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[OGC 2015]シンラ・テクノロジーの和田洋一氏がゲーム産業の過去10年,そして今後を語った基調講演をレポート
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印刷2015/04/24 20:51

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[OGC 2015]シンラ・テクノロジーの和田洋一氏がゲーム産業の過去10年,そして今後を語った基調講演をレポート

シンラ・テクノロジー プレジデント 和田洋一氏
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 一般社団法人ブロードバンド推進協議会は2015年4月24日,ブロードバンドコンテンツのカンファレンス「OGC 2015」を東京都内で開催した。このカンファレンスは2部構成になっており,第1部では「ネットワークとゲームの次の10年への展望」をテーマに複数のセッションが行われた。本稿では,シンラ・テクノロジー プレジデントの和田洋一氏による基調講演「クラウドゲームは革命たりうるのか?」の模様をお伝えしよう。

 実は和田氏は2005年に開催された第1回のOGCにおいて,スクウェア・エニックスの代表取締役社長として基調講演を行っていた。その講演の趣旨は「ネットはゲームの新しい成長ドライバーになる」というもの。そのときの和田氏による「ゲーム機以外のゲーム市場が拡大する」「ゲームデザインにネット要素を入れるべき」「コミュニティが価値を持つ」「ビジネスモデルが抜本的に変わる」「ネット上の社会問題が,ゲームにおいて先行して起きる」といった指摘は,今となっては当たり前のことになっているが,当時,まだ据置型のコンシューマゲーム機とスタンドアローンのゲームタイトルが中心だった日本のゲーム産業においては,インパクトのあるものだった。

 それから10年,世界におけるゲーム市場の規模は約3倍となり,その勢力図も「激動の10年」と言えるほど様変わりしたと語る和田氏。まず,プラットフォームの主力はゲーム専用機からスマートフォンなどの汎用端末へ遷移したわけだが,和田氏はこの先数年でこれがさらにクラウドに切り替わっていくと予測する。また従来の遷移が端末の性能向上や進化に伴う連続的なものだったのに対し,クラウドの台頭はまったく異なる方向の遷移となるため,「激動の時代はまだまだ続く」とした。

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 また,ゲームを媒介するメディアは,この10年でROMカートリッジやDVD-ROMなどの物理メディアからデジタルデータへと遷移し,それに伴ってビジネスモデルも従来の物理メディアの生産・分配という構造から,データの配信へと変化しつつあるが,和田氏はこれによって参入障壁が低くなり,市場が飛躍的に拡大したことを指摘した。
 データ配信では,ゲームの一部機能やキャラクターのパーツといった部分的なものを販売できるようになったり,自由な値付けや少額決済が可能になったりといった変化も見られ,その結果,Free-to-Playというビジネスモデルが台頭してきたわけである。

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 ではメディアが将来的にどうなるかというと,和田氏はストリーミングが主流になると予想する。ただしその場合,ゲームのサービスを有料で提供することはできても,コンテンツを販売することは難しくなる。和田氏は,現在の商取引ではそうしたケースが想定されていないため,権利関係などでさまざまな問題が起こりうることを指摘し,きちんと取り組んでいかなければならないとした。

ゲームのプレイスタイルについて,和田氏は今後ある種のコミュニティ的なものに遷移していくとする。和田氏によると,適切な名称がまだ見つかっていないため仮に「ムラ(村)」としているそうだが,従来のマルチプレイとは異なる概念とのこと
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 上記のような過去10年のゲーム産業の遷移と,この先数年の予想を踏まえ,和田氏は今回の講演のテーマとして「ネットが定着(=埋没)してしまった世界で,いかに成長を図るか」を掲げた。

 和田氏は,「ゲーム産業は,新しいゲーム体験を提供することにより成長してきた」とし,さらに「新しいゲーム体験のコンテンツデザインは,テクノロジーとビジネスモデルが規定する」と定義。
 たとえば過去10年はネットを使うことで新しいゲーム体験を提供できたが,それはネットワーク技術が世間に浸透していく過程だったからこそ可能だった。現在のようにネットが定着してしまった状況においては,単に「ネットを使う」だけでは当り前すぎて成長の余地がないため,もっと深掘りする必要があるというわけだ。

 そこで和田氏がゲーム産業成長のポイントとして挙げるのが,「コンピュータの機能分化」「現実世界のネットへの浸透,共鳴」「生態系の実現」の3つである。
 1つめの「コンピュータの機能分化」とは,従来,1台のハードウェアで行っていた作業を「Input」「Process」「Storage」「Output」といった機能別に分けていくというもの。たとえばInputならタッチパネルや音声入力,Kinectのような動作認識などが挙げられるし,Outputなら現在注目度の高いVRなどが挙げられる。

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 このポイントを踏まえて,シンラ・テクノロジーはクラウドゲームに取り組んでいる。同社のクラウドゲームとは,プレイヤーが手元のデバイスで操作すると,それに基づいてデータセンターのスーパーコンピュータが演算処理を行い,その結果をプレイヤーのデバイスに返すという流れを実現するものだ。

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 そのメリットとしては,まずデバイスとして特殊な端末を必要としないことが挙げられる。
 またネットワークゲーム開発が飛躍的に簡単になることもメリットだ。今のネットワークゲームは,クライアントとサーバーそれぞれにプログラムを組まなければならないため相当な作業量になり,かつ両者の同期を取るのも難しい作業になる。しかしクラウド化することによって,クライアントの性能や通信環境の差を考慮しなくてもよくなるため,浮いた労力をゲームデザインに回すことが可能となる。結果として,ゲームの内容が飛躍的に向上するだろうと和田氏は話す。

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 さらに,クラウドゲームでは多人数でデータセンターのスーパーコンピュータをシェアするという構造になるため,性能に対するコストパフォーマンスが非常に高くなり,結果としてこれまでにないゲーム体験を提供可能になるという。
 たとえば従来のMMORPGは,1つの世界に多くのプレイヤーが集まっているかのように見えるが,実際はクライアントそれぞれに世界を構築し,それをサーバーが同期しているという構造になっていた。
 しかしクラウドゲームでは,スーパーコンピュータ上に一つの世界を構築し,そこで何百人ものプレイヤーの行動などを演算処理するため,ゲーム体験も従来のMMORPGとはまったく違ったものになるということである。

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会場では2015年3月のGDC 2015で公開された,64人でプレイするクラウドゲームのデモ映像も上映された。このゲームでは30数キロメートル四方のマップをスーパーコンピュータのメモリに常駐させ,そのうえで登場する各キャラクターをAIで制御したり,水の描写を演算処理で表現していたりするという
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 和田氏は,「従来のゲームは開発側が作ったものをプレイヤーが追体験する(遊ばされている)ような形だったが,クラウドゲームは世界自体が『生きた状態』となっている」と説明し,「クラウドゲームでは何ができるのかということを,ぜひ妄想してほしい」と語った。
 さらに歴史を振り返り,グラフィックス,アニメーション,物理演算,AIによる挙動,そしてオープンワールドとリアル(reality,believability)を追求してきたゲームが,クラウドゲームによって最終的には自然な世界──自律的に動く世界を構築できるようになるとし,それが大きな価値になるとする。
 以上をまとめて和田氏は,「クラウドゲームにより,ゲームデザイナーの仕事はスクリプトを組むことから,ルールを作ることに変わる」と表現した。

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 ただ,そうは言っても現状のクラウドゲームには,レイテンシの問題など,乗り越えなければならない課題もある。人によっては時期尚早という意見もあるだろうが,和田氏はここ数年のアメリカにおける音楽や映画の配信にて,ストリーミングが大きく台頭していることを引き合いに,「早すぎるということはない」と見解を述べた。逆に,ほかのジャンルのコンテンツと比較したとき,ゲームのシェアが大きく伸びていることを指摘し,「むしろ,いかに早く攻めるかを考えるほうが重要」とした。

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和田氏は,ROMカートリッジからCD-ROM,ゲーム機からスマートフォンといったゲーム産業でのパラダイムシフトは,欠点がありつつも,長所のメリットが受け入れられたことによって起きたことを示し,クラウドゲームも「褒めて育てる」ことがブレイクスルーの鍵になるとした
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 ゲーム産業成長の2つめのポイントとなる「現実世界のネットへの浸透,共鳴」とは,リアルな世界で起きたことが,ネット上でもそのまま再現されることに基づいているという。たとえば対戦ゲームのプレイ動画観戦は,近所の素人同士で指している将棋を観戦することに近いし,ゲーム大会動画の観戦は将棋の名人戦を見ることと同等だ。またゲームの攻略サイトは,将棋の大盤解説や教室と同じようなものと捉えることもできる。加えてそれらがネットを介することにより,より多くの人に提供されると期待できるいうわけである。

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 和田氏は,ゲームがより一般的になっていく過程においては,ゲームをプレイするだけでなく,将棋やスポーツを観戦するように,ほかの人がゲームをプレイしているのを観るのが面白い,応援するのが面白いという人が増えていくだろうと指摘。そういったゲーム以外の周辺分野から自覚的に何かを見出し取り入れていくことにより,新しいビジネスチャンスを生み出せるとし,「これまでは“ゲームを遊ぶ”と表現していたが,これからは“ゲーム『で』遊ぶ”──もっと言えばゲームプレイヤー以外に市場を拡大していく余地がある」とまとめた。

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 ゲーム産業成長の3つめのポイントである「生態系の激変」とは,講演の冒頭で示されたメディアの遷移とも関連する「コンテンツをどのように流通させるか」という話である。繰り返しになるか,過去10年においてゲームは従来の物理メディアから脱却し,デジタルデータとしてコンテンツそのものを顧客に届けることができるようになった。
 そして和田氏は,ゲームを作る人と売る人,売る人と遊ぶ人,そして遊ぶ人同士の距離がこれまで以上に縮まる結果,企業ではなく,個人がよりフィーチャーされるようになると予測する。これはネット社会上で現在進行形で起きていることだが,ゲームでも同じことが起きるというわけである。
 和田氏は個人がフィーチャーされる具体的な事例としてクラウドソーシングとクラウドファンディングを挙げ,「満足と経済が完結する世界の中で,どうやってビジネスを構築していくかが重要である」とした。

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 講演の終盤,和田氏はゲームが世界的に産業として注目を浴びており,またコンテンツのメインストリームとなったことに言及。それはゲームが一般化したということだが,その一方でコモディティ化している──差別化できなくなっていることも意味しているとし,それを乗り越えるための3つのキーワードを挙げた。
 それはゲームのコモディティ化を否定する「クラウドゲーム」,仮にゲームがコモディティ化したとしても市場の拡大を図り産業としてきちんと生き残る「ゲーム『で』遊ぶ」,そして個人がフィーチャーされ満足と経済が完結する新しい時代にどう取り組むかという「クラウド×クラウド」である。

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 最後に和田氏は,講演のタイトルである「クラウドゲームは革命たりうるのか?」について,「クラウドゲームは世の中を変える大きな要素の一つである」とする一方,「仮に今,リスクを取らなくとも,やがてクラウドゲームの時代はやって来る」と話す。しかし和田氏は,「ゲームを新しくしようと考える部分が重要である」とし,「今からクラウドゲームに取り組むことで,より自分達が望む方向を実現したい」と述べ,講演を締めくくった。
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