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[GDC 2021]シナリオライターが「台本の読み合わせ」をする意義とは。現役声優によるキャラクター作成術
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印刷2021/07/20 13:58

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[GDC 2021]シナリオライターが「台本の読み合わせ」をする意義とは。現役声優によるキャラクター作成術

 日本時間の7月20日に開幕したGDC 2021では,オンラインでの開催ながら,例年同様,専門的なテーマで1部屋を1日ぶち抜きで使うサミット系の講演群が初日を飾っている。ここではそんなサミットの中でも,ゲームにおける物語を専門に扱うGame Narrative Summitから,「Game Narrative Summit: Finding Character Voice With Your Voice」と題された講演の模様をお届けしたい。登壇したのはWooga GmbHのCyrus Nemati氏だ。Nemati氏はさまざまな有名タイトルで声優として活躍する傍ら,Woogaでシナリオライターも務めるというマルチタレントな人物である。

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テキストに依存せずキャラクターを伝える


 講演の冒頭でNemati氏は「良いストーリーを持つゲームは,たくさんのプレイヤーを惹きつけるということは,誰もが知っている」と切り出した。だが良いストーリーを作るためには良いキャラクターを作らねばならない。そして良いキャラクターを作る手法は無数に紹介されているものの,実際に作るとなると今なお大変な作業だというのもまた事実である。

 さて,キャラクター制作の一般的な手法としては,キーワードでキャラクターを定義し,背景を決めて……といった方向性があるが,これだけではキャラクターに深みが出ない。これだけでは足りないということで,さらにキャラクターの個別設定をどんどん設定していくという方向性が取られることがあるが,これについてNemati氏は「それでは立体的なキャラクターは作れない」と否定的だ。
 というのも,個別の設定をどんなに増やしたところで,実在の人物が持つ情報量には(普通は)絶対に勝てないし,そもそもプレイヤーがそれらの設定を読むかといえば読まないからだ。「ほとんどのプレイヤーは,ゲームに登場するキャラクターを掘り下げようとしない」という指摘は,ゲーム制作側が無条件でそれを期待すべきではないという点において,揺るがし難い指摘と言えるだろう。

 かくしてゲーム制作者はキャラクターの設定を「語らずに伝える」ことを目指すことになる。例えばグラフィックスはその典型で,よくできたキャラクターのグラフィックス(アニメーションを含む)は,そのキャラクターの年齢や性別はもちろん,社会階層や癖,性格などをプレイヤーに暗黙のうちに示してくれる。

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これだけではキャラクターに深みは出ない
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このキャラクターの設定を大量のテキストで提供しても,ほとんどのプレイヤーは読まない
キャラクターのグラフィックスやモーションが,そのキャラクターの設定を伝える
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 だがテキストやグラフィックスだけが,プレイヤーにキャラクターを伝える手段ではない。キャラクターの声もまた,そのキャラクターの個性を定義する大きな要素となり,実際になってきたとNemati氏は指摘する。


声によって決まる,キャラクターの個性


 Nemati氏がこの実例として示したのが,マリオである。
 現代に続くマリオというキャラクターを表現する言葉としては,「配管工」「イタリア人」「たくさんジャンプする」といったものがあり得るし,実際にマリオは長らくそのような言葉でそのキャラクター性が定義されてきた。
 だが,マリオのキャラクターが確定したのは「スーパーマリオ64」であったとNemati氏は分析する。というのも,スーパーマリオ64ではマリオに声があてられたからだ。Charles Martinet氏が担当したこの声は,今も我々がマリオの声として聞く声,そのものである。
 非常に陽気で,高めのトーンを持つ声は,Nemati氏に衝撃を与えた。「口から火を吐く恐竜(クッパ)と戦う男が,こんな声でしゃべるのか!?」というわけだ。だが「これ以降,ほぼあらゆるタイトルにおいてマリオの声となったこの声こそが,マリオをマリオにした」のである。

マリオがしゃべったのはスーパーマリオ64が初めてではないが,世界的なインパクトという点では本作が与えた影響が最も大きかったと言える
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 マリオは「すでにゲーム界の巨人だったキャラクターに声があてられた」ケースだが,逆に「声があてられたことで,重要なキャラクターへと格上げされた」というパターンもある。「Far Cry 3」に登場するバースがその代表例だ。
 バースは当初,Far Cry 3の中心となるキャラクターとしては設計されていなかったが,Michael Mando氏が声をあてることでキャラクターが深められ,ついにはゲームのパッケージに登場するに至った。

Far Cry 3を象徴するキャラクターとなったバース
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 とはいえ,物語そのものにまで影響を与えうるレベルの役者を雇うとなると,相応の費用がかかる。加えて,特にモバイルゲームは基本的に音声オフでプレイされるというのは洋の東西を問わないため,モバイルゲームを開発するWoogaにとってみると「コストに見合うのか」というのはさらに大きな問題となる。

 だがそれでも,Woogaでは「キャラクターに声をあてる」ことを続けているという。そして興味深いことに,それは必ずしも,プレイヤーに直接届く「声」ではない。


素人芝居が持つ重要な機能


 Woogaのシナリオチームでは,いったん書き上がったシナリオ・ダイアログを,シナリオライターが集まって実際に読んでみる(演技してみる)という過程が,その制作工程に含まれているという。
 具体的なワークフローとしては,

  • シーンのプロットを立てる
  • ダイアログを書く
  • 実際に読み合わせをしてみて,それをもとにダイアログを修正する
  • 実際に使うダイアログとして完成
 という過程になる。

 ちなみにWoogaのシナリオチームにプロの役者はNemati氏しかいないので,読み合わせは完全な素人芝居である。従って,そこで行われる芝居の品質は論じるに値しない。事実,Nemati氏の「演技指導」としては

  • シナリオライターとして重要な能力である共感能力を活かす
  • 身振り手振りをつける
  • ゆっくりしゃべる
  • 楽しむ!
 この4点に絞られており,ここで音声を収録して本番で使うといった方向には一切向いていない。

 ではこれによってシナリオチームは何を得るのだろうか? Nemati氏は以下の4つのメリットを指摘する。

  • 実際に読んでみることで,セリフが自然なものかどうかがハッキリとわかる
  • セリフに現れるキャラクターの個性にブレがないかを確認できる
  • セリフからキャラクターの背景情報(年齢や経歴など)を伝えられる可能性を探求できる
  • アニメーターがある感情を持ったキャラクターを描くとき,実際にその感情になった人物になりきったうえで,自分の表情を鏡で見て作画の参考にするように,実際に演技してみることでキャラクターのリアリティを深められる

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 もちろん,前述のFar Cry 3のようにプロの役者にダイアログを読んでもらい,役者とシナリオライターが対話するといったプロセスを踏めば,シナリオやキャラクターの深みが増すのは間違いない。「プロはあなたより良い仕事をする」(Nemati氏)というのは,疑う余地もない指摘だ。
 また,氏は「シナリオライティングを,チェックボックスを埋めていくような単純作業にしてはならない」と主張する。そのような退屈な仕事からは,退屈な作品しか生まれないというわけだ。読み合わせをシナリオチーム全員が楽しむことで,チームの仲が良くなるというのも,見逃せない品質向上効果と言える。

 「声をあてることで,キャラクターは真にユニークな存在になる」というのは,多くの人が直感的に感じていることではある。だが「実際にプロに声をあててもらうとなると,たくさんのお金がかかる」というのも,原則的には正しい。
 ここにおいて「ならば自分たちでやってみよう。それなら無料だし,楽しいし,ダイアログの品質は上がるしで,良いことしかない」というNemati氏の主張には,説得力がある。
 最後にNemati氏は「自分でやってみた結果に不満があるなら,プロを雇おう!」と語ってトークを締めたが,聴衆の前であれば,この最後の一言に至るまで大きな笑いと拍手をもって受け入れられたに違いないと,配信を見ていても感じる講演だった。

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