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Xboxはこれからの20年を見据えて,さらなる進化を目指す。Microsoftのバーチャルブリーフィング「What’s Next for Gaming」で語られたこと
このイベントは昨年も実施されているが,今年はXbox部門でイベントのコーディネートを行うティナ・サマーフォード(Tina Summerford)氏が進行役を務め,冒頭ではCEO,Microsoft Gamingという肩書きになったお馴染みのフィル・スペンサー(Phil Spencer)氏が登場。20分近くにわたり,Xboxプラットフォームの現状や今後の展望を語った。
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Microsoftは2021年6月14日に開催する「Xbox & Bethesda Games Showcase」を前に,「What’s Next for Gaming」と題したデジタルイベントを公開した。これは新作ゲームの発表ではなく,Xboxの開かれたプラットフォームとしての戦略を紹介するものだ。
Xbox Wire「Xboxが創造する次の20年を見据えたゲーミングプラットフォーム」
具体的なタイトルについては13日のイベントを待つしかなさそうだが,好調の要因として「Xbox Game Pass」の存在を挙げた。幅広いゲーマー層にアピールできる作品が多く,PCやスマートフォンといったデバイスをもつなぐ効果が出てきているというわけだ。
あいにくBethesda Softworksの新規IP「Starfield」の発売が,当初の予定(11月11日)から2023年に持ち越されてしまったのは,Xboxにとっても痛手のはず。だが,スペンサー氏はハードウェアではなく,Xbox Game Passというサービスを中核に添えた戦略によって「『Starfield』はBethesda作品の中でも,最も遊ばれる作品になってほしい」と語っている。同作はXboxプラットフォームの基礎となるビジネスモデルをより広く,ゲーマーに親しんでもらう機会になり得ると考えているようだ。
これから20年のゲームコミュニティを維持していくために
スペンサー氏は「コミュニティの多様性」について質問される形で,「Xboxでゲームをプレイする人は1億人を超えています。私たちは,すべての年齢層にわたって,それぞれの人が自分の居場所となるプレイヤーコミュニティを模索していることを理解しています」と答えている。続けて,Microsoftは安全とセキュリティへの投資を行い,プレイヤーが安心して仲間と出会える場所を作り,コミュニティを脅かす“荒らし”をしっかりブロックできる機能を保持する必要を説いた。
Microsoftは2021年10月,「Two Hat」というコミュニティ運営ツールを開発する企業を買収している。同社はAIを使って会話やメッセージ,画像などをフィルタリングするテクノロジーを持っており,健全なゲーマーコミュニティを作り出そうしていることは疑いないだろう。Xbox部門では,Azureのサーバー管理チームなどと協力して,サーバーレベルではAI技術によるプレイヤーの安全確保を重視しているというが,やがてはゲームデベロッパとも共有できるツール作りを目指しているようだ。
今回のイベントでは,昨年の「Xbox Cloud Gamingが日本でもローンチ」といったようなインパクトのある情報は少なかったものの,「What’s Next for Gaming」というタイトルに即した,スペンサー氏が実直に語る内容となった。例えば,身体障がい者向けのコントローラやオプションなどを研究・開発しているのも,常に「これからの20年」を見据えているMicrosoftのスタンスであるという。
ゲームコンテンツそのものが多様化していることを踏まえて,スペンサー氏は「すべてのゲーム開発チームが持つそれぞれの文化が,そのゲームに表現されています。デジタルディストリビューションによって,世界中のクリエイターに語るストーリーを,世界中のゲーマーが体験できる」「このような双方向性,混在するコミュニティ,インタラクティブアート,そして作る側にも遊ぶ側にも高いアクセシビリティを誇るメディアであることが,ゲーム業界の非常にユニークな特性である」と述べた。
具体名は出さなかったものの,スペンサー氏の言う「ゲーム開発チーム」にはMicrosoft傘下のメンバー,とくにセクシュアルハラスメントや不正疑惑が明るみになり,Microsoftに買収されることになったActivision Blizzardを含むだろう。有能な人材が引っ張りだことなり,常に人材難を抱えつつあるゲーム業界だが,当然ながらActivision Blizzardでも相当数の人材流出があったことが予想される。
今回,スペンサー氏が語った言葉の節々から,近い将来に“同じチーム”となるActivision Blizzardの従業員や新しいメンバーに対し,Microsoft側が誠意を持って受け入れることをアピールしているように感じられた。これもMicrosoftが今後,20年,30年とゲーム業界に根付いていくための努力なのだろう。
クラウドゲーミングでWindows 11やEdgeも進化
次に登場したのは,, Chief Marketing Officerのジェレット・ウェスト(Jerret West)氏と,Corporate Vice Presidentであるアシュリー・マクシキック(Ashley McKissick)氏だ。ウェスト氏は北米やヨーロッパ(西部/北部地域),韓国,オーストラリアなど,19か国で運用されている「Xbox All Access」が非常に好評であると述べ,今後もさらに提供地域を広げていくと言及した。Xbox All AccessはXbox Series X(月額約35ドル)またはXbox Series S(月額約25ドル)を対象にした分割払いプログラムで,2年の契約満了後にプレイヤーの所有物となる。日本では運用されていないが,今後のサポートには期待したいところだ。
また,アルゼンチンとニュージーランドでのサービス開始がアナウンスされた「Xbox Cloud Gaming」について,マクシキック氏はXbox Game Pass Ultimateの加入者を対象にした新機能を発表した。すでに所有しているゲームや,Xbox Game Passライブラリ以外で購入したゲームがクラウド機能をサポートしていれば,クラウドゲーミングが可能になるという。この機能は今年の後半にも提供予定とのこと。
また,Xbox向けに運用されているAzureのクラウドサーバー専用ラック「Blades」では,新しいバージョンに割り当てられたプレイヤーが良質なクラウドゲーム体験ができる,つまり旧サーバーだと良い体験ができないという指摘について,サーバーのキャパシティを全体的に125%向上させると言及した。クラウドゲーミングのパフォーマンスを段階的に向上させていることがうかがえる。
クラウドゲーミングの成果は,新しい形でも表れている。Samsungとの提携によって,同社のスマートTVに「Xboxアプリ」がネイティブ搭載されるとのことだ。6月30日からSamsung Gaming Hub,もしくはMedia HubからダウンロードしたアプリにXbox アカウントを登録するだけで,Xbox Game Pass Ultimate加入者はクラウド対応ゲームを楽しめるようになる。もちろん,追加費用は発生しない。
さらにWindows 11でもゲーム体験の改善が予定されており,マクシキック氏は現在,Insider Programで公開されているオプティマイゼーション機能を解説した。レイテンシを大きく改善させるだけでなく,HDR(High Definition Rendering)の自動認識や,VRR(Variable Refresh Rate)のネイティブ搭載,そして新しいHDRのキャリブレーションアプリを開発中とのこと。所有するディスプレイに最適な,正確で調和した色彩に設定することができるとしている。
そのほか,「Edge」にはGame Pass ウィジェットが加わることで,所有ゲームのライブラリをブラウジングしたり,気になるゲームをチェックしやすくなったりするとのこと。また,プレイヤーが最近プレイしたゲームをコントローラバーに表示させて,ショートカットとして利用できるようになるという。かなり利便性が高い機能になりそうだ。
ゲーミング機能を含むパーソナライゼーションは,デスクトップPC向けのEdgeではさらに拡張され,お気に入りゲームのガイドやストリーミング,トーナメントの情報などを表示できるという。面白いところでは,Edgeを使ってクラウドゲーミングを実行すると,「Clarity」という機能によってグラフィックスが鮮明になるとのこと。また,PCゲームを立ち上げた際には,ブラウザが消費しているリソースを自動的に軽減してハードウェアの負担を減らす「Efficiency」モードも開発中だそうだ。
よりオープンなプラットフォームに進化するために
Corporate Vice Presidentとしてサードパーティとのやり取りを担当するサラ・ボンド(Sarah Bond)氏と,Xbox Game Studiosのヘッドとしてファーストパーティを統括するマット・ブーティ(Matt Booty)氏は,彼らの視点から今後のXboxプラットフォームの展望を語った。
ボンド氏はサードパーティが成功を得る手助けをするために,3つのポイントに重点を置いてサポートをしているという。1つ目は,Microsoftがゲームを探し回るのではなく,サードパーティがゲームを持っていくようなビジネスモデルに転換していくこと。2つ目は,Xboxプラットフォームに限らず,より良いツールに投資していくことでゲーム開発を手助けすること。そして最後は,ビジネスモデルを多角化して,資金面の成功のために複数の道筋を作っていくことだという。
実際,こうした戦略から生まれたのがEpic Gamesとの提携であり,今年5月には「Fortnite」がXbox Cloud Gamingのラインナップに加わった。デバイスを問わず,どこでもプレイできるため,これまで自宅でしかプレイしなかったゲーマーにも高く支持されているという。ボンド氏によると,新しいサービスを利用するプレイヤーの20%は,初めてXboxのエコシステムを利用しているという。
クラウドを最大限に利用し,デバイスにとらわれないエコシステムを構築する。この話題を受けて,サマーフォード氏が「Activision Blizzardの買収完了後」について切り出すと,ボンド氏は「より多くのプレイヤーが,彼らのすばらしいフランチャイズの数々をプレイできるようになる」と発言した。Activisionの作品であれ,Blizzard Entertainmentのゲームであれ,今後は「Battle.net」に限らず,より多くのプラットフォームに向けて開かれることをうかがわせる。
さらにブーティ氏は「我々のサービスに何かを加えるために,すでに存在するコミュニティから何かを取り去ってしまうことは考えもしないこと」と明言している。Bethesda SoftworksやActivision Blizzardのゲームの多くは,今後もマルチプラットフォームで展開していく意向を強調した形だ。
また,ブーティ氏はObsidian Entertainmentが2020年にリリースした「Grounded」に触れ,「15人ほどのチームで開発された小さなゲームだったが,Xbox Game Passのラインナップになったことで,今でも100万人を超えるプレイヤーに愛されている」と述べた。予算の少ない独立系デベロッパにとって,自分たちのゲームをいかにしてゲーマーに知ってもらうかという「ディスカバビリティ」問題は大きな頭痛の種だ。だが,Xbox Game Passは問題の解消に役立ち,マイナーなゲームを可視化させていと説いている。
Microsoftは開発者のサポート面も拡充させており,ボンド氏は今年3月に「Azure Game Dev Virtual Machine」を立ち上げたことに言及した。これは,リモートワークなどで以前のような開発を続けられなくなったクリエイターをクラウドでサポートするプログラムである,さらにUnreal Engine,Quixel Bridge,Parsec,Blenderといった開発ツールのパートナーとの提携により,それぞれの開発者が無料でアクセスできる環境を整えたという。
また,ボンド氏はXbox Game Passを活用したバーチャルイベントにも言及している。「Project Moorcraft」というコードネームで呼ばれており,クラウド機能を使ってゲームデモをプレイしてもらうことで,ゲーマーへの興味を惹いたり,ゲームのフィードバックを受けたりできるものだという。小規模な開発チームにとって,デモを作成するのはそれだけでも負担となるが,ボンド氏は「ゲームを販売することと同様,デモを作ることにも何らかの形でインセンシティブを与えられるプログラムにする」と語っている。
イベントの最後には,Bethesda Game Studiosのトッド・ハワード(Todd Howard)氏によるビデオメッセージが添えられた。氏は「次の20年間を見据えたとき,ゲーマーと私たち開発者の間にある障壁はほとんど取り払われているはずです」と話していたが,その嚆矢となる13日のXbox & Bethesda Games Showcase 2022ではどのような発表が待っているのだろうか。
Xbox用コントローラを自由にカラーリングできる。「Xbox Design Lab」の日本サービス発表に合わせて,さっそく注文してみた
Microsoftは2022年6月9日,Xbox Wireless Controllerをカスタマイズして注文できる「Xbox Design Lab」のサービスを日本でも展開すると発表した。このサービスを先行体験する機会を得たので,さっそく注文してみた。カスタマイズの流れを紹介しよう。
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