2026年7月3日,京都で開催された「IVS 2026 KYOTO」の最終日に,セッション「トークンでビジネスは変わるのか,トークンは新しい顧客接点になるのか」では,規制業種の最前線で走ってきた実務家たちが,トークンの“いま”を率直に語り合った。
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モデレーターは,森・濱田松本法律事務所のパートナーで,立教大学大学院人工知能科学研究科の客員教授も務める,弁護士 増田 雅史氏。黎明期からNFTや暗号資産の法務に携わってきた立場から,議論を導いた。
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林氏のBACKSEATは,消費者へ直接売るのではなく,ポイント事業者やゲーム会社,既存の金融機関のサービスに暗号資産やトークンを“組み込む”B2B2X型。「モルガン・スタンレーやJPモルガンほどの金融機関でさえ,暗号資産事業を始めるときは自前主義ではなく,外部のソリューションを使っている」と,米国のユニコーンZeroHashを引き合いに,裏方インフラとしての立ち位置を説明する。
その取り組みは幅広い。会員1億人規模のPontaと組んでアプリやWebにサービスを組み込んだり,メガバンク系の信託銀行と日本初の暗号資産ETFの実現に向けて裏方のサブカストディアンを担ったりしている。
なかでもゲーム分野では,日本を代表するゲーム会社と,複数のゲームや異なるデバイスをまたいで使える共通のゲーム内通貨や,ゲーム内アイテムをFT/NFTとして発行する協業を議論中だという。
「たとえばスマートフォンのゲームAで貯めた通貨を,PlayStation 5のゲームBでアイテムの購入に使えるようにし,ゲーム間の送客につなげる」という構想だ。
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大塚氏のコインチェックは,一般の利用者が暗号資産を売買する交換業者であり,新しいトークンをIEOとして販売したり,大企業が自社サービスにトークンを載せる際のプラットフォームをAPIで提供したりする立場だ。
渡邉氏のNOT A HOTEL DAOは,リアルワールドアセット(RWA)トークンの草分けとして,不動産という“実体”をトークンに紐づけてきた。
トークンは「マーケティングの飾り」から「価値に紐づくもの」へ
トークンは何に使われるものになったのか。この問いに,林氏はブームの反省から語り始めた。「NFTがマーケティングとして効く時期は,あらゆるものをトークン化して集客に使う,という動きがあふれた。
でも市況が悪くなって効かなくなると,各事業者が“本当にトークンでなければできないことは何か”を,もう一度本質的に考えるようになった」
その結論として林氏が挙げたのが,ブロックチェーンが本当に得意な領域は「価値」の移転と保管だという点だ。「AからBへ1万円分を送ったら,Aから確かに1万円が減り,Bに確かに1万円が増える。NFTなら,オリジナルがいまどこにあるかを証明できる。価値ではない普通の情報のやり取りには,必ずしも向いていない」
渡邉氏も,直近の変化として「実体のある価値に紐づくようになったのが一番大きい」と応じる。NOT A HOTELのコイン「NAC」は,持てばホテルに泊まれ,施設内でも使える。「リアルな不動産と利用権に紐づいているのが特徴です」
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なぜブロックチェーンなのか。開発コストと「価値の証明」
「なぜブロックチェーンなのか」という,かつて何度も投げかけられた問いにも話は及んだ。林氏が強調したのは,技術的なコストの優位だ。
「口座機能を普通のWeb2のやり方でゼロから作り,中の情報が改ざんされないよう作り込むのは相当なコストがかかる。ブロックチェーンなら,既存のウォレットやプロトコル,スマートコントラクトを使うことで,ほぼノーコストで同じ機能を提供できる」
法務の視点から増田氏も補足する。ブロックチェーンは共通の取引基盤であり,とくにイーサリアム系の互換チェーンなら,同じウォレットアドレスでさまざまなことができる。
「既存の基盤に乗る形でトークンを発行し,管理するアプリを作れるので,Web2でシステムをイチから作るより開発コストはむしろ小さくなる,という話はよく聞きます」
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一方でトークンには,ステーブルコインは決済手段,収益分配ならセキュリティトークンとして金融商品取引法の対象,といった法的な区分がつきまとう。規制業種として走ってきた大塚氏は,この10年を振り返って「社会実装されたトークンは,正直まだそれほど多くない」と率直だ。
「ただ,それはチャレンジの時期だったから。新しいことをやれば失敗も出る。うまくいかない部分を変え続けてきた10年でした」
NOT A HOTELが示す,トークンの持続可能性
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NFTは1口125万円から販売して7億円以上を売り上げ,購入した約400名のうち8割が初めてのNFT購入だったという。
そして2024年末には,国内過去最大規模というIEOで20億円を調達している。
成功の要因を問われると,渡邉氏は「実際の宿泊体験に紐づいていることを前面に出し,トークンを持ち,買うことのイメージを湧かせた点が大きい」と振り返る。
購入プロセスそのものも工夫し,NFT購入者が集まって割り当て日を確かめる“リビールパーティー”のような場も設けた。「一つひとつの購入体験に,ワクワクを作ることを重視しています」
ただ,NFTには構造的な限界もあったと明かす。ホテルの物件は建築物ゆえ急には増えず,空室を当てに発行する仕組みでは追加発行が難しい。そこで軸足を移したのがDAO型の資金調達だ。
「トークンを買っていただくと,私たちは日本円を手にできる。その円で物件そのものを購入し,保有者に還元する。このサイクルが回れば,保有者も物件も増え,需給がバランスしながら成長していける」
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ゲームで露呈した,「稼ぐ」と「遊ぶ」の乖離
うまくいった話ばかりではない。VCとしても投資してきた林氏が「すごくうまくいかなかった」と挙げたのが,ブロックチェーンゲーム関連の“ゲームギルド”だった。遊んで稼ぐPlay to Earnゲームが流行した時期に,多数のプレイヤーを集めてプロのように稼ぐビジネスが生まれたが,長続きしなかったという。
「稼げるとなると,新しいゲームが出るたびにギルドが一気に流入し,稼いだトークンをまとめて売却する。結果,無課金の普通のユーザーは楽しめなくなり,トークンの価格も維持できなくなってしまう」
稼ぐ目的のユーザーの熱量や流動性は無視できないだけに,そうしたユーザーと,本質的にプロジェクトを応援するユーザーをどうバランスさせるかが,トークンの持続性を左右すると林氏は語った。
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ここは,ゲーム業界が長い増田氏が実感を交えて受けた。基本無料(フリーミアム)のゲームでは重課金ユーザーは全体の数パーセント程度にすぎないが,課金するユーザーもしないユーザーも「コンテンツを楽しむ」という同じ方向を向いているからバランスが成り立つという。
「ブロックチェーンゲームは,遊びたいという動機とお金を儲けたいという動機がバラバラになってしまった。数少ない“稼ぐ”ユーザーがぐるぐる回すことでゲーム性が下がり,顧客接点を作ろうとして逆に顧客が離れていった」
トークンを導入する目的を取り違えてはならない,というのが,そこから得られる教訓だと総括した。
インフラを提供する立場の大塚氏も,「ゲームを遊びたい人とトークンで稼ぎたい人が混ざってしまう」構図には,各社が変数を変えながら挑んでいたと振り返る。
「私たちはあくまでプラットフォーム側。過去の事例はお伝えできても,最後の意思決定はプロジェクト側です。そこは歯がゆいところでもありました」
トークンは魔法の杖ではない
ゲームの失敗談は,そのままトークン全般の教訓へとつながっていく。大塚氏のもとにはIEOやNFTの相談が数多く寄せられるが,「トークンを出せば魔法のようなことが起こる,と思っている人はだいたいうまくいかない」と手厳しい。
「うまくいくのは,ベースとなる事業と課題があって,ほかの手段よりトークンやNFTを使ったほうがその課題を解決できる,という順番のとき。トークンの発行が“主語”になっている人は,あとから無理にユーティリティを考えることになり,たいてい立ち行かない」だから相談者にはあえて「本当にNFTを出す必要がありますか」と問い返すのだという。
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増田氏がこれを「トークンやブロックチェーンは魔法の杖ではない」と言い換えると,大塚氏はこう重ねた。
「いまで言うAIと同じ。AIをやれば何でもうまくいく,なんてことはない。トークンやAIの本質を理解している人のほうが,やはりうまくいく」
5〜10年後,「トークン」という言葉は消えるのか
最後に,5〜10年後にトークンが生活や社会にどう浸透しているかが問われた。3者の見立ては,表現こそ違えど不思議と重なっていた。
元日本銀行で日本円の発行に携わっていたという渡邉氏は,お金の三つの機能,価値の保存,交換,尺度,を引きながら語る。
「トークンは価値の保存では“デジタルゴールド”と呼ばれるほど優秀だが,価格が動くので尺度には向きにくい。5年後10年後は,さまざまなトークンが乱立し,それぞれが経済圏を作りながら,やがて日本円との境界が溶けて混じり合う。そんな世界が来るといい」
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大塚氏の予想はさらに踏み込む。
「もう少し先では,たぶん誰も“トークン”なんて言っていない。私たちは普段,通信のたびにTCP/IPを意識したりしませんよね。それと同じで,普通の人がわざわざ“トークンを使って”と言っている時点で,まだ過渡期なんだと思います」
言葉が消え,意識されないインフラになることこそ,あるべき姿だという。
林氏も「今後は,人間がトークンとそれ以外の手段を見分けられなくてもよくなる。決済も資産運用も,各自のAIエージェントが判断する。合理的に考えれば,普通の株より小口化された株のほうが,法定通貨よりステーブルコインのほうが使いやすい。だからユーザーが実感しないまま,AIを介してトークンがどんどん使われていく」と付き加えた。
増田氏は,自身の実感を最後の締めに置いた。
「NFTという言葉を,皆さん最近ほとんど聞かなくなったと思います。ところが,着実に使われてはいるんです」
NFTを長く付き合ってきた氏いわく,「言葉を聞かなくなってからが本番」なのだという。
やがてトークンやブロックチェーンという言葉自体も,インターネットと同じように口にされなくなり,気づかぬうちに使うインフラへ成熟していく。登壇者に共通していたのは,そんな未来像だった。
もっとも,語り手の多くはトークン経済圏に賭ける当事者でもある。バラ色の予測は幾分か割り引いて聞くべきだろう。
それでも,「遊んで稼ぐ」の熱狂と反省を通り抜けたうえで,実体のある価値にどう接続するかへと議論の重心が移っていることは,確かに伝わってくるセッションだった。
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