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「ANNO: Mutationem」は挑戦的な1クールアニメみたいなゲームだ。「SCP財団」のオマージュは功罪の両面をもたらしているが
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印刷2022/09/14 12:00

プレイレポート

「ANNO: Mutationem」は挑戦的な1クールアニメみたいなゲームだ。「SCP財団」のオマージュは功罪の両面をもたらしているが

 Lightning Gamesは2022年9月1日,Nintendo Switch版「アノー:ミューテーショネム」(ANNO: Mutationem。以下,ANNO)を発売した。本稿では,同作のプレイレポートをお届けしよう。

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My Nintendo Storeの「アノー:ミューテーショネム」販売ページ


 開発元のThinkingStars(星空智盛。関連記事)が「ANNO」を発表したのは,「ChinaJoy 2018」の少し前のこと。開発はソニー・インタラクティブエンタテインメントの中国デベロッパ向け技術支援プロジェクト・China Hero Projectの協力を得て進められ,当初は2019年にPS4向けでリリースされる予定だったが,延期を経て2022年3月17日にPC / PS5 / PS4版が発売された。その後,4月22日のアップデートで追加コスチュームや新エンディング,6月22日のアップデートで高難度モードやスクリーンショット撮影用にUIを消す機能などが追加されている。Nintendo Switch版は,それらのアップデートが最初から適用されているうえ,プラットフォーム専用コスチューム“ニンテンドレス”が利用可能だ。

Nintendo Switch版専用の,ネオンレッドとネオンブルーで彩られたニンテンドレス
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ロード時間は他プラットフォームに対してちょっと長め。ゲームを新規スタート直後のロードは,スペックの詳細は省くが筆者のPCでは約12秒,Nintendo Switch版は約33秒を要した。まあ,車移動のシーンではじっくりとアンの姿を拝めるのでバーター?
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 本作の舞台となるのは,表通りではネオンライトとホログラフィがけばけばしい光を放ち,裏通りでは違法改造した胡乱なサイボーグ共がたむろし,アンドロイドが人間の奉仕に酷使され,社会的弱者は機械未満の扱いを受ける,いわゆるサイバーパンクの世界だ。

 主人公は,一種の探偵業に就いているアン・フロレス。彼女は幼少時,ホッツ・フロレスという大脳以外を全身機械化した男性の養子となり,同じく養子である義姉や義弟と暮らしていたが,ある理由から家族を避けて独りで暮らしている。そんな彼女のパートナーとなっているのが,ミスノアヤネという女性だ。アヤネは世界的大企業の会長の孫娘という恵まれた立場であり,ハッカーとして天才的な技能も持っているが,車椅子を離れられないほど身体が弱く,劇中の大半はドローンが投影するホログラフィという形でアンに同行する。

アンからするとアヤネは友達(ゲーム内の“資料室”より)だが,アヤネはアンを「ダーリン」と呼び,友達以上の親密さを求めている様子だ
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 ゲーム全体は,大まかに言えば「大小あわせて3つの市街と,大小あわせて3つのダンジョンと,多少のイベント戦や寄り道要素」から構成されている。アドベンチャーパートで市街を移動したり,サイドクエストを消化したりなどしつつ,ダンジョンを攻略することでシナリオを進めていく,といったスタイルだ。市街での敵エンカウントが無かったり,寄り道要素は少なめだったりするが,著名タイトルでは「龍が如く」シリーズがコンセプト的には近いだろう。

 本作の市街は見事に表現されている。筆者の雑な“外国感”で言えば,スコープシティーはロサンゼルスのダウンタウンに日本のコリアンタウン・新大久保を叩き込んだような街並みだし,ノックティスは歌舞伎町と香港とソウルをミキサーで混ぜ合わせたような雰囲気だ。映画「ブレードランナー」で描かれた“和洋折衷な未来都市”を,現代的かつサブカル的に再構築したわけだが,街並みを環境ビデオとして鑑賞してもけっこう楽しめるくらいだ。

住宅地のスコープシティと,歓楽街のノックティス
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ただし持たざる者は,足を踏み入れることすら許されない
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それでも人の営みが大きく変わることはない。人々は寝起きし,飲み食いし,そしてオタクは推す
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 戦闘では弱攻撃・強攻撃・射撃・消費アイテムの手榴弾を駆使しつつ,敵の攻撃をジャンプやローリング(回避行動),ガードでしのいでいく。ジャストガードなどの特殊アクションもあるが,戦い方にこだわらなければ,強弱の攻撃とローリングだけで大抵の局面に対応できるだろう。ただしシナリオ進行に伴う敵のステータス上昇は割と急勾配なので,攻撃力や防御力を優先して強化したり,計画的に武器を入手していくのが懸命だ。

基本的には大振りの攻撃を食らわなければ問題ない。ローリングは入力から数フレームを置いて無敵時間が発生することは要注意
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1クールアニメ相当の満足感と物足りなさ


 劇中におけるアンの行動原理は,失踪した弟の行方を追うことだ。その中で,アンは自身の出生の秘密や,世界の裏側で暗躍する「リング結社」と,そこで蠢く陰謀に直面する。

 シナリオ自体は単純明快で,カッコいい女がイカしたサイバーパンク世界で,裏社会を牛耳るマフィアを蹴り倒したり,謎の施設に潜む超常的存在をぶちのめしたりして,破滅的な終焉を迎えたりハッピーエンドを迎えたりする(マルチエンディング方式)。いろいろと思わせぶりなワードが出て来たりはするが,駆け足なストーリーの中で解説は表面的なものに留まるので,まあ「ヤバい現象」とか「つえー武器」とかくらいに捉えていけば問題はない。

 筆者はゲーム開始からエンディング到達まで,約15時間を要した。ユニークで美しいアートワークとVanguard Soundによるサウンドで綴られる,比較的短いプレイ時間に詰め込まれたジェットコースター的なストーリーは,「挑戦的な1クールアニメ」のような味わいだ。その反面,ゲームプレイの“奥行き”は広くないのだが,低価格帯のインディーズゲームとしては必要十分だろう。

怪異に見(まみ)えるサイドストーリーや,魚釣りなど,寄り道要素もそれなりにある
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世界観を広げるテキストの数々。広げるだけに留まり,深めるには至っていない印象なのは少し残念
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サイバーパンクつながりで,Sukeban Gamesの「Va-11 Hall-A」からジルやデイナ,イカ柴がゲスト出演。それにしても,しゃべる犬はアノマリーではないのだろうか
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 ただ,小さめの器にアレコレと詰め込んだことから“描写不足”が否めないのは,他機種版発売以降の巷のレビューでもしばしば挙げられているところだ。これは本作が「SCP財団」の設定をベースとしながら,結果的に「SCP財団」とは似て非なるものという道を選んだことにあるだろう。



「ANNO: Mutationem」とSCP財団のビミョーな関係


 SCP財団は,Webベースの共同創作ホラーだ。詳しくは公式WikiのFAQページを読むか,2019年に年末特別企画として掲載した以下の特集記事,もしくは適当なWikiの解説などを参照してほしい。


 そんな作品群の黎明期における傑作のひとつ,SCP-096に目を通してもらいたい。黒塗りの伏せ字や[データ削除済],[編集済]などで,初見ではよく分からないと思う。ギミックとしては,「███km/h」は「超はえー」という意味であり,「元の生息地の[編集済]」は「やべーところに住んでた」という意味だ。要するに,これは「読者が想像を働かせて,その脅威感を想像する」ことで完成する。ある読者にとってSCP-096は「自動車並みの時速120km/hで走る奴が人間社会の近くに潜んでいた」かもしれないし,別の読者にとっては「ジャンボジェット機並みの時速900km/hで走る奴が未知の秘境に棲んでいた」かもしれない。

 「ANNO」劇中の謎も,恐らく同様に“あえて”伏せられている。プレイヤーが能動的に楽しむべきポイントではあるが,劇中の事象などを必要以上に分かりにくくしていることは確かだ。

端々でリング結社の特別収容プロトコルを読めるが,翻訳の都合もあってか,あまり“らしい”ものにはなっていない。せっかくSCPをオマージュしたのだから,コレクション要素に特別収容プロトコルがあっても良いのではないかとも思うのだが
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 また,先述の通り本作はSCP財団の設定をベースに制作される予定だったが,諸事情(公表されていないが,恐らくライセンス関係)から「SCP財団をオマージュした,アンオフィシャルのフォロワー」といったスタンスを取ることになった。すなわち「元ネタありきなのに元ネタに触れられない」状態となっており,最初から「SCP財団のオマージュ」だった「Lobotomy Corporation」や「Control」などでは生じなかった問題を抱えている。

終盤に研究施設内で対決するサイボーグくのいち。初期の体験版ではエアカーの上で戦ったのだが,開発的にもいろいろと困難があったのだろう。初期アヤネはキリッとしてた
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 とはいえ,ストーリーはシンプルなので「元ネタや裏設定が分からなければ何が起こっているか理解できない」というものではない。アンが背負っているのは「自身の出生の謎」「失踪した義弟を追う」使命くらいで,某人気アニメのように「外宇宙から飛んできて南極に埋まってたけど爆発したクソデカ人間を再現するためクソデカ人間2号をクローニングして作ったうえカルトの陰謀と母親の野望と父親の策謀が詰め込まれた汎用人型決戦兵器の人造人間に乗ってクソデカ人間から生じた別の形の人間と言える怪獣的なやつをぶっ倒していくうちにストレスでメンタルブレイクしたら全人類を融合させるイベントの鍵となって母とクソデカ人間2号を組み合わせた人造少女が父親からクソデカ人間幼体を奪いつつクソデカ人間2号と融合したものと何やかんやあった末に少年よ神話になれ」といった複雑な裏設定や宿命があったりはしない。

 ただし元ネタとなったSCP作品が存在するものに関しては,それを知っていると少し違った角度から本作を楽しめる。例えばストーリー中盤,アンは行き倒れた「不思議な能力を持つ少女」を拾うことになるが,後に少女が「魔法」などと言うことから,予備知識の無い人は彼女を魔法少女か何かだと思うだろう。しかしそれは,SCP-239や“現実改変者”の概念を知っていたら核爆弾が野ざらしになっているよりも危険な状態だと分かり,状況の剣呑さに戦慄できる。


※以下,SCP財団の用語が頻出するが解説は割愛する。

 例えば,「ANNO」劇中で多くの人々を侵しているメカウイルスは,SCP財団で言えばMEKHANE関連の“時計仕掛けのウイルス”ことSCP-217に相当するものだろう。それが世界的に蔓延して一般に周知されている状態は,LV-Zero:捲られたヴェールシナリオの状況下だ。あるいは,それが普通の疾病であるという欺瞞ミームが散布されて人々の認知が書き換えられた“アンニュイ・プロトコル”発動後の状態かもしれない。どちらにせよSCP財団で言えば,すでに“敗北”を喫した状態だ。ゲームをプレイしていると,リング結社はいけ好かない身勝手な連中に思えるかもしれないが,メチャクチャしんどい状況にあるのではないだろうか。

 メカウイルスが全人類を侵してAK-クラス:世界終焉シナリオ(全人類の異常化)まで至らなかったのは不幸中の幸いだが,メインシナリオではXK-クラス:世界終焉シナリオ(不可逆的な文明崩壊)の危機が起きようとしているし,先述の少女が短時間でも非制御下にあったのは,CK-クラス:再構築シナリオやYK-クラス:世界終焉シナリオ(宇宙の消滅)の危険性が野ざらしになっていたということでもある。リング結社の明日はどっちだ。

 その他にも,中世風防毒マスクを被った黒服の男が未収容でうろついているそうだし,フォネティックコードでAbleと呼ばれていそうなアンちゃんは暴れているし,クマはもうクマってだけで避けたいし,何もないけど収容されている(何もない)からヨシ!だし,スクラントン現実錨が存在するから引き伸ばされて薄くなった博士がいそうだし,クソみたいなトカゲが酸を吐いてアンを焼いてくるのは「逆じゃね!?」と思うし,とうもろこしの使者は最初から最後までありがたい存在だし,「これクレフ博士のアレなんだろうけど,それ以上にメガリザードンXだったりしないよな……?」と邪推したくなったりする。「元ネタや裏設定が分からなければ何が起こっているか理解できない」ということはないが,「元ネタや裏設定を知っていると楽しみが広がる」のは確かだ。

ゾンビを作ってそうな異常実体の噂。早く収容してほしい
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無害でもクマはやめろクマは
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ちゃんと無が収容されている様子……誰かミーム殺害エージェントを持ってきてください
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アンが中盤に獲得した変身能力を封じる“SRA”という機械。知っているなら「スクラントン現実錨(Scranton Reality Anchor)! つまり変身能力は現実改変によるもので,道中のカットシーンでアンの姿がブレていたのはヒューム値が低下していたからか。しかし日本支部的には“ヒュームの穴”が開いていないか不安になるな……」と驚いたり慄いたりもできるのだが
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財団視点からの「ANNO: Mutationem」


 ここまで「ANNO」に依った視点でSCP財団について述べてきたが,前々からSCP財団を知っている人の中には,「SCPをベースにアニメチックなサイバーパンクってどうなの?」という形で胡乱な視線を向けている者もいるだろう。SCP財団は“現代科学の延長で超常現象を管理する”スタイルがキモなので,正直なところ,「ANNO」が発表されて間もない頃の筆者は「それで大丈夫か?」と多少不安に思っていた。

 しかし,中国支部では「財団4K」という西暦4000年を舞台にしたハブ(ある程度の設定を共有した作品群)が誕生したり,本部では「全ての戦線で戦え」ハブで巨大ロボットを作って怪獣と戦っていたり,単にサイバーパンクの世界という程度では,ミスマッチどころか「陳腐,でしょ?」と言われかねないのが近年のSCP財団だ。正直なところ,今現在の筆者は「こういうのだっけ?」と多少不安に思っていなくもないが。

 それらもまた好き嫌いは分かれるところだろうし(機動部隊が異常性質を有することすら好まない人だっているくらいだ),保守的であるからこその楽しみというのもあるが,良くも悪くも「面白いもん勝ち&面白がったもん勝ち」によって発展してきたのがSCP財団ではないだろうか。原点であるSCP-173が生まれたのも,それが「面白い」と人々に思われたからこそだ。

 SCP財団では何をカノン(正典。メインストーリーや基本設定などを複合した意味)とするかが作者や読者に委ねられているように,物事の是非は人それぞれで良いものだ。ただ,筆者としてはできるだけ能動的・好意的に諸作品を受容するようオススメしたい。

 つまり――楽しんでね!

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