プレイレポート
[プレイレポ]「To the Moon」シリーズ2作目,「Finding Paradise」。記憶を改ざんする仕事の依頼内容は,“極力,変えないこと”
本作は配信開始当初,イベントを進めるためのオブジェクトを調べられなかったり,リリース後の小規模アップデート後にそれまでのセーブデータが読み込めなくなったりと,さまざまな不具合があった。そのなかには,進行不能になる不具合もあり,長らくゲームを進められなかったのだが,1月中旬頃のアップデートで修正された。2022年11月18日リリースのタイトルなのに,本記事の掲載が2023年2月になったのも,そのためである。
ストーリー重視のゲームを,ネタバレせずに書くのは難しい。筆者は前作「To the Moon」の記事も書かせていただいたのだが,ネタバレには気をつけつつも,ある程度は「どんなストーリーなのか」を伝えることで,興味を持ってもらう書き方を心がけた。なぜなら,評判の良いゲームであっても,人は必ずしも手に取らない。筆者も「To the Moon」の評判の良さは知っていたが,Nintendo Switch版の登場まではプレイしていなかったからだ。本記事もネタバレは抑えつつ,「どんな話なのか」をお伝えするスタイルにしている。
というわけで,「To the Moon」をプレイした人なら,当然,興味があるであろう本作。シリーズ2作目,「Finding Paradise」のプレイレポートをお送りしたい。「To the Moon」を未プレイの人は,筆者が書いた以前の記事を読んでみていただけると幸いだ。
切なさとロマンティックが止まらない。「To the Moon」は人々の“限界を尽くしてやりきる”姿に心打たれるタイトルだ
X.D. Networkは2020年1月16日にNintendo Switch版「To the Moon」の配信を開始した。本作は,死の淵に立つ老人の記憶に入り,やり残した夢を叶えてあげるという物語が描かれるタイトルだ。本稿では,ゲームをプレイして心揺さぶられた筆者が極力ネタバレを抑えて内容を紹介していく。
今回の依頼人の願い──それは,“極力,何も変えないこと”
本作「Finding Paradise」と前作の「To the Moon」は,記憶を改ざんする超マシンを開発した「ジークムント・ライフジェネレーション・エージェンシー社(以下,ジークムント社)」という会社の社員であるDr.エヴァ・ロザリーン(以下,エヴァ)とDr.ニール・ワッツ(以下,ニール)が,依頼人の願いを叶えるため,依頼人の記憶の中の世界にダイブする話だ。
ジークムント社は,「思い残すことなく死を迎えられるよう,依頼人の願いを叶える」という名目で,記憶を書き換えることを業務としている。あくまで記憶の書き換えなので,依頼人の実際の人生は何も変わらない。だが,依頼人が死してこの世を去る瞬間,「自分は,この人生でやりたかったことを成し遂げた」という充足感を持って,この世を去ることができるというわけだ。
このシリーズは,「エヴァとニールが,依頼人の願いを叶えるために記憶の世界で奔走する」という,1話完結型のスタイルだ。そのため,前作「To the Moon」とストーリーに直接のつながりはなく,本作「Finding Paradise」からプレイしても問題なく楽しめる。
ただ,前作をプレイしていると,ところどころにニヤリとできる仕掛けが入っている。冒頭で,道路に出てきた小動物を避けようとして,あわや事故寸前になるのだが,これは前作の冒頭でリスを避けようとして盛大に事故ったことを知っていたら,「またかよw」と心の中でツッコミを入れられる。
さて今回の依頼人の願いは,なんと,「極力,何も変えないこと」。前作の依頼人の願いは「月に行くこと」で,ニールも「想像のナナメ上」と評して困った様子だったが,今回は,もはやジークムント社の業務の否定ともいえる依頼だ。何も変えなくていいなら,なぜジークムント社に依頼したのか。冒頭から,前作をしのぐ謎が提起される。
今回の依頼人・コリンは,元パイロット。良い奥さんと息子に恵まれ,経済的にも何の心配もなさそうな家庭だ。記憶の世界でも,コリンの幸せな人生模様が垣間見える。幼少期は友人に恵まれない孤独な日々を送っていたようだが,音楽をきっかけにソフィアという女性と知り合い,やがて結婚。アッシャーという子も授かり,理想ともいえる人生を送ったように見える。
時には些細な失敗はあったようだが,その程度は誰の人生にもあるもの。わざわざジークムント社に頼んで記憶を書き換えてもらうほどのことでもない。
しかも,コリンがジークムント社に依頼をしたことについて,ソフィアは快く思っていない。ソフィアはコリンと共に送ってきた人生を後悔などしていないし,夫・コリンもそうに違いないと信じていたら,人生も終わりに差し掛かった頃に,実は記憶を書き換えたいと思っていたことが判明したわけだ。そりゃあ,妻としては心中穏やかではないだろう。せっかく今までうまくいっていたのに,ジークムント社に依頼をしたことによって,夫婦仲に亀裂を入れてしまっている。
前作は,「月に行きたい」と願う依頼人の,その理由への興味が牽引力となっていたが,今回は,「この人生に何の不満が?」という謎が物語の深淵へと引き込んでいく。
後の妻・ソフィアと,第二の女・フェイ。見え始める三角関係……?
順風満帆といってもいい人生だったが,青年期に差し掛かった辺りで,少し異変が起きる。コリンは幼少期からアパートの向かいのベランダの女の子・フェイと交流を深めていたが,青年期に音楽をきっかけに出会った女性・ソフィアと付き合い,そのまま結婚までいってしまう。
しかも,コリンはソフィアのことをフェイに相談したりしている。これがラブコメ漫画だったら,「フェイという者がありながら!」とか,「コリン,鈍感すぎじゃね……?」とか思ってしまうところだが,なまじ子供のころから知りすぎているため,フェイは恋愛対象にならなかったとか……? と,いろいろと想像はできてしまう。
コリンの人生において,フェイといた時間は相当に長い。青年期にソフィアと出会うまで,コリンにとって友人といえるような存在はフェイだけだ。そして,ソフィアとの結婚後,フェイはパッタリと姿を見せなくなる。この「フェイという女は何者なのか」という謎が,一種のミステリーとして,プレイヤーの興味を引き続ける。
また,前作では,依頼人の老年期から幼年期へ向かって記憶を遡行していく展開だったが,今回は老年期からいきなり幼年期へ飛び,また老年期へ……と,記憶を行ったり来たりすることになる。最終的に青年期の記憶に向かっているのだが,そこはまさに,コリンがソフィアと結婚して,フェイが登場しなくなる時期なのだ。
果たして,ソフィアとフェイによる三角関係なのか。それとも,真相はまったく異なるのか。……と,この先を語るとネタバレになってしまうので,気になる人は実際にプレイしてみてほしい。
「To the Moon」とは対照的な作品。隅々まで味わうには,想像力と読解力の翼を羽ばたかせる必要がある
前作「To the Moon」では,終盤,プレイヤーが「ああ,そういうことだったのか──」と感じる,推理小説にも似た“真相への到達による達成感”があった。しかし,本作はその部分がやや曖昧になっていて,エンディングスタッフロールが始まったとき,人によっては「……え? これで終わり? まだまだ謎だらけじゃない?」と感じる可能性が高い。本作の中で起きた出来事や,コリンの記憶の中で見たことについて,ひとつひとつ丁寧に「これは,こういうことでね」と解説してはくれないため,ある程度の想像力と読解力が要求される。そういう意味では,“クリアしてからが本番”かもしれない。
次作以降への“匂わせ”要素も多い。前作の時点で,ニールが何らかの病を患っているのではと推察できる描写があったが,それは本作でも詳細不明なまま。また,本作のニールはそれとは別に隠し事をしており,そのことを同僚のロクサーヌ(ドクター・ウィンターズ)に勘付かれるシーンがある。
ニールの隠し事については,本作のエンディングスタッフロール後,エピローグ的に少しだけ語られるのだが,ニールが具体的に何をしていたのかは詳しく語られないまま終わり,次作以降への持ち越しとなる。ゲーム中,プレイヤーは絶対に気になっていたはずの件なので,本作で解決しないのは残念。ニールの持病についても引き続き不明なままで,こうした謎が2つも残されたまま「次回作への引っ張り」をされると,ムズムズしてしまうのも確かだ。
実は,残された謎は2つだけではなく,明らかに回収していない伏線もある。筆者はこれがかなり気になっていた。この伏線はちょっとした矛盾を抱えているため,「自分の,この物語の解釈は合っているのか?」と,不安になってくる。こうした記事を書くのであれば尚更だ。
この点について「あれは,どういうことなんだろう……?」と,本作をクリアした後も数日間しばらく考え込んでいたのだが,“ある可能性”に気付いたとき,ゾクッとした。もし,この予想が正しければ,「To the Moon」シリーズがこの先どこへ向かうのかが,おぼろげながら見えてくる。間違った推理に一人で勝手に興奮しているだけなのかもしれないが,そうした時間もまた楽しいものだ。同じように本作をプレイした人と意見交換してみるのもいい。
本作は,想像力と読解力によって評価が大きく変わると感じる。エンディングまで辿り着いたら,もう一度最初からプレイしてみてほしい。登場人物たちの何気ないセリフひとつひとつが,物語への理解を深める道標になっている。1回目のプレイではとくに何も感じなかった箇所も,一度ゲームを終えた後だと,見え方が変わってくるはずだ。
冒頭で,「ストーリーに直接のつながりはなく,本作から入っても楽しめる」と書いたが,「Finding Paradise」のストーリーを真に味わうためには,「To the Moon」をプレイしておくことが重要だとも思う。このシリーズを「エヴァとニールのお仕事記」と考えたときに,本作は「To the Moon」との対比になっている作品だと筆者は考えるからだ。
すれ違った夫婦と,その原因を追求して記憶を改ざんする「To the Moon」。
幸せな結婚生活を送った夫婦と,記憶を改ざんする会社への依頼なのに,できるだけ変えないでほしいとまで言う「Finding Paradise」。
エヴァとニールの,いわば,“いつもの仕事風景”を描いたのが「To the Moon」。そんな日々の業務の中で起こった“イレギュラーな一例”が「Finding Paradise」。すべてが対照的に作られているようであり,エヴァとニールが最後に下す決断も対照的だ(具体的にはネタバレになるので言えないが……)。
筆者は以前の記事で,“「To the Moon」は人間讃歌である”というようなことを書いたのだが,「Finding Paradise」は“人生讃歌”であると思う。死の際にいる依頼人の,人生で「こうだったら良かったのに」という後悔の記憶を書き換え,憂いなくあの世へ旅立たせる。そうしたジークムント社の仕事は,ある意味では,人生の一部分を否定することでもある。
人生で起きることは,良いことばかりではない。思い出したくもない出来事や,取り返しのつかない失敗。誰しも,できることなら記憶から消したいこともあるだろう。しかし,「失敗は成功の母」という言葉がある。どんなに成功した人であっても,何一つ失敗したことがない人など,いないだろう。多くの失敗の積み重ねが少しの成功を生み,その成功と失敗のすべてが人生だ。
こうした考え方は,おそらく「To the Moon」をプレイした人の中にも一定数あったはずだ。筆者が「To the Moon」の記事で「万人が感動するとは限らない」というようなことを書いたのも,ここに起因する。ジークムント社のやっていることは,「やり直しがきかない,1度きりの人生というものに対する冒涜なのではないか」と考える人がいてもおかしくはない。そうした声に対して,開発自らがアンサータイトルとして送り出したのが本作なのではないかとも思うのだ。
遊んでいる瞬間だけでなく,クリアし終えた後や,ゲーム機の電源を切った後も楽しさが続くゲームがある。設定が練り込まれた作品の考察などは,その部類だ。本作のタイトルを日本語に直訳すると,「楽園を探して」といったところだと思うが,もし,こうした楽しさに浸る時間を楽園と称していいなら,胸を張って,こう言おう。
“楽園は,ここにある”──と。
「Finding Paradise」公式サイト
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