インタビュー
“モーションアクター”を憧れの職業にする日がくるかもしれない。アニメ・ゲームなどのモーションを手掛けるソリッド・キューブ代表インタビュー
ソリッド・キューブは,モーションキャプチャ事業を中心に,イラストや衣装などの各種プロデュースや,クリエイターのマネジメント業務などを行う企業である。今回4Gamerは,AGF2022に初出展していたソリッド・キューブとコンタクトをとり,代表を務める原田奈美氏にインタビューをする機会を得た。ゲーム・アニメをはじめとして,映像制作では今や必要不可欠となったモーションキャプチャ事業について話を聞いたのでお届けしよう。
ソリッド・キューブ「AGF2022」ブース
フォトレポート
「AGF2022」メイン会場のソリッド・キューブのブースでは,所属するイラストレーターやスタイリストによる作品展示が中心となっていた。
ブース前にあるモニターでは,バーチャルキャラクターの広報・反町梨人さん(Twitter)も登場していた
所属イラストレーターの猫田ゆうと氏の作品。猫田氏曰く,「抱かれたい男1位に脅されています。」(写真左)の展示イラストは,こうしたデフォルメキャラには珍しくアクセサリーなどもしっかり描き込まれているそう。西條高人(写真左・右上)の左の薬指に指輪をさせるなど,発注側と相談してかなり細かいところまで再現し,こだわりを詰め込んだとのことだ
所属スタイリスト/衣装デザイナーの中原幸子氏がモーションアクターのためにスタイリングした衣装を猫田氏がイラスト化した作品も。こちらは少しレトロなタッチとなっており,先ほどとは雰囲気がガラリと変わっている。細かいオーダーに応えて作品作りをする……というのが,ソリッド・キューブの特徴と言えるだろう
中原氏が担当した「アイドリッシュセブン」(iOS / Android)の「WONDER LiGHT」MVの衣装デザイン画の展示も。ファンはたまらない設定画!
こちらは所属イラストレーター・錆多はがね氏と山口なこ氏の作品
キャラクターに命と個性を吹き込むソリッド・キューブ。
モーションから衣装まで手掛ける会社の強みとは
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは,ソリッド・キューブはどういった会社なのか教えてください。
原田奈美氏(以下,原田氏):
ソリッド・キューブは,キャラクターが動いたり演技をしたりするモーションキャプチャの制作を専門とする会社です。つまり「声と動きでキャラクターを作り上げる」のが主な業務となります。それと同時にクリエイターのマネージメントも行っています。
4Gamer:
どういった経緯で立ち上げたのでしょう?
原田氏:
もともと声優業や声優のマネージメント業をしていたのですが,声とともに“動き”をお願いされることも多くなり,それを専門に行う会社を立ち上げました。設立は2016年ですが,私自身,初音ミクや「シーマン2」からモーションキャプチャに関わっていたので,歴でいうとかれこれ19年になります。
4Gamer:
なるほど。「声と動きでキャラクターを作り上げる」とは,業務的にはどこからどこまでを担っているのでしょうか。
原田氏:
はい。お客様から「こういう映像を作りたい」という注文を受けて,モーションキャプチャの撮り方のご提案から振り付けの制作,撮影の段取りを経てデータの受け渡しまでを一貫して行っています。
4Gamer:
撮影のみを行うのではなく,より広いくくりで扱われているということですね。貴社は現在13人の社員が在籍しているとのことですが,どのような分担をされているのですか。
原田氏:
主にエンジニアとコーディネーター,プロデューサーですね。そのほかに専属のタレントが24人,あとは契約で35人ほどが常に動いているような形です。モーションアクターやクリエイターはタレントさんという扱いになっています。
4Gamer:
そうなんですね。サイトを拝見したところ,「ウマ娘」や「バンドリ」シリーズなどのTVアニメから,「アイドリッシュセブン」や「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」(iOS / Android)ほか多数のMVなど,映像制作は多岐にわたるようですが,実際の内訳としてはどのような感じですか。
原田氏:
今はゲームとアニメが4割ずつ,その他が2割といったところでしょうか。その他というのは,CMやファッションショーのウォーキング,ゴルフスイングのモーションなどですね。
ソリッド・キューブ実績紹介
4Gamer:
確かにそういった映像はよく目にします。今回,AGFのステージを行ったモーションアクターさんはどのような方々なのでしょうか。
原田氏:
弊社では専属タレントという形になっていまして,基本的にはスカウトやオーディションを経て所属しています。もちろん経験者もいますが,一から育ててきた子も多いんですよ。私はもともと声優と声優のマネージメントのほか,演技の講師もしていまして……。今,弊社で声優とアクターとして活躍している奥山敬人くんは,10年前からの教え子です。
4Gamer:
そうなんですか! 最近では3DCGを目にする機会が増え,モーションアクターの存在を耳にしたことがある人も多いと思いますが,基本的にはあまり表に出ない職業ですよね。
原田氏:
そうですよね。昔は作品のクレジットにも載らないことが多かったのですが,最近では「この人じゃないと」という場合が増えてきました。昔は1つの役を2〜3人で演じることもあったのですが,今は同じ人がやることが多いです。
あと,昔はこういったモーションはアニメーターさんの力が必要な場面も多々ありましたが,今は技術が上がったこともあり,アクターの動きがそのまま使われるようになったんです。私たちとしては,モーションアクターも声優と同じように“キャラクターを演じる人”として見せていきたいと思っています。
4Gamer:
なるほど! すごく面白いですね。
原田氏:
モーションアクターは画も道具もない状況でキャラクターを一から演じるので,演技としてはすごくレベルが高い仕事なんです。まだ声優さんの声がついていない場合もあるので,アクターが声を出しながら演じたものを見て,声優さんが声を当てる……ということも多くなりました。映像の監督や演出家と一緒に芝居を作っていくうえで,キャラクターの解釈を必ず一致させるというのを大切にしています。
4Gamer:
声優に憧れ,職業として目指している若い人も今は多いと思いますが,ひょっとしたらこれからは,モーションアクターもそういった存在になる可能性もありますね。
原田氏:
そうなんですよ。去年弊社でオーディションをしたところ,予想を超えて150人ほど集まってくださって。その時採用された子たちはもうすでに「プロセカ」などでモーションアクターとしてデビューしています。専門性が高い職業ということもありますので,そういった教育をしっかりやることでお仕事につながっていくんです。
4Gamer:
めちゃくちゃ夢がありますね……!
原田氏:
声優さんのお芝居にも流行りがあるので,若い人にどんどん入ってもらって,鮮度の高い今どきのキャラクターを提供できるようにしています。最近ではリアルタイムで演じることもありますし,声優さんも歌や踊りなどをされることが多いですが,モーションアクターもどんどん求められていることが増えていますね。
4Gamer:
原田さんがこの業界をずっとご覧になっていて,今の状況はある程度予測できていたことなのでしょうか。
原田氏:
私がモーションに関わるようになったのは19年前ですが,その時はまだ“役者の仕事の一部”という感じでした。ソーシャルゲームが登場してからは,毎月何本も映像を作るようになりましたね。なので,「いけるな」と思ったのは7年前くらいでしょうか。
そして,役者がみんなこの仕事で生活できるようになれるなと確信できたのはこの3年くらいです。ちょうどコロナ以降,とくに爆発的に仕事が増えた気がしますね。Vtuberの登場や技術の進歩があって,モーションを使うことが身近になったのもあると思います。
4Gamer:
本当に今,貴社にはすごく勢いや活きの良さがあるのを感じます。こういう仕事があるよ,というのをもっと知ってもらいたいですね。
原田氏:
振り付けやモーションを見て「いいね」と言ってもらえるのがうれしいです。私たちは“モーションアクターというヒーロー”を作りたいという思いがあり,皆さんに知っていただくためにこうしてブース出展をしました。
あと弊社にはイラストや衣装のクリエイターもいて,例えば「アイドリッシュセブン」の「WONDER LiGHT」というMVでは,“衣装をどう見せたいか”を弊社所属のデザイナーの中原幸子とヒアリングして,衣装の動きを加味した振り付けをしたり,モーションアクターが動いたりしてみせる……という過程がありました。
4Gamer:
本当にすごいですね。モーションから衣装から,すべて一貫して扱うソリッド・キューブならではだと思います。業界的にもかなり注目度の高い話ではないでしょうか。
原田氏:
ありがたいです。一貫しているからこそできるディレクションを売りにしていますので……。良ければぜひ今度,モーション撮影も取材しにいらしてください!
4Gamer:
ぜひ拝見したいです! 本日はありがとうございました。
――2022年11月5日収録
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