インタビュー
Team BeastはCygamesからMildomへ。渦中のウメハラ氏に聞く,その決断と2020年のプロゲーマー事情
ライブ配信プラットフォーム「Mildom」がプロゲーマー・ウメハラ氏の新スポンサーに。氏率いるTeam BeastはTeam Mildom Beastとして再始動
DouYu Japanが運営するライブ配信プラットフォーム「Mildom」は本日(2020年4月3日),4月1日よりプロ格闘ゲームチーム・Team Beastとのスポンサーシップ契約を開始したと発表した。ウメハラ氏が率いる同チームは,今後「Team Mildom Beast」として活動していく。
新たなスポンサーとして名乗りを挙げたのは,ライブ配信プラットフォームの「Mildom」で,チームは今後Team Mildom Beastとして活動することになる。Mildomといえば,中国の動画サービス・DouYuの日本版として,昨今配信者も増えていて盛り上がりを見せているプラットフォームだ。
古巣であるTwitchは同業他社,とはいえスポンサードがなければチームは存続できないという状況で,ウメハラ氏は決断を迫られることになった。今回4Gamerでは,この大きな変化を迎える氏に,今回の決断の経緯と意気込みについて,短い時間ながら話を聞く機会を得た。またCapcom Pro Tourの一時休止,およびコロナウィルスの影響で揺れる昨今のプロゲーマー事情についても聞いてみたので,ファンはぜひ一読いただきたい。
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ライブ配信プラットフォーム「Mildom」
Team Mildom Beast,誕生の経緯
4Gamer:
よろしくお願いします。今回,Team BeastがMildomのスポンサードを受けることが決定したということですが,その経緯からお話いただけますか。
ウメハラ氏:
理由はいくつかあるんですが,一番はTeam Beastを存続させたいと思ったのが大きいですね。Cygamesとの契約が切れるタイミングでMildomに声を掛けてもらっていろいろな思いがありましたが,2019年に鮮烈なデビューを果たしたInfexious(インフェクシャス)に,スポンサーが付かない1年を過ごさせるのは,あまりにもったないというのはかなり大きかったです。
4Gamer:
確かにInfexious選手のファンは,日本でも増えてきているように思います。
ウメハラ氏:
いいキャラしてますよね。誠実だし腕もある,とても良い選手だと思います。
4Gamer:
ということは,チームのための決断だと。
ウメハラ氏:
そうですね。自分としても,あのチームにはこだわりがありましたし,なくなってしまうのはやっぱり避けたかった。あと,ちょうどよい良い機会だと思ったのもあります。皆が拠りどころにしていたCapcom Pro Tourが,こんなにあっさりとなくなってしまう――とりまく状況を考えれば当然ですが――なら,プロゲーマーの在り方というのも,考え直すべきときなのかもしれない。
4Gamer:
先のお話でいろいろ考えたというのは,どういったことをですか?
それはやっぱり,自分としては長らくTwitchで配信してきて,あの場所には思い入れがあるわけです。それを一旦リセットしなくちゃならないのは,やっぱりストレスがあります。言ってみれば今まで作り上げてきたものを捨てるようなものですから。なので,良い話だと思いつつも迷いはありました。
4Gamer:
それはそうですよね。じゃあ,今後の配信はMildom一本になるわけですか。
ウメハラ氏:
いえ,そういうわけじゃないんです。簡単に言うと,ある程度認めてもらっています。それも今回頂いた好条件の1つです。でもスポンサーの立場からしたら,視聴者が期待する企画はMildomでやってほしいと思うのが当然でしょう。だからそこは線を引くべきだなと考えています。
4Gamer:
MildomとTwitchで,コンテンツを分けるということでしょうか。
ウメハラ氏:
分けようとは思っています。ただ,まだ具体的にどうしていこうかというのはこれからです。
4Gamer:
まだ考えあぐねていると。Mildom側からの要望はないんですか? お聞きしている限り,かなり自由そうですけど(笑)。
ウメハラ氏:
これから一緒に話し合っていく感じですね。ただ言ってみればチームを拾ってくれたわけだから,その恩には報いたい。だから自分にできることは,全力でやっていきたい。
4Gamer:
なるほど。Team Beastのメンバーは変わらず?
ウメハラ氏:
GamerBee(ゲーマービー)は独自でやっていくということで離脱しますが,あとは変わらずですね。
4Gamer:
そもそもなんですが,Mildomって海外からでも視聴可能なんでしたっけ。
ウメハラ氏:
見ることはできますが,サブスクやチャットなんかの一連の機能はまだ国内ユーザーに限られています。だからInfexiousとかPR Balrogは大変かもしれません。僕も海外の視聴者がたくさんいて,彼らにサポートしてきてもらっているので,そこは初めに改善してもらえるようにお願いしています。
4Gamer:
うーん,なるほど。……なんかちょっと,今回歯切れが悪くないですか(苦笑)。
ウメハラ氏:
コミュニティにどう捉えられるのか……正直この数週間は不安で憂鬱でした。
4Gamer:
ああ。ウメハラさんは,そういうのとは無縁なのかと思ってました。
ウメハラ氏:
自分でも,世論というものをあまり気にしないで生きてきたつもりではあるんです。僕はこう思うからこう動く,こう発言する,みたいなね。視聴者の方も,ゲームやコミュニティに対して純粋というか,利害抜きで真摯に行動するイメージを持ってくれていたと思うんです。実際そのように活動してきたつもりですし。でも今回は,その逆に捉えられてしまうんじゃないか,反動はあるかもしれないなと。そういう意味での緊張感は感じています。
4Gamer:
緊張感ですか。
ウメハラ氏:
でもTeam Beastが解散するかもって事実に,大きく動かされたわけです。解散させたくない,じゃあどうするか決断するにあたって基準にしたのは,「自分だけが大変ならやろう」ということでした。今回自分が憂鬱に感じたのって,まさにこの「大変そう」だったわけです。この2016年から2020年までやってきたことがリセットされる徒労感というか。
4Gamer:
自分が大変なだけ……。なるほど,確かにそうかもしれませんが,自分だったら公言するのにちょっと抵抗ありますね。
ウメハラ氏:
でも大事なのは,この選択によってチームは再生されるということ。それは自分にとっては嬉しいことで,ほかのメンバーもきっと嬉しいに違いないから。だったら頑張れる。決断のプロセスとしては,そんな感じです。そもそもアケコンを捨ててHit Boxに乗り換えたときだって大変だったわけだし,今まで築いてきたものの上にあぐらをかいてプロ活動をしようなんて思ってないから。やると決めたからには気持ちを切り替えて,配信を一生懸命やる。そこはもう,全部本音ですよ。
4Gamer:
なるほど。これまで以上の活動ができるかもしれない。
ウメハラ氏:
Mildomがチームスポンサーになった今,やれることが増えたのは間違いないんです。スタッフだって増やせるし,チームメンバーだって増やせるかもしれない。イベントだって――今は状況が状況ではあるけれど――もっとやれるはずです。配信のほうも,ちょっと出だしは上り坂になるけれど,企画をいろいろ考えてみようと思ってます。場所が変わることで一旦影響を受けたとしても,全力を注いでいくことに変わりはないし,格ゲーコミュニティだけじゃなくて,配信コミュニティをもっと盛り上げていきます。期待してほしいですね。
大会のない,2020年に思うこと
4Gamer:
先ほどもCapcom Pro Tourの休止の話がありましたが,昨今はプロゲーマーにとってもいろいろと苦しい時期なんじゃないかと思います。大規模大会の中止が相次ぐなか,ウメハラさんが今考えていることを聞かせてもらえますか。
ウメハラ氏:
まず「ストリートファイターV」(PS4 / PC)に対するモチベーションという意味では,まったく変化がないですね。去年よりやる気あるぐらいですよ。やってて楽しいですし,やり甲斐も感じています。ただ大会がないので,その分自由になる時間は増えるわけです。じゃあその時間を何に当てるかというと,僕の場合はやっぱり配信になると思うんですね。
4Gamer:
この状況下では,そうなりますよね。
ウメハラ氏:
いや,消極的な理由だけじゃなく……この仕事に常に危機感を感じているんです。今回のコロナの件もそうですし,それ以外のもっとさまざまな要因でも,今の仕事はなくなってしまう可能性はある。そうなったときプロゲーマーはどうするのかって考えると……違う可能性も考えておく必要がある。であれば,空いた時間は配信に使っておくべきじゃないかと思うんです。
4Gamer:
大会に出るだけがプロゲーマーじゃない,と。
ウメハラ氏:
むしろ仮にプロを辞めざるを得なくなったとしても,「自分は全力でやったし,後悔はないな」って思って辞めたい。いや,別に辞めたいわけじゃないですけど(笑)。
4Gamer:
新しい可能性にチャレンジする年にしたい?
ウメハラ氏:
そうですね。「ストリートファイター」の盛り上がりとしては,やっぱりCapcom Pro Tourがあったほうがいいわけです。でもそれだけに頼りきるのも心許ないじゃないですか。仮に今年1年Pro Tourがなかったとしても,プロゲーマーとしてやっていけるような。そういう可能性を模索する年としては,怪我の功名じゃないですけど,アリなんじゃないかと。
4Gamer:
プロの皆さんも,今はいろんなゲームの配信をやってたりしてて,見ているほうとしては面白いですけど。
ウメハラ氏:
やっぱり大会っていうのはプロゲーマーにとって大事だったんだなって,イベントがなくなって改めて感じましたね。モチベーションを維持するうえでも,プロゲーマーとして責任を持つという意味でも。大会があるんだからやらないわけにはいかない。
僕は大会あろうがなかろうが,「ストリートファイター」が好きでやっちゃうから変わらないんですけど。全体的には大会がなければほかのゲームをやっちゃうんじゃないですかね。
4Gamer:
あー……そうですね(笑)。
ウメハラ氏:
今年1年で,いろんなものが大きく変わる気がします。来年に「じゃあPro Tourを再開します」ってなったときに,皆が同じように世界中を回るのかっていうと,ちょっと分からない。もしかすると自分の居場所,生き方を別なところで見つけちゃってるということもありえるわけで。
4Gamer:
それこそストリーマーとして成功して,戻ってこなくなる可能性だってある。
ウメハラ氏:
戻ってこないでしょ(笑)。僕にしてみれば,Capcom Pro Tourがあったからできなかったことも今年はできるかもしれない,と想いは膨らみます。イベントと被っちゃうからできなかった週末イベントもできるわけです。もちろん今はイベント自体できませんが。
4Gamer:
それこそ,ゲームにはオンラインでできるという強みがありますし。
ウメハラ氏:
そうなんですよ。だから配信業界は今,頑張ろうって感じになってますよ。
4Gamer:
先日延期が発表された「獣道IV」もその一環と考えていいのでしょうか。
ウメハラ氏:
ええ。「獣道」は定期的にやっていきたいですね。ただ今回もメインのカードとして海外の選手を組んでいたので延期にはなりましたが,形を変えてやろうとは思っています。続報を待っていただければと。
4Gamer:
前回は対戦カードに「バトルガレッガ」が採用されていましたが,今回も格闘ゲーム以外のタイトルが入るのでしょうか。
ウメハラ氏が主催するゲームイベント「獣道 III」のフォトレポートをお届け。タイトルを代表する獣たちがプライドを賭けた戦いに臨んだ
2020年3月1日,東京都豊島区の池袋 Livehouse monoにて,ウメハラ氏が主催するゲームイベント「獣道 III」が開催された。「スーパーストリートファイターIIX」「バトルガレッガ」「ストリートファイターV」を代表する獣たちが見せた戦いの模様をフォトレポートでお届けする。
ウメハラ氏:
入ってます。日本のeスポーツは格闘ゲームがちょっと目立ってる感じで,それ自体はいいことだと思うんですけど,それ以外のジャンルも熱量は変わらないんですよね。今回,PVの撮影なんかで向こうのコミュニティにお邪魔させてもらったんですが,やっぱりゲームが好きなヤツらってみな同じなんだなって,改めて思いました。だからいいプレイヤーがいるなら,どんどん出していきたいと思ってます。
4Gamer:
個人的な興味で恐縮なんですが,獣道でのときどさんとの再戦は考えてないんでしょうか。
ウメハラ氏:
向こうは前々から獣道でやりたい気持ちがあるみたいで,そういう話自体はあったんです。ただそれが視聴者から求められているのかどうかは気になっていました。でも先日のTOPANGAチャンピオンシップで自分が完璧に負けて1-1になったので,皆に次を見たいって気持ちは生まれたかもしれない。となると,どこかのタイミングでやってもいいかもしれないですね。
4Gamer:
ぜひ見たいです!
ウメハラ氏:
ただ中途半端な時期にやってもキリがないので,だったらそれこそ「ストリートファイターV」が終わるときとか,そういう節目にやるべきかなと。今はそんな気がしてます。
4Gamer:
分かりました。最後に何かファンに向けたメッセージをいただけますか。
ウメハラ氏:
2020年は逆境の年になると思います。配信のプラットフォームが変わることも含めて,ですね。そっちは自分で選んだ道ではありますが,こういう状況のときこそ燃えるタイプだとも思っているので,むしろワクワクしています。またイチから頑張って積み重ねていきますので,そこを見守ってもらいたいなと。ゲームも変わらず続けていきますんで。
4Gamer:
期待してます。本日はありがとうございました。
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ストリートファイターV チャンピオンエディション
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