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日本のIPもゲームも強いが,なぜ“世界と一緒に作る”のが難しいのか。ゲームの現地化から越境ステーブルコイン決済まで語り合ったパネルをレポート[IVS2026]
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印刷2026/07/06 07:00

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日本のIPもゲームも強いが,なぜ“世界と一緒に作る”のが難しいのか。ゲームの現地化から越境ステーブルコイン決済まで語り合ったパネルをレポート[IVS2026]

 2026年7月2日,京都で開催中の「IVS 2026 KYOTO」で,「Beyond Borders: Building Global Businesses Between Japan and New Growth Markets」と題したパネルディスカッションが行われた。
 日本が中東や東南アジア,アフリカ,南米といった新しい成長市場と“共に”事業を築くには何が必要なのか。VC,ゲーム,フィンテックという異なる現場の視点を突き合わせる構成だ。

登壇者は左から,モデレーターのRina Otsuka氏,スクウェア・エニックスの植原氏,Outliers VCのAlmeshekah氏,GGWPのNg氏,トレーダムの阪根氏
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 登壇したのは,スクウェア・エニックスでグループ投資事業開発室の室長を務める植原 英明氏,中東・北アフリカ(MENA)に投資するOutliers Venture CapitalのファウンダーでありジェネラルパートナーでもあるMohammed Almeshekah氏,AIコンテンツモデレーションを手がけるGGWPの共同創業者兼CTOであるGeorge Ng氏,そして越境ステーブルコイン決済に挑むトレーダム(TRADOM)代表取締役の阪根 信一氏という顔ぶれ。VC,AI,ゲーム大手,フィンテックスタートアップと,立場も地域も異なる4人だ。

 モデレーターは,Endeavor Japanの代表理事を務めるRina Otsuka氏
 Otsuka氏はその立場から,冒頭に大きな問いを一つ置いた。「日本は,新しい成長市場と“一緒に”グローバル事業を築けるか」だ。

 最初に口火を切ったAlmeshekah氏の語り口は,やや意外なところから始まった。中東でいま起きている変化を,「170年前の日本」になぞらえたのだ。
 「かつての日本は資源ベースで地域消費に閉じ,世界の舞台には立っていなかった。それが明治維新という大転換で,近代産業化の最良の物語をつくった」
 氏によれば,その転換に要ったのは“火花”(より良い未来を描く構想),規制と政策の加速,そして資本の三つ。
 財閥などの国内資本と流れ込む海外資本がトヨタのような世界企業を生んだ構図が,Vision 2030以降のサウジやUAEでそっくり再現されている,という見立てである。

「なぜサウジアラビアはゲームに5兆円超を投資するのか?」アラブ諸国のゲーム市場の現在と将来(関連記事
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 その変化の核にあるのが「野心」だと,Almeshekah氏は繰り返した。
 「10年前,サウジの大学生の8割は“大手会社か政府で働きたい”と答えたが,3年前,同じ問いに8割が“テクノロジーで何かを作りたい”,多くが“自分の会社を興したい”と答えた」と象徴的な数字も飛び出す。
 フィンテックはサウジで2018年にはまだゼロで,法的にも銀行しか存在を許されなかった。中央銀行がフィンテック企業向けの「サンドボックス」(隔離されたソフトウェアの実行環境)を設けると,いまや300社超が合計50億ドル超を調達しているという。
 2019年創業のBNPL(後払い決済)企業のTabbyは,いまや世界5位規模へと駆け上がった。

 “かつての日本”を引き合いにされると,つい自分には関係なさそうに思えるが,裏を返せばAlmeshekah氏の話は,「日本がかつて世界に対してやってのけたことを,いま新興市場が猛スピードで再演している」という現在地の確認でもある。日本の起業家にとっては,追われる側の緊張感として響く指摘だろう。

 ゲーム大手の視点を持ち込んだのが,スクウェア・エニックスの植原氏だ。
 「市場全体は海外で急成長しているが,日本はそこまで伸びていない。伸びが高いのはLATAM,MENA,インドです」と,まず“伸びの偏り”を指摘する。プレイ環境はコンソールからオンライン,そしてスマホへと移り,パブリッシャの姿勢も「作って売る」から「現地と作る」へと変わったという。
 「中南米は端末スペックが低く,クレジットカードや銀行口座を持たない人も多い。だから高スペック版に加えて軽量版を用意し,ブラジルのPIXのような現地決済も足していく」。同社はヨルダンのモバイルゲームパブリッシャにも出資しており,言語のローカライズだけでなく,中東の規制に合わせたコンテンツ調整まで踏み込んでいる。

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 なかでも植原氏が「日本にいちばん足りない」と語ったのが,現地を実際に見に行く人材だ。
 日本ではSwitchやPlayStation,スマホが遊びの中心だが,海外のPC/コンソールでは半分以上がゲーミングPC,つまりSteam上で遊んでいる。ところが日本の開発者や販売側に「Steamアカウントは?」と尋ねると,と持っていない人が少なくないという。

 GGWPのNg氏は,AAAゲーム向けのAIコンテンツモデレーションという立場から,海外参入を四つの層に分解して示した。
 第一は,その市場に入る許可があるかどうかだ。PUBG Mobileが中国へ,GTA Vが中東へと展開する際に直面するような規制もあれば,日本のAPPI(個人情報保護法)やヨーロッパのGDPRといったプライバシー規制の壁もある。
 第二がプラットフォームのアクセス
 第三は言語対応で,同じ英語でもイギリスとオーストラリアでは,言える言葉と言えない言葉が違う。
 そして第四が,文化やローカルの文脈,さらにはその言語ならではの隠語まで理解することだという。
 米・欧・韓のAAAから始めても,中東のスポーツゲームや東南アジアのMOBAまで,結局は世界中のプレイヤーを相手にすることになる,というわけである。

 スケールの仕方はB2CとB2Bで大きく違うとも述べた。
 B2Cはローカルの関連性が命で,北米や日本はクリエイターやコミュニティ主導のUA,インドや東南アジアは小規模インフルエンサーで低コストに深く関わる。一方のB2Bは関係性がすべてで,現地の拠点,言語,人間関係が要る。

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 トレーダムの阪根氏が向き合うのは,もっと即物的な壁だ。日本企業の海外展開を阻んできた二つの壁として,氏は言語とお金を挙げる。
 言語はAIの自然言語処理の進化で大きく改善したが,税や為替といった金融取引の壁はまだ残っており,そこにこそフィンテックの機会があるという。
 同社は先月,日本初の越境ステーブルコイン決済を開始した。海外企業が日本のパートナーへステーブルコインで直接支払える仕組みだ。

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 「日本は法整備では先行し,2023年に関連法が通った。ただ実装では世界に2〜3年遅れている。トランプ政権以降さらに加速し,これまで越境決済の事業者が触れられなかった日本の扉が,ようやく開いた」と阪根氏。
 反響は想定以上で,しかも意外な方向から来ているという。ゲームとの相性も良く,問い合わせで多いのはゲームやデジタルIP。マンガ,アニメ,ゲームは越境決済でも人気ジャンルだという。AIエージェントが取引を担う時代にはT+2やT+3の数日待ちは許されなくなる,という「数分で完結する決済」への期待も語られた。

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 議論の後半は,「日本はどう変わるべきか」という論点に移った。

 ここでAlmeshekah氏が示したのが,ローカル企業とグローバル企業を分けるのは「チームと文化」だという見立てだ。
 同じ背景の人ばかりの一枚岩の組織では,創業者にどれだけ野心があっても力ずくでローカル企業になってしまう。「最初の10人が文化を決める」とする氏が重視するのは肌の色や言語ではなく,どこで学び,どう訓練され,どう考えるかという“認知的多様性”だという。
 自社は10人未満で4か国籍3言語,世界5位に育ったTabbyの共同創業者も中東出身と域外出身の二人だと明かした。

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 日本の創業者に触れる場面もあった。Almeshekah氏は,Sakana AIの伊藤 錬氏を「グローバル級の創業者」と評価する。最初の市場こそ日本だが,日本標準ではなく世界最高の標準で会社を作っている点が傑出しているという。
 10年日本を出なくても,世界の企業が日本で競争を挑んできても勝ち続けられる。それが例外的な創業者の証だ。実際,同社のエジプトやヨルダン,UAEの投資先には,いま日本の投資家も出資しているという。

 これにNg氏は“順序”の観点を加える。
 オペレーターは反復で考えるものであり,まず地元市場で勝てないなら,隣接市場で何が不公平な優位になるのかを問うべきだ,と。植原氏は改めて「現地を見に行く人を増やすこと」を,阪根氏は「最初からグローバルを狙うマインドセット」を挙げた。
 世界で成功したのは最初からグローバル志向だった人たちだが,大谷 翔平選手のように日本で一定の成功を収めてから出る道もある。順序はどちらでもよく,最初から世界を狙う意識こそが最も大事だ,というのが阪根氏の結論だった。

 会場からは「日本はAI主権を築き,スタートアップ支援に大金を投じるべきのか」という質問も出た。
 Almeshekah氏の答えは明快で,技術がプロダクトの域を超えて暮らしや行政のあり方まで変えるいま,政策担当者はグローバル企業に条件を突きつけられるのを黙って見てはいられない,という。

 そこで取りうる道は二つある。ひとつは政府や大企業が自前でAIを作る道,もうひとつは国内で最も賢く野心的な起業家たちを解き放って競争させ,彼らにだけ与えられる“不公平な優位”で後押しする道だ。
 前者について氏は手厳しい。役所や大組織が自前で作ると,たいてい非効率で,世界では戦えない二番手に終わるというのだ。だからこそ国が旗を振って優秀な起業家を勝たせる後者を選ぶべきだ,というのが氏の主張である。

 鍵はやはり“自分だけの優位”だという。
 「米国モデルをただ真似るなら,荷物をまとめてシリコンバレーへ行けばいい。日本や中東から作るなら,自分の不公平な優位を問うこと。任天堂はXBOXを真似てもXBOXには勝てない。より良い任天堂になるしかない」。ゲーム産業に身を置く読者には,この比喩はことのほか腑に落ちるはずだ。

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 最後は「今後5〜10年で世界を驚かせる市場は」という問いで締めくくられた。
 Almeshekah氏は「投資家の仕事は未来を予測することではなく,より良い未来を描く創業者と組み続けることだ」と応じ,米国が移民政策のおかげで長く握ってきた“最高の人材の独占”が少しずつ崩れつつある,と付け加えた。
 Ng氏は「勝者はカテゴリーごとに複数出る」と見る。フィジカルAIでは中国が先行する領域もあるが,むしろ日本がロボットアームや自動化で積み上げてきた強みがある,というのだ。植原氏はUGCの時代を挙げ,個人がAIでゲームやマンガを作り一気に世界へ届ける流れを指摘。阪根氏は「日本はきっと5〜10年で世界を驚かせる」と,ひとことで締めた。

 通して聞くと,立場も地域も違う4人が,不思議と同じ二つの言葉に帰っていったのが印象に残る。“不公平な優位”と“最初からグローバル”だ。
 米国モデルの模倣でも,国内に閉じた最適化でもなく,自分たちだけの強みを起点に,初日から世界を見据える。独自の表現力や細部へのこだわりを持つ日本のクリエイターやスタートアップにとって,この構えは決して不利な話ではない。
 むしろ,世界の遊ばれ方や決済の作法を現地で掴み,自分の強みに関連できるチームこそが,次の10年の主役になり得るという後押しとも読める。

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