インタビュー
[TGS2023]「桃太郎電鉄ワールド」のキーマン桝田省治氏と岡村憲明氏にインタビュー。世界が舞台になったきっかけは,さくまあきら氏のひとこと
桃鉄好きゲストによる,桃鉄ワールドの「ここがすごい」「ここが新しい」といった魅力がプレゼンされた同イベントの終了後,登壇した監督/ゲームデザインの桝田省治氏,プロデューサーを務めたKONAMIの岡村憲明氏の合同インタビューが行われた。世界を舞台にした球体マップによる新たな桃鉄の遊びが詰まった本作について,たっぷり語られたインタビューの模様をお届けしよう。
――マップが球体のマップを主軸に制作された本作ですが,それによってこれまでのゲーム開発と変わったことがあれば教えてください。
桝田省治氏(以下,桝田氏):
すごく具体的な話だと,こっちで「こういうふうに作りたい」って考えたことを,開発に正しく伝えることが難しかったことかなあ。イメージしたものを(紙などに)こう,書いて渡そうとするんだけど,それで描いたものって平面だから。立体にしたときのイメージが伝えにくい。
直してほしいことを伝えるときも,「北緯何度にあるアレをもうちょっと東経何度に動かして」みたいな。イベントでも話に出ていたけど,「地球の裏側カード」っていうものがあるから,緯度経度をしっかり出してやっているんだけど,とにかくもうほんとにね,なにかを伝えること自体が本当に大変。
球体とメルカトル図法の地図で見え方の印象も違うからね。「ロシアは大きいね」って,確かに大きいんだけど,球体で見るとメルカトル図法の地図で見るほどではなくて。だから,基本的なコミュニケーションを取ること自体がまず難しかった。
――世界を舞台にするうえでどういったこだわりを持って開発しましたか。
桝田氏:
当たり前な話になるけど,日本人だったら北海道は北にあるって誰でも知っているじゃない? 天気予報で毎日日本地図を見ているわけで。でも世界となると,「次の目的地は◯◯です」ってあまり知らない国や地域の名前を言われても,「どこ? 名前は聞いたことあるけどなあ」みたいになるし,方向も距離も分からないってなる。
それで考えたのが,(引きで)地球が出て,それがぐるっと回って次の目的地が示されるという発表のしかた。これで大掴みにでも行き先を分かってもらえるかなと。あとは今までのピンクの矢印じゃ足りないから,もう最後までルートを出しちゃえっていう。
――平面と違い,ルートの選択肢も多く,目的地を指し示す方法も変わってくると。
桝田氏:
そうそう。これをやるための労力で,いろいろできなかったこともあったんだけど,それぐらい大変でも,あれをやらなかったら今までのようにゲームを遊べないんだよね。球体マップの桃鉄を,いかに今までの桃鉄の感触に近づけるか。そこはうまくできたと思うけど,うまくできていればできているほど,プレイヤーには分からない大変な部分でもあるんだよなあ。
(一同笑)
――大勢で遊ぶのはもちろん楽しい桃鉄ですが,ソロで100年プレイして全物件全制覇を狙うというプレイスタイルを楽しんでいるファンも多いと思います。球体マップになったことで定石やセオリーといった部分が変わると思うのですが,ソロプレイヤーたちの遊びはどう変わりますか。
桝田氏:
まず,ごくごく平均的な桃鉄のプレイヤーは100年やっても全物件は買えない難しさです。
いちおう60年ぐらいで全部買えるくらいではあるはずだけど,僕がやって90何年とか掛かったから。本当にギリギリで,難しいじゃんって。それはやっぱり,マップが広いっていうのもあるんだけど,CPUがまた粘る粘る。よくみると一個だけ物件を買ってる駅とかけっこうあったりして。
――なかなか独占を許してくれない。
桝田氏:
うん。させてくれない,これは辛いなあって。ある程度開発を進めた段階で,CPUの抵抗を抑えるっていうモードとかも作ることにした。初期ほどではないけど,まあ,それでもけっこう難しいと思う。もちろん全制覇はできるけど,強いCPUを2人選んじゃうと,意外と難度高いんじゃないかなと。
――目的地となる世界各地の駅にはどういうこだわりがありますか。
桝田氏:
申し訳ないほどすごい大雑把なイメージのスタートだった。最初に作り始めたときに勝手に目標として掲げたのが,「オリンピックの入場行進を見た子どもたちに,『あー,桃鉄で行ったことがある』って言ってもらいたい」というもので。でもその目的ってさ,後から考えてみると,とんでもないことだって気づいた。だって,オリンピックって,ものすごくたくさんの国と地域が参加してんのね。
(一同笑)
桝田氏:
聞いたこともない国や地域もたくさんあるけど,とりあえずその(オリンピックに出ているような)国はもうできる限り入れようと。1個は駅を入れようと思うと大抵首都になっちゃうんだけど。アメリカとかロシアとか中国とか,大きな国は1個ってわけにいかないからいろいろ置くんだけど,結構多いなって。「アメリカってこんなに広いんだ」とかいまさらだけど気づかされたよね。
岡村憲明氏(以下,岡村氏):
こだわりでいうと,目的地となる国や地域の国旗や地域の旗はしっかり表現しています。日本旗章学協会の苅安 望さんにちゃんと監修をいただき,正しいデザインで描いています。
世界中でいろいろなことが起きている状況のなかで,日本人感覚でよく分からないことなどもありますよね。ゲームに出てくる国や地域はできるかぎり正しく伝わるよう表現するというのは大事にしていた部分なので,「桃鉄で覚えた」という知識が正しいものとして話していただけるというのが自信を持っているところです。
桝田氏:
あともう1つはね,とりあえず世界の「こんにちは」ぐらいは覚えてもらおうかなっていうのがありますね。「こんにちは」がちゃんと言えれば,そんなにひどい目に合わないだろうと。
岡村氏:
世界の「こんにちは」だけで,ものすごい数の声優さんの名前がスタッフリストに載ってますよ。
――それは各国や地域のネイティブスピーカーの方が担当しているということですか。
桝田氏:
そうそう。基本的に全部ネイティブ。もう世界中のスタジオをつないで,リモートで録音して。
あ, 日本語の声優さんは大原さやかさんです。鉄道の音声案内といえばの大原さん。これはまだ出ていない新しいニュースじゃないかな。
――世界を舞台にした桃鉄は,過去にDSソフトの「桃太郎電鉄WORLD」がありましたが,13年近い時を経てまた世界をテーマにした理由やその経緯を教えてください。
桝田氏:
えっ。さくまさん(※1)が作れって言ったからだよ。
※1.シリーズの生みの親であるさくまあきら氏
(一同笑)
桝田氏:
いや,ほんとに。最初はむしろ僕がさくまさんに「やれば?」って言っていたほうで。ゴールに着いたらまた次の目的地が出て,そこに向かういろいろなルートが現れる。このベーシックなシステムは世界でも通用するから,桃鉄という終わらないすごろくで世界版を作ればって。前々からそう言っていたんだけど,ある日突然さくまさんのほうから「そっちで作りなよ」って。
岡村氏:
なぜ桝田さんに託したのか,ステージイベントのさくまさんのメッセージ(※2)がその答え合わせになってましたね(笑)。
さくまさんは制作総指揮という形で作品に関わっています。これはゲームをプレイしていただいたらすぐに分かるんですが,間違いなくさくまさんが関わっている作品であることは伝えたいですね。
大事なところでのアイデアはたくさん出していただきましたし,実際にプレイしてもらってその評価でゲームを直したところもいっぱいありますから。
桝田氏:
無茶な仕様ほどさくまさんだと思って間違いないです。
(一同笑)
桝田氏:
いや。っていうのはさ,ぼくはさくまさんが30年もの間育ててきたブランドを預かってるわけじゃん。そうするとさ,ヒットさせなきゃいけないし,桃鉄という作品の枠中からはなるべく出ないよう今のお客さんを満足させなきゃいけない。でも世界が舞台だから何かは変えなきゃいけないって,いろいろ考えていたわけですね。
そこで,ある日さくまさんが,「世界を移動するんだったら新幹線じゃなくてジェット機だよね」って言ってきて,「えーっ!?」ってなった。だって,おかしいでしょう。線路がひいてあるのに,上を飛行機で飛んで移動するって。そんなこと思いついたとしても,僕は言えないわけよ。
岡村氏:
あれには衝撃を受けましたね。僕はもう全力で「すみません。プロデューサーの立ち位置から,あの『電鉄』は残してください!」って(笑)。
でも,結果的に僕はすごいなと思ったのが,壊せるのはやっぱりさくまさんなんだって。それと同時に,今回の作品の一番コアとなる考え方の部分が,その“飛行機になる”っていうことで筋が通った部分がすごくあったんですね。こういうところに対してこういうアイデアを出せるさくまさんはやっぱり天才なんだなと。これはさくまさんだけではなく,桝田さんとも仕事をしていて感じるんですけど,ものすごく日々勉強させていただいてます。
※岡村氏は次の予定のため,以下は桝田氏のみのインタビューに
桝田氏:
(引き続きさくま氏の話に)僕はさ,「海の上にも線路走っていいんじゃね?」って言ってたの。そしたら「線路の上を飛行機が飛べばいいんじゃね?」って。「おいおい」って思って実際飛ばしたらそうでもなくて,ゲームとしても分かりやすくなった。
桃鉄としては何もおかしくはないっていう感じでした。ゲームを見た人たちも,別に線路の上を飛行機が飛んでることに対して変だって思わないんだよね。ウンチは飛び越せないのかってなるかというと,「そりゃできないよ,だって桃鉄じゃん」って。
――さくまさんが出したアイデアには,具体的にどんなものがあるんですか。
桝田氏:
あれだ。周遊カードをやめてタンク(※3)にしたところだ。
前からこっちの方が分かりやすいって思ってたみたいだけど,いきなり変えちゃうとユーザーがわけ分かんなくなるから,今回のワールドで「お前,試しにやってみろ」って。確かにそうだなとは思うけど,ゲーム性がだいぶ変わるからね。給油は目的地に入るのと同じぐらい,スペシャルカードを使う価値があるくらい重要になるから。
――海外への渡航となると燃油サーチャージのことを考えますし,飛行機=給油は自然かなと,飛行機が重要な要素となったからタンクができたのかと思ったのですが,まったく別の考えからだったんですね。
桝田氏:
そもそも,さくまさんは別にタンクとも言ってなかったからね。使える回数っていうのが分かるものにしてほしいと。最初は数字で見せるのはどうだとか言っていたけど,今までの急行や特急,新幹線に変わる分かりやすい等級はどうするのという話になった。
1番分分かりやすいのは「サイコロ2個カード」じゃない? それぐらいじゃないと,今までの急行,特急の分かりやすさは越えられないんだよね。
ただ,そこに(カード名)に数字をつけちゃうと,カードを使える回数の数字をその後ろにつけるわけにはいかなくなってくる。それで,ひと文字分のスペースに四角を置いてそれを横線で3回分に区切ったら「これタンクに見えなくもないね」って話になって。じゃあタンクと呼ぼうかって決まった。
ゲームとしての概念を,プレイヤーにすっと入ってくるような形で言葉とか絵にしてあげること,そう言った記号を探すことって意外と難しい。
――そろそろ時間のようなので,最後に1つ質問を......
桝田氏:
逆にぼくからしゃべりたいことはあるんだけど,いいかな。
――もちろん,ぜひお願いします。
桝田氏:
僕もさくまさんももういい歳だし,僕に至ってはあの,忘れんぼにもなってきてさ。岡村さんたちも一生懸命やってくれているし,僕たちが使いものにならなくなっても桃鉄を作り続けられるよう,その仕組みをシステムとして残そうっていうのをやっていて。
――それはどういったことなのでしょう。
桝田氏:
たとえば,盤面に出回っているお金の量をみて,その20%まできたらこのイベントが発生するとか,利益も損害も到着金の何倍や何分の1倍って形で原則的に管理されているの。そういう仕組みをシステム化したことで,別の桃鉄や新しい桃鉄の遊びを作りやすくなったんだよね。
――どういったところに苦労されているのでしょうか。
桝田氏:
これまでの桃鉄って,言ってしまえば全部さくまさんの職人芸なわけですよ。いまはもう使われていないものもあるけど,ほんと,なに書いてあるんだか分からないってこともあれば,よく分からない表を見つけたと思ったら,ものすごく極端な状況に対応したものだったりということもあって。言うなれば,「100年継ぎ足しています」っていう秘伝のタレ。
今僕たちがやっているのは,そのタレの中身がなんであるかを分解して,誰でもその味を再現できるようにするっていう作業をしているんです。
――そろそろ時間ということで,メッセージがあればお願いします。
桝田氏:
いや,ないよ。とくに。
(一同笑)
桝田氏:
いやだってさ。もう,面白いに決まってるもん。もう僕たちもさんざんテストプレイしていて,TGSの試遊でもたくさんのお客さんに遊んでもらっているし。
……こんなもので大丈夫でしょうかね。自分が作ったゲームを最もつまんなく解説するゲームデザイナーってよく言われるんで。
――とても面白くて貴重なお話でした。ありがとうございました。
「桃太郎電鉄ワールド 〜地球は希望でまわってる!〜」公式サイト
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桃太郎電鉄ワールド 〜地球は希望でまわってる!〜
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