじゃないかと(笑)。
4Gamer:
(笑)。では全体を通して,お気に入りのシーンはありますか。
寺崎さん:
いっぱいありますね。スチルになっているシーンはだいたいお気に入りというか,ちゃんとツボを押さえているんだなと思います。あと,(オニキス1年の)加斎 中くんとのシーンが印象的でした。ふたり芝居をやるんですが,そのお芝居の内容がすごく面白かったので,ぜひみなさんにも見ていただきたいです。
それから,お気に入りのシーンっていう話からそれるかもしれないですが,一ノ前先輩(ロードナイト2年・一ノ前衣音)が本当にいいキャラなんですよね(笑)。希佐がほかのクラスで一番お世話になった人かも。リズムゲームの練習ができるんですが,歌詞読解の方もぜひ見てほしいです。作中で舞台のすべての脚本を手掛けた人である根地先輩のルートと合わせてみると,いろいろな発見があると思います!
■“もうひとつの自分の人生”と思ってプレイしてほしい
4Gamer:
立花希佐を演じて,ご自身のなかで変わったことなどはありますか?
寺崎さん:
“演じる”っていうことについて,自信がついたかもしれないです。
過去に,男の子の役をやったり女の子の役をやったりして,それぞれの演じ方が分からなくなった時期があったんですが,(ジャックジャンヌで)短いスパンで男性も女性も両方演じることですごく鍛えられましたね。
これほどの経験,ボリュームの音声を録ることは,もう一生ないんじゃないかっていうくらい,約1年という長い間希佐と二人三脚で過ごしてきました。私もユニヴェールに入学していたのかなっていうくらい(笑)。
4Gamer:
履歴書に書けるくらい……。
寺崎さん:
書きたくなりますね! 「ユニヴェール歌劇学校出身」って(笑)。
4Gamer:
では,本当にご自身がユニヴェールに入るとしたら,どのクラスがいいですか?
寺崎さん:
やっぱりクォーツですね! ロードナイトは歌がすごく上手くて,オニキスはダンス,アンバーは天才しかいないっていう個性がはっきりしてるじゃないですか。でも,クォーツは“これから個性を見つける”っていうイメージがあったので,私もクォーツに入って“自分自身”を見つけたいです。
4Gamer:
同じクラスになりたい。一緒にいたら楽しいと思う人も知りたいです。クォーツ以外の生徒でもかまいません。
寺崎さん:
稀ちゃん(ロードナイト1年・忍成 稀)です! 稀ちゃんはすごく“女子”なので,希佐としても女子と話している気分になってリラックスできたし,素を出せたというか。稀ちゃんかわいいですよね……とても男子とは思えない。稀ちゃんとのシーンは楽しかったです。
4Gamer:
もし寺崎さんが「ジャックジャンヌ」の登場人物たちと舞台に立つとしたら,どんなことをやってみたいですか?
寺崎さん:
王道な戯曲をやってみたいですね。昔から,チェーホフの「かもめ」をやりたいという願望があるんですが,希佐のニーナが観てみたいです……でもそうなった場合,私は誰をやればいいんだろう(笑)。
シェイクスピアなら「ロミオとジュリエット」が観てみたいですね。ロミオを創ちゃんにやってほしいです! ロミオの“優しすぎて弱い”みたいなところが創ちゃんに合っている気がするので。プロデューサーになって,ユニヴェールのみんなをキャスティングしてみたいなあ。
4Gamer:
たしかに,ともに舞台に立つというより,プロデューサーや演出家のような視点ですね。
少し脱線してしまいましたが,あらためて,すべての収録を終えた感想を聞かせてください。
寺崎さん:
収録がつらいと思ったことは一度もなくて,台本をいただくたびに「早く次が読みたい!」って思っていたので,終わるのが本当に寂しかったです。もっとユニヴェールにいたかったなって。
歌もこんなにたくさんレコーディングしたことがなかったです。実は,「ジャックジャンヌ」がきっかけで知り合った先生のところで,今もボイストレーニングを続けているんですよ。「役者としての私の,可能性や武器をもっと見つけたい」って思ったんですね。切磋琢磨しながら舞台に向かう主人公たちを見て,「今までの私は,ここまで作品に向き合えていたのかな」って反省もしたりして。「ジャックジャンヌ」に関わることができ,本当に感謝しています。
4Gamer:
最後に,読者に向けてメッセージをお願いします。
寺崎さん:
手に取っていただいたみなさんには“もうひとつの自分の人生”だと思ってプレイしてほしいです。「もし自分が演劇学校に入学したら」という人生を楽しんでほしいので,まだならまずは体験版だけでもプレイしてほしいですね。それだけでも作品の魅力が伝わるし,どのキャラも魅力的で大好きになってもらえると思います!
「立花希佐」CHARACTERページ
(ジャックジャンヌ公式サイト)
インタビュー(6)世長創司郎役:佐藤 元さん
■創ちゃんと一緒に,トコトン堕ちてあげよう
4Gamer:
「ジャックジャンヌ」の台本を最初に受け取ったとき,どのような気持ちでしたか?
世長創司郎役:佐藤 元さん(以下,佐藤さん):
ただものじゃないというか,とんでもないものになるだろうという予感や期待があふれ出て止められなかったですね。「俺,こんなすごい作品に関われるんだ」とゾワゾワしました。
4Gamer:
内容についてはどうだったのでしょう。
佐藤さん:
役者をテーマとした物語が新鮮でした。演者は自身の演じる役に合わせて下手に演じる必要があったり,逆にめちゃめちゃ上手く演らなきゃいけない場合もあって,ものすごく精神を使う作品になりそうだなと。
僕はメインキャスト陣の中で一番(声優としての)経験が浅いので,「いま自分ができることってなんだろう?」ってすごく考えました。
4Gamer:
世長創司郎の第一印象を聞かせてください。
佐藤さん:
ぱっと見で「この子やばいな」ってなんとなく思いました(笑)。
オーディションでセリフを読んだときに,“創ちゃんは本当にお芝居が大好きなんだけど,それを表現する力がまだ足りなくて,それでも一生懸命戦おうとしている”ということが分かりました。
そういう切なさがあるところがすごく愛おしくて,セリフと立ち絵だけで彼が大好きになったんです。最初から「もう,一緒にどこまでも行ってあげよう。この子が堕ちるなら,トコトン堕ちてあげよう」っていう気持ちが湧いてきましたね。
4Gamer:
ご自身との共通点を感じた部分はありますか?
佐藤さん:
内面はけっこう似ていると思います。周りに対する嫉妬心……「なんでこんなに何もできないんだろう」「どうして」っていう気持ちをよく抱えているんですよね。この作品に関わってからもそうだったんですけど,僕自身も「理想の芝居は頭の中にあるのに,どうしてそこにたどり着けないんだろう,先輩方はもっとすごいのに」っていう気持ちがすごく強くて。
創ちゃんも劣等感が強い子なので,「辛いよな……」って,シンパシーを感じる部分がすごく多かったです。
4Gamer:
ここまでのお話をうかがい,創司郎と近いものを感じていらしたというか“一体”となって演じていたという印象を受けましたが,ご自身と異なると感じたところはありますか?
佐藤さん:
役者として舞台に立つというところで,異なる点はありました。
僕自身は自分の直感を大事にするタイプで,舞台や本番に向かうギリギリ1秒前までは悩んでいても,いざ始まったら「どうとでもなれ」というか,持てる力でどうにかしようって振り切れるんです。
創ちゃんの場合は,やりながらもまだ悩んでいるところがあるんですよね。そのあたりは,どう表現するかを考えて演じました。
4Gamer:
収録するにあたり,石田スイ先生からアドバイスはあったのでしょうか。
佐藤さん:
創ちゃんを演じるうえで言われたのが,「秋公演まで我慢してくれ」っていう言葉でした。「この子は秋公演で一気に覚醒するから,ぜひそこで爆発させてほしい」と。だから,秋公演まではすごく繊細に,本当に少しずつ滑舌を良くしたりとか,芝居をちょっとずつ成長させたりしていきました。
4Gamer:
ほかのキャストの方も話していたのですが,石田スイさんは演技の部分も細かく見られていたんですね。
佐藤さん:
そうですね。作品や創ちゃんについて,最初にスイ先生の確固たる指針があったおかげで,方向性がブレずに済んでありがたかったです。作品に関しては何を聞いても答えていただけたのですが,僕なんかの想像が及ばないところまで考えられていて,本当にすごいなって。
もし叶うなら,スイ先生が作り上げる世界にまた出てみたいです。
4Gamer:
その思いは,このインタビューでも伝えなければいけませんね。
佐藤さん:
ぜひ(笑)。先生,僕はやります!
4Gamer:
(笑)。石田スイさんの言葉もあって演技の方向性は固まっていたようですが,実際に演じてみてどうだったのでしょう。大変だったところや悩んだところがあれば聞かせてください。
佐藤さん:
ちょうどそのころ,僕も同じように苦しんでいたというか……世の中の状況的に芝居がしたくてもできなくて,「なんで俺ってお芝居をしてるんだっけ?」「どうしてこの仕事を選んで,ここにいるんだっけ?」って考えこんでしまう時期と重なっていたんです。
4Gamer:
世の中の状況的にというと,新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が広がってきた時期でしょうか。
佐藤さん:
はい。そのとき,形や種類は違うかもしれませんが,芝居に悩む創ちゃんの苦しみや痛みをすごく感じることができたんですね。それで,「彼と一緒にトコトン苦しもう」と思いました。自分自身とどれだけ向き合えるかが,創ちゃんを演じるうえで鍵になると思ったんです。
4Gamer:
“一緒に苦しもう”というのは,なんというか……役に対する覚悟や世長創司郎という人間と本気で向き合おうという強い意志を感じます。
佐藤さん:
今だから言えますけど,3日くらい寝られなくて,かと思えば1日中倒れたように眠って,また3日寝られなくなって……っていうのを2か月ぐらい続けて,彼のことを考え続けてたんです。
4Gamer:
それはかなり過酷だったのでは……。
佐藤さん:
そうだなあ,一番つらかったのは……2月で雪が降っていた日だったんですけど,家に引きこもってロウソクを1本だけ立てて,辛い映画とか苦しい映画をずっと観たり,「どうして(人の心に)憎悪や嫉妬が生まれるのか」を知るため心理学の本を読んだり,僕自身の過去のトラウマも全部引っ張り出して,自分を追い込んでいったんですよ。
創ちゃんがみんなに「頑張ったね」「良かったよ」って言ってもらえるなら,「いいよ,俺の命なんて全部あげるよ」って思って……ああ,思い出すと泣けてくるんだよな……。
(佐藤さん,言葉を詰まらせる)
4Gamer:
大丈夫ですか?
佐藤さん:
(涙を浮かべて)ごめんなさい……。つらかったですけど……あの子が報われる瞬間がくるならって。創ちゃん,本当に頑張っていたから……僕はほんとに,創ちゃんになれて良かったです。
4Gamer:
一度カメラを止めて,休憩を入れてからインタビューの続きをしましょう。
佐藤さん:
すみません! 思い出したら泣けて来ちゃいました。ああ,自分でもびっくりした(笑)。こんなに深く,俺の中に創ちゃんがいるんだなあ……。
4Gamer:
いえいえ! 佐藤さんの役作りにかける想いが伝わって,こちらもグッときました。
役に向き合うときは,いつもそのくらいご自身を追い込まれるのでしょうか。
佐藤さん:
僕は小さいころから,何をするにも人の数倍時間がかかっちゃうくらい不器用で。
こういう職業では才能も必要ですが,才能を上回るだけの努力もしなきゃいけない場面がありますよね。そうなると,普通の人以下の僕が上に行くには,人の10倍どころか100倍くらいの努力が必要なんです。人が練習してるときはもちろんだし,人が休んでるときも練習しないと追いつかないので……。ひとつの役を演じることになったら,身も心も全部捧げるくらいの気持ちでやらないと,スタートラインに立てないと思ってます。
芝居のスタンスはそういうところがあるんですが,ただ,創ちゃんへの向き合い方は,その中でも飛び抜けていたかなと思います(笑)。
4Gamer:
それだけ今も,深く残っているわけですよね。
佐藤さん:
抜けきらないですね。自分の根幹にあるものに入り込んで,この作品を通して(自身の)芝居のスタンスが少し変わったくらいには大きな存在です。
■ああ,俺って“壊れられる”んだ
4Gamer:
世長創司郎は1年間でいろいろな舞台に立ちましたが,佐藤さんのお気に入りの公演はありますか?
佐藤さん:
大変だったという意味での思い出は秋公演(メアリー・ジェーン)なんですけど,地味に難しかったのは冬公演(オーラ・マ・ハヴェンナ)でした。
創ちゃんが街一番のモテ男を演じるんですが,彼の中には“カッコいい”が無かったというか,どうしたらいいか分からないっていう悩みがあったと思うんですね。でも,僕も似たような悩みがあって(笑)。創ちゃんが役を演じるのもそうですが,佐藤 元というフィルターを通してモテる男を演じるのが難しかったです。
4Gamer:
大変だったという秋公演についてもぜひ聞きたいです。
佐藤さん:
4Gamer:
それほどまでに……。先ほどお話をうかがっていたときも,感情があふれ出していましたね。
佐藤さん:
でも,どこかで狂喜するくらい嬉しかったんです。「ああ,俺って“壊れられる”んだ」って分かって。
ここまで追い込んでも駄目かもしれないって,泣きながら毎日役作りをした日々って無駄じゃなかったんだなっていうのが,秋公演には凝縮されています。創ちゃんが覚醒したことも嬉しいけど,僕自身の芝居のスタンスに多大な影響を与えてくれた秋公演には本当に感謝してます。「僕はまだまだいける,もっと上手くなれる」って可能性を見いだせて嬉しかったですね。ああいった体験はもういいですけど(笑)。
4Gamer:
本作は楽曲も素晴らしいものばかりですが,歌の収録で印象的だったことはありますか?
佐藤さん:
まず,僕はこれまでに歌というものをまったく習ってきてなくて。「ジャックジャンヌ」では,収録1時間半前くらいからエンジニアやボイストレーナーの方についてもらってトレーニングし,喉を開いてから挑みました。
一度に全部ではなくワンフレーズずつ歌うんですが,40〜50回くらいリテイクしたことがあって……。ミュージカルって特別なジャンルではあるけど,歌そのもので表現をすることにここまでまっすぐ向き合ったことはなかったので,本当に勉強になりました。
4Gamer:
ほかのキャストのお話をうかがっていて,本当に妥協がない作品だなと感じました。
佐藤さん:
はい。キャストやスタッフ,スイ先生,この作品に関わっている方々が,どれほど作品にまっすぐ向き合っているかを感じました。それで,キャラクターの想いを全力で受け止めきる義務があると思い,喉がつぶれようが最後まで歌いきろうと覚悟したんです。
4Gamer:
演技と同じく,歌もさまざまな挑戦があったのですね。大変だった分,やりがいを感じたところや,面白かったと思ったところはありましたか?
佐藤さん:
もちろんありました。エンジニアさんから完成した楽曲をいただいて聴いたとき,「こうなるんだ!」って喜びはとくに強かったですね。オープニング曲(Jack & Jeanne Of Quartz)が毎日聴くくらい大好きで,スマホの音楽リストの中でも再生回数がぶっちぎってます(笑)。
お芝居というか“表現”って9割9分大変なものですが,作品という形になって,みなさんから「良かったよ」って声がきてやっと報われる仕事ではあるので。ゲームをプレイした人たちの声が届くのも楽しみです。
■創司郎ルートを終えたあと,もう一度冒頭のシーンを見てほしい
4Gamer:
演じ終えてみて,世長創司郎の印象が変わったところはありますか?
佐藤さん:
劣等感が強い創ちゃんに必要だったもののひとつは“自信”だったのかなって感じました。
だから,自信がついてからの彼の行動って凄まじく早いんですよね。それでも悩んだり間違えることはあるんですけど,もともと芝居に対して誠実だったのが,さらに真摯になっていったというか。
才能っていう面では同期や先輩に及ばないかもしれないけど,彼は誰よりも熱量があるんですよ。心の底から,それがないと生きていけないと思っていて,自信を手に入れることで開花していったのかなと。
4Gamer:
気に入っているシーンがあれば聞きたいです。
佐藤さん:
秋公演の前に喧嘩するシーンですね。(喧嘩は)どこかのタイミングで来るだろうとは思っていたんですが,ここまでリアルにやるかと。
希佐ちゃんやスズくんに対する,自分でも認めたくない気持ちが全部溢れ出ていたことが衝撃的でしたね。「俺がちゃんと(このシーンを)演じきらないと,創ちゃんは本当に一人ぼっちになっちゃう。彼を演じる以上,俺が一緒に怒ってあげよう」と思って。自分自身の想いも乗せて「何が分かるんだよ!」というセリフを言いました。
もしかしたら,あのシーンで創ちゃんに対して「なんだよ」ってなる人(プレイヤー)もいるかもしれないとも思いましたが,「どう思われてもいい。全部言おう」「それでみんなに嫌われたとしても,俺が創ちゃんのそばにいるから」と,創ちゃんと会話するような感じで気持ちを作り,収録しました。
4Gamer:
世長創司郎ルートをプレイする人に勧めたい点や,感じ取ってほしいことなどはありますか?
佐藤さん:
あと,創ちゃんのルートが終わったら,できれば冒頭の,創ちゃんが希佐ちゃんを見つけたシーンをもう1回見てほしいです。なんであんな顔をしたのか,あのトーンで話しかけたのかの答えがあるので。彼は2度おいしいです!
4Gamer:
取材前に完成したゲームをプレイして感じたことで,なんと伝えて良いか難しいのですが……簡単な言葉になりますが,世長創司郎は立花希佐への気持ちが“重い”なというのがありました。
佐藤さん:
そうなんですよ,めちゃ重い(笑)。彼は「めんどくさい」って思われてもしょうがない子なんですけど,その愛情があるからこそ芝居に打ち込めるんだろうなって思います。
希佐ちゃんに対する愛情が増幅すればするほど,芝居に対する想いも増幅するという不思議なリンクもあるので,これじゃ重いと思われてもしょうがないやって(笑)。
4Gamer:
(笑)。そのあたりは,ご自身と比べるといかがでしょう。
佐藤さん:
僕は気になる人がいても,芝居のほうを優先しちゃうと思います。もちろん同じくらい愛するけど,両方は無理なので……。最近は,オンオフをしっかり切り替えようとは思っているんですが(笑)。
4Gamer:
ここからは,「もしも?」という質問なのですが,佐藤さんがユニヴェールに入学したとしたらどのクラスに入りたいですか?
佐藤さん:
クォーツ以外だとオニキスなのかなあ。熱量や体育会系のノリが好きで,楽しそうだなって思います。
逆に,アンバーは恐いから無理です(笑)。(お客さんとして)公演を観る側ではいたいけど,入っても上がってこれなくなりそうな気がします。
4Gamer:
では,クラスメイトや友人として,一緒にいたら楽しいと思うキャラクターは誰ですか?
佐藤さん:
スズくんかなあ。なんであんなに明るいんだろうってくらい明るい人じゃないですか。僕自身が創ちゃんに近いところがあるので,外に引っ張り出してくれるスズくんみたいな人はいいなあって。
あとは,やっぱり希佐ちゃんです。芯がしっかりしていて天真爛漫で。「そりゃあ創ちゃん,気になるよね」って思います。ずっと一緒にいたいって思える人ですね。
4Gamer:
もし,世長創司郎と組んで芝居をするとしたら,どんなことがやってみたいですか?
佐藤さん:
4Gamer:
逆に,明るく楽しいコメディなどはいかがでしょう。
佐藤さん:
たしかに,創ちゃんのコメディってあまり想像できないからやってみたいですね!
でも,創ちゃんと勝負するならやっぱりシリアスがいいかなあ。
4Gamer:
あらためて,作品に対する思いを聞かせてください。
佐藤さん:
僕自身は「ジャックジャンヌ」と出会えて幸せで光栄ですし,石田スイ先生の作品に携われたことは,生涯誇りにできると思います。
「ジャックジャンヌ」は演技版のスポ根なんですよ。その中で,少しずつしか成長できないもどかしさや,天才と呼ばれる人たちがどれだけの努力をしたうえで天才と呼ばれるようになったのかも描かれています。だから,男女問わずいろんな世代の人にプレイしてほしいですね。
命のやりとりはお芝居の中だけですけど,役者の生き様が全部入っていると思います。1人でも生涯この作品を忘れない人が生まれてくれれば,僕はそれだけで十分幸せです。
4Gamer:
最後に,ジャックジャンヌのファンやこれからプレイする人に向けてメッセージをお願いします。
佐藤さん:
長い間この作品と関わって,こうやって話す場所があればと思っていたので今日は嬉しかったです。まだまだ伝えたいことはたくさんありますが,それはみなさんに遊んでいただくことで届けられると思います。
これは革命のような作品だと思いますので,最後までお見逃しなく! 創ちゃんもよろしく!
「世長創司郎」CHARACTERページ
(ジャックジャンヌ公式サイト)
インタビュー(7)織巻寿々役:内田雄馬さん
■声優に憧れるきっかけとなった「劇中劇」をやってみたかった
4Gamer:
最初に「ジャックジャンヌ」の台本に目をとおしたときと,収録に挑んだときの感想や思いを聞かせてください。
織巻寿々役:内田雄馬さん(以下,内田さん):
僕らも芝居をする職業ですから,昔を思い出したり,彼らが置かれている環境や悩みについて親近感を持てました。劇中劇もこれまでやってみたいと思っていた題材だったので,参加できることになってすごく嬉しかったです。
4Gamer:
ジャックジャンヌに参加する以前から,劇中劇にも興味があったのですか。
内田さん:
はい。そもそも僕が声優という職業を知って,憧れるようになったきっかけの作品が「サクラ大戦」だったんです。
(サクラ大戦には)「帝国華撃団」というのが出てきますが,あれは歌劇団という一面があって。ゲーム本編も歌劇の要素がある作品で,さらにキャスト自らが自身の担当する役を演じる「歌謡ショウ」や舞台が行われていますよね。その舞台では,声優の皆さんが自身のキャラクターになりながら,さらに劇中劇での役を演じていました。
それってすごいことじゃないですか! そこに憧れて自分はこの場所にやってきたので,劇中劇はぜひやってみたいって思っていて。それが本作に気合いの入った理由のひとつかもしれません。
4Gamer:
声優になったきっかけの一つが「サクラ大戦」だったというのは,このインタビューを読んでいるゲームファンにも嬉しい話かと思います。
続いてですが,ご自身が担当される織巻寿々の第一印象についても知りたいです。
内田さん:
4Gamer:
内田さんご自身とはなにが違うと思ったのでしょう。
内田さん:
運動神経がいいところですね。剣道をやっていて,バク宙もできるし身体能力が高いので,そこは羨ましいなって。あと,タッパがあるところもかな(笑)。
4Gamer:
では実際に演じ始めてみてからはどうでしょう。
内田さん:
スズはすごくまっすぐで,芝居への憧れや好きって気持ちはあるんだけど,スキルはなにもない状態でユニヴェールに入るんですよね。彼の持っている天性や“華”をどう磨いていくか,磨かれていくかがスズの物語のポイントだなと感じました。
ゼロから積み上げていき,ひたむきに進むところは演じていて楽しかったです。青春を感じましたし,こういうキャラクターは体力を使うんですけど,元気をもらえたりもしますしね。
■「この人はもっと輝くのかも」と思ってもらえる演技を
4Gamer:
数回に分けて台本をもらったとのことですが,収録が進み,織巻寿々のさまざまなエピソードに触れてから,彼への印象はどのように変わっていきましたか?
内田さん:
スズは明確に「俺は芝居が出来ねえから!」って自覚していて,その上で「もっとうまくなりたい。みんなと良い芝居を作りたい」って思って聞きに行く。それって勇気がいることだと思うんです。
4Gamer:
同じ“1年生チーム”の寺崎さんと佐藤さんもそのあたりは話していました。演技に限らずですが,人に聞きに行くってことって,けっこう大変なことだったりしますよね。
内田さん:
(自分も)若手のころに,先輩に「俺の芝居ってどうですか?」って聞きに行けたことはないですから(笑)。
でも,気になることは聞きに行ったり,直接自分の足で探しに行ったりしていましたね。それは自分の演技がどうっていうより,いい芝居を作りたいって思っているからできるんだなって。
4Gamer:
織巻寿々を演じたことで,考え方の共通していた点に気づけたんですね。
ゲームをプレイしてみて,聞きに行く1年生の3人に答えてくれる先輩たちも素晴らしいなと感じました。それもなかなかできないことだなと。
内田さん:
ですよね! スズの先輩たちはめちゃめちゃ丁寧に教えてくれていて,すごく素敵な関係だなって思いました。声優業界だと(演技の話は)教えようがないこともあるとは思うんですけど,内田は質問されたら答えるようにはしています!
……まだあまり聞かれたことがないから,もっと頼られるように頑張らないと(笑)。
4Gamer:
先ほど,憧れがあったというお話だった劇中劇について聞かせてください。織巻寿々となったうえで舞台に立つ際の役作りについて,どのように取り組んだのか知りたいです。
内田さん:
スズは作中でもよく,どんな役でも「あれは織巻だな」って言われるんですよね。彼が彼らしくあることが台本や役に反映されているので,場の空気が変わりすぎないような役の作り方を心掛けていました。
チャンス(最終公演で演じた役)はそれの最たるもので,ルイス(夏公演「ウィークエンド・レッスン」で演じた役)は,スズが持っているエネルギッシュなところを立てて,言葉を発しやすいような役作りをしました。
不眠王(新人公演「不眠王」での役)を演じるのが一番難しくて,いろいろ手探りしていましたね。
4Gamer:
不眠王のどのようなところが難しかったのでしょうか。
内田さん:
(不眠王の役には)そもそもスズが本来持っているものがあまりないんですよね。いつも不機嫌に見える王様をどう作っていこうかなと。さらにそれを作るまで……稽古のシーンとかがけっこう大変だったんです。
4Gamer:
織巻寿々は入学したてで,演じること自体にまだ不慣れな時期ですね。演技が“できない”演技というのは,大変だったのではないかと感じました。
内田さん:
スズの場合,何も分からないところからのスタートなので,このシーンを演じるにあたってはこの解釈を抜く,みたいな。距離感を抜く,体の状態を抜く……ってやっていくことで,ただ言葉を発しているだけの存在ができあがるんです。そうやってから,今度はそこにちょっとずつ要素を足していく……というのが不眠王との向き合い方でした。
4Gamer:
内田さんの中で一度完成形の演技を仕上げ,そこから少しずつ減らして“完成した演技に至らない”織巻寿々の演技を作り上げた……みたいなイメージでしょうか。そのあたりの“できなさ具合”の調整も難しそうですが,どんな思いで挑んだのでしょう。
内田さん:
不眠王は金賞を獲る可能性があって,「この人はもっと輝くのかも」って思わせるものを作る必要があったんですよね。ということは,下手すぎると成立しなくなっちゃうので,そのあたりは気にしていました。
芝居って,思い込みの強さを始めとしていろいろ大事な要素があると思うんですが,一番最初にくるのって“そこにいる自分を信じられるかどうか”なのかなと思っていて。新人公演の彼らにはその強さがあって,それが一番の魅力になっていると考えて演じました。
4Gamer:
演技力ではなく,芝居に挑む思い,みたいなところですね。
そのあたりはかなり“説得力”が求められたかと思うのですが,素人同然の状態から,ちゃんと役者として力をつけていくところの,内田さんの演技は絶妙だなと感じました。
内田さん:
ありがとうございます。そのあとの公演で,スズが,あまりにも自分自身とかけ離れた役で「どうすりゃいいんだ」ってなるところがありましたが,彼は周りの言葉や影響を受けてちゃんと変われる人で。そうやってみんなで芝居を作り上げていくっていう美しい形が見えたので,大変でありながらも,演じていて楽しかったです。
4Gamer:
舞台を彩る楽曲についても,エピソードがあればぜひ教えてください。
内田さん:
かなりの曲数があったので,わりとマメに「ジャックジャンヌ」のレコーディングに行っていました。歌に関してはまた難しいところで,スズは歌がうまくないけど,声の通りは良いっていう設定があるんですよね(笑)。
4Gamer:
とくにこれは印象深いという楽曲や録音時の話があればお願いします。
内田さん:
内田的にも高いし,「どうアプローチしたらいいんだろう?」と思って,最初はわりとクラシカルな,ミュージカル的な歌い方をしてみたんです。でも,もう少し達者な感じがしないように,声をバーンとぶつけるような歌い方にしました。「弾ける」っていう表現があったし,(劇中で)王様はこの曲で踊り疲れて眠ってしまうわけだし。
4Gamer:
ゲームをプレイしていて,あの曲が始まったときは,なんというかちょっと驚きました。それまでの劇の展開を見ていると……。
内田さん:
ですよね。プレイしていて初めてこの曲を聴いた人はびっくりすると思います。「王様,声出るじゃん!」みたいな(笑)。でもスズがそういう人なので,そこが伝わればいいなと思って歌いました。
4Gamer:
もう1曲は立花希佐とのデュエット曲ですね。
内田さん:
「鈴かけの木をこえて」は,僕が先にレコーディングしていたんですが,どれぐらいハーモニーを作れるかが難しい曲でした。でも,あのシーンは王様と娘の心が通じ合うところでもあったので,なるべくちょっとずつハーモニーを響かせていくのを意識して歌ったのを覚えています。
むしろ(デュエット相手の)立花のほうが合わせていけるっていう設定だったので,王様として精一杯,娘への想いを込めました。
4Gamer:
なるほど。そう考えると、先に内田さんが歌ってそれに寺崎さんの歌を重ねるという録音順も、劇中に合わせたものということなんですね。
歌についても成長を意識されていたかと思うのですが,そのあたりはどうだったのでしょう。
内田さん:
ストーリー後半にかけてちょっとずつ技術的なものを入れて,歌い方を変えていきました。ただ,「我らグレートガリオン」(夏公演の劇中曲)はそういうのがあまりないというか,スズの“ノリ”みたいなものを活かして歌っています。あまり自分ではやったことのない歌い方だったので,あれは楽しかったですね。
■スズの危うさは,全部一生懸命だからこそだって思います
4Gamer:
学生生活や演劇活動には,さまざまなイベントや印象的なシーンがありますよね。その中でもお気に入りのものがあれば聞かせてください。
内田さん:
そうだなあ,いろいろあるけど……追いかけてくるストーカーから立花を守るところですね。
スズは普段から男らしくて頼りになるんですけど,その強さの印象がいつもと違うというか。隣にいて助けてくれるっていうところから,目の前に立って守ってくれる背中の頼もしさみたいなものが感じられるシーンなんですね。あと,スズが怪我をしても無理しようとするところもかな。
4Gamer:
そのシーンは,どんなところがお気に入りなんでしょう。
内田さん:
「やりたいんだ,やらなきゃいけないんだ」っていう想いをコントロールしきれない不器用さが見えるところで,「これだけ頼りになる人なのに,そういう危うさもあるのか」っていう。まだ学生だっていうのもあると思うんですけど,“全部一生懸命だから”なんですよね。だからこそ生まれるエピソードで,そこが伝わってくるのが良かったです。
あとは,やっぱり温泉! スズは立花のことを男として接しているんだけど,それを演じるこちら側はなんだかこう……みたいな。なんだかワクワクする収録でした。収録時は僕1人なんですけどね(笑)。
4Gamer:
(笑)。温泉は各キャラクターの反応が面白いですね。寿々の場合は「本当に気づいていないんだろうな」っていう安心感があってよかったです。
内田さん:
そうそう,そうなんですよ! 「立花って本当に女みたいだな」とは思ってるんですけど,「いやいや,こいつは(男子校の)ユニヴェールの生徒だからな!」っていうのが彼の中にあるので。
かわいいですよね。僕は心のなかで「おっ,きたな……!」と思いながら台本を読んでましたが(笑)。
4Gamer:
そういう人だからこそ,織巻寿々ルートでの展開は衝撃でした。
内田さん:
すごく(希佐を)見てたんだなっていうのが分かりますよね。相手のことをちゃんと見てきていたからこそのセリフなんだ……と。詳しくは言えないですけどね。
4Gamer:
ちょっとここでリラックスしたお話に。まず,内田さんご自身がユニヴェールに入学したら入ってみたいクラスはどこですか?
内田さん:
まず,アンバーだけはイヤです(笑)。ロードナイトはちょっと興味ありますね。舞台上以外での姿を見たくない気もするけど,「普段どんな生活してるんだろう,あの人たち?」っていうのが気になります。入りたくても,タイプ的に僕は入れてもらえないと思いますけど(笑)。
4Gamer:
それでは,一緒のクラスになりたいという人も教えてください。もちろんクォーツ以外でも構いません。
内田さん:
小粋にジョークとか言いながら,なんだかんだで面倒見てくれる。カッコいいですよね……。
4Gamer:
もし内田さんが織巻寿々と組んで芝居するとしたら,どんなものをやってみたいですか?
内田さん:
いま思い浮かんだのはアレですね,タイトルを思い出せないのですが,あの,乳母車を押して子どもを連れている侍の……なんでしたっけ。
4Gamer:
「子連れ狼」ですか?
内田さん:
そうそう! 「子連れ狼」みたいな時代劇です(笑)。スズにはそういう侍みたいな役をやってほしいです。僕はスズの脇でいいので,語り手とか,黄門様みたいな感じで(笑)。スズがかっこいいところを見たいです。
4Gamer:
収録を終えて,あらためて感じた織巻寿々の人間性や魅力について教えてください。
内田さん:
最初に出会った瞬間から分かる,人を惹き付ける元気なところが彼の本質だなと。あらためて“嘘をつけない性格”というところにも魅力を感じました。
ごまかすことができないし,ごまかそうとしても上手にできないし。人間って誰しも裏表があると思うんですが,スズはその差が少ないんですよね。彼を象徴している部分は表から見えているところにあるので,逆に「こいつ,なんかあったな」っていうのがわかりやすい。その不器用さがかわいいですよね。
4Gamer:
内田さんご自身のなかで,織巻寿々を演じたことで変わったことや気づかされたことはありますか?
内田さん:
演技の上手と下手の定義ってすごく難しいことだと思うんですが,そういうことを考えながら演じるのはなかなかない経験でした。
最近,芝居の“理由”みたいなものを言語化して説明できるようにしたいと思っていて。芝居をしたことのない人たちに言葉でその思いを伝えて,「なぜこういう演技をしたか」を知ってもらうというか。そういった説明ができれば,自分自身の芝居の能力も上がるだろうなと。
「これができない」「これはできる」「これがあるとこうなるけど,なければこうなる」……そんな“演技の足し引き”が分かっていれば,ほかの人に説明もできるし,自分自身で再現もできる。それを考えるという意味でも,ジャックジャンヌの経験は貴重なものとなりましたね。
4Gamer:
1年生の3人の熱意に応えた先輩たちにも通じるものを感じる考えですね。では,「ジャックジャンヌ」という作品全体や織巻寿々について,あらためてその思いを聞かせてください。
内田さん:
自身が演じる役という“他人”のことを考える役者というのは,自分の悩みにはなかなかたどり着かないというか,答えが出しにくいものでもあると思うんです。そんな中,彼は悩みながらも誰かの言葉や姿をきっかけに答えを見つけていくわけですが,これって役者に限らず,誰かとコミュニケーションするうえで大事なことじゃないかなって思いました。
4Gamer:
実際にいくつかのルートをクリアしてみると,役者の世界という話だけではなく,もっと普遍的なところで訴えてくるものを感じますよね。
それでは最後に,インタビューを読んだ人やゲームファンにメッセージをお願いします。
内田さん:
彼らが一生懸命コミュニケーションをとりながら作品を作り上げる姿は,すごく勇気をもらえるし,気持ちよく爽やかな時間を過ごせると思います。ぜひ「ジャックジャンヌ」をプレイしていただいて,さわやかな青春模様と,恋愛も……スズくんはちゃんとキスできるのかな? とかも(笑)。そういうところも楽しんでほしいですね。
最高の青春体験が待っていますので,ぜひユニヴェールに足を運んでいただけたらと!
「織巻寿々」CHARACTERページ
(ジャックジャンヌ公式サイト)
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